(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ここに開示されるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法について、好適な一実施形態をもとにして、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。また、各図は模式的に描かれており、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0016】
[リチウムイオン二次電池用電極の製造方法]
ここに開示される電極10の製造方法は、以下の(1)〜(5)の工程:
(1)集電体の用意工程;(2)造粒粉末の用意工程;(3)活物質層の形成工程;(4)接着剤の付与工程;(5)接着剤の硬化工程;を含んでいる。
また、必須ではないが、典型的には、上記(3)活物質層の形成に先立って、上記集電体の表面に第2のバインダを含むバインダ溶液を付与して上記集電体上にベースコート層を形成する工程(ベースコート層の形成工程)を包含し得る。
かかる製造方法は、リチウムイオン二次電池の正極用の電極(正極)および負極用の電極(負極)の何れの製造にも適用することができる。
【0017】
図1は、一実施形態に係る電極の製造工程を示す概略図である。この実施形態では、実際の電池構築に使用する2倍の幅で帯状の電極10を作製し、最後にこれを幅方向に半裁(切断)することで、2枚のリチウムイオン二次電池用電極を一度に製造する。
以下、適宜図面を参照しつつ、各工程について順に説明する。
【0018】
《1.集電体の用意工程》
工程1では、集電体を用意する。集電体としては、電子伝導性に優れ、電池内部で安定に存在する材料からなるものが好ましい。また、軽量化や機械強度、加工のし易さ等を考慮して決定するとよい。例えば、リチウムイオン二次電池の正極を製造する場合には、集電体としてアルミニウム箔が好適である。また、リチウムイオン二次電池の負極を製造する場合には、集電体として銅箔が好適である。集電体の形状はリチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状等の種々の形態を考慮し得る。なかでも、車載用として用いられるような高容量タイプのリチウムイオン二次電池用電極では、長尺シート状(帯状)のものが好適である。
なお、本明細書において「用意する」とは、例えば材料メーカー等から市販品を購入することでもよい。
【0019】
《2.造粒粉末の用意工程》
工程2では、造粒粉末(造粒粒子からなる粉体)を用意する。造粒粉末を構成する各々の造粒粒子は、少なくとも一粒の活物質粒子とバインダとを含んでいる。
図2は、一実施形態に係る造粒粒子1の構成を示す模式図である。ここに示すように、造粒粒子1は典型的には複数の活物質粒子2を含んでいる。かかる造粒粒子1は、個々の活物質粒子2の表面にバインダ4が付着し、さらにその活物質粒子2がバインダ4によって互いに結合された態様であり得る。好適な一態様では、バインダ4が造粒粒子1の内部および外表面に局所的に偏在することなく略均一に分散され配置されている。なお、この造粒粒子1は、活物質粒子2とバインダ4に加えて、さらに他の材料(例えば導電材6)を含んでいても良い。導電材6を含む態様では、当該導電材6が主としてバインダ4中に分散されていることが好ましい。
造粒粒子1の性状は特に限定されないが、生産効率を高める観点やより均質な活物質層を形成する観点等から、例えば平均粒径が凡そ10〜100μm(例えば30〜50μm)であるとよい。なお、本明細書中において「平均粒径」とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわち50%体積平均粒子径をいう。
【0020】
かかる造粒粒子1は、例えば、活物質粒子2およびバインダ4を所定の割合で乾式または湿式で混合して、造粒、分級等を行うことで用意することができる。造粒の手法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法(噴霧造粒法)等を採用することができる。
一好適例では、スプレードライ法を採用する。具体的には、活物質粒子2とバインダ4とを溶媒中で混ぜ合わせた合剤(懸濁液)を乾燥雰囲気中に噴霧し乾燥させることで造粒粒子1を造粒(成形)する。かかる手法では、噴霧される液滴中に含まれる粒子が概ね1つの塊になって造粒されるため、液滴の大きさによって造粒粒子1の大きさや質量等を容易に調整することができる。なお、噴霧される液滴には活物質粒子2とバインダ4以外の材料、例えば導電材6をも含み得る。
