特許第6364076号(P6364076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6364076有機亜鉛触媒、その製造方法およびこれを用いたポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6364076
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】有機亜鉛触媒、その製造方法およびこれを用いたポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/32 20060101AFI20180712BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C08G64/32
   C07F3/06
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-526195(P2016-526195)
(86)(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公表番号】特表2016-535134(P2016-535134A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】KR2014011081
(87)【国際公開番号】WO2015072815
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年4月25日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0139987
(32)【優先日】2013年11月18日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0160747
(32)【優先日】2014年11月18日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン−キョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、スン−ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ヒョン−チュ
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04943677(US,A)
【文献】 国際公開第2010/146872(WO,A1)
【文献】 国立医薬品食品衛生研究所 ,国際化学物質安全性カード プロピオン酸,1997年,http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0806c.html参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と、エポキシドからポリアルキレンカーボネート樹脂を製造する反応に使用される亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒であって、
前記亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒の少なくとも一側の末端に、
炭素数4〜15の脂肪族炭化水素基を有するモノカルボン酸、アセト酢酸、および5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−ピラン−2−カルボン酸(5−Hydroxy−4−oxo−4H−pyran−2−carboxylic acid)からなる群より選択されたモノカルボン酸由来残基が結合してキャッピングしている有機亜鉛触媒。
【請求項2】
前記亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒は、亜鉛と、炭素数3〜20の脂肪族ジカルボキシレートまたは炭素数8〜40の芳香族ジカルボキシレートとが結合した触媒である請求項1に記載の有機亜鉛触媒。
【請求項3】
前記亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒は、亜鉛グルタレート系触媒である請求項1または2に記載の有機亜鉛触媒。
【請求項4】
前記モノカルボン酸は、バレリアン酸、ラウリン酸、アセト酢酸(Acetoacetic acid)、および5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−ピラン−2−カルボン酸(5−Hydroxy−4−oxo−4H−pyran−2−carboxylic acid)からなる群より選択された1種以上を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機亜鉛触媒。
【請求項5】
