(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分子内にN原子を含みかつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスと、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスとを、SiCエピタキシャル成長の反応空間に分離して導入し、
前記N系ガスと前記Cl系ガスとを、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度で混合し、
前記N系ガス又は前記Cl系ガスを前記反応空間に導入する前記N系ガス導入管又は前記Cl系ガス導入管は、外管で覆われた二重管構造を構成し、
前記N系ガス又は前記Cl系ガスは、前記N系ガス導入管又は前記Cl系ガス導入管と前記外管との間から導入されるパージガスと共に、反応空間に導入されることを特徴とするSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
前記反応空間全体の温度を、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることを特徴とする請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
前記N系ガスと前記Cl系ガスとを混合する際の圧力を15kPa以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
前記ガス導入管の導入口と前記載置台の間の温度を、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることができる請求項7に記載のSiCエピタキシャル成長装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、Cl系ガス及びN系ガス(分子内にN原子を含みかつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のガス)をそれぞれ用いることができることについては知られていた。しかしながら、実験室レベルの検討でそれぞれの検討は行われてはいたが、実際の生産現場でそれぞれのガスを用いることは検討されていないのが実状であった。
【0010】
Cl系ガスについては、Si原料の投入量が多くなければ気相中Si核生成やウェハ表面のSi液滴は発生せず、また低圧化することでCl系ガスを使わなくてもでも気相中Si核生成やウェハ表面のSi液滴を防ぐことができるという実状があり、Cl系ガスは不可欠なものではなく、シラン(SiH
4)のみで足りる場合も多かった。
またN系ガスについては、4インチ以下のエピタキシャルウェハにおいては、面内の温度やガス分圧の不均一性がそれほど大きくなく、3重結合を有する窒素ガスでもキャリアの均一性の十分満足できるエピタキシャルウェハを得ることができていた。そのため、窒素ガスに比べて、SiCエピタキシャルウェハへのドーパント元素の取り込み性も高くなく、かつ扱いにくいN系ガスを敢えて用いることは検討されていなかった。
そのため、SiCエピタキシャルウェハの製造方法において、これらのN系ガスとCl系ガスを同時に用いようとする検討は行われておらず、これらのガスを同時に用いた場合の課題は認識されていなかった。
【0011】
一方で、近年、本発明者らは、6インチを超えるような大型で、高品質なSiCエピタキシャルウェハを作製する検討を進めている。このような大型のSiCエピタキシャルウェハは、単純に種々のサイズを大きくしただけでは得ることができず、実際に高品質な膜を得るためには課題が多い。4インチのSiCエピタキシャルウェハと比較しても、例えば欠陥の低減や、キャリア密度の均一化という点において課題がある。また、近年スループットを上げることや高耐圧デバイス用の厚膜が求められるようになってきたので、エピ成長速度を上げるためにSi原料の投入量を増やすことが求められるようになってきた。そのため、上述のようなCl系ガス及びN系ガスを用いることに伴う効果がより顕著に期待される。そこで、本発明者らはCl系ガス及びN系ガスを同時に用いて、エピタキシャル膜を作製することについて初めて実際に検討を行った。
【0012】
その結果、単純に、分子内にN原子を含みかつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスと、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスとを混合しただけでは、SiCエピタキシャルウェハを均質、かつ欠陥の少ない状態で作製することが出来なかった。
すなわち本発明者らは、鋭意検討の結果、N系ガスとCl系ガスを混合すると固体生成物が生成され、その固体生成物がSiCエピタキシャルウェハの欠陥となるという課題に初めて到達した。このような問題は、反応空間に同時にN系ガスとCl系ガスを存在させる必要性があるSiCエピタキシャルウェハの製造方法において特に顕著であった。
【0013】
例えば、非特許文献1には、HClガスを用いることは記載されているが、ドーパントガスを加えることについて記載も示唆もない。
また例えば、非特許文献2には、トリクロロシランガスを用い、キャリアをドープするために窒素を用いることが記載されているが、窒素は3重結合を有し安定的であるため、固体生成物は生成されない。
【0014】
また特許文献1では、N系ガスを用いることが記載されている。しかしながら、原料ガスとして用いられているガスはシラン(SiH
4)であり、HClガスを同時に用いることも記載されていない。
シランガスに変えて、トリクロロシラン等のクロロシラン化合物を用いることが考えられるが、特許文献1の
図1に示すように配管の段階で、二つのガスを混合している。