【0021】
リチウムイオン二次電池の正極を製造する場合、活物質粒子2としては、従来からリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられている各種の材料を特に限定なく使用することができる。好適例として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO
2)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO
2)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn
2O
4)や、これらの複合体(例えば、LiNi
0.5Mn
1.5O
4、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)の粒子や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩の粒子等が挙げられる。
【0022】
また、リチウムイオン二次電池の負極を製造する場合、活物質粒子2としては、従来からリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる各種の材料を特に限定なく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボンやアモルファスカーボン、これらの複合体(アモルファスコートグラファイト)等に代表される炭素系材料、あるいはリチウム遷移金属酸化物、シリコン化合物等が挙げられる。
【0023】
バインダ4としては、活物質の結合を実現し得る各種の材料のなかから採用する造粒方法に適した材料を選択・使用するとよい。一例として、湿式の造粒方法(例えば上記スプレードライ法)を採用する場合には、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマー材料を用いるとよい。具体例として、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー、メタクリル酸エステルの重合体等のアクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂等が挙げられる。
導電材6としては、例えばカーボンブラックや活性炭等の炭素材料が例示される。かかる導電材6は導電性が乏しい活物質材料を用いる場合に好適に添加され、活物質層内あるいは活物質粒子と集電体の間に好適な導電パスを形成する上で有効である。
【0024】
《ベースコート層の形成工程》
必須の工程ではないが、好適な一態様では、後述する工程3に先立って集電体の表面に第2のバインダを含むバインダ溶液を付与してベースコート層を形成する。これにより、集電体と活物質層とをより強固に密着させることができ、電極としての一体性を高めることができる。本工程は、典型的には、バインダ溶液の用意とバインダ溶液の付与との2つの工程を包含する。
【0025】
すなわち、まずバインダ溶液を用意する。かかるバインダ溶液は、溶媒中にバインダ(第2のバインダ)を分散または溶解させた溶液である。
当該バインダ溶液の溶媒としては、水系の溶媒や有機溶剤を適宜用いることができる。環境負荷の低減や安全衛生の観点からは、水または水を主体とする混合溶媒を好ましく用いることができる。また、有機溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)を用いることができる。当該バインダ溶液のバインダ(第2のバインダ)としては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマー材料を用いるとよい。かかるバインダ(第2のバインダ)は、例えば造粒粉末の作製用として例示したものと同じであってもよく、異なっていてもよい。一例として、溶媒を水系とする場合には、例えば上記ゴム類やセルロース系ポリマー、アクリル系樹脂等を好ましく用いることができる。また、溶媒を有機溶剤系とする場合には、例えば上記ハロゲン化ビニル樹脂を好ましく用いることができる。
例えば、リチウムイオン二次電池の正極を製造する場合には、溶媒としての水に第2のバインダとしてのアクリル系樹脂を混ぜるとよい。また、例えば、リチウムイオン二次電池の負極を製造する場合は、溶媒としての水に第2のバインダとしてのゴム類を混ぜるとよい。
