特許第6365422号(P6365422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365422
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】導電性基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20180723BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20180723BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20180723BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20180723BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20180723BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20180723BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C23C14/06 L
   C23C14/34 M
   H01B5/14 A
   B32B9/00 A
   B32B15/20
   G06F3/044 122
   G06F3/041 495
   G06F3/041 660
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-113772(P2015-113772)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2017-2328(P2017-2328A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏幸
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/064664(WO,A1)
【文献】 特開2008−310016(JP,A)
【文献】 特表2005−525463(JP,A)
【文献】 特開2014−037629(JP,A)
【文献】 特開2015−064337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 1/00−43/00
H01B 5/00− 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材を準備する透明基材準備工程と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に銅層を形成する銅層形成工程と、
前記透明基材の少なくとも前記一方の面側に黒化層を形成する黒化層形成工程とを有し、
前記黒化層形成工程において、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有し、タングステン酸化物を10質量%以上30質量%以下の割合で含み、残部が前記ニッケル酸化物であるターゲットを用いて、窒素を含有する雰囲気中で前記黒化層を成膜する導電性基板の製造方法。
【請求項2】
前記黒化層はX線回折により得られる回折パターンから同定される主相が窒化ニッケルである請求項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項3】
前記黒化層形成工程では、酸素を0体積%以上20体積%以下、窒素を30体積%以上70体積%以下の割合で含有するガスをチャンバー内に供給しながらスパッタリング法により、前記黒化層を成膜する請求項またはに記載の導電性基板の製造方法。
【請求項4】
前記銅層は厚さが100nm以上であり、
前記黒化層は厚さが20nm以上である請求項乃至のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項5】
得られる導電性基板の、波長550nmの光の反射率が40%以下である請求項乃至のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項6】
前記銅層と、前記黒化層とをエッチングすることにより、配線を形成するエッチング工程をさらに有し、
得られる導電性基板がメッシュ状の配線を備える請求項乃至のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基板、導電性基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、高分子フィルム上に透明導電膜としてITO膜を形成したタッチパネル用透明の導電性フィルムが従来から用いられている。
【0003】
ところで、近年タッチパネルを備えたディスプレイの大画面化が進んでおり、これに対応してタッチパネル用の透明導電性フィルム等の導電性基板についても大面積化が求められている。しかし、ITOは電気抵抗値が高いため、導電性基板の大面積化に対応できないという問題があった。
【0004】
このため、例えば特許文献2、3に開示されているようにITO膜にかえて銅等の金属箔を用いることが検討されている。しかし、配線層に銅を用いた場合、銅は金属光沢を有しているため、反射によりディスプレイの視認性が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、銅等の金属箔により構成される配線層と共に、黒色の材料により構成される黒化層を形成した導電性基板が検討されている。しかしながら、配線パターンを有する導電性基板とするためには、配線層と黒化層を形成した後に、配線層と黒化層とをエッチングして所望のパターンを形成する必要があるが、エッチング液に対する反応性が配線層と黒化層で異なるという問題があった。すなわち、配線層と黒化層を同時にエッチングしようとすると、いずれかの層が目的の形状にエッチングできないという問題であった。また、配線層のエッチングと黒化層のエッチングとを別の工程で実施する場合、工程数が増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−151358号公報
【特許文献2】特開2011−018194号公報
【特許文献3】特開2013−069261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では同時にエッチング処理を行うことができる銅層と、黒化層とを備えた導電性基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の一態様は、