前記モノカルボン酸由来残基は、前記有機亜鉛触媒のジカルボキシレート由来残基の1モルに対して、0.1〜0.5モルの比率で結合している請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機亜鉛触媒。
【請求項6】
0.2〜0.9μmの平均粒径および0.05〜0.3μmの粒径の標準偏差を有する粒子形態である請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機亜鉛触媒。
【請求項7】
亜鉛前駆体と、
ジカルボン酸と、
炭素数4〜15の脂肪族炭化水素基を有するモノカルボン酸、アセト酢酸、および5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−ピラン−2−カルボン酸(5−Hydroxy−4−oxo−4H−pyran−2−carboxylic acid)からなる群より選択されたモノカルボン酸とを反応させる段階を含む請求項1に記載の有機亜鉛触媒の製造方法。
【請求項8】
前記反応段階は、亜鉛前駆体と、ジカルボン酸とを反応させる段階と、
前記モノカルボン酸をさらに加えて反応させる段階とを含む請求項7に記載の有機亜鉛触媒の製造方法。
【請求項9】
前記亜鉛前駆体は、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛(Zn(O2CCH32)、硝酸亜鉛(Zn(NO32)、および硫酸亜鉛(ZnSO4)からなる群より選択された化合物を含む請求項7または8に記載の有機亜鉛触媒の製造方法。
【請求項10】
前記ジカルボン酸の反応段階は、40〜90℃の温度で0.5〜10時間行われ、前記モノカルボン酸の反応段階は、80〜150℃の温度で1〜20時間行われる請求項8または9に記載の有機亜鉛触媒の製造方法。
【請求項11】
前記モノカルボン酸は、前記ジカルボン酸の1モルに対して、0.1〜0.5モルの比率で使用される請求項7〜10のいずれか一項に記載の有機亜鉛触媒の製造方法。
【請求項12】
前記ジカルボン酸は、前記亜鉛前駆体の1モルに対して、1.0〜1.5モルの比率で使用される請求項7〜11のいずれか一項に記載の有機亜鉛触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機亜鉛触媒の存在下、エポキシドおよび二酸化炭素を含む単量体を重合させる段階を含むポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項14】
有機溶媒内で溶液重合で行われる請求項13に記載のポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造過程中に触媒粒子間の凝集が抑制され、より均一でかつ微細な粒径を有し、これによって、ポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための重合過程でより向上した活性を示す有機亜鉛触媒、その製造方法およびこれを用いたポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以降、人類は化石燃料を大量消費することによって、現代社会を構築してきたが、一方で大気中の二酸化炭素の濃度を増加させ、しかも、森林破壊などの環境破壊によってその増加をさらに促進させている。地球温暖化は、大気中の二酸化炭素、フレオンやメタンのような温室効果ガスが増加したのが原因になる点から、地球温暖化に対する寄与率が高い二酸化炭素の大気中の濃度を減少させることは大変重要であり、その排出規制や固定化などの様々な研究が世界的な規模で実施されている。
【0003】
なかでも、井上らにより発見された二酸化炭素とエポキシドの共重合反応は、地球温暖化問題の解決を担う反応として期待されており、化学的二酸化炭素の固定といった観点のみならず、炭素資源としての二酸化炭素の利用という観点からも活発に研究されている。特に、最近、前記二酸化炭素とエポキシドの重合によるポリアルキレンカーボネート樹脂は、生分解可能な樹脂の一種として大きく注目されている。
【0004】
従来からこのようなポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための多様な触媒が研究および提案されており、代表的な触媒として、亜鉛およびジカルボン酸が結合した亜鉛グルタレート触媒などの亜鉛ジカルボキシレート系触媒が知られている。
【0005】
しかし、このような亜鉛ジカルボキシレート系触媒、代表的に亜鉛グルタレート触媒は、亜鉛前駆体およびグルタル酸などのジカルボン酸を反応させて形成され、微細な結晶性粒子形態を呈する。しかし、このような触媒の製造過程において、触媒粒子間の凝集が発生する場合が多く、比較的に大きな粒径および不均一な粒子形態を有する場合が多かった。このような大きくて不均一な粒子サイズなどによって、前記亜鉛ジカルボキシレート系触媒を用いてポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための重合工程を進行させる場合、反応物と触媒との間の十分な接触面積が確保されず、重合活性が十分に発現しないという欠点があった。