【0026】
次に、上記用意したバインダ溶液を集電体上に付与(典型的には塗布)する。バインダ溶液の付与には、例えば、グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、ディップコーター等の塗布装置を使用することができる。
なお、バインダ溶液は集電体上にべた塗りしてもよく、あるいは所定のパターンで、例えば縦縞状(ストライプ状)やドット状に付与することもできる。
【0027】
このようにして、集電体の表面にベースコート層が形成される。ベースコート層の厚みは、集電体と活物質層との接着性を高めるために、例えば1μm以上(好ましくは2μm以上)の厚みとするとよい。また、抵抗を低減する観点からは、例えば25μm(好ましくは10μm以下)の厚みとするとよい。
好適な一態様では、集電体表面の一部領域にのみバインダ溶液を付与してベースコート層を形成する。一例として、帯状の電極を作製する場合には、長手方向に直交する幅方向において、集電体の全幅よりも狭い幅で、例えば集電体の幅方向の中央付近にのみベースコート層を形成するとよい。換言すれば、集電体の一部領域には、例えば幅方向の端部に沿って、ベースコート層の形成されていない集電体の露出部(ベースコート層非形成部)を維持する(有する)ことが好ましい。かかる集電体露出部は、電池の構築に際して、いわゆる集電部として利用され得る。例えば集電体の幅方向の両端部に集電体露出部を設ける場合においては、おおよその目安として、当該集電体露出部(集電部)の幅長を、集電体の端部に沿って各々10〜15mm程度とするとよい。
【0028】
《3.活物質層の形成工程》
工程3では、集電体(ベースコート層を備えた形態であり得る。)の表面に上記用意した造粒粉末(造粒粒子1の粉体)を供給してプレスする。
図1に示す実施形態では、帯状の集電体12がコンベア等の搬送手段によって所定の速度で予め設定された搬送経路に沿って搬送されている。また、供給装置Fには造粒粉末1が収容されており、上記帯状の集電体12が搬送されるのにあわせて所定の量が所定の幅で集電体12上に連続的に供給されるようになっている。この実施形態では、供給装置Fから篩い(網目状の部材)を通じて予め定められた粒径の造粒粒子1のみを集電体12上に篩い落とすようにしている。
【0029】
必須ではないが、
図1に示す実施形態では、帯状の集電体12が搬送される進行方向において、供給装置Fの下流に、集電体12の表面から垂直方向に向かって所定の間隔を空けて、ヘラのようなスキージーSが配置されている。そして、集電体12上に供給された造粒粉末1が集電体12とスキージーSの隙間に向けて案内され、当該スキージーSで平坦化されるようになっている。これにより、集電体12の表面に供給された余剰の造粒粉末1を的確に除去(カット)することができ、集電体12上に略均質な目付量(単位面積当たりの造粒粉末の質量)の活物質層14を安定的に形成することができる。
スキージーSと搬送される集電体12との間隙(垂直方向のギャップ、換言すれば造粒粉末の供給厚み)は、例えば造粒粉末の平均粒径や形成する活物質層の厚みや目付量(設計目付量)等によって決定すればよい。一例として、高エネルギー密度や高出力密度の要求され得る電池用の正極を作製する場合には凡そ90〜200μm程度(例えば、凡そ100〜150μm程度)に、当該電池用の負極を作製する場合には凡そ100〜300μm程度(例えば、凡そ150〜250μm程度)に調整するとよい。
【0030】
スキージーSによって均された造粒粉末1は、所定の間隔で平衡に配置された一対の圧延ロールR1,R2の隙間に向けて案内される。圧延ロールR1,R2はそれぞれ反対方向に一定の速度で回転しており、造粒粉末1がかかる圧延ロールR1,R2の隙間を通過する際に適当な強さで集電体12に押し付けられ(プレスされ)集電体12上に固着される。同時に、造粒粉末1中でバインダ4の接触箇所が増え、造粒粒子1同士が相互に密着される。これにより、集電体12の表面に活物質粒子2を含む造粒粉末の層(活物質層14)が略一定の厚みで成形される。
圧延ロールR1,R2の材質としては、その圧延面がゴム系材料や金属材料からなるものが例示される。また、圧延ロールR1,R2の間隔(垂直方向のギャップ)は、例えば形成する活物質層14が所望の性状(例えば厚みや空隙率)となるよう調整するとよい。
また、プレス時には適宜加熱等の成形促進手段を併用することもできる。加熱状態でプレスを行うことにより、造粒粉末に含まれるバインダを軟化あるいは溶融させることができ、造粒粒子1同士をより強固に結着させることができる。
