(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、所定の阻止帯域を有する第1フィルタと、前記阻止帯域に等しい通過帯域を有する第2フィルタとを含み、前記第1フィルタを用いてフィルタ処理した前記第1制御量と、前記第2フィルタを用いてフィルタ処理した前記第2制御量とを合成する、請求項1に記載の駆動システム。
前記駆動制御することでは、所定の阻止帯域を有する第1フィルタと、前記阻止帯域に等しい通過帯域を有する第2フィルタとを用意し、前記第1フィルタを用いてフィルタ処理した前記第1制御量と、前記第2フィルタを用いてフィルタ処理した前記第2制御量とを合成する、請求項6に記載の駆動方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態について、
図1〜
図13を用いて説明する。
【0021】
図1には、本実施形態に係るフラットパネルディスプレイ、例えば液晶表示装置(液晶パネル)などの製造に用いられる露光装置110の概略構成が示されている。露光装置110は、マスクMとガラスプレート(以下、「プレート」と呼ぶ)Pとを投影光学系PLに対して同一方向に同一速度で駆動することで、マスクMに形成されたパターンをプレートP上に転写するスキャニング・ステッパ(スキャナ)である。以下においては、走査露光の際にマスクM及びプレートPが駆動される方向(走査方向)をX軸方向とし、これに直交する水平面内での方向をY軸方向、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸方向、X軸、Y軸、及びZ軸回りの回転(傾斜)方向をそれぞれθx、θy、及びθz方向とする。
【0022】
露光装置110は、照明系IOP、マスクMを保持するマスクステージMST、投影光学系PL、これらを支持するボディ70、プレートPを保持するプレートステージPST、及びこれらの制御系等を備える。制御系は、露光装置110の構成各部を統括制御する主制御装置(不図示)及びその配下のステージ制御装置50(
図2等参照)より構成される。
【0023】
ボディ70は、ベース(防振台)71、コラム72A,72B、光学定盤73、支持体74、及びスライドガイド75から構成される。ベース(防振台)71は、床面F上に配置され、床面Fからの振動を除振してコラム72A,72B等を支持する。コラム72A,72Bはそれぞれ枠体形状を有し、コラム72Bの内側にコラム72Aが配置されている。光学定盤73は、平板形状を有し、コラム72Aの天井部に固定されている。支持体74は、コラム72Bの天井部にスライドガイド75を介して支持されている。スライドガイド75は、エアボールリフタと位置決め機構とを備え、支持体74(すなわち後述するマスクステージMST)を光学定盤73に対してX軸方向の適当な位置に位置決めする。
【0024】
照明系IOPは、ボディ70の上方に配置されている。照明系IOPは、例えば米国特許第5,729,331号明細書などに開示される照明系と同様に構成され、例えば水銀ランプ等の光源(不図示)から射出された光(照明光)ILを反射鏡、ダイクロイックミラー、シャッター、波長選択フィルタ、各種レンズ(いずれも不図示)等を介してマスクMに照射する。照明光ILとして、例えばi線(波長365nm)、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)等の光(或いは上記i線、g線、h線の合成光)が用いられる。また、照明光ILの波長は、波長選択フィルタにより、例えば要求される解像度に応じて適宜切り替えることができる。
【0025】
マスクステージMSTは、ボディ70を構成する支持体74に支持されている。マスクステージMSTには、回路パターンが形成されたパターン面(
図1における下面)を有するマスクMが、例えば真空吸着(あるいは静電吸着)により固定されている。マスクステージMSTは、例えばリニアモータを含むマスクステージ駆動系MSD(
図1では不図示、
図2参照)により、走査方向(X軸方向)に所定のストロークで駆動されるとともに、非走査方向(Y軸方向及びθz方向)に微少駆動される。
【0026】
マスクステージMSTのXY平面内の位置情報(θz方向の回転情報を含む)は、マスク干渉計システム16(
図2参照)により計測される。マスク干渉計システム16は、マスクステージMSTの端部に設けられた移動鏡(又は鏡面加工された反射面(不図示))に測長ビームを照射し、移動鏡からの反射光を受光することにより、マスクステージMSTの位置を計測する。その計測結果はステージ制御装置50に供給され(
図2参照)、ステージ制御装置50は、マスク干渉計システム16の計測結果に従って、マスクステージ駆動系MSDを介してマスクステージMSTを駆動する。
