【文献】
GILMAN, J. W., et al.,Polymer/Layered Silicate Nanocomposites from Thermally Stable Trialkylimidazolium-Treated Montmorillonite,Chem. Mater.,2002年 8月16日,Vol.14,p.3776-3785
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、下記の順序で詳細に説明する。但し、本発明に関する詳細は、以下で説明する態様に限定されず、適宜変更可能である。
【0021】
1.層状物質含有液
1−1.イオン液体
1−1−1.カチオン
1−1−2.アニオン
1−2.層状物質
1−3.他の材料
2.層状物質含有液の製造方法
2−1.層状物質含有液の調整
2−2.層状物質含有液の精製
3.作用及び効果
【0022】
<1.層状物質含有液>
まず、層状物質含有液の構成について説明する。
【0023】
層状物質含有液は、イオン液体及び層状物質を含有しており、その層状物質は、イオン液体中に分散されている。
【0024】
<1−1.イオン液体>
イオン液体は、液体の塩であり、カチオン及びアニオンを含んでいる。
【0025】
<1−1−1.カチオン>
カチオンは、下記の式(1)で表される陽イオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。
【0026】
【化4】
(式中、R1及びR2のそれぞれは、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。R3〜R6のそれぞれは、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。R7及びR8のそれぞれは、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであり、R7及びR8のうちの少なくとも1つは、1価の無置換炭化水素基である。R9は、下記の式(2)及び式(3)のそれぞれで表される2価の基のうちのいずれかである。nは、0以上の整数である。)
【0027】
【化5】
(式中、R10及びR11のそれぞれは、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。Z1は、エーテル結合(−O−)、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかである。m1は、1以上の整数である。)
【0028】
【化6】
(式中、R12〜R15のそれぞれは、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。Z2は、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかである。m2及びm3のそれぞれは、1以上の整数である。)
【0029】
R1及びR2のそれぞれの種類は、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のそれぞれは、直鎖状でもよいし、1又は2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。R1及びR2は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。
【0030】
1価の無置換炭化水素基は、上記したように、炭素及び水素により構成される1価の基の総称であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基及びそれらの2種類以上が1価となるように結合された基等である。
【0031】
アルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、イソアミル基、t−アミル基、ヘキシル基及びヘプチル基等である。アルケニル基の具体例は、ビニル基及びアリル基等である。アルキニル基の具体例は、エチニル基等である。シクロアルキル基の具体例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基等である。アリール基の具体例は、フェニル基及びナフチル基等である。
【0032】
1価の無置換炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、極端に多すぎないことが好ましい。具体的には、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基のそれぞれの炭素数は、1〜7であることが好ましい。シクロアルキル基及びアリール基のそれぞれの炭素数は、6又は7であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
【0033】