【0031】
一例として、電池容量が20Ah以上という比較的高容量タイプの電池に用いられる電極では、以下の条件を参考にして実施することができる。
(正極)
圧延ロールR1,R2の間隔 :正極の厚みと同等(例えば50〜120μm)
ロール線圧 :1〜2t/cm
圧延温度 :25℃(例えば60〜180℃程度まで加熱しても良い)
(負極)
圧延ロールR1,R2の間隔 :負極の厚みと同等(例えば60〜130μm)
ロール線圧 :1〜2t/cm
圧延温度 :25℃(例えば60〜180℃程度まで加熱しても良い)
【0032】
なお、
図1に示す態様では製造工程に一対の圧延ロールR1,R2を配置してロールプレスを1回だけ行う1段圧延法を採用しているが、かかる態様には限定されず、例えばロールプレスを2回以上(典型的には2回)行う多段圧延法を採用することもできる。また、帯状の電極を作製する
図1の態様においては、生産効率の観点からロールプレスを採用しているが、勿論、その他のプレス方法(例えば一対の平板で挟み込んでプレスする方法)を採用することもできる。
【0033】
好適な一態様では、集電体表面の一部領域にのみ造粒粉末を付与して活物質層を形成する。一例として、帯状の電極を作製する場合には、長手方向に直交する幅方向において、集電体の全幅よりも狭い幅で、例えば集電体の幅方向の中央付近にのみ活物質層を形成するとよい。換言すれば、集電体の一部領域には、例えば幅方向の端部に沿って、活物質層の形成されていない領域(活物質層非形成部)を維持する(有する)ことが好ましい。例えば集電体の幅方向の両端部に活物質層非形成部を設ける場合においては、おおよその目安として、当該活物質層非形成部の幅長を、集電体の端部に沿って各々10〜16mm程度とするとよい。
また、例えば、集電体の表面にベースコート層を備える場合には、当該ベースコート層の一部領域にのみ造粒粉末を供給して活物質層を形成するとよい。例えば帯状の集電体を用いる場合には、長手方向に直交する幅方向においてベースコート層の全幅よりも狭い幅で、例えばベースコート層の幅方向の中央付近にのみ活物質層を形成するとよい。換言すればベースコート層の余裕(露出部)を設けることが好ましい。かかるベースコート層の露出部は、例えば幅方向において、凡そ1mm以内、例えば0.1〜1mm程度とするとよい。これにより、集電体と活物質層とをより好適に密着させることができ、剥離強度がより高められた電極を実現することができる。
【0034】
このようにして、集電体の表面に造粒粉末からなる活物質層が形成される。かかる活物質層は、その縁部に、活物質層の最上部から集電体に向かって傾斜する傾斜面を有している。帯状の集電体の長手方向に沿って所定の幅の活物質層を形成する
図1の態様においては、典型的には、活物質層14の幅方向の両縁部に帯状の傾斜面を有している。この傾斜面にはロールプレス時の圧力がかかりにくいため、当該傾斜面では活物質層14の他の領域(例えば幅方向の中央付近)に比べて相対的に集電体12との密着性あるいは活物質層14内の造粒粉末同士の接着性が低くなる傾向にある。そこで、ここに開示される技術では、以下の(4)、(5)の工程を採用するものである。
【0035】
《4.接着剤の付与工程》
工程4では、活物質層14の傾斜面に接着剤を付与する。接着剤の付与には、例えば、スリットダイコーター、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター、コンマコーター、ディップコーター等の塗布装置を使用することができる。なかでもスリットダイコーターを好ましく使用することができる。
図1に示す実施形態では、帯状の集電体12が搬送される進行方向において、圧延ロールR1,R2の下流に接着剤塗布装置Cが配置されている。そして、上記帯状の集電体12が搬送されるのにあわせて所定の量の接着剤が活物質層14の傾斜面に連続的に供給されるようになっている。
【0036】
接着剤としては、活物質層14の縁部における密着性や接着性を物理的に高め得るものであればよく、特に限定されない。例えば、造粒粉末の作製時に使用し得るとして例示したバインダを用いることもできる。ただし、このようなバインダを用いる場合には、付与に際して溶媒中に分散または溶解させてスラリー状に調製する必要があるため、製造過程に乾燥工程(乾燥炉)を設ける必要がある。このため、生産性の向上や省エネルギー、低コストの観点からは乾燥工程の必要ない接着剤の使用が好ましい。すなわち、実質的に溶媒成分を含まない(溶媒の含有量が接着剤全体の5質量%以下、好ましくは1質量%以下の)、いわゆる無溶剤タイプの接着剤を好ましく用いることができる。
