特許第6364093号(P6364093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6364093過酸化水素分解用触媒およびその製造方法ならびに該触媒を用いた過酸化水素を分解する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6364093
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】過酸化水素分解用触媒およびその製造方法ならびに該触媒を用いた過酸化水素を分解する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/68 20060101AFI20180712BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20180712BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20180712BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180712BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B01J23/68 M
   B01J23/652 M
   B01J37/02 301N
   B01J35/02 311A
   B01J35/04 351
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-563739(P2016-563739)
(86)(22)【出願日】2015年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2015084724
(87)【国際公開番号】WO2016093329
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-251315(P2014-251315)
(32)【優先日】2014年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩安
(72)【発明者】
【氏名】渡部 純
(72)【発明者】
【氏名】澤田 松範
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−33548(JP,A)
【文献】 特開2010−105864(JP,A)
【文献】 特開2011−200771(JP,A)
【文献】 特開2010−185136(JP,A)
【文献】 特開平8−89974(JP,A)
【文献】 特開2007−90157(JP,A)
【文献】 KIM Jungwon, et al.,Platinized WO3 as an Environmental Photocatalyst that Generates OH Radicals under Visible Light,Environ. Sci. Technol.,2010年 8月10日,ISSN:1520-5851, 44(17),P.6849-6854
【文献】 MIKHAILOVA A. A., et al.,CO oxidation at platinum-molybdenum electrodes,Russian Journal of Electrochemistry,2008年 3月,ISSN:1023-1935, Volume 44, Issue 3,P. 303-312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C02F 1/58
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸を含む被処理水中の過酸化水素の分解に用いる、基材上に、触媒機能を有する白金族金属及び第6族元素の金属で非晶質性の触媒層が形成された、過酸化水素分解用触媒。
【請求項2】
前記基材上に中間層を介して前記触媒層が形成されてなる、請求項1に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項3】
前記白金族金属と前記第6族元素の金属の質量含有比率が、99:1〜70:30である、請求項1または2に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項4】
前記白金族金属が、Pt、Pd、Ru、Ir、Rhからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項5】
前記第6族元素の金属が、Mo、Wからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項6】
前記非晶質性の触媒層が、PdとMo、RuとMo、PtとW、及びIrとWのいずれか1つの組み合わせを有する金属から形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項7】
前記基材が、Ta、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項8】
前記基材の形状が、板状、網状、パンチングメタル、またはエキスパンドメタルのいずれか1の形状である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項9】