1価の有置換炭化水素基は、上記したように、1価の無置換炭化水素基に1又は2以上の置換基が導入された基である。すなわち、1価の有置換炭化水素基では、1価の無置換炭化水素基のうちの1又は2以上の水素原子が置換基により置換される。この置換基の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0034】
置換基の種類は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO
2 )、水酸基(−OH)、チオール基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)、アルデヒド基(−CHO)、アミノ基(−NR21
2 )、それらの塩及びそれらのエステルなどである。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)等である。アミノ基(−NR21
2 )のうちのR21のそれぞれは、水素原子及び1価の無置換炭化水素基のうちのいずれかであり、その1価の無置換炭化水素基に関する詳細は、上記した通りである。もちろん、置換基の種類は、上記以外の基でもよい。
【0035】
R3〜R6のそれぞれの種類は、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。R3〜R6は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、R3〜R6のうちの一部が同じ基でもよい。1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
【0036】
繰り返し単位の数を決定するnの値は、0以上の整数であれば、特に限定されない。すなわち、nの値は、0でもよいし、1以上の整数でもよい。中でも、nは、30以下の整数であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
【0037】
R7及びR8のそれぞれの種類は、原則として、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。R7及びR8は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。nが2以上の整数であるため、R8が複数ある場合には、R7及びR8のうちの一部が同じ基でもよい。1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
【0038】
ただし、R7及びR8のうちの1つ又は2つ以上は、1価の無置換炭化水素基である。このため、R7及びR8に1価の無置換炭化水素基が含まれていれば、その1価の無置換炭化水素基の数は、1つだけでもよいし、2つ以上でもよい。すなわち、R8が複数ある場合には、R7が1価の無置換炭化水素基でもよいし、複数のR8のうちの1つ以上が1価の無置換炭化水素基でもよい。R7及びR8のうちの1つ以上が1価の無置換炭化水素基であるのは、R7及びR8に1価の無置換炭化水素基が含まれていない場合と比較して、層状物質の分散性等が向上するからである。
【0039】
より具体的には、nの値が0である場合には、R7は、1価の無置換炭化水素基であることが好ましい。または、nの値が1以上の整数である場合には、R7及びR8のうちの1つ以上が1価の無置換炭化水素基であればよいが、中でも、R7及びR8のうちの全ては、1価の無置換炭化水素基であることが好ましい。いずれの場合においても、層状物質の分散性等がより向上するからである。
【0040】
尚、R7及びR8のうちの1つ以上である1価の無置換炭化水素基の種類は、上記した1価の無置換炭化水素基に関する候補のうちのいずれかであれば、特に限定されない。中でも、1価の無置換炭化水素基は、nの値に関係せずに、アルキル基であることが好ましい。層状物質の分散性等がより向上するからである。
【0041】
R9は、式(2)に示した2価の基でもよいし、式(3)に示した2価の基でもよい。nが2以上の整数であるため、R9が複数ある場合には、その複数のR9は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、複数のR9のうちの一部が同じ基でもよい。
【0042】
R10及びR11のそれぞれの種類は、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のそれぞれは、直鎖状でもよいし、1又は2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。R10及びR11は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。m1が2以上であるため、R10が複数ある場合には、その複数のR10は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、複数のR10のうちの一部が同じ基でもよい。