透明基材を準備する透明基材準備工程と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に銅層を形成する銅層形成工程と、
前記透明基材の少なくとも前記一方の面側に黒化層を形成する黒化層形成工程とを有し、
前記黒化層形成工程において、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有し、タングステン酸化物を10質量%以上30質量%以下の割合で含み、残部が前記ニッケル酸化物であるターゲットを用いて、窒素を含有する雰囲気中で前記黒化層を成膜する導電性基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、同時にエッチング処理を行うこと出来る銅層と、黒化層とを備えた導電性基板の製造方法を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る導電性基板の断面図。
図2】本発明の実施形態に係る導電性基板の断面図。
図3】本発明の実施形態に係るメッシュ状の配線を備えた導電性基板の上面図。
図4図3のA−A´線における断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の導電性基板および導電性基板の製造方法の一実施形態について説明する。
(導電性基板)
本実施形態の導電性基板は透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面側に形成された銅層と、透明基材の少なくとも一方の面側に形成された黒化層と、を備えた構成とすることができる。
【0012】
そして、黒化層は、酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有することができる。また、黒化層は、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有する、タングステン酸化物を5質量%以上30質量%以下の割合で含んでいるターゲットを用いて成膜することができる。
【0013】
なお、本実施形態における導電性基板とは、銅層等をパターニングする前の透明基材の表面に銅層や黒化層を有する基板と銅層等をパターニングして配線の形状にした基板、すなわち配線基板とを含む。
【0014】
ここでまず、本実施形態の導電性基板に含まれる各部材について以下に説明する。
【0015】
透明基材としては特に限定されるものではなく、可視光を透過する絶縁体フィルムや、ガラス基板等を好ましく用いることができる。
【0016】
可視光を透過する絶縁体フィルムとしては例えばポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、シクロオレフィン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム等の樹脂フィルム等を好ましく用いることができる。
【0017】
透明基材の厚さについては特に限定されず、導電性基板とした場合に要求される強度や静電容量、光の透過率等に応じて任意に選択することができる。
【0018】
次に銅層について説明する。銅層についても特に限定されないが、光の透過率を低減させないため、銅層と透明基材との間、または銅層と酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層(以下、単に「黒化層」とも記載する)との間に接着剤を配置しないことが望ましい。すなわち銅層は他の部材の上面に直接形成されていることが好ましい。
【0019】
例えば透明基材または黒化層上に乾式めっき法により銅薄膜層を形成し、該銅薄膜層を銅層とすることができる。これにより、透明基材または黒化層上に接着剤を介さずに直接銅層を形成できる。
【0020】
また、銅層の膜厚が厚い場合には、該銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成することにより、銅薄膜層と銅めっき層とを有する銅層とすることもできる。すなわち、銅層は銅薄膜層と銅めっき層とを有していても良い。銅層が銅薄膜層と銅めっき層とを有することにより、この場合も透明基材または黒化層上に接着剤を介さずに直接銅層を形成できる。
【0021】
銅層の厚さは特に限定されるものではなく、銅層を配線として用いた場合に、該配線に供給する電流の大きさや配線幅等に応じて任意に選択することができる。特に十分に電流を供給できるように銅層は100nm以上であることが好ましく、150nm以上とすることがより好ましい。
【0022】
銅層の厚さの上限値は特に限定されないが、銅層が厚くなると、配線を形成するためにエッチングを行う際にエッチングに時間を要するためサイドエッチが生じ、エッチングの途中でレジストが剥離する等の問題を生じやすくなる。このため、銅層の厚さは3μm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、銅層が上述のように銅薄膜層と銅めっき層を有する場合には、銅薄膜層の厚さと、銅めっき層の厚さとの合計が上記範囲であることが好ましい。
【0024】
次に、黒化層について説明する。銅層は金属光沢を有するため、透明基材に銅層をエッチングした配線を形成したのみでは上述のように銅が光を反射し、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合、ディスプレイの視認性が低下するという問題があった。
【0025】
そこで、黒化層を設ける方法が検討されてきたが、黒化層がエッチング液に対する反応性を十分に有していない場合があり、銅層と黒化層とを同時に所望の形状にエッチングすることは困難であった。そこで本発明の発明者らが検討を行ったところ、酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層は黒色であるため黒化層に使用でき、さらにエッチング液に対して十分な反応性を示すため、銅層と同時にエッチング処理を行えることを見出したものである。
【0026】
酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層である黒化層の成膜方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により成膜することができる。ただし、比較的容易に黒化層を成膜できることから、スパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0027】
黒化層はニッケル酸化物とタングステン酸化物との混合物から作製した、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットを用いてスパッタリング法により成膜することができる。
【0028】
