特許第6362029号(P6362029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362029
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】ニッケル硫化物原料の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20180712BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20180712BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20180712BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20180712BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/10
   C22B15/00 107
   C25C1/08
   C25C7/06 301A
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-172099(P2014-172099)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-44355(P2016-44355A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2016年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】北崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴雄
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−080986(JP,A)
【文献】 特開2012−026027(JP,A)
【文献】 特開2008−240009(JP,A)
【文献】 特開2013−067838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C25C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む金属硫化物、又は前記ニッケルを含む金属硫化物と下記セメンテーション残渣を塩素浸出用ニッケル原料として用い、前記塩素浸出用ニッケル原料に含まれるニッケル及び不純物を塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る塩素浸出工程、
前記塩素浸出工程により得られる塩素浸出液に含まれる銅の濃度を、管理基準値(A)に基づいて前記塩素浸出液中の銅濃度を調整した塩素浸出液を得る銅濃度調整工程、
ニッケルを含む金属硫化物に前記塩素浸出液を接触させることで塩素浸出液中の2価銅イオンにより前記ニッケルを含む金属硫化物中のニッケルを置換浸出すると共にCuS又Cuメタルを生成させて銅が除去された置換浸出終液とCuS又はCuメタルを含むセメンテーション残渣を得る置換浸出工程、
前記置換浸出終液中の不純物を除去して塩化ニッケル溶液を得る浄液工程、
前記塩化ニッケル溶液から電解採取法によって金属ニッケルと塩素ガスを回収する電解工程、
を含むニッケルを製造する湿式製錬プロセスにおけるニッケル硫化物原料の処理方法において、
下記(1)から(3)に示す手順に従って、前記塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を低下させることによって、亜硫化ニッケルと金属ニッケルを含むニッケルマットの処理量(B)と、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物の処理量(C)との合計原料処理量(B+C)に対する、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物処理量(C)の処理比率(D=C÷(B+C)×100%)を上昇させることを特徴とする、ニッケル硫化物原料の処理方法。
(記)
(1)前記ニッケルマットの処理量(B)から許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)および塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)を決定し、
(2)塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)に対する混合硫化物処理量の処理比率(D)との関係式(D=f(A2))を導き出す。
(3)前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))と、前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))をD軸に沿って−10移動した式(D+10=f(A2+5))と、式A2=15と、式A2=55に囲まれた範囲にある混合硫化物処理量の処理比率(D)に対応した塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を設定する。
【請求項2】
ニッケルを含む金属硫化物、又は前記ニッケルを含む金属硫化物と下記セメンテーション残渣を塩素浸出用ニッケル原料として用い、前記塩素浸出用ニッケル原料に含まれるニッケル及び不純物を塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る塩素浸出工程、
前記塩素浸出工程により得られる塩素浸出液に含まれる銅の濃度を、管理基準値(A)に基づいて前記塩素浸出液中の銅濃度を調整した塩素浸出液を得る銅濃度調整工程、
ニッケルを含む金属硫化物に前記塩素浸出液を接触させることで塩素浸出液中の2価銅イオンにより前記ニッケルを含む金属硫化物中のニッケルを置換浸出すると共にCuS又はCuメタルを生成させて銅が除去された置換浸出終液とCuS又はCuメタルを含むセメンテーション残渣を得る置換浸出工程、
前記置換浸出終液中の不純物を除去して塩化ニッケル溶液を得る浄液工程、
前記塩化ニッケル溶液から電解採取法によって金属ニッケルと塩素ガスを回収する電解工程、
を含むニッケルを製造する湿式製錬プロセスにおけるニッケル硫化物原料の処理方法において、
