特許第6365307号(P6365307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365307
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20180723BHJP
   B29C 47/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C08G73/10
   B29C47/00
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-553136(P2014-553136)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2013083653
(87)【国際公開番号】WO2014098042
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-274901(P2012-274901)
(32)【優先日】2012年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】副島 裕司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 二郎
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智子
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037401(JP,A)
【文献】 特開2012−251080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物由来及びアミン化合物由来の構造単位を含み、
末端アミノ基の封止率が95.0%以上であり、かつイミド化率が95.8%以上であり、
記酸二無水物由来の構造単位が下記式(1)で表され、
記ジアミン化合物由来の構造単位が下記式(3)で表される熱可塑性ポリイミド。
【化1】
(上記式(3)中、R〜Rはそれぞれ互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基又は水酸基であり、Xは酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基であり、nは0〜4の整数である。)
【請求項2】
重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000である、請求項1に記載の熱可塑性ポリイミド。
【請求項3】
310℃における複素せん断粘度(η)が1×10〜5×10Pa・sである、請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリイミド。
【請求項4】
310℃で60分間経過前後での複素せん断粘度の変化率が300%以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミドを溶融押出成形して得られる、熱可塑性ポリイミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、溶融熱安定性、溶媒不揮発性等に優れた熱可塑性ポリイミド及び該熱可塑性ポリイミドを溶融押出成形して得られる熱可塑性ポリイミド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、耐熱性や機械物性、耐薬品性、電気特性等の点において優れた特性を有しているために、自動車、航空宇宙産業、電気、電子、電池等の分野において、幅広く使用されている。
【0003】
ポリイミドは一般的に耐熱性に優れるという特徴を有する一方で、明瞭なガラス転移温度を有さない熱硬化性樹脂であり、成形材料として用いる場合には、焼結成形等の特殊な手法を用いなければならない。また、焼結成形法で複雑な形状を有する加工品を得るには、NC旋盤等の切削機械を使用してポリイミドのブロックから目的の形状を削り出す等複雑・煩雑な加工工程を要し、高コストとなる問題がある。更に、ポリイミドは一般的に全芳香族骨格を有するため、成形品が着色する。このため、透明性が要求される用途では使用できない等の問題点もある。
【0004】
そこで、成形加工性を改善するため、汎用な熱可塑性樹脂と同様に一定温度以上で溶融成形可能な熱可塑性ポリイミドが開発されている。例えば、特許文献1には3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸骨格を基本骨格とする熱可塑性ポリイミドが記載されている。また、特許文献1には、ポリイミドの製造方法として、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸樹脂溶液を溶液中でイミド化する方法が記載されている。
【0005】
一方、透明性を改善するために、脂環式テトラカルボン酸二無水物及び脂肪族系ジアミンのうち少なくとも一方を用いた透明ポリイミドが開発されている。例えば、特許文献2には3,4,3’,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物骨格を用いた透明ポリイミドが記載されており、また、その製造方法として、ポリアミック酸溶液の溶液流延法による成形及び加熱イミド化によって透明ポリイミド成形体を得る方法が記載されている。また、特許文献3には脂肪族テトラカルボン酸骨格を有するポリアミック酸樹脂を溶液中でイミド化し、ポリイミドを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平4−331231号公報
【特許文献2】日本国特開平8−104750号公報
【特許文献3】日本国特開2005−15629号公報
【特許文献4】日本国特開2008−297360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているポリイミドはガラス転移温度が高く、しかも結晶性を有するため、通常の工業プロセスにおける溶融温度の上限において溶融状態とすることが困難であり、成形方法が通常、溶媒キャスト法に制限される。また、芳香族骨格を多く有するため得られるポリイミドは色調、透明性における問題もある。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術は、ポリイミドフィルムを得るためにポリアミック酸の溶液を溶媒キャスト法(溶液流延法)により成形する技術であるが、薄膜状のフィルムしか製造することができず、その用途が限られること、溶媒の乾燥に時間を要するために生産性が悪いこと等の課題がある。また、ポリアミック酸溶液は空気中の水分で容易に加水分解を起こすため、保管途中で分子量が変わり、粘度が低下する点にも課題がある。更に、本発明者らの検討によれば、ポリイミドのイミド化率が不十分であり、また、末端に1級アミノ基が残存しているために溶融熱安定性が不十分であり、また、それが着色の原因にもなるという課題も見出された。
【0009】
