特許第6362395号(P6362395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6362395研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法
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  • 特許6362395-研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362395
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20180712BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20180712BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
   B24B37/00 H
   B24B37/00
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-85019(P2014-85019)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-204127(P2015-204127A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】松波 靖
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正典
(72)【発明者】
【氏名】牧野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】横道 典孝
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−279720(JP,A)
【文献】 特開2004−253058(JP,A)
【文献】 特開2000−158329(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/146942(WO,A1)
【文献】 特開2004−259421(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/121932(WO,A1)
【文献】 特開2007−321159(JP,A)
【文献】 特開2007−123523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク基板の研磨に使用するための研磨用組成物であって、
平均短径Dsを有するシリカ砥粒と、
前記平均短径Dsの50%未満の平均粒子径Dbを有する無機粒子と、
を含み、
前記シリカ砥粒の平均アスペクト比が1.05以上であり、かつ、前記平均短径Dsと前記平均粒子径Dbとの比(Ds/Db)が3より大きい、研磨用組成物。
【請求項2】
前記シリカ砥粒100重量部に対して3重量部以上50重量部以下の前記無機粒子を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
電気伝導度が10mS/cm以上である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記平均短径Dsが25nm以上300nm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
発泡ポリウレタン製の研磨面を有する研磨パッドによる研磨において使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
磁気ディスク基板の研磨に使用するための研磨用組成物であって、
平均短径Dsを有するシリカ砥粒と、
前記平均短径Dsよりも小さい平均粒子径Dbを有する無機粒子と、
を含み、
前記シリカ砥粒の平均アスペクト比が1.05以上であり、かつ、前記平均短径Dsと前記平均粒子径Dbとの比(Ds/Db)が3より大きく、
使用開始初期の研磨パッドによる研磨において、前記無機粒子を同重量の前記シリカ砥粒に置き換えた組成の対照研磨用組成物に比べて研磨レートが高くならないように構成されている、研磨用組成物。
【請求項7】
磁気ディスク基板の製造方法であって:
発泡ポリウレタン製の研磨面を有する研磨パッドを備えた研磨装置に研磨対象物をセットすること;
前記研磨対象物と前記研磨パッドとの間に請求項1から6のいずれか一項に記載の研磨用組成物を供給すること;および
前記研磨対象物に対して前記研磨パッドを相対的に移動させることにより前記研磨対象物を研磨すること;
を包含する、磁気ディスク基板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板の研磨に使用するための研磨用組成物と、該研磨用組成物を用いる磁気ディスク基板製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク基板には、高容量化のため高精度な表面が要求されている。このため、磁気ディスク基板の製造プロセスには、一般に、該磁気ディスク基板の研磨対象面を研磨する工程が含まれる。このような研磨工程は、通常、砥粒を含む研磨用組成物(研磨スラリー)を研磨対象物に供給して行われる。上記研磨工程は典型的には、研磨効率を重視した研磨(一次研磨)工程と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨工程とを含む。磁気ディスク基板の研磨に関連する技術文献として特許文献1〜3が挙げられる。特許文献4は、主にシリコン基板の研磨に関する技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3997154号公報
【特許文献2】特許第4255976号公報
【特許文献3】特許第4251516号公報