下記(1)から(3)に示す手順に従って、前記塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を低下させることによって、亜硫化ニッケルと金属ニッケルを含むニッケルマットの処理量(B)と、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物の処理量(C)との合計原料処理量(B+C)に対する、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物処理量(C)の処理比率(D=C÷(B+C)×100%)を上昇させることを特徴とし、
(記)
(1)前記ニッケルマットの処理量(B)から許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)および塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)を決定し、
(2)塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)に対する混合硫化物処理量の処理比率(D)との関係式(D=f(A2))を導き出す。
(3)前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))と、前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))をD軸に沿って−10移動した式(D+10=f(A2+5))と、式A2=15と、式A2=55に囲まれた範囲にある混合硫化物処理量の処理比率(D)に対応した塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を設定する。
前記銅濃度調整工程は、
前記塩素浸出液の銅濃度が、15〜55g/Lの間で任意に設定された管理基準値(A)から3g/L以上低下した時には、下記(イ)、(ハ)のいずれかの手順を講じ、
前記塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値(A)から3g/L以上上昇した時には、下記(ロ)の手段を講じ、
前記塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値(A)から3g/L未満低下した時には、下記(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかの手段を講じ、
前記塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値(A)から3g/L未満上昇した時には、下記(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかの手段を講じて、
塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上60g/L以下の範囲に維持することを特徴とする、ニッケル硫化物原料の処理方法。
(記)
(イ)酸化還元電位が400mV(Ag/AgCl電極基準)以上の塩素浸出液と金属銅を接触させることによって、塩素浸出液中の銅濃度を上昇させる銅補充手段。
(ロ)塩素浸出液を還元して価数が2価の銅イオン濃度を低下させた後に、前記還元後の塩素浸出液を銅電解採取することによって、塩素浸出液中の銅濃度を低下させる脱銅手段。
(ハ)上記(イ)も(ロ)も実施しない中立手段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含む複数種の金属硫化物を原料としてニッケルを製造する、塩素浸出工程を含んだニッケルの湿式製錬プロセスにおいて、原料処理比率を調整するために、原料処理比率に応じて塩素浸出液の銅濃度を適正値に調整する、ニッケル硫化物原料の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケルおよびコバルトの製錬においては、例えば、ニッケル硫化鉱石を溶鉱炉で溶解して得られるニッケル硫化物や、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物等、いわゆる乾式製錬法で得られたNi等のニッケル硫化物を主成分とするニッケルマットが生産されている。
【0003】
一方で、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching、通称HPAL)して、その加圧酸浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、湿式硫化反応によって、例えば硫化水素ガスをニッケルイオンおよびコバルトイオンを含んだ浸出液中に吹込むことによって、得られたNiS等の硫化物を主成分とするニッケルおよびコバルトを含む混合硫化物(以降、混合硫化物と称する。)も生産されている。
【0004】
上記ニッケルマットや混合硫化物を原料としてニッケル及びコバルトを精製する方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、塩素ガスの酸化作用を利用してニッケルマットや混合硫化物を浸出し、浸出されたニッケルイオン及びコバルトイオンを電解採取によって電気ニッケル及び電気コバルトとして製品化する塩素浸出プロセスが実用化されている。
【0005】
この方法は、混合硫化物と下記セメンテーション残渣を塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによりニッケル及びコバルトを塩化物水溶液中に塩素浸出する。
【0006】
そこで得られた酸化剤としての2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に、粉砕したニッケルマットを接触させて銅とニッケルの置換反応を行うことにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、銅イオンはCuSまたはCu(金属銅)の形態となって固体(セメンテーション残渣の一部)となる。
【0007】
その置換浸出終液と、ニッケルマットの置換浸出残渣と前記CuSまたはCu(金属銅)の形態となって沈澱した固体とからなるセメンテーション残渣は、固液分離された後、置換浸出終液は次の浄液工程へ、固体のセメンテーション残渣は塩素浸出工程へ送られる。
この浄液工程では、得られた置換浸出終液から鉄、鉛、銅、亜鉛等の不純物を除去すると共に、置換浸出終液中のコバルトを溶媒抽出等の方法を用いて分離する。
次いでニッケルを電解採取して電気ニッケルを製造する方法である。
【0008】
なお、上記塩素浸出プロセスでは、塩素浸出工程で浸出されなかった硫黄を主成分とする塩素浸出残渣は硫黄の回収工程にて処理され、製品硫黄および残渣類として払出される。
この方法はシンプルで、電解採取で発生した塩素ガスを浸出に再利用する等、効率的かつ経済的な生産を実現している。
【0009】
