特許第6362257号(P6362257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6362257光電変換素子、光電変換素子の製造方法、積層型固体撮像素子および太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362257
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】光電変換素子、光電変換素子の製造方法、積層型固体撮像素子および太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20180712BHJP
   H01L 31/072 20120101ALI20180712BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
   H01L31/06 400
   H01L27/146 E
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-109207(P2014-109207)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-233027(P2015-233027A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-124834(P2013-124834)
(32)【優先日】2013年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-101687(P2014-101687)
(32)【優先日】2014年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健司
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和典
(72)【発明者】
【氏名】久保田 節
【審査官】 佐藤 久則
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−044689(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065621(WO,A1)
【文献】 特開昭55−149576(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125259(WO,A1)
【文献】 特開2010−034027(JP,A)
【文献】 特開平09−008340(JP,A)
【文献】 特開昭57−095678(JP,A)
【文献】 特開昭57−095679(JP,A)
【文献】 特開昭61−226975(JP,A)
【文献】 特開昭55−080369(JP,A)
【文献】 特開2014−017440(JP,A)
【文献】 特開2010−183095(JP,A)
【文献】 特表2012−531057(JP,A)
【文献】 特開2012−009707(JP,A)
【文献】 米国特許第06018124(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/339
27/14
27/144−27/148
29/762
31/00−31/02
31/0216−31/0236
31/0248−31/0264
31/0352−31/036
31/0392−31/08
31/10
31/107−31/108
31/111
31/18
51/42−51/48
H02S10/00−10/40
30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウムからなる半絶縁性金属酸化物膜と、
前記半絶縁性金属酸化物膜の一方の面に接して配置された接合膜と、
前記接合膜の前記半絶縁性金属酸化物膜と反対側の面に接して配置された光電変換層である結晶セレン膜とを有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
透明基板上に、透明導電膜と、前記半絶縁性金属酸化物膜と、前記接合膜と、前記結晶セレン膜と、電極とがこの順に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
基板上に、電極と、前記半絶縁性金属酸化物膜と、前記接合膜と、前記結晶セレン膜と、透明導電膜とがこの順に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記結晶セレン膜の膜厚が100nm〜500nmであることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記半絶縁性金属酸化物膜の膜厚が2nm〜100nmであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記接合膜が、テルル、ビスマス、アンチモンからなる群から選択される一種からなるものであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
酸化ガリウムからなる半絶縁性金属酸化物膜を形成する工程と、
前記半絶縁性金属酸化物膜上に接合膜を形成する工程と、
