(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭化水素A’が、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロペンテン、ノルボルネン、ノルボルナジエン及びシクロペンタンからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記炭化水素B’が、アセチレン、メチルアセチレン、ビニルアセチレン、1−ブチン、2−ブチン、イソプロピルアセチレン及びイソプロペニルアセチレンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項8又は9に記載の炭素ナノ構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の炭素ナノ構造体の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態の製造方法では、触媒層を表面に有する基材(以下、「触媒基材」という。)に原料ガスを供給し、化学気相成長法によって触媒層上にCNTを成長させる。触媒層上には多数のCNTが基材に略垂直な方向に配向して集合体を形成する。本明細書において、これを「CNT配向集合体」という。そして、このCNT配向集合体をまとめて触媒基材から剥離して得られた物体を、本明細書において「CNT」と称する。
【0028】
(基材)
触媒基材に用いる基材は、例えば平板状の部材であり、500℃以上の高温でも形状を維持できるものが好ましい。具体的には、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、及びアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金及び酸化物、又はシリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、及びダイヤモンドなどの非金属、並びにセラミックなどが挙げられる。金属材料はシリコン及びセラミックと比較して、低コスト且つ加工が容易であるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金などは好適である。
【0029】
基材の形態は、平板状、薄膜状、ブロック状、ワイヤー状、メッシュ状あるいは粒子・微粒子・粉末状などが挙げられ、特に体積の割に表面積を大きくとれる形状がCNTを大量に製造する場合において有利である。平板状の基材の厚さに特に制限はなく、例えば数μm程度の薄膜から数cm程度までのものを用いることができる。好ましくは、0.05mm以上3mm以下である。
【0030】
(触媒)
触媒基材において、基材上(基材上に浸炭防止層を備える場合には当該浸炭防止層の上)には、触媒層が形成されている。触媒としては、CNTの製造が可能であればよく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、並びに、これらの塩化物及び合金が挙げられる。これらが、さらにアルミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化、あるいは層状になっていてもよい。例えば、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、及びアルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。触媒の存在量としては、CNTの製造が可能な範囲であればよく、例えば、鉄を用いる場合、製膜厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0031】
基材表面への触媒層の形成は、ウェットプロセス又はドライプロセス(スパッタリング蒸着法など)のいずれを適用してもよい。成膜装置の簡便さ(真空プロセスを要しない)、スループットの速さ、原材料費の安さなどの観点から、ウェットプロセスを適用するのが好ましい。
【0032】
(触媒形成ウェットプロセス)
触媒層を形成するウェットプロセスは通常、触媒となる元素を含んだ金属有機化合物および/または金属塩を有機溶剤に溶解したコーティング剤を基材上へ塗布する工程と、その後加熱する工程から成る。コーティング剤には金属有機化合物及び金属塩の過度な縮合重合反応を抑制するための安定剤を添加してもよい。
【0033】
塗布工程としては、スプレー、ハケ塗り等により塗布する方法、スピンコーティング、ディップコーティング等、いずれの方法を用いてもよいが、生産性および膜厚制御の観点からディップコーティングが好ましい。
【0034】
塗布工程の後に加熱工程を行なうことが好ましい。加熱することで金属有機化合物及び金属塩の加水分解及び縮重合反応が開始され、金属水酸化物及び/又は金属酸化物を含む硬化皮膜が基材表面に形成される。加熱温度はおよそ50℃以上400℃以下の範囲で、加熱時間は5分以上3時間以下の範囲で、形成する触媒薄膜の種類によって適宜調整することが好ましい。
【0035】
例えば、触媒としてアルミナ−鉄薄膜を形成する場合、アルミナ膜を形成した後に鉄薄膜を形成する。
【0036】
アルミナ薄膜を形成するための金属有機化合物および/または金属塩としては、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ−n−プロポキシド、アルミニウムトリ−i−プロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムトリ−tert−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシドが挙げられる。アルミニウムを含む金属有機化合物としては他に、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)などの錯体が挙げられる。金属塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、臭化アルミニウム、よう化アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硝酸アルミニウム等が挙げられる。これらのなかでも、アルミニウムアルコキシドを用いることが好ましい。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0037】