特許文献1に記載されている塩素浸出工程におけるニッケルを含む金属硫化物の塩素浸出反応は、浸出液中の銅イオンの酸化還元反応を利用して金属成分を浸出する反応である。
【0010】
前記塩素浸出工程では、2価の銅のクロロ錯イオンが混合硫化物やセメンテーション残渣中の金属を溶解するための直接的な浸出剤として作用し、塩素ガスは銅の1価イオンを2価イオンに酸化することにより間接的に浸出反応に関与する。
そこで、この浸出反応が効率的に進行するためには、塩素浸出液中の銅濃度が10g/L以上であることが条件であり、その銅濃度が高いほど塩素吸収効率が高くなるため、金属成分の浸出率が向上する。
【0011】
一方で、前記置換浸出工程では、塩素浸出液とニッケルマットを接触させることにより、塩素浸出液中の銅イオンとニッケルマット中のニッケルのセメンテーション反応が行われる。
このセメンテーション反応は、固体のニッケルが溶出してニッケルイオンとなり、その溶出したニッケルと電気化学的に当量の液中の銅イオンが固体となるため、置換浸出工程は塩素浸出液中に含まれる銅を固体として除去する脱銅工程であるとも言える。
【0012】
この塩素浸出液中の銅イオンは、塩素浸出液からセメンテーション残渣として分離されるため、置換浸出終液の銅濃度は0.02g/L以下であり、その後の浄液工程では残った微量の銅を除去すれば良い。また、原料からのインプット見合いの銅は、塩素浸出液の一部を銅電解採取に付することによって銅粉として系外に抜出される。
【0013】
上記の通り、塩素浸出プロセスは、原料に含まれる不純物としての銅を上手く利用することで成立している。
すなわち、ニッケルマットや混合硫化物等の原料中に微量に含まれる銅は、ニッケルおよびコバルトを精製する上での不純物ではあるが、前記塩素浸出工程や置換浸出工程では酸化剤として利用され、塩素浸出工程と置換浸出工程の間を、塩素浸出液とセメンテーション残渣として循環している。
【0014】
図1は、上記塩素浸出プロセスの工程図を示すものである。
図1における数字は、電気ニッケルの生産量を100としたときの塩素ガス量、原料中のニッケル量の当量比のイメージを表す。
塩素浸出工程で浸出剤として使用される塩素ガス量および前記塩素浸出工程と置換浸出工程で処理される硫化物原料の処理量については、電気ニッケルの生産量、すなわち最終工程であるところの電解採取工程における通電電流等によって決定される。
【0015】
電解採取工程では、浄液工程にて置換浸出終液から浄液された塩化ニッケル溶液を電気分解することにより、塩化ニッケル溶液中のニッケルイオンが陰極に析出して電気ニッケルとなり、塩化ニッケル溶液中の塩化物イオンは陽極表面で塩素ガスを生成して回収される。
効率の差はあるが、基本的には陽極表面で発生する塩素ガス量は電気ニッケルと化学的に当量であり、電解採取工程の通電電流と電気的に当量である。
発生した塩素ガスは塩素浸出に再利用され、そして、理論上はその再利用される塩素ガスと化学的に当量のニッケルを含んだ硫化物原料を処理することができる。
【0016】
ところで、乾式製錬法で生産されたニッケルマットには、主成分としての亜硫化ニッケル(Ni)の他に20%程度の金属ニッケルが含まれている。
この金属ニッケルは強い還元力を有していることから、置換浸出工程にて塩素浸出液中の銅イオンを硫化第一銅(CuS)または金属銅(Cu)にまで還元して、固体のセメンテーション残渣として沈澱させることができる。
【0017】
一方で、湿式硫化反応によって生産された混合硫化物の主成分は、硫化ニッケル(NiS)および硫化コバルト(CoS)である。
この硫化ニッケルおよび硫化コバルトは金属ニッケルのような強い還元力を持たず、塩素浸出液中の2価の銅クロロ錯イオンの一部を1価の銅クロロ錯イオンに還元することはできても、銅イオンを固体の硫化第一銅(CuS)または金属銅(Cu)にまで還元することはできない。
【0018】
したがって、塩素浸出プロセスが成立するには、塩素浸出液中の銅イオンを塩素浸出液からセメンテーション残渣として分離するために必要な最低限のニッケルマットが必要となり、固体の硫化第一銅(CuS)または金属銅(Cu)にまで還元する能力を有さない混合硫化物については、直接塩素浸出工程にて処理される。
また、近年、コスト的に有利な原料として混合硫化物の増産が図られており、混合硫化物の増処理が求められている。
【0019】
そこで、特許文献2に記載されている、混合硫化物の一部を置換浸出工程で処理する技術が開発・実用化されている。特許文献2の概略工程図を図2に示す。
その技術とは、すなわち、酸化剤としての2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に、混合硫化物を接触させることにより、混合硫化物中のニッケルおよびコバルトの一部が置換浸出されると共に、2価の銅クロロ錯イオンの一部が1価の銅クロロ錯イオンに還元されるものである。
【0020】
次いで、その1価および2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に粉砕したニッケルマットを接触させて、銅とニッケルの置換反応を行うことにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、液中の銅イオンはCuSまたはCu(金属銅)の形態となって固体(セメンテーション残渣の一部)となる。
しかし、特許文献2に記載の方法によっても、必要なニッケルマット量が確保できない場合には、混合硫化物の処理量を減らして電気ニッケルの生産量を減少させるアクションを取らざるを得ない。最悪の場合には、置換浸出工程での脱銅が不可能となり、電気ニッケルの製造そのものが成り立たなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2008−240009号公報
【特許文献2】特開2012−026027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記状況に鑑み、コスト的に有利な原料として混合硫化物の増産が図られており、その増処理が求められている。
また、塩素浸出プロセスにおいてニッケルマットと混合硫化物を処理する場合、それぞれの原料に含まれる不純物含有率が異なるため、それぞれの原料の処理比率を変更することにより、工程内へ持ち込まれる銅を始めとする不純物量を容易に調整できることも望まれる。
【0023】
しかし、図3の特許文献2に係る塩素浸出プロセスの工程図に示すごとく、塩素浸出液中の銅濃度を必要以上に高く維持すると、置換浸出工程で塩素浸出液中の銅イオンを固体化するためのニッケルマットの処理量は増加するが、塩素浸出工程と置換浸出工程で処理される硫化物原料の処理量については電気ニッケルの生産量によって決定されるため、相対的に混合硫化物の処理量を制限せざるを得ない。つまり不純物負荷調整のために原料の処理比率調整を実施することが困難である。