前記接合膜上に結晶セレン膜を形成する工程とを有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記接合膜上に結晶セレン膜を形成する工程において、前記接合膜上にアモルファスセレン膜を形成して100℃〜220℃の温度で30秒〜5分間熱処理を行うことにより、前記アモルファスセレン膜を結晶セレン膜とすることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の光電変換素子を備えることを特徴とする積層型固体撮像素子。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子およびその製造方法、光電変換素子を備える積層型固体撮像素子および太陽電池に関し、特に、結晶セレン膜を光電変換部に用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶セレン膜を光電変換部に用いた光電変換素子は、積層型固体撮像素子や太陽電池などに広く利用されてきた。結晶セレン膜を光電変換部に用いた光電変換素子は、材料が安価であり、高い光吸収係数と視感度に近い分光感度特性とを有する。
結晶セレン膜を光電変換部に用いた光電変換素子としては、結晶セレン膜と導電性金属酸化物であるITO膜とのショットキー接合を用いたものや、結晶セレン膜と半絶縁性金属酸化物である酸化チタン膜とのPN接合を用いたものが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1参照)。これらの光電変換素子では高い量子効率が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−67279号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceedings of the 5th Sensor Symposium,pp.257-260(1985)
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics,Vol23,No.8,pp.L587-L589(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、結晶セレン膜と酸化チタンとのPN接合を用いた光電変換素子は、酸化チタンの成膜時の基板加熱温度が200〜300℃と高温であるという問題がある。
また、従来の光電変換素子では、逆バイアス電圧印加時に暗電流の増大が見られることが問題となっていた。具体的には、暗電流増大の要因として、結晶セレン膜とITO膜とのショットキー接合を用いた光電変換素子では、ショットキー障壁が低いことが挙げられる。また、結晶セレン膜と酸化チタン膜とのPN接合を用いた光電変換素子では、エネルギー障壁が低いことが挙げられる。上記のショットキー障壁やエネルギー障壁が低いと、逆バイアス電圧印加時に外部から注入される電荷を十分に抑制できないため、暗電流が増大すると考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、結晶セレン膜を光電変換部に用いた光電変換素子であって、逆バイアス電圧印加時の暗電流を大幅に低減できる光電変換素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、半絶縁性金属酸化物膜と結晶セレン膜とのPN接合のエネルギー障壁に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、酸化亜鉛、酸化ガリウム、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウムからなる群から選択される一種または二種以上からなる半絶縁性金属酸化物膜と、光電変換層である結晶セレン膜とを、接合膜を介して積層した積層構造を有する光電変換素子とすればよいことを見出し、本発明を想到した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に関わるものである。
(1)酸化亜鉛、酸化ガリウム、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウムからなる群から選択される一種または二種以上からなる半絶縁性金属酸化物膜と、前記半絶縁性金属酸化物膜の一方の面に接して配置された接合膜と、前記接合膜の前記半絶縁性金属酸化物膜と反対側の面に接して配置された光電変換層である結晶セレン膜とを有することを特徴とする光電変換素子。
【0009】
(2)透明基板上に、透明導電膜と、前記半絶縁性金属酸化物膜と、前記接合膜と、前記結晶セレン膜と、電極とがこの順に積層されていることを特徴とする(1)に記載の光電変換素子。
(3)基板上に、電極と、前記半絶縁性金属酸化物膜と、前記接合膜と、前記結晶セレン膜と、透明導電膜とがこの順に積層されていることを特徴とする(1)に記載の光電変換素子。
(4)前記結晶セレン膜の膜厚が100nm〜500nmであることを特徴とする(3)に記載の光電変換素子。
(5)前記半絶縁性金属酸化物膜の膜厚が2nm〜100nmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【0010】
(6)前記半絶縁性金属酸化物膜が酸化亜鉛または酸化ガリウムからなることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の光電変換素子。
(7)前記半絶縁性金属酸化物膜がC軸配向している酸化亜鉛膜であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の光電変換素子。
(8)前記接合膜が、テルル、ビスマス、アンチモンからなる群から選択される一種からなるものであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【0011】