鉄薄膜を形成するための金属有機化合物および/または金属塩としては、鉄ペンタカルボニル、フェロセン、アセチルアセトン鉄(II)、アセチルアセトン鉄(III)、トリフルオロアセチルアセトン鉄(II)、トリフルオロアセチルアセトン鉄(III)等が挙げられる。金属塩としては、例えば、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄等の無機酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、乳酸鉄等の有機酸鉄等が挙げられる。これらのなかでも、有機酸鉄を用いることが好ましい。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0038】
安定剤としては、β−ジケトン類及びアルカノールアミン類からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。β−ジケトン類ではアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルトリフルオルアセトン、フロイルアセトンおよびトリフルオルアセチルアセトンなどがあるが、特にアセチルアセトン、アセト酢酸エチルを用いることが好ましい。アルカノールアミン類ではモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノ−ルアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどがあるが、第2級又は第3級アルカノールアミンであることが好ましい。
【0039】
有機溶剤としては、アルコール、グリコール、ケトン、エーテル、エステル類、炭化水素類等種々の有機溶剤が使用できるが、金属有機化合物及び金属塩の溶解性が良いことから、アルコール又はグリコールを用いることが好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが、取り扱い性、保存安定性といった点で好ましい。
【0040】
前記コーティング剤中の前記金属有機化合物および/または金属塩の含有量としては、通常、0.05〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0041】
(フォーメーション工程)
本発明の製造方法では、成長工程の前にフォーメーション工程を行なうことが好ましい。フォーメーション工程とは、触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒及び還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、CNTの成長に適合した状態としての触媒の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の製造に好適な状態となる。この工程を省略してもCNTを製造することは可能であるが、この工程を行なうことでCNT配向集合体の製造量及び品質を飛躍的に向上させることができる。
【0042】
還元性を有するガス(還元ガス)としては、CNTの製造が可能なものを用いればよく、例えば水素ガス、アンモニア、水蒸気及びそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。還元ガスは、フォーメーション工程の他、適宜成長工程に用いてもよい。
【0043】
(成長工程)
成長工程とは、触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒及び原料ガスの少なくとも一方を加熱することにより、触媒上にCNT配向集合体を成長させる工程である。高品質なCNTを成長させる観点からは、少なくとも触媒を加熱することが好ましい。加熱の温度は、400℃〜1100℃が好ましい。成長工程は、触媒基材を収容するCNT成長炉内に、不活性ガスと、随意に還元ガス及び/又は触媒賦活物質と、を含む原料ガスを導入して行う。
【0044】
<接触ガス>
本実施形態の製造方法は、成長工程で触媒に接触するガスXに1つの大きな特徴を有する。当該ガスXは、原料ガスが分解された各種炭化水素ガスと、分解されることなく触媒に到達した原料ガスと、不活性ガスと、随意に含まれる還元ガス及び/又は触媒賦活物質とからなる。
【0045】
本実施形態においてガスXは、シクロペンタジエン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Aと、アセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Bと、を含み、炭化水素Aの合計体積濃度[A]が0.06%以上とすることが肝要である。ガスX内に、炭化水素Aおよび炭化水素Bを併存させ、かつ、体積濃度を上記のとおりとすることにより、CNTの品質を維持しつつ収量を上げることができる。なお、本明細書において、シクロペンタジエン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素を「シクロペンタジエン類」と、アセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素を「アセチレン類」と、いう場合がある。
【0046】
シクロペンタジエン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Aとしては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、トリメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、及びエチルシクロペンタジエン、並びにそれらのラジカルからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。ただし、CNT成長温度における構造安定性の観点から、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンが好ましい。
【0047】
アセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Bとしては、例えば、アセチレン、メチルアセチレン(プロピン)、ビニルアセチレン、1−ブチン(エチルアセチレン)、2−ブチン、ジアセチレン、イソプロピルアセチレン、イソプロペニルアセチレン、1−ペンチン、2−ペンチン、イソペンチン、シクロプロペニルアセチレン、メチルビニルアセチレン、プロペニルアセチレン、フェニルアセチレン、ヘキシン類、及びヘキサジイン類、並びにそれらのラジカルからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。ただし、CNT成長温度における構造安定性の観点から、アセチレン、メチルアセチレン、ビニルアセチレン、2−ブチン、及びフェニルアセチレンが好ましい。
【0048】
