(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0021】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型(VSB型)の描画装置の一例である。描画部150は、電子銃機構230、高さ調整機構216、電子鏡筒102、及び描画室103を備えている。電子銃機構230内には、電子銃201が配置される。電子鏡筒102内には、電子レンズ211、照明レンズ202、ブランキング偏向器212、ブランキングアパーチャ214、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208、及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスクが含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。ブランキング偏向器212として、例えば1対の電極が用いられる。
【0022】
高さ調整機構216(高さ調整部)は、光軸方向に対して電子銃機構230よりも試料側(以後、後側という)に配置され、電子銃機構230の高さ位置を可変に調整する。電子鏡筒102は、光軸方向に対して高さ調整機構216よりも後側に配置される。すなわち、電子レンズ211、照明レンズ202、ブランキング偏向器212、ブランキングアパーチャ214、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208、及び副偏向器209は、光軸方向に対して高さ調整機構216よりも後側に配置される。電子レンズ211は、高さ調整機構216とブランキング偏向器212との間に配置される。
【0023】
また、電子銃201は、カソード320、ウェネルト322、及びアノード324を有している。カソード320として、例えば、六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶等を用いると好適である。ウェネルト322は、カソード320とアノード324との間に配置される。また、アノード324は、接地され、電位がグランド電位に設定されている。電子銃201には、図示しない電子銃電源装置が接続される。そして、高さ調整機構216は、電子銃機構230と電子鏡筒102との間に配置される。
【0024】
制御部160は、制御回路120、DAC(デジタル・アナログコンバータ)アンプ122、及びレンズ制御回路130を有している。
【0025】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、位置偏向用には、主偏向器208と副偏向器209の主副2段の多段偏向器を用いているが、1段の偏向器或いは3段以上の多段偏向器によって位置偏向を行なう場合であってもよい。また、描画装置100には、マウスやキーボード等の入力装置、及びモニタ装置等が接続されていても構わない。また、
図1の例では、ブランキングアパーチャ214が、第1のアパーチャ203よりも上方側に配置されているが、これに限るものではなく、ブランキング動作が可能である位置であれば構わない。例えば、第1のアパーチャ203或いは第2のアパーチャ206よりも下方側に配置されても構わない。
【0026】
図2は、実施の形態1における各領域を説明するための概念図である。
図2において、試料101の描画領域10は、主偏向器208のY方向偏向可能幅である、短冊状の複数のストライプ領域20に仮想分割される。また、各ストライプ領域20は、副偏向器209の偏向可能サイズである複数のサブフィールド(SF)30(小領域)に仮想分割される。そして、各SF30の各ショット位置にショット図形52,54,56が描画される。
【0027】
制御回路120からブランキング制御用のDACアンプ122に対して、ブランキング制御用のデジタル信号が出力される。そして、ブランキング制御用のDACアンプ122では、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、ブランキング偏向器212に印加する。かかる偏向電圧によって電子ビーム200が偏向させられ、各ショットの照射時間(照射量)が制御される。
【0028】
制御回路120から図示しないDACアンプに対して、主偏向制御用のデジタル信号が出力される。そして、主偏向制御用のDACアンプでは、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、主偏向器208に印加する。かかる偏向電圧によって電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームがメッシュ状に仮想分割された、目標となるSF30の基準位置に偏向される。
【0029】