(9)酸化亜鉛、酸化ガリウム、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウムからなる群から選択される一種または二種以上からなる半絶縁性金属酸化物膜を形成する工程と、前記半絶縁性金属酸化物膜上に接合膜を形成する工程と、前記接合膜上に結晶セレン膜を形成する工程とを有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
(10)前記半絶縁性金属酸化物膜を形成する工程が、スパッタリング法により、圧力8.0×10−3Pa〜1.0×10−1Paの酸素雰囲気中で酸化亜鉛膜を形成する工程であることを特徴とする(9)に記載の光電変換素子の製造方法。
【0012】
(11)(1)〜(8)のいずれか一項に記載の光電変換素子を備えることを特徴とする積層型固体撮像素子。
(12)(1)〜(8)のいずれか一項に記載の光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光電変換素子は、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウム、硫化亜鉛、酸化インジウム、酸化ガリウムからなる群から選択される一種または二種以上からなる半絶縁性金属酸化物膜と、前記半絶縁性金属酸化物膜の一方の面に接して配置された接合膜と、前記接合膜の前記半絶縁性金属酸化物膜と反対側の面に接して配置された光電変換層である結晶セレン膜とを有するものであり、半絶縁性金属酸化物膜と結晶セレン膜とのPN接合を用いるものである。本発明の光電変換素子における半絶縁性金属酸化物膜と結晶セレン膜とのPN接合は、PN接合のエネルギー障壁が十分に高いものであるため、逆バイアス電圧の印加時に外部から注入される電荷を阻止できる。したがって、本発明の光電変換素子によれば、従来の結晶セレンを光電変換部に用いた光電変換素子と比較して、逆バイアス電圧印加時の暗電流を低減できる。また、本発明の光電変換素子は、暗電流を低減できるため、外部電圧を印加して分光感度特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の光電変換素子の一例を説明するための断面模式図である。
図2図2は、本発明の光電変換素子の他の例を説明するための断面模式図である。
図3図3は、実施例1〜3および比較例1の光電変換素子の電圧−暗電流特性を示したグラフである。
図4】実施例1、4〜6の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。
図5図5は、比較例1(外部電圧0V)、実施例1(外部電圧0V)、実施例6(外部電圧0V、外部電圧5V)の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。
図6図6(a)は、実施例1の光電変換素子を用いた場合の撮像画像であり、図6(b)は、比較例1の光電変換素子を用いた場合の撮像画像である。
図7図7は、実施例7〜9の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。
図8図8は、実験6で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回析測定の結果を示したグラフである。
図9図9は、実験7で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回析測定の結果を示したグラフである。
図10図10(a)は、本発明の太陽電池の一例を説明するための模式図であり、図10(b)は、本発明の積層型固体撮像素子の一例を説明するための模式図である。
図11】実施例10、比較例1、比較例2の光電変換素子に逆バイアス電圧を印加した時の電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図12】実施例10と実施例11の光電変換素子の電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の光電変換素子の一例を説明するための断面模式図である。図1に示す光電変換素子100は、透明基板1上に、透明導電膜2(電極)と、半絶縁性金属酸化物膜3と、接合膜4と、結晶セレン膜5と、電極6とがこの順に積層されているものである。図1に示す光電変換素子100は、透明基板1側から光入射を行うものであり、太陽電池などに好適に用いることができる。
【0016】
透明基板1としては、例えば、ガラス基板などを用いることができる。
透明導電膜2としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛スズ)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)などからなるものを用いることができる。
【0017】
半絶縁性金属酸化物膜3は、n型半導体として機能するものである。半絶縁性金属酸化物膜3としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga)、硫化亜鉛(ZnS、ZnOS)、酸化セリウム(CeO)、酸化イットリウム(Y)、酸化インジウム(In)からなる群から選択される一種または二種以上のものを用いる。これらの半絶縁性金属酸化物膜3の中でも、特に、非加熱で成膜でき、光電変換素子100の逆バイアス電圧印加時の暗電流を大幅に低減できる酸化亜鉛膜または酸化ガリウム膜を用いることが好ましい。
