特許第6362161号(P6362161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362161
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20180712BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G01N27/62 F
   H01J49/10
   G01N27/62 G
   G01N27/62 V
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-108629(P2014-108629)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-224905(P2015-224905A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】北川 慎也
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−518790(JP,A)
【文献】 特開2000−331641(JP,A)
【文献】 特開2012−199027(JP,A)
【文献】 特表2004−525483(JP,A)
【文献】 国際公開第99/065058(WO,A1)
【文献】 特開2008−282726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62、30/72、
H01J 49/00−49/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分析試料をイオン化して質量分析に並列的且つ連続的に前記複数の分析試料を導入することが可能な複数のイオン化部と、前記複数の分析試料に、特定の前記イオン化部ごとに由来する信号を抽出するための異なった周波数である識別信号を付与する機能を有する識別信号付与部と、イオン化された前記複数の分析試料が並列的かつ連続的に導入され、混在した前記複数の分析試料の質量分析を行う前記質量分析部と、前記識別信号の混在信号として観測された前記質量分析部の質量分析測定結果から、前記識別信号ごとの前記質量分析測定結果を抽出する識別信号抽出部とを有する質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の分離カラムから溶出される成分を同時且つ連続的に質量分析計に導入した状態で、質量分析計で得られる複数の分離カラムに由来する信号が混在する測定結果の中から、特定の分離カラムに由来する信号のみを任意に抽出する手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年分離分析手法と質量分析手法を組み合わせる手法が様々な分野で利用されるようになってきている。分析効率の効率化には、この分析を並列的に行うことが有効であるが、高価な質量分析計を多数用意することは困難性が高い。そのため一台の質量分析計と複数の分離分析装置を組み合わせる手法の開発が望まれている。従来法としては、一つの質量分析計に複数の分離カラムから溶出する試料成分を並列的に導入するため、流路切り替えバルブを用いて時間毎に質量分析計への導入に用いる分離カラムを切り替える方法が存在する。(非特許文献1)。
【0003】
上記従来法では、流路切り替えバルブにより質量分析計に導入される試料溶液の系統が、順次変更される。すなわち、ある瞬間に着目すると一系統の試料のみが質量分析計に導入されており、複数系統の同時分析が行われているわけではない。この方法では、質量分析計に導入される系統以外の試料溶液の取扱については、試料溶液の流れを止めずに廃棄する方法と溶液流れを止める方法との二つに大別できる。
【0004】
n系統があって分析系統の切り替えが行われる場合、個別の系統で実際に測定されているのは全分析時間の1/nになる。試料溶液を止めずに廃棄する方法においては、1系統以外の他の系統では、測定されていない間の試料溶液は廃棄されて失われるので、分析効率が低下する。一方、溶液流れが停止する方法では、質量分析が行われていない時は分離過程も停止するので、並列導入を行っても、測定時間は個々の分析を順次複数回行うことになり、測定時間の短縮にはならず、分析の高効率化が達成できない。このように、流路切り替えバルブを用いた手法は、擬似的な並列導入法であり、真の並列型分離分析-質量分析が行われているわけではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Evaluation of a Four-Channel Multiplexed Electrospray Triple Quadrupole Mass Spectrometer for the Simultaneous Validation of LC/MS/MS Methods in Four Different Preclinical Matrixes”, Liyu Yang, Thierry D. Mann, David Little, Ning Wu, Robert P. Clement, and Patrick J. Rudewicz, Anal. Chem., 2001, 73 (8), pp 1740-1747 (DOI: 10.1021/ac0012694).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記問題点に鑑みて、各分離カラムから溶出される試料溶液を並列的かつ連続的に質量分析装置に導入して測定を行い、混在信号として得られる質量分析のデータから特定の分離カラムに由来するデータを抽出する機能を有する質量分析計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複数の分離カラムから並列的に溶出される試料溶液について、分離カラムを特定した同時並列的な質量分析を行うために、各分離カラムに対して質量分析計への試料導入量を周期的に変動させることを行い、その変動の頻度(周波数)を変えることを創案した。すなわち、以下の質量分析装置が提供される。