黒化層をスパッタリング法により成膜する際、チャンバー内に反応性ガスとして、酸素と窒素、もしくは窒素のみを供給しながら成膜することができる。チャンバー内に供給する酸素と窒素の供給割合は特に限定されるものではないが、酸素を0体積以上20体積%以下、窒素を30体積%以上70体積%以下の割合で含有するガスをチャンバー内に供給しながらスパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0029】
これは、チャンバー内に供給するガス中の酸素の供給割合を20体積%以下とすることにより、黒化層のエッチング液に対する反応性を特に高めることができ、銅層と共にエッチングを行う際、銅層と黒化層とをより容易に所望のパターンにすることができ好ましいからである。なお、上述のように黒化層を成膜する際のニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットには酸素が含まれているため、黒化層を成膜する際のチャンバー内への酸素の供給割合は、0体積%以上10体積%以下とすることがより好ましい。
【0030】
黒化層を成膜する際にチャンバー内に窒素を供給することにより、成膜した黒化層をエッチングしやすくなるが、供給割合が多くなりすぎると黒化層の黒色が薄くなり、黒化層としての性能が低下する恐れがある。また、窒素の供給割合が多くなりすぎると、ターゲットからのスパッタ速度が遅くなる恐れがある。このためスパッタリングの際にチャンバー内に供給するガス中の窒素の供給割合は30体積%以上70体積%以下とすることが好ましく、35体積%以上40体積%以下とすることがより好ましい。
【0031】
窒素の供給割合を30体積%以上とすることで、成膜した黒化層をよりエッチングし易くなり好ましい。
【0032】
また、窒素の供給割合を70体積%以下とすることによりニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットのスパッタ速度を確保でき、成膜した黒化層について、光の反射を十分に抑制できる色にできるため好ましい。さらにチャンバー内へ窒素の供給割合が40体積%以下になるように供給した場合、スパッタ速度が特に向上するため、より好ましい。
【0033】
なお、スパッタリングを行う際、チャンバー内に供給するガスは、酸素と窒素以外の残部については不活性ガスとすることが好ましい。酸素と窒素以外の残部については例えばアルゴンまたはヘリウムを供給することができる。
【0034】
ここまで、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットを用いた酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層の成膜方法について説明したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層は、ニッケル−タングステン合金のターゲットを用いて、チャンバー内に窒素と酸素とを供給しながらスパッタリング法により成膜することもできる。
【0035】
ところで、黒化層は、反射率とエッチング性との両特性を備えていることが好ましい。すなわち、黒化層は低反射率であり、高いエッチング性を備えていることが好ましい。本発明の発明者らの検討によれば、反射率、及びエッチング性は、成膜した黒化層中の酸素と窒素との含有量に影響を受ける。そして、黒化層中の酸素と窒素との含有量は、スパッタリングする際のチャンバー内への気体の供給量に影響を受ける。
【0036】
上述のようにニッケル−タングステン合金ターゲットを用いて黒化層を成膜する場合、均一で上記両特性を備えた黒化層を得るため、黒化層中の酸素と窒素との含有量を制御する場合、チャンバー内の窒素と酸素の比率を高精度に制御する必要がある。
【0037】
これに対して、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットの場合、ターゲットに酸素が含まれている。このため、係るターゲットを用いて均一で上記両特性を備えた黒化層を得るため、黒化層中の酸素と窒素との含有量を制御する場合、スパッタリングする際のチャンバー内は、ほぼ窒素を制御すればよい。従って、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットを用いて黒化層を成膜する場合、比較的容易に黒化層中の酸素と窒素の比率を制御することができ、均一で、反射率と、エッチング性とに優れた黒化層を作製することができる。
【0038】
このため、ここまで説明したように酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層である黒化層は、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットを用いて成膜することが好ましい。
【0039】
ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットの組成は特に限定されないが、例えばタングステン酸化物を5重量%以上30重量%以下の割合で含有することが好ましく、タングステン酸化物を15重量%以上25重量%以下の割合で含有することがより好ましい。これらの場合、例えば残部はニッケル酸化物により構成することができる。このため、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットは、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とからなるターゲットとすることもできる。ただし、これらの場合においても、ターゲットを作製する際に用いるバインダー等の不可避成分が含まれていることを排除するものではない。
【0040】
なお、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットは、ニッケル酸化物と、タングステン酸化物との混合物を焼結することで製造することができる。しかし、タングステン酸化物の含有量が増加すると、該ターゲットの焼結性が低下する場合がある。すなわちターゲットとすることが困難になる場合がある。しかし、タングステン酸化物含有量が30重量%以下の場合、焼結性が十分に高く、容易にターゲットとすることができるため好ましい。
【0041】
また、本発明の発明者らの検討によると、ターゲット中のタングステン酸化物の含有量が増加するにつれて、透明基材や、銅層と、黒化層との密着性を向上させることができる。そして、ターゲット中のタングステン酸化物の含有量を5重量%以上とすることで、該ターゲットを用いて作製した黒化層と、透明基材または銅層との密着性を十分に高めることができるため好ましい。
【0042】