前記中間層が貴金属を有する請求項2〜8のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項10】
前記貴金属が、白金族金属またはAuである、請求項9に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項11】
前記中間層の厚みが、0.1μm以上10μm以下である、請求項2〜10のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒を用いて、被処理水中に含まれる過酸化水素を分解する方法。
【請求項13】
前記被処理水の前記過酸化水素濃度が、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項12に記載の過酸化水素を分解する方法。
【請求項14】
前記被処理水中の酸の濃度が、5質量%以上75質量%以下である、請求項12または13に記載の過酸化水素を分解する方法。
【請求項15】
前記酸が硫酸である、請求項14に記載の過酸化水素を分解する方法。
【請求項16】
基材上に、メッキ法により被膜を形成させ、触媒機能を有する白金族金属及び第6族元素の金属で非晶質性の触媒層を形成させる工程を含む、過酸化水素分解用触媒の製造方法。
【請求項17】
基材上に、メッキ法により被膜を形成させ、中間層を形成する工程をさらに含み、該中間層上に非晶質性の触媒層を形成させる、請求項16に記載の過酸化水素分解用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素分解用触媒およびその製造方法ならびに該触媒を用いた過酸化水素を分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程では、シリコンウエハ前処理などにおいて、酸(硫酸など)と過酸化水素を含む処理液を使用している。この処理液を繰り返し使用していくと、シリカなどの不純物の蓄積や、過酸化水素が分解されて、酸濃度が希釈され処理機能が低下するため断続的に処理液を更新する必要がある。したがって、残存過酸化水素を含む濃厚な酸の廃液が多量に発生する。この廃液量は産業廃棄物処理法規制に関わることにもなる。
【0003】
したがって、該廃液に残っている過酸化水素を安全かつ再利用の基準まで分解処理し、該廃液中の濃厚な酸(硫酸など)を回収し、再利用や有価売却することを可能とする技術の開発が重要になってくる。過酸化水素を分解した後、残存した酸は中和して処理すると中和により発生した沈殿物を分離処理する際に、残存過酸化水素により浮上することで分離が困難になる場合がある。
【0004】
触媒を用いて過酸化水素を分解処理する技術としては、下記特許文献1〜4等が挙げられる。
特許文献1は、金属板の表面に多孔質アルミナ被膜を形成し、該多孔質アルミナ被膜に、粒子径が5nm以下の貴金属コロイド粒子を担持した過酸化水素分解触媒を開示している。
特許文献2は、液相中の過酸化水素を水と酸素に分解するための過酸化水素分解触媒であって、気孔を有する無機酸化物材料からなる担体と、前記担体に担持されたPt、Pd、Ir、Ru、Rh及びOsからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む活性金属と、を備え、前記担体の表面近傍において前記活性金属が担持されている層の厚さが0.01〜0.25mmである触媒を開示している。
【0005】
特許文献3は、Ag、Pt、Pd、Cu及びFeから選択される少なくとも1種の金属又は金属の化合物と活性炭前駆体とを混練、分散して得られた混合物を不融化及び/又は炭化処理した後、賦活処理することにより得られた過酸化水素の分解材であって、金属成分を0.01質量%以上含有する過酸化水素分解用活性炭を開示している。
特許文献4は、有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、該有機多孔質アニオン交換体は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均直径が乾燥状態で1〜1000μmの共通の開口(メソポア)を有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1〜50ml/gであり、アニオン交換基が均一に分布しており、アニオン交換容量が0.5〜5.0mg当量/g乾燥多孔質体であること、該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、を特徴とする白金族金属担持触媒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2011−200771号公報
【特許文献2】日本国特開2013−13868号公報
【特許文献3】日本国特開2003−266081号公報
【特許文献4】日本国特開2010−214320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、硫酸のような酸と過酸化水素水の混合溶液は、上記のような半導体の製造プロセスのみならず、各種分野で広く使用され、その廃液に含まれる酸濃度も多岐にわたっており、上記のような従来技術では幅広い酸濃度にすべて対応できるものではない。例えば、高濃度の硫酸を含む廃液では、多量の硫酸イオンによって多孔質な材料の表面を覆うため、過酸化水素が触媒と接触しにくく、効率の良い分解が達成されないという問題点がある。また、長時間高濃度の硫酸に浸漬すると触媒自体が溶出してしまうという問題点もある。
【0008】