本実施形態では、触媒に接触するガスX中、特に炭化水素AがCNT前駆体として含まれることが重要である。そのため、ガスX中、炭化水素Aの合計体積濃度[A]を0.06%以上、好ましくは0.2%以上と規定した。本発明の効果をより十分に得る観点から、合計体積濃度[A]は、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.4%以上とする。合計体積濃度[A]の上限は炉内の触媒密度に比例する傾向があり、99%まで上げることが可能である。触媒基材として平板を用いた場合、通常は10%以下が好ましく、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。触媒密度の量に対して炭化水素Aの量が過剰であるとアモルファスカーボンなど炭素不純物が生成し、用途によってはそれら不純物が無視できなくなってくる。
【0049】
また、ガスX中の炭化水素Bの合計体積濃度[B]は0.01%以上であることが好ましく、これにより、CNTの品質を維持しつつ収量をより上げることができる。この効果をより十分に得る観点から、合計体積濃度[B]は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%以上とする。合計体積濃度[B]の上限は炉内の触媒密度に比例する傾向があり、83%まで上げることが可能である。触媒基材として平板を用いた場合、通常は10%以下が好ましく、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。触媒密度の量に対して炭化水素Bの量が過剰であるとアモルファスカーボンなど炭素不純物が生成し、用途によってはそれら不純物が無視できなくなってくる。
【0050】
本発明の効果をより十分に得る観点から、[A]/[B]は、0.2以上100以下であることが好ましく、0.3以上50以下がより好ましく、0.4以上20以下が最も好ましい。
【0051】
次に、本発明の他の実施形態として、高純度かつ高比表面積であり、金属性CNTの含有量が多いCNTを効率的に製造するためには、炭化水素Aの合計体積濃度[A]と、炭化水素Bの合計体積濃度[B]とが、0.3≦[A]/[B]≦1000を満たすことが肝要である。ガスX内に、炭化水素Aおよび炭化水素Bを併存させ、かつ、体積濃度を上記のとおりとすることにより、金属性CNTの含有量を上げることができる。
【0052】
金属性CNTの含有量を上げる観点からは、[A]/[B]は、0.4以上1000以下であることが好ましく、0.5以上1000以下がより好ましい。また、炭化水素Aの合計体積濃度[A]は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上である。炭化水素Bの合計体積濃度[B]は、好ましくは0.003%以上、より好ましくは0.01%以上である。
【0053】
ガスXは、アレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Cをさらに含むことが好ましい。これにより、炭化水素Aの濃度の変化に対するCNT合成結果(収量および品質)の変化が緩やかになる効果が得られ、製造条件の制御がより容易になる(ロバスト性が向上する)。炭化水素Cとしては、プロパジエン(アレン)、1,2-ブタジエン、及び2,3-ペンタジエンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。ただし、CNT成長温度における構造安定性の観点から、プロパジエン及び/又は1,2-ブタジエンであるのが好ましい。炭化水素Cの合計体積濃度は、0.01%以上0.5%以下とすることが好ましく、0.02%以上0.2%以下とすることがより好ましい。なお、本明細書において、アレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素を「アレン類」という場合がある。
【0054】
なお、本発明において、接触ガスの同定および体積濃度の測定は、基材設置位置近傍のガスを所定量吸引サンプリングして、ガスクロマトグラフィー(GC)によりガス分析することで行うものとする。サンプリングにおいて、ガスは熱分解が進行しない温度(約200℃)まで短時間に急冷された後に、直ちにGCへ導入される。これによって、サンプルガスの化学変化を防止し、触媒に接触しているガスの組成を正しく測定することが可能になる。
【0055】
<原料ガス>
本発明の他の実施形態は、接触ガスXを上記の2種類の炭化水素A,Bが主成分となるようにするための好適な原料ガスの組成を提供する。すなわち、本実施形態は、炭素数5の炭素環を少なくとも1つ有する炭化水素A’と、アセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素B’と、を含む原料ガスを用いることを特徴の1つとする。原料ガスとして炭化水素A’及び炭化水素B’を併用することにより、エチレンを炭化水素とする従来技術の場合や、炭化水素A’又は炭化水素B’を単独で原料ガスとする場合に比べて、CNTの品質を維持したまま収量を大きく上げることができる。
【0056】
炭素数5の炭素環を少なくとも1つ有する炭化水素A’は、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロペンテン、ノルボルネン、ノルボルナジエン及びシクロペンタンからなる群から選択される少なくとも1種とすることが好ましい。
【0057】
アセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素B’は、アセチレン、メチルアセチレン、ビニルアセチレン、1−ブチン、2−ブチン、イソプロピルアセチレン及びイソプロペニルアセチレンからなる群から選択される少なくとも1種とすることが好ましい。
【0058】
炭化水素A’の合計体積濃度[A’]は、本発明の効果をより十分に得る観点から、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上とする。合計体積濃度[A’]の上限は炉内の触媒密度に比例する傾向があり、99%まで上げることが可能である。触媒基材として平板を用いた場合、通常は10%以下が好ましく、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。触媒密度の量に対して炭化水素A’の量が過剰であるとアモルファスカーボンなど炭素不純物が生成し、用途によってはそれら不純物が無視できなくなってくる。
【0059】
炭化水素B’の合計体積濃度[B’]は、本発明の効果をより十分に得る観点から、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上とする。合計体積濃度[B’]の上限は炉内の触媒密度に比例する傾向があり、91%まで上げることが可能である。触媒基材として平板を用いた場合、通常は10%以下が好ましく、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。触媒密度の量に対して炭化水素B’の量が過剰であるとアモルファスカーボンなど炭素不純物が生成し、用途によってはそれら不純物が無視できなくなってくる。
