【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0040】
「実験1」
<実施例1>
以下に示す方法により、
図1に示す光電変換素子100を製造した。
まず、ガラス基板からなる透明基板1の一方の面(
図1においては上面)に、スパッタリング法によりITOからなる透明導電膜2を形成した。
【0041】
次いで、透明導電膜2上に、スパッタリング法により室温(25℃)で酸化亜鉛(ZnO)からなる膜厚20nmの半絶縁性金属酸化物膜3を形成した。酸化亜鉛(ZnO)は、1.5×10
−2Paの酸素雰囲気中、RF(高周波)パワー200Wの条件で成膜した。
次に、半絶縁性金属酸化物膜3上に、真空蒸着法により、テルルからなる膜厚1nmの接合膜4を形成した。
【0042】
続いて、接合膜4上に、真空蒸着法により、膜厚1μmのアモルファスセレン膜を形成した。その後、アモルファスセレン膜までの各層の形成された透明基板1を、210℃の温度で1分間熱処理して、アモルファスセレン膜を結晶セレン膜5とした。
その後、結晶セレン膜5の上に、DCスパッタリング法により、ITOからなる電極6を形成した。以上の工程を行うことにより、実施例1の光電変換素子100を得た。
【0043】
<実施例2>
酸化亜鉛(ZnO)を成膜する雰囲気中に酸素を供給せず、酸化亜鉛(ZnO)を真空中で成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光電変換素子を得た。
<実施例3>
半絶縁性金属酸化物膜3として、RFスパッタリング法により室温(25℃)で酸素を1.5×10
−2Paの圧力で含むアルゴン雰囲気中で膜厚20nmの酸化ガリウム(Ga
2O
3)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の光電変換素子を得た。
【0044】
<比較例1>
半絶縁性金属酸化物膜3を形成せず、透明導電膜上に結晶セレン膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の光電変換素子を得た。
【0045】
このようにして得られた実施例1〜3および比較例1の光電変換素子について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性(電流密度)を調べた。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、実施例1〜3の光電変換素子は、ITO膜と結晶セレン膜とのショットキー接合を用いた比較例1の光電変換素子と比較して、暗電流が低いものであった。
具体的には、比較例1の光電変換素子では、5Vの電圧を印加した時に電流密度が10
−7A/cm
2に達しており、約3桁暗電流が増大している。
これに対して、実施例1の光電変換素子では、15Vの電圧を印加した時でも電流密度は10
−9A/cm
2程度であり、比較例1と比較して、暗電流が大幅に小さくなっている。
【0046】
また、
図3に示すように、酸素雰囲気中で酸化亜鉛(ZnO)を形成した実施例1では、酸素を用いず、真空中で酸化亜鉛(ZnO)を形成した実施例2と比較して、暗電流が低くなった。
また、
図3に示すように、酸化ガリウム(Ga
2O
3)からなる半絶縁性金属酸化物膜3を有する実施例3では、酸化亜鉛(ZnO)からなる半絶縁性金属酸化物膜3を有する実施例1および実施例2よりも、暗電流が低くなった。
【0047】
「実験2」
<実施例4>
酸化亜鉛(ZnO)の膜厚を100nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の光電変換素子を得た。
<実施例5>
酸化亜鉛(ZnO)の膜厚を50nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の光電変換素子を得た。
【0048】
<実施例6>
酸化亜鉛(ZnO)の膜厚を10nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の光電変換素子を得た。
【0049】
このようにして得られた実施例1、4〜6の光電変換素子について、透明基板1側から照射光強度50μW/cm
2で照射し、外部電圧を印加せずに量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を
図4に示す。
図4は、実施例1、4〜6の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。
図4に示すように、酸化亜鉛(ZnO)の膜厚が薄いものほど、量子効率が高くなっている。このことから、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が薄いほど、界面の結晶セレン膜側に空乏層が広がりやすく、分光感度特性が良好になると推定できる。
【0050】
「実験3」
比較例1および実施例1の光電変換素子について、透明基板側から照射光強度50μW/cm
2で照射し、外部電圧を印加せずに量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を
図5に示す。
また、実施例6の光電変換素子について、透明基板1側から照射光強度50μW/cm
2で照射し、5Vの外部電圧を印加して量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を、外部電圧を印加しない場合とともに、
図5に示す。
【0051】
図5は、比較例1(外部電圧0V)、実施例1(外部電圧0V)、実施例6(外部電圧0V、外部電圧5V)の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。
図5に示すように、実施例6(外部電圧0V)および実施例1(外部電圧0V)の光電変換素子は、比較例1(外部電圧0V)と比較して、量子効率が高くなっている。さらに、実施例6(外部電圧5V)の光電変換素子では、実施例6(外部電圧0V)の光電変換素子よりも、量子効率が高くなっている。
【0052】
「実験4」
実施例1の光電変換素子を用いて、撮像管実験による撮像画像を得た。撮像管実験は、8Vの外部電圧を印加し、白色光を照射し、絞り値F8で、ND(減光)フィルターを使用して行った。なお、撮像管実験では、ビーム走査面の比抵抗が高くなければ解像しない。このため、8Vの外部電圧を印加して、ビーム読み出し側である結晶セレン表面まで空乏層を拡大させて撮像した。その結果を
図6(a)に示す。
【0053】
また、比較例1の光電変換素子を用い、実施例1の光電変換素子を用いた場合と同様にして、撮像管実験による撮像画像を得た。その結果を
図6(b)に示す。
図6(a)は、実施例1の光電変換素子を用いた場合の撮像画像であり、