【特許文献4】特許第3926293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、基板等の研磨対象物を研磨用組成物で研磨する場合、通常は、研磨用組成物とともに研磨パッドが使用される。かかる研磨パッドは、その使用時間(すなわち研磨時間)が増大するにつれて、研磨用組成物に含まれる成分や研磨対象物との摩擦等の影響により、研磨面が摩耗したり劣化したりする。研磨パッドの劣化は、該研磨パッドを用いてなされる研磨工程に悪影響を及ぼすことがあり、具体的には研磨レート(単位時間当たりに研磨対象物の表面を除去する量)の低下の一因となることがある。かかる悪影響を防止するため、一定の研磨時間を経過して使用された研磨パッドは、新品に交換されるか、またはその研磨面が再生される等して研磨工程が続行される。そこで、研磨パッドを長時間使用した場合における研磨レートの低下を効果的に抑制することができれば、コスト面で優位性があるだけでなく、研磨対象物の品質安定性の向上、研磨効率の向上(典型的には研磨時間の短縮)等の点で好ましい。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、磁気ディスク基板の研磨に使用される研磨用組成物であって、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下を抑制し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、かかる研磨用組成物を用いた磁気ディスク基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書によると、磁気ディスク基板の研磨に使用するための研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、平均短径Dsを有するシリカ砥粒と、上記平均短径Dsの50%未満の平均粒子径Dbを有する無機粒子とを含む。かかる研磨用組成物によると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が抑制され得る。
なお、本明細書において「研磨パッドの長時間使用」とは、いわゆる研磨パッドの実質的な寿命に相当する時間にわたって該研磨パッドを研磨対象物の研磨に使用することをいう。コスト面の観点から、研磨パッドの使用時間は長いほうが好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ひとつの研磨パッドを20時間以上(好ましくは40時間以上、より好ましくは100時間以上、さらに好ましくは200時間以上)使用する態様での研磨に好ましく適用され得る。
【0007】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様において、該研磨用組成物は、上記シリカ砥粒100重量部に対して3重量部以上50重量部以下の上記無機粒子を含む。かかる研磨用組成物によると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が好適に抑制され得る。
【0008】
ここに開示される研磨用組成物は、電気伝導度が10mS/cm以上であることが好ましい。かかる研磨用組成物によると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が効果的に抑制され得る。
【0009】
シリカ砥粒としては、上記平均短径Dsが25nm以上300nm以下のものが好ましい。かかるシリカ砥粒を含む研磨用組成物によると、実用的な研磨レートが長時間維持され得る。また、かかるシリカ砥粒を含む研磨用組成物によると、研磨対象物である磁気ディスク基板の研磨対象面の欠陥発生が低減される傾向がある。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、該研磨用組成物は、発泡ポリウレタン製の研磨面を有する研磨パッドによる研磨において使用される。かかる研磨パッドを用いる研磨では、ここに開示される研磨用組成物を使用することが特に有意義である。
【0011】
この明細書によると、また、磁気ディスク基板の研磨に使用するための研磨用組成物であって、平均短径Dsを有するシリカ砥粒と、該平均短径Dsよりも小さい平均粒子径Dbを有する無機粒子とを含む研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、使用開始初期の研磨パッドによる研磨においては、上記無機粒子を同重量の上記シリカ砥粒に置き換えた組成の対照研磨用組成物に比べて研磨レートが高くならないように構成されている。かかる研磨用組成物によると、上記対照研磨用組成物に比べて、上記研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が抑制され得る。その結果、上記研磨パッドの使用期間(例えば200時間程度)全体の平均研磨レートは、上記対照研磨用組成物に比べて上記研磨用組成物のほうが高くなり得る。
なお、本明細書において「使用開始初期の研磨パッド」とは、新品の研磨パッドを一般的な方法によりドレッシングした後、研磨工程において初めて使用開始した直後(典型的には30分以内)の研磨パッドを指す。
【0012】