【0043】
2価の無置換炭化水素基は、上記したように、炭素及び水素により構成される2価の基の総称であり、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキル基、アリーレン基及びそれらの2種類以上が2価となるように結合された基等である。
【0044】
アルキレン基の具体例は、メタン−1,1−ジイル基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、エタン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基及びブタン−2,3−ジイル等である。アルケニレン基の具体例は、ビニレン基等である。アルキニレン基の具体例は、エチニレン基等である。シクロアルキレン基の具体例は、シクロプロピレン基及びシクロブチレン基等である。アリーレン基の具体例は、フェニレン基及びナフチレン基等である。
【0045】
2価の無置換炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、極端に多すぎないことが好ましい。具体的には、アルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基のそれぞれの炭素数は、1〜4であることが好ましい。シクロアルキレン基及びアリーレン基のそれぞれの炭素数は、6であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
【0046】
2価の有置換炭化水素基は、上記したように、2価の無置換炭化水素基に1又は2以上の置換基が導入された基である。尚、置換基の種類等に関する詳細は、上記した通りである。
【0047】
Z1の種類は、エーテル結合、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。m1が2以上であるため、Z1が複数ある場合には、その複数のZ1は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、複数のZ1のうちの一部が同じ基でもよい。
【0048】
2価の無置換芳香族炭化水素基は、上記したように、炭素及び水素により構成されると共に環状の共役系構造を有する2価の基の総称であり、例えば、アリーレン基等である。このアリーレン基の具体例は、単環式のフェニレン環等であると共に、多環式のナフチレン基等である。
【0049】
2価の無置換芳香族炭化水素基は、2つの結合手を有しているが、その2つの結合手の位置は、特に限定されない。一例を挙げると、2価の無置換芳香族炭化水素基がフェニレン基である場合において、1つ目の結合手の位置に対する2つ目の結合手の位置は、オルト位でもよいし、メタ位でもよいし、パラ位でもよい。中でも、2つ目の結合手の位置は、パラ位であることが好ましい。イオン液体の化学的安定性が向上すると共に、分散性等も向上するからである。
【0050】
2価の有置換芳香族炭化水素基は、上記したように、2価の無置換芳香族炭化水素基に1又は2以上の置換基が導入された基である。尚、置換基の種類等に関する詳細は、上記した通りである。
【0051】
繰り返し単位の数を決定するm1の値は、1以上の整数であれば、特に限定されない。中でも、m1は、30以下の整数であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
【0052】
R12〜R15のそれぞれの種類は、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。R12〜R15は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、R12〜R15のうちの一部が同じ基でもよい。m2が2以上であるため、R13が複数ある場合には、その複数のR13は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。また、複数のR13のうちの一部が同じ基でもよい。同様に、m3が2以上であるため、R14が複数ある場合には、その複数のR14は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。また、複数のR14のうちの一部が同じ基でもよい。2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
【0053】
Z2の種類は、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
【0054】
繰り返し単位の数を決定するm2及びm3のそれぞれの値は、1以上の整数であれば、特に限定されない。中でも、m2及びm3のそれぞれは、30以下の整数であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