一方、特許文献3にはポリイミドを溶媒と混合した溶液状態で用いる溶媒キャスト法が記載されているが、これも特許文献2と同様に、薄膜状のフィルムしか製造することができず、その用途が限られること、溶媒の乾燥に時間を要すること、及びそのためにコストが高くなること等の問題があり、更にはポリイミドの末端に1級アミノ基が残存しており、着色の原因となるという問題も見出された。また、溶媒と混合したポリイミド溶液を溶融成形してポリイミド成形体を得る方法においても、ポリイミドに溶媒が含まれるため溶融時に著しい発泡が見られたり、可燃性ガスが発生する等の問題が生じる可能性が高く、この点も改善を要する。
【0010】
更に、特許文献4には、脂環構造を有するポリイミドの立体構造を制御することにより、有機溶媒への溶解性に優れたポリイミドを得ることが記載されている。しかしながら、特許文献4においても従来の溶媒キャスト法を用いた成形方法が用いられており、上記特許文献2及び3において挙げたような課題がある。
【0011】
特許文献2〜4に記載されているような脂環構造を有するポリイミドは熱可塑性であり、また、透明性や耐熱性に優れることからフレキシブルデバイスや有機EL等の用途に用いるポリイミドフィルムとして用いることが期待されるが、従来、ポリイミドの成形に用いられてきた溶媒キャスト法等の方法では生産性が不十分であること、ポリイミドフィルムが薄膜としてしか得られず厚膜化が困難であること、可燃性ガスが発生しうること等の課題があることを見出した。
【0012】
本発明者らは上記のような溶媒キャスト法における課題は溶融押出成形法により解決することが可能であるが、その一方で特許文献2〜4に記載されているような脂環構造を有するポリイミドは、溶融押出成形法を適用することが可能なほどの溶融熱安定性を有していないことがわかった。
【0013】
上記従来技術の諸問題点を鑑み、本発明はなされたものである。本発明の課題は、透明性、耐熱性、溶融熱安定性、溶媒不揮発性等に優れた熱可塑性ポリイミド及び該熱可塑性ポリイミドを溶融押出成形してなる熱可塑性ポリイミド成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以上の諸問題点を鑑みてなされたものである。本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献2〜4に記載されているようなポリイミドの溶融熱安定性の課題がポリイミドのイミド化率が不十分であること、及び末端アミノ基が残存していることに起因するとの結論に至った。特許文献1に記載されているような芳香族系ポリイミドはその構造が剛直であるがゆえにアミック酸構造が残留しにくく、イミド化が容易に進行するのに対し、特許文献2〜4は脂環構造を有するため、その構造の自由度が高くなり、アミック酸構造が残存しやすくなるものと推定される。
【0015】
以上のように本発明者等は脂環構造を有するポリイミドにおいて、イミド化率を高めること及びアミノ基の封止率を高めることにより、溶融押出成形に適用可能なほどに溶融熱安定性に優れたポリイミドが得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の要旨は以下の[1]〜[9]に存する。
【0016】
[1] 脂環構造を有し、末端アミノ基の封止率が95.0%以上であり、かつイミド化率が95.8%以上である熱可塑性ポリイミド。
【0017】
[2] 重量平均分子量(Mw)が10,000〜500,000である、[1]に記載の熱可塑性ポリイミド。
【0018】
[3] 前記脂環構造がシクロヘキサン環構造である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性ポリイミド。
【0019】
[4] 前記脂環構造がイミド環構造と2つの炭素原子を共有して隣接した構造である、[1]乃至[3]のいずれか1に記載の熱可塑性ポリイミド。
【0020】
[5] 前記脂環構造として、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位の少なくとも一方を有する、[1]乃至[4]のいずれか1に記載の熱可塑性ポリイミド。
【0021】
【化1】
【0022】
[6] 下記式(3)で表される構造単位をさらに有する、[1]乃至[5]のいずれか1に記載の熱可塑性ポリイミド。
【0023】
【化2】
【0024】
(上記式(3)中、R〜Rはそれぞれ互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基又は水酸基であり、Xは直接結合、酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4のアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、カルボニル基、アミド基、エステル基又は2級アミノ基であり、nは0〜4の整数である。)
【0025】
[7] 310℃における複素せん断粘度(η)が1×10〜5×10Pa・sである、[1]乃至[6]のいずれか1に記載の熱可塑性ポリイミド。
【0026】
[8] 310℃で60分間経過前後での複素せん断粘度の変化率が300%以下である、[1]乃至[7]のいずれか1に記載の熱可塑性ポリイミド
【0027】
[9] [1]乃至[8]のいずれか1に記載の熱可塑性ポリイミドを溶融押出成形して得られる、熱可塑性ポリイミド成形体。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、透明性、耐熱性、溶媒不揮発性等に優れ、特に溶融押出成形が可能なほどの溶融熱安定性に優れた熱可塑性ポリイミドが提供される。また、本発明によれば、この熱可塑性ポリイミドを溶融押出成形して得られる熱可塑性ポリイミド成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔熱可塑性ポリイミド〕
本発明の熱可塑性ポリイミドは、脂環構造を有し、末端アミノ基の封止率が95.0%以上であり、かつイミド化率が95.8%以上であるものである。
【0030】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、前記特許文献2〜4に記載されているような従来の脂環構造を有するポリイミドと比較して溶融熱安定性が顕著に優れるという効果を奏する。本発明者らの詳細な検討によれば、特許文献2〜4においてはイミド化が十分に進行しておらず、アミック酸が残存しており、また、末端アミノ基の封止率が十分でないことがわかった。このような熱可塑性ポリイミドにおいては、300℃以上に加熱したときにポリイミド分子中のアミック酸と末端アミノ基との間で反応が起こること及びポリイミドの分子間のアミック酸同士での反応が起こること等が溶融熱安定性に影響するものと考えられる。
【0031】
[化学構造]