また上記各特許文献に開示された技術以外においても、過酸化水素を分解する際に亜硫酸等の薬品、光照射、蒸気、高圧等を適用する従来技術が数多く知られているが、このような手段では、比較的高価な過酸化水素を分解するには処理コストが著しく上昇してしまうことにもなる。
【0009】
さらに従来技術では、過酸化水素を分解処理した後の硫酸のような酸を回収、リサイクルする手段については過去開示されたものが非常に少ない。
【0010】
したがって本発明の目的は、高濃度の酸を含む被処理水中の過酸化水素を効率良くかつ低コストで分解することができ、触媒の被処理水中への溶出が少なく、長期にわたり安定して使用することができるとともに、酸の回収およびリサイクルを可能にする過酸化水素分解用触媒およびその製造方法ならびに該触媒を用いた過酸化水素を分解する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、過酸化水素分解用触媒の触媒層として非晶質性の金属を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は、以下の通りである。
【0012】
1.酸を含む被処理水中の過酸化水素の分解に用いる、基材上に、触媒機能を有する白金族金属及び第6族元素の金属で非晶質性の触媒層が形成された、過酸化水素分解用触媒。
2.前記基材上に中間層を介して前記触媒層が形成されてなる、前項1に記載の過酸化水素分解用触媒。
3.前記白金族金属と前記第6族元素の金属の質量含有比率が、99:1〜70:30である、前項1または2に記載の過酸化水素分解用触媒。
4.前記白金族金属が、Pt、Pd、Ru、Ir、Rhからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属である、前項1〜3のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
5.前記第6族元素の金属が、Mo、Wからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属である、前項1〜4のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
6.前記非晶質性の触媒層が、PdとMo、RuとMo、PtとW、及びIrとWのいずれか1つの組み合わせを有する金属から形成される、前項1〜5のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
7.前記基材が、Ta、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含有する、前項1〜6のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
8.前記基材の形状が、板状、網状、パンチングメタル、またはエキスパンドメタルのいずれか1の形状である、前項1〜7のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
9.前記中間層が貴金属を有する前項2〜8のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
10.前記貴金属が、白金族金属またはAuである、前項9に記載の過酸化水素分解用触媒。
11.前記中間層の厚みが、0.1μm以上10μm以下である、前項2〜10のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒。
12.前項1〜11のいずれか1項に記載の過酸化水素分解用触媒を用いて、被処理水中に含まれる過酸化水素を分解する方法。
13.前記被処理水の前記過酸化水素濃度が、0.1質量%以上10質量%以下である、前項12に記載の過酸化水素を分解する方法。
14.前記被処理水中の酸の濃度が、5質量%以上75質量%以下である、前項12または13に記載の過酸化水素を分解する方法。
15.前記酸が硫酸である、前項14に記載の過酸化水素を分解する方法。
16.基材上に、メッキ法により被膜を形成させ、触媒機能を有する白金族金属及び第6族元素の金属で非晶質性の触媒層を形成させる工程を含む、過酸化水素分解用触媒の製造方法。
17.基材上に、メッキ法により被膜を形成させ、中間層を形成する工程をさらに含み、該中間層上に非晶質性の触媒層を形成させる、前項16に記載の過酸化水素分解用触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の過酸化水素分解用触媒は、基材上に触媒層が形成され、前記触媒層が非晶質性の金属を有することを特徴としている。そのため、亜硫酸等の薬品、光照射、蒸気、高圧等を適用することなく、過酸化水素を効率良くかつ低コストで分解することができる。また、触媒の被処理水中への溶出も少なく、長期にわたり安定して使用することができる。さらに過酸化水素分解後の被処理水から酸を回収し、リサイクルすることも可能である。この場合、酸が高濃度の硫酸であるとき、リサイクル性に特に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1または比較例1の触媒のXRDによる分析結果を示す。
図2図2は、廃液処理装置を含む廃液処理システムの概要のシステム構成図である。
図3図3は、廃液処理装置内の構造を簡略的に示す模式図である。
図4図4は、実施例1または比較例1の触媒を被処理水と接触させた場合における、被処理水中の過酸化水素の残存濃度を示したグラフである。