制御回路120から図示しないDACアンプに対して、副偏向制御用のデジタル信号が出力される。そして、副偏向制御用のDACアンプでは、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、副偏向器209に印加する。かかる偏向電圧によって電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームが対象となるSF30内の各ショット位置に偏向される。
【0030】
描画装置100では、複数段の多段偏向器を用いて、ストライプ領域20毎に描画処理を進めていく。ここでは、一例として、主偏向器208、及び副偏向器209といった2段偏向器が用いられる。XYステージ105が例えば−x方向に向かって連続移動しながら、1番目のストライプ領域20についてx方向に向かって描画を進めていく。そして、1番目のストライプ領域20の描画終了後、同様に、或いは逆方向に向かって2番目のストライプ領域20の描画を進めていく。以降、同様に、3番目以降のストライプ領域20の描画を進めていく。そして、主偏向器208が、XYステージ105の移動に追従するように、SF30の基準位置に電子ビーム200を順に偏向する。また、副偏向器209が、各SF30の基準位置から当該SF30内に照射されるビームの各ショット位置に電子ビーム200を偏向する。このように、主偏向器208、及び副偏向器209は、サイズの異なる偏向領域をもつ。そして、SF30は、かかる複数段の偏向器の偏向領域のうち、最小偏向領域となる。
【0031】
カソード320に負の加速電圧が印加され、ウェネルト322に負のバイアス電圧が印加された状態で、カソード320を加熱すると、カソード320から電子(電子群)が放出され、放出電子(電子群)は、収束点(クロスオーバー:C.O.)を形成した(カソードクロスオーバー)後に広がり、加速電圧によって加速されて電子ビームとなってアノード324に向かって進む。そして、アノード324に設けられた開口部を電子ビームが通過して、電子ビーム200が電子銃201から放出されることになる。
【0032】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、電子レンズ211により例えばブランキング偏向器212内の中心高さ位置(所定の位置の一例)に収束させられ、収束点(クロスオーバー:C.O.)を形成する。そして、光軸方向に対して電子レンズ211よりも後側に配置されたブランキング偏向器212内を通過する際に、ブランキング用のDACアンプ122からの偏向信号によって制御されるブランキング偏向器212によって、ビームのON/OFFが制御される。言い換えれば、ブランキング偏向器212は、ビームONとビームOFFとを切り替えるブランキング制御を行う場合に、電子ビームを偏向する。光軸方向に対してブランキング偏向器212よりも後側に配置されたブランキングアパーチャ214(ブランキングアパーチャ部材)によって、ビームOFFの状態になるように偏向された電子ビームは遮蔽される。すなわち、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮へいされるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。ブランキング偏向器212は、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する。例えば、ビームONの状態では電圧0Vを印加し(或いは電圧を印加せず)、ビームOFFの際にブランキング偏向器212に数Vの電圧を印加すればよい。かかる各ショットの照射時間tで試料101に照射される電子ビーム200のショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0033】
以上のようにブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形を行なう)ことができる。かかる可変成形はショット毎に行なわれ、通常ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料101の所望する位置に照射される。言い換えれば、光軸方向に対してブランキングアパーチャ214よりも後側に配置された対物レンズ207により、ビームONの電子ビームを試料101上に結像する。
図1では、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いた場合を示している。かかる場合には、主偏向器208でSF30の基準位置にステージ移動に追従しながら該当ショットの電子ビーム200を偏向し、副偏向器209でSF内の各照射位置にかかる該当ショットのビームを偏向すればよい。かかる動作を繰り返し、各ショットのショット図形を繋ぎ合わせることで、描画データに定義された図形パターンを描画する。
【0034】
図3は、実施の形態1におけるクロスオーバー系光学軌道と収束半角とを説明するための図である。
図3(a)は、スループット重視の描画モード1(第1の描画モード)でのクロスオーバー系光学軌道を示している。
図3(b)では、分解能重視の描画モード2(第2の描画モード)でのクロスオーバー系光学軌道を示している。
図3(a)に示す描画モード1と