本発明の熱可塑性ポリイミドは、脂環構造を有する。この脂環構造は特に制限されないが、通常、炭素数5〜12の脂環構造であり、好ましくは炭素数6〜10の脂環構造であり、特に好ましいのはシクロヘキサン環構造である。本発明の熱可塑性ポリイミドは脂環構造を有することにより、熱可塑性を有し、また、透明性に優れたポリイミドとなる。なお、本発明における「脂環構造」には環構造中にヘテロ原子を有するものも含む意味で用いられるが、好ましいものは環構造中にヘテロ原子を有さない脂環構造である。
【0032】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、通常、後述するようにカルボン酸二無水物(以下、「酸二無水物」と称する。)ジアミン化合物を原料として得ることができる。本発明の熱可塑性ポリイミドにおける脂環構造は、酸二無水物に由来するものであっても、ジアミン化合物に由来するものであっても構わないが、好ましくは酸二無水物に由来する脂環構造である。
【0033】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、脂環構造がイミド環構造と2つの炭素原子を共有して隣接したものであることが好ましい。脂環構造がイミド環構造と2つの炭素原子を共有して隣接した構造であると、脂環構造に基づく透明性とイミド環構造に由来する耐熱性、化学的安定性が両立しやすいために好ましい。脂環構造がイミド環構造と2つの炭素原子を共有して隣接した構造の好ましいものとしては、例えば該脂環構造がシクロヘキサン環構造であるもの(下記式(4)で表される構造)が挙げられる。
【0034】
【化3】
【0035】
更に、本発明の熱可塑性ポリイミドにおける脂環構造として、下記式(1)で表される構造単位で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位の少なくとも一方を有することが好ましい。式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位の少なくとも一方を有すると、透明性、靱性に特に優れたものとなるために好ましい。式(1)で表される構造単位は通常、後述する式(5)で表される酸二無水物に由来して導入することができ、また、式(2)で表される構造単位は通常、後述する式(6)で表される酸二無水物に由来して導入することができる。
【0036】
【化4】
【0037】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、末端アミノ基の封止率が95.0%以上であり、かつイミド化率が95.8%以上であることにより、溶融押出成形が可能であるほどに優れた溶融熱安定性を得ることができる。
【0038】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、溶融熱安定性を更に良好なものとする観点から、末端アミノ基の封止率が、好ましくは96.0%以上であり、より好ましくは97.0%以上であり、更に好ましくは98.0%以上である。熱可塑性ポリイミドの末端アミノ基の封止率の上限は制限されず、通常、100%である。
【0039】
末端アミノ基の封止率は後述するように、原料である酸二無水物とジアミン化合物の使用比率、末端封止反応工程における末端封止剤の使用量及びその種類、化学イミド化反応工程における触媒、脱水剤の種類及びこれらの使用量等により制御することができる。また、末端アミノ基の封止率はH−NMR測定により求めることができる。その具体例を実施例に示す。なお、本発明において、「末端アミノ基の封止」とは、末端の一級アミノ基に結合している水素原子が末端封止剤により置き換えられていることのみならず、化学イミド化反応工程における末端アミノ基と脱水縮合剤との反応等、意図しない末端封止も含めた意味で用いられる。
【0040】
また、本発明の熱可塑性ポリイミドは、溶融熱安定性を更に良好なものとする観点から、イミド化率が、好ましくは96.0%以上であり、より好ましくは96.5%以上であり、更に好ましくは97.0%以上であり、特に好ましくは98.0%以上である。熱可塑性ポリイミドのイミド化率の上限は制限されず、通常、100%である。
【0041】
本発明において、イミド化率は後述するように、末端封止工程、化学イミド化反応工程の条件等により制御することができる。末端封止工程を経ずにイミド化率を高めるためには、化学イミド化反応工程において用いる脱水縮合剤を後述するように比較的多量に使用することにより、イミド化率を高めることができる。また、本発明の熱可塑性ポリイミドのイミド化率はH−NMR測定により求められ、その具体例を実施例に示す。なお、イミド化率がH−NMR測定により求めることができない場合には、水素原子以外の原子に基づくNMR測定により求めることができる。
【0042】
本発明の熱可塑性ポリイミドは下記式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。式(3)で表される構造単位を有すると、耐熱性、靱性がより良好となる傾向にあるために好ましい。
【0043】
【化5】
【0044】
式(3)において、R〜Rはそれぞれ互いに異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基又は水酸基である。これらの中でも、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0045】
式(3)において、Xは直接結合、酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4のアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、カルボニル基、アミド基、エステル基又は2級アミノ基である。これらの中でも、直接結合、酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4のアルキレン基、スルホニル基又はアミド基が好ましく、特に酸素原子が好ましい。
【0046】
式(3)において、nは0〜4の整数である。nは好ましくは1〜4の整数である。
【0047】
なお、熱可塑性ポリイミド1分子全体における式(3)で表される構造単位において、R〜R、X、nは必ずしも全て同一でなくともよい。特に、nが2以上の整数である場合、Xは異なる構造であってもよい。
【0048】
式(3)で表される構造単位の中でも、下記式(3−1)〜式(3−6)で表される構造単位のいずれかで表されるものが好ましい。なお、1分子の熱可塑性ポリイミド中にこれらの構造単位が1種のみで含まれていても、複数種が組み合わされて含まれていてもよい。
【0049】
【化6】
【0050】
本発明の熱可塑性ポリイミドは以上に挙げた式(1)〜(3)で表される構造単位の他にその他の構造単位を有していてもよい。その他の構造単位は、後述する製造方法において列挙する式(5)〜(7)で表される化合物以外の原料に基づいて導入することができる。
【0051】
[物性]