【0027】
投影光学系PLは、マスクステージMSTの下方(−Z側)に、ボディ70を構成する光学定盤73に支持されている。投影光学系PLは、例えば米国特許第5,729,331号明細書に開示された投影光学系と同様に構成され、マスクMのパターン像の投影領域が例えば千鳥状に配置された複数(例えば7)の投影光学系(マルチレンズ投影光学系)を含み、Y軸方向を長手方向とする矩形形状のイメージフィールドを形成する。ここでは、4つの投影光学系がY軸方向に所定間隔で配置され、残りの3つの投影光学系が、4つの投影光学系から+X側に離間して、Y軸方向に所定間隔で配置されている。複数の投影光学系のそれぞれとして、例えば両側テレセントリックな等倍系で正立正像を形成するものが用いられる。なお、千鳥状に配置された投影光学系PLの複数の投影領域をまとめて露光領域と呼ぶ。
【0028】
照明系IOPからの照明光ILによってマスクM上の照明領域が照明されると、マスクMを透過した照明光ILにより、投影光学系PLを介して、その照明領域内のマスクMの回路パターンの投影像(部分正立像)が、投影光学系PLの像面側に配置されるプレートP上の照射領域(露光領域(照明領域に共役))に形成される。ここで、プレートPの表面にはレジスト(感応剤)が塗布されている。マスクステージMSTとプレートステージPSTとを同期駆動する、すなわちマスクMを照明領域(照明光IL)に対して走査方向(X軸方向)に駆動するとともに、プレートPを露光領域(照明光IL)に対して同じ走査方向に駆動することで、プレートPが露光されてプレートP上にマスクMのパターンが転写される。
【0029】
プレートステージPSTは、投影光学系PLの下方(−Z側)のベース(防振台)71上に配置されている。プレートステージPSTは、リニアモータ等を含むステージ駆動系PSDにより、ベース71上をX軸及びY軸方向に所定ストロークで駆動されるとともにZ軸方向、θx方向、θy方向、及びθz方向に微小駆動される。プレートステージPST上に、プレートPが、プレートホルダ(不図示)を介して保持されている。
【0030】
プレートステージPSTのXY平面内の位置情報(回転情報(ヨーイング量(θz方向の回転量θz)、ピッチング量(θx方向の回転量θx)、ローリング量(θy方向の回転量θy))を含む)は、プレート干渉計システム18(単に干渉計とも呼ぶ(
図2))によって計測される。干渉計18は、光学定盤からプレートステージPSTの端部に設けられた移動鏡(又は鏡面加工された反射面(不図示))に測長ビームを照射し、移動鏡からの反射光を受光することにより、プレートステージPSTの位置を計測する。その計測結果はステージ制御装置50に供給され(
図2参照)、ステージ制御装置50は、干渉計18の計測結果に従って、ステージ駆動系PSDを介してプレートステージPSTを駆動する。
【0031】
図2には、露光装置110のステージ制御に関連する制御系の構成が示されている。
図2の制御系は、例えばマイクロコンピュータなどを含むステージ制御装置50を中心として構成されている。
【0032】
露光装置110では、露光に先立ってアライメント計測(例えば、EGA等)を行い、その結果を用いて、以下の手順で、プレートPを露光する。まず、主制御装置(不図示)の指示に従い、ステージ制御装置50は、マスク干渉計システム16及びプレート干渉計システム18の計測結果に従ってマスクステージMST及びプレートステージPSTをそれぞれの走査開始位置(加速開始位置)に移動する。次に、両ステージMST,PSTを同じX軸方向に同期駆動する。これにより、プレートP上の1つめのショット領域に、前工程レイヤに形成されたパターンに重ねてマスクMのパターンが転写される。1つめのショット領域に対する走査露光が終了すると、ステージ制御装置50は、プレートステージPSTを2つめのショット領域に対する走査開始位置(加速開始位置)へ移動(ステッッピング)する。そして、2つめのショット領域に対する走査露光を行う。ステージ制御装置50は、同様に、プレートPのショット領域間のステッピングとショット領域に対する走査露光とを繰り返して、プレートP上の全てのショット領域にマスクMのパターンを転写する。
【0033】
次に、プレートステージPSTを駆動する駆動システム(プレートステージPSTの駆動を制御する制御系)の設計について説明する。
【0034】
本実施形態では、並進方向、一例としてX軸方向にプレートステージPSTを駆動する駆動システムについて説明する。
【0035】
