(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、圧着端子に被覆電線を接続する状態を示す斜視図、
図2は、圧着端子の平面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る圧着端子10は、雌型圧着端子であり、ボックス部20および圧着部30を備えている。圧着端子10の圧着部30は、被覆電線50の導体部分であるアルミニウム芯線51に対する圧着接続を許容しており、圧着部30には、被覆電線50が圧着される。
【0020】
圧着端子10における圧着部30には被覆電線50が接続されている。被覆電線50は、アルミニウム芯線51を備えており、アルミニウム芯線51が絶縁被覆52で被覆されて構成されている。アルミニウム芯線51は、アルミニウム素線を束ねて構成されている。さらに、被覆電線50の被覆先端50aよりも前方は、絶縁被覆52からアルミニウム芯線51が露出した電線露出部51aとされている。アルミニウム芯線51は、断面が0.75mm
2となるように、アルミニウム合金線を撚って構成されている。
【0021】
圧着端子10におけるボックス部20は、倒位の中空四角柱体の箱状に構成されている。ボックス部20の内部には、弾性接触片21が設けられている。弾性接触片21は、長手方向Xの後方に向かって折り曲げられ、ボックス部20に挿入される図示しない雄型端子の挿入タブに接触する。また、ボックス部20は、底面部22の長手方向Xと直交する幅方向Yの両側部に連設された側面部23を重なり合うように折り曲げて、長手方向Xの先端側から見て略矩形状に構成している。
【0022】
なお、本実施形態において、長手方向Xとは、
図1に示すように、圧着部30を圧着して接続する被覆電線50の長手方向と一致する方向であり、幅方向Yは長手方向Xに対して略水平な平面上で交差する方向である。また、圧着部30に対するボックス部20の側を前方とし、逆に、ボックス部20に対する圧着部30の側を後方としている。さらに、ボックス部20と圧着部30とを連結する連結部40には、後方に行くにしたがって上昇する傾斜からなる裏面側傾斜部41が形成されている。
【0023】
また、圧着端子10における圧着前の圧着部30は、圧着面31および圧着面31の幅方向Yの両側に延出したバレル構成片32を丸めた端部32a同士を突き合せし、
図2に示すように、端部32a同士を溶接して筒体として形成されている。さらに、圧着部30の後方視形状は略O型とされている。なお、バレル構成片32の長手方向Xの長さは、被覆電線50の長手方向X前方側の先端である被覆先端50aから、長手方向Xの前方で露出する電線露出部51aの長手方向Xの露出長さより長く形成されている。
【0024】
圧着部30における被覆圧着筒状部30aの内面には、幅方向Yの溝である被覆用係止溝33aが形成されている。被覆用係止溝33aは圧着面31の全周にわたって連続する環状の溝を形成している。被覆用係止溝33aは、このような形状で形成されることにより、圧着状態において、被覆電線50が食い込むようにされている。
【0025】
また、電線圧着筒状部30bの内面には、幅方向Yの溝である電線用係止溝33bが、長手方向Xに所定間隔を隔てて3本形成されている。電線用係止溝33bは、断面矩形凹に構成されているとともに、圧着面31の周方向途中位置まで連続する環状の溝を形成している。電線用係止溝33bがこのような形状とされることにより、圧着状態において、電線用係止溝33bにアルミニウム芯線51が食い込むこととなる。こうして、圧着部30とアルミニウム芯線51との導通性を向上している。
【0026】
圧着端子10の板厚は、0.2mm〜0.6mmであることが好ましい。板厚が0.2mm未満であると、端子の強度自体が低下するおそれがある。一方、板厚が0.6mmを超えると、ビードにおいて未貫通箇所が生じる場合がある。
【0027】