図5図5は、廃液処理装置を含む廃液処理システムの概要のシステム構成図である。
図6図6は、廃液処理装置内の構造を簡略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の過酸化水素分解用触媒(以下、単に触媒ともいう)は、基材上に触媒層が形成され、前記触媒層が非晶質性の金属を有することを特徴としている。
【0016】
まず、本発明の触媒について説明する。
本発明の触媒は、酸を含む被処理水中の過酸化水素の分解に用いる、基材上に、触媒機能を有する白金族金属及び第6族元素の金属で非晶質性の触媒層が形成された、過酸化水素分解用触媒である。
【0017】
本発明で使用する基材としては、非晶質性の金属触媒層を形成し易いという観点から、金属板が好ましい。金属板としては、例えば、Feおよびその合金、Niおよびその合金、Cuおよびその合金、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、Ta、Nb、Zrを含む金属板が挙げられる。高濃度な酸に耐触性を有するという観点から、Ta、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含有する金属板が好ましい。特に、被処理水の酸濃度、例えば硫酸濃度が60質量%以上である場合は、Ta及びNb、Zrからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含有する金属板を使用するのが好ましい。
【0018】
基材の形状は、特に制限はなく、過酸化水素の分解に使用される装置の形状や大きさ等に応じて適宜選択される。例えば、板状、網状、パンチングメタル、エキスパンドメタル等の形状が挙げられる。なかでも、触媒の充填方法により、被処理水と触媒との接触の頻度と時間を増加させることができるという観点から、板状の形状が好ましい。
【0019】
基材の厚さは、例えば3mm以下であることが好ましく、0.5〜1mmであることがさらに好ましい。
【0020】
本発明における触媒層は、非晶質性である。本発明の触媒の触媒層が非晶質性であることによって、被処理水中の過酸化水素を効率良く分解することができる。前記の白金族金属に、単独では析出させることができない第6族元素の金属と電気めっきで誘起共析することで、Ptの結晶構造に変化が生じたためと考えられる。また、触媒の被処理水中への溶出も少なく、長期にわたり安定して使用することができるのは、耐蝕性のある触媒層が形成されるからであると考えられる。
【0021】
非晶質性とは、構成原子の配列に結晶構造のような長距離規則性を持たない固体状態のことを指す。非晶質性であることは、X線回折結果の波形が白金族金属結晶面のピークが低くなる、あるいはブロード化することによってわかる。
非晶質性の触媒層は、触媒機能を有する白金族金属及び第6族元素の金属で形成される。
【0022】
前記白金族金属としては、触媒活性の観点から、Pt、Pd、Ru、Ir、Rhからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属が挙げられ、中でも過酸化水素分解の触媒活性と高濃度の酸への耐蝕性の観点から、Ptが好ましい。
本発明における第6族元素の金属としては、触媒活性の観点から、Mo、Wからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属が挙げられる。
【0023】
また、前記白金族金属と前記第6族元素の金属の含有比率は、触媒活性の観点から、前者:後者の析出物の含有比として、好ましくは、質量比(質量含有比率)で99:1〜70:30であり、90:10〜80:20がより好ましい。前記の含有比率を有することにより、非晶質性の金属触媒として、より優れた触媒活性を有することができる。
【0024】
また、前記白金族金属と前記第6族元素の金属との組み合わせとしては、触媒活性が一層高まるという観点から、PdとMo、RuとMo、PtとW、及びIrとWのいずれかの組み合わせが好ましい。
【0025】
触媒層の厚さは、例えば0.1μm以上5μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上1μm以下であるのがさらに好ましい。前記範囲にすることによって、薄い層の厚さでも触媒活性があるからである。
【0026】
本発明の触媒は、前記基材と前記触媒層との間に、例えば酸から基材を保護する、前記基材および前記触媒層間の接合性を高める、という目的から中間層を設けることが好ましい。該目的を達成するために、中間層は貴金属を含むことが好ましく、前記貴金属は、白金族金属またはAuであることが好ましく、特に白金族金属はPtであることが好ましい。
【0027】
中間層の厚さは、酸からの基材の保護、基材および触媒層間の接合性を高めるという観点から、0.1μm以上10μm以下であるのが好ましく、0.5μm以上5μm以下であるのがさらに好ましい。前記範囲にすることによって、基材の腐食防止になるからである。
なお、中間層の厚みは、被処理水中の酸濃度に応じて種々変更することができる。
また、中間層は、一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0028】
次に本発明の触媒の製造方法について説明する。
本発明の触媒は、例えば基材上にメッキ法、スパッタリング法または蒸着法により被膜を形成させ、非晶質性の触媒層、具体的には非晶質性の金属を含む触媒層を形成させる工程を経て製造することができる。基材上に被膜を形成する方法としては、メッキ法が好ましい。基材の腐食を防止するための被膜を短時間で厚く(1〜10μm)被覆することができるためである。メッキ法には、電気メッキ法、無電解メッキ法等が挙げられ、中でも電気メッキ法が好ましい。以下、本発明の好適な電気メッキ法について説明する。