この明細書によると、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。上記製造方法は、発泡ポリウレタン製の研磨面を有する研磨パッドを備えた研磨装置に研磨対象物をセットすること、該研磨対象物と該研磨パッドとの間にここに開示されるいずれかの研磨用組成物を供給すること、および、該研磨対象物に対して該研磨パッドを相対的に移動させることにより該研磨対象物を研磨すること、を包含する。かかる製造方法によると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が抑制され得るため、安定して高品位な表面を有する磁気ディスク基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1および比較例1に係る研磨用組成物による研磨レート評価試験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は砥粒を含む。上記砥粒は、該砥粒が含まれる研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際に、高い研磨効果を実現する役割を担う成分である。ここに開示される研磨用組成物において、上記砥粒はシリカ砥粒を含むことが好ましい。シリカ砥粒は、シリカから構成されているものであればよく、その限りにおいて特に限定されない。具体的には、シリカ砥粒の例として、コロイダルシリカ砥粒、ヒュームドシリカ砥粒、沈降性シリカ砥粒等が挙げられる。ここに開示されるシリカ砥粒としては、コロイダルシリカ砥粒が好ましく用いられ得る。
【0016】
ここに開示される砥粒の好ましい一態様において、該砥粒の平均投影面積円相当径Da(以下、「平均粒子径Da」と表記する。)は、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。砥粒の平均粒子径Daの増大によって、より高い研磨効率(典型的には研磨レート)が実現され得る。また、より平滑性の高い表面を得やすいという観点から、上記平均粒子径Daは、好ましくは900nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下(例えば100nm以下)である。なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均粒子径Daは、例えば、電子顕微鏡を用いた写真観察により求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、所定個数(例えば500個)の砥粒を観察し、各々の粒子画像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を算出する。その平均値を個数平均で算出することにより、砥粒の平均粒子径Daを求めることができる。
【0017】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)や繭型形状、ラグビーボール形状、数珠形状、鎖形状、分岐鎖形状、その他の細長い形状の砥粒等が挙げられる。非球形をなす砥粒の他の具体例として、金平糖形状の砥粒等が挙げられる。
【0018】
砥粒の平均短径Dsは、通常は15nm以上であることが適切である。研磨レートを向上させる観点から、砥粒の平均短径Dsは、好ましくは25nm以上、より好ましくは45nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。また、上記砥粒の平均短径Dsは、例えば900nm以下とすることが適当であり、平滑性の高い表面を得るという観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下(典型的には100nm以下、例えば80nm以下)とすることが適当である。
【0019】
上記砥粒の平均短径Ds、および、後述する該砥粒の長径/短径比(アスペクト比)は、例えば、電子顕微鏡を用いた写真観察により求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、所定個数(例えば500個)の砥粒を観察し、各々の粒子画像に外接し面積が最小となる長方形を描く。それぞれの粒子画像に対して描かれた長方形について、その短辺の長さを測定し、その平均値を個数平均で算出することにより、砥粒の平均短径Dsを求めることができる。また、上記長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。砥粒の形状(外形)もまた、電子顕微鏡を用いた写真観察により把握することができる。
【0020】
特に限定するものではないが、砥粒の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。砥粒の平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0021】
研磨用組成物中における砥粒の含有量(すなわち、研磨用組成物の砥粒濃度)は、特に制限されない。上記砥粒濃度は、例えば300g/L以下とすることができ、通常は200g/L以下が好ましく、150g/L以下がより好ましく、100g/L以下がさらに好ましい。また、上記砥粒濃度は、10g/L以上であることが好ましく、より好ましくは30g/L以上である。砥粒濃度を上述する下限値以上とすると、研磨レートが向上する傾向があるため好ましい。砥粒濃度を上述する上限値以下とすると、コストの面で実用上好ましい。
【0022】
<無機粒子>
ここに開示される研磨用組成物は無機粒子を含む。上記無機粒子は、研磨パッドの長時間使用による劣化に拘らず、シリカ砥粒の機械的研磨力を研磨対象物に対してより効果的に作用させることを可能とし、これにより研磨レートの低下を抑制する役割を担う成分である。
【0023】
無機粒子の材質は特に限定されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。無機粒子は、1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0024】
無機粒子の一好適例としては、シリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子、沈降性シリカ質からなる粒子等が挙げられる。ここに開示される無機粒子の一好適例としては、コロイダルシリカ粒子が挙げられる。
【0025】
あるいは、ここに開示される無機粒子の好適な他の一態様では、シリカ粒子以外の粒子が採用され得る。例えば、上記無機粒子としてシリカより硬い粒子(例えばアルミナ粒子など)を用いてもよい。あるいは上記無機粒子としてシリカより柔らかい粒子(例えば酸化マグネシウム粒子など)を用いてもよい。