【0006】
このような欠点によって、触媒の製造過程中の触媒粒子の凝集を抑制することができ、より向上した活性などを示す触媒の提供を可能にする触媒関連技術の開発が要求され続けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製造過程中に触媒粒子間の凝集が抑制され、より均一でかつ微細な粒径を有し、これによって、ポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための重合過程でより向上した活性を示す有機亜鉛触媒と、その製造方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、前記有機亜鉛触媒を用いたポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、二酸化炭素と、エポキシドからポリアルキレンカーボネート樹脂を製造する反応に使用される亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒であって、
前記亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒の少なくとも一側の末端に、炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基(ただし、脂肪族炭化水素基には、1つ以上の酸素またはカルボニル基が含まれているか、含まれていなくてもよい。)を有するモノカルボン酸由来残基が結合している有機亜鉛触媒を提供する。
【0010】
本発明はまた、亜鉛前駆体と、ジカルボン酸と、炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基(ただし、脂肪族炭化水素基には、1つ以上の酸素またはカルボニル基が含まれているか、含まれていなくてもよい。)を有するモノカルボン酸とを反応させる段階を含む前記有機亜鉛触媒の製造方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、前記有機亜鉛触媒の存在下、エポキシドおよび二酸化炭素を含む単量体を重合させる段階を含むポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法を提供する。
【0012】
以下、発明の実施形態に係る有機亜鉛触媒、その製造方法およびこれを用いたポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法などについて詳細に説明する。
【0013】
発明の一実施形態によれば、二酸化炭素と、エポキシドからポリアルキレンカーボネート樹脂を製造する反応に使用される亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒であって、前記亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒の少なくとも一側の末端に、炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基(ただし、脂肪族炭化水素基には、1つ以上の酸素またはカルボニル基が含まれているか、含まれていなくてもよい。)を有するモノカルボン酸由来残基が結合している有機亜鉛触媒が提供される。
【0014】
前記一実施形態の有機亜鉛触媒は、従来知られた亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒の構造において、その少なくとも一側の末端に、炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基を有するモノカルボン酸由来残基(例えば、「(炭素数3〜15の脂肪族炭化水素)−(C=O)−O−」の構造を有する残基)が結合して、このような残基で末端キャッピングされた構造を有するものである。
【0015】
このような末端キャッピング構造、特に、比較的に長い鎖長を有する脂肪族炭化水素基含有構造で末端キャッピングされた構造的特性により、相対的に疎水性を呈する末端キャッピング構造が互いに触媒粒子間の凝集を抑制することができる。したがって、前記有機亜鉛触媒は、その製造過程中に触媒粒子間の凝集が抑制され、より均一でかつ微細な粒子サイズを示すことができる。
【0016】
その結果、このような一実施形態の有機亜鉛触媒を用いて二酸化炭素およびエポキシドの共重合を進行させてポリアルキレンカーボネート樹脂を製造する場合、共重合のための反応物と、有機亜鉛触媒粒子との間の接触面積がより増加し、共重合活性が大きく向上できることが確認された。