成膜した黒化層中において、酸素、窒素、ニッケル及びタングステンはどのような形態で含まれていてもよい。ニッケルまたはタングステンが例えば、酸化ニッケル(NiO)、窒化ニッケル(NiN)、酸化タングステン(WO、WO、W)や窒化タングステン(WN、WN)等の酸化物または窒化物を生成し、該化合物が黒化層に含まれていてもよい。
【0043】
また、黒化層は例えば酸素および窒素を含有するニッケル−タングステン混合物のように、酸素、窒素、ニッケル及びタングステンを同時に含有する1種類の物質のみで構成される層であってもよい。また、例えば上述したニッケルの酸化物、ニッケルの窒化物、タングステンの酸化物、タングステンの窒化物から選択される1種類以上の物質を含有する層であってもよい。
【0044】
特に、黒化層はX線回折により得られる回折パターンから同定される主相が窒化ニッケルであることが好ましい。
【0045】
黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、20nm以上であることが好ましく、30nm以上とすることがより好ましい。これは、黒化層が薄い場合には光の反射を十分に抑制することができない場合があるためである。これに対して黒化層の厚さを上記範囲とすることにより、銅層表面での光の反射をより確実に抑制できるため好ましい。
【0046】
黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、黒化層の厚さは50nm以下とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましい。
【0047】
次に、本実施形態の導電性基板の構成例について説明する。
【0048】
上述のように、本実施形態の導電性基板は透明基材と、銅層と、黒化層と、を備えている。この際、銅層と、黒化層と、を透明基材上に配置する際の積層の順番は特に限定されるものではない。また、銅層と、黒化層と、はそれぞれ複数層形成することもできる。
【0049】
具体的な構成例について、図1図2を用いて以下に説明する。図1図2は、本実施形態の導電性基板の、透明基材、銅層、黒化層の積層方向と平行な面における断面図の例を示している。
【0050】
例えば、図1(a)に示した導電性基板10Aのように、透明基材11の一方の面11a側に銅層12と、黒化層13と、を一層ずつその順に積層することができる。また、図1(b)に示した導電性基板10Bのように、透明基材11の一方の面11a側と、もう一方の面(他方の面)11b側と、にそれぞれ銅層12A、12Bと、黒化層13A、13Bと、を一層ずつその順に積層することができる。なお、銅層12(12A、12B)、及び、黒化層13(13A、13B)を積層する順は、図1(a)、(b)の例に限定されず、透明基材11側から黒化層13(13A、13B)、銅層12(12A、12B)の順に積層することもできる。
【0051】
このように透明基材11側から黒化層13(13A、13B)、銅層12(12A、12B)の順に積層することもできる。このように透明基材11と銅層12との間に黒化層13を配置した場合、黒化層13により透明基材11と銅層12との密着性を高めることができるため好ましい。なお、例えば後述する図2(a)に示した構造を有する場合についても、同様の理由から第1の黒化層131は透明基材11と銅層12との密着性を高めることができる。
【0052】
また、例えば黒化層を透明基材11の1つの面側に複数層設けた構成とすることもできる。例えば図2(a)に示した導電性基板20Aのように、透明基材11の一方の面11a側に、第1の黒化層131と、銅層12と、第2の黒化層132と、をその順に積層することができる。
【0053】
この場合も透明基材11の両面に銅層、第1の黒化層、第2の黒化層を積層した構成とすることができる。具体的には図2(b)に示した導電性基板20Bのように、透明基材11の一方の面11a側と、もう一方の面(他方の面)11b側と、にそれぞれ第1の黒化層131A、131Bと、銅層12A、12Bと、第2の黒化層132A、132Bと、をその順に積層できる。
【0054】
なお、図1(b)、図2(b)において、透明基材の両面に銅層と、黒化層と、を積層した場合において、透明基材11を対称面として透明基材11の上下に積層した層が対称になるように配置した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、図2(b)において、透明基材11の一方の面11a側の構成を図1(a)の構成と同様に、銅層12と、黒化層13と、をその順に積層した形態とし、透明基材11の上下に積層した層を非対称な構成としてもよい。
【0055】
ここまで、本実施形態の導電性基板について説明してきたが、本実施形態の導電性基板においては、透明基材上に銅層と、銅層表面での光の反射を抑制できる黒化層と、を設けているため、銅層による光の反射を抑制することができる。
【0056】
本実施形態の導電性基板の光の反射の程度については特に限定されるものではないが、例えば本実施形態の導電性基板は、波長550nmの光の反射率は40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが特に好ましい。これは波長550nmの光の反射率が40%以下の場合、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合でもディスプレイの視認性の低下をほとんど引き起こさないため好ましい。
【0057】
反射率の測定は、黒化層に光を照射するようにして測定を行うことができる。すなわち、導電性基板に含まれる銅層及び黒化層のうち、黒化側から測定を行うことができる。
【0058】
具体的には例えば図1(a)のように透明基材11の一方の面11aに銅層12、黒化層13の順に積層した場合、黒化層13に光を照射できるように、図中Aで示した表面側から測定できる。
【0059】
また、図1(a)の場合と銅層12と黒化層13との配置を換え、透明基材11の一方の面11aに黒化層13、銅層12の順に積層した場合、透明基材11を除いて黒化層13が最表面に位置する側である、透明基材11の面11b側から反射率を測定できる。
【0060】
なお、後述のように導電性基板は銅層及び黒化層をエッチングすることにより配線を形成できるが、上記反射率は導電性基板のうち透明基材を除いた場合に最表面に配置されている黒化層の、光が入射する側の表面における反射率を示している。このため、エッチング処理前、または、エッチング処理を行った後であれば、黒化層が残存している部分での測定値が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0061】
本実施形態の導電性基板は上述のように例えばタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。この場合導電性基板にはメッシュ状の配線を備えた構成とすることができる。