本発明の熱可塑性ポリイミドは重量平均分子量(Mw)が、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは30,000以上であり、特に好ましくは45,000以上であり、一方、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは300,000以下であり、更に好ましくは150,000以下であり、特に好ましくは130,000以下である。ポリイミドの重量平均分子量が上記下限値以上であるとポリイミド成形体としたときの靭性の観点で好ましく、一方、上記上限値以下であると流動性、成形性の観点で好ましい。なお、本発明の熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定することができる。GPC測定のより詳しい条件等については後掲の実施例に記載する。
【0052】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、310℃における複素せん断粘度(η)が1×10Pa・s以上であることが好ましく、1×10Pa・s以上であることがより好ましく、5×10Pa・s以下であることが好ましく、1×10Pa・s以下であることがより好ましい。複素せん断粘度が上記範囲であることが成形するために適切な流動性となるために好ましい。複素せん断粘度は、分子量、分子組成等により制御することができ、通常、分子量が大きいと複素せん断粘度は大きくなる。なお、複素せん断粘度は後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0053】
更に、本発明の熱可塑性ポリイミドは、溶融熱安定性に優れたものである。具体的には、本発明の熱可塑性ポリイミドは、310℃で60分間溶融したときの溶融直後の初期複素せん断粘度(η)と60分経過後での複素せん断粘度(η60)の複素せん断粘度の変化率が300%以下であることが好ましく、200%以下であることがより好ましく、100%以下であることが更に好ましい。複素せん断粘度の変化率は溶融時の流動安定性を示すものである。このため、複素せん断粘度の変化率が上記上限値以下であることが溶融安定性の観点で好ましく、また、フィルム成形したときの膜厚の制御を行いやすいために好ましい。なお、複素せん断粘度の変化率の下限は通常0である。複素せん断粘度の変化率は、末端アミノ基の封止率が高まるほど低くなる傾向にある。なお、本発明において、複素せん断粘度の変化率は以下の式により定義され、後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
(複素せん断粘度の変化率)=[(η60−η)/η]×100
【0054】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、DMS法(動的熱機械測定装置)によるガラス転移温度(Tg)が、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは200℃以上であり、特に好ましくは250℃以上である。ガラス転移温度が上記下限値以上であることが耐熱性の観点から好ましい。一方、ガラス転移温度の上限については特に制限されないが、通常、350℃以下である。なお、DMS法によるガラス転移温度は後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0055】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、熱膨張率が、100〜200℃の範囲において100ppm/℃以下であることが好ましく、70ppm/℃以下であることがより好ましい。熱膨張率が上記上限値以下であることが寸法精度の高いポリイミド成形体が製造できる点で好ましい。
【0056】
〔熱可塑性ポリイミドの製造方法〕
本発明の熱可塑性ポリイミドを製造する方法は制限されないが、例えば、以下に説明する特定の酸二無水物と特定のジアミン化合物と原料として熱イミド化反応工程を経た後、末端封止反応工程及び/又は化学イミド化工程を経て得ることができる。なお、末端封止反応工程と化学イミド化工程とは順不同で行なうことができ、また、これらは同時に行なってもよいが、末端封止反応工程を経た後、化学イミド化反応工程を経ることが好ましい。
【0057】
[原料]
本発明の熱可塑性ポリイミドは、原料として、通常、酸二無水物とジアミン化合物を用いて得ることができる。本発明の熱可塑性ポリイミドの原料には、酸二無水物とジアミン化合物の少なくとも1つに脂環構造を有する化合物が用いられるが、脂環構造を有する酸二無水物を用いることが原料調達、生産性等の観点から好ましい。
【0058】
本発明の熱可塑性ポリイミドの原料として、下記式(5)で表される酸二無水物(以下、「H−BPDA」と称することがある。)及び下記式(6)で表される酸二無水物(以下、「H−PMDA」と称することがある。)のうち少なくとも一方を用いることが好ましい。なお、H−BPDAは公知の化合物であり、例えば、日本国特開2011−45877号公報に記載の方法等により得ることができる。また、H−PMDAも公知の化合物であり、例えば、日本国特開2009−191253号公報に記載の方法等により得ることができる。
【0059】
【化7】
【0060】
また、本発明の熱可塑性ポリイミドの原料として、下記式(7)で表されるジアミン化合物を用いることが好ましい。
【0061】
【化8】
【0062】
前記式(7)において、R1’〜R8’は前記式(3)におけるR〜Rと同様に定義され、X’はXと同様に定義される。また、n’はnと同様に定義される。
【0063】
前記式(7)で表されるジアミン化合物としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと称することがある。)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾイルアニリド、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、ビス(4−アミノフェニル)テレフタレート、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン、等が挙げられる。これらの中でも、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等が好ましい。これらの酸二無水物は1種のみで用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、原料としてH−BPDA及びH−PMDA以外の酸二無水物を併用してもよい。H−BPDA及びH−PMDA以外の酸二無水物としては例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンジカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンジカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは1種のみを用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、H−BPDA及びH−PMDA以外の酸二無水物が用いられる場合、原料として用いられる全ての酸二無水物に対して通常20mol%以下、好ましくは10mol%以下、より好ましくは5mol%以下で用いられる。