【0029】
まず、例えば前記白金族元素と前記第6族元素の金属とを含むメッキ液を調製する。メッキ液における前記白金族元素は、塩化物、硫酸化合物、硝酸化合物またはアンミン錯体の形態で水溶液中に溶解していることが好ましく、前記第6族元素の金属は、その金属を含む化合物と錯化剤により錯体の形態で水溶液中に溶解していることが好ましい。これらの錯体は公知の手法により調製することができる。
【0030】
前記電気メッキ液中の白金族元素の濃度は、例えば、0.1質量%以上1質量%以下であり、0.2質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。また前記電気メッキ液中の第6族元素の金属の濃度は、例えば、1.0質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0031】
前記メッキ液中の錯化剤の濃度は、例えば0.5質量%以上5質量%以下が好ましい。錯化剤としては、有機酸、アミン化合物が好ましく、有機酸としては、ヒドロキシ酸が好ましく、アミン化合物としては、EDTA、スルファミン酸の適用が好ましい。
【0032】
また前記白金族元素および前記第6族元素の金属が溶解した電気メッキ液のpHは、用いる元素の種類により適宜調整すればよいが、例えば、pH1.5以上10以下である。
電気メッキ条件は用いる元素の種類により適宜調整すればよいが、例えば電流密度は0.1A/dm以上5A/dm以下であり、メッキ時間は1分以上30分以下であり、メッキ温度は40℃以上80℃以下である。
【0033】
触媒層が非晶質性であるかの確認は、X線回折(XRD)法に基づく分析により行うことができる。
【0034】
また本発明の触媒は、前記のように、基材表面上に中間層を介して触媒層が形成されてなる形態が好ましく、この中間層は、上述したようなメッキ法(電気メッキ法または無電解メッキ法)、スパッタリング法または蒸着法により被膜を形成させることにより設けることができる。以下、中間層が貴金属を含む形態について説明するが、本発明は下記に制限されるものではない。
【0035】
中間層を設ける方法として、例えば基材を脱脂、酸処理(例えばフッ化物系の酸)による浸漬等を行い、基材表面を活性化処理した後、電気メッキ法により基材上に貴金属の被膜を形成する方法が挙げられる。
例えば、電気メッキ法の場合は、メッキ液中の貴金属濃度は、0.5質量%以上1.0質量%以下が好ましい。また、前記メッキ液のpHは、1.5以上10以下が好ましい。メッキ条件は、例えば電流密度は0.2A/dm以上2A/dm以下であり、時間は5分以上40分以下であり、温度は50℃以上70℃以下である。メッキ後は、基材を水洗、乾燥することが好ましい。
【0036】
次に、本発明の触媒を用いて、被処理水中の過酸化水素を分解する方法について説明する。
本発明の触媒は、被処理水に酸および過酸化水素が併存する場合であっても、過酸化水素を効率よく分解できるとともに、過酸化水素分解後は酸を回収することによりこれを再利用することもできる。
【0037】
被処理水としてはとくに制限されないが、シリコンウエハ前処理などにおいて発生する廃液等が挙げられる。
酸としては、硫酸等が挙げられる。
【0038】
以下、酸が硫酸である場合を例にとり説明する。
本発明において、被処理水中の硫酸濃度は、5質量%以上70質量%以下であっても、70質量%以上75%質量%以下もの高濃度の硫酸濃度であることもできる。高濃度の硫酸中であっても、過酸化水素を効率よく分解でき、効果が大きいという観点から、被処理水中の硫酸濃度が5質量%以上75質量%以下であることが好ましく、50質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
また、被処理水中の過酸化水素は、0.1質量%以上10質量%以下の濃度であることができる。高濃度の過酸化水素であっても、効率よく分解でき、効果が大きいという観点から、被処理水中の過酸化水素濃度が1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0040】
このように、本発明の触媒によれば、被処理水中の硫酸濃度および過酸化水素濃度が高濃度の場合であっても、過酸化水素を効率よく分解することができる。
【0041】
被処理水と本発明の触媒との接触方法は、公知の手段を利用すればよく、とくに制限されない。例えば、本発明の触媒と触媒の間を通す流通型反応装置などの触媒反応装置に組み入れて、その後、該装置中に、過酸化水素および硫酸を含む被処理水を供給して該装置中を通過させることによって、被処理水を該触媒に接触させる方法が挙げられる。具体的には、実施例にて後述する廃液処理システムが挙げられる。
【0042】
触媒反応装置に供給する被処理水の温度は特に限定されるものではないが、水温が高いほど過酸化水素分解能が向上するが、加温する必要はなく水温を下げないように保温する構造になっている方が、過酸化水素分解能が向上する。通常は10℃以上50℃以下の範囲内が好ましい。
【0043】
また、本発明の触媒の使用量は、被処理水に含まれる硫酸および過酸化水素濃度により適宜決定される。例えば、硫酸濃度が50質量%以上70質量%以下、過酸化水素物濃度が1質量%以上5質量%以下の場合は、該触媒の使用表面積は、被処理水100Lに対して、0.5m以上1.5m以下が適当である。