配管は、一般にステンレス等からなり加熱されていないため、これらのガスを配管内で混合すると、固体生成物が生成され配管内に付着する。付着した固体生成物は、剥離し、SiCエピタキシャルウェハ上にパーティクルとして飛来することが考えられる。飛来した固体生成物起因のパーティクルはSiCエピタキシャルウェハにおける欠陥となり得る。例えば、ウェハ表面に付着した固体生成物起因のパーティクルは、SiCのステップフロー成長を阻害し、パーティクルを起点とした三角欠陥を発生させる。N系ガス、Cl系ガスの使用量や使用回数にも依るが、N系ガスとCl系ガスを混合して導入すると、1個cm
−2以上の表面欠陥が発生してしまっていた。特許文献1に記載された発明からは、固体生成物が形成されるという課題、及び、固体生成物がSiCエピタキシャルウェハの欠陥となるという課題に到達できないことは明らかである。
【0015】
すなわち、SiCエピタキシャルウェハにおいて、N系ガスとCl系ガスを同時に用いると、固体生成物が生成され、その固体生成物が欠陥となるという課題は、本発明者らが実際に検討を進める中で、初めて見出したものであり、N系ガスとCl系ガスを同時に用いることにより発生する固体生成物に伴う欠陥を抑制することができるSiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCエピタキシャル成長装置については、何ら提案されていないのが実情であった。
したがって、N系ガスとCl系ガスの混合により発生する固体生成物に伴う欠陥を抑制することができるSiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCエピタキシャル成長装置が切に求められていた。
【0016】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、N系ガスとCl系ガスを同時に用いることにより発生する固体生成物に伴う欠陥を抑制することができるSiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCエピタキシャル成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討の結果、N系ガスとCl系ガスとを、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度で混合することで当該問題を解決できることを見出し、発明を完成させた。
即ち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0018】
(1)本発明の一態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、分子内にN原子を含み、かつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスと、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスとを、SiCエピタキシャル成長の反応空間に分離して導入し、前記N系ガスと前記Cl系ガスとを、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度で混合する。
【0019】
(2)上記(1)に記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記反応空間全体の温度を、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上としてよい。
【0020】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記N系ガスと前記Cl系ガスとを混合する際の圧力を15kPa以下としてもよい。また5kPa以下とすることがより好ましい。
【0021】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記N系ガスがメチルアミン(CH
5N)、ジメチルアミン(C
2H
7N)、トリメチルアミン(C
3H
9N)、アニリン(C
6H
7N)、アンモニア(NH
3)、ヒドラジン(N
2H
4)、ジメチルヒドラジン(C
2H
8N
2)、その他アミンからなる群のいずれか一つであってもよい。
【0022】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記Cl系ガスが、HClまたはクロロシラン系化合物であってもよい。
【0023】
(6)本発明の一態様にかかるSiCエピタキシャル成長装置は、成長空間を構成する炉体と、前記炉体内に備えられSiCウェハを載置する載置台と、前記炉体内へガスを導入するガス導入管とを有し、前記ガス導入管が、分子内にN原子を含み、かつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスを導入するN系ガス導入管と、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスを導入するCl系ガス導入管とを、互いに分離して有し、前記N系ガス導入管及び前記Cl系ガス導入管の導入口を、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上に加熱できる加熱手段とを備える。
【0024】
(7)上記(6)に記載のSiCエピタキシャル成長装置は、前記ガス導入管の導入口と前記載置台の間の温度を、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることができてもよい。
【0025】
(8)上記(6)又は(7)のいずれか一つに記載のSiCエピタキシャル成長装置は、前記ガス導入管の導入口と前記載置台との距離が、200〜2000mmであってもよい。また300〜1000mmであることがより好ましい。
【0026】
(9)上記(6)〜(8)のいずれか一つに記載のSiCエピタキシャル成長装置は、前記ガス導入管が前記載置台の上部に配置された、縦型の炉体構造を備えてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、分子内にN原子を含み、かつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスと、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスとを用いる。N系ガスは、2重結合、3重結合のいずれも有さないため熱分解におけるエネルギーが小さく、熱分解過程の制御が容易であり、SiCエピタキシャルウェハにおけるドーピングに寄与する活性種を均一に分布させることができる。またCl系のガスは、気相中でのSiの核成長を抑制できる。またウェハの表面でのSi液滴の発生も抑制することもできる。