【0017】
したがって、前記一実施形態の有機亜鉛触媒は、製造過程中に触媒粒子間の凝集が抑制され、より均一でかつ微細な粒径を有し、ポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための重合過程でより向上した活性を示して、このような重合過程で非常に好ましく使用できる。
【0018】
このような有機亜鉛触媒は、基本的に従来知られた亜鉛ジカルボキシレート系触媒と同等の鎖構造を含むことができる。つまり、前記有機亜鉛触媒は、亜鉛と、ジカルボキシレート、例えば、炭素数3〜20の脂肪族ジカルボキシレートまたは炭素数8〜40の芳香族ジカルボキシレートとが結合した構造を有することができ、ただし、その末端に、前記モノカルボン酸由来残基が結合できる。例えば、前記有機亜鉛触媒は、下記一般式1の化学構造を有することができる:
【0019】
【化1】
【0020】
前記一般式1において、R1およびR3は、それぞれ独立にモノカルボン酸由来の炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基(ただし、脂肪族炭化水素基には、1つ以上の酸素またはカルボニル基が含まれているか、含まれていなくてもよい。)を表し、R2は、ジカルボン酸またはジカルボキシレート由来の炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜40の芳香族炭化水素基を表してもよい。
【0021】
このような一実施形態の有機亜鉛触媒の構造において、前記ジカルボキシレートは、グルタレート、マロネート、スクシネート、またはアジペートなどの炭素数3〜20の脂肪族ジカルボキシレートや、テレフタレート、イソフタレート、ホモフタレート、またはフェニルグルタレートなどの炭素数8〜40の芳香族ジカルボキシレートのいずれになってもよい。ただし、前記有機亜鉛触媒の活性などの側面から、前記ジカルボキシレートがグルタレートになって、前記亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒は亜鉛グルタレート系触媒になることが適切である。このようなジカルボキシレートは、これに対応するジカルボン酸、例えば、グルタル酸、マロン酸、コハク酸、またはアジピン酸などの炭素数3〜20の脂肪族ジカルボン酸や、テレフタル酸、イソフタル酸、ホモフタル酸、またはフェニルグルタル酸などの炭素数8〜40の芳香族ジカルボン酸由来で、これらジカルボン酸と亜鉛との反応によって形成されてもよい。
【0022】
また、前記有機亜鉛触媒の少なくとも一側の末端に結合およびキャッピングされる残基は、1つ以上の酸素またはカルボニル基が含まれているか、含まれていない炭素数3〜15、あるいは炭素数4〜15、あるいは炭素数6〜15の脂肪族炭化水素基を有するモノカルボン酸由来であってよいが、このようなモノカルボン酸の代表例としては、バレリアン酸;ラウリン酸;3,5−ジオキソヘキサン酸;3,5,7−トリオキソ−ドデカン酸;アセト酢酸(Acetoacetic acid)、またはレブリン酸(Levulinic acid)などのケト酸(keto acids);あるいは4−オキソ−4H−1−ベンゾピラン−2−カルボン酸(4−oxo−4H−1−benzopyran−2−carboxylic acid)、または5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−ピラン−2−カルボン酸(5−Hydroxy−4−oxo−4H−pyran−2−carboxylic acid)などのオキソカルボン酸(oxo carboxylic acids)が挙げられ、これらの中から選択された2種以上の混合物を使用してもよいことはもちろんである。
【0023】
このようなモノカルボン酸由来残基が前記有機亜鉛触媒の末端にキャッピングされることによって、触媒の製造過程で触媒粒子間の凝集がより効果的に抑制され、均一でかつ微細な粒径と共に、より向上した活性を示す有機亜鉛触媒が適切に製造および提供できる。ただし、その他にも多様なモノカルボン酸との反応を通してモノカルボン酸由来残基で前記有機亜鉛触媒を末端キャッピングさせることができることは自明である。
【0024】
仮に、炭素数3未満の脂肪族炭化水素基を有するモノカルボン酸(例えば、プロピオン酸など)で末端キャッピングされた有機亜鉛触媒を用いる場合、前記脂肪族炭化水素基が十分な疎水性を示しにくく、触媒粒子間の凝集を抑制しにくいことがある。このため、微細でかつ均一な粒径を有する有機亜鉛触媒を得にくくなり、前記有機亜鉛触媒の重合活性が十分でなくなり得る。
【0025】
また、前記一実施形態の有機亜鉛触媒において、触媒の製造過程中の凝集をより効果的に抑制するために、前記モノカルボン酸由来残基は、亜鉛ジカルボキシレート系有機亜鉛触媒の両末端にキャッピングされることがより適切であり、これを考慮して、前記モノカルボン酸由来残基は、前記有機亜鉛触媒に結合したジカルボキシレート由来残基の1モルを基準として、約0.1〜0.5モル、あるいは約0.2〜0.5モル、あるいは約0.2〜0.4モルの比率で結合していることが適切である。