【0060】
本発明の効果をより十分に得る観点から、[A’]/[B’]は、0.1以上100以下であることが好ましく、0.2以上80以下がより好ましく、0.3以上(又は0.4以上)60以下が最も好ましい。
【0061】
<不活性ガス>
原料ガスは不活性ガスで希釈されてもよい。不活性ガスとしては、CNTが成長する温度で不活性であり、且つ成長するCNTと反応しないガスであればよく、触媒の活性を低下させないものが好ましい。例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン及びクリプトンなどの希ガス;窒素;水素;並びにこれらの混合ガスを例示できる。また、不活性ガスを用いずに、炉内全体を減圧し、各種ガス濃度の分圧を減らすことで、不活性ガス希釈と同等の効果を得ることも可能である。
【0062】
<触媒賦活物質>
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加してもよい。触媒賦活物質の添加によって、CNTの生産効率や純度をより一層改善することができる。ここで用いる触媒賦活物質としては、一般には酸素を含む物質であり、成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であることが好ましい。例えば、水、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素、及び二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物;エタノール、メタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトンなどのケトン類;アルデヒド類;エステル類;並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびエーテル類が好ましく、特に水、一酸化炭素、二酸化炭素、並びにこれらの混合物が好適である。
【0063】
触媒賦活物質の体積濃度は、特に限定されないが微量でよく、例えば水の場合、炉内に導入される原料ガス中、その含有量は、通常、0.001〜1%、好ましくは0.005〜0.1%とする。この場合、ガスXにおいては、通常、0.001〜1%、好ましくは0.005〜0.1%となる。
【0064】
本実施形態において、原料ガス及び接触ガスXとしては、本発明の効果をより充分に得る観点から、触媒賦活物質及び/又は還元ガスとして水素分子からなる水素ガスをさらに含むのが好ましい。
【0065】
なお、一般的にCVD法における反応速度に影響を与えるのは、反応に関与する成分の分圧(体積分率×全圧)であることが知られている。一方、全圧は直接に影響を与えないので、広い範囲で変更することが可能である。よって、CVD条件においてガス成分濃度を規定する単位としては分圧を用いることが正確であるが、本発明においては、原料ガス及び接触ガスのガス成分濃度を、成長炉内全圧が1気圧の前提の下での体積分率で記述することとする。よって、成長炉内全圧が1気圧以外の場合に本発明を適用する際は、原料ガス及び接触ガスのガス成分濃度として、(1気圧/成長炉内全圧)×(本発明の体積分率)を、修正した体積分率として用いなければならない。成長炉内全圧が1気圧以外の場合におけるそのような修正は当業者にとって明らかであり、従って、かかる場合も本発明の範囲に包含される。
【0066】
<その他の条件>
成長工程における反応炉内の圧力、処理時間は、他の条件を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、圧力は10
2〜10
7Pa、処理時間は0.1〜120分程度とすることができる。炉内に導入される原料ガスの流量については、例えば、後述する実施例を参照して適宜設定することができる。
【0067】
(冷却工程)
冷却工程とは、成長工程後にCNT配向集合体、触媒、基材を冷却ガス下に冷却する工程である。成長工程後のCNT配向集合体、触媒、基材は高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。それを防ぐために冷却ガス環境下でCNT配向集合体、触媒、基材を例えば400℃以下、さらに好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては不活性ガスが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。
【0068】
(剥離工程)
単層CNTを基材から剥離する方法としては、物理的、化学的あるいは機械的に基材上から剥離する方法があり、たとえば電場、磁場、遠心力、表面張力を用いて剥離する方法;機械的に直接、基材より剥ぎ取る方法;圧力、熱を用いて基材より剥離する方法などが使用可能である。簡単な剥離法としては、ピンセットで直接基材より、つまみ、剥離させる方法がある。より好適には、カッターブレードなどの薄い刃物を使用して基材より切り離すこともできる。またさらには、真空ポンプ、掃除機を用い、基材上より吸引し、剥ぎ取ることも可能である。また、剥離後、触媒は基材上に残余し、新たにそれを利用して垂直配向した単層CNTを成長させることが可能となる。
【0069】
(製造装置)
本実施形態の製造方法に用いる製造装置は、触媒基材を受容する成長炉(反応チャンバ)を備え、CVD法によりCNTを成長させることができるものであれば、特に限定されず、熱CVD炉、MOCVD反応炉等の装置を使用できる。CNTの製造効率を高める観点からは、還元ガス及び原料ガスをガスシャワーによって触媒基材上の触媒に供給するのが好ましく、以下、触媒基材に対し概ね直交するようにガス流を噴出可能なシャワーヘッドを備えた装置の例も挙げて説明する。
【0070】
<バッチ式製造装置の一例>
本実施形態の製造方法に適用されるCNT製造装置100を
図1に模式的に示す。この装置100は、石英からなる反応炉102と、反応炉102を外囲するように設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる加熱器104と、還元ガス及び原料ガスを供給すべく反応炉102の一端に接続されたガス供給口106と、反応炉102の他端に接続された排気口108と、基材を固定する石英からなるホルダー110とを含み構成される。さらに図示していないが、還元ガス及び原料ガスの流量を制御するため、流量制御弁及び圧力制御弁などを含む制御装置を適所に付設してなる。
【0071】
<バッチ式製造装置の他の例>