また、圧着端子10の材質は、銅又は銅合金であることが好ましい。銅合金としては、例えば、黄銅、りん青銅、コルソン系銅合金等が挙げられる。また、他の銅合金組成の例としては、例えば、Cu−Sn−Cr系銅合金、Cu−Sn−Zn−Cr系銅合金、Cu−Sn−P系銅合金、Cu−Sn−P−Ni系銅合金、Cu−Fe−Sn−P系銅合金、Cu−Mg−P系銅合金、Cu−Fe−Zn−P系銅合金などを挙げることができる。特に、Niを2.0〜2.8質量%、Siを0.45〜0.6質量%、Znを0.4〜0.55質量%、Suを0.1〜0.25質量%、Mgを0.05〜0.2質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金が好ましい。
【0028】
本実施形態では、圧着部30によって圧着端子10と被覆電線50とが接続されることにより、端子付き電線が形成される。また、端子付き電線を複数束ねて、コネクタに挿入することによりワイヤハーネスが形成される。
【0029】
次に、本実施形態に係る圧着端子の製造方法について、
図3を用いて当該製造方法を実施する装置を説明するとともに、
図4を用いて圧着端子の製造手順を説明する。
【0030】
図3に示すように、本実施形態に係る圧着端子の製造装置Mは、図中左側の送り方向上流側から順に配設された、巻出しローラ1と、加工手段であるプレス機2と、レーザ溶接機3と、レーザ加工性検査機4と、巻取りローラ5と、を備えている。さらには、これらの動作が同期するように制御されている。
【0031】
製造装置Mにおける巻出しローラ1は、ロール状に巻回された被加工対象物である銅条Cを所定の速度で巻き出して供給する機構である。巻出しローラ1は、プレス機2によって成型される
図4(b)に示す曲げ加工前圧着端子Taの間隔Lに相当する一定のピッチと、主としてプレス機2におけるプレス加工タイミングを加味して、銅条Cを連続的に送り出す。ただし、後述のように、プレス機2において、銅条Cはプレス加工のタイミングに合わせて間欠的に搬送される。そのため、
図3で示すように、巻出しローラ1とプレス機2との間では、銅条Cに一定のたるみを持たせている。
【0032】
プレス機2は、巻出しローラ1から送られる銅条Cを、図示しない送り機構により間欠的に搬送しながら、打ち抜きや曲げ加工等のプレス成型を施して連鎖端子T2を形成する装置である。
【0033】
具体的には、ロール状から巻き出された
図4(a)に示す銅条Cに対して、一次プレスとして、打ち抜き加工を施すことによって、
図4(b)に示す最終プレス加工前連鎖端子T1が形成される。最終プレス加工前連鎖端子T1における上下キャリア部C1,C2には、搬送時に位置決めを行うため図示しないピンを挿入する送り穴Hが所定ピッチで複数(ここでは連鎖端子T2の位置に合わせて一つずつ)設けられている。
【0034】
続いて、二次プレスとして、曲げ加工を施すことによって、
図4(c)に示す連鎖端子T2が形成される。この連鎖端子T2では、下キャリア部C2は溶接前圧着端子Tbから切断除去されており、上キャリア部C1のみを有する状態となる。また、バレル部Tvとコネクタ部Tcとは、曲げ加工により、
図1に示すように、それぞれ筒状と箱状に形成された状態となる。この状態において、バレル部Tvには、筒状の曲げ加工した部分にできる突き合わせ界面Tdが形成される。
【0035】
レーザ溶接機3は、連鎖端子T2における曲げ加工によって形成された突き合わせ界面Tdと封止部Tfとを、レーザ溶接により接合して
図1および
図2に示す圧着部30を密閉構造にする装置である。レーザ溶接機3の構成およびレーザ溶接機3によるレーザ溶接の方法については、後に詳しく説明する。
【0036】
レーザ加工性検査機4は、レーザ溶接された圧着端子10の加工性の検査を行う装置である。具体的には、レーザ溶接機3においてレーザ溶接された突き合わせ界面Tdにおける溶接具合について、CCDカメラ等の撮像手段により、溶接位置の軸方向での位置ずれ量やビード幅が許容範囲内かを判定するものである。