【0037】
接着剤の一好適例として、活性エネルギー線硬化型の接着剤が挙げられる。なお、本明細書において「活性エネルギー線硬化型の接着剤」とは、紫外線(UV)、可視光線、赤外線のような光や、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線のような放射線等の活性エネルギー線によって、重合反応、架橋反応、開始剤の分解等の化学反応を引き起こして硬化し得る樹脂組成物をいう。
より具体的には、紫外線硬化型の接着剤、可視光硬化型の接着剤、可視〜近赤外線硬化型の接着剤等に代表される光硬化型の接着剤や、電子線硬化型の接着剤に代表される放射線硬化型の接着剤等と呼ばれる接着剤が例示される。なかでも、取扱性(例えば保存性や塗工性)や硬化時の作業容易性等の観点から、紫外線硬化型の接着剤を好ましく用いることができる。
【0038】
活性エネルギー線硬化型の接着剤は、典型的には、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の樹脂成分を含み、必要に応じて、重合開始剤、増感剤、安定剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤を含み得る。
樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂アクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、シリコンアクリレート等の、アクリロイル基を有する各種のアクリル系樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂等、に代表されるラジカル重合タイプのものや、エポキシカチオン重合タイプのものを用いることができる。なかでも、耐薬品性や耐久性の観点からは主成分(樹脂成分全体の50質量%以上)としてアクリル樹脂を含有するものが好ましい。あるいは、弾性や柔軟性の観点からは、ウレタン結合を有するものが好ましい。また、重合開始剤等の各種添加剤は、例えば樹脂の種類(硬化型)等に応じて適宜選択することができる。例えば光硬化型の接着剤では、光重合開始剤として、例えばアセトフェノンやベンゾフェノン等を用いることができる。
【0039】
また、接着剤の粘度(25℃)は、塗工性等を考慮して、凡そ1000〜10000mPa・s、例えば凡そ1000〜5000mPa・sであるとよい。
【0040】
接着剤の付与厚み(単位面積当たりの接着剤の質量)は、例えば活物質層の性状(典型的には厚み)や電極の形状等にも依るため特に限定されない。一例として、比較的厚めの活物質層を形成する高容量タイプの電極においては、本発明の効果をより高いレベルで発揮する観点から、後述する接着剤の硬化後において上記傾斜面の接着剤層の厚み(集電体表面からみた垂直方向の高さ)が活物質層の平均厚みの70%以上(例えば90%以上)となるように接着剤を付与とするとよい。
また、電池の構築に際して対向する他の一の電極やセパレータとの干渉をより的確に防止する観点からは、後述する接着剤の硬化後において上記傾斜面の接着剤層の厚み(集電体表面からみた垂直方向の高さ)が活物質層の平均厚みの100%未満(好ましくは95%以下)となるように接着剤を付与とするとよい。
【0041】
集電体の一部領域に活物質層の形成されていない活物質層非形成部を有する場合においては、活物質層の傾斜面のみならず、当該活物質層非形成部にも連続的に接着剤を付与することが好ましい。これによって、活物質層の縁部がより安定的に集電体に固着され、電極としての一体性をより高めることができる。例えば、集電体の表面にベースコート層を備える場合には、傾斜面およびベースコート層の少なくとも一部にわたって、好ましくは傾斜面、ベースコート層および集電体の表面の少なくとも一部にわたって、接着剤の付与を行うとよい。
例えば帯状の集電体の一部領域に長尺状の活物質層を備える場合(換言すれば、長手方向に直交する幅方向の一部に活物質層非形成部を備える場合)には、活物質層縁部の傾斜面から活物質層非形成部に向かって幅方向に凡そ2mm以内、例えば0.1〜1mm程度の余裕をもって幅広に接着剤を付与するとよい。これによって、剥離強度がより高められた電極を実現することができる。
【0042】
《5.接着剤の硬化工程》
工程5では、上記付与した接着剤を硬化させる。