本実施形態の製造方法に適用されるCNT製造装置300を
図3に模式的に示す。この装置300は、還元ガス、原料ガス、触媒賦活物質等を噴射するシャワーヘッド112を用いる以外は、
図1に示す装置と同じ構成である。
【0072】
シャワーヘッド112は、各噴出孔の噴射軸線が基材の触媒被膜形成面に概ね直交する向きとなるように配置される。つまりシャワーヘッドに設けられた噴出孔から噴出するガス流の方向が、基材に概ね直交する。
【0073】
シャワーヘッド112を用いて還元ガスを噴射すると、還元ガスを基材上に均一に散布することができ、効率良く触媒を還元することができる。結果、基材上に成長するCNT配向集合体の均一性を高めることができ、且つ還元ガスの消費量を削減することもできる。このようなシャワーヘッドを用いて原料ガスを噴射すると、原料ガスを基材上に均一に散布することができ、効率良く原料ガスを消費することができる。結果、基材上に成長するCNT配向集合体の均一性を高めることができ、且つ原料ガスの消費量を削減することもできる。このようなシャワーヘッドを用いて触媒賦活物質を噴射すると、触媒賦活物質を基板上に均一に散布することができ、触媒の活性が高まると共に寿命が延長するので、配向CNTの成長を長時間継続させることが可能となる。
【0074】
<連続製造装置の一例>
本実施形態の製造方法に適用されるCNT製造装置400を
図4に模式的に示す。
図4に示すように、製造装置400は、入口パージ部1、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、冷却ユニット4、出口パージ部5、搬送ユニット6、接続部7,8,9、ガス混入防止手段11,12,13を有する。
【0075】
〔入口パージ部1〕
入口パージ部1は、触媒基材10の入口から炉内へ外気が混入することを防止するための装置一式である。製造装置400内に搬送された触媒基材10の周囲環境を窒素などの不活性パージガスで置換する機能を有する。具体的には、パージガスを保持するためのチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部などを有する。
【0076】
〔フォーメーションユニット2〕
フォーメーションユニット2は、フォーメーション工程を実現するための装置一式である。具体的には、還元ガスを保持するためのフォーメーション炉2A、還元ガスを噴射するための還元ガス噴射部2B、並びに触媒及び還元ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター2Cなどを有する。
【0077】
〔成長ユニット3〕
成長ユニット3は、成長工程を実現するための装置一式である。具体的には、成長炉3A、原料ガスを触媒基材10上に噴射するための原料ガス噴射部3B、並びに触媒及び原料ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター3Cを含んでいる。成長ユニット3の上部には排気口3Dが設けられている。
【0078】
〔冷却ユニット4〕
冷却ユニット4は、CNT配向集合体が成長した触媒基材10を冷却する冷却工程を実現する装置一式である。具体的には、冷却ガスを保持するための冷却炉4A、水冷式の場合は冷却炉内空間を囲むように配置した水冷冷却管4C、空冷式の場合は冷却炉内に冷却ガスを噴射する冷却ガス噴射部4Bを有する。
【0079】
〔出口パージ部5〕
出口パージ部5は、触媒基材10の出口から炉内へ外気が混入することを防止するための装置一式である。触媒基材10の周囲環境を窒素などの不活性パージガス環境にする機能を有する。具体的には、パージガスを保持するためのチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部などを有する。
【0080】
〔搬送ユニット6〕
搬送ユニット6は、製造装置の炉内に触媒基材10を搬送するための装置一式である。具体的には、ベルトコンベア方式におけるメッシュベルト6A、減速機付き電動モータを用いたベルト駆動部6Bなどを有する。
【0081】
〔接続部7,8,9〕
接続部7、8、9は、各ユニットの炉内空間を空間的に接続する装置一式である。具体的には、触媒基材10の周囲環境と外気を遮断し、触媒基材10をユニットからユニットへ通過させることができる炉又はチャンバなどが挙げられる。
【0082】
〔ガス混入防止手段11,12,13〕
ガス混入防止手段11,12,13は、製造装置100内の隣接する炉(フォーメーション炉2A、成長炉3A、冷却炉4A)間でガス同士が相互に混入することを防止するための装置一式であり、接続部7,8,9に設置される。ガス混入防止手段11,12,13は、各炉における触媒基材10の入口及び出口の開口面に沿って窒素等のシールガスを噴出するシールガス噴射部11B,12B,13Bと、主に噴射されたシールガスを外部に排気する排気部11A,12A,13Aとを、それぞれ有する。
【0083】
メッシュベルト6Aに載置された触媒基材10は装置入口から入口パージ部1の炉内へと搬送され、以降、各炉内で処理を受けた後、出口パージ部5から装置出口を介して装置外部に搬送される。
【0084】
(炭素ナノ構造体)
本発明の製造方法によれば、上述のようにして高品質なCNTを高効率に製造可能であるが、CNTに限られず、公知文献を参照して適宜製造条件を設定することにより、カーボンナノコイル等その他、CVD法により触媒表面上に成長させることが可能な、sp2混成軌道からなる炭素を含む、種々の炭素ナノ構造体を製造することができる。前記公知文献としては、例えば、特開2009−127059号公報(ダイヤモンドライクカーボン)、特開2013−86993号公報(グラフェン)、特開2001−192204号公報(コイル・ツイスト)、及び特開2003−277029号公報(フラーレン)などが挙げられる。
【0085】
以下、本発明の製造方法により得られる炭素ナノ構造体の一例として、本発明の製造方法により得られるCNTについて説明する。なお、CNTは、本発明の製造方法により直接的にはCNT配向集合体として得られる。当該集合体を、例えば、物理的、化学的又は機械的な剥離方法、具体的には、電場、磁場、遠心力又は表面張力を用いて剥離する方法や、ピンセットやカッターブレードを用いて機械的に直接剥ぎ取る方法や、真空ポンプによる吸引等の圧力や熱により剥離する方法などにより、触媒基材から剥離することで、バルク状態のCNTや、粉体状態のCNTを得ることができる。
【0086】
本発明の製造方法によるCNTの収量は、2.3mg/cm
2以上であることが好ましく、3.0mg/cm
2以上であることがより好ましい。なお、本発明において収量は以下の式により算出するものとする。
(収量)=(CNT製造前後での基材質量差)/(基材の触媒担持面積)
【0087】