【0065】
本発明の熱可塑性ポリイミドは、前記式(7)で表されるジアミン化合物以外のジアミン化合物を原料として併用してもよい。前記式(7)で表されるジアミン化合物以外のジアミン化合物としては例えば、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ネオペンタン、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、2−(4−アミノフェニル)−5−アミノ−1H−ベンズイミダゾール、2−(4−アミノフェニル)−5−1H−ベンゾオキサゾール、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシルフェニル)スルホン等が挙げられ、これらは1種のみを用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、前記式(7)で表されるジアミン化合物以外のジアミン化合物が用いられる場合、原料として用いられる全てのジアミン化合物に対して通常20mol%以下、好ましくは10mol%以下、より好ましくは5mol%以下で用いられる。
【0066】
本発明の熱可塑性ポリイミドにおいて、原料として用いられる酸二無水物とジアミン化合物との使用比率は、酸二無水物1molに対して、ジアミン化合物を好ましくは通常0.8mol以上であり、また、1.0molより多いことがより好ましい。一方、好ましくは1.2mol以下、より好ましくは1.1mol以下で用いられる。原料として用いられる酸二無水物とジアミン化合物との使用比率をこのような範囲とすると、分子量が大きいポリイミドが得られやすく、ポリイミドの靱性が得られるため好ましい。特に、酸二無水物に対してジアミン化合物を1.0molより多く用いることにより、酸無水物末端よりも末端アミノ基を多くするように制御され、これを末端封止することによって最終的に得られるポリイミドの末端アミノ基の封止率を高めるために好ましい。これは酸二無水物がジアミン化合物よりも多い場合、末端が酸無水物であるポリイミドが得られやすくなり、酸無水物末端を封止するには、アミノ基を有する封止剤を使用する必要があることによるものである。
【0067】
[熱イミド化反応工程]
本発明において「熱イミド化反応工程」とは、前記の原料と、必要に応じて溶媒と触媒を混合して加熱することによりイミド化反応(縮合及び脱水環化反応)を行う工程を意味する。
【0068】
熱イミド化反応において用いられる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの中でもN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が好ましい。これらの溶媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、ここで用いられる溶媒はそのまま残存させて末端封止反応や化学イミド化反応を行うことが好ましい。
【0069】
熱イミド化反応において用いられる触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、イミダゾール、キノリン、イソキノリン等が挙げられる。これらの触媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
熱イミド化反応における反応温度は好ましくは120〜200℃であり、より好ましくは130〜190℃である。また、熱イミド化反応は常圧(0.1MPa)下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよいが、通常、常圧下で行われる。また、熱イミド化反応の反応時間は通常2時間以上であり、好ましくは4時間〜20時間である。
【0071】
また、熱イミド化反応は不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましく、例えば窒素雰囲気下で行うことが好ましい。更に、熱イミド化反応を十分に進行させるため、イミド化反応により発生する水を除去することが好ましく、溶媒中にトルエンやキシレン等の共沸脱水剤を加えると水の除去効率を向上させることができる。
【0072】
[末端封止反応工程]
本発明において「末端封止反応工程」とは、末端封止剤によりポリイミドの末端アミノ基を封止する工程を意味する。
【0073】
末端封止反応工程において用いられる末端封止剤としては、アミノ基と反応して安定な構造を形成するものであれば特に制限されないが、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、(2−メチル−2−プロペニル)コハク酸無水物等の酸無水物;安息香酸クロリド等の有機酸クロリド等が挙げられる。以上で挙げた末端封止剤は1種のみを用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明の熱可塑性ポリイミドの末端酸無水物基を封止する場合、3−アミノフェニルアセチレン、アニリン、シクロヘキシルアミン等のアミン化合物を末端封止剤として用いることもできる。ただし、末端酸無水物基の封止は、本発明における末端アミノ基の封止には該当しない。
【0074】
末端封止剤の使用量は、原料として用いるジアミン化合物のmol数と酸二無水物のmol数との差(未反応の1級アミノ基量)に対し、好ましくは1〜10倍の当量数、より好ましくは2〜8倍の当量数である。末端封止剤の使用量が、上記下限値以上であると末端アミノ基の封止率を高めるために好ましく、一方、上記上限値以下であると未反応の末端封止剤の精製処理が少なくなるために好ましい。なお、後述する化学イミド化反応工程を行わない場合には、末端封止剤の使用量を多くすることが、末端アミノ基の封止率を高めるためには好ましい。
【0075】
末端封止反応は溶媒中で行うことが好ましい。末端封止反応において用いられる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの中でもN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が好ましい。これらの溶媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
末端封止反応工程における反応温度は通常、80〜200℃であり、好ましくは120〜200℃である。また、熱イミド化反応は常圧(0.1MPa)下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよいが、通常、常圧下で行われる。また、末端封止反応の反応時間は通常1時間以上であり、好ましくは2時間〜10時間である。
【0077】
[化学イミド化反応工程]
本発明において「化学イミド化反応工程」とは、通常、ポリイミドと有機アミン化合物及び脱水縮合剤を溶媒中で混合してイミド化反応を行う工程を意味する。
【0078】