【0062】
メッシュ状の配線を備えた導電性基板は、ここまで説明した本実施形態の導電性基板の銅層及び黒化層をエッチングすることにより得ることができる。
【0063】
例えば、二層の配線によりメッシュ状の配線とすることができる。具体的な構成例を図3に示す。図3はメッシュ状の配線を備えた導電性基板30を銅層、黒化層の積層方向の上面側から見た図を示している。図3に示した導電性基板30は、透明基材11と、図中X軸方向に平行な複数の配線31AとY軸方向に平行な配線31Bとを有している。なお、配線31A、31Bは銅層をエッチングして形成されており、該配線31A、31Bの上面および/または下面には図示しない黒化層が形成されている。また、黒化層は配線31A、31Bと同じ形状にエッチングされている。
【0064】
透明基材11と配線31A、31Bとの配置は特に限定されない。透明基材11と配線との配置の構成例を図4(a)、(b)に示す。図4(a)、(b)は図3のA−A´線での断面図に当たる。
【0065】
まず、図4(a)に示したように、透明基材11の上下面にそれぞれ配線31A、31Bが配置されていてもよい。なお、この場合、配線31A、31Bの上面には、配線と同じ形状にエッチングされた黒化層32A、32Bが配置される。
【0066】
また、図4(b)に示したように、1組の透明基材11A、11Bを用い、一方の透明基材11Aを挟んで上下面に配線31A、31Bを配置し、かつ、一方の配線31Bは透明基材11A、11B間に配置されてもよい。この場合も、配線31A、31Bの上面には配線と同じ形状にエッチングされた黒化層32A、32Bが配置されている。なお、既述のように、黒化層と、銅層との配置は限定されるものではない。このため、図4(a)、(b)いずれの場合でも黒化層32A、32Bと配線31A、31Bの配置は上下を逆にすることもできる。また、例えば黒化層を複数層設けることもできる。
【0067】
図3及び図4(a)に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は例えば、図1(b)、図2(b)のように透明基材11の両面に銅層12A、12Bと、黒化層13A、13B(131A、132A、131B、132B)と、を備えた導電性基板から形成することができる。
【0068】
図1(b)の導電性基板を用いて形成した場合を例に説明すると、まず、透明基材11の一方の面11a側の銅層12A及び黒化層13Aを、図1(b)中X軸方向に平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。図1(b)中のX軸方向とは、図1(b)中の各層の幅方向と平行な方向を意味している。
【0069】
そして、透明基材11のもう一方の面11b側の銅層12B及び黒化層13Bを図1(b)中Y軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。なお、図1(b)中のY軸方向は、紙面と垂直な方向を意味している。
【0070】
以上の操作により図3図4(a)に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板を形成することができる。なお、透明基材11の両面のエッチングは同時に行うこともできる。すなわち、銅層12A、12B、黒化層13A、13Bのエッチングは同時に行ってもよい。
【0071】
図3に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は、図1(a)または図2(a)に示した導電性基板を2枚用いることにより形成することもできる。図1(a)の導電性基板を用いた場合を例に説明すると、図1(a)に示した導電性基板2枚についてそれぞれ、銅層12及び黒化層13を、X軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。そして、上記エッチング処理により各導電性基板に形成した線状のパターンが互いに交差するように向きをあわせて2枚の導電性基板を貼り合せることによりメッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。2枚の導電性基板を貼り合せる際に貼り合せる面は特に限定されるものではなく、図4(b)のように銅層12等が積層された図1(a)における面Aと、銅層12等が積層されていない図1(a)における面11bとを貼り合せてもよい。また、例えば透明基材11の銅層12等が積層されていない図1(a)における面11b同士を貼り合せて断面が図4(a)に示した構造となるように貼り合せてもよい。
【0072】
なお、図3図4に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板における配線の幅や、配線間の距離は特に限定されるものではなく、例えば、配線に流す電流量等に応じて選択することができる。
【0073】
また、図3図4においては、直線形状の配線を組み合わせてメッシュ状の配線(配線パターン)を形成した例を示しているが、係る形態に限定されるものではなく、配線パターンを構成する配線は任意の形状とすることができる。例えばディスプレイの画像との間でモアレ(干渉縞)が発生しないようメッシュ状の配線パターンを構成する配線の形状をそれぞれ、ぎざぎざに屈曲した線(ジグザグ直線)等の各種形状にすることもできる。
【0074】
このように2層の配線から構成されるメッシュ状の配線を有する導電性基板は、例えば投影型静電容量方式のタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。
(導電性基板の製造方法)
次に本実施形態の導電性基板の製造方法の構成例について説明する。
【0075】
本実施形態の導電性基板の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0076】
透明基材を準備する透明基材準備工程。
【0077】
透明基材の少なくとも一方の面側に銅層を形成する銅層形成工程。
【0078】
透明基材の少なくとも一方の面側に黒化層を形成する黒化層形成工程。
【0079】
そして、黒化層形成工程においては、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有し、タングステン酸化物を5質量%以上30質量%以下の割合で含んでいるターゲットを用いて、窒素を含有する雰囲気中で前記黒化層を成膜することができる。
【0080】
以下に本実施形態の導電性基板の製造方法について説明するが、以下に説明する点以外については上述の導電性基板の場合と同様の構成とすることができるため説明を省略する。
【0081】