図3には、本実施形態に係るプレートステージPSTの駆動システムに対応するフィードバック制御系Model based Mix-Filter Control (MMFC)の構成を示すブロック図が示されている。フィードバック制御系MMFCは、制御対象であるプレートステージPST(プレートテーブルPTB)の位置(X軸方向の位置(制御量X))を計測するプレート干渉計システム(干渉計)18と、プレートテーブルPTBの並進運動を記述するモデルを用いて制御量Xを再現し、その結果Xnと干渉計18の計測結果X
snsを合成して合成制御量X
mixを生成する合成部52と、合成制御量X
mixとプレートステージPSTの目標値(目標軌道)Rの生成結果とを用いて操作量U
FB(リニアモータが発する駆動力F、又はリニアモータのコイルに流す電流量I等)を演算し、その結果をプレートステージ駆動系PSDに送信するステージ制御装置50と、を含む。プレートステージ駆動系PSDは、受信した操作量U
FBに従って、例えば、駆動力Fに等しい駆動力を発する或いは電流量Iに等しい量の電流をリニアモータ(不図示)のコイルに流す。これにより、プレートステージPSTの駆動が制御される。なお、図中に示すdは外乱、nはノイズ、U及びXはそれぞれプレートステージPST(プレートテーブルPTB)への入力及び出力、e
mixは目標値Rと合成制御量X
mixの偏差、eは目標値RとX
snsの偏差である。
【0036】
ここで、目標値(目標軌道)、制御量、操作量等は、時間の関数として定義されるが、
図3及びそれを用いた説明では、習慣に従い、それらのラプラス変換を用いるものとする。また、後述する演算式U(e
mix)についても、ラプラス変換形においてその定義を与えるものとする。また、以降においても、特に断らない限り、ラプラス変換(ラプラス変換形)を用いるものとする。
【0037】
ステージ制御装置50は、目標生成部50
0と制御器50
1と減算器50
2とを含む。なお、これら各部は、実際には、ステージ制御装置50を構成するマイクロコンピュータとソフトウェアによって実現されるが、ハードウェアによって構成しても勿論良い。目標生成部50
0は、プレートステージPSTの目標値、ここでは目標位置(時々刻々変化する位置の目標値)Rを生成して、減算器50
2に供給する。減算器50
2は、目標位置Rと合成部52からの合成制御量X
mixとの差、すなわち偏差e
mixを算出し、制御器50
1(伝達関数C)に供給する。制御器50
1は、偏差e
mixが零となるように、演算(制御演算)により操作量U
FB=C(e
mix)を算出する。ここで、Cは、制御器50
1の伝達関数である。伝達関数とは、入力信号r(t)と出力信号C(t)とのラプラス変換の比R(s)/C(s)、すなわちインパルス応答関数のラプラス変換関数である。このように、ステージ制御装置50は、目標位置Rと合成部52からの合成制御量X
mixとを用いて演算式U
FB=C(e
mix)で表される制御演算を行って操作量U
FBを求め、該操作量U
FBを制御対象であるプレートステージPST(プレートステージ駆動系PSD)に与える。なお、通常、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)には外乱dが加わるため操作量U
FBと外乱dとの和が実際の操作量U(=U
FB+d)としてプレートステージPSTに与えられる。これにより、操作量U(U
FB)に従ってプレートステージPSTが駆動され、その位置が制御される。
【0038】
合成部52は、生成部52
1、フィルタ52
2,52
3、及び加算器52
4を含み、干渉計18によって計測されるプレートテーブルPTB(伝達関数P)のX位置X(現在位置)の計測結果X
snsと、ステージ制御装置50からの出力U
FBに対して制御量Xを再現する生成部52
1の出力Xnと、をそれぞれフィルタ52
2,52
3に通し、それぞれの出力を加算器52
4に通して合成し、その出力、すなわち合成制御量(X
mix)をステージ制御装置50(減算器50
2)に供給する。ここで、生成部52
1はノミナルプラントPnにより与えられる。フィルタ52
2は入力のうち特定の周波数の成分(ノイズ)を除去するバンドストップフィルタF、フィルタ52
3はフィルタ52
2の阻止帯域に等しい通過帯域を有するバンドパスフィルタ1−Fである。なお、バンドストップフィルタFは、安定且つプロパな有理関数により表現されるものとする。
【0039】
MMFCにおける3つの外部入力、目標値R、外乱d、ノイズnに対する感度関数は、それぞれ異なり、
【数1】
と与えられる。ただし、フィードバック制御系MMFCにおける合成プラント
【数2】
を定義する。また、P
mixはPにほぼ等しいとする。
ここで、F(0)=1に対して
【数3】
であり、定常ゲインに対する各感度関数の感度特性は等しい。つまり、目標値Rからe
mixまでの感度関数S