化学イミド化反応工程において用いられる有機アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アルキルアミン類;トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類;トリエチレンジアミン等のアルキレンジアミン類;ピリジン等のピリジン類;N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン等のピロリジン類;N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン等のピペリジン類;イミダゾール等のイミダゾール類;キノリン、イソキノリン等のキノリン類等が挙げられる。これらの触媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機アミン化合物の使用量は、ポリイミド樹脂の固形分に対して、好ましくは0.1重量%以上15重量%未満であり、より好ましくは0.5重量%以上、5重量%未満である。
【0079】
化学イミド化反応工程において用いられる脱水縮合剤としては、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水クロロ酢酸等の酸無水物;N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N−ジフェニルカルボジイミド等のN,N−2置換カルボジイミド等が挙げられる。これらの脱水剤は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。脱水剤の使用量は、ポリイミド樹脂固形分に対して、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.5重量%以上であり、特に、特に末端封止工程を経ずに本発明の熱可塑性ポリイミドを得るためには脱水縮合剤を多量に用いることが好ましく、具体的には15重量%以上用いることが好ましい。一方、脱水縮合剤の使用量の上限は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下である。
【0080】
化学イミド化反応工程において用いられる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの中でもN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が好ましい。これらの溶媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
化学イミド化反応工程の反応温度は通常、40〜200℃であり、好ましくは50〜160℃である。また、化学イミド化反応は常圧(0.1MPa)下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよいが、通常、常圧下で行われる。また、化学イミド化反応の反応時間は通常30分以上であり、好ましくは1時間〜6時間である。
【0082】
なお、得られたポリイミドは、再沈殿、洗浄、濾過等により、精製することが好ましい。この精製により、系中に残存する原料や触媒を除去することができる。
【0083】
[添加剤の配合]
本発明の熱可塑性ポリイミドには、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0084】
以上に挙げた添加剤の中でも、酸化防止剤を用いることが好ましい。酸化防止剤としては例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種のみで用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
〔ポリイミド成形体〕
本発明の熱可塑性ポリイミドを成形することによりポリイミド成形体を得ることができる。
【0086】
[成形方法]
本発明において、熱可塑性ポリイミド成形体の成形方法は特に制限されない。成形方法は各種用途に合わせて採用することができ、例えば、押出成形法、射出成形法、中空成形法、圧縮成型法等が挙げられる。更に、これらの方法により形成して得られた熱可塑性ポリイミド形成体は積層成形法、ロール加工法、延伸加工法、スタンプ加工法、熱プレス法等の加工方法により加工することができる。これらの中でも本発明の熱可塑性ポリイミドは前述の通り、溶融熱安定性に顕著に優れることから、溶融押出成形による成形を行うことが可能であり、また、溶融押出成形は製造時間、工程数等の観点で効率的に製造ができることから好ましい。
【0087】
熱可塑性ポリイミド成形体の成形条件については特に制限されない。押出成形を行なう場合、単軸押出機または二軸押出機のいずれの押出機を用いることも可能である。押出機のシリンダーの温度は、通常、280℃〜380℃であり、ダイから押出されたポリイミドは冷却ロールで冷却される。冷却ロールの温度は、通常、0℃〜60℃である。
【0088】
[物性]
本発明の熱可塑性ポリイミド成形体は透明性に優れたものである。熱可塑性ポリイミド成形体の透明性はJIS K7105(1981年)による全光線透過率により評価され、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、更に好ましくは80%以上であり、特に好ましくは85%以上である。このときの熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは特に制限されないが、通常、0.01〜10mmであり、好ましくは0.02〜5mmであり、特に好ましくは0.03〜1mmである。
【0089】
[用途]
本発明の熱可塑性ポリイミドから得られる熱可塑性ポリイミド成形体は、透明性、耐熱性、耐溶剤性、成形性、溶媒不揮発性等に優れたものである。このため、ポリイミド成形体の代表的な用途であるフィルム用途だけでなく、幅広い用途への応用が可能である。例えば、フレキシブル太陽電池用部材、ディスプレイ用部材、IC包装用トレー、IC製造工程用トレー、ICソケット、ウェハーキャリア、コネクター、ソケット、ハードディスクキャリア、液晶ディスプレイキャリア、水晶発振器製造用トレー、コピー機用分離爪、コピー機用断熱軸受け、コピー機用ギア、スラストワッシャー、トランスミッションリング、ピストンリング、オイルシールリング、ベアリングリテーナー、ポンプギア、コンベアチェーン、ストレッチマシン用スライドブッシュ、耐熱絶縁テープ、耐熱粘着テープ、高密度磁気記録ベース、コンデンサー又はフレキシブルプリント基板用のフィルム等に用いることができる。また、例えばガラス繊維や炭素繊維等で補強した構造部材、小型コイルのボビン又は端末絶縁用チューブの成形品の製造にも用いられる。また、絶縁スペーサー、磁気ヘッドスペーサー又はトランスのスペーサー等の積層材の製造に用いることができる。また、電線・ケーブル絶縁被覆材、低温貯蔵タンク、宇宙断熱材又は集積回路等のエナメルコーティング材の製造に用いることができる。更に耐熱性を有する糸、織物又は不織布等の製造にも用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0091】