【0008】
[1]複数の分析試料をイオン化して質量分析に並列的且つ連続的に前記複数の分析試料を導入することが可能な複数のイオン化部と、前記複数の分析試料に、特定の前記イオン化部ごとに由来する信号を抽出するための異なった周波数である識別信号を付与する機能を有する識別信号付与部と、イオン化された前記複数の分析試料が並列的かつ連続的に導入され、混在した前記複数の分析試料の質量分析を行う前記質量分析部と、前記識別信号の混在信号として観測された前記質量分析部の質量分析測定結果から、前記識別信号ごとの前記質量分析測定結果を抽出する識別信号抽出部とを有する質量分析装置。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態におけるエレクトロプレーイオン化用のスプレーニードルの先端部に識別信号を付与するための回転する遮断板を有する構造を示す概略図である。
図2】本発明の第1実施形態の図1に示した装置を用いて得られた、異なった周波数で遮蔽された二系統の信号が混在する質量分析装置により得られる信号強度の時間変化を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態の図2のデータをフーリエ変換して得られた結果を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態の図3のデータのうち、周波数0.07 Hz以下の成分のみを逆フーリエ変換して得られた結果を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態の図3のデータのうち、周波数0.07-0.20 Hzの成分のみを逆フーリエ変換して得られた結果を示す図である。
図6】本発明の第1実施形態の図3のデータのうち、周波数0.38-0.47 Hzの成分のみを逆フーリエ変換して得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
(第1実施形態)
本発明の質量分析装置は、分析試料をイオン化して質量分析計に並列的且つ連続的に分析試料を導入することが可能な複数のイオン化部と、混在信号として観測される質量分析測定結果から特定のイオン化部に由来する信号を情報処理により抽出するための識別信号を付与する機能を有する識別信号付与部と、イオン化された分析試料が並列的かつ連続的に導入される分析試料の質量分析を行う質量分析部と、混在信号として観測される質量分析測定結果から前記付与された識別信号を利用して特定のイオン化源に由来する信号を抽出する識別信号抽出部とを有する。分析試料をイオン化するエレクトロプレーイオン化用のスプレーニードルの先端部に、イオン化された試料成分の質量分析計への導入を周期的に阻止するための、モーターにて回転する遮断板を有する装置を図1に示した。図1に示す装置を用いることにより、通常のエレクトロプレーイオン化法では連続的に質量分析計へ供給されている試料に対して、周期的に遮断を行うことができる。この遮断の周波数を混在信号からの信号抽出を行うための識別信号として利用することができる。なお、遮断の周波数はモーターの回転数、遮蔽板の開口数により任意に設定することが可能である。
【0012】
図1に示す、周期的遮蔽部(識別信号付与部)を備えたエレクトロプレーイオン部を二つもちいて、一つの質量分析計へ並列的且つ連続的に試料導入が可能である装置を作製した。なお、各エレクトロプレーイオン化部からの質量分析計への試料導入は異なった周期で遮断することが可能である。図2に、図1に示す周期的遮蔽部を備えたエレクトロプレーイオン化部を用いて得られた、異なる周波数で遮蔽された二系統の信号が混在した、質量分析により得られる信号強度の時間変化を示した。一つの信号は0.133 Hzで遮断することにより、他方の信号は0.417 Hzで遮断することにより、信号処理のための識別信号が付与される。図3に、図2に示した混在信号をフーリエ変換処理した結果を示す。0.07 Hz以下の低周波数成分に加えて、識別信号である0.133 Hz、および0.417 Hzに由来する信号が含まれていることが確認できる。次に、図3に示したフーリエ変換結果から、それぞれ0-0.07 Hz、0.07-0.20 Hz、0.38-0.47 Hzの信号のみを抽出し逆フーリエ変換を行った結果を図4図5、および図6に示す。なお、図5図6については、逆フーリエ変換の結果は負の値も取るため、絶対値をとることにより全て正の値となるよう処理を行っている。
【0013】
図4より、低周波成分のみを逆フーリエ変換することにより、識別のための遮蔽信号が除去された結果が得られることがわかる。ただし、図4では二つの系統の信号が混在した結果が得られている。一方、図5では、図2に示した信号の内、0.133 Hzに相当する成分が抽出されていることがわかる。また、図6では、0.417 Hzに相当する成分が抽出されている。すなわち、混在信号から、周期的遮断により付与された識別信号を元に、特定の識別信号に関連する信号のみを抽出することができた。原理的には識別信号となる周波数の倍数が、他の識別信号の周波数と重複しないように適切に設定することにより、2個以上のカラムから溶出される試料の同時並列的分析を行うことができる。
【0014】
(他の実施形態)
上述した実施形態においては、フーリエ変換および逆フーリエ変換により信号抽出を行っているが、これは他の周波数解析手法(例えば、ウェーブレット変換など)で代用することもできる。また、識別信号を付与するために回転遮蔽板を用いているが、これ以外の方法、例えば、イオン化部近傍に電極を配し、この電極に対して電圧を印可し質量分析計へ向かうイオンの流れを阻止する方法で代用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、質量分析計に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6