図3(b)に示す描画モード2は、電子銃201の高さ位置が異なる。その他の構成の配置関係は同じである。
図3(a)と
図3(b)では、ブランキング制御において、いずれもビームONの状態を示している。
【0035】
図3(a)において、電子銃201(放出部)にてカソードクロスオーバー(C.O.半径r
0)形成後の電子ビーム200は、電子鏡筒201内に進行し、電子レンズ211によりブランキング偏向器212内の中心高さ位置に収束させられ、第1のクロスオーバー(C.O.半径r
1)を形成する。第1のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、照明レンズ202により第1の成形アパーチャ203を通過後の高さ位置に収束させられ、第2のクロスオーバー(C.O.半径r
2)を形成する。第2のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、投影レンズ204と対物レンズ207による縮小光学系により縮小され、対物レンズ207と試料101面との間の高さ位置(試料101面から高さzの位置)に収束させられ、第3のクロスオーバー(C.O.半径r
3)を形成する。そして、第3のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、試料101面に照射される。かかる場合の各クロスオーバーにおけるクロスオーバー半径は、次のように定義することができる。
【0036】
第1のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
1は、電子レンズ211による収束倍率M1を用いて、次の式(1)で定義することができる。
(1) r
1=r
0・M1
【0037】
ここで、倍率M1は、カソードクロスオーバー位置と電子レンズ211の磁場中心高さ位置との距離aと、電子レンズ211の磁場中心高さ位置と第1のクロスオーバー高さ位置との距離bと、を用いて、次の式(2)で定義することができる。
(2) M1=b/a
【0038】
そして、第2のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
2は、照明レンズ202による収束倍率M2を用いて、r
2=r
1・M2で定義することができる。同様に、第3のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
3は、投影レンズ204と対物レンズ207による縮小光学系による収束倍率M3を用いて、r
3=r
2・M3で定義することができる。よって、試料101面の直近の第3のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
3は、次の式(3)で定義することができる。
(3) r
3=r
0・M1・M2・M3=r
0・(b/a)・M2・M3
【0039】
よって、試料101面と光軸が交差する1点から直近の第3のクロスオーバーの端を見た際の光軸からの角度(収束半角)α、言い換えれば、光軸線と、試料101面と光軸が交差する1点と試料101面の直近の第3のクロスオーバー端とを結ぶ線との間の角度(収束半角)αは、次の式(4)で定義することができる。
(4) α=tan
−1(r
3/z)
【0040】
分解能は電子光学系収差に依存し、電子光学系収差は収束半角αの累乗に比例する。そして、収束半角αは、式(4)に示すように、電子ビームのクロスオーバー径r
3に依存する。よって、分解能を重要視する観点からは、収束半角を小さくするためにはクロスオーバー径を小さくすることが重要であることがわかる。そのためには、式(3)に基づいて、距離bに対して距離aを大きくすればよい。
【0041】
そこで、実施の形態1では、高さ調整機構216によって、電子銃機構230の高さ位置を可変に調整する。すなわち、分解能を重要視する描画モード2では、
図3(b)に示すように、高さ調整機構216によって、
図3(a)に示す描画モード1における電子銃201の高さ位置よりも高さLだけ高くなるように調整する。但し、実施の形態1では、その他の光学条件を変えないようにするため、第1〜第3のクロスオーバー高さ位置は、
図3(a)と
図3(b)とで同じ位置になるように調整する。具体的には、レンズ制御回路130(レンズ制御部)が、電子銃機構230の高さ位置が可変に調整されて変化した高さ位置ごとに、ブランキング偏向器22の中心高さ位置に電子ビームがクロスオーバーを形成するように電子レンズ211を制御する。これにより、電子レンズ211以降のレンズの調整が同一条件にできる。
【0042】
図3(b)において、電子銃201(放出部)にてカソードクロスオーバー(C.O.半径r
0)形成後の電子ビーム200は、電子鏡筒201内に進行し、電子レンズ211によりブランキング偏向器212内の中心高さ位置に収束させられ、第1のクロスオーバー(C.O.半径r
1’)を形成する。第1のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、照明レンズ202により第1の成形アパーチャ203を通過後の高さ位置に収束させられ、第2のクロスオーバー(C.O.半径r