【0037】
巻取りローラ5は、巻出しローラ1と同様の速度で、連鎖端子T2の巻き取りを行う機構である。なお、巻取りローラ5においても、巻出しローラ1と同様に、前工程のレーザ溶接機3またはレーザ加工性検査機4において、連鎖端子T2がレーザ加工または検査処理のタイミングに合わせて間欠的に搬送されるため、
図3で示すように、巻取りローラ5とレーザ加工性検査機4との間では、連鎖端子T2に一定のたるみを持たせて、間欠搬送と連続搬送との搬送タイミングの相違を吸収するようにしている。
【0038】
なお、上述のように、説明の便宜上、レーザ溶接機3とレーザ加工性検査機4とを別の装置として分けて構成する例を示しているが、レーザ溶接機3の中にレーザ加工性検査機4の機能を組み込むことも可能である。
【0039】
本実施形態に係る圧着端子の製造方法の概要を説明すると、
図4(a)に示す銅条Cについて、プレス機2によってプレス加工を施すプレス工程、およびレーザ溶接機3によってレーザ溶接を施す溶接工程を経て、
図1および
図2に示す圧着端子10を製造する。銅条Cは、表面が錫メッキ(Snメッキ)された黄銅等の銅合金条からなる金属製の加工前板材である。
【0040】
プレス工程では、
図4(b)に示すように、銅条Cに対して打ち抜き加工を施して最終プレス加工前連鎖端子T1を形成する。最終プレス加工前連鎖端子T1は、加工後に圧着端子10となる複数の曲げ加工前圧着端子Ta、並びに複数の曲げ加工前圧着端子Taを接続し搬送時に支持される上キャリア部C1および下キャリア部C2によって構成されている。上キャリア部C1は、曲げ加工前圧着端子Taの上部に配置された帯状の保持部材となる。また、下キャリア部C2は、板材となる曲げ加工前圧着端子Taの下部に配置される。
【0041】
さらに、プレス工程では、最終プレス加工前連鎖端子T1における曲げ加工前圧着端子Taについて、曲げ加工を施し、
図4(c)に示すように、バレル部材となるバレル部Tvとコネクタ部Tcとを備える溶接前圧着端子Tbを形成する。バレル部Tvは、バレル部Tvの側辺同士が互いに並置されて形成された筒体、具体的には側辺同士が付き合わされた筒体となる。それから、バレル部Tvにおける長手方向の一端側であるコネクタ部Tc側の端部を押圧して押し潰し、バレル部Tvにおけるコネクタ部Tc側の開口部を閉塞して閉塞部とする。さらに、バレル部Tvの端部を押し潰すことにより、コネクタ部Tc側に傾斜部Tsを形成し、押し潰されずに残った筒状の部分を筒体部Tpとする。また、傾斜部Tsの先端部が封止部Tfとなる。続いて、溶接工程において、レーザ溶接機3によって、筒体部Tpの突き合わせ部や封止部Tfを溶接する。こうして、
図1および
図2に示す圧着端子10を製造する。ここで、プレス工程について簡易的に説明しているが、通常のプレス機を用いてプレス加工、曲げ加工を組み合わせて製造を行ってもよい。
【0042】
次に、
図5を用いてバレル部Tvの突き合わせ界面Tdの溶接について説明する。
図5(a)は、溶接前圧着端子の溶接を行う状態の側面図であり、
図5(b)は、溶接前圧着端子の溶接を行う状態の断面図である。突き合わせ界面Tdの溶接が行われる溶接前圧着端子Tbにおけるバレル部Tvは、
図5(a)に示すように、封止部Tf、傾斜部Ts、および筒体部Tpを備えている。レーザ光LBは、封止部Tfおよび筒体部Tpに対して垂直に照射される。レーザ光の照射位置Lpの移動軌跡(以下「レーザ軌跡」という)LLを、バレル部Tvにおける筒体部Tpに平行な直線である水平な直線となるようにレーザ光を掃引する。この場合、レーザ光は直線状に移動するので、レーザ照射位置の制御が困難となることを抑制することができる。レーザ出力は100〜1000W、ビームスポット径は20μm〜90μmとするのが好ましい。なお、ここで言うビームスポット径とは、前記筒状体の外表面にレーザ光を集光した際のレーザ出力分布の中心値に対して1/e