また、置換浸出工程でセメンテーション残渣量が増加するため、固液分離等のハンドリングに手間を要すことになり、効率的では無い。
【0024】
そこで、化学組成、化合物組成の異なる複数種のニッケルマットと混合硫化物を塩素浸出プロセスにて処理し、その処理比率を容易に調整できる手段や管理方法を確立することが望まれていた。
【0025】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、ニッケルを含む複数種の金属硫化物を原料としてニッケルを製造する、塩素浸出工程を含んだニッケルの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケルを含む複数種の金属硫化物の原料処理比率を容易にかつ安定的に調整するニッケル硫化物原料の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するため、本発明者らは、塩素浸出液の銅濃度とニッケルを含む複数種の金属硫化物の原料処理比率について研究を重ねた結果、塩素浸出液の銅濃度の管理基準値を調整することによって、亜硫化ニッケルと金属ニッケルを含むニッケルマットと、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物の原料処理比率の調整を容易かつ安定的に行うことができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0027】
すなわち、本発明の第1の発明は、ニッケルを製造する湿式製錬プロセスにおけるニッケル硫化物原料の処理方法で、ニッケルを含む金属硫化物を原料としてニッケルを製造する湿式精錬プロセスであって、ニッケルを含む金属硫化物、又は前記ニッケルを含む金属硫化物と下記セメンテーション残渣を塩素浸出用ニッケル原料として用い、その塩素浸出用ニッケル原料に含まれるニッケル及び不純物を塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る塩素浸出工程、前記塩素浸出工程により得られる塩素浸出液に含まれる銅の濃度を、管理基準値(A)に基づいて前記塩素浸出液中の銅濃度を調整した塩素浸出液を得る銅濃度調整工程、ニッケルを含む金属硫化物に塩素浸出液を接触させることで塩素浸出液中の2価銅イオンによりニッケルを含む金属硫化物中のニッケルを置換浸出すると共にCuS又はCuメタルを生成させて銅が除去された置換浸出終液とCuS又はCuメタルを含むセメンテーション残渣を得る置換浸出工程、置換浸出終液中の不純物を除去して塩化ニッケル溶液を得る浄液工程、塩化ニッケル溶液から電解採取法によって金属ニッケルと塩素ガスを回収する電解工程を含むニッケル硫化物原料の処理方法において、下記(1)から(3)に示す手順に従って、前記塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を低下させることによって、亜硫化ニッケルと金属ニッケルを含むニッケルマットの処理量(B)と、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物の処理量(C)との合計原料処理量(B+C)に対する、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物処理量(C)の処理比率(D=C÷(B+C)×100%)を上昇させることを特徴とするニッケル硫化物原料の処理方法である。
(記)
(1)前記ニッケルマットの処理量(B)から許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)および塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)を決定し、
(2)塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)に対する混合硫化物処理量の処理比率(D)との関係式(D=f(A2))を導き出す。
(3)前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))と、前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))をD軸に沿って−10移動した式(D+10=f(A2+5))と、式A2=15と、式A2=55に囲まれた範囲にある混合硫化物処理量の処理比率(D)に対応した塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を設定する。
【0028】
本発明の第2の発明は、ニッケルを含む金属硫化物、又は前記ニッケルを含む金属硫化物と下記セメンテーション残渣を塩素浸出用ニッケル原料として用い、前記塩素浸出用ニッケル原料に含まれるニッケル及び不純物を塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る塩素浸出工程、この塩素浸出工程により得られる塩素浸出液に含まれる銅の濃度を、銅濃度調整工程において前記管理基準値(A)に基づいて調節した塩素浸出液を得る銅濃度調整工程、ニッケルを含む金属硫化物に前記塩素浸出液を接触させることで塩素浸出液中の2価銅イオンにより前記ニッケルを含む金属硫化物中のニッケルを置換浸出すると共にCuS又はCuメタルを生成させて銅が除去された置換浸出終液とCuS又はCuメタルを含むセメンテーション残渣を得る置換浸出工程、前記置換浸出終液中の不純物を除去して塩化ニッケル溶液を得る浄液工程、前記塩化ニッケル溶液から電解採取法によって金属ニッケルと塩素ガスを回収する電解工程、を含むニッケルを製造する湿式製錬プロセスにおけるニッケル硫化物原料の処理方法において、
下記の(1)から(3)の手順に従って、前記塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を低下させることによって、亜硫化ニッケルと金属ニッケルを含むニッケルマットの処理量(B)と、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物処理量(C)との合計原料処理量(B+C)に対する、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物処理量(C)の処理比率(D=C÷(B+C)×100%)を上昇させることを特徴とするニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0029】
(記)
(1).前記ニッケルマットの処理量(B)から許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)および塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)を決定し、