【0026】
そして、上述した一実施形態の有機亜鉛触媒は、その製造過程中に触媒粒子間の凝集が抑制されることによって、約0.2〜0.9μm、あるいは約0.3〜0.8μm、あるいは約0.5〜0.7μmの平均粒径、および約0.05〜0.3μm、あるいは約0.05〜0.2μm、あるいは約0.05〜0.1μmの粒径の標準偏差を有する均一な粒子形態になってもよい。これによって、前記有機亜鉛触媒が二酸化炭素およびエポキシドの共重合によるポリアルキレンカーボネート樹脂の製造時の触媒として用いられると、触媒粒子と反応物との接触面積がより増加し、向上した活性が現れる。
【0027】
一方、発明の他の実施形態によれば、上述した一実施形態の有機亜鉛触媒の製造方法が提供される。このような製造方法は、例えば、亜鉛前駆体と、ジカルボン酸と、炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基(ただし、脂肪族炭化水素基には、1つ以上の酸素またはカルボニル基が含まれているか、含まれていなくてもよい。)を有するモノカルボン酸とを反応させる段階を含むことができる。
【0028】
より具体的には、このような製造方法において、前記反応段階は、亜鉛前駆体と、ジカルボン酸とを反応させる段階と、前記モノカルボン酸をさらに加えて反応させる段階とを含むことができる。
【0029】
このような製造方法によれば、亜鉛前駆体とジカルボン酸とを反応させて亜鉛ジカルボキシレート系触媒を製造した後、モノカルボン酸を加えて各触媒を末端キャッピングしながら追加的な触媒粒子間の凝集を抑制し、最終的に一実施形態の有機亜鉛触媒を製造することができる。これによって、より均一でかつ微細な粒径と、向上した活性を示す一実施形態の有機亜鉛触媒が製造できる。
【0030】
このような製造過程において、前記亜鉛前駆体としては、酸化亜鉛または水酸化亜鉛や、酢酸亜鉛(Zn(O2CCH32)、硝酸亜鉛(Zn(NO32)、または硫酸亜鉛(ZnSO4)などの亜鉛塩が用いられ、その他にも従来から亜鉛ジカルボキシレート系触媒の製造に用いられていた任意の亜鉛前駆体を特別な制限なく全て使用できる。また、前記ジカルボン酸およびモノカルボン酸の例に関しては、すでに上述したので、これに関する追加的な説明は省略する。
【0031】
そして、前記触媒の製造方法において、前記ジカルボン酸の反応段階は、約40〜90℃の温度で約0.5〜10時間行われるとよく、前記モノカルボン酸の反応段階は、約80〜150℃の温度で約1〜20時間行われるとよい。これによって、亜鉛ジカルボキシレート系触媒の適切な生成を担保しながら、触媒の製造過程中の触媒粒子間の凝集が効果的に抑制され、より均一でかつ微細な粒径および優れた活性を示す触媒が適切に製造できる。
【0032】
また、前記触媒の製造過程において、前記モノカルボン酸は、前記ジカルボン酸の1モルに対して、約0.1〜0.5モルの比率で用いられ、前記ジカルボン酸は、前記亜鉛前駆体の1モルに対して、約1.0〜1.5モルの比率で用いられる。これによって、優れた活性を有する亜鉛ジカルボキシレート系触媒の適切な生成を担保しながら、触媒の製造過程中の触媒粒子間の凝集がより効果的に抑制され、より均一でかつ微細な粒径および優れた活性を示す触媒が適切に製造できる。
【0033】
一方、発明のさらに他の実施形態によれば、上述した有機亜鉛触媒の存在下、エポキシドおよび二酸化炭素を含む単量体を重合させる段階を含むポリアルキレンカーボネート樹脂の製造方法が提供される。
【0034】
このような触媒の製造方法において、前記有機亜鉛触媒は、不均一触媒の形態として用いられ、前記重合段階は、有機溶媒内で溶液重合で行われるとよい。これによって、反応熱が適切に制御でき、得ようとするポリアルキレンカーボネート樹脂の分子量または粘度の制御が容易になる。
【0035】
このような溶液重合において、溶媒としては、メチレンクロライド、エチレンジクロライド、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、1,4−ジオキサン、ヘキサン、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルアミンケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、トリクロロエチレン、メチルアセテート、ビニルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチロラクトン、カプロラクトン、ニトロプロパン、ベンゼン、スチレン、キシレン、およびメチルプロパゾール(methyl propasol)からなる群より選択される1種以上が用いられる。なかでも、メチレンクロライドまたはエチレンジクロライドを溶媒として用いることによって、重合反応の進行をより効果的にすることができる。