2’)を形成する。第2のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、投影レンズ204と対物レンズ207による縮小光学系により縮小され、対物レンズ207と試料101面との間の高さ位置(試料101面から高さzの位置)に収束させられ、第3のクロスオーバー(C.O.半径r
3’)を形成する。そして、第3のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、試料101面に照射される。かかる場合の各クロスオーバーにおけるクロスオーバー半径は、次のように定義することができる。
【0043】
第1のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
1は、電子レンズ211による収束倍率M1を用いて、次の式(1)で定義することができる。
(1) r
1’=r
0・M1’
【0044】
ここで、倍率M1は、カソードクロスオーバー位置と電子レンズ211の磁場中心高さ位置との距離aと、電子レンズ211の磁場中心高さ位置と第1のクロスオーバー高さ位置との距離bと、を用いて、次の式(2)で定義することができる。
(2) M1’=b/a’
【0045】
そして、第2のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
2は、照明レンズ202による収束倍率M2を用いて、r
2’=r
1’・M2で定義することができる。同様に、第3のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
3は、投影レンズ204と対物レンズ207による縮小光学系による収束倍率M3を用いて、r
3’=r
2’・M3で定義することができる。よって、試料101面の直近の第3のクロスオーバーにおけるクロスオーバー半径r
3’は、次の式(3)で定義することができる。
(3) r
3’=r
0・M1’・M2・M3=r
0・(b/a’)・M2・M3
【0046】
よって、試料101面と光軸が交差する1点から直近の第3のクロスオーバーの端を見た際の光軸からの角度(収束半角)α’、言い換えれば、光軸線と、試料101面と光軸が交差する1点と試料101面の直近の第3のクロスオーバー端とを結ぶ線との間の角度(収束半角)α’は、次の式(4)で定義することができる。
(4) α’=tan
−1(r
3’/z)
【0047】
よって、距離a<距離a’にすることにより、収束半角α’<収束半角αとなり、電子銃201の高さ位置を高くすることで収束半角を小さくできる。その結果、電子光学系収差を小さくできると共に、分解能を高めることができる。
【0048】
図4は、実施の形態1における高さ調整機構の一例を示す構成図である。
図4において、高さ調整機構216は、複数のスペーサ部材302,304,306を有する。複数のスペーサ部材302,304,306は、中央部を電子ビームが通過可能なように中央部が開口されている。そして、外径寸法は、電子鏡筒102の外径寸法に合わせたサイズにすると好適である。また、複数のスペーサ部材302,304,306間、およびスペーサ部材302と電子銃機構230の間、およびスペーサ部材306と電子鏡筒102の間、例えば、図示しないO−リング等で気密性が確保されている(シールされている)。例えば、描画モード1では、
図4(a)に示すように、電子銃機構230と電子鏡筒102とが直接接続されている。或いは、複数のスペーサ部材302,304,306のうちの1つを挟んで電子銃機構230と電子鏡筒102とが接続されている。描画モード2では、
図4(b)に示すように、電子銃機構230と電子鏡筒102とが複数のスペーサ部材302,304,306を挟んで接続されている。複数のスペーサ部材は、複数のスペーサ部材302,306のように、互いに高さ方向の厚さが異なる。高さ調整機構216は、例えば、高さ方向の厚さサイズが大きい(高い)スペーサ306で電子銃機構230の高さ位置の粗調整を行い、高さ方向の厚さサイズが小さい(低い)スペーサ302,304で電子銃機構230の高さ位置の微調整を行う。高さ調整機構216の構成は、これに限るものではない。
【0049】
図5は、実施の形態1における高さ調整機構の他の一例を示す構成図である。
図5において、高さ調整機構216は、伸縮自在な配管314と、電子銃機構230を昇降する昇降機構312と、を有する。配管314は、ベローズ配管等が好適である。かかる配管314で電子銃機構230と電子鏡筒102とを繋ぐことで、電子銃機構230と電子鏡筒102内の気密性を維持し、真空状態を維持できる。昇降機構312は、配管314の外側に例えば3台配置され、電子銃機構230を3点支持する。描画モード1では、
図5(a)に示すように、昇降機構312で電子銃機構230の高さ位置を下げた状態にし、描画モード2では、
図5(b)に示すように、昇降機構312で電子銃機構230の高さ位置を上げた状態にすればよい。