(2).塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)に対する混合硫化物処理量の処理比率(D)との関係式(D=f(A2))を導き出し、
(3).前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))と、前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))をD軸に沿って−10移動した式(D+10=f(A2+5))と、式A2=15と、式A2=55に囲まれた範囲にある混合硫化物処理量の処理比率(D)に対応した塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を設定する。
【0030】
第2の発明における前記銅濃度調整工程は、前記塩素浸出液の銅濃度が、15〜55g/Lの間で任意に設定された管理基準値から3g/L以上低下した時には、下記(イ)、(ハ)のいずれかの手順を講じ、塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値から3g/L以上上昇した時には、下記(ロ)の手段を講じ、塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値から3g/L未満低下した時には、下記(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかの手段を講じ、塩素浸出液の銅濃度が、前記管理基準値から3g/L未満上昇した時には、下記(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかの手段を講じて塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上60g/L以下の範囲に維持することを特徴とする。
(記)
(イ)酸化還元電位が400mV(Ag/AgCl電極基準)以上の塩素浸出液と金属銅を接触させることによって、塩素浸出液中の銅濃度を上昇させる銅補充手段。
(ロ)塩素浸出液を還元して価数が2価の銅イオン濃度を低下させた後に、前記還元後の塩素浸出液を銅電解採取することによって、塩素浸出液中の銅濃度を低下させる脱銅手段。
(ハ)上記(イ)も(ロ)も実施しない中立手段。
【発明の効果】
【0031】
本発明のニッケル硫化物原料の処理方法によれば、ニッケルを含む複数種の金属硫化物の原料処理比率の調整を容易にかつ安定的に行うことができる。
そして、ニッケルを含む複数種の金属硫化物の原料処理比率の調整を容易にかつ安定的に行うことによって、混合硫化物の処理量減少による電気ニッケルの減産回避、混合硫化物の増処理による電気ニッケルの増産が達成できる。
また、不純物負荷調整のための原料の処理比率調整を容易に実施することが可能となり、塩素浸出プロセス操業の安定化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】電気ニッケルの生産量を100としたときの塩素ガス量、原料中のニッケル量の当量比のイメージを表した、特許文献1に係る塩素浸出プロセスの工程図である。
図2】電気ニッケルの生産量を100としたときの塩素ガス量、原料中のニッケル量の当量比のイメージを表した、特許文献2に係る塩素浸出プロセスの工程図である。
図3】塩素浸出液中の銅濃度を高く維持したときの、電気ニッケルの生産量を100としたときの塩素ガス量、原料中のニッケル量の当量比のイメージを表した、特許文献2に係る塩素浸出プロセスの工程図である。
図4】電気ニッケルの生産量を100としたときの塩素ガス量、原料中のニッケル量の当量比のイメージを表した、本発明に係る塩素浸出プロセスの工程図である。
図5】塩素浸出液中の銅濃度と混合硫化物処理比率の関係を示した図である。
図6】本発明に係る銅濃度調整工程の概略フローシートである。(a)は塩素浸出液の銅濃度を低下させる場合、(b)は塩素浸出液の銅濃度を上昇させる場合のフローシートである。
図7】本発明によって操業を行った時の、塩素浸出液の銅濃度と混合硫化物の処理比率の推移を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明に係る塩素浸出液の銅濃度の管理基準値の設定方法、設定された管理基準値の銅濃度調整方法を含む塩素浸出法によるニッケルの湿式精錬プロセスを踏まえてニッケル硫化物原料の処理方法に関し、詳細に説明する。
【0034】
本発明は、ニッケルを製造する湿式製錬プロセスにおけるニッケル硫化物原料の処理方法で、ニッケルを含む金属硫化物、又はその硫化物と下記セメンテーション残渣を塩素浸出用ニッケル原料として用い、前記塩素浸出用ニッケル原料に含まれるニッケル及び不純物を、塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る塩素浸出工程、ニッケルを含む金属硫化物に塩素浸出液を接触させることで塩素浸出液中の2価銅イオンによりニッケルを含む金属硫化物中のニッケルを置換浸出すると共に硫化銅等を生成させて銅が除去された置換浸出終液と硫化銅等を含むセメンテーション残渣を得る置換浸出工程、置換浸出終液中の不純物を除去して塩化ニッケル溶液を得る浄液工程、塩化ニッケル溶液から電解採取法によって金属ニッケルと塩素ガスを回収する電解工程を含むニッケル硫化物原料の処理方法において、下記(1)から(3)に示す手順に従って、前記塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を低下させることによって、亜硫化ニッケルと金属ニッケルを含むニッケルマットの処理量(B)と、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物の処理量(C)との合計原料処理量(B+C)に対する、硫化ニッケルと硫化コバルトを含む混合硫化物処理量(C)の処理比率(D=C÷(B+C)×100%)を上昇させることを特徴とする。
【0035】
(1)ニッケルマットの処理量(B)から許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)および塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)(単位は[g/L])を決定する。
(2)塩素浸出液中の銅濃度の上限値(A2)に対する混合硫化物処理量の処理比率(D)(単位は[%])との関係式(D=f(A2))を導き出す。