【0036】
前記溶媒は、エポキシド対比、約1:0.5〜1:100の重量比で用いられ、適切には、約1:1〜1:10の重量比で用いられる。
【0037】
この時、その比率が約1:0.5未満と少なすぎると、溶媒が反応媒質としてうまく作用せず、上述した溶液重合の利点を生かしにくいことがある。また、その比率が約1:100を超えると、相対的にエポキシドなどの濃度が低くなって生産性が低下することがあり、最終形成された樹脂の分子量が低くなったり、副反応が増加することがある。
【0038】
また、前記有機亜鉛触媒は、エポキシド対比、約1:50〜1:1000のモル比で投入されてもよい。より好ましくは、前記有機亜鉛触媒は、エポキシド対比、約1:70〜1:600、あるいは約1:80〜1:300のモル比で投入されてもよい。その比率が小さすぎると、溶液重合時に十分な触媒活性を示しにくく、逆に大きすぎると、過剰な量の触媒の使用で効率的でなく、副産物が生じたり、触媒の存在下で加熱による樹脂のバックバイティング(back−biting)が起こることがある。
【0039】
一方、前記エポキシドとしては、ハロゲン、または炭素数1〜5のアルキル基で置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレンオキシド;ハロゲン、または炭素数1〜5のアルキル基で置換もしくは非置換の炭素数4〜20のシクロアルキレンオキシド;およびハロゲン、または炭素数1〜5のアルキル基で置換もしくは非置換の炭素数8〜20のスチレンオキシド;からなる群より選択された1種以上が用いられる。代表的には、前記エポキシドとしては、ハロゲン、または炭素数1〜5のアルキル基で置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレンオキシドが用いられる。
【0040】
このようなエポキシドの具体的な例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブテンオキシド、ペンテンオキシド、ヘキセンオキシド、オクテンオキシド、デセンオキシド、ドデセンオキシド、テトラデセンオキシド、ヘキサデセンオキシド、オクタデセンオキシド、ブタジエンモノオキシド、1,2−エポキシ−7−オクテン、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、イソプロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、シクロオクテンオキシド、シクロドデセンオキシド、アルファ−ピネンオキシド、2,3−エポキシノルボルネン、リモネンオキシド、ディルドリン、2,3−エポキシプロピルベンゼン、スチレンオキシド、フェニルプロピレンオキシド、スチルベンオキシド、クロロスチルベンオキシド、ジクロロスチルベンオキシド、1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパン、ベンジルオキシメチルオキシラン、グリシジル−メチルフェニルエーテル、クロロフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル、エポキシプロピルメトキシフェニルエーテル、ビフェニルグリシジルエーテル、グリシジルナフチルエーテルなどがある。最も代表的には、前記エポキシドとしては、エチレンオキシドを使用する。
【0041】
付加して、上述した溶液重合は、約50〜100℃および約15〜50barで、約1〜60時間行うとよい。また、前記溶液重合は、約70〜90℃および約20〜40barで、約3〜40時間行うことがより適切である。
【0042】
一方、上述した事項を除いた残りの重合工程および条件は、ポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための通常の重合条件などに従えばよいので、これに関する追加的な説明は省略する。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、触媒の製造過程中に触媒粒子間の凝集が効果的に抑制され、より微細でかつ均一な粒子サイズを有し、優れた活性を示すポリアルキレンカーボネート樹脂の製造のための有機亜鉛触媒およびその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】実施例1で製造された有機亜鉛触媒のSEM写真である。
図2】比較例1で製造された有機亜鉛触媒のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、発明の理解のために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は発明を例示するためのものに過ぎず、発明をこれらにのみ限定するものではない。