硬化の手段は、上記接着剤の種類(硬化性)や設備費等を考慮して適宜決定することができる。一例として、光硬化型の接着剤を使用する場合には、紫外線や可視光線等の光を照射する硬化方法(光重合法)を採用することができる。また、放射線硬化型の接着剤を使用する場合には、電子線等を照射する硬化方法を採用することができる。
図1に示す実施形態では、接着剤として光硬化型(詳細には紫外線硬化型)のものを使用しており、帯状の集電体12が搬送される進行方向において、接着剤塗布装置Cの下流に光源(詳細には紫外線照射装置)UVが配置されている。そして、上記帯状の集電体12が搬送されるのにあわせて、活物質層14の縁部(傾斜面)に付与した接着剤に対して連続的に紫外線が照射されるようになっている。
【0043】
紫外線照射装置UVとしては、波長300〜400nm領域にスペクトル分布を持つものが好適に用いられる。一例として、ケミカルランプ、ブラックライト、メタルハライドランプ、エキシマランプ、高圧水銀灯等が挙げられる。硬化の際の紫外線の照射量は、凡そ100〜1000mJ/cm
2(例えば200〜500mJ/cm
2)とするとよい。照射量を100mJ/cm
2以上とすることで、硬化速度を上げて生産効率を高めることができる。また、照射量を1000mJ/cm
2以下とすることで、紫外線照射による活物質層の劣化を防止することができる。
【0044】
このように、接着剤を硬化させて活物質層縁部の傾斜面に接着剤層を設けることにより、すなわち、傾斜面の一部(例えば50%以上、好ましくは70%以上)あるいは略全部(〜95%)を接着剤層で覆うことにより、当該活物質層縁部の接着強度を高めることができる。その結果、集電体から活物質層が剥離したりあるいは活物質層から活物質が滑落したりすることを未然に防止することができる。
【0045】
図1に示す実施形態で製造される電極10は、帯状の集電体12の幅方向の両端部に沿って活物質層の非形成部(集電部)が設けられ、当該活物質層非形成部の間の領域(幅方向の中央付近の領域)に活物質層14が設けられている。この電極10を幅方向の中心で半分の幅に裁断(半裁)することで、リチウムイオン二次電池用電極が製造される。
【0046】
ここで提案される製造方法は、特に車載用として用いられるような高容量タイプのリチウムイオン二次電池用の電極を製造する際に好ましく採用することができる。すなわち、かかる高容量タイプの電池では、一般的に長尺状(シート状)の電極(正極および負極)を捲回した形態の捲回型の電極体が用いられるが、捲回時には電極に大きなストレス(負荷)がかかるために、とりわけ活物質層の縁部が剥がれたり活物質が滑落したりし易いという問題がある。このため、本発明の適用が特に効果的である。
【0047】
[リチウムイオン二次電池用電極の一実施形態]
図3は、一実施形態に係る電極の断面構造を示す概略図である。
図3(a)に示す態様において、電極20は、集電体22と、当該集電体22上に配置されバインダによって造粒粒子同士が接合された活物質層24とを有している。また、集電体22の幅方向の一方の端部には、活物質層24の形成されていない活物質層非形成部Naが設けられている。
活物質層24の活物質層非形成部Naと接する側の縁部24eには、活物質層の最上部24sから集電体22に向かって傾斜する傾斜面(幅長We)を有している。傾斜面の幅長Weは、活物質層24の平均厚みTa等にも依るが、数mm程度(典型的には1〜5mm程度、例えば3mm程度)であり得る。そして、当該傾斜面から活物質層非形成部Naの幅長Wb(典型的には1mm以内、例えば0.2〜1mm)の範囲にかけて、幅広に接着剤層26が設けられている。この接着剤層26の厚み(鉛直方向の高さ)Tbは、活物質層の平均厚みTaに対して70%以上95%以下の厚みであることが好ましい。また、活物質層非形成部Naのうち接着剤層26の設けられていない領域は、幅長Wcが凡そ10〜15mmであるとよい。かかる領域は、電池構築に際して集電部として好適に使用され得る。
【0048】
また、
図3(b)に示す態様において、電極30は、集電体32と、当該集電体32上に配置されたバインダからなるベースコート層33と、当該ベースコート層上に配置されバインダによって造粒粒子同士が接合された活物質層34とを有している。また、集電体32の幅方向の一方の端部には、活物質層34の形成されていない活物質層非形成部Naが設けられている。そのなかでより端部に近い領域には、ベースコート層33も形成されていないベースコート層非形成部Ncが設けられている。