(3)関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))と、前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))をD軸に沿って−10移動した式(D+10=f(A2+5))と、式A2=15と、式A2=55に囲まれた範囲にある混合硫化物処理量の処理比率(D)に対応した塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を設定する。
【0036】
また、本発明のニッケル硫化物原料の処理方法は、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る塩素浸出工程により得られた塩素浸出液に含まれる銅の濃度を、銅濃度調整工程において前記管理基準値(A)に基づいて調節した塩素浸出液を得ることを特徴とするニッケル硫化物原料の処理方法であって、その銅濃度調製工程は、塩素浸出液の銅濃度の管理基準値に対する銅濃度挙動によって以降の採りうる手段を予め定め、その定められた手段に沿って実施することにより塩素浸出液中の銅濃度を10g/L以上60g/L以下の範囲に維持することを特徴とするものである。
【0037】
下記に、管理基準値に対する銅濃度挙動[a]から[d]を表1に、それぞれの銅挙動に対応して予め定められた採りうる手段を表2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
1.ニッケルおよびコバルト製錬プロセス
本発明を含むニッケルおよびコバルト製錬プロセスの概略工程図を図4に示す。
本発明は、塩素浸出工程を含むニッケルの湿式製錬プロセスの全体工程の中の、ニッケルを含む金属硫化物からニッケルを水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る方法にあって、塩素浸出液中の銅濃度の設定方法と銅濃度の調整方法に関する技術ではあるが、ニッケル製錬プロセスにおける原料処理の全体最適化を達成するための技術であるため、本発明に特に関係する、原料、塩素浸出、置換浸出(セメンテーション)について詳細に説明する。
【0041】
(1)原料
主要な原料は、ニッケルマットと混合硫化物の2種類となる。
ニッケルマットとは、ニッケル硫化鉱石を溶鉱炉で溶解して得られるニッケル硫化物や、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物等、いわゆる乾式製錬法で得られたニッケル硫化物を指している。
このニッケルマットの主成分は、NiとNi(金属ニッケル)であり、そのおおよその化学組成は、Niが65〜80重量%、Coが約1重量%、Cuが0.1〜4重量%、Feが0.1〜5重量%、Sが18〜25重量%である。
【0042】
ニッケル酸化鉱石を原料としたニッケルマットと比較して、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットは銅をはじめとする不純物の含有量が高いという特徴があり、ニッケル製錬プロセスへの主な不純物のインプット源は、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットである。
【0043】
したがって、このニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットの処理量によって、銅をはじめとする不純物のインプット量が大きく変動することになるため、塩素浸出工程を含むニッケルの湿式製錬プロセスへの不純物負荷を制限するためには、ニッケル硫化鉱石を原料としたニッケルマットの処理比率を下げて混合硫化物やニッケル酸化鉱石を原料としたニッケルマットの処理比率を上げる必要がある。
【0044】
一方で、混合硫化物とは、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出し、その加圧酸浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、湿式硫化反応によって、例えば硫化水素ガスをニッケルイオン及びコバルトイオンを含んだ浸出液中に吹込むことによって、得られたニッケルおよびコバルトを含む混合硫化物を指している。
【0045】
混合硫化物の主成分はNiSとCoSであり、そのおおよその化学組成は、Niが55〜60重量%、Coが3〜6重量%、Cuが0.1重量%未満、Feが0.1〜1重量%、Sが30〜35重量%である。
近年、コスト的に有利な原料として前記混合硫化物の増産が図られており、混合硫化物の増処理、すなわち混合硫化物の処理比率の増加が求められている。
【0046】
(2)塩素浸出
混合硫化物および後述するセメンテーション残渣を、塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによって混合硫化物中のニッケルおよびコバルトと、セメンテーション残渣中のニッケルおよび銅を、塩化物水溶液中に塩素浸出して塩素浸出液を得る。
【0047】
この工程では、2価の銅のクロロ錯イオンが混合硫化物やセメンテーション残渣中の金属を溶解するための直接的な浸出剤として作用し、塩素ガスは銅の1価イオンを2価イオンに酸化することにより間接的に浸出反応に関与する。
その主要な塩素浸出反応式を下記式(1)〜式(4)に示す。
【0048】
【数1】
【0049】
塩素浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が480〜560mV、温度が105〜115℃である。
この浸出反応が効率的に進行するためには、塩素浸出液中の銅濃度が10g/L以上であることが条件であり、その銅濃度が高いほど塩素吸収効率が高くなるため、金属成分の浸出率が向上する。
【0050】
塩素浸出液中の銅濃度が10g/L未満に低下した場合、1価の銅クロロ錯イオンによる塩素ガスの気液吸収能力が低下するため、未反応の塩素ガスが大量に塩素浸出反応槽の気相部に放出されることになる。
【0051】
このことは、塩素ガスのロスが増加してコストが増加するだけに止まらず、浸出残渣に残留するニッケルおよびコバルトが増加し、ニッケルおよびコバルトの浸出率が低下して、ニッケルおよびコバルトの実収率が低下することに繋がる。加えて、上記の問題により、塩素ガスの吹込み量を減らして原料処理量を減らす操作を行わざるを得ないため、ニッケルの生産量が減少する。
また、環境問題にもつながる可能性もある。さらに、巨大な塩素ガス吸収装置と多量の吸収液を必要とするため、現実的には工業的な操業が不可能となる。
【0052】
一方、塩素浸出液中の銅濃度が60g/Lを超えると、浸出反応自体には有利に働くが、その反面で過剰に反応が促進されて析出する硫黄の酸化や反応界面への融着を進め、逆に浸出率を低下させる。また、置換浸出工程では塩素浸出液中の銅イオンの除去も同時に行われているため、必要なニッケルマット量が増加すると共にセメンテーション残渣量が増加する。