【0018】
半絶縁性金属酸化物膜3は、C軸配向している酸化亜鉛膜であることが好ましい。C軸配向している酸化亜鉛膜は、結晶欠陥が少なく、結晶性が良好である。このため、半絶縁性金属酸化物膜3が、C軸配向している酸化亜鉛膜である場合、光電変換素子100の逆バイアス電圧印加時の暗電流をより効果的に低減できる。
また、半絶縁性金属酸化物膜3は、多結晶のC軸配向していない酸化亜鉛膜であってもよい。多結晶のC軸配向していない酸化亜鉛膜は、C軸配向している酸化亜鉛膜と比較して、キャリア濃度が高く、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との界面における結晶セレン膜5側に、空乏層が広がりやすいため、光電変換可能な波長範囲を容易に広くできる。
半絶縁性金属酸化物膜3が酸化ガリウム膜である場合、酸化ガリウム膜は結晶構造を有するものであってもよいし、アモルファス(非結晶)であってもよい。
【0019】
半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚は2nm以上であることが好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が2nm以上である場合、逆バイアス電圧印加時に外部から注入される電荷をより効果的に阻止できる。
また、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5とのPN接合では、空乏層は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との界面における半絶縁性金属酸化物膜3側に優先的に形成される。これは、半絶縁性金属酸化物膜3が、結晶セレン膜5と比較してキャリア濃度が低いためである。
【0020】
したがって、図1に示す光電変換素子100において、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が厚いと、外部電圧を印加していない状態では、界面の半絶縁性金属酸化物膜3側に空乏層が優先的に広がった状態となる。半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚を薄くして、半絶縁性金属酸化物膜3側に空乏層が十分に広がることができない状態にすると、界面の結晶セレン膜5側の空乏層が拡大する。結晶セレン膜5側の空乏層が拡大すると、光電変換素子100の感度が高くなるとともに、可視光領域での光電変換可能な波長範囲が広くなる。よって、低電圧で可視光領域での光電変換素子100の感度を高くするためには、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚は、薄いほど好ましい。
【0021】
具体的には、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがより好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が100nm以下である場合、外部電圧を15V程度印加すれば、可視光領域に十分な感度を有する光電変換素子100が得られる。また、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が50nm以下である場合、外部電圧を10V程度印加すれば、可視光領域に十分な感度を有する光電変換素子100が得られる。さらに、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が20nm以下である場合、外部電圧を印加しなくても、光電変換可能な波長範囲が可視光全域となり、高感度の光電変換素子100が得られる。光電変換素子100を外部電圧10V以下で動作させる場合、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が2nm以上であると、暗電流抑制効果が得られる。
膜厚が1nmの半絶縁性金属酸化物膜を形成しようとすると、透明導電膜2と結晶セレン膜5との間に、半絶縁性金属酸化物の存在しない領域が形成されてしまう。このため、膜厚が1nmの連続した半絶縁性金属酸化物膜3を形成することは困難である。透明導電膜2と結晶セレン膜5との間に、半絶縁性金属酸化物の存在していない領域があると、透明導電膜2と結晶セレン膜5とが直接接触してしまう。このため、逆バイアス電圧印加時の暗電流が大きいものとなる。したがって、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚は、透明導電膜2と結晶セレン膜5との間の全域に連続して形成された半絶縁性金属酸化物膜3を得るため、2nm以上であることが好ましい。
【0022】
接合膜4は、図1に示すように、半絶縁性金属酸化物膜3の一方の面(図1においては上面)に接して配置されている。接合膜4は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を向上させる機能を有するものである。
接合膜4は、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)からなる群から選択される一種からなるものであることが好ましい。接合膜4としては、上記の中でもテルル膜を用いることが好ましい。
【0023】