mixはMMFCを適用しない制御系の感度関数に等しい、すなわちMMFCの適用により制御系の性能は変わらない。また、フィルタ52
2が干渉計18に対して直列に挿入されているため、ノイズnからe
mixまでの感度関数S
enからノイズnが除去される。従って、フィードバック制御系の安定性を損なわずに特定の周波数のノイズを取り除くことができることがわかる。
【0040】
本実施形態のフィードバック制御系MMFCでは、剛体模型を採用し、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)の並進運動を剛体の並進運動として記述する。そこで、ノミナルプラントPnは、プレートステージPSTの質量Mnを用いて、
【数4】
と与えられる。しかし、このノミナルプラントは二重の純積分を有するため、僅かなモデル化誤差が積算されて出力Xnが発散するという実装上の問題がある。そこで、2次のハイパスフィルタ
【数5】
を挿入して、
【数6】
と、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)の並進運動を仮想的なバネMnω
HPF2及びダンパ2Mnω
HPFに結ばれた剛体の並進運動として記述する。それにより、出力Xnの発散が解消される。なお、ハイパスフィルタF
HPFの通過帯域は、MMFCにより除去したいノイズの周波数帯より十分低く(例えば100分の1程度)定めることとする。
【0041】
図4には、フィードバック制御系MMFCにおけるプレートステージPST(プレートテーブルPTB)の入出力応答を表す伝達関数(振幅及び位相)の周波数応答特性(シミュレーション結果)を示すボード線図(振幅(ゲイン)|P(s)|及び位相arg(P(s)))、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。ここで、s=jω=j2πf、j=√(−1)、fは周波数である。プレートステージPSTの伝達関数Pは、ノミナルプラントPnの理想的な振舞いに対して、その振幅に70Hz付近に光学定盤の振動に由来するノイズ、その位相に360度のジャンプが確認できる。なお、伝達関数Pの周波数応答特性において高周波数域(数10Hz以上)に激しい振動振舞いが見られるが、ここでは特に問題としない。
【0042】
投影光学系PL(光学定盤)の振動に由来するノイズは、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)の駆動誤差をもたらす。しかし、駆動誤差は、走査露光においては平均化効果により抑制されるため、露光精度の著しい低下をもたらすことはない。液晶露光装置のように大型の露光装置に対しては、むしろ、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)を振動する投影光学系PLに対して追従駆動すると装置全体の振動を誘発し、かえって精密駆動に困難が生じる。そこで、高い周波数の振動に由来するノイズは除去して露光装置全体の振動を回避し、装置全体の振動を招かない低い周波数の振動に対してはプレートステージPST(プレートテーブルPTB)を追従駆動することで高い露光精度を維持する。
【0043】
上述の振舞いの伝達関数Pに対して70Hz付近のノイズを除去するために、フィルタFとしてノッチフィルタ
【数7】
を採用する。ただし、ω
n=2π70、ζ=0.1、d=0とする。
図5に、ノッチフィルタFの周波数特性が示されている。その振幅|F|は70Hz付近で約10Hzの範囲で急激に減衰するため、ノイズを除去することができる。しかし、位相arg(F)が70Hz近傍で180度遅れることがわかる。
【0044】
図6には、制御器50
1の伝達関数の周波数特性が示されている。制御器50
1は、極配置設計に基づくPID制御器と高次共振モードに対するノッチフィルタとから構成されている。
【0045】
図7及び
図8には、それぞれ、従来のフィードバック制御系の感度関数及び本実施形態のフィードバック制御系MMFCの感度関数が示されている。
図9及び
図10には、それぞれ、従来のフィードバック制御系の感度関数及び本実施形態のフィードバック制御系MMFCのナイキスト線図が示されている。
【0046】
従来のフィードバック制御系は、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)の位置(X位置(制御量X))を計測する干渉計18と、その計測結果を用いて操作量U(リニアモータが発する駆動力F、又はリニアモータのコイルに流す電流量I等)を求め、求められた操作量Uをプレートステージ駆動系PSDへ送るステージ制御装置50と、から構成される。プレートステージ駆動系PSDは、受信した操作量Uに従って、例えば、駆動力Fに等しい駆動力を発する、或いは電流量Iに等しい量の電流をリニアモータのコイルに流す。これにより、プレートステージPSTの駆動が制御される。すなわち、従来のフィードバック制御系は、フィードバック制御系MMFC(