この置換浸出工程でのセメンテーション残渣量の増加は、固液分離等、そのハンドリングに手間を要すことになり、効率的では無い。
【0053】
以上は、必要なニッケルマット量が確保できた場合の問題点であるが、必要なニッケルマット量が確保できない場合には、置換浸出工程での脱銅が十分に行われず、置換浸出終液の銅濃度が上昇して、次の浄液工程への脱銅負荷の上昇、さらには電気ニッケルへの銅の混入を引き起こし、電気ニッケルの製造そのものが成り立たなくなる。
【0054】
そこで、塩素浸出液中の銅濃度は60g/L以下に維持する必要がある。
そのため、原料処理比率に応じて、塩素浸出液の銅濃度が10〜60g/Lの範囲内になるように塩素浸出液の銅濃度の管理基準値を変化させることが本発明の主旨であり、この塩素浸出液中の銅濃度の調整が、本発明の銅濃度調整工程において行われる。
【0055】
塩素浸出液中の銅濃度の増減は、銅濃度を増加させる場合は、塩素浸出液と金属銅を接触させる方法または銅電解採取の停止によって行い、一方で銅濃度を低下させる場合には、銅電解採取によって銅粉を抜出す方法によって実施される。
【0056】
(3)置換浸出(セメンテーション)
置換浸出工程は、第1の置換浸出工程と第2の置換浸出工程(図2図3図4では図示せず)の、2つのステージで構成される。
【0057】
先ず、塩素浸出液に含まれる2価の銅のクロロ錯イオンの酸化力を使って、第1の置換浸出工程を実施して混合硫化物中のニッケルおよびコバルトを浸出する。
この第1の置換浸出工程で得られた置換浸出液は2価の銅クロロ錯イオンの一部が1価の銅のクロロ錯イオンに還元されている。
【0058】
次に、第2の置換浸出工程の実施により当該置換浸出液とニッケルマットを接触させることにより、置換浸出液中の銅イオンとニッケルマット中のニッケルのセメンテーション反応が行われる。
主要な置換浸出反応式を下記式(5)〜式(7)に示す。
【0059】
【数2】
【0060】
置換浸出反応条件は、反応時の塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位が50〜300mV、温度が70〜100℃である。
この置換浸出終液の銅濃度を低下させるためには、混合硫化物中に含まれるNiSよりも還元力の強いNi(金属ニッケル)やNiを含有したニッケルマットが必要となる。
【0061】
混合硫化物とニッケルマットの不溶解残渣とセメンテーション反応によって得られた銅を含んだ固体を含む、セメンテーション残渣は、第2の置換浸出工程で得られた置換浸出終液と固液分離された後、塩素浸出工程に送られる。
このセメンテーション反応は、固体のニッケルが溶出してニッケルイオンとなり、その溶出したニッケルと電気化学的に当量の液中の銅イオンが固体となるため、置換浸出工程は塩素浸出液中に含まれる銅を固体として除去する脱銅工程であるとも言える。
【0062】
置換浸出液中の銅イオンはCuSまたはCuメタルの形態となって固体となるため、第2の置換浸出工程で得られる置換浸出終液中の銅濃度は0.02g/L以下となる。
【0063】
2.塩素浸出液の銅濃度の設定方法
前述のように、塩素浸出液中の銅濃度が増加すると置換浸出工程での必要なニッケルマットの処理量が増加するため、相対的に混合硫化物処理量が減少し、混合硫化物処理比率が低下する。
【0064】
逆に、塩素浸出液中の銅濃度が減少すると置換浸出工程での必要なニッケルマットの処理量が減少するため、相対的に混合硫化物処理量が増加し、混合硫化物処理比率が上昇する。
言い換えれば、塩素浸出液中の銅濃度によって、同じニッケルを含む硫化物原料であるが含まれる化合物種の異なる、ニッケルマットと混合硫化物の処理比率の変更可能な範囲が決まってくる。
【0065】
本発明は、このニッケルマットの処理量(B)と混合硫化物の処理量(C)との合計原料処理量に対する、混合硫化物処理量の処理比率(D)に応じて、塩素浸出液の銅濃度の管理基準値(A)を調整する手順を定めたものである。
その手順を、以下(1)〜(2)に説明する。
【0066】
(1)まず、図1〜4に示した通り、電気ニッケルの生産量から必要な合計原料処理量が決まる。ここで、合計原料処理量に対する混合硫化物処理量の処理比率(D)によって、ニッケルマットの処理量(B)が決まる。
【0067】
次に、ニッケルマットの処理量(B)から許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)を決定する。
ここで、例えば、置換浸出工程にて最低限必要となるニッケルマット量は、塩素浸出液中の銅イオンに対する重量比率で1.2(ニッケルマット中の金属ニッケル量/塩素浸出液中の銅イオン量)の金属ニッケルが含まれるニッケルマット量であることが実験的に確認されており、そのようにして求めたパラメーターを使用することが好ましい。
【0068】
許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)から塩素浸出液の銅濃度の上限値(A2)を決定する。
塩素浸出液の銅濃度の上限値(A2)は、許容可能な塩素浸出液中の銅負荷(A1)を塩素浸出液の流量で除することによって求めることができる。
なお、塩素浸出液の流量は、例えば、必要な合計原料処理量を、塩素浸出と置換浸出工程における浸出前後のニッケル濃度の上昇値で除することによって求めることができる。この塩素浸出液の流量は、基本的にはニッケル生産量に比例するので、適当なパラメーターを設定しても良い。
【0069】
前述のようにして決定した塩素浸出液の銅濃度の上限値(A2)と混合硫化物処理量の処理比率(D)の関係式(D=f(A2))を導き出す。
関係式(D=f(A2))は、計算により求めても良いし、A2とDを何点か求めた後、そのデータを統計解析することにより求めても良い。
【0070】
(2)塩素浸出液の銅濃度の上限値(A2)と混合硫化物処理量の処理比率(D)で形成するA2−D直交座標上で、関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))と、前記関係式(D=f(A2))をA2軸に沿って−5移動した式(D=f(A2+5))をD軸に沿って−10移動した式(D+10=f(A2+5))と、式A2=15と、式A2=55に囲まれた範囲にある混合硫化物処理量の処理比率(D)に対応した塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)を設定する。
【0071】
本発明の手順に基づいた一実施例としての、塩素浸出液中の銅濃度の管理基準値(A)の設定領域を図5に示した。
【0072】