【0026】
無機粒子の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす無機粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)や繭型形状、ラグビーボール形状、数珠形状、鎖形状、分岐鎖形状、その他の細長い形状の無機粒子等が挙げられる。非球形をなす無機粒子の他の具体例として、金平糖形状の無機粒子等が挙げられる。
【0027】
ここに開示される研磨用組成物において、無機粒子の平均投影面積円相当径Db(以下、「平均粒子径Db」と表記する。)は、通常、砥粒の平均短径Dsより小さい(すなわち、Ds/Db>1)ことが適切であり、DbがDsの50%未満(すなわち、Ds/Db>2)であることが好ましい。このような平均粒子径Dbの無機粒子を含有させることにより、上記無機粒子が滑り止めとして機能し、長時間使用等により劣化した研磨パッドにおいても該研磨パッドが空滑り(スリップ)することが抑制される傾向がある。このため、かかる無機粒子を含む研磨用組成物によると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が抑制され得る。研磨パッドの長時間使用による研磨レート低下をよりよく抑制する観点から、Ds/Dbは3より大きいことが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上、例えば10以上である。Ds/Dbの上限は特に限定されないが、通常は100以下であることが適切であり、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。
【0028】
ここに開示される研磨用組成物の好適な一態様において、無機粒子の平均粒子径Dbは、1nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、例えば8nm以上である。無機粒子の平均粒子径Dbは、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm未満である。
ここで、無機粒子の平均粒子径Dbは、例えば、電子顕微鏡を用いた写真観察により求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、所定個数(例えば500個)の無機粒子を観察し、各々の粒子画像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を算出する。その平均値を個数平均で算出することにより、無機粒子の平均粒子径Dbを求めることができる。
【0029】
研磨用組成物中における無機粒子の含有量(すなわち、研磨用組成物の無機粒子濃度)は、特に制限されない。研磨用組成物の無機粒子濃度は、例えば100g/L以下とすることができ、通常は50g/L以下が好ましく、20g/L以下がより好ましい。また、研磨用組成物の無機粒子濃度は、1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは3g/L以上である。無機粒子濃度を上述する下限値以上とすると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が効果的に抑制され得る。無機粒子濃度を上述する上限値以下とすると、砥粒の含有量を確保することができるため、研磨レートが向上し得る。
【0030】
研磨用組成物中における上記無機粒子の含有量は、上記砥粒100重量部に対して該無機粒子が1重量部以上60重量部以下(より好ましくは3重量部以上50重量部以下、さらに好ましくは5重量部以上30重量部以下)となることが好ましい。無機粒子の含有量が上述する範囲であると、研磨レートの向上と、研磨パッドの長時間使用による研磨レート低下の抑制とがバランスよく両立し得る。
【0031】
研磨用組成物中における上記砥粒と上記無機粒子との合計濃度は、特に制限されない。上記合計濃度は、通常は350g/L以下とすることが適切であり、好ましくは200g/L以下、より好ましくは150g/L以下、さらに好ましくは120g/L以下、例えば100g/L以下である。また上記合計濃度は、10g/Lより大きいことが好ましく、より好ましくは30g/L以上、さらに好ましくは50g/L以上である。砥粒と無機粒子の合計濃度を上述する範囲とすると、研磨レートの向上と、研磨パッドの長時間使用による研磨レート低下の抑制とがバランスよく両立し得る。
【0032】
ここに開示される無機粒子は、上述のように、主として研磨レートの低下を抑制する目的で使用されるものであり、砥粒として単独で実用レベルの研磨力を発揮するものである必要はない。このため、ここに開示される研磨用組成物は、該研磨用組成物に含まれる無機粒子を同重量の上記シリカ砥粒に置き換えた組成の対照研磨用組成物に比べて、使用開始初期の研磨パッドによる研磨においては研磨レートが低くなり得る。一方、かかる研磨用組成物は、上記無機粒子を含むことにより、研磨時間が例えば20時間以上(好ましくは40時間以上、より好ましくは100時間以上、さらに好ましくは200時間以上)であっても、上記対象研磨用組成物に比べて研磨レートの低下が抑制され得る。その結果、上記研磨パッドの使用期間(例えば200時間程度)全体の平均研磨レートは、上記対照研磨用組成物に比べて上記研磨用組成物のほうが高くなり得る。なお、上記無機粒子は、上述のように砥粒として単独で実用レベルの研磨力を発揮する必要はないが、このことは該無機粒子が若干の研磨力を発揮することを排除するものではない。
【0033】
<電気伝導度>