【0055】
中でも、カチオンの構成は、以下の条件を満たしていることが好ましい。容易に合成可能であると共に、層状物質の分散性等がより向上するからである。
【0056】
両末端に位置するR1及びR2のそれぞれは、直鎖状のアルキル基であることが好ましく、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基及びn−ヘキシル基等であることが好ましい。イミダゾリウム環に導入されるR3〜R6のそれぞれは、水素原子であることが好ましい。イミダゾリウム環に導入されるR7及びR8のそれぞれは、直鎖状のアルキル基であることが好ましく、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基及びn−ヘキシル基等であることが好ましい。イミダゾリウム環同士を接続させる基に導入されるR10〜R15のそれぞれは、直鎖状のアルキレン基であることが好ましく、より具体的には、エチレン基であることが好ましい。
【0057】
繰り返し単位の数を決定するnの値は、0〜2の整数であることが好ましい。nの値が大きくなりすぎると、イオン液体の粘度が増大するため、後述する層状物質含有液の製造工程において、音波等の照射による効果(層状物質の剥離しやすさ)が得られにくくなる可能性があるからである。また、層状物質含有液の精製処理を行う必要がある場合には、その精製処理を行いにくくなる可能性があるからである。
【0058】
m1の値は、1〜5の整数であることが好ましいと共に、m2及びm3のそれぞれの値は、2又は3であることが好ましい。
【0059】
尚、上記した1価の無置換炭化水素基には、以下で説明する連結基のうちのいずれか1種類または2種類以上が導入されていてもよい。
【0060】
この連結基の種類は、2価の基であれば、特に限定されない。連結基の具体例は、−O−)、−CO−、−COO−、−OCO−、−NR22−及び−S−等である。R22は、水素原子及び1価の無置換炭化水素基のうちのいずれかである。
【0061】
ここで説明する連結基は、1価の無置換炭化水素基に、炭素鎖を一回又は二回以上分断するように導入される。一例を挙げると、エチル基(−CH
2 −CH
3 )に1つのエーテル基が導入されると、−CH
2 −O−CH
3 になる。または、プロピレン基(−CH
2 −CH
2 −CH
3 )に2つのエーテル基が導入されると、−CH
2 −O−CH
2 −O−CH
3 になる。
【0062】
このように連結基が導入されてもよいことは、1価の有置換炭化水素基、2価の無置換炭化水素基、2価の有置換炭化水素基、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のそれぞれに関しても同様である。
【0063】
一例を挙げると、エチレン基(−CH
2 −CH
2 −)に1つのエーテル基が導入されると、−CH
2 −O−CH
2 −になる。または、プロピレン基(−CH
2 −CH
2 −CH
2 −)に2つのエーテル基が導入されると、−CH
2 −O−CH
2 −O−CH
2 −になる。
【0064】
<1−1−2.アニオン>
アニオンは、任意の陰イオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。
【0065】
陰イオンは、例えば、pAn
q-で表される。但し、An
q-は、q価の陰イオンである。pは、イオン液体の全体を中性に保つために必要な係数であり、そのpの値は、陰イオンの種類に応じて決定される。pとqとの積(p×q)は、カチオンの全体の価数に等しくなる。
【0066】
1価の陰イオンは、例えば、ハロゲンイオン、無機系イオン、有機スルホン酸系イオン及び有機リン酸系イオン等である。
【0067】
ハロゲンイオンの具体例は、塩素イオン(Cl
- )、臭素イオン(Br
- )、ヨウ素イオン(I
- )及びフッ素イオン(F
- )等である。
【0068】
無機系イオンの具体例は、過塩素酸イオン(ClO
4-)、塩素酸イオン(ClO
3-)、チオシアン酸イオン(SCN
- )、六フッ化リン酸イオン(PF
6-)、六フッ化アンチモンイオン(SbF
6-)及び四フッ化ホウ素イオン(BF
4-)等である。
【0069】
有機スルホン酸系イオンの具体例は、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン、2−アミノ−4−メチル−5−クロロベンゼンスルホン酸イオン及び2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸イオン等である。この他、特開平8−253705号公報、特表2004−503379号公報、特開2005−336150号公報、及び国際公開2006/28006号公報等に記載されている有機スルホン酸イオンでもよい。