図6(b)は、比較例1の光電変換素子を用いた場合の撮像画像である。
【0054】
図6(a)に示すように、実施例1の光電変換素子を用いた場合、8Vの外部電圧を印加することで、結晶セレン膜全体に空乏層が拡大し、解像した撮像画像が得られた。
これに対し、
図6(b)に示すように、比較例1の光電変換素子を用いた場合、8Vの外部電圧を印加することで、暗電流が急増したため、解像した撮像画像が得られなかった。
【0055】
「実験5」
<実施例7>
以下に示す方法により、
図2に示す光電変換素子200を製造した。
まず、シリコン基板からなる基板7の一方の面(
図2においては上面)に、DCスパッタリング法により、ITOからなる電極8を形成した。
次いで、電極8上に、実施例1と同様にして、半絶縁性金属酸化物膜9、接合膜10、結晶セレン膜11を形成した。
その後、結晶セレン膜11の上に、スパッタリング法によりITOからなる透明導電膜12を形成した。以上の工程を行うことにより、実施例7の光電変換素子200を得た。
【0056】
<実施例8>
結晶セレン膜の膜厚を400nmとしたこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8の光電変換素子を得た。
<実施例9>
結晶セレン膜の膜厚を200nmとしたこと以外は、実施例7と同様にして、実施例9の光電変換素子を得た。
【0057】
このようにして得られた実施例7〜9の光電変換素子について、透明導電膜12側から照射光強度50μW/cm
2で照射し、外部電圧を印加せずに量子効率を測定し、量子効率と波長との関係を調べた。その結果を
図7に示す。
図7は、実施例7〜9の光電変換素子の量子効率と波長との関係を示したグラフである。
図7に示すように、結晶セレン膜の膜厚が薄いものほど、量子効率が高くなっている。
これは、結晶セレン膜の膜厚が薄いほど、絶縁性金属酸化物膜9と結晶セレン膜11との界面に形成されている空乏層に、透明導電膜12を介して結晶セレン膜11に入射した光が到達しやすくなり、空乏層で吸収される光が増加するためと推定される。
【0058】
「実験6」
ガラス基板からなる基板上に、スパッタリング法により、真空中、室温(25℃)、RFパワー200Wの条件で膜厚20nmの酸化亜鉛(ZnO)膜を形成した。得られた酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回折測定を行った。その結果を
図8に示す。
図8に示すように、実験6で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回析測定の結果、六方晶ZnOに由来するZnO(002)の結晶性ピークに加え、ZnO(101)、(102)、(103)に由来する複数のピークが検出された。このことから、実験6で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜は、配向性の無い多結晶であると考えられる。
【0059】
「実験7」
圧力1.5×10
−2Paの酸素雰囲気中で成膜したこと以外は、実験6と同様にして、酸化亜鉛(ZnO)膜を形成した。得られた酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回折測定を行った。その結果を
図9に示す。
図9に示すように、実験7で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜のX線回析測定の結果、六方晶ZnOに由来するZnO(002)、(004)の結晶性ピークが強く検出された。このことから、実験7で成膜した酸化亜鉛(ZnO)膜は、C軸配向している多結晶であると考えられる。
【0060】
「実験8」
<実施例10>
酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚を2nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例10の光電変換素子を得た。
<比較例2>
酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚を1nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、比較例2の光電変換素子を得た。
【0061】
このようにして得られた実施例10および比較例2の光電変換素子について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性(電流密度)を調べた。その結果を
図11に示す。また、
図11には、比較例1の光電変換素子について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性(電流密度)も併せて示す。
図11に示すように、実施例10の光電変換素子は、ITO膜と結晶セレン膜とのショットキー接合を用いた比較例1の光電変換素子と比較して、暗電流が低いものであった。
具体的には、実施例10の光電変換素子では、10Vの電圧を印加した時でも電流密度は10
−10A/cm
2以下であり、比較例1と比較して、暗電流が大幅に小さくなっている。
【0062】
また、
図11に示すように、酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚を1nmとした比較例2では、暗電流抑制効果が得られなかった。これは、酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚が薄いために、透明導電膜と結晶セレン膜との間に、酸化ガリウム(Ga
2O
3)の存在していない領域が形成されて、透明導電膜と結晶セレン膜とが直接接触したためであると推定される。
【0063】
「実験9」
<実施例11>
酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚を10nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例11の光電変換素子を得た。
このようにして得られた実施例11の光電変換素子の電圧と電流密度との関係を調べた。その結果を
図12に示す。また、
図12には、実施例10の光電変換素子の電圧と電流密度との関係も併せて示す。
【0064】
図12に示すように、酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚が10nmである実施例11では、5V程度の印加電圧で信号電流が飽和している。また、酸化ガリウム(Ga
2O
3)の膜厚が2nmである実施例10では、1V以下の印加電圧で信号電流が飽和している。したがって、実施例10の光電変換素子では、実施例11の光電変換素子よりも動作電圧を低電圧にすることができる。