ここに開示される研磨用組成物の電気伝導度は、10mS/cm以上であることが好ましい。電気伝導度が増大すると、研磨パッドの長時間使用による研磨レートの低下が、より適切に抑制される傾向がある。その理由は必ずしも明らかではないが、例えば、電気伝導度の増大により、該研磨用組成物に含まれる成分間の静電的反撥が低減し、研磨の際に研磨パッドと研磨対象物との間に存在する無機粒子または砥粒の量が増えることが有利に影響すると考えることができる。かかる観点から、電気伝導度は、20mS/cm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは30mS/cm以上(典型的には40mS/cm以上、例えば50mS/cm以上)である。
研磨用組成物の電気伝導度の上限値は、特に限定されないが、通常は500mS/cm以下であることが適切であり、砥粒の過剰な会合を抑制する観点から、好ましくは200mS/cm以下、より好ましくは150mS/cm以下(例えば120mS/cm以下)である。
なお、本明細書において、研磨用組成物の電気伝導度は、該研磨用組成物における砥粒と無機粒子との合計濃度が77.5g/Lである条件下(ただし、砥粒と無機粒子の重量比は研磨用組成物と同じとする。)で測定される電気伝導度のことをいう。
研磨用組成物の電気伝導度の測定は、常法により行うことができる。測定機器としては、例えば、堀場製作所製の導電率計(型式「DS−12」、使用電極「3552−10D」)を使用することができる。電気伝導度の測定に使用する測定サンプルとしては、例えば、上記研磨用組成物を、該研磨用組成物における砥粒と無機粒子との合計濃度が77.5g/Lとなるように水で希釈、または濃縮して調製したものを用いることができる。水としては、イオン交換水、蒸留水、純水等を用いることができる。
【0034】
研磨用組成物の電気伝導度を調整する方法は特に限定されない。例えば、研磨用組成物に適当な量の電解質(塩、酸、アルカリなど)を配合する、該研磨用組成物を希釈または濃縮する、該研磨用組成物の構成成分の一部または全てに対してイオン交換処理を施す等の方法により上記電気伝導度は調節され得る。電気伝導度を調整するための方法は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<塩>
ここに開示される研磨用組成物は、上述した砥粒および無機粒子の他に、塩を含み得る。上記塩は、上記研磨用組成物の中で電離して少なくともその一部が陽イオンまたは陰イオンとして存在することにより、電気伝導度の調整に寄与し得る。上記塩は無機塩であってもよいし、有機塩であってもよい。また上記塩は酸性塩、塩基性塩、または正塩であってもよい。ここに開示される研磨用組成物は、1種の塩を単独で含んでもよいし、2種以上の塩を組み合わせて含んでもよい。
【0036】
塩の例としては、無機酸または有機酸の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の金属塩、例えばアルカリ金属塩;アンモニウム塩、例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;等が挙げられる。塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。ここに開示される研磨用組成物に含まれ得る塩としては、例えば、無機酸の塩が好ましく採用される。典型的には無機酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩を好ましく使用することができる。例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、リン酸カリウム等を好ましく使用し得る。
【0037】
研磨用組成物に塩を含有させる場合、その含有量は特に限定されず、例えば研磨用組成物の電気伝導度が適切な範囲となるように設定することができる。研磨用組成物中の塩の含有量は、通常は、0.01mol/L以上であることが適切であり、好ましくは0.03mol/L以上、より好ましくは0.05mol/L以上、さらに好ましくは0.1mol/L以上(典型的には0.15mol/L以上、例えば0.18mol/L以上)である。塩の含有量が上述する下限値以上であると、研磨パッドの長期使用による研磨レートの低下が効果的に抑制され得る。研磨用組成物中の塩の含有量の上限値は特に限定されない。塩の含有量は、通常は、3mol/L以下であることが適切であり、好ましくは1mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以下、さらに好ましくは0.25mol/L以下である。塩の含有量が上述する上限値以下であると、砥粒および/または無機粒子の過剰な会合または凝集を抑制することができる。
【0038】
<酸>
研磨用組成物は、研磨促進剤として酸を含有することが好ましい。好適に使用され得る酸の例としては、無機酸や有機酸(例えば、炭素原子数が1〜10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸等)が挙げられるが、これらに限定されない。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
無機酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸等が挙げられる。
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ニコチン酸、ピコリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタンヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0039】
研磨用組成物中に酸を含む場合、その含有量は、1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは5g/L以上である。酸の含有量が少なすぎると、研磨レートが低下し、実用上好ましくない場合がある。