接合膜4は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の全域に連続して形成されたものであってもよいし、接合膜4の厚みを薄くすることによって半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の一部に形成されていない領域が存在しているものであってもよい。例えば、接合膜4が平面視で島状に形成されている場合など、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の一部に接合膜4の形成されていない領域が存在していても、接合膜4によって半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との密着性を向上させることができる。
接合膜4の膜厚は0.1〜3nmであることが好ましい。接合膜4の膜厚が、0.1nm以上であると、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を効果的に高くでき、好ましい。また、接合膜4の膜厚が、3nm以下であると、接合膜4が結晶セレン中の結晶欠陥となり、暗電流増加の要因となることを防止できる。
【0024】
接合膜4の半絶縁性金属酸化物膜3と反対側の面(図1においては下面)には、接合膜4に接して光電変換層である結晶セレン膜5が配置されている。結晶セレン膜5の膜厚は100nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがより好ましい。結晶セレン膜5の膜厚が100nm以上である場合、光電変換層として良好に機能するものとなる。結晶セレン膜5の膜厚は、10μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。結晶セレン膜5の膜厚が10μm以下である場合、効率よく形成できるものとなり、好ましい。
【0025】
次に、図1に示す光電変換素子100の製造方法を説明する。
図1に示す光電変換素子100を製造するには、まず、透明基板1の一方の面(図1においては上面)に、例えばスパッタリング法などにより透明導電膜2を形成する。
次いで、透明導電膜2上に、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法などにより、半絶縁性金属酸化物膜3を形成する。なお、半絶縁性金属酸化物膜3として、酸化亜鉛膜を形成する場合、スパッタ法などを用いて非加熱で半絶縁性金属酸化物膜3を成膜でき、好ましい。
【0026】
半絶縁性金属酸化物膜3は、酸素雰囲気中で形成することが好ましい。また、半絶縁性金属酸化物膜3を酸素雰囲気中で形成する場合、形成する際の酸素の圧力は8.0×10−3Pa〜1.0×10−1Paであることが好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3を圧力8.0×10−3Pa〜1.0×10−1Paの酸素雰囲気中で形成することで、半絶縁性金属酸化物膜3の結晶欠陥を低減することができ、逆バイアス電圧印加時の暗電流をより一層低減できる。また、半絶縁性金属酸化物膜3として酸化亜鉛膜を形成する場合、上記の圧力範囲の酸素雰囲気中で形成することで、C軸配向している酸化亜鉛膜が得られる。
【0027】
次に、半絶縁性金属酸化物膜3上に、真空蒸着法やスパッタリング法などにより、接合膜4を形成する。
続いて、接合膜4上に、真空蒸着法などにより、アモルファスセレン膜を形成する。その後、アモルファスセレン膜までの各層の形成された透明基板1に、100℃〜220℃の温度で30秒〜5分間熱処理を行う。このことにより、アモルファスセレン膜を結晶セレン膜5とする。接合膜4は、上記熱処理の際に半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を向上させる機能を有する。
その後、結晶セレン膜5の上に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、ITOなどからなる電極6を形成する。以上の工程を行うことにより、図1に示す光電変換素子100が得られる。
【0028】
図1に示す光電変換素子100は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5とのPN接合を用いるものであり、PN接合のエネルギー障壁が十分に高いものである。このため、図1に示す光電変換素子100では、逆バイアス電圧の印加時に外部から注入される電荷を阻止することができ、暗電流を低減できる。
さらに、図1に示す光電変換素子100は、暗電流を低減できるため、外部電圧を印加して分光感度特性を改善することができる。なお、従来の光電変換素子では、外部電圧を印加すると暗電流が急増するため、外部電圧を印加して分光感度特性を改善することは難しかった。
【0029】
また、半絶縁性金属酸化物膜3として好適である酸化亜鉛膜および酸化ガリウム膜は、非加熱で成膜できる。このため、図1に示す光電変換素子100において、半絶縁性金属酸化物膜3として、酸化亜鉛膜または酸化ガリウム膜を用いた場合、例えば、高温で成膜する酸化チタンを含む光電変換素子と比較して、低温で形成可能である。したがって、低コストで光電変換素子100を生産できる。
【0030】
(第2実施形態)
図2は、本発明の光電変換素子の他の例を説明するための断面模式図である。図2に示す光電変換素子200は、基板7上に、電極8と、半絶縁性金属酸化物膜9と、接合膜10と、結晶セレン膜11と、透明導電膜12(電極)とがこの順に積層されているものである。図2に示す光電変換素子100は、透明導電膜12側から光入射を行うものであり、積層型固体撮像素子などに好適に用いることができる。
【0031】