本発明の触媒によって過酸化水素は、分解された水と酸素を発生する。
過酸化水素が分解された後の被処理水は、そのまま、硫酸としてリサイクル(再利用または売却)することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(基材)
縦50mm×横70mm×厚み1mmの矩形状のZr製板を基材とした。
【0046】
(非晶質性の触媒層形成用メッキ液)
Ptを0.3質量%、Wを6.0質量%含有する、pH=7のメッキ液を調製した。なおメッキ液は、Ptは塩化白金酸として、Wはタングステン酸Naとして水に溶解させたものである。
【0047】
(中間層形成用メッキ液)
メッキ液は、EEJA製中性液(製品 テンペレックスシリーズのAuめっき液)を使用した。
【0048】
(基材の前処理)
前記基材に対し、市販のアルカリによる脱脂およびフッ化物系の酸での浸漬処理を順次行い、基材表面を活性化処理した。
【0049】
(中間層の形成)
前記前処理した基材に対し、前記中間層形成用のメッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間3分、温度60℃とした。基材表面上に厚さ3μmの中間層が形成された。
【0050】
(非結晶質性の触媒層の形成)
前記中間層が形成された基材に対し、乾燥しないで引き続き水洗後、前記触媒層形成用メッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間5分、温度65℃とした。電気メッキ完了後、基材を水洗、乾燥した。中間層上に厚さ0.3μmの触媒層が形成されたことを確認した。
以上のようにして本発明の触媒を作製した。
なお、触媒層をXRD(Rigaku社製 ULTIMA IV)により分析したところ、触媒層は非晶質性の金属層からなることが確認された。結果を図1に示す。
図1によると、実施例1の触媒層は、波形でPtの各結晶面でのピークの半値幅が広がっていることから、実施例1の触媒層は非晶質性であることがわかる。
【0051】
(過酸化水素分解性能の確認)
図2に示す廃液処理システム100によって、本発明の触媒における過酸化水素分解能の確認を行った。
【0052】
1.前述のように作製した実施例1の触媒を、触媒同士の間隔を5mmとし、表2に示す触媒の表面積にて、触媒を図3に示すように充填した。図3の廃液処理装置20は、第1の貯留槽10から流れてきた被処理水の導入口21、被処理水と接触する触媒の表面積を一定にするための仕切り板22、触媒同士の間隔24で配置された触媒23、被処理水の排出口26等から構成されている。
【0053】
2.第1の貯留槽10に、硫酸濃度が71質量%、過酸化水素濃度が1.65質量%である被処理水を供給して、表1の流通条件で前記廃液処理装置20中を通過させることによって、被処理水を該固体触媒に接触させ、本発明の触媒における、過酸化水素分解能を確認した。具体的には、導入口21から流入した被処理水が、導入口21に隣接して設置された仕切り板22を乗り越える。仕切り板22を乗り越えた被処理水は図3中に矢印で示す触媒23の充填方向に沿って、触媒23と接触しながら廃液処理装置20中を進み、排出口26より排出される。被処理水の液面25の高さは、仕切り板22の高さにほぼ等しい。
【0054】
3.前記廃液処理装置20中を通過した処理水は、第2の貯留槽30に貯留された。
処理水中の過酸化水素残存濃度の結果を表2及び図4に示す。
【0055】
[比較例1](基材)
実施例1と同様に、縦50mm×横70mm×厚み1mmの矩形状のZr製板を基材とした。
【0056】
(結晶性触媒層形成用メッキ液)
Ptを0.5質量%含有する、pH=1の市販のメッキ液を調製した。
【0057】
(基材の前処理)
実施例1と同様、前記基材に対し、市販のアルカリ脱脂およびフッ化物系の酸での浸漬処理等を順次行い、基材表面を活性化処理した。
【0058】
(結晶性触媒層の形成)
前記活性化処理した基材に対し、前記触媒層形成用メッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間60分、温度60℃とした。電気メッキ完了後、基材を水洗、乾燥した。基材上に厚さ2μmの触媒層が形成されたことを確認した。
なお、触媒層をXRD(Rigaku社製 ULTIMA IV)により分析したところ、触媒層は結晶性の金属層からなることが確認された。結果を図1に示す。
図1によると、比較例1の触媒層は、波形でPtの各結晶面でのピークの半値幅が狭くシャープになっていることから比較例1の触媒層は結晶性であることがわかる。
【0059】
(過酸化水素分解性能の確認)
触媒を比較例1で作成した結晶性の触媒を使用したこと、過酸化水素濃度が1.78質量%である被処理水を使用したことを除いては、実施例1と同様に、触媒の過酸化水素分解性能の確認を行った。
結果を表2及び図4に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表2及び図4の結果より、実施例1の非晶質性の金属を有する触媒は、非晶質性の金属を有しない比較例1の結晶性の触媒と比較して、顕著に過酸化水素分解性能が高いことが分かった。
【0063】
[実施例2〜3]