【0070】
有機リン酸系イオンの具体例は、オクチルリン酸イオン、ドデシルリン酸イオン、オクタデシルリン酸イオン、フェニルリン酸イオン、ノニルフェニルリン酸イオン及び2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸イオン等である。
【0071】
この他、1価の陰イオンの具体例は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン((CF
3 SO
2 )
2 N
- )、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドイオン((C
4 F
9 SO
2 )
2 N
- )、パーフルオロ−4−エチルシクロヘキサンスルホネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボイオン及びジベンゾイル酒石酸アニオン等でもよい。
【0072】
2価の陰イオンの具体例は、ベンゼンジスルホン酸イオン及びナフタレンジスルホン酸イオン等である。
【0073】
中でも、アニオンは、塩素イオン、臭素イオン、六フッ化リン酸イオン、四フッ化ホウ素イオン及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオンのうちのいずれかであることが好ましく、六フッ化リン酸イオンであることがより好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
【0074】
<1−2.層状物質>
層状物質は、上記したように、層状の薄い物質であり、いわゆるナノシートである。
【0075】
この層状物質は、単層に限らず、層数が十分に少なければ、多層でもよい。尚、ここで説明する層状物質は、後述する層状物質含有液の製造工程において、複数の層状物質が積層された多層構造を有する積層物から剥離したものである。尚、層状物質の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0076】
層状物質は、1種類の元素だけを構成元素として含んでいる物質(単元素層状物質)でもよいし、2種類以上の元素を構成元素として含んでいる物質(多元素層状物質)でもよい。但し、多元素層状物質では、各層が2種類以上の元素を構成元素として含んでいる。
【0077】
単元素層状物質の種類は、特に限定されない。この単元素層状物質の具体例は、グラファイト等である。
【0078】
多元素層状物質の種類は、特に限定されない。この多元素層状物質は、例えば、金属カルコゲン化物、金属酸化物・金属オキシハロゲン化物、金属リン酸塩、粘土鉱物・ケイ酸塩、複水酸化物、層状チタン酸化物、層状ペロブスカイト酸化物及び窒化ホウ素類等である。
【0079】
金属カルコゲン化物の具体例は、MX
2 (Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo及びW等である。Xは、S、Se及びTe等である。)及びMPX
3 (Mは、Mg、V、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Cd及びIn等である。Xは、S、Se及びTe等である。)等である。
【0080】
金属酸化物・金属オキシハロゲン化物の具体例は、M
x O
y (Mは、Ti、Mn、Mo及びV等である。)、MOXO
4 (Mは、Ti、V、Cr及びFe等である。Xは、P及びAs等である。)、MOX(Mは、Ti、V、Cr及びFe等である。Xは、Cl及びBr等である。)、LnOCl(Lnは、Yb、Er及びTm等である。)、K[Ca
2 Na
n-3 Nb
n O
3n+1](nは、3≦n<7を満たす。)で表されるニオブ酸塩、及びチタン酸塩等である。尚、M
x O
y の具体例は、MoO
3 、Mo
18O
52、V
2 O
5 、LiNbO
2 及びLi
x V
3 O
8 等である。チタン酸塩の具体例は、K
2 Ti
4 O
9 及びKTiNbO
5 等である。
【0081】
金属リン酸塩の具体例は、M(HPO
4 )
2 (Mは、Ti、Zr、Ce及びSn等である。)及びZr(ROPO
3 )
2 (Rは、H、Rh及びCH
3 等である。)等である。
【0082】
粘土鉱物・ケイ酸塩の具体例は、スメクタイト族、カオリン族、パイロフィライト−タルク、バーミキュライト、雲母群、脆雲母群、緑泥石群、セピオライト−パリゴルスカイト、イモゴライト、アロフェン、ヒシンゲライト、マガディアイト及びカネマイト等である。尚、スメクタイト族の具体例は、モンモリロナイト及びサポナイト等である。カオリン族の具体例は、カオリナイト等である。
【0083】
複水酸化物の具体例は、[M
2+1-x M
3+x (OH)
2 ][An
- ]
x/n ・zH
2 O(M
2+は、Mg
2+及びZn
2+等である。M