本発明の製造方法において、炭素変換効率は、2.8%以上であることが好ましく、3.5%以上であることがより好ましい。なお、本発明において「炭素変換効率」とは、(製造されたCNT質量)/(炉内に導入した全炭素質量)×100[%]を意味し、「炉内に導入した全炭素流量」は、理想気体近似の仮定のもと、ガス流量、原料ガスの炭素濃度及び成長時間の、以上3つの値から算出することができる。
【0088】
CNTは、単層カーボンナノチューブであっても良いし、多層カーボンナノチューブであってもよいが、本発明の製造方法によれば単層カーボンナノチューブをより好適に製造することができる。
【0089】
CNTの平均直径(Av)としては、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。カーボンナノチューブの平均直径(Av)は、通常、透過型電子顕微鏡を用いてカーボンナノチューブを無作為に100本測定して求める。
【0090】
CNTは、本発明の製造方法によりCNT配向集合体として得られるが、その比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることがより好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1400m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、CNTが主として開口したものにあっては、比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。なお、本発明において、「比表面積」とは、BET法を用いて測定したBET比表面積を指す。
【0091】
CNT配向集合体としての質量密度は0.002g/cm
3以上、0.2g/cm
3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm
3以下であれば、CNT配向集合体を構成するCNT同士の結びつきが弱くなるので、CNT配向集合体を溶媒などに攪拌した際に、均質に分散させることが容易になる。また、質量密度が0.002g/cm
3以上であれば、CNT配向集合体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取扱いが容易になる。
【0092】
CNT配向集合体は高い配向度を有していることが好ましい。高い配向度を有するか否かは、以下の1.から3.の少なくともいずれか1つの方法によって評価することができる。
【0093】
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、第2方向からの反射強度が、第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、かつ第1方向からの反射強度が、第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0094】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0095】
3.ヘルマンの配向係数が、θ−2θ法又はラウエ法で得られたX線回折強度を用いると0より大きく1より小さいこと、より好ましくは0.25以上、1以下であること。
【0096】
CNT配向集合体の高さ(長さ)としては、10μm以上、10cm以下の範囲にあることが好ましい。高さが10μm以上であると、配向度が向上する。また高さが10cm以下であると、生成を短時間で行なえるため炭素系不純物の付着を抑制でき、比表面積を向上できる。
【0097】
CNT配向集合体のG/D比は好ましくは2以上、より好ましくは4以上である。G/D比とはCNTの品質を評価するのに一般的に用いられている指標である。ラマン分光装置によって測定されるCNTのラマンスペクトルには、Gバンド(1600cm
-1付近)とDバンド(1350cm
-1付近)と呼ばれる振動モードが観測される。GバンドはCNTの円筒面であるグラファイトの六方格子構造由来の振動モードであり、Dバンドは非晶箇所に由来する振動モードである。よって、GバンドとDバンドのピーク強度比(G/D比)が高いものほど、結晶性の高いCNTと評価できる。
【0098】
また、CNT配向集合体は、精製処理を行わなくても、その純度は、通常、98質量%以上、好ましくは99.9質量%以上である。本発明の製造方法により得られるCNT配向集合体には不純物が殆ど混入しておらず、CNT本来の諸特性を充分に発揮することができる。精製処理を行わない場合には、成長直後での炭素純度が最終品の純度となる。必要に応じて、公知の方法により精製処理を行ってもよい。本明細書において「純度」とは、炭素純度であり、合成したCNT配向集合体中の炭素の質量比率を意味し、蛍光X線を用いた元素分析結果から得ることができる。
【0099】
(金属性CNTの含有量が多いCNT)
上記本発明(4)により好適に製造可能なCNTを説明する。本実施形態のCNTは、共鳴ラマン散乱法(励起波長532nm)で測定したラマンスペクトルにおいて、1590cm
-1付近(具体的には、1600〜1580cm
-1の範囲)に現れるG+バンドのピーク強度をI
G+とし、1500〜1560cm
-1の範囲に現れるn個(nは1以上の整数)のG−バンドのk番目のピーク強度をI
kBWFとしたとき、
【数2】
となることを特徴の1つとする。
【0100】
1590cm
-1付近に現れるGバンドは、グラファイト物質に共通して現れるスペクトルであり、グラファイトの場合は1585cm
-1付近に現れる。CNTの場合には円筒構造の曲率により縮退が解けて、GバンドがG+バンドとG−バンドの2つに分裂する。G+バンドは直径に依らずほぼ1590cm
-1付近に現れるのに対して、G−バンドはCNTの直径および螺旋度に依存するため、含まれるCNTの種類に応じて複数現れることになる。金属性CNTのG−バンドは、半導体性CNTのG−バンドより低い振動数(1500〜1560cm
-1)に現れ、Brite−Wingner−Fano(BWF)と呼ばれるスペクトルのフィッティング関数に良く合うので、BWFピークと呼ばれることもある。そのため、1500〜1560cm
-1の範囲に検出されたn個のG−バンドのピーク強度I
1BWF,I
2BWF,・・・I
nBWFの合計のピーク強度をG+バンドのピーク強度I
G+で除した値(以下、「ピーク強度比R」と称する。)を、製造されたCNT中の金属性CNTの含有量と相関する指標として用いることとした。
【0101】
従来、CVD法で製造されたCNTのラマンスペクトルにおいて、金属性CNTに由来する、1500〜1560cm
-1の範囲のG−バンドのピークは検出されないか、検出されたとしても微弱であった。しかし、本実施形態のCNTでは、従来にない高い含有量で金属性CNTを含むことから、1500〜1560cm