また、研磨用組成物中に酸を含む場合、その含有量は、100g/L以下であることが好ましく、より好ましくは50g/L以下である。酸の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなり、実用上好ましくない場合がある。
【0040】
<酸化剤>
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて研磨促進剤として酸化剤を含有することができる。
【0041】
酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0042】
研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは3g/L以上、さらに好ましくは4g/L以上である。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨対象物を酸化する速度が遅くなり、研磨レートが低下するため、実用上好ましくない場合がある。
また、研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、30g/L以下であることが好ましく、より好ましくは15g/L以下である。酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなり、実用上好ましくない場合がある。
【0043】
<塩基性化合物>
研磨用組成物には、塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類、等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0045】
<界面活性剤>
研磨用組成物は、分散安定性向上等の目的で、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、アニオン性のものを好ましく採用し得る。例えば、スルホン酸系のアニオン性界面活性剤を好ましく使用し得る。ここでいうスルホン酸系アニオン性界面活性剤の概念には、スルホン酸系化合物およびその塩が包含される。スルホン酸塩化合物の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等が挙げられる。このようなスルホン酸系化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。スルホン酸系化合物塩の一好適例として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩が挙げられる。
スルホン酸系のアニオン性界面活性剤のなかでも、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレンスルホン酸系化合物およびその塩が好ましい。
【0046】
アニオン性界面活性剤の他の例として、ポリアクリル酸およびその塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)等のポリアクリル酸系アニオン性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤のさらに他の例として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、界面活性剤の含有量を、例えば0.005g/L以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.1g/L以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、100g/L以下とすることが適当であり、好ましくは50g/L以下、例えば10g/L以下である。
【0048】
<その他の成分>
研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤や防腐剤等の、研磨用組成物(典型的には、Ni−P基板等のような磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0049】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0050】
<研磨用組成物>
研磨用組成物のpHは特に限定されない。例えば、研磨レートや表面平滑性等の観点から、pH4以下が好ましく、pH3以下がより好ましい。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、Ni−Pの研磨に用いられる研磨液に好ましく適用され得る。
【0051】
上述のような研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物(磁気ディスク基板)に供給されて、該研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液との双方が包含される。
【0052】
研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(濃縮液の形態)であってもよい。かかる濃縮液の形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍〜50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は、2倍〜20倍(典型的には2倍〜10倍)程度の濃縮倍率が適当である。
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で好適に使用することができる。
【0053】
<研磨パッド>
ここに開示される方法に用いられる研磨パッドは特に限定されない。一好適例として、少なくとも研磨面に発泡ポリウレタンを有する研磨パッドが挙げられる。上記研磨パッドは、例えば、全体が発泡ポリウレタンにより構成されている研磨パッド、発泡ポリウレタンの層が不織布等のパッド基材に支持された研磨パッド等であり得る。研磨面を構成する発泡ポリウレタンとしては、典型的には、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡体が用いられる。