〔ポリイミドの評価方法〕
以下の実施例において製造したポリイミドの構造、物性等の評価方法は以下の通りである。
【0092】
[末端アミノ基の封止率]
末端アミノ基の封止率はH−NMR測定を行い、以下のようにして求めた。
ポリイミド中のODA構成単位による末端アミノ基に対してオルト位ピーク(6.75ppm)の積分値をS、アミノ末端が封止されてシフトしたピーク(7.61ppm)の積分値をSとした。これらの値から以下の式により末端アミノ基の封止率を求めた。
(末端アミノ基の封止率)=100×[S/(S+S)]
H−NMR測定条件)
溶媒:DMF−d7(N,N−ジメチルホルムアミド−d7)
周波数:400MHz
標準物質:DMF−d7 2.74ppm
積算回数:256回
緩和時間:1秒
【0093】
[イミド化率]
イミド化率は、末端アミノ基の封止率の測定において得られたNMRチャートより以下のようにしてアミック酸残存率から求めた。
ポリイミド中のH−BPDA構成単位のうち5つのプロトンが1.0〜2.0ppmに観測された。
該ピーク群の積分値の合計をSとした。ポリイミド中に残存するアミック酸構造のアミド水素によるピーク(9.3〜10.3ppm)の積分値をSとした。これらの値から以下の式によりイミド化率を求めた。
(イミド化率)=100×[1−(5S/S)]
【0094】
[重量平均分子量(Mw)]
本発明に係るポリイミドのポリスチレン換算の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、下記の方法で求めた。先ず、下記の条件で標準ポリスチレンのGPCを測定し、検量線を作成した。引き続き同一の条件により試料(ポリイミド)のGPCを測定し、ポリスチレン換算の平均分子量を求めた。
(GPC測定条件)
カラム:昭和電工社製Shodex AD−80M/S 3本
プレカラム:昭和電工社製Shodex KF−G 1本
溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBr 50mmol/Lを含む)
流速:1.0mL/min
温度:カラム35℃
試料濃度:0.5重量%
検出器:UV検出器
較正試料:単分散標準ポリスチレン
【0095】
[複素せん断粘度(η)・複素せん断粘度の変化率]
回転型レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES−100)を用い、下記測定条件にて周波数1Hzにおける初期複素せん断粘度(η)及び60分後の複素せん断粘度(η60)を測定した。
(回転型レオメータ測定条件)
回転型レオメータ(ARES)の時間分散測定の冶具には直径25mmの水平プレートを用いた。
測定温度:310℃
角周波数:1rad/s
歪:1%
予熱時間:5分
測定時間:0〜60分
【0096】
〔3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物(H−BPDA)の合成〕
<合成例1>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学株式会社製)150重量部を、水593重量部に水酸化ナトリウム83.3重量部を溶解させた溶液に溶解して、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸四ナトリウム塩の水溶液を作製し、この塩をルテニウム/カーボン触媒を用いて10MPaG(大気に対する相対圧力)、120℃で芳香環を水素化した。次いで49%硫酸水溶液429重量部を滴下し、析出した固体を濾過することにより、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸(H−BTC)を得た。
【0097】
得られたH−BTC 33.7重量部及び無水酢酸90重量部を窒素下にて反応器に加えた。この混合物を攪拌しながら昇温し、還流温度(130℃〜140℃)で3時間反応させた。反応後、反応溶液を10℃まで冷却し、固体を濾過することにより、白色の結晶を得た。得られた結晶をトルエンにて洗浄し、減圧乾燥機にて乾燥することにより、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物(H−BPDA)を得た。
【0098】
〔ポリイミドの製造〕
<実施例1−1>
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、凝縮器、攪拌機を備えた反応器に、合成例1で得られたH−BPDAを60.0重量部、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を40.0重量部、N,N−ジメチルアセトアミド200重量部及びトルエン95重量部を加えた。次いで、反応器内を窒素雰囲気とし、内温を145℃まで加熱して熱イミド化反応を行った。イミド化に伴って発生する水をトルエンと共に共沸除去した。12時間加熱、還流、攪拌を続けると、水の発生は認められなくなった。
【0099】
続いて、無水フタル酸2.2重量部を添加し、145℃で3時間撹拌し、末端封止反応を行った。3時間撹拌後、減圧下でトルエンを除去しながら1時間加熱した。内温を60℃に冷却後、トリエチルアミン1.0重量部、無水酢酸2.0重量部を添加し、60℃で3時間撹拌して化学イミド化反応を行い、ポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド溶液をメタノールに滴下し、析出したポリイミドを濾過回収し、減圧下80℃で3時間乾燥後、減圧下150℃で3時間乾燥してポリイミドの固体を得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0100】
<実施例1−2>
実施例1−1において、原料組成を表1に示す組成に変更した以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0101】
<実施例1−3>
実施例1−1において、トリエチルアミンの代わりにピリジンを用い、原料組成を表1−1に示す組成に変更した以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0102】
<実施例1−4>
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、凝縮器、攪拌機を備えた反応器に、合成例1で得られたH−BPDAを59.1重量部、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を40.9重量部、N,N−ジメチルアセトアミド200重量部及びトルエン95重量部を加えた。次いで、反応器内を窒素雰囲気とし、内温を145℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンと共に共沸除去した。12時間加熱、還流、攪拌を続けると、水の発生は認められなくなった。
【0103】