【0050】
よって、実施の形態1における描画方法は、モード選択工程と、電子銃機構の高さ調整工程と、クロスオーバー高さ調整工程と、モード切替工程と、電子銃機構の高さ調整工程と、クロスオーバー高さ調整工程と、を実施する。
【0051】
モード選択工程として、スループット重視の描画モード1と、分解能重視の描画モード2との1つを選択する。ここでは、例えば、描画モード1を選択する。
【0052】
電子銃機構の高さ調整工程として、高さ調整機構216は、描画モード1が選択された場合に、電子ビーム200を放出する電子銃機構230の高さ位置を高さ位置Z
0(第1の位置)に調整する。例えば、電子銃機構230の底面の高さ位置を高さ位置Z
0に調整する。
【0053】
クロスオーバー高さ調整工程として、描画モード1が選択された場合に、レンズ制御回路130は、電子レンズ211を用いて、電子銃機構230から放出された電子ビーム200が電子レンズ211を通過した後の電子ビーム200のクロスオーバー高さ位置をブランキング偏向器212内の中心高さ位置(第2の位置)に調整する。
【0054】
そして、かかる状態で、例えば、スループットが重視される製品マスクの描画を行う。続いて、例えば、分解能が重視される開発用の評価マスクの描画を行うため、描画モードを切り替える。
【0055】
モード切替工程として、スループット重視の描画モード1と、分解能重視の描画モード2とのモードを切り替える。ここでは、例えば、描画モード1から描画モード2へと設定を切り替える。
【0056】
電子銃機構の高さ調整工程として、高さ調整機構216は、描画モード1を切り替えて描画モード2が選択された場合に、電子銃機構230の高さ位置を光軸方向に対して高さ位置Z
0よりも高い高さ位置Z
1(第3の位置)に調整する。例えば、電子銃機構230の底面の高さ位置を高さ位置Z
1に調整する。言い換えれば、電子ビームを放出する電子銃機構230の高さ位置を高さ位置Z
0から高さ位置Z
1に変更する。
【0057】
クロスオーバー高さ調整工程として、描画モード2が選択された場合に、レンズ制御回路130は、電子レンズ211を用いて、電子銃機構230から放出された電子ビーム200が電子レンズ211を通過した後の電子ビーム200のクロスオーバー高さ位置をブランキング偏向器212内の中心高さ位置(第2の位置)に維持するように調整する。言い換えれば、電子銃機構230から放出された電子ビーム200が電子レンズ211を通過した後の電子ビーム200のクロスオーバー高さ位置を電子銃機構230の高さ位置を変更する前の位置に調整する。
【0058】
なお、描画モード2から描画モード1へと切り替える場合には、描画モード2の電子銃機構の高さ位置から描画モード1の電子銃機構の高さ位置へと調整する。そして、電子レンズ211を通過した後の電子ビーム200のクロスオーバー高さ位置をブランキング偏向器212内の中心高さ位置(第2の位置)に維持するように調整すればよい。
【0059】
図6は、実施の形態1におけるクロスオーバー半径と電子レンズの励磁との関係の一例を説明するための図である。
図6(a)では、電子レンズ211の励磁を高めることが可能な状態の一例を示している。
図6(a)では、電子銃201にてカソードクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、電子鏡筒201内に進行し、ある高さ位置に収束させられ、第1のクロスオーバーを形成する。第1のクロスオーバー形成後の電子ビーム200は、照明レンズ202によりある高さ位置に収束させられ、第2のクロスオーバーを形成する。ここで、収束半角を小さくするには電子レンズ211の励磁(励磁1)をできるだけ大きくする必要がある。そこで、電子レンズ211の励磁(励磁1)をできるだけ大きくする。かかる場合、励磁を高めたことで
図6(b)に示すように、電子レンズ211通過後の第1のクロスオーバー位置が高さ方向に高くなる位置に高さL’だけ移動する。これにより第1のクロスオーバー径を
図6(a)の状態よりも小さくでき、ひいては第2のクロスオーバー以降のクロスオーバー径を
図6(a)の状態よりも小さくできる。その結果、収束半角を
図6(a)の状態よりも小さくできる。第2のクロスオーバー高さ位置を変えない場合、かかる動作により、照明レンズ202の励磁(励磁2)は逆に下げることができる。
【0060】
しかし、電子レンズ211に使用するポールピース材料の磁気飽和等により磁束密度を上げるにも限界がある。そのため、磁束密度の限界に応じて電子レンズ211の励磁を大きくすることにも限界があった。そのため、照明レンズの制御により電子ビームを絞るにも限界があり、収束半角を小さくするにも限界があった。
【0061】
これに対して、実施の形態1では、電子銃201の高さ位置を
図6(b)よりも高さLだけ高くする。第1のクロスオーバー位置を変えない場合、かかる動作により、
図6(c)に示すように、電子レンズ211の励磁(励磁1)を下げることができる。これにより第1のクロスオーバー径を