塩素浸出液中の銅イオンに対する重量比率で1.2に相当するニッケルマット量より少ないニッケルマット量を置換浸出工程で処理する場合、置換浸出工程での脱銅が十分に行われず、置換浸出終液の銅濃度が上昇して、次の浄液工程への脱銅負荷の上昇、さらには電気ニッケルへの銅の混入を引き起こし、電気ニッケルの製造そのものが成り立たなくなる。
そこで、塩素浸出液の銅濃度の管理基準値の上限値(A)は塩素浸出液の銅濃度の上限値(A2)−5g/Lとした。
【0073】
また、前述のように、混合硫化物処理量の処理比率(D)は高い方が望ましく、混合硫化物処理量の処理比率(D)の下限値は、混合硫化物処理量の処理比率(D)の上限値−10%とした。
【0074】
図5によれば、塩素浸出液中の銅濃度が約80g/Lの場合、混合硫化物処理比率の上限は約25%に止まり、それ以上混合硫化物処理比率を増加させることはできない。しかしながら、銅濃度を約35g/Lまで低下させると、混合硫化物処理比率を約60%程度まで増加させることが可能となり、混合硫化物の増処理を図ることができる。
なお、本発明によれば、混合硫化物処理量の処理比率(D)の調整を容易にかつ安定的に行うことができる。
【0075】
そして、混合硫化物処理量の処理比率(D)の調整を容易にかつ安定的に行うことによって、例えば、置換浸出終液の銅濃度上昇による操業停止や塩素浸出工程におけるニッケル浸出率の低下等の重大トラブルや、混合硫化物の処理量減少による電気ニッケルの減産を回避することができ、混合硫化物の増処理による電気ニッケルの増産も達成できる。
【0076】
3.塩素浸出液の銅濃度の調整方法
図6に本発明に係る銅濃度調整工程の概略フローシートを示す。
図6に示した概略フローシートのうち、(a)は塩素浸出液の銅濃度を低下させる場合のフローシートである。(b)は塩素浸出液の銅濃度を上昇させる場合のフローシートである。
【0077】
まず図6(a)の工程について説明する。
塩素浸出工程で発生した塩素浸出液の一部を、金属ニッケルが充填されたカラム槽に通液して、塩素浸出液中の2価の銅クロロ錯イオンの一部を1価の銅クロロ錯イオンに還元する。
塩素浸出液の組成は、Ni濃度が200〜250g/L、Cu濃度が10〜60g/Lである。
この還元工程で、酸化還元電位400〜500mV、2価銅比((Cu2+濃度/全Cu濃度)×100%)60〜80%の塩素浸出液が、酸化還元電位380〜480mV、2価銅比10〜30%に還元される。
【0078】
次に、前記還元処理後の塩素浸出液にニッケル電解廃液を混合し、脱銅電解給液の銅濃度調整を行う。
脱銅電解給液の銅濃度は、15〜25g/Lに調整する。
その後、脱銅電解給液を電解槽に供給し、不溶性アノードを用いた電解採取法によって、銅粉として銅を電解採取する。
【0079】
電解条件は、通電電流が11000〜14000A/槽、電流密度が280〜360A/m、脱銅電解給液量が20L/分・槽、脱銅電解廃液のCu濃度が10〜15g/Lである。
【0080】
脱銅電解槽底から抜き取った銅粉スラリーは、遠心分離機で脱水され、銅粉は銅製錬系に払出される。
脱銅電解廃液および銅粉スラリーの脱水ろ液は、置換浸出工程に供給される。
【0081】
次に、図6(b)は塩素浸出液の銅濃度を上昇させる場合のフローシートで、この場合は、従来法に係る金属ニッケルが充填されたカラム槽の充填物を金属銅に置き換えることによって、従来の脱銅電解設備をそのまま利用して、塩素浸出液の銅濃度を上昇させることができる。
【0082】
銅濃度を上昇させた塩素浸出液は、濃度調整工程、銅電解採取工程を通さずに、銅濃度調整液として置換浸出工程に供給される。
本発明は、図6(a)の方法と、図6(b)の方法を組み合わせることにより、塩素浸出液の銅濃度の低下と上昇を自在に切替える。
この方法は、金属ニッケルまたは金属銅を充填した複数のカラム槽と、切替え配管、切替えバルブによって、簡単に実施することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を用いて、本発明をより説明する。
【実施例1】
【0084】
図7には、塩素浸出によるニッケル製錬プロセスにおいて、本発明によって操業を行った時の、塩素浸出液の銅濃度と混合硫化物の処理比率の推移を示す。この期間は、塩素浸出液の銅濃度の管理基準値を30〜40g/Lに適宜調整して操業を行ったため、混合硫化物の処理比率を50〜55%まで高めることが可能となっている。
図中の「MS原料」は、「混合硫化物(Mixed Sulfide)」を指すものである。
【0085】
実施例1から、塩素浸出液の銅濃度を調整することにより混合硫化物処理量の処理比率の変化に対応すること、言い換えれば、あらかじめ塩素浸出液の銅濃度を低下させておくことによって、意図的に混合硫化物処理量の処理比率を上昇させることが可能となったことが分かる。
【実施例2】
【0086】
実機設備である、容積6m、硬質ゴムが内面にライニングされた圧延鋼製のカラム槽に、100mm×100mm×18mmのサイズに切断した金属銅24100kgを装入した。
そのカラム槽に、塩素浸出液を38〜42L/分の流量で通液した操業を、約5日間、継続した。
【0087】
得られた塩素浸出液の組成は、Ni濃度が202〜249g/L、Cu濃度が21〜28g/Lであり、金属銅と接触させた後の塩素浸出液のCu濃度は26〜35g/Lとなった。
また、塩素浸出液の酸化還元電位は480〜510mV、2価銅比は51〜72%、金属銅と接触させた後の塩素浸出液の酸化還元電位は430〜450mV、2価銅比は14〜27%であった。
【0088】
実施例2より、本発明の方法によって、塩素浸出液の銅濃度を上昇させることができることが分かる。
【実施例3】
【0089】
実機設備である、容積6m、硬質ゴムが内面にライニングされた圧延鋼製のカラム槽に、充填量が20〜24tになるように、100mm×100mm×15mmのサイズに切断した金属ニッケルを約1日毎に追い足し装入した。
そのカラム槽に、塩素浸出液を140〜180L/分の流量で通液した操業を、約7日間、継続した。
【0090】
1槽当たりアノードが24枚、カソードが23枚載置された脱銅電解槽を8槽用いて、12000A/槽の通電電流にて、約7日間の銅電解採取操業を実施した。
その際、金属ニッケルが充填されたカラム槽に通液した後の塩素浸出液を、Cu濃度が15〜25g/Lになるようにニッケル電解廃液で希釈して、銅電解給液を調製して用いた。
その銅電解給液量は18〜22L/分・槽で、その銅電解給液の組成は、Ni濃度が159〜200g/L、Cu濃度が18〜25g/Lであり、銅電解廃液のCu濃度は10〜14g/Lであった。
【0091】
実施例3より、本発明の方法によって、塩素浸出液の銅濃度を低下させることができることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7