図3参照)に対して合成部52が省かれて構成されたものに等しく、感度関数S
conv,S
enconvは
【数8】
と与えられる。
【0047】
図7より、従来のフィードバック制御系の感度関数S
conv,S
enconvは周波数の増加とともにその振幅を増加し、60Hz付近において鋭いピーク、70Hz付近において深い谷、及び400Hz以上において一定の振舞いを呈する。ここで、感度関数S
conv,S
enconvにおいて、感度ピークの差が20dB以上あることがわかる。また、
図9より、従来のフィードバック制御系のナイキスト線
図Gconvにおいて、その軌跡が点(−1,0)の極近傍まで近づいていて、安定余裕はほとんどない。従って、従来のフィードバック制御系は、ほぼ実現不可能なシステムであることがわかる。
【0048】
これに対して、
図8より、フィードバック制御系MMFCの感度関数S
mix,S,S
enいずれも所望の振舞いを示している。すなわち、感度関数S
mixは、周波数の増加とともにその振幅を増加し、100Hz付近において最大、100Hzからその振幅を減少し、400Hz以上において一定の振舞いを呈する。感度関数S
enにはフィルタ52
2の振舞いが現れ、70Hz付近のノイズが除去されている。外乱抑圧特性を意味する感度関数Sも素性の良い振舞いを示し、感度関数S
mixに対して70Hz近傍の制振性が加わった振舞いを示している。また、
図10より、フィードバック制御系MMFCのナイキスト線
図Gmix,Gともに、その軌跡が点(−1,0)から離れ、十分な安定余裕が確保されている。従って、制御系の安定性を損なわずに投影光学系PL(光学定盤)の振動に由来するノイズを除去することができる。
【0049】
最後に、感度関数Sが制振性を有する理由を考える。式(3)より、感度関数Sは、感度関数S
mixと関数
【数9】
の積により与えられる。
図11には、関数S
addの周波数特性が示されている。関数S
addは、70Hz付近においてその振幅を減衰し、制振性を有していることがわかる。関数S
addの特性はフィルタ52
2の設計により自在に変更することができる。しかし、フィルタ52
2(F)はノイズnを除去する目的で設計される。従って、関数S
addの特性を変更するには、制御器50
1(伝搬関数C)又はノミナルプラントPnを変更することとなる。つまり、関数S
addのみを設計する自由度はなく、フィルタ52
2はノイズnを除去する目的と関数S
addを設計する目的のいずれかについてのみ設計することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る露光装置110によると、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)の位置に関連する制御量(X)を計測するプレート干渉計システム(干渉計)18と、プレートステージPSTの運動を記述するモデルを用いて制御量(X)を再現し、その結果(Xn)と干渉計18の計測結果(X
sns)とを合成して合成制御量(X
mix)を生成する合成部52と、合成制御量(X
mix)を用いて求められる操作量をプレートステージPST(プレートステージ駆動系PSD)に与えるステージ制御装置50と、からフィードバック制御系(駆動システム)が構築される。これによれば、特定の周波数のノイズを除去しても、制御量(X)を再現してその結果(Xn)を合成することで制御系の安定性を損なうことなく、精密にプレートステージPSTを駆動制御することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態に係る露光装置110は、上述のように設計されたプレートステージPST(プレートテーブルPTB)の駆動システムを備えるため、プレートステージPSTを精密且つ安定に駆動することが可能となり、露光精度、すなわち重ね合わせ精度の向上が可能となる。
【0052】
なお、本実施形態では、X軸方向についてのプレートステージPSTの駆動を制御する場合について説明したが、Y軸方向及びZ軸方向についてのプレートステージPSTの駆動を制御する場合についても、同様にして、フィードバック制御系を設計することができ、同等の効果を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態の露光装置110において採用したフィードバック制御系MMFCにフィードフォワード制御器を組み込んで2自由度制御系に拡張することもできる。