図6(b)の状態よりも小さくでき、ひいては第2のクロスオーバー以降のクロスオーバー径を
図6(b)の状態よりも小さくできる。その結果、収束半角を
図6(b)の状態よりも小さくできる。また、第2のクロスオーバー高さ位置を変えない場合、かかる動作により、照明レンズ202の励磁(励磁2)は
図6(b)の状態と同じ状態(下げた状態)のままにできる。よって、実施の形態1によれば、磁気飽和等による限界点を超えて収束半角を小さくできる。
【0062】
次に、第1のクロスオーバー位置をブランキング偏向器212の中心高さ位置にする理由を説明する。
【0063】
ブランキング制御用のDACアンプ122が不安定である場合等に、ビームON時の電圧が変動する場合がある。例えば、数mVの電圧変動(例えば±5mV)が生じる。あるいはもっと大きい電圧変動が生じる場合も想定される。かかる変動によって、ブランキング偏向器212を通過する電子ビーム200が偏向されることになる。
【0064】
図7は、実施の形態1におけるクロスオーバー位置がブランキング偏向器の中心高さ位置に制御されている場合のブランキング電圧変動の有無を比較した概念図である。
図7(a)では、ブランキング偏向器212にビームON時のブランキング電圧(例えば0V)が印加され、かかるブランキング電圧に電圧変動が生じていない(或いは無視できる程度の変動である)場合を示している。また、
図7(a)では、ブランキング動作以外のビーム偏向を成形用の偏向器205、副偏向器209、及び主偏向器208等によっておこなわず、例えば光軸上をビームが通過する場合を示している。
図7(a)において、電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、電子レンズ211によりブランキング偏向器212内の中心高さ位置Hに収束点(クロスオーバー:C.O.)を形成するように制御されている。ここでは、ビームONの状態なので、電子ビーム200は、ブランキング偏向器212によって偏向されずに通過する。
図7(a)では、クロスオーバー系の光路を示している。ブランキング偏向器212を通過した電子ビームは、照明レンズ202により第1の成形アパーチャ203全体を照明する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206に形成された開口部上に投影される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により試料101面上に焦点を合わせて結像する。かかる構成では、電子ビーム200は、試料101面に垂直入射する。言い換えれば、ビーム入射角θが0°になる。
【0065】
図7(a)に示した状態からブランキング偏向器212に印加されるブランキング電圧にビームOFFにならない程度に電圧変動が生じた場合を
図7(b)に示している。
図7(b)に示すように、ブランキング電圧の電圧変動によりブランキング偏向器212の中心高さ位置Hでビームが偏向される。しかし、クロスオーバー位置がブランキング偏向器212の中心高さ位置に制御されている場合、ブランキング電圧の電圧変動が生じても、電子ビーム200は、試料101面に垂直入射と実質的に同等の角度で入射する。言い換えれば、ビーム入射角θを略0°にできる。かかる構成では、後述するようにクロスオーバー位置が光軸上からずれないために、電子ビーム200は、試料101面に垂直入射することができる。
【0066】
図8は、実施の形態1におけるクロスオーバー位置がブランキング偏向器の中心高さ位置からずれた位置に制御されている場合のブランキング電圧変動の有無を比較した概念図である。
図8(a)では、ブランキング偏向器212にビームON時のブランキング電圧(例えば0V)が印加され、かかるブランキング電圧に電圧変動が生じていない(或いは無視できる程度の変動である)場合を示している。また、
図8(a)では、ブランキング動作以外のビーム偏向、例えば、成形用の偏向器205、副偏向器209、及び主偏向器208等による偏向動作をおこなわず、例えば光軸上をビームが通過する場合を示している。
図8(a)において、電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、電子レンズ211によりブランキング偏向器212内の中心高さ位置Hより例えば上方に収束点(クロスオーバー:C.O.)を形成するように調整されている。ここでは、ビームONの状態なので、電子ビーム200は、ブランキング偏向器212によって偏向されずに通過する。
図8(a)では、クロスオーバー系の光路を示している。ブランキング偏向器212を通過した電子ビームは、照明レンズ202により第1の成形アパーチャ203全体を照明する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206に形成された開口部上に投影される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により試料101面上に焦点を合わせて結像する。かかる状態では、後述するようにクロスオーバー位置が光軸上からずれないために、電子ビーム200は、試料101面に垂直入射する。言い換えれば、ビーム入射角θが0°になる。