-1の範囲のG−バンドのピークが明確に検出される。しかも、ピーク強度比Rは0.6以上という従来にない高い値を示す。
【0102】
本実施形態のCNTでは、ピーク強度比Rは、好ましくは0.8以上を示す。また、ピーク強度比Rの上限は特に限定されないが、通常、1.0とすることができる。
【0103】
100〜350cm
-1の低波数領域に現れるスペクトルはラジアルブリージングモード(RBM)と呼ばれ、CNTの直径が振動するモードになる。RBMピークの波数はCNTの直径に反比例(248/dt[cm
-1]、dt[nm]はナノチューブの直径)するため、当該波数によりCNTの直径を評価することができる。本実施形態のCNTでは、励起波長532nmのラマンスペクトルにおいて、100〜350cm
-1の範囲に現れるRBMピーク中の最大ピークが200〜270cm
-1の範囲にあることが好ましい。200〜270cm
-1の範囲に現れるRBMピークは、直径が0.92〜1.24nm程度の細径の単層CNTに由来し、片浦プロット(H. Kataura, Y. Kumazawa, Y. Maniwa, I. Umezu, S. Suzuki, Y. Ohtsuka and Y. Achiba, "Optical Properties of Single-Wall Carbon Nanotubes", Synth. Met. 103 (1999) pp. 2555-2558.)との対応から金属CNTであると判断できる。つまり、励起波長532nmのラマンスペクトルのRBMピーク中の最大ピークが200〜270cm
-1に現れることは、本実施形態のCNTが直径1nm程度の金属CNTを多く含有していることを示している。
【0104】
本実施形態のCNTは、このように金属性CNTの含有量が高く、しかも高純度かつ高比表面積である。具体的には第1に、比表面積は、600〜2500m
2/gとすることができ、好ましくは800〜1400m
2/gとすることができる。また第2に、本実施形態では蛍光X線測定による純度が98%以上とすることができ、好ましくは99%以上とすることができる。
【0105】
本実施形態のCNTは、中心直径サイズが1〜5nmであることが好ましく、1.5〜4nmであることがより好ましい。1nm以上であれば、CNT同士のバンドル化が低減でき、高い比表面積を維持することができる。5nm以下であれば、多層CNT比率を低減でき、高い比表面積を維持することができる。本発明において、CNTの中心直径サイズは以下のように求める。まず、透過型電子顕微鏡を用いて任意のCNT少なくとも100本の直径を測定し、ヒストグラムを作成する。このように作成したヒストグラム(CNT直径分布)の例を
図12に示す。ヒストグラム中において、CNTの本数が極大値を持つ直径範囲の中心値を「中心直径サイズ」とする。
図12の場合、中心直径サイズは、約1.5nmと約3.5nmの2つとなる。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
(基材)
縦500mm×横500mm、厚さ0.6mmのFe−Cr合金SUS430(JFEスチール株式会社製、Cr:18質量%)の平板を用意した。レーザ顕微鏡を用いて複数個所の表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒0.063μmであった。
【0108】
(触媒の形成)
上記の基材上に以下のような方法で触媒を形成した。まず、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド1.9gを2−プロパノール100mL(78g)に溶解させ、安定剤としてトリイソプロパノールアミン0.9gを加えて溶解させて、アルミナ膜形成用コーティング剤を作製した。ディップコーティングにより、室温25℃、相対湿度50%の環境下で基材上に上述のアルミナ膜形成用コーティング剤を塗布した。塗布条件としては、基材を浸漬後、20秒間保持して、10mm/秒の引き上げ速度で基板を引き上げた後、5分間風乾した。次に、300℃の空気環境下で30分間加熱した後、室温まで冷却した。これにより、基材上に膜厚40nmのアルミナ膜を形成した。
【0109】
続いて、酢酸鉄174mgを2−プロパノール100mLに溶解させ、安定剤としてトリイソプロパノールアミン190mgを加えて溶解させて、鉄膜コーティング剤を作製した。ディップコーティングにより、室温25℃、相対湿度50%の環境下で、アルミナ膜が成膜された基材上に鉄膜コーティング剤を塗布した。塗布条件としては、基材を浸漬後、20秒間保持して、3mm/秒の引き上げ速度で基板を引き上げた後、5分間風乾した。次に、100℃の空気環境下で、30分加熱した後、室温まで冷却した。これにより、膜厚3nmの触媒生成膜を形成した。
【0110】
以下、全ての実験例において、このように触媒が形成された基材を用いた。
【0111】
(実験例1)
図1に示すようなバッチ式成長炉内でフォーメーション工程と成長工程とを順次行うことでCNTを製造した。前述の触媒基材を縦40mm×横40mmの大きさに切り出したものを触媒基材として用い、フォーメーション工程、成長工程を順次行なって基材表面にCNTを製造した。各工程におけるガス流量、ガスの組成、加熱器の設定温度、および処理時間を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
触媒基材を設置する位置を変更することで原料ガス加熱時間を調整し、製造されるCNTの収量及び比表面積のバランスが最も良い基材位置を決定した。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表2に示す。なお、「原料ガス加熱時間」とは、原料ガスが炉内加熱領域に入ってから触媒基材に到達するまでの概算平均時間であり、以下の式により求められる。
原料ガス加熱時間[min]=(基材より上流側の加熱領域体積[mL])/{(ガス流量[sccm])×(炉温度[K])×1/(273[K])}
【0114】
【表2】
【0115】
表2中、CPDはシクロペンタジエン、pC
3H
4はメチルアセチレン(プロピン)、VAはビニルアセチレン、aC
3H
4はプロパジエン(アレン)を意味する。以下の表においても同様である。表2以外の成分として、アセチレン類としては1−ブチン、ジアセチレン、フェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが、アレン類としては1,2-ブタジエンが、それぞれ極微量(10ppm以下)検出された。また、その他の成分として、水素、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、1,3-ブタジエン、t-1,3-ペンタジエン、ベンゼン、トルエン、スチレン、インデン、ナフタレンなどが検出された。この実験例は、炭化水素Aの合計体積濃度[A]が0.06%未満であり、原料ガスがエチレンのみであるため、「比較例1」とする。