3+は、Al
3+及びFe
3+等である。An
- は、任意のアニオンである。)等である。
【0084】
層状チタン酸化物の具体例は、二チタン酸カリウム(K
2 Ti
2 O
5 )及び四チタン酸カリウム(K
2 Ti
4 O
9 )等である。
【0085】
層状ペロブスカイト酸化物の具体例は、KCa
2 Nb
3 O
10、KSr
2 Nb
3 O
10及びKLaNb
2 O
7 等である。
【0086】
窒化ホウ素類は、窒素(N)及びホウ素(B)を構成元素として含む化合物の総称である。この窒化ホウ素類の具体例は、窒化ホウ素(BN)及び窒化炭素ホウ素(BCN)等である。
【0087】
尚、層状物質の平均粒径は、特に限定されないが、中でも、100μm以下であることが好ましく、1μm〜100μmであることがより好ましい。分散性等が向上するからである。この平均粒径は、いわゆるメジアン径(累積50%に相当するD50)である。
【0088】
<1−3.他の材料>
尚、層状物質含有液は、上記したイオン液体及び層状物質と一緒に、他の材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含有していてもよい。
【0089】
他の材料は、例えば、式(1)に示したカチオンを含んでいないイオン液体(他のイオン液体)である。他のイオン液体の具体例は、ブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート及びブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等である。
【0090】
また、他の材料は、例えば、有機溶剤(イオン液体を除く)である。有機溶剤の具体例は、水及びエタノール等である。
【0091】
<2.層状物質含有液の製造方法>
次に、上記した層状物質含有液の製造方法について説明する。尚、以下では、複数の層状物質が積層された多層構造を有する積層物を「層状積層物」という。
【0092】
<2−1.層状物質含有液の調製>
層状物質含有液を調製する場合には、最初に、例えば、任意の合成手順により、式(1)に示したカチオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上を含むイオン液体を合成する。尚、アニオンの種類は、任意でよい。
【0093】
式(1)に示したnの値が0であるイオン液体を合成する場合には、例えば、原材料として、卜リエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)等と、1,2−ジブチルイミダゾール等とを用いる。
【0094】
nの値が1以上であるイオン液体を合成する場合には、例えば、原材料として、卜リエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)等と、(1,1’−[1,2−エタンジイルビス(オキシ−2−エタンジイル)ビス(イミダゾール)])等と、1,2−ジブチルイミダゾール等とを用いる。
【0095】
尚、イオン液体の詳細な合成手順については、例えば、国際公開第2013/172350号パンフレット等に記載されている。
【0096】
続いて、イオン液体に層状積層物を添加して、そのイオン液体中に層状積層物を含有させる。この場合には、必要に応じて、イオン液体を撹拌してもよい。これにより、イオン液体中に層状積層物が分散される。
【0097】
最後に、層状積層物を含有するイオン液体に、音波及び電波のうちの一方又は双方を照射する。
【0098】
音波の種類は、特に限定されないが、中でも、超音波を用いることが好ましい。層状積層物から層状物質が剥離しやすくなるからである。超音波を用いる場合には、例えば、任意の超音波分散機を使用可能であるが、中でも、ホーンタイプの超音波分散機を用いることが好ましい。超音波の周波数、振幅及び照射時間等の条件は、特に限定されない。一例を挙げると、周波数は10kHz〜1MHz、振幅は1μm〜100μm(ゼロツーピーク値)であると共に、照射時間は1分間以上、好ましくは1分間〜6時間である。
【0099】
電波の種類は、特に限定されないが、中でも、マイクロ波を用いることが好ましい。層状積層物から層状物質が剥離しやすくなるからである。マイクロ波を用いる場合には、例えば、任意のマイクロ波オーブンを使用可能である。マイクロ波の出力、周波数、及び照射時間等の条件は、特に限定されない。一例を挙げると、出力は500W、周波数は2.4GHzであると共に、照射時間は10秒間以上、好ましくは10秒間〜10分間である。但し、出力が1W〜100W、周波数が2.4GHz、照射時間が0.2時間〜48時間である低エネルギーのマイクロ波を用いてもよい。
【0100】
この照射処理により、層状積層物から1又は2以上の層状物質が剥離すると共に、その層状物質がイオン液体中に分散されるため、層状物質含有液が得られる。照射処理後の層状物質含有液中には、層状積層物が残存していてもよいし、残存していなくてもよい。