活物質層34の活物質層非形成部Naと接する側の縁部34eには、活物質層の最上部34sから集電体32に向かって傾斜する傾斜面(幅長We)を有している。傾斜面の幅長Weは、活物質層34の平均厚みTa等にも依るが、数mm程度(典型的には1〜5mm程度、例えば3mm程度)であり得る。そして、当該傾斜面から活物質層非形成部Naの幅長Wb(典型的には2mm以内、例えば1.2〜2mm)の範囲にかけて、幅広に接着剤層36が設けられている。この接着剤層36の厚み(鉛直方向の高さ)Tbは、活物質層の平均厚みTaに対して70%以上95%以下の厚みであることが好ましい。また、ベースコート層非形成部Ncのうち接着剤層36の設けられていない領域は、幅長Wcが凡そ10〜15mmであるとよい。かかる領域は、電池構築に際して集電部として好適に使用され得る。
【0049】
なお、活物質層24,34の平均厚みTaは、例えば一般的な走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した画像を解析することによって求めることができる。具体的には、先ず電極を適当な樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)で包埋した後、切断(あるいは研磨)して断面出しを行う。次に、かかる断面をSEM観察する。得られたSEM観察画像において、例えば色調の濃淡等から活物質層24,34を特定する。そして、活物質層24,34幅方向の中心近く(平坦部)において複数の位置(通常は3箇所以上、例えば5箇所以上)の厚みを計測し、それらの算術平均値を算出することで、活物質層24,34の平均厚みTaを把握し得る。
また、接着剤層26,36の厚みTbについても、同様の方法で把握することができる。すなわち、断面のSEM観察画像において、例えば色調の濃淡等から接着剤層26,36を特定し、集電体22,32から垂直方向に、接着剤層26,36と活物質層の縁部24e,34eとが接する位置までの高さを求め、接着剤層26,36の厚み(垂直方向の高さ)Tbとみなすことができる。
【0050】
[リチウムイオン二次電池用電極の用途]
ここで提案される製造方法によれば、活物質層の縁部における剥がれや活物質の滑落が高度に抑制されて、安定した品質のリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。かかる電極を備えた電池は、このような性質を活かして、例えば車両を駆動するモーター等の駆動源用の電源として特に好適に利用することができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、電気トラック、電動スクーター、電動アシスト自転車、電動車いす、電気鉄道等が挙げられる。なお、かかるリチウムイオン二次電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。
【0051】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
ここでは、以下に説明する手順で、接着剤層の厚み(集電体からみた垂直方向の高さ)のみが異なるNo.1〜6の電極を作製して、活物質層の縁部の剥離強度を測定した。
【0052】
[電極作製]
(No.1)
まず、正極活物質として平均粒径が4.5μmのLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2を用意した。また、導電材としてアセチレンブラック(AB)を用意した。また、バインダとして数平均分子量が35万のポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用意した。そして、これらの正極活物質、導電材およびバインダを、質量比が94.5:4:1.5となるようにそれぞれ秤量した。次に、乾式粒子複合化装置(ホソカワミクロン(株)製、ノビルタ130)に導電材およびバインダ投入して混合した後、正極活物質と少量の水を加えて、分散部動力3kWで10時間混合し、得られた混合物を粉砕・分級することで、平均粒径が凡そ40μmの造粒粉末(造粒粒子からなる紛体)を得た。
【0053】
次に、正極集電体として、厚みが15μmの長尺状アルミニウム箔を用意し、搬送手段にセットした。なお、正極集電体の幅方向の両端部には帯状の集電体露出部が確保され、その集電体露出部の間(幅方向の中央領域)に厚みが凡そ1μmのポリフッ化ビニリデンからなるベースコート層が設けられている。