【0054】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、各種の磁気ディスク基板の研磨に使用され得る。好ましい適用対象として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni−P基板)が例示される。上記基材ディスクは、例えば、アルミニウム合金製、ガラス製、ガラス状カーボン製等であり得る。このような基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも好ましい適用対象として、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するNi−P基板が挙げられる。
【0055】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下のようにして使用することができる。すなわち、研磨パッドが装着された研磨装置に研磨対象物としての磁気ディスク基板をセットし、該研磨対象物と前記研磨パッドとの間にここに開示されるいずれかの研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。そして、典型的には上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドが押しつけられた状態で両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
上述のような研磨工程は、磁気ディスク基板(例えば、Ni−P基板等の磁気ディスク基板)の製造プロセスの一部であり得る。したがって、この明細書によると、上記研磨工程を含む基板の製造方法が提供される。上記研磨パッドとしては、発泡ポリウレタン製の研磨面を有する研磨パッドが特に好ましい。
【0056】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0057】
<実施例1>
砥粒68.7g/L、無機粒子8.9g/L(砥粒100部に対して12.9部)、硝酸(HNO)20g/L、塩化カリウム(KCl)14.9g/L、過酸化水素(H)6.2g/L、残部がイオン交換水となるようにして研磨用組成物を調製した。上記研磨用組成物のpHは0.6であった。
上記砥粒としては、平均粒子径Daが68.9nm、平均短径Dsが63.9nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均粒子径Daは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて500個の砥粒を観察し、各々の粒子画像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を算出し、その平均値を算出することにより求めた。同様に、上記平均短径Dsは、SEMを用いて500個の砥粒を観察し、各々の粒子画像に対して描かれた長方形について、その短辺の長さを測定し、その平均値を算出することにより求めた。
無機粒子としては、平均粒子径Dbが19nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均粒子径Dbは、SEMを用いて500個の砥粒を観察し、各々の粒子画像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を算出し、その平均値を算出することにより求めた。
上記研磨用組成物における砥粒と無機粒子との合計濃度は77.5g/L(7.5%)である。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、110mS/cmであった。上記電気伝導度は堀場製作所製の導電率計(型式「DS−12」、使用電極「3552−10D」)を使用して測定した(以下の各例において同じ)。
【0058】
<実施例2>
硝酸の濃度を8g/Lとすること以外は、上述する実施例1に係る研磨用組成物の作製方法と同様の方法により研磨用組成物を作製した。上記研磨用組成物のpHは1.1であった。上記研磨用組成物における砥粒と無機粒子との合計濃度は77.5g/Lである。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、57mS/cmであった。
【0059】
<実施例3>
砥粒73.0g/L、無機粒子4.5g/L(砥粒100部に対して6.2部)、硝酸8g/L、塩化カリウム14.9g/L、過酸化水素6.2g/L、残部がイオン交換水となるようにして研磨用組成物を調製した。上記研磨用組成物のpHは1.1であった。上記研磨用組成物における砥粒と無機粒子との合計濃度は77.5g/Lである。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、57mS/cmであった。
【0060】
<実施例4>
塩化カリウムの濃度を7.9g/Lとすること以外は、上述する実施例3に係る研磨用組成物の作製方法と同様の方法により研磨用組成物を作製した。上記研磨用組成物のpHは1.1であった。上記研磨用組成物における砥粒と無機粒子との合計濃度は77.5g/Lである。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、49mS/cmであった。
【0061】
<比較例1>
砥粒77.5g/L、硝酸20g/L、過酸化水素6.1g/L、残部がイオン交換水となるようにして研磨用組成物を調製した。上記研磨用組成物のpHは0.6であった。
上記砥粒としては、実施例1で使用したものと同様のコロイダルシリカを使用した。上記研磨用組成物における砥粒濃度は7.5%である。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、95mS/cmであった。