被処理水中の硫酸濃度が表3に示す濃度であること、触媒表面積が表3に示す表面積で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で、触媒の過酸化水素分解性能の確認を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3の結果により、被処理水中の硫酸濃度が71%である実施例1と比較して、実施例2の8%、実施例3の44%のように、被処理水中の硫酸濃度が低い場合であっても、非晶質性の金属を有する触媒を使用することによって、実施例1と同様に、被処理水中の過酸化水素を分解できることがわかった。したがって、本発明の触媒によれば、被処理水中の硫酸濃度が低い場合であっても、高い場合であっても、被処理水中の過酸化水素を効率よく分解できることが分かった。
【0066】
[実施例4]
(基材)
縦48mm×横80mm×厚み0.7mmの矩形状に、3mmφ穴が6mm間隔でパンチング加工されたZr製板(パンチングメタル)を基材とした。
【0067】
(非晶質性の触媒層形成用メッキ液)
実施例1と同様に、Ptを0.3質量%、Wを6.0質量%含有する、pH=7のメッキ液を調製した。なおメッキ液は、Ptは塩化白金酸として、Wはタングステン酸Naとして水に溶解させたものである。
【0068】
(中間層形成用メッキ液)
メッキ液は、酸性Ptめっき液とEEJA製中性Auめっき液(製品 テンペレックス401)を使用した。
【0069】
(基材の前処理)
前記基材に対し、市販のアルカリによる脱脂およびフッ化物系の酸での浸漬処理等を順次行い、基材表面を活性化処理した。
【0070】
(中間層の形成)
前記前処理した基材に対し、前記中間層形成は2段層にして、一段目は前記Ptメッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間8分、温度50℃とした。基材表面上に厚さ0.3μmの第一段中間層が形成された。二段目は前記Auメッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.3A/dmであり、時間5分、温度60℃とした。基材表面上で厚さ0.5μmの第二段中間層が形成された。
【0071】
(非結晶質性の触媒層の形成)
前記中間層が形成された基材に対し、乾燥しないで引き続き水洗後、前記触媒層形成用メッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間5分、温度65℃とした。電気メッキ完了後、基材を水洗、乾燥した。中間層上に厚さ0.3μmの触媒層が形成されたことを確認した。
以上のようにして本発明の触媒を作製した。
【0072】
(過酸化水素分解性能の確認)
図5に示す廃液処理システム200によって、本発明の触媒における過酸化水素分解能の確認を行った。
【0073】
1.前述のように作製した実施例4の触媒を、触媒同士の間隔を5mmとし、表5に示す触媒の表面積にて、触媒を図5の廃液処理システム200における廃液処理装置120に充填した。廃液処理装置120は、図6に示すように、筐体121、第1の貯留槽110から流れてきた被処理水の導入口21、触媒に均一に接触させるための邪魔板122、触媒23、触媒を二段にセットするための仕切り板124、被処理水の排出口26等から構成されている。
【0074】
2.第1の貯留槽110に、硫酸濃度が71質量%、過酸化水素濃度が1.80質量%である被処理水を供給して、表4の流通条件で前記廃液処理装置120中を通過させることによって、被処理水を該固体触媒に接触させ、本発明の触媒における、過酸化水素分解能を確認した。具体的には、図6に示すように、導入口21から流入した被処理水が、導入口21に隣接して設置された邪魔板122を通過する。邪魔板122を通過した被処理水は廃液処理装置120の底部から上部に向かって(図6に矢印で示す方向)、触媒23と接触しながら廃液処理装置120中を進み、排出口26より排出される。
【0075】
3.前記廃液処理装置120中を通過した処理水は、第2の貯留槽130に貯留された。
処理水中の過酸化水素残存濃度の結果を表5に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
表5の結果より、廃液処理システムの装置形状を変えた場合であっても、本発明の非晶質性の触媒層を有する過酸化水素分解用触媒を使用することによって、実施例1と同様に、被処理水中の過酸化水素を効率良く分解できることがわかった。
【0079】
[実施例5、6]
(基材)
縦48mm×横80mm×厚み0.7mmのTi製エキスパンドメタルを基材とした。
【0080】
(非晶質性の触媒層形成用メッキ液)
実施例1と同様に、Ptを0.3質量%、Wを6.0質量%含有する、pH=7のメッキ液を調製した。なおメッキ液は、Ptは塩化白金酸として、Wはタングステン酸Naとして水に溶解させたものである。
【0081】
(中間層形成用メッキ液)
メッキ液は、酸性Ptメッキ液とEEJA製中性Auメッキ液(製品 オーロボンドTN)を使用した。
【0082】
(基材の前処理)
前記基材に対し、市販のアルカリによる脱脂およびフッ化物系の酸での浸漬処理等を順次行い、基材表面を活性化処理した。
【0083】
(中間層の形成)
前記前処理した基材に対し、前記中間層形成用のPtメッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間40分、温度50℃とした。基材表面上に厚さ1μmの中間層が形成された。さらに、1μmのPtメッキ中間層の上に、前期中間層形成用のAuメッキ液を用いた電気フラッシュメッキを行った。電圧5V、時間0.5分、温度60℃とした。
【0084】
(非結晶質性の触媒層の形成)