図12に、2自由度制御系の構成を示す。2自由度制御系では、フィードバック制御系MMFC(
図3参照)に対して、ステージ制御装置50の構成が異なる。2自由度制御系におけるステージ制御装置50は、目標生成部50
0と制御器50
1と減算器50
2とに加えて制御器50
3及び加算器50
4を含んで構成されている。制御器50
3は、目標値Rを用いて操作量U
FF=C
FF(R)を算出し、その結果を加算器50
4に出力する。加算器50
4は、制御器50
1の出力(操作量)U
FBと制御器50
3の出力(操作量)U
FFとを合成して、その結果を制御対象であるプレートステージPST(プレートステージ駆動系PSD)に与える。また、合成部52を構成する生成部52
1は、ステージ制御装置50からの出力U
FB+U
FFに対して制御量Xを再現して、その結果Xnをフィルタ52
3に出力する。
【0054】
制御器50
3の出力U
FFの関係U
FF=C
FFR=Pn
−1Rより、
【数10】
が導かれる。従って、
図12に示した2自由度制御系は
図13に示す制御系に等価変換することができる。変換された制御系では、
図12に示した2自由度制御系に対して、合成部52の構成が異なる。すなわち、合成部52を構成する生成部52
1は制御器50
1からの出力U
FBを受けて制御量Xを再現し、その結果を加算器52
5に出力する。加算器52
5は生成部52
1の出力と目標値Rを合成して、その結果Xnをフィルタ52
3に出力する。
【0055】
また、プレート干渉計システム(干渉計)18に限らず、例えば、光学定盤73に設けられたヘッドを用いてプレートステージPSTに設けられたスケールに計測光を照射し、その戻り光を受光するエンコーダを用いることも可能である。
【0056】
また、プレート干渉計システム(干渉計)18の構成は、上記の構成に限らず、目的に応じて、適宜、さらに干渉計を追加した構成を採用することができる。また、プレート干渉計システム18に代えて、あるいはプレート干渉計システム18とともにエンコーダ(又は複数のエンコーダから構成されるエンコーダシステム)を用いても良い。
【0057】
《第2の実施形態》
本発明の第2の実施形態について、
図14〜
図19を用いて説明する。
【0058】
第2の実施形態では、先に説明したフィードバック制御系MMFCを、マスクステージMST及び投影光学系PLなどが搭載されたボディ70を床面F上で支持するアクティブ防振台(単に防振台と呼ぶ)71に適用する。防振台71は、床面Fの振動を除振し、露光装置110を一定の絶対位置に支持するために用いられる。
【0059】
図14には、防振台71の機構モデルが示されている。防振台71は、全体質量mの露光装置110をばね(ばね定数k)とダンパ(粘性c)を介して床面F上に支持する。ここで、ばねとダンパにより、防振台71(が支持する露光装置110)に力fが加えられる。床面Fに対する防振台71の相対位置は、エンコーダ等のセンサにより測定される。床面Fの絶対位置X
0、防振台71の絶対位置X
v、床面Fに対する防振台71の相対位置(の計測結果)X
snsとする。なお、力fの反力が床面Fに及ぼす影響は、床の質量が露光装置110の質量に比べて十分大きいものとして無視する。
【0060】
露光装置110を支持する防振台71を、力f及び床面Fの絶対位置X
0を防振台71(露光装置110)に加えることにより防振台71の絶対位置X
v及び相対位置X
snsが制御される2入力2出力システムとして表す。それにより、システムの入出力応答は行列形式において、
【数11】
と表される。ただし、P
1〜P
4は防振台71の伝達関数であり、D
p=ms
2+cs+kである。
【0061】
センサ(不図示)により測定される位置は、防振台71の絶対位置X
vではなく、防振台71の相対位置X
snsである。そこで、
図14に示した機構モデルを利用して防振台71の絶対位置X
vを推定する。
図14より自明の関係X
sns=X
v−X
0及び式(15)より導かれる関係X
sns=P
1f+P
3X
0より、力fとセンサ信号X
snsを用いて、防振台71の絶対位置X
vを
【数12】
と表すことができる。そこで、防振台71の質量m、ばね定数k、及び粘性cをそれぞれノミナル値m
n,c
n,k
nに置き換えて、力fとセンサ信号X
snsを用いて防振台71の絶対位置X
vを推定式
【数13】
から推定することとする。ただし、
【数14】
【0062】
防振台71の絶対位置X
vを一定に保つために、約0.1Hz以下の低周波帯域では防振台71(露光装置110)の位置を床面Fの絶対位置X