次に、上記で用意した造粒粉末を供給装置に収容した。そして、搬送される正極集電体の幅方向の中央領域にベースコート層よりも狭い幅で造粒粉末を供給した。
正極集電体上に供給した造粒粉末については、下流に設けた高さセンサ付きのスキージーにより過剰な量を掻きとるとともに、正極集電体の幅方向で鉛直方向の高さを均して、略均一な厚みとした。そして、さらに下流に設置された圧延ロールにて、造粒粉末の層に対してプレス(ロール圧延)を施すことで、厚さ(片面あたり)が凡そ48μmで目付量(片面あたり)が凡そ13mg/cm
2の正極活物質層を形成した。なお、プレスの条件は、以下のとおりとした。
圧延ロールの間隔 :110μm
ロール線圧 :1.35t/cm
圧延温度 :25℃
スキージー間隔 :95μm
次に、正極活物質層の幅方向の中央で電極を半裁することで、接着剤層の無い従来の正極シートNo.1(正極活物質層の平均厚み:95μm)を得た。
【0054】
(No.2〜6)
上記No.1の電極と同様に正極活物質層の形成まで行った後、紫外線硬化型の接着剤として、DIC株式会社製のユニディックV−95(V−9511)を用意した。この接着剤は、主成分がアクリルであり、25℃の粘度が凡そ1000〜4000MPa・sである。
上記で用意した接着剤を、圧延ロールの下流に設置された接着剤塗布装置(スリットダイコーター)に収容した。そして、上記形成された正極活物質層の幅方向の縁部(傾斜面)から活物質層非形成部の一部領域にわたって接着剤を供給した。このとき、硬化後の接着剤層の厚みが正極活物質層の平均厚みに対して20〜100%の厚みになるよう供給量を調整した。
次に、さらに下流に紫外線照射装置(UVランプ)を設置し、搬送される正極集電体に対して400mJ/cm
2の照射量の紫外線をあてて上記接着剤を硬化させた。
【0055】
次に、正極活物質層の幅方向の中央で電極を半裁することで、
図3(b)に示すような正極シート(No.2〜6)を得た(正極活物質層の平均厚みTa:95μm、ベースコート層の厚みTc:1μm、正極活物質層の傾斜面の幅長We:3mm、集電体露出部の幅長Wc:10〜15mm、接着剤層の余裕Wb:1〜2mm)。なお、これらの正極シートは、活物質層の傾斜面における接着剤層の厚み(集電体からみた垂直方向の高さ)のみが相互に異なっている。
【0056】
[剥離強度の測定]
上記で得られたNo.1〜6の正極シートについて、活物質層縁部の剥離強度を測定した。測定は、表面・界面物性解析装置を用いて切削法にて行い、得られた切削強度を剥離強度として評価した。測定装置と測定条件は以下のとおりである。
・使用設備:ダイプラ・ウィンテス株式会社製のSAICAS(登録商標):Surface And Interface Cutting Analysis System、型番:DN−GS
・試験条件
・切刃:ボラゾン(幅500μm)
・水平速度:2.0μm/sec
・測定深さ:集電体表面から活物質層方向に5μm
結果を
図4に示す。なお、参考のために活物質層の幅方向の中心近くの剥離強度を同様の方法で測定したところ、凡そ0.25N/mmであった。
【0057】
図4に示すように、活物質層の縁部(傾斜面)に接着剤層が形成されていないNo.1の正極シートに比べて、接着剤層を形成したNo.2〜6の電極では縁部の剥離強度が高められていた。ここに示す試験例においては、傾斜面の接着剤層の厚みが活物質層の平均厚みの55%以上である場合に、活物質層の幅方向の中心近くの剥離強度よりも縁部の剥離強度が高くなった。そして、接着剤層の厚みが活物質層の平均厚みの70%以上の場合に、本発明の効果が特によく表れた。このことから、例えば活物質層を比較的厚め(例えば100μm〜150μm程度)に形成する場合においては、傾斜面の接着剤層の厚み(鉛直方向の高さ)を活物質層の平均厚みの70%以上、特には90%以上とすることが好ましいとわかった。
また、負極シートとセパレータシートとを用意して、No.1〜6の正極シートと共に捲回して簡易的に各電極に対応する捲回電極体の作製を試みたところ、接着剤層の厚みを活物質層の平均厚みの100%としたNo.6では、例えば捲回時の条件(張力等)によっては、活物質層よりも接着剤層が高くなり、対向する負極やセパレータと干渉する恐れがあるとわかった。このことから、例えばベースコート層の形成厚み等にも依るが、接着剤層の厚み(鉛直方向の高さ)は活物質層の平均厚みの100%未満、特には95%以下とすることが好ましいとわかった。
【0058】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。