図2に示す光電変換素子200において、電極8、半絶縁性金属酸化物膜9、接合膜10、透明導電膜12は、それぞれ図1に示す光電変換素子100の電極6、半絶縁性金属酸化物膜3、接合膜4、透明導電膜2(電極)と同じものであるので、説明を省略する。
【0032】
図2に示す光電変換素子200は、透明導電膜12側から光入射を行うものであるため、基板7として、透光性を有しない材料からなるものを用いてもよい。具体的には、基板7として、例えば、シリコン基板などを用いることができる。
【0033】
図2に示す光電変換素子200は、透明導電膜12側から光入射を行うものである。このため、半絶縁性金属酸化物膜9と結晶セレン膜11との界面に形成されている空乏層には、透明導電膜12側から結晶セレン膜11に入射した光が到達する。したがって、結晶セレン膜11の膜厚が薄いほど、空乏層で吸収される光が増加し、感度の高い光電変換素子200となる。
【0034】
具体的には、結晶セレン膜11の膜厚は、100nm以上であることが好ましい。結晶セレン膜11の膜厚が100nm以上である場合、光電変換層として良好に機能するものとなる。また、結晶セレン膜11の膜厚は1μm以下であることが好ましく、より好ましくは500nm以下である。結晶セレン膜11の膜厚が500nm以下であると、半絶縁性金属酸化物膜9と結晶セレン膜11との界面に形成されている空乏層に、透明導電膜12側から結晶セレン膜11に入射した光が到達しやすくなる。したがって、感度の高い光電変換素子200となる。
【0035】
次に、図2に示す光電変換素子200の製造方法を説明する。
図2に示す光電変換素子200を製造するには、まず、基板7の一方の面(図2においては上面)に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、電極8を形成する。
次いで、電極8上に、図1に示す光電変換素子100の半絶縁性金属酸化物膜3、接合膜4、結晶セレン膜5と同様にして、半絶縁性金属酸化物膜9、接合膜10、結晶セレン膜11を形成する。
次いで、結晶セレン11の上に、例えばスパッタリング法などにより透明導電膜12を形成する。以上の工程を行うことにより、図2に示す光電変換素子200が得られる。
【0036】
図2に示す光電変換素子200は、図1に示す光電変換素子100と同様に、半絶縁性金属酸化物膜9と結晶セレン膜11とのPN接合を用いるものであり、PN接合のエネルギー障壁が十分に高いものである。このため、図2に示す光電変換素子200においても、逆バイアス電圧の印加時に外部から注入される電荷を阻止することができ、暗電流を低減できる。
【0037】
「太陽電池」
図10(a)は、本発明の太陽電池の一例を説明するための模式図である。図10(a)に示す太陽電池30は、図1に示す光電変換素子100を備えている。このため、図10(a)に示す太陽電池30は、エネルギー変換効率の高いものとなる。
【0038】
「積層型固体撮像素子」
図10(b)は、本発明の積層型固体撮像素子の一例を説明するための模式図である。図10(b)に示す積層型固体撮像素子40は、シリコン基板表面に形成された回路を有する信号読み出し回路部41と、信号読み出し回路部41上に積層された光電変換部42とを有するものである。図10(b)に示す積層型固体撮像素子40の光電変換部42は、図2に示す光電変換素子200を備えている。このため、図10(b)に示す積層型固体撮像素子40は、高感度のものとなる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0040】
「実験1」
<実施例1>
以下に示す方法により、図1に示す光電変換素子100を製造した。
まず、ガラス基板からなる透明基板1の一方の面(図1においては上面)に、スパッタリング法によりITOからなる透明導電膜2を形成した。
【0041】
次いで、透明導電膜2上に、スパッタリング法により室温(25℃)で酸化亜鉛(ZnO)からなる膜厚20nmの半絶縁性金属酸化物膜3を形成した。酸化亜鉛(ZnO)は、1.5×10−2Paの酸素雰囲気中、RF(高周波)パワー200Wの条件で成膜した。
次に、半絶縁性金属酸化物膜3上に、真空蒸着法により、テルルからなる膜厚1nmの接合膜4を形成した。
【0042】
続いて、接合膜4上に、真空蒸着法により、膜厚1μmのアモルファスセレン膜を形成した。その後、アモルファスセレン膜までの各層の形成された透明基板1を、210℃の温度で1分間熱処理して、アモルファスセレン膜を結晶セレン膜5とした。
その後、結晶セレン膜5の上に、DCスパッタリング法により、ITOからなる電極6を形成した。以上の工程を行うことにより、実施例1の光電変換素子100を得た。
【0043】
<実施例2>
酸化亜鉛(ZnO)を成膜する雰囲気中に酸素を供給せず、酸化亜鉛(ZnO)を真空中で成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光電変換素子を得た。
<実施例3>
半絶縁性金属酸化物膜3として、RFスパッタリング法により室温(25℃)で酸素を1.5×10−2Paの圧力で含むアルゴン雰囲気中で膜厚20nmの酸化ガリウム(Ga)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の光電変換素子を得た。
【0044】
<比較例1>
半絶縁性金属酸化物膜3を形成せず、透明導電膜上に結晶セレン膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の光電変換素子を得た。
【0045】