0に追従することが望ましい。そこで、フィードバック制御系MMFCを適用して、防振台71の相対位置(の測定結果)X
snsと機構モデルを用いて推定する絶対位置〈X
v〉とを周波数分離して制御に用いることとする。
【0063】
図15には、防振台71の制御に適用するフィードバック制御系MMFCの構成が示されている。この構成は、第1の実施形態におけるフィードバック制御系MMFC(
図3参照)に対して合成部52を構成する生成部52
1(ノミナルプラントPn)がオブザーバ52
6に置き換えられたものに相当する。なお、防振台71は、(プラントPとして)伝達関数P
1,P
3を用いて表されている。オブザーバ52
6は2つの制御器G
n1,G
n2と減算器52
7とを有し、第1の実施形態におけるステージ制御装置50に相当する防振台制御装置50からの出力fとセンサからの出力X
snsとをそれぞれ制御器G
n1,G
n2に通し、それらの出力を減算器52
7に通すことで差を生成し、その結果、すなわち防振台71の絶対位置X
vの推定値〈X
v〉をフィルタ52
3に出力する。
【0064】
(フィルタ52
2,52
3における)フィルタFとして、床面Fの振動の周波数が特定されている場合、式(10)に与えるノッチフィルタを採用することができる。或いは、ローパスフィルタ
【数15】
を採用することもできる。この場合、カットオフ周波数(ω
LPF/2π)以下の低周波数帯域では防振台71の相対位置(の測定結果)X
sns、カットオフ周波数以上の高周波数帯域では推定した絶対位置〈X
v〉を用いて防振台71の位置を制御する構成になる。ただし、ローパスフィルタF
LPFのカットオフ周波数(ω
LPF/2π)は、床面Fの振動の周波数より高く定めることとする。
【0065】
オブザーバ52
6を構成する制御器G
n1,G
n2は二重の純積分を有するため、僅かなモデル化誤差が積算されて出力が発散するという実装上の問題がある。そこで、制御器G
n1,G
n2に2次のハイパスフィルタを挿入して、
【数16】
と、仮想的なバネm
nω
HPF2及びダンパ2m
nω
HPFを取り込むことで、出力の発散が回避される。
【0066】
本実施形態の防振台71のフィードバック制御系MMFCについて、床面Fの絶対位置X
0が振幅1mm、周波数1Hzで振動しているものとして、シミュレーションを行った。ただし、防振台71のパラメータとしてノミナル値m
n=20044kg,c
n=477363N/(m/s),k
n=53727737N/mを採用した。フィルタFとして式(10)に与えたノッチフィルタを採用し、ω
n=2π、ζ=0.05、d=0とした。また、式(20)及び式(21)に与えたハイパスフィルタF
HPFについて、ω
HPF=2π0.1とした。
【0067】
図16には、防振台71(制御対象)の伝達関数P
1の周波数特性が示されている。ただし、制御器50
1は、PI制御器と1Hzの振動を抑圧するピークフィルタから構成した。伝達関数P
1は、その振幅を約10Hzまで一定に維持し、約10Hz以上で周波数の増加とともに減衰する。また、その位相を10Hz近傍で180度遅らせている。
【0068】
図17には、フィードバック制御系MMFCの感度関数
【数17】
が示されている。感度関数Sは、周波数の増加とともにその振幅を増加し、1Hz近傍で深い谷を呈し、10Hz近傍でピークを呈している。1Hzの外乱を約−10dB(約3分の1倍)抑圧できることがわかる。
【0069】
図18には、ナイキスト線図が示されている。軌跡は点(−1,0)から離れ、十分な安定余裕が確保されていることがわかる。
【0070】
図19に、フィードバック制御の時間応答の結果が示されている。ただし、上段の図は防振台71の絶対位置X
v、中段の図は防振台71の合成位置X
mix、下段の図は防振台71の相対位置X
snsの結果を示す。比較のため、MMFCの適用なしのフィードバック制御系に対するシミュレーションの結果もあわせて示されている。このフィードバック制御系は、センサから得られる防振台71の相対位置X
snsを防振台制御装置50(減算器50
2)に直に戻すように構成されている。
【0071】
MMFCの適用なしのフィードバック制御系(w/o MMFC)では、防振台71の相対位置X
snsを一定に制御する構成であるため相対位置X
snsはほぼ一定(ゼロ)であり、床面Fの絶対位置X
0の振動がほとんど減衰することなく防振台71の絶対位置X
vに伝わっていることがわかる。これに対し、MMFCの適用ありのフィードバック制御系(with MMFC)では、床面Fの振動がほぼ設計通りに約3分の1に減衰して防振台71の絶対位置X