続いて、無水フタル酸6.0重量部を添加し、145℃で3時間撹拌した。3時間撹拌後、減圧下でトルエンを除去しながら1時間加熱し、ポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド溶液をメタノールに滴下し、析出したポリイミドを濾過回収し、減圧下80℃で3時間乾燥後、減圧下150℃で3時間乾燥してポリイミドの固体を得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0104】
<実施例1−5〜1−7>
実施例1−1において、原料組成を表1に示す組成に変更した以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたそれぞれのポリイミドの物性を表1に示す。
【0105】
<実施例1−8>
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、凝縮器、攪拌機を備えた反応器に、合成例1で得られたH−BPDAを60.0重量部、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を40.0重量部、N,N−ジメチルアセトアミド200重量部及びトルエン95重量部を加えた。次いで、反応器内を窒素雰囲気とし、内温を145℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンと共に共沸除去した。12時間加熱、還流、攪拌を続けると、水の発生は認められなくなった。
【0106】
続いて、内温を60℃に冷却後、トリエチルアミン10重量部、無水酢酸20重量部を添加し、60℃で3時間撹拌し、ポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド溶液をメタノールに滴下し、析出したポリイミドを濾過回収し、減圧下80℃で3時間乾燥後、減圧下150℃で3時間乾燥してポリイミドの固体を得た。得られたそれぞれのポリイミドの物性を表1に示す。
【0107】
<実施例1−9>
実施例1−4において、原料組成を表1に示す組成に変更した以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0108】
<実施例1−10>
実施例1−1において、原料組成を表1に示す組成に変更した以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0109】
<実施例1−11>
実施例1−8において、原料組成を表1に示す組成に変更した以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたポリイミドの物性を表1に示す。
【0110】
<比較例1−1〜1−5>
実施例1−1において、原料組成を表2に示す組成に変更し、末端封止工程及び化学イミド化工程を行なわなかったこと以外は実施例1−1と同様にして製造し、ポリイミドを得た。得られたポリイミドの物性を表2に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
表1及び表2からわかるように、実施例1−1〜1−11において得られたポリイミドは、いずれも複素せん断粘度の変化率が300%以下であり、比較例1−1〜1−5と比べて溶融熱安定性に優れ、溶融押出成形に適したポリイミドであった。特に、実施例1−1〜1−8は複素せん断粘度の変化率が100%以下であり、溶融熱安定性に顕著に優れたものであった。
【0114】
〔ポリイミド成形体の評価〕
以下の実施例において製造したポリイミドの構造、物性等の評価方法は以下の通りである。
【0115】
[耐熱性:ガラス転移温度(Tg)]
動的熱機械測定装置(SIIナノテクノロジー株式会社製、DMS/SS6100)を用い、下記の測定条件にてサンプルの振動荷重に対するサンプルの貯蔵弾性率、損失弾性率を測定し、損失正接よりガラス転移温度(Tg)を求めた。Tgが高いほど耐熱性に優れたものと評価される。
(DMS測定条件)
試験片の貯蔵弾性率(E’)を損失弾性率(E”)で除した損失正接(tanδ)のピークトップをガラス転移温度と定義した。
測定温度範囲:50℃〜400℃(昇温速度:2℃/min)
引張り加重:5g
サンプル形状:10mm×10mm
サンプル厚:表3に記載
【0116】
[透明性:全光線透過率]
ポリイミドフィルムについて、JIS規格K7105(1981年)に従い、全光線透過率を測定した。全光線透過率が高いほど透明性に優れたものと評価され、全光線透過率が70%以上であれば合格とした。
【0117】
[溶媒不揮発性:残留溶媒量]
示差熱−熱重量測定装置(SIIナノテクノロジー株式会社製TG/DTA6200)を用いて次の測定条件にしたがって測定した。ポリイミド片又はポリイミド溶融成形体20mgを40℃から100℃まで、昇温速度20℃/分で加温した後に、100℃で30分間静置した。その後、100℃から350℃まで、昇温速度10℃/分で加温し、150℃から300℃までの重量減少を残留溶媒含有量と定義した。この値が低いほど溶媒不揮発性に優れたものと評価される。
【0118】
〔ポリイミド成形体の製造〕
<実施例2−1>
実施例1−1で得られたポリイミドを単軸押出機に供給し、330℃で溶融した後、120℃に設定した冷却ロール上に押出し、冷却固化させて厚さ100μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、前記の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0119】
<実施例2−2>
実施例1−2で得られたポリイミドを二軸延伸押出機に供給し、330℃で溶融して得られた樹脂ストランドを水冷後、ストランドをペレタイザーでカットし、ポリイミドペレットを得た。得られたポリイミドペレットを単軸押出機に供給し、330℃で溶融した後、120℃に設定した冷却ロール上に押出し、冷却固化させて厚さ100μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、前記の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0120】
<実施例2−3>
ポリイミドフィルムの厚さが50μmとなるようにした以外は、実施例2−2と同様に実施してポリイミドフィルムを得た。また、得られたポリイミドフィルムについて、前記の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表3からわかるように、実施例2−1〜2−3において得られたポリイミドフィルムは、透明性、耐熱性に優れていることがわかる。特に、加熱前後での重量減少が少なく、溶媒不揮発性に優れることがわかる。
【0123】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2012年12月17日出願の日本特許出願(特願2012−274901)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。