【0101】
尚、照射工程では、上記した照射条件(周波数等)を変更することで、層状物質の剥離量、すなわち層状物質含有液の濃度を制御できる。このため、層状物質の剥離量が増大するように照射条件を設定することで、高濃度の層状物質含有液が得られる。具体的には、照射時間を長くすれば、層状物質の剥離量が増大するため、層状物質含有液の濃度が高くなる。これにより、層状物質含有液の濃度は、最大で10mg/cm
3 (=10mg/ml)以上、好ましくは20mg/cm
3 (=20mg/ml)以上、より好ましくは40mg/cm
3 (=40mg/ml)以上になる。
【0102】
<2−2.層状物質含有液の精製>
層状物質含有液を調整した後、必要に応じて、その層状物質含有液を精製してもよい。
【0103】
層状物質含有液を精製する場合には、例えば、その層状物質含有液(照射処理後のイオン液体)を遠心分離する。ただし、精製以外の理由により、層状物質含有液を遠心分離してもよい。この場合には、例えば、任意の遠心分離機を使用可能である。遠心分離条件は、任意に設定可能である。この遠心分離処理により、層状物質含有液は、例えば、残存する層状積層物及び不純物等を含む固相と、層状物質を含む液相(上澄み液)とに分離される。尚、層状物質含有液を遠心分離する場合には、その層状物質含有液のうちの一部だけを遠心分離してもよいし、全部を遠心分離してもよい。
【0104】
この遠心分離処理の後、層状物質含有液から液相を回収してもよい。これにより、層状物質含有液から不純物等が除去されるため、その層状物質含有液が精製される。この場合には、遠心分離条件を変更することで、層状物質含有液の濃度(層状物質の純度)を調整できる。
【0105】
<3.作用及び効果>
上記した層状物質含有液及びその製造方法によれば、式(1)に示したカチオンを含むイオン液体に層状積層物を含有させて、その層状積層物を含有するイオン液体に音波等を照射している。この場合には、含有処理及び照射処理という簡単な処理だけを用いているにも関わらず、層状積層物から層状物質が簡単に剥離するため、その層状物質がイオン液体中において高濃度に分散される。しかも、層状物質は安定かつ再現性よく剥離するため、その層状物質の層数は均一化する。また、剥離時において層状物質は破損しにくいため、その層状物質の面積は十分に大きくなる。よって、高品質な層状物質を容易に得ることができる。
【0106】
特に、式(1)において、nが0である場合にはR7が1価の無置換炭化水素基であり、または、nが1以上の整数である場合にはR7及びR8のうちの全てが1価の無置換炭化水素基であれば、層状物質の分散性等が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0107】
また、R7及びR8のうちの1つ以上である1価の無置換炭化水素基がアルキル基であれば、層状物質の分散性等が著しく向上するため、著しく高い効果を得ることができる。
【0108】
また、音波として超音波、電波としてマイクロ波を用いれば、層状積層物から層状物質から剥離しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0109】
また、照射後のイオン液体を遠心分離すると共に、遠心分離後のイオン液体から液相(上澄み液)を回収すれば、層状物質の純度が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0110】
以下では、本発明の実施例について、下記の順序で詳細に説明する。但し、本発明の態様は、ここで説明する態様に限定されない。
【0111】
1.層状物質含有液の製造
2.層状物質含有液の評価
2−1.層数分布
2−2.濃度
【0112】
<1.層状物質含有液の製造>
以下の手順により、層状物質含有液を製造した。
【0113】
(実験例1−1)
イオン液体0.85mlと、層状積層物(グラファイト)87mgとを混合した。イオン液体としては、1-Butyl-2,3-dimethylimidazolium hexafluorophosphate (東京化成工業株式会社製B2474 )を用いた。グラファイトとしては、人造黒鉛(SECカーボン株式会社製SGL-12)を用いた。この人造黒鉛の平均粒径(D50)は12μm、純度は99.8%)であった。
【0114】
イオン液体に関する詳細は、表1に示した通りである。カチオンの構成は、式(1)において、R1=ブチル基(−(CH
2 )
3 CH
3 )、R2=メチル基(−CH
3 )、R3及びR4=水素原子(−H)、R7=メチル基(−CH
3 )、n=0である。アニオンは、六フッ化リン酸イオン(PF
6-)である。すなわち、ここで用いたイオン液体は、R7が1価の無置換炭化水素基であるため、本発明のイオン液体である。
【0115】
【表1】
【0116】