【0028】
さらに、本発明の一態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、SiCエピタキシャル成長の反応空間にN系ガスとCl系ガスを分離して導入し、N系ガスとCl系ガスとを、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上で混合する。N系ガスとCl系ガスを分離して導入するため、SiCエピタキシャル成長の反応空間外の配管等でも固体生成物の生成を抑制することができる。また混合する際には、固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度で混合するため、反応空間内でも固体生成物の生成を抑制することができる。したがって、固体生成物に伴う欠陥を低減したSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。また反応空間全体の温度を、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上としてもよい。反応空間全体の温度を高めることにより、固体生成物が混合後に発生することを抑制することができ、より固体生成物に伴う欠陥を低減したSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。
【0029】
本発明の一態様にかかるSiCエピタキシャル成長装置は、成長空間を構成する炉体と、前記炉体内に備えられSiCウェハを載置する載置台と、前記炉体内へガスを導入するガス導入管とを有し、前記ガス導入管が、分子内にN原子を含み、かつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスを導入するN系ガス導入管と、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスを導入するCl系ガス導入管とを、互いに分離して有し、前記N系ガス導入管及び前記Cl系ガス導入管の導入口を、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上に加熱できる加熱手段とを備える。
【0030】
上述のように、N系ガス及びCl系ガスを用いることで、欠陥を抑制し、エピタキシャルウェハの均質性を高めることができる。またN系ガス導入管とCl系ガス導入管を分離することにより、炉体内にN系ガスとCl系ガスを分離して導入することができ、SiCエピタキシャル成長の反応空間外の配管等でも固体生成物の生成を抑制することができる。さらに、N系ガス導入管及びCl系ガス導入管の導入口を、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上に加熱できる加熱手段を有するため、炉体内にN系ガス及びClガスが導入された段階で、固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度以上となり、固体生成物は固体として存在することができない。そのため、本発明の一態様にかかるSiCエピタキシャル成長装置を用いることで、固体生成物に伴う欠陥を低減したSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。
【0031】
またガス導入管の導入口と前記載置台の間の温度を、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることができる構成としてもよい。この構成によれば、混合後に固体生成物が発生することも抑制することができ、より固体生成物に伴う欠陥を低減したSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。
またガス導入管の導入口と載置台との距離が、200〜2000mmであってもよい。ガス導入管の導入口と載置台との距離が大きければ、生成した固体生成物がエピタキシャルウェハの表面に落下する前に、気化させることができる。ガス導入管の導入口と載置台との距離は、300〜1000mmであることがより好ましい。距離が大きすぎると、加熱源の大型化が必要となり、装置コスト、ランニングコストの観点で好ましくない。
さらに、ガス導入管が前記載置台の上部に配置された、縦型の炉体構造でもよい。縦型の炉体構造では、反応空間である炉体が大きくなる。反応空間が大きくなると、ウェハの周囲は輻射の影響が大きくなるため、温度を均一に保つことが難しくなる。そのため、ウェハの周囲に至る前に気化することができるN系ガスの効果がより顕著となる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を適用したSiC化学気相成長装置およびSiCエピタキシャルウェハの製造方法について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0034】
(SiC化学気相成長装置)
図1を参照して、本発明の第1実施形態のSiC化学気相成長装置100の一例について説明する。
本発明の第1実施形態に係るSiCエピタキシャル成長装置100は、成長空間Kを構成する炉体10と、炉体10内に備えられSiCウェハWを載置する載置台20と、炉体10内へガスを導入するガス導入管30とを備える。ガス導入管30は、分子内にN原子を含みかつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスを導入するN系ガス導入管31と、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスを導入するCl系ガス導入管32とを、互いに分離して有する。N系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口には、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上に加熱できる加熱手段40が備えられている。