上述のように、本実施形態の導電性基板においては、銅層と、黒化層と、を透明基材上に配置する際の積層の順番は特に限定されるものではない。また、銅層と、黒化層と、はそれぞれ複数層形成することもできる。このため、上記銅層形成工程と、黒化層形成工程の順番や、実施する回数については特に限定されるものではなく、形成する導電性基板の構造に合わせて任意の回数、タイミングで実施することができる。
【0082】
透明基材を準備する透明基材準備工程は、例えば可視光を透過する絶縁体フィルムや、ガラス基板等により構成された透明基材を準備する工程であり、具体的な操作は特に限定されるものではない。例えば後段の工程での各工程に供するため必要に応じて任意のサイズに切断等を行うことができる。
【0083】
なお、可視光を透過する絶縁体フィルムとして特に好適に用いることができるフィルムについては既述のため、ここでは説明を省略する。
【0084】
次に銅層形成工程について説明する。
【0085】
銅層は既述のように、銅薄膜層を有することが好ましい。また、銅薄膜層と銅めっき層とを有することもできる。このため、銅層形成工程は、例えば乾式めっき法により銅薄膜層を形成する工程を有することができる。また、銅層形成工程は、乾式めっき法により銅薄膜層を形成する工程と、該銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成する工程と、を有していても良い。
【0086】
銅薄膜層の形成に用いる乾式めっき法としては、特に限定されるものではなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、又はイオンプレーティング法等を用いることができる。特に、銅薄膜層の形成に用いる乾式めっき法としては、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
【0087】
巻取式スパッタリング装置を用いた場合を例に銅薄膜層を形成する工程を説明する。まず、銅ターゲットをスパッタリング用カソードに装着し、真空チャンバー内に基材、具体的には透明基材や、黒化層を形成した透明基材等をセットする。真空チャンバー内を真空排気後、Arガスを導入して装置内を0.13Pa〜1.3Pa程度に保持する。この状態で、巻出ロールから基材を例えば毎分1〜20m程度の速さで搬送しながら、カソードに接続したスパッタリング用直流電源より電力を供給し、スパッタリング放電を行い、基材上に所望の銅薄膜層を連続成膜することができる。
【0088】
湿式めっき法により銅めっき層を形成する工程における条件、すなわち、電気めっき処理の条件は、特に限定されるものではなく、常法による諸条件を採用すればよい。例えば、銅めっき液を入れためっき槽に銅薄膜層を形成した基材を供給し、電流密度や、基材の搬送速度を制御することによって、銅めっき層を形成できる。
【0089】
次に、黒化層形成工程について説明する。
【0090】
黒化層形成工程も特に限定されるものではないが、既述のように、スパッタリング法により、黒化層を成膜する工程とすることができる。
【0091】
この際、ターゲットとしてニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットを用いることができる。ニッケル酸化物とタングステン酸化物とを含有するターゲットの組成は特に限定されないが、例えばタングステン酸化物を5質量%以上30質量%以下の割合で含有することが好ましく、タングステン酸化物を15質量%以上25質量%以下の割合で含有することがより好ましい。これらの場合、残部はニッケル酸化物により構成することができる。
【0092】
また、黒化層形成工程において、黒化層をスパッタリング法により成膜する際、反応性ガスとして、チャンバー内に窒素と酸素、もしくは窒素のみを供給しながら成膜することができる。チャンバー内に供給する酸素と窒素の供給割合は特に限定されるものではないが、酸素を0体積以上20体積%以下、窒素を30体積%以上70体積%以下の割合で含有するガスをチャンバー内に供給しながらスパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0093】
特に、黒化層を成膜する際のターゲットには酸素が含まれているため、黒化層を成膜する際のチャンバー内への酸素の供給割合は、0体積%以上10体積%以下とすることがより好ましい。また、スパッタリングの際にチャンバー内に供給する窒素の供給割合は35体積%以上40体積%以下とすることがより好ましい。
【0094】
なお、スパッタリングを行う際、チャンバー内に供給するガスは、酸素と窒素以外の残部については不活性ガスとすることが好ましい。酸素と窒素以外の残部については例えばアルゴンまたはヘリウムを供給することができる。
【0095】
成膜した黒化層中において、酸素、窒素、ニッケル及びタングステンはどのような形態で含まれていてもよい。ニッケルまたはタングステンが例えば、酸化ニッケル(NiO)、窒化ニッケル(NiN)、酸化タングステン(WO、WO、W)や窒化タングステン(WN、WN)等の酸化物または窒化物を生成し、該化合物が黒化層に含まれていてもよい。
【0096】
また、黒化層は例えば酸素および窒素を含有するニッケル−タングステン混合物のように、酸素、窒素、ニッケル及びタングステンを同時に含有する1種類の物質のみで構成される層であってもよい。また、例えば上述したニッケルの酸化物、ニッケルの窒化物、タングステンの酸化物、タングステンの窒化物から選択される1種類以上の物質を含有する層であってもよい。
【0097】
特に、黒化層はX線回折により得られる回折パターンから同定される主相が窒化ニッケルであることが好ましい。
【0098】
そして、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、既述の導電性基板と同様に、銅層は厚さが100nm以上であることが好ましく、150nm以上とすることがより好ましい。また、銅層の厚さの上限値は特に限定されないが、3μm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
【0099】
また、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板においても、黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば20nm以上であることが好ましく、30nm以上とすることがより好ましい。黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、50nm以下とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましい。
【0100】
さらに、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、波長550nmの光の反射率は40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが特に好ましい。