このようにして得られた実施例1〜3および比較例1の光電変換素子について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性(電流密度)を調べた。その結果を図3に示す。
図3に示すように、実施例1〜3の光電変換素子は、ITO膜と結晶セレン膜とのショットキー接合を用いた比較例1の光電変換素子と比較して、暗電流が低いものであった。
具体的には、比較例1の光電変換素子では、5Vの電圧を印加した時に電流密度が10−7A/cmに達しており、約3桁暗電流が増大している。
これに対して、実施例1の光電変換素子では、15Vの電圧を印加した時でも電流密度は10−9A/cm程度であり、比較例1と比較して、暗電流が大幅に小さくなっている。
【0046】
また、図3に示すように、酸素雰囲気中で酸化亜鉛(ZnO)を形成した実施例1では、酸素を用いず、真空中で酸化亜鉛(ZnO)を形成した実施例2と比較して、暗電流が低くなった。
また、図3に示すように、酸化ガリウム(Ga)からなる半絶縁性金属酸化物膜3を有する実施例3では、酸化亜鉛(ZnO)からなる半絶縁性金属酸化物膜3を有する実施例1および実施例2よりも、暗電流が低くなった。
【0047】
「実験2」
<実施例4>
酸化亜鉛(ZnO)の膜厚を100nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の光電変換素子を得た。
<実施例5>
酸化亜鉛(ZnO)の膜厚を50nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の光電変換素子を得た。
【0048】
<実施例6>
酸化亜鉛(ZnO)の膜厚を10nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の光電変換素子を得た。
【0049】
このようにして得られた実施例1、4〜6の光電変換素子について、透明基板1側から照射光強度50μW/cmで照射し、外部電圧を印加せずに量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を図4に示す。
図4は、実施例1、4〜6の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。図4に示すように、酸化亜鉛(ZnO)の膜厚が薄いものほど、量子効率が高くなっている。このことから、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が薄いほど、界面の結晶セレン膜側に空乏層が広がりやすく、分光感度特性が良好になると推定できる。
【0050】
「実験3」
比較例1および実施例1の光電変換素子について、透明基板側から照射光強度50μW/cmで照射し、外部電圧を印加せずに量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を図5に示す。
また、実施例6の光電変換素子について、透明基板1側から照射光強度50μW/cmで照射し、5Vの外部電圧を印加して量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を、外部電圧を印加しない場合とともに、図5に示す。
【0051】
図5は、比較例1(外部電圧0V)、実施例1(外部電圧0V)、実施例6(外部電圧0V、外部電圧5V)の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。図5に示すように、実施例6(外部電圧0V)および実施例1(外部電圧0V)の光電変換素子は、比較例1(外部電圧0V)と比較して、量子効率が高くなっている。さらに、実施例6(外部電圧5V)の光電変換素子では、実施例6(外部電圧0V)の光電変換素子よりも、量子効率が高くなっている。
【0052】
「実験4」
実施例1の光電変換素子を用いて、撮像管実験による撮像画像を得た。撮像管実験は、8Vの外部電圧を印加し、白色光を照射し、絞り値F8で、ND(減光)フィルターを使用して行った。なお、撮像管実験では、ビーム走査面の比抵抗が高くなければ解像しない。このため、8Vの外部電圧を印加して、ビーム読み出し側である結晶セレン表面まで空乏層を拡大させて撮像した。その結果を図6(a)に示す。
【0053】
また、比較例1の光電変換素子を用い、実施例1の光電変換素子を用いた場合と同様にして、撮像管実験による撮像画像を得た。その結果を図6(b)に示す。
図6(a)は、実施例1の光電変換素子を用いた場合の撮像画像であり、図6(b)は、比較例1の光電変換素子を用いた場合の撮像画像である。
【0054】
図6(a)に示すように、実施例1の光電変換素子を用いた場合、8Vの外部電圧を印加することで、結晶セレン膜全体に空乏層が拡大し、解像した撮像画像が得られた。
これに対し、図6(b)に示すように、比較例1の光電変換素子を用いた場合、8Vの外部電圧を印加することで、暗電流が急増したため、解像した撮像画像が得られなかった。
【0055】
「実験5」
<実施例7>
以下に示す方法により、図2に示す光電変換素子200を製造した。
まず、シリコン基板からなる基板7の一方の面(図2においては上面)に、DCスパッタリング法により、ITOからなる電極8を形成した。
次いで、電極8上に、実施例1と同様にして、半絶縁性金属酸化物膜9、接合膜10、結晶セレン膜11を形成した。
その後、結晶セレン膜11の上に、スパッタリング法によりITOからなる透明導電膜12を形成した。以上の工程を行うことにより、実施例7の光電変換素子200を得た。
【0056】
<実施例8>