なお、
図1は、成長用の基板を下側に配置し、上側から原料ガスを供給して、上から下へ原料ガスを流通してエピタキシャル成長を行う縦型の配置の化学気相成長装置である。本発明は、当該縦型の配置の化学気相成長装置に限られず、横型の配置の化学気相成長装置でもよい。
【0035】
SiC化学気相成長装置100は、SiCエピタキシャルウェハを製造する装置である。SiC化学気相成長装置100のガス導入管30から供給された原料ガスは、載置台20上に載置されたSiCウェハW上で反応し、SiCウェハW上にSiCエピタキシャル膜を形成する。このような反応を経て、SiCウェハW上にSiCエピタキシャル膜が形成されたSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。原料ガスとしては、Si系ガスとC系ガスを用いる。
【0036】
Si系ガスとしては、例えばシラン系ガスとして、シラン(SiH
4)を用いることができるほか、SiH
2Cl
2、SiHCl
3、SiCl
4などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることもできる。C系ガスとしては、例えばプロパン(C
3H
8)等を用いることができる。
【0037】
ガス供給管30は、これらの原料ガスの以外のガスを導入することもできる。この原料ガス以外のガスとしては、以下のような複数のガスがある。例えば、原料ガス以外のガスの例として、気相中でのSiの核成長を抑制し、またウェハの表面でのSi液滴の発生を抑制する目的で導入されるHClガスがある。この他にも、SiCウェハW上に積層されるSiCエピタキシャル膜の導電型を制御するための不純物ドーピングガス等を導入することもできる。不純物ドーピングガスとしては、例えば、導電型をn型とする場合にはN
2、メチルアミン(CH
5N)、ジメチルアミン(C
2H
7N)、トリメチルアミン(C
3H
9N)、アニリン(C
6H
7N)、アンモニア(NH
3)、ヒドラジン(N
2H
4)、ジメチルヒドラジン(C
2H
8N
2)及びその他アミン等を用いることができる。また、p型とする場合にはTMA(トリメチルアルミニウム)等を用いることができる。さらに、これ以外にも、原料ガスがSiCウェハWまで効率的に供給するためにガスの流れをサポートするガスとしてキャリアガス、パージガス等を導入することもできる。キャリアガス、パージガスとしては、例えば、H
2を含むエッチング作用があるガスのほか、Ar,Heなどの不活性ガス(希ガス)を用いることもできる。
【0038】
SiCエピタキシャルウェハを製造するためには、上述のようなガスを用いることができるが、本発明の詳細な説明の便宜上、これらのガスを「Si系ガス」、「C系ガス」、「Cl系ガス」、「N系ガス」、「その他の不純物ドーピングガス」「その他のガス」の6つに区分する。
【0039】
「Si系ガス(
図1においてSiで示す。)」は、ガスを構成する分子の構成元素としてSiが含まれるガスである。例えばシラン(SiH
4)、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、テトラクロロシラン(SiCl
4)等が該当する。原料ガスの一つとしてSi系ガスは用いられることが一般的である。
【0040】
「C系ガス(
図1においてCで示す。)」は、ガスを構成する分子の構成元素としてCが含まれるガスである。例えば、プロパン(C
3H
8)等が該当する。原料ガスの一つとしてC系ガスは用いられることが一般的である。
【0041】
「Cl系ガス(
図1においてClで示す。)」は、ガスを構成する分子の構成元素としてClが含まれるガスである。例えば、塩化水素(HCl)、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、テトラクロロシラン(SiCl
4)等が該当する。ここで、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、テトラクロロシラン(SiCl
4)は、上記のSi系ガスでもある。これらのガスのように、「Cl系ガス」であり、「Si系ガス」であるという場合もある。しかし、本発明においては「Cl系ガス」と「N系ガス」を厳密に区別することができればよく、「Cl系ガス」と「N系ガス」を共に両立しなければ、二つの区分に跨るガスが存在してもよい。
【0042】
「N系ガス(
図1においてNで示す。)」は、ガスを構成する分子の構成元素としてNが含まれるガスであり、かつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のガスである。例えば、メチルアミン(CH
5N)、ジメチルアミン(C
2H
7N)、トリメチルアミン(C
3H
9N)、アニリン(C
6H
7N)、アンモニア(NH
3)、ヒドラジン(N
2H
4)、ジメチルヒドラジン(C
2H
8N
2)、その他アミンからなる群のいずれか一つ等が該当する。すなわち、N
2は、ガスを構成する分子の構成元素としてNが含まれるがN系ガスには該当しない。N系ガスは、不純物ドーピングガスの一つとして用いられることが一般的である。
【0043】
「その他の不純物ドーピングガス(図視略)」は、N系ガス、Cl系ガス以外の不純物ドーピングガスである。例えば、N2、TMA等が該当する。
【0044】
「その他のガス(図視略)」は、上記の5つの区分のガスに該当しないガスである。例えば、Ar,He、H
2等が該当する。これらのガスは、SiCエピタキシャルウェハの製造のサポートをするガスであり、原料ガスがSiCウェハWまで効率的に供給するためにガスの流れをサポートするガスであることが一般的である。
【0045】
塩基性のN系ガスと酸性のCl系ガスは、混合すると化学反応が生じ、固体生成物が生成される。例えば、N系ガスとしてアンモニア、Cl系ガスとして塩化水素を混合すると、塩化アンモニウム(NH