【0046】
実施例1:有機亜鉛触媒の製造
250mLサイズの丸底フラスコで、100mLのトルエンに6.6g(0.05mol)のグルタル酸および0.1mLの酢酸を加えて、還流下で分散させた。次に、55℃の温度で30分間加熱し、4.1g(0.05mol)のZnOを50mLのトルエンに加えて分散させ、これを前記グルタル酸の分散液に加えた後、3時間撹拌した。
【0047】
以降、0.02molのバレリアン酸をピペットで徐々に添加し、110℃で4時間加熱した。白色固体が生成された後、それをろ過して、アセトン/エタノールで洗浄し、130℃で真空オーブンにて乾燥した。このような方法で実施例1の有機亜鉛触媒を製造して、その化学構造を確認した。また、このような有機亜鉛触媒のSEM写真を図1に示した。このようなSEM分析を通して確認した結果、実施例1の有機亜鉛触媒は、約0.52μmの平均粒径および約0.27μmの粒径の標準偏差を有することが確認された。
【0048】
実施例2:有機亜鉛触媒の製造
実施例1において、バレリアン酸の代わりにラウリン酸を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で実施例2の有機亜鉛触媒を製造して、その化学構造を確認した。また、このような有機亜鉛触媒をSEM分析を通して確認し、その結果、実施例2の有機亜鉛触媒は、約0.48μmの平均粒径および約0.28μmの粒径の標準偏差を有することが確認された。
【0049】
実施例3:有機亜鉛触媒の製造
実施例1において、バレリアン酸の代わりにアセト酢酸を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で実施例3の有機亜鉛触媒を製造して、その化学構造を確認した。また、このような有機亜鉛触媒をSEM分析を通して確認し、その結果、実施例3の有機亜鉛触媒は、約0.57μmの平均粒径および約0.23μmの粒径の標準偏差を有することが確認された。
【0050】
実施例4:有機亜鉛触媒の製造
実施例1において、バレリアン酸の代わりに5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−ピラン−2−カルボン酸を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で実施例4の有機亜鉛触媒を製造して、その化学構造を確認した。また、このような有機亜鉛触媒をSEM分析を通して確認し、その結果、実施例4の有機亜鉛触媒は、約0.51μmの平均粒径および約0.28μmの粒径の標準偏差を有することが確認された。
【0051】
比較例1:有機亜鉛触媒の製造
実施例1において、バレリアン酸を用いないことを除いては、実施例1と同様の方法で比較例1の有機亜鉛触媒を製造して、その化学構造を確認した。また、このような有機亜鉛触媒のSEM写真を図2に示した。
【0052】
比較例2:有機亜鉛触媒の製造
実施例1において、バレリアン酸の代わりにプロピオン酸を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で比較例2の有機亜鉛触媒を製造して、その化学構造を確認した。また、このような有機亜鉛触媒をSEM分析を通して確認し、その結果、比較例2の有機亜鉛触媒は、約0.73μmの平均粒径および約0.34μmの粒径の標準偏差を有することが確認された。
【0053】
図1および図2と、上述したそれぞれの実施例および比較例を参照すれば、実施例1〜4において、炭素数3〜15の脂肪族炭化水素基を有するモノカルボン酸を用いて製造された有機亜鉛触媒は、このようなモノカルボン酸を用いないか(比較例1)、炭素数3未満の炭化水素基が結合したモノカルボン酸(プロピオン酸)を用いて製造された有機亜鉛触媒(比較例2)に比べて、より均一でかつ微細な粒径を有することが確認された。
【0054】
重合例:
実施例1〜4、比較例1および2の触媒を用いて、次の方法でポリエチレンカーボネートを重合および製造した。
【0055】
まず、Glove box内で、高圧反応器内に0.4gの触媒と8.52gのジクロロメタン(methylene chloride)を入れた後、8.9gの酸化エチレン(ethylene oxide)を入れた。その後、反応器内に二酸化炭素を用いて30barに加圧した。重合反応は、70℃で3時間進行した。反応終了後、未反応の二酸化炭素と酸化エチレンは、溶媒のジクロロメタンと共に除去された。製造されたポリエチレンカーボネートの量を知るために、残っている固体を完全乾燥後に定量した。このような重合結果による触媒の活性および収率を、下記表1にまとめて示した。
【0056】
【表1】
【0057】
前記表1を参照すれば、実施例1〜4の触媒の場合、比較例1および2に比べて、優れた活性を示し、優れた収率でポリエチレンカーボネートの製造を可能にすることを確認した。
図1
図2