続いて、乳鉢を用いて混合物を磨り潰して(15分間)、イオン液体中に層状積層物が分散された混合液を得た。この場合には、マイクロウェーブ合成装置(Biotage社製Initiator
+ )用のバイアル(0.5ml)に混合液0.68gを投入した後、そのバイアルを密閉した。続いて、マイクロウェーブ合成装置を用いて混合液にマイクロ波を照射した。この場合には、出力=17W、照射時間=6時間とした。これにより、層状物質含有液が得られた。
【0117】
(実験例1−2)
イオン液体として1-Buthyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate(東京化成工業株式会社製B2320 )を用いたことを除き、実験例1−1と同様の手順により層状物質含有液を得た。
【0118】
イオン液体に関する詳細は、表1に示した通りである。カチオンの構成は、式(1)において、R1=ブチル基(−(CH
2 )
3 CH
3 )、R2=メチル基(−CH
3 )、R3及びR4=水素原子(−H)、R7=水素原子(−H)、n=0である。アニオンは、六フッ化リン酸イオン(PF
6-)である。すなわち、ここで用いたイオン液体は、R7が1価の無置換炭化水素基でないため、本発明のイオン液体に該当しないイオン液体である。
【0119】
<2.層状物質含有液の評価>
以下の手順により、層状物質含有液を評価した。
【0120】
<2−1.層数分布>
Nature Materials(”Wetting transparency of graphene”,Javad Rafiee 等,vol.11 ,217 頁〜222 頁,2012年)に記載されている方法を用いて、層状物質含有液中に分散されている層状物質(グラフェン)の層数分布を調べたところ、
図1に示した結果が得られた。この場合には、層状物質含有液のラマンスペクトル(横軸:波数(cm
-1),縦軸:スペクトル強度)を測定した。このラマンスペクトルに基づいて、波数=約2600cm
-1〜約2800cm
-1の範囲内に検出される2Dバンドのラマンピークを判定して、層状物質の層数分布を調べた。
【0121】
図1は、層状物質の層数分布を表している。
図1において、層数が9層以下である物質は、本発明の層状物質を表していると共に、層数が9層よりも大きい物質は、本発明の層状積層物を表している。
【0122】
図1に示した結果から明らかなように、層数分布は、層状物質を分散させるイオン液体の種類(構造)に応じて変動した。
【0123】
詳細には、本発明のイオン液体に該当しないイオン液体を用いた場合(実験例1−2)には、層状積層物(層数>9層)の割合が約25%以上まで増大したため、層状物質(特に層数≦3層)の割合が約22%程度にすぎなかった。
【0124】
これに対して、本発明のイオン液体を用いた場合(実験例1−1)には、層状積層物(層数>9層)の割合が約2%程度まで減少したため、層状物質(特に層数≦3層)の割合が約54%まで増大した。
【0125】
この結果は、式(1)に示したカチオンのうち、R7が1価の無置換炭化水素基(ここではメチル基)であると、R7が1価の無置換炭化水素基でない場合と比較して、層状積層物から層状物質が剥離しやすくなることを表している。
【0126】
<2−2.濃度>
遠心分離機(株式会社久保田製作所製マイクロ冷却遠心機3740)を用いて層状物質含有液を遠心分離(遠心力=20000G)して、その層状物質含有液中に残存している層状積層物を沈降させた。続いて、遠心分離後の層状物質含有液の液相(上澄み液)をPTFEタイプメンブレンフィルタ(ADVANTEC製T010A025A )に通したのち、そのフィルタ上の固形分の重量を測定した。この結果から、層状物質含有液中における層状物質の濃度(mg/cm
3 =mg/ml)=固形分(層状物質)の重量(mg)/上澄み液の体積(cm
3 )を算出したところ、表2に示した結果が得られた。
【0127】
【表2】
【0128】
本発明のイオン液体に該当しないイオン液体を用いた場合(実験例1−2)の濃度は、0.8mg/cm
3 であった。これに対して、本発明のイオン液体を用いた場合(実験例1−1)の濃度は、2.94mg/cm
3 であった。後者の濃度は、前者の濃度の約3.7倍であった。
【0129】
この結果は、上記したカチオンの構成の違いに起因して、R7が1価の無置換炭化水素基(メチル基)である場合には、層状積層物から層状物質が剥離しやすくなるため、イオン液体中における層状物質の分散量が著しく増大することを表している。
【0130】
これらの結果から、式(1)に示したカチオンを含むイオン液体に層状積層物を分散させて、その層状積層物を含有するイオン液体に音波等を照射すると、層状物質が容易に得られた。
【0131】
以上、実施形態及び実施例を挙げながら本発明を説明したが、本発明は実施形態及び実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。