前記中間層が形成された基材に対し、乾燥しないで引き続き水洗後、前記触媒層形成用メッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間5分、温度65℃とした。電気メッキ完了後、基材を水洗、乾燥した。中間層上に厚さ0.3μmの触媒層が形成されたことを確認した。
以上のようにして本発明の触媒を作製した。
【0085】
(過酸化水素分解性能の確認)
実施例1と同様に、図2に示す廃液処理システム100によって、本発明の触媒における過酸化水素分解能の確認を行った。
【0086】
1.前述のように作製した触媒を、触媒同士の間隔を5mmとし、表7に示す触媒の表面積にて、触媒を図3に示すように充填した。
【0087】
2.第1の貯留槽10に、硫酸濃度が71質量%、過酸化水素濃度が1.80質量%である被処理水(実施例5:初期の液温13℃、実施例6:初期の液温25℃)を供給して、表6の流通条件で前記廃液処理装置20中を通過させることによって、被処理水を該固体触媒に接触させ、本発明の触媒における、過酸化水素分解能を確認した。具体的には、導入口21から流入した被処理水が、導入口21に隣接して設置された仕切り板22を乗り越える。仕切り板22を乗り越えた被処理水は図3中に矢印で示す触媒23の充填方向に沿って、触媒23と接触しながら廃液処理装置20中を進み、排出口26より排出される。
【0088】
3.前記廃液処理装置20中を通過した処理水は、第2の貯留槽30に貯留された。
処理水中の過酸化水素残存濃度の結果を表7に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
表7の結果より、初期の液温により、過酸化水素の処理効率に差が生じるが、実施例1と触媒の形状を変えた場合であっても、非晶質性の金属を有する触媒を使用することによって、実施例1と同様に、被処理水中の過酸化水素を効率良く分解できることがわかった。
【0092】
[実施例7]
(基材)
縦46mm×横70mm×厚み0.7mmの矩形状のNb製板を基材とした。
【0093】
(非晶質性の触媒層形成用メッキ液)
実施例1と同様に、Ptを0.3質量%、Wを6.0質量%含有する、pH=7のメッキ液を調製した。なおメッキ液は、Ptは塩化白金酸として、Wはタングステン酸Naとして水に溶解させたものである。
【0094】
(中間層形成用メッキ液)
メッキ液は、酸性Ptメッキ液を使用した。
【0095】
(基材の前処理)
前記基材に対し、市販のアルカリによる脱脂、フッ化物系の酸での浸漬処理等を順次行い、基材表面を活性化処理した。
【0096】
(中間層の形成)
前記前処理した基材に対し、前記中間層形成用のPtメッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間40分、温度50℃とした。基材表面上に厚さ1μmの中間層が形成された。
【0097】
(非結晶質性の触媒層の形成)
前記中間層が形成された基材に対し、乾燥しないで引き続き水洗後、前記触媒層形成用メッキ液を用いた電気メッキを行った。電気メッキ条件は、電流密度0.5A/dmであり、時間5分、温度65℃とした。電気メッキ完了後、基材を水洗、乾燥した。中間層上に厚さ0.3μmの触媒層が形成されたことを確認した。
以上のようにして本発明の触媒を作製した。
【0098】
(過酸化水素分解性能の確認)
実施例1と同様に、図2に示す廃液処理システム100によって、本発明の触媒における過酸化水素分解能の確認を行った。
【0099】
1.前述のように作製した実施例7の触媒を、触媒同士の間隔を5mmとし、表9に示す触媒の表面積にて、触媒を図3に示すように充填した。
【0100】
2.第1の貯留槽10に、硫酸濃度が16質量%、過酸化水素濃度が3.76質量%である被処理水を供給して、表8の流通条件で前記廃液処理装置20中を通過させることによって、被処理水を該固体触媒に接触させ、本発明の触媒における、過酸化水素分解能を確認した。具体的には、導入口21から流入した被処理水が、導入口21に隣接して設置された仕切り板22を乗り越える。仕切り板22を乗り越えた被処理水は図3中に矢印で示す触媒23の充填方向に沿って、触媒23と接触しながら廃液処理装置20中を進み、排出口26より排出される。
【0101】
3.前記廃液処理装置20中を通過した処理水は、第2の貯留槽30に貯留された。
処理水中の過酸化水素残存濃度の結果を表9に示す。
【0102】
【表8】
【0103】
【表9】
【0104】
表9の結果により、被処理水中の過酸化水素濃度が実施例1〜6と比較して、実施例7の3.76質量%濃度のように、被処理水中の過酸化水素濃度が高い場合であっても、非晶質性の金属を有する触媒を使用することによって、実施例1と同様に、被処理水中の過酸化水素を分解できることがわかった。したがって、本発明の触媒によれば、被処理水中の過酸化水素濃度が高い場合であっても、被処理水中の過酸化水素を効率よく分解できることが分かった。
【0105】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2014年12月11日付で出願された日本特許出願(特願2014−251315)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0106】
10、110.第1の貯留槽
20、120.廃液処理装置
21.導入口
22.仕切り板
23.触媒
24.触媒同士の間隔
25.液面
26.排出口
30、130.第2の貯留槽
100、200.廃液処理システム
121.筐体
122.邪魔板
124.仕切り板
図1
図2
図3
図4
図5
図6