4Cl)が形成される。他にも、N系ガスとしてメチルアミン(CH
5N)、Cl系ガスとして塩化水素を混合すると、モノメチルアミン塩酸塩(CH
5N・HCl)が形成される。さらに、N系ガスとしてアンモニア、Cl系ガスとしてジクロロシランを混合させると、塩化アンモニウムが形成されるという報告もある(例えば、特願1992−024921号公報)。塩化アンモニウムの昇華温度は338℃であり、モノメチルアミン塩酸塩の融点は220〜230℃、沸点は225〜230℃である。すなわち、これらの固体生成物は、これらの温度以下において生成される。
【0046】
SiCのエピタキシャル成長は、例えばGaN等のエピタキシャル成長と異なり、N系ガスはドーピングガスとして用いられるため、その流量は原料ガスであるSi系ガスやC系ガスに比べ小さい。一方でCl系ガスの流量は、Si系ガスやC系ガスと同程度、あるいはSi系ガスやC系ガスよりも大きいことが多い。一般的にSiCのエピタキシャル成長におけるCl系ガスの体積流量は、N系ガスの10倍以上である。そのため、GaN等のエピタキシャル成長に比べて、固体生成物起因のパーティクルは少なかった。しかしながら、近年のSiCエピタキシャルウェハの大型化及び高品質化に伴い、N系ガスが小流量であっても、発生するパーティクルは十分問題となる欠陥を発生しうるものとなっている。ここで、固体生成物起因のパーティクルは、ウェハ表面に付着するとSiCエピ欠陥を発生させる。例えば、固体生成物起因のパーティクルはSiCのステップフロー成長を阻害し、パーティクルを起点とした三角欠陥を発生させる。
【0047】
[ガス導入管]
図1ではガス導入管30は、N系ガスを導入するN系ガス導入管31、Cl系ガスを導入するCl系ガス導入管32、Si系ガスを導入するSi系ガス導入管33、C系ガスを導入するC系ガス導入管34がそれぞれ分離された構造を例示した。N系ガス導入管31と、Cl系ガス導入管32が分離されていればよく、Si系ガス導入管33及びC系ガス導入管34は必ずしも分離されている必要はない。すなわち、Si系ガスはN系ガス導入管31、Cl系ガス導入管32、C系ガス導入管34から導入することもでき、C系ガスはN系ガス導入管31、Cl系ガス導入管32、Si系ガス導入管33、から導入することもできる。ただしSi系ガスやC系ガスがCl系ガスでもある場合は、N系ガス導入管から導入することはできない。また上記のガス導入管以外にも、その他の不純物ドーピングガスや、その他のガスを導入するためのその他のガス導入管を別途設けてもよい。その他の不純物ドーピングガスや、その他のガスは、N系ガス導入管31、Cl系ガス導入管32、Si系ガス導入管33、C系ガス導入管34から導入することもできる。また各ガス導入管は、各ガス種に1つである必要はなく、それぞれ複数有していてもよい。
【0048】
N系ガスとCl系ガスを分離して導入するため、SiCエピタキシャル成長の反応空間外の配管等でも固体生成物が生成されることを抑制することができる。一般に、SiC化学気相成長装置100で、SiCエピタキシャル膜を形成する際は、炉体10内の温度は高い。しかしながら、各ガスを供給する配管まで加熱することは通常行われないため、N系ガスとCl系ガスを分離して導入しないと、配管中に固体生成物が生成される。固体生成物は、配管を通してガス導入管30からパーティクルとしてSiCウェハW上に飛散し、SiCエピタキシャルウェハの欠陥となる。すなわち、N系ガスとCl系ガスを分離して導入することで、配管等での固体生成物の生成を抑制し、固体生成物に伴う欠陥を低減されたSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。
【0049】
また
図1に示すように、複数のガス導入管を設ける場合、N系ガス導入管31とCl系ガス導入管32は、離れた位置に配置することが好ましい。N系ガス導入管31とCl系ガス導入管32を離した位置関係とすることで、N系ガスとCl系ガスが混合されるまでに要する時間を長くすることができる。N系ガスとCl系ガスが混合されるまでに要する時間が長くなるということは、換言すると、反応空間K内で、N系ガスとCl系ガスが混合された状態で存在する領域を少なくすることとなり、固体生成物が生成される確率をより低減することができる。
【0050】
またSi系ガスとC系ガスもそれぞれ分離して導入することが好ましい。Si系ガスとC系ガスが反応するとSiC生成物が生成される。SiC生成物は、SiCウェハW上に形成されるものであるが、反応空間の初期(ガス導入管付近、又は配管)で混合されると、不要なSiC生成物がガス導入管30や炉体10内壁面等に形成される恐れがある。これらの不要なSiC生成物が、ガス導入管30や炉体10内壁面等から剥離するとパーティクルとなり、得られるSiCエピタキシャルウェハの欠陥となる恐れがある。
【0051】
ガス導入管30の導入口35は、テーパー形状を有していることが好ましい。
図2は、本発明の一実施形態であるSiC化学成長装置を模式的に説明する断面模式図であり、ガス導入管の導入口がテーパーを有する場合のSiC化学気相成長装置の断面模式図である。なお、簡単のために炉体の下部は図示していない。
この構造によれば、ガス導入管30の導入口35付近にガスが供給されることを抑制することができる。これに伴いガス導入管30の導入口35に堆積物が付着することを抑制することができる。
図2では、各ガス導入管の全ての導入口にテーパーを設けたが、テーパーを設けない導入口があってもよい。前述の5つのガス区分の中では、Si系ガス及びC系ガスを導入するSi系ガス導入管33及びC系ガス導入管34は、特に導入口35に堆積物が付着する可能性が高いため、これらの導入口にテーパーを設けておくことが好ましい。
【0052】
このとき導入口35のテーパーの勾配角θは、ガス導入路36の延長線に対して5°以上45°以下であることが好ましく、10°以上30°以下であることがより好ましい。テーパーの勾配角θが5°以上45°以下であれば、ガスの回り込みを十分防ぐことができ、導入口35に堆積物が付着することを効率的に抑制することができる。
【0053】