vに現れていることがわかる。従って、本実施形態のフィードバック制御系MMFCにより、床面Fから防振台71の相対位置を測定するセンサの出力のみを使って床面Fの振動を除振し、露光装置110を一定の絶対位置に支持する防振台71が実現できたことがわかる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る露光装置110によると、床面Fから防振台71の相対位置を測定するセンサと、防振台71のモデル情報を用いて制御量(X
v)を再現し、その結果とセンサの計測結果(X
sns)とを合成して合成制御量(X
mix)を生成する合成部52と、合成制御量(X
mix)を用いて求められる操作量を防振台71に与える防振台制御装置50と、からフィードバック制御系(駆動システム)が構築される。これによれば、特定の周波数のノイズを除去しても、制御量(X
v)を再現してその結果を合成することで制御系の安定性を損なうことなく、精密に防振台71を制御することが可能となる。
【0073】
なお、上記第1及び第2の実施形態において、照明光は、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)などの紫外光や、F
2レーザ光(波長157nm)などの真空紫外光であっても良い。また、照明光としては、例えばDFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(又はエルビウムとイッテルビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いても良い。また、固体レーザ(波長:355nm、266nm)などを使用しても良い。
【0074】
また、上記実施形態では、投影光学系PLが、複数本の光学系を備えたマルチレンズ方式の投影光学系である場合について説明したが、投影光学系の数はこれに限らず、1つ以上あれば良い。また、マルチレンズ方式の投影光学系に限らず、例えばオフナー型の大型ミラーを用いた投影光学系などであっても良い。また、上記実施形態では投影光学系PLとして、投影倍率が等倍系のものを用いる場合について説明したが、これに限らず、投影光学系は拡大系及び縮小系のいずれでも良い。
【0075】
また、上記各実施形態(のステージ駆動システム)は、一括露光型又はスキャニング・ステッパなどの走査型露光装置、及びステッパなどの静止型露光装置のいずれにも適用することができる。また、ショット領域とショット領域とを合成するステップ・アンド・スティッチ方式の投影露光装置にも上記各実施形態は適用することができる。また、上記各実施形態は、投影光学系を用いない、プロキシミティ方式の露光装置にも適用することができるし、光学系と液体とを介して基板を露光する液浸型露光装置にも適用することができる。この他、上記各実施形態は、2つのパターンを、投影光学系を介して基板上で合成し、1回のスキャン露光によって基板上の1つのショット領域をほぼ同時に二重露光する露光装置(米国特許第6,611,316号明細書)などにも適用できる。
【0076】
また、露光装置の用途としては、角型のガラスプレートに液晶表示素子パターンを転写する液晶用の露光装置に限定されることなく、例えば半導体製造用の露光装置、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン及びDNAチップなどを製造するための露光装置にも広く適用できる。また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるマスク又はレチクルを製造するために、ガラス基板又はシリコンウエハなどに回路パターンを転写する露光装置にも上記各実施形態を適用できる。なお、露光対象となる物体はガラスプレートに限られるものでなく、例えばウエハ、セラミック基板、あるいはマスクブランクスなど、他の物体でも良い。
【0077】
液晶表示素子(あるいは半導体素子)などの電子デバイスは、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、この設計ステップに基づいたマスク(あるいはレチクル)を製作するステップ、ガラスプレート(あるいはウエハ)を製作するステップ、上述した各実施形態の露光装置、及びその露光方法によりマスク(レチクル)のパターンをガラスプレートに転写するリソグラフィステップ、露光されたガラスプレートを現像する現像ステップ、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト除去ステップ、デバイス組み立てステップ、検査ステップ等を経て製造される。この場合、リソグラフィステップで、上記実施形態の露光装置を用いて前述の露光方法が実行され、ガラスプレート上にデバイスパターンが形成されるので、高集積度のデバイスを生産性良く製造することができる。