2となる出力値のビーム直径のことである。レーザ光の掃引速度は、100〜500mm/secであることが好ましい。
【0043】
図5(b)に示すように、傾斜部Tsが封止部Tfに対してなす角度をθとすると、バレル部Tvの板厚がtであるとき、傾斜部Tsの溶接に係る実際板厚t’は、t/cosθとなる。例えば、傾斜部Tsの角度が60℃である場合、実際板厚は、板厚の2倍となる。また、傾斜部Tsの溶接では、ビームスポットが楕円になり、傾斜部Tsにおける照射面積は、封止部Tfおよび筒体部Tpにおける照射面積の1/cosθ倍である。傾斜部Tsが封止部Tfに対してなす角度を70度以下とすることにより、良好な溶接を行うことができる。また、バレル部Tvへ被覆電線を挿入した際に、傾斜部Tsに沿うようにアルミニウム芯線が配置されるため、良好な電気接続を確保することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、上述したように、ボックス部20と圧着部30で構成する圧着端子10で構成したが、圧着部30を有する圧着端子であれば、上述の圧着端子10におけるボックス部20に挿入接続する挿入タブと圧着部30とで構成する雄型圧着端子でもよく、また、圧着部30のみで構成し、複数本のアルミニウム芯線51を束ねて接続するための圧着端子であってもよい。
【0045】
さらに、圧着端子10は、銅合金によって構成しているが、アルミニウムまたはアルミニウム合金など、その他の金属によって構成することもできる。また、上記実施形態では、側辺同士を互いに並置する態様を突き合わせとしているが、突き合わせに限らず、たとえば重ね合わせなどとすることもできる。この場合、突き合わせ溶接ではなく、重ね合わせ溶接が施される。
【0046】
他方、上記実施形態では、封止部Tfと傾斜部Tsとの接続部分および傾斜部Tsと筒体部Tpとの接続部分はいずれも角形状とされている。これに対して、封止部Tfと傾斜部Tsとの接続部分および傾斜部Tsと筒体部Tpとの接続部分の一方または両方を曲線形状(R形状)とすることもできる。
【0047】
さらに、本発明は、防水や止水処理が必要な銅電線などのアルミニウム以外の金属製の電線にも適用することができる。また、電線径は0.75mm
2に限定されることなく、それ以上それ以下の電線径にも対応可能である。さらに、材料の表面メッキはSn以外の金属メッキでもよく、また下地メッキを施していてもよい。さらに、係止溝はなくてもよく、あるいは複数本あってもよい。この係止溝は、凹(溝)状であるが、凹状の係止溝に代えて凸状の突起を形成することもできる。これらの係止溝や突起の断面形状は菱形や平行四辺形、三角形、丸型などとすることもできる。
【0048】
また、上記実施形態では、溶接前圧着端子において筒体部と封止部との間に傾斜部が形成された例を示したが、
図6に示すように、複数(例えば、2つ)の傾斜部を有していてもよい。傾斜部以外は上記実施形態と同様に、レーザ光LBは、封止部および筒体部に対して垂直に照射される。レーザ光の照射位置Lpの移動軌跡LLを、筒体部Tpに平行な直線である水平な直線となるようにレーザ光を掃引する。
【0049】
さらに、上記実施形態では、封止部と傾斜部と筒体部とを備えたバレル部材における側辺を溶接する例を示したが、溶接対象は筒状に限定されない。
図7に示すように、段差を有する板材であれば、筒状でなくても、同様の溶接方法を適用することができる。まず、第1の水平部材61と、傾斜部材62と、第2の水平部材63とから構成される板材において、第1の水平部材61に対する傾斜部材62の角度が70度以下になるように形成する。このとき、第1の水平部材61と第2の水平部材63とは略平行である。板材60の側辺同士を互いに並置し、第1の水平部材61又は第2の水平部材と略平行にレーザ照射手段を移動させながら、レーザ照射手段から板材60の側辺同士が並置された位置に対してレーザ照射する。これにより、段差を有する板材の側辺同士を良好に溶接することができる。