【0101】
そして、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、メッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。この場合、上述の工程に加えて、銅層と、黒化層と、をエッチングすることにより、配線を形成するエッチング工程をさらに有することができる。
【0102】
係るエッチング工程は例えば、まず、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストを、導電性基板の最表面に形成する。図1(a)に示した導電性基板の場合、導電性基板に配置した黒化層13の露出した面A上にレジストを形成することができる。なお、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストの形成方法は特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィー法により形成することができる。
【0103】
次いで、レジスト上面からエッチング液を供給することにより、銅層12、黒化層13のエッチングを実施することができる。
【0104】
なお、図1(b)のように透明基材11の両面に銅層、黒化層を配置した場合には、導電性基板の最表面A及びBにそれぞれ所定の形状の開口部を有するレジストを形成し、透明基材11の両面に形成した銅層、黒化層を同時にエッチングしてもよい。
【0105】
また、透明基材11の両側に形成された銅層及び黒化層について、一方の側ずつエッチング処理を行うこともできる。すなわち、例えば、銅層12A及び黒化層13Aのエッチングを行った後に、銅層12B及び黒化層13Bのエッチングを行うこともできる。
【0106】
黒化層は銅層と同様のエッチング液への反応性を示すことから、エッチング工程において用いるエッチング液は特に限定されるものではなく、一般的に銅層のエッチングに用いられるエッチング液を好ましく用いることができる。エッチング液としては例えば、塩化第二鉄と、塩酸と、の混合水溶液をより好ましく用いることができる。エッチング液中の塩化第二鉄と、塩酸との含有量は特に限定されるものではないが例えば、塩化第二鉄を5重量%以上50重量%以下の割合で含むことが好ましく、10重量%以上30重量%以下の割合で含むことがより好ましい。また、エッチング液は例えば、塩酸を1重量%以上50重量%以下の割合で含むことが好ましく、1重量%以上20重量%以下の割合で含むことがより好ましい。なお、残部については水とすることができる。
【0107】
エッチング液は室温で用いることもできるが、反応性を高めるため加温していること好ましく、例えば40℃以上50℃以下に加熱して用いることが好ましい。
【0108】
上述したエッチング工程により得られるメッシュ状の配線の具体的な形態については、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0109】
また、既述のように、図1(a)、図2(a)に示した透明基材11の一方の面側に銅層、黒化層を有する導電性基板を2枚貼り合せてメッシュ状の配線を備えた導電性基板とする場合には、導電性基板を貼り合せる工程をさらに設けることができる。この際、2枚の導電性基板を貼り合せる方法は特に限定されるものではなく、例えば接着剤等を用いて接着することができる。
【0110】
なお、メッシュ状の配線として図3図4においては、直線形状にパターン化された配線を組み合わせた例を示したが、係る形態に限定されるものではない。配線パターンを構成する配線、すなわちパターン化された銅層の形状は任意の形状とすることができる。例えばディスプレイの画像との間でモアレ(干渉縞)が発生しないようメッシュ状の配線パターンを構成する配線の形状をそれぞれ、ぎざぎざに屈曲した線(ジグザグ直線)等の各種形状にすることもできる。
【0111】
以上に本実施形態の導電性基板及び導電性基板の製造方法について説明した。係る導電性基板によれば、銅層と黒化層とがエッチング液に対してほぼ同じ反応性を示すことから、容易に所望の配線を形成することができる。また、酸素、窒素、ニッケル、及びタングステンを含有する層は黒色であるため黒化層として機能し、銅層による光の反射を抑制することができ、例えばタッチパネル用の導電性基板とした場合に、視認性の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0112】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0113】
まず、後述する各実施例、比較例において作製した試料の評価方法について説明する。
(評価方法)
(1)反射率
測定は、紫外可視光分光光度計(株式会社島津製作所製 型番:UV−2550)に反射率測定ユニットを設置して行った。
【0114】
以下の実施例1〜6、比較例1、2では断面形状が、銅層12と、黒化層13との積層順を逆にした点以外は、図1(a)と同様の構造を有する導電性基板を作製した。すなわち、透明基材11側から、黒化層13、銅層12の順に積層した導電性基板を作製した。そこで、作製した導電性基板のうち、透明基材11を除いて黒化層13が最表面側に位置する透明基材11側から、黒化層13に対して入射角5°、受光角5°として、波長550nmの光を照射した際の反射率を測定した。
(2)溶解試験
各実施例、比較例において作製した導電性基板をエッチング液に浸漬して銅層及び黒化層の溶解試験を行った。エッチング液としては塩化第二鉄10重量%と塩酸10重量%と。残部が水からなる水溶液を用い、エッチング液の温度は室温(25℃)とした。
【0115】
上記エッチング液に1分間浸漬後、導電性基板をエッチング液から取り出し、銅層および、黒化層が完全に溶解し、透明基材のみとなっていた場合に○と評価した。エッチング液から取り出した際に、銅層または黒化層が残存していた場合には、同じエッチング液にさらに1分間浸漬し、エッチング液から取り出した際に銅層及び黒化層が完全に溶解し、透明基材のみとなっていた場合には△と評価した。2回目のエッチング液への浸漬後においても銅層または黒化層が残存していた場合には×と評価した。
(試料の作製条件)
以下に各実施例、比較例における導電性基板の製造条件を示す。
[実施例1]
銅層12と、黒化層13との積層順を逆にした点以外は、図1(a)に示した構造と同等の構造を有する導電性基板を作製した。すなわち、各層の積層順は透明基材11側から黒化層13、銅層12の順となっている。
【0116】
以下に具体的な導電性基板の作製手順を説明する。
【0117】