また導入口35の炉体10側の終端部の断面積S
35は、ガス導入路36の導入口35直前の断面積S
36に対して、1.5倍以上6倍以下であることが好ましく、2倍以上4倍以下であることがより好ましい。ガス導入管30の形状が当該形状であれば、ガス流量の変化を所定の範囲内とすることができ、ガスの回り込みを十分防ぐことができる。すなわち、導入口35に堆積物が付着することを効率的に抑制することができる。
【0054】
ガス導入管30から炉体10内部に供給されるガスのガス導入路36における平均流速(流量/断面積S
36)は、0.001m/s〜100m/sであることが好ましく、0.01m/s〜10m/sであることがより好ましい。ガスの流速を当該範囲とすることで、導入口35付近での乱流の発生を抑制することができる。すなわち、導入口35に堆積物が付着することを効率的に抑制することができる。
【0055】
ガス導入管30の周囲を外管37によって覆い、ガス導入管30と外管37とが二重管構造を構成し、ガス導入管30と外管37との間から炉体10内にパージガス(その他のガス)pを導入することができる構成としてもよい。
図3は、ガス導入管30が外管37によって覆われ、ガス導入管30と外管37とが二重管構造を構成したSiC化学気相成長装置の断面模式図であり、簡単のために炉体10の下部は図示していない。またこのガス導入管30は、N系ガス導入管31、Cl系ガス導入管32、Si系ガス導入管33、C系ガス導入管34のいずれであってもよい。パージガスpによってガス導入管30にガス(Si系ガス、C系ガス、N系ガス、Cl系ガス)が回り込むことを防ぎ、ガス導入管30の導入口にSiC生成物や固体生成物が堆積物として付着することをより効果的に抑制することができる。これらの堆積物が剥離するとSiCエピタキシャルウェハの欠陥となりうる。
【0056】
また
図3では、外管37の炉体内への導入口はテーパー形状を有しているが、テーパー形状を有さず、直線上に形成されていてもよい。外管37の炉体内への導入口はテーパー形状を有している方が、より滑らかにパージガスを流すことができ、乱流の発生を抑制することができる。外管37がテーパーを有する場合は、テーパーの勾配角は、ガス導入管30のテーパーの勾配角と同一であることが好ましい。外管37とガス導入管30のテーパーの勾配角が同一であれば、不要な乱流の発生を抑制することができる。
【0057】
またパージガス(その他のガス)をガス導入管30の周囲にシャワーヘッド状に形成してもよい。
図4は、ガス導入管30の周囲に複数のパージガス導入口37が設けられている場合のSiC化学気相成長装置の断面模式図であり、簡単のために炉体10の下部は図示していない。またこのガス導入管30は、N系ガス導入管31、Cl系ガス導入管32、Si系ガス導入管33、C系ガス導入管34のいずれであってもよい。
図4に示すように、パージガスを成膜処理前室38に供給し、パージガスが供給されるにつれ、成膜処理前室38内部の圧力が高くなる。すると、バージガス導入口37を介して、炉体10内部にパージガスがシャワー状に供給される。このような構成によれば、パージガス導入口37から炉体10内に供給されるパージガスpによって、ガス(Si系ガス、C系ガス、N系ガス、Cl系ガス)が回り込むことを防ぐことができる。
【0058】
ガス導入管30を構成する材料は、特に限定されるものではないが、放射率が0.5以上の材料を含むことが好ましい。炭化珪素の成長は1500℃以上の高温で行われるため、輻射による加熱が特に大きな役割を果たす。ガス配管に一般的に用いられるステンレスなどの金属は、放射率が0.5未満であり、熱輻射を効率的に吸収することができない。放射率の大きな物質を選択して、放射率が0.5以上である材料を用いれば、十分輻射を受けやすくガス導入管30を効率的に加熱することができる。放射率は大きい方が好ましく、0.6以上であればより好ましい。
放射率が0.5以上の材料としては、C、SiC、金属炭化物、SiCまたは金属炭化物で被覆されたC等を挙げることができる。また、これらの材料の混合物等でもよく、少なくとも一種の材料を含んでいればよい。金属炭化物としては例えばWC、NbCを用いることができる。これらの材料は、放射率が高くかつ輻射を受けやすい。
ガス導入管30がこれらの材質を含むことで、炉体10内部からの熱輻射によりガス導入管30が加熱される。すなわち、N系ガス導入管及びCl系ガス導入管の温度を、N系ガスとCl系ガスの混合により生じる固体生成物の沸点または昇華温度とすることが容易になる。
【0059】
[加熱手段]
加熱手段40は、少なくともN系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口付近に配設され、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上にN系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口を加熱することができる。N系ガスとCl系ガスが混合し生成する固体生成物の沸点又は昇華温度は、概ね300℃以下であるため、加熱手段40はN系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口を300℃以上に加熱することが求められる。
【0060】
加熱手段40によって、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上にN系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口を加熱することで、N系ガス及びCl系ガスの温度がこれらの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度となるため、反応空間K内でこれらが混合されても固体生成物が発生することは無く、固体生成物に伴う欠陥を低減したSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。
【0061】