結晶セレン膜の膜厚を400nmとしたこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8の光電変換素子を得た。
<実施例9>
結晶セレン膜の膜厚を200nmとしたこと以外は、実施例7と同様にして、実施例9の光電変換素子を得た。
【0057】
このようにして得られた実施例7〜9の光電変換素子について、透明導電膜12側から照射光強度50μW/cmで照射し、外部電圧を印加せずに量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を図7に示す。
図7は、実施例7〜9の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。図7に示すように、結晶セレン膜の膜厚が薄いものほど、量子効率が高くなっている。
これは、結晶セレン膜の膜厚が薄いほど、絶縁性金属酸化物膜9と結晶セレン膜11との界面に形成されている空乏層に、透明導電膜12を介して結晶セレン膜11に入射した光が到達しやすくなり、空乏層で吸収される光が増加するためと推定される。
【0058】
「実験6」
ガラス基板からなる基板上に、スパッタリング法により、真空中、室温(25℃)、RFパワー200Wの条件で膜厚20nmの酸化亜鉛(ZnO)膜を形成した。得られた酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回折測定を行った。その結果を図8に示す。
図8に示すように、実験6で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回析測定の結果、六方晶ZnOに由来するZnO(002)の結晶性ピークに加え、ZnO(101)、(102)、(103)に由来する複数のピークが検出された。このことから、実験6で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜は、配向性の無い多結晶であると考えられる。
【0059】
「実験7」
圧力1.5×10−2Paの酸素雰囲気中で成膜したこと以外は、実験6と同様にして、酸化亜鉛(ZnO)膜を形成した。得られた酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回折測定を行った。その結果を図9に示す。
図9に示すように、実験7で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回析測定の結果、六方晶ZnOに由来するZnO(002)、(004)の結晶性ピークが強く検出された。このことから、実験7で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜は、C軸配向している多結晶であると考えられる。
【0060】
「実験8」
<実施例10>
酸化ガリウム(Ga)の膜厚を2nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例10の光電変換素子を得た。
<比較例2>
酸化ガリウム(Ga)の膜厚を1nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、比較例2の光電変換素子を得た。
【0061】
このようにして得られた実施例10および比較例2の光電変換素子について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性(電流密度)を調べた。その結果を図11に示す。また、図11には、比較例1の光電変換素子について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性(電流密度)も併せて示す。
図11に示すように、実施例10の光電変換素子は、ITO膜と結晶セレン膜とのショットキー接合を用いた比較例1の光電変換素子と比較して、暗電流が低いものであった。
具体的には、実施例10の光電変換素子では、10Vの電圧を印加した時でも電流密度は10−10A/cm以下であり、比較例1と比較して、暗電流が大幅に小さくなっている。
【0062】
また、図11に示すように、酸化ガリウム(Ga)の膜厚を1nmとした比較例2では、暗電流抑制効果が得られなかった。これは、酸化ガリウム(Ga)の膜厚が薄いために、透明導電膜と結晶セレン膜との間に、酸化ガリウム(Ga)の存在していない領域が形成されて、透明導電膜と結晶セレン膜とが直接接触したためであると推定される。
【0063】
「実験9」
<実施例11>
酸化ガリウム(Ga)の膜厚を10nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例11の光電変換素子を得た。
このようにして得られた実施例11の光電変換素子の電圧と電流密度との関係を調べた。その結果を図12に示す。また、図12には、実施例10の光電変換素子の電圧と電流密度との関係も併せて示す。
【0064】
図12に示すように、酸化ガリウム(Ga)の膜厚が10nmである実施例11では、5V程度の印加電圧で信号電流が飽和している。また、酸化ガリウム(Ga)の膜厚が2nmである実施例10では、1V以下の印加電圧で信号電流が飽和している。したがって、実施例10の光電変換素子では、実施例11の光電変換素子よりも動作電圧を低電圧にすることができる。
【符号の説明】
【0065】
1…透明基板、2、12…透明導電膜、3、9…半絶縁性金属酸化物膜、4、10…接合膜、5、11…結晶セレン膜、6、8…電極、7…基板、100、200…光電変換素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12