【0067】
図8(a)に示した状態からブランキング偏向器212に印加されるブランキング電圧にビームOFFにならない程度に電圧変動が生じた場合を
図8(b)に示している。
図8(b)に示すように、ブランキング電圧の電圧変動によりブランキング偏向器212の中心高さ位置Hでビームが偏向される。しかし、クロスオーバー位置がブランキング偏向器212の中心高さ位置Hよりも上方に制御されている場合、ブランキング電圧の電圧変動が生じると、電子ビーム200は、試料101面に垂直方向からずれた方向から入射する。言い換えれば、ビーム入射角θが0°ではなくなる。その結果、デフォーカスされた状態では試料101上に照射されたビーム位置が設計上の所望の位置から位置ずれを生じる。
図8(b)において、ブランキング偏向器212中の破線部分は、後述するように、偏向後のビームにとって、見かけ上、クロスオーバー位置は、光軸上の位置から破線の位置へ移動したことになる。
【0068】
図9は、実施の形態1におけるブランキング動作時の偏向支点位置とクロスオーバー位置との関係を示す図である。
図9(a)では、電子レンズ211によりブランキング偏向器212内の中心高さ位置Hに収束点(クロスオーバー:C.O.)を形成するように調整されている場合を示している。ブランキング偏向器212に電圧が印加され、電子ビーム200が偏向される場合、その偏向支点はブランキング偏向器212の中心高さ位置Hとなる。クロスオーバー位置がブランキング偏向器212内の中心高さ位置Hにある場合、偏向支点と位置が一致するので、クロスオーバー位置は光軸上に存在することになる。そのため、
図9(c)に示すように、最終のクロスオーバー位置も光軸上の位置に形成される。これに対して、
図9(b)に示したように、クロスオーバー位置がブランキング偏向器212内の中心高さ位置Hからずれている場合、
図9(b)に示すようにクロスオーバー位置と偏向支点の位置が不一致となる。上述したように、偏向支点はブランキング偏向器212の中心高さ位置Hとなるので、偏向後のビームにとって、見かけ上、クロスオーバー位置は、偏向後のビームの軌道と偏向支点との延長線上となる。そのため、クロスオーバー位置は、光軸上の点Aの位置から点Bの位置へ移動したことになる。言い換えれば、クロスオーバー位置が光軸上から外れた位置に形成されていることになる。かかるビームは、
図9(d)に示すように、最終のクロスオーバー位置も光軸上からΔLだけ外れた位置に形成される。そのため、ブランキング電圧の電圧変動により偏向されたビームは、垂直入射(θ=0)ではないビーム入射角θをもって試料101上に照射される。その結果、焦点位置がずれた場合(デフォーカスされた場合)、照射されたビームの中心位置が設計上の所望の位置から位置ずれを生じる。他方、
図8(a)に示したように、ブランキング電圧の電圧変動がない状態では、ブランキング偏向器212内での偏向支点がそもそも生じないので、クロスオーバー位置は光軸上に存在できる。よって、かかる場合にはビームは、垂直入射(θ=0)をもって試料101上に照射される。なお、上述した例では、クロスオーバー位置が、ブランキング偏向器212内の中心高さ位置Hよりも上方にずれた場合について説明したが、下方にずれても、最終のクロスオーバーが軸からはずれるという効果は同様である。
【0069】
そこで、実施の形態1では、ビーム入射角を調整するために、クロスオーバー位置がブランキング偏向器212の中心高さ位置になるように、電子レンズ211を調整する。
【0070】
以上のように、実施の形態1によれば、従来よりもさらに分解能を向上させることができる。また、さらに、スループット重視の描画処理と、分解能重視の描画処理とを行うことができる。
【0071】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述した例では、電子レンズ211通過後の最初のクロスオーバー位置を、電子銃高さ調整の前後で同じ位置となるブランキング偏向器212の中心高さ位置にすることによって、それ以降の光学条件を変えないようにできる場合について説明した。しかし、これに限るものではない。クロスオーバー位置をブランキング偏向器中心にもつ装置に限定する必要はない。光学条件・クロスオーバー位置を変えても構わない。かかる場合、ブランキング偏向器の位置も気にしないし、クロスオーバー位置以降の光学系の調整にマージンがある状況であれば、
図6に示すように電子レンズ211の励磁を上げると同時に電子銃機構の高さ調整も行って、クロスオーバー位置を固定するときよりもさらに小さな収束半角にすることもできる。
【0072】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0073】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置、試料面へのビーム入射角調整方法、および荷電粒子ビーム描画方法は、本発明の範囲に包含される。