加熱手段40は、抵抗加熱方式又は高周波加熱方式のものを用いることができる。加熱手段40は、N系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口を少なくとも加熱することができればよいが、
図1に示すようにその他のガス導入管の導入口を加熱してもよい。各ガス導入口付近を加熱することで、載置台20とガス導入管30間の温度差を少なくすることができ、炉体10内での熱対流を抑制することができる。
【0062】
[炉体]
炉体10は、成長室を構成する中空部を有する。各ガスは、炉体10にガス導入管30から導入され、ガス排出口60から排出される。また中空部内に、載置台20が設置され、その載置台20上にSiCウェハWを載置し、SiCエピタキシャル膜を成膜することができる。炉体10は特に限定されるものではないが、SUS等の金属によって構成されていることが一般的である。
【0063】
炉体10には、ガス導入管30の導入口と載置台20の間の温度を、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることができる構成であることが好ましい。このような構成としては、具体的に以下のような場合がある。
例えば、
図1に示すように、ガス導入管30の導入口と載置台20の間を加熱することができる炉体加熱手段50を設けることができる。
図1では、炉体10内に炉体加熱手段50が格納された構造としたが、炉体加熱手段は炉体10の外部に設置してもよい。
また炉体10のガス導入管30の導入口と載置台20の間の内壁を構成する材料に、放射率が高い材料を用いることができる。この放射率が高い材料とは、放射率が0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。このような材料としては、上述のガス導入管の材料として例示したものを用いることができる。
さらに、炉体10の反応空間Kの周囲に、断熱材またはヒートシールドを設置することもできる(図視略)。断熱材またはヒートシールドを設置することで、炉体10のガス導入管30の導入口と載置台20の間の温度が低下しにくくなる。
【0064】
このような構成によれば、反応空間の炉体10のガス導入管30の導入口と載置台20の間の温度を、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることができる。当該箇所の温度をこの温度以上とすれば、導入口から離れるに従って温度が下がることで、導入口付近では生成されなかった固体生成物が再度発生することを抑制することができる。すなわち、より固体生成物に伴う欠陥を低減したSiCエピタキシャルウェハを製造することができる。
【0065】
また炉体10においてガス導入管30の導入口と載置台20との距離が、200〜2000mmであることが好ましい。ガス導入管30の導入口と載置台20との距離が大きければ、固体生成物が生成された場合でも、エピタキシャルウェハの表面に落下する前に気化させることができる。またガス導入管の導入口と載置台との距離は、300〜1000mmであることがより好ましい。距離が大きすぎると、炉体加熱手段50の大型化が必要となり、装置コスト、ランニングコストの観点で好ましくない。
【0066】
炉体10は、ガス導入管が前記載置台の上部に配置された、縦型の炉体構造であってもよい。縦型の炉体構造では、反応空間である炉体が大きくなる。反応空間が大きくなると、ウェハの周囲は輻射の影響が大きくなるため、温度を均一に保つが難しくなる。そのため、ウェハの周囲に至る前に分解することができるN系ガスを用いることによる効果がより顕著となる。
【0067】
[載置台]
載置台20は、SiCウェハWを載置するサセプタ21と、サセプタ21上に載置されたSiCウェハWを加熱する加熱機構22とを有する構成とされている。サセプタ21は、上面がSiCウェハWの載置面となっており、内部に加熱機構22が配置される空間が形成されている。サセプタ21には下方に延びる管状の支持軸が備えられ、この支持軸が図示しない回転機構に連結されることで回転可能とされている。加熱機構22は、SiCウェハWの載置面と対向するヒーターなどによって構成されており、サセプタ21内に設置されている。加熱機構22には、サセプタ21の支持軸内部を通して外部から通電されている。SiCウェハWは、1500℃以上に加熱することができる。
【0068】
[ガス排出口]
ガス排出口60は、炉体10のうち載置台20におけるSiCウェハWの載置面よりも下方に配置されており、SiCウェハWを通過した後の未反応ガスを排出する。またこのガス排出口60からは真空吸引が行えるようになっており、炉体10内部の雰囲気圧力を適宜調整することができる。
【0069】
(SiCエピタキシャルウェハの製造方法)
本発明のSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、分子内にN原子を含みかつN原子同士の2重結合、3重結合のいずれも有さない分子で構成される塩基性のN系ガスと、分子内にCl原子を含む分子で構成されるCl系ガスとを、SiCエピタキシャル成長の反応空間に分離して導入し、前記N系ガスと前記Cl系ガスとを、前記N系ガスと前記Cl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度で混合するものである。
【0070】
本発明のSiCエピタキシャルウェハの製造方法において、N系ガスとCl系ガスとを、SiCエピタキシャル成長の反応空間に分離して導入することは、上述のように、各ガスの導入管及び配管を別にすることで実現することができる。
【0071】
またN系ガスとCl系ガスとを、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度で混合する。
図1のSiC化学気相成長装置では、N系ガス導入管31及びCl系ガス導入管32の導入口を加熱手段40で加熱することで実現したが、SiCエピタキシャルウェハの製造方法としては、当該構成に限られない。
【0072】
図5は、本発明の一態様に係るSiC化学成長装置を模式的に説明する断面模式図である。