まず、縦5cm、横5cm、厚さ0.02mmのポリエチレンテレフタラート樹脂(PET)製の透明基材を準備した(透明基材準備工程)。
【0118】
透明基材の一方の面上に、ニッケル酸化物とタングステン酸化物とからなるターゲットを用いて、酸素および窒素を含有する雰囲気中で黒化層を形成した(黒化層形成工程)。
【0119】
黒化層形成工程はスパッタリング装置(芝浦メカトロニクス株式会社製 型式:CFS−4ES−2)を用いて行った。また、ターゲットとして酸化タングステンを10質量%含み、残部が酸化ニッケルからなるターゲットを用いた。
【0120】
まず、チャンバー内に透明基材を、ターゲットと対向し、ターゲットと、透明基材との間距離が85mmになるように設置した。
【0121】
次いで、チャンバー内に透明基材を設置後、チャンバー内を真空引きした。なお、スパッタリング前のチャンバーの到達真空度は1×10−3Paとした。
【0122】
そして、透明基材を15rpmで回転させながらスパッタリングを行った。
【0123】
スパッタリングの間、チャンバー内には窒素とアルゴンとを合計で15sccmになるように供給しながら行った。なお、チャンバーには窒素30体積%、酸素20体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給し、スパッタリングを行った。また、スパッタリングにより黒化層の成膜を行う際、DC電源によってターゲットに電流0.42A、電圧476V(電力値約200W)を印加した。
【0124】
以上の手順、条件により厚さ30nmの黒化層を成膜した。
【0125】
黒化層を成膜後、X線回折装置(Bruker AXS 社製 型式:D8 DISCOVER μ−HR)により、黒化層の主相を確認した。結果を表1に示す。
【0126】
次に、透明基材の一方の面上、ここでは黒化層の上面に銅層を形成した(銅層形成工程)。
【0127】
銅層は、銅ターゲットを用いて、上記黒化層を成膜した基材に銅薄膜層の膜厚が200nmとなるようにスパッタリング法により成膜した。なお、銅薄膜層を成膜する際、チャンバーにはアルゴンを100体積%供給し、基板回転速度を15rpmとし、DC電源によりスパッタリングを行った。
【0128】
以上の工程により得られた導電性基板について反射率と溶解試験を実施した。結果を表1に示す。
[実施例2]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素50体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点以外は実施例1と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
【0129】
結果を表1に示す。
[実施例3]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素40体積%、酸素5体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点と、ターゲットとして酸化タングステンを20質量%含み、残部が酸化ニッケルからなるターゲットを用いた点以外は実施例1と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
結果を表1に示す。
[実施例4]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素40体積%、酸素2体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点と、黒化層の厚さを20nmとした点以外は実施例3と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
【0130】
結果を表1に示す。
[実施例5]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素70体積%、酸素10%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点とターゲットとして酸化タングステンを30質量%含み、残部が酸化ニッケルからなるターゲットを用いた点以外は実施例1と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
【0131】
結果を表1に示す。
[実施例6]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素50体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点以外は実施例5と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
結果を表1に示す。
[比較例1]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素20体積%、酸素3体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点とターゲットとして酸化タングステンを40質量%含み、残部が酸化ニッケルからなるターゲットを用いた点以外は実施例1と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
【0132】
結果を表1に示す。
[比較例2]
黒化層を成膜する際、チャンバー内に窒素50体積%、酸素20体積%、残部がアルゴンになるように各ガスを供給した点とターゲットとして酸化タングステンを40質量%含み、残部が酸化ニッケルからなるターゲットを用いた点以外は実施例1と同様にして実施した。なお、チャンバー内にはガスを合計で15sccmになるように供給しながら行っている。
【0133】
結果を表1に示す。
【0134】
【表1】
表1に示した結果によると、実施例である実施例1〜実施例6については、波長550nmの光の反射率は40%以下であることが確認できた。また、溶解試験において評価が○または△となっており、銅層及び黒化層が同時に溶解することを確認できた。
【0135】
これに対して、比較例1、2は波長550nmの光の反射率は、実施例1〜実施例6と比較して低くなっているが、溶解試験において黒化層が溶解せずに残存した。
【0136】
これは黒化層を成膜する際に用いたターゲットに含まれるタングステン酸化物の濃度が30質量%を越えていたため、黒化層中にNiN以外にタングステン酸化物が存在し、エッチング液に対する反応性が低くなったためと考えられる。
【符号の説明】
【0137】
10A、10B、20A、20B、30 導電性基板
11、11A、11B 透明基材
12、12A、12B 銅層
13、13A、13B、131、132、131A、131B、132A、132B、32A、32B 黒化層
31A、31B 配線
図1
図2
図3
図4