【0062】
<比較例2>
硝酸の濃度を8g/Lとすること以外は、上述する比較例1に係る研磨用組成物の作製方法と同様の方法により研磨用組成物を作製した。上記研磨用組成物のpHは1.1であった。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、39mS/cmであった。
【0063】
<比較例3>
砥粒77.5g/L、硝酸8g/L、塩化カリウム14.9g/L、過酸化水素水6.1g/L、残部がイオン交換水となるようにして研磨用組成物を調製した。上記研磨用組成物のpHは1.1であった。上記砥粒としては、実施例1で使用したものと同様のコロイダルシリカを使用した。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、110mS/cmであった。
【0064】
<比較例4>
硝酸の濃度を1.5g/Lとすること以外は、上述する比較例1に係る研磨用組成物の作製方法と同様の方法により研磨用組成物を作製した。上記研磨用組成物のpHは1.6であった。上記研磨用組成物の電気伝導度を測定したところ、9.8mS/cmであった。
【0065】
<研磨パッド>
湿式成膜法により作製された発泡ポリウレタンを研磨面に有する研磨パッド(FILWEL社製、商品名「NP−378」)を用意した。
【0066】
<研磨レート評価>
実施例1および比較例1に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用し、後述する研磨条件で磁気ディスク基板を研磨したときの研磨レートを測定した。また、研磨レートと研磨時間との関係について調べた。研磨対象基板としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えた直径3.5インチ(約95mm)、厚さ1.27mmのハードディスク用アルミニウム基板を使用した。Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS−3000WRC」により測定した上記ニッケルリンめっき層の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))は、研磨前において130Åであった。研磨時間は40時間までとし、研磨開始から所定の時間が経過するごとに研磨対象物である磁気ディスク基板の重量を測定し、それを研磨により除去された磁気ディスク基板の厚さに換算することにより、研磨レートを算出した。
【0067】
研磨レート評価試験における研磨条件としては以下の通りとした。
研磨装置:両面研磨装置(システム精工社製「9.5B−5P」)
研磨荷重:120g/cm
基板装填枚数:3枚/キャリア×5キャリア(計15枚)
上定盤回転数:27rpm
下定盤回転数:36rpm
サンギア回転数:8rpm
研磨液の供給レート:135mL/分
研磨液の温度:25℃
リンス:イオン交換水(1〜1.5L/分)
【0068】
実施例1および比較例1に係る研磨用組成物を用いて上述する研磨条件において研磨を行ったときの、研磨レートと研磨時間の関係を図1に示した。図1における縦軸は研磨レート(単位:μm/分)を示し、横軸は研磨時間(単位:時間)を示す。
【0069】
図1に示された結果から明らかなように、実施例1に係る研磨用組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨すると、30時間の研磨をした場合であっても良好な研磨レートが維持されることが確認された。一方、比較例1に係る研磨用組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨した場合は、研磨開始初期の研磨レートは実施例1と比較して高いものの、その後、研磨レートが低下していき、30時間経過した時点では実施例1に係る研磨用組成物よりも研磨レートが明らかに低くなっていた。比較例1に係る研磨用組成物を用いて40時間経過した時点の研磨レートは、研磨開始初期の研磨レートの60%以下となった。
【0070】
次に、実施例1〜4および比較例1〜4に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用し、40時間研磨した時の研磨レート(すなわち劣化研磨パッドを用いたときの研磨レート)およびモータートルクを測定した。具体的には、研磨開始から40時間を経過した時点における基板の重量と、そこから再び10分間研磨した時点の基板の重量を測定し、それらの差から研磨レートを算出した。モータートルクは、研磨開始から40時間が経過した時点における下定盤のモーターにかかるトルクを記録することより求めた。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の実施例1〜4と比較例1〜4との比較からわかるように、硝酸濃度20g/L、8g/Lのいずれの場合にも、無機粒子の使用により、劣化後研磨レート(すなわち、40時間の研磨によって劣化した研磨パッドによる研磨レート)およびモータートルクが明らかに改善された。実施例1〜4の対比から、電気伝導度が大きくなると劣化後研磨レートおよびモータートルクの改善効果が大きくなる傾向にあることがわかる。また、比較例2と3の比較からわかるように、劣化後研磨レートは、塩化カリウムの添加によっても若干改善する傾向はみられたが、その改善効果は無機粒子を含まない系では小さかった。また、塩化カリウムを使用しない場合であって、無機粒子が含まれる場合と含まれない場合とでモータートルクを比較したところ、無機粒子が含まれる場合の方が40時間経過後にもモータートルクが高く維持されることが確認された。電気伝導度が9.8mS/cmである比較例4は、比較例2に比べて劣化後研磨レートがさらに低かった。
【0073】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
図1