図5の点線で示すように、反応空間Kに導入されたN系ガスとCl系ガスはそれぞれ流動し、互いに接触した段階から混合が開始される。すなわち、炉体10のガス供給管30側の上面から高さhで示す空間内では、N系ガスとCl系ガスは混合されていない。したがって、この空間より図示上の領域では、加熱を行っていなくても固体生成物は生成されない。
換言すると、ガス導入管30の導入口を必ずしも加熱する必要はなく、
図5に示すように炉体上部加熱手段70によって、N系ガスとCl系ガスが混合に至るまでの領域を加熱することで、固体生成物の発生を抑制してもよい。
【0073】
また加熱手段40を設けずに、ガス供給管30を構成する材料を放射率が高い材料を用いてもよい。具体的には、放射率が0.5以上の材料を用いることができる。例えば、SiCエピタキシャルウェハを製造する際、SiCウェハWの載置面の温度は1600℃程度まで加熱される。そのため、ガス供給管30を構成する材料の放射率が高ければ、熱輻射の影響を受け、ガス供給管30の温度は加熱手段等を設けなくても、固体生成物の沸点または昇華温度以上とすることができる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の効果を、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例においては、SiCエピタキシャル膜を成長させ、形成されたSiCエピタキシャル膜のキャリア密度の面内均一性及び表面欠陥(ダウンフォール、三角欠陥等)密度を測定した。
【0076】
[実施例1]
SiC化学気相成長装置として縦型のSiC化学気相成長装置を用いた。SiCエピタキシャル膜の成長は、トリクロロシラン(SiHCl
3)及びプロパン(C
3H
8)を原料ガスとし、同時に塩化水素(HCl)ガス、不純物ドーピングガスとしてのアンモニアガス(NH
3)を供給して行った。キャリアガス、パージガスとしては水素、アルゴンを用いた。すなわち、実施例1においてCl系ガスは、トリクロロシラン及び塩化水素ガスであり、N系ガスは、アンモニアである。
SiC化学気相成長装置の反応空間に、これらのガスを導入するガス導入管は2種類あり(Si系ガス導入管、N系ガス導入管がそれぞれ複数ある。)、第1のガス導入管からはトリクロロシラン及び塩化水素ガス、第2のガス導入管からはプロパンガス及びアンモニアを導入した。すなわち、実施例1においてCl系ガスとN系ガスは分離して導入されている。また第1のガス導入管と第2のガス導入管の導入口は、ヒーターによって1000℃に加熱した。トリクロロシラン又は塩化水素ガスとアンモニアが混合した際に形成される固体生成物は、塩化アンモニウムである。したがって、ヒーターによって加熱した1000℃は、塩化アンモニウムの融点である338℃以上である。また成膜時の圧力は、26.7kPa(200Torr)、成長速度は57μm/h、アンモニアガスの流量は0.1sccmとした。このような条件のもとで、4インチのSiCウェハ上にSiCエピタキシャル膜を成長させた。
【0077】
[比較例1]
キャリアガスとして、アンモニアガスに変えて窒素ガスを用いた点が実施例1と異なる。この際の窒素ガスの流量は14.2sccmとした。その他の点は実施例1と同一とした。窒素ガスは、N原子同士の3重結合を有するためN系ガスには該当しない。
【0078】
実施例1で作製したSiCエピタキシャルウェハのキャリア密度の面内均一性の偏差値は18%であり、比較例1で作製したSiCエピタキシャルウェハのキャリア密度の面内均一性の偏差値は132%であった。この面内均一性の偏差値は、「面内の最大のキャリア密度」と「面内の最小のキャリア密度」の差分をとり、その差分を「面内のキャリア密度の平均値」で割ることで求めた。キャリア密度の最大値と最小値の差が小さければ、面内均一性の偏差値は低くなるため、実施例1の面内均一性は比較例1の面内均一性に比べて高いことがわかる。
【0079】
また実施例1の表面欠陥密度は0.14cm
−2であり、比較例1の表面欠陥密度も0.14cm
−2であった。すなわち、実施例1はアンモニアを用いても、表面欠陥密度が高くならなかった。
【0080】
[実施例2]
実施例2は、SiCエピタキシャルウェハの成長時の圧力を3.3kPa(25Torr)とした点及び成長速度を48μm/hとした点が実施例1と異なる。その他の点は実施例1と同一とした。
【0081】
[比較例2]
比較例2は、SiCエピタキシャルウェハの成長時の圧力を3.3kPa(25Torr)とした点及び成長速度を48μm/hとした点が比較例1と異なる。その他の点は比較例1と同一とした。
【0082】
実施例2で作製したSiCエピタキシャルウェハのキャリア密度の面内均一性の偏差値は9%であり、比較例1で作製したSiCエピタキシャルウェハのキャリア密度の面内均一性の偏差値は110%であった。実施例2の面内均一性は比較例2の面内均一性に比べて高いことがわかる。
【0083】
また実施例2の表面欠陥密度は0.00cm
−2であり、比較例2の表面欠陥密度は0.29cm
−2であった。すなわち、実施例2はアンモニアを用いても、表面欠陥密度が高くならなかった。
【0084】
[実施例3]
実施例3は、SiCエピタキシャルウェハのサイズを6インチとした点のみが実施例2と異なる。その他の点は実施例2と同一とした。
【0085】
実施例3で作製したSiCエピタキシャルウェハのキャリア密度の面内均一性の偏差値は21%であった。6インチという大口径にも関わらず、高い面内均一性を得ることができた。
また実施例3の表面欠陥密度は0.05cm
−2であり、6インチという大口径にも関わらず、低い表面欠陥密度を得ることができた。
【0086】
上述の実施例及び比較例の結果を以下の表1にまとめる。
【0087】
【表1】
【0088】
上記表1に示すように、実施例1〜3はキャリアガスとしてアンモニアを用いることで、キャリア密度の面内均一性の高いSiCエピタキシャルウェハを実現することができた。また実施例1〜3では、それぞれのガス導入口の温度を、N系ガスとCl系ガスとの混合によって生じる固体生成物の沸点または昇華温度以上の温度としているため、アンモニアガス(N系ガス)を用いても、表面欠陥密度の低いSiCエピタキシャルウェハを実現することができた。