【0116】
上記条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表3に示す。
【表3】
【0117】
また、上記条件で製造されたCNTのラマンスペクトル(日本分光(株)製RMP−330、励起波長532nm)を
図7(A)に示す。スペクトルはG+バンドの強度が1となるようにノーマライズした。また、ラマンスペクトルの各ピーク位置検出にはデコンボリューション解析を行った。
図7(B)にデコンボリューション解析後のスペクトルを示す。各ピークの波数と強度、比表面積、蛍光X線測定による純度、および中心直径サイズを表4に示す。
【0118】
【表4】
【0119】
この比較例1では、金属性CNTに由来するG−バンドのピークを検出することはできなかった。また、RMBの最大ピーク波数は169cm
-1となり、200〜270cm
-1の範囲には入らなかった。
【0120】
(実験例2)
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表5のように変更してCNTを製造した。表5に記載しない諸条件は実験例1と同様とした。
【0121】
【表5】
【0122】
表5中、CPEはシクロペンテンを意味する。以下の表においても同様である。各条件において、原料ガスのCPEとC
2H
2の濃度比([A’]/[B’])は一定(0.8)とし、炭素濃度(原料ガスに含まれる炭素原子濃度)を変えて実験を行った。また、各条件において、原料ガスに添加する水素H
2および触媒賦活物質H
2Oの濃度は、炭素濃度に比例するように変更した。
【0123】
触媒基材を設置する位置を変更することで原料ガス加熱時間を調整した。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
表6以外の成分として、アセチレン類としてはフェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが、アレン類としては1,2-ブタジエンが、それぞれ極微量(数ppm以下)検出された。また、その他成分として、水素、メタン、エチレン、プロピレン、アセトン、シクロペンテン、シクロペンタン、トルエンなどが検出された。
【0126】
各条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表7及び
図5に示す。
【表7】
【0127】
CPD濃度が0.2%以上の実施例2−1〜2−4では、比表面積を600m
2/g以上に維持しつつ、収量が比較例1よりも約2〜5倍に増加することが示された。また、炭素変換効率も比較例1よりも約3〜5倍に向上することが示された。
【0128】
(実験例3)
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表8のように変更してCNTを製造した。表8に記載しない諸条件は実験例2と同様とした。
【0129】
【表8】
【0130】
各条件において、炭素濃度を一定(6.0%)とし、原料ガスのCPEとC
2H
2の濃度比([A’]/[B’])を表8に示す通りに変えて製造を行った。また、各条件において、原料ガスに添加する水素H
2の濃度は、CPEが熱分解することによって発生する水素と合計して2%となるように変更し、触媒賦活物質H
2Oの濃度は0.0200%で一定とした。
【0131】
触媒基材を設置する位置は実験例2と同じとした。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表9に示す。
【0132】
【表9】
【0133】
表9以外の成分として、アセチレン類としてはフェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが、アレン類としては1,2-ブタジエンが、それぞれ極微量(数ppm以下)検出された。また、その他成分として、水素、メタン、エチレン、プロピレン、アセトン、シクロペンテン、シクロペンタンなどが検出された。
【0134】
各条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表10及び
図6に示す。
【表10】
【0135】
[A]が0.2%以上かつ[B]が0.01%以上である実施例では、[A]が本発明の範囲外となる比較例1よりも収量が1.3〜2.7倍ほど増加し、且つ比表面積を600m
2/g以上に維持できることが示された。また、炭素変換効率も約1.3〜2.7倍に向上することが示された。さらに、[A]/[B]が0.2〜100の範囲では特にこの傾向が顕著であった。
【0136】
(実験例4)
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表11のように、アセチレン化合物(炭化水素B’)としてメチルアセチレンを用いてCNTを製造した。表11に記載しない諸条件は実験例3と同様とした。
【0137】
【表11】
【0138】
各条件において、炭素濃度を一定(6.0%)とし、原料ガスのCPEとメチルアセチレンの濃度比([A’]/[B’])を表11に示す通りに変えて製造を行った。また、各条件において、原料ガスに添加する水素H
2の濃度は、CPEが熱分解することによって発生する水素と合計して2%となるように変更し、触媒賦活物質H
2Oの濃度は0.0200%で一定とした。
【0139】
触媒基材を設置する位置は実験例2と同じとした。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表12に示す。
【0140】
【表12】
【0141】
表12以外の成分として、アセチレン類としては1−ブチン、ジアセチレン、フェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが、それぞれ極微量(10ppm以下)検出された。アレン類としては1,2-ブタジエンが数〜10ppm程度検出された。また、その他成分として、水素、メタン、エチレン、プロピレン、シクロペンテン、シクロペンタンなどが検出された。
【0142】
各条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表13及び
図6に示す。
【表13】
【0143】
原料ガスの炭化水素B’をメチルアセチレンに変えても、実験例3と同様の結果を得ることができた。
【0144】
また、
図6において、実験例3(炭化水素B’がアセチレンの場合)と実験例4(炭化水素B’がメチルアセチレンの場合)とで、CNTの収量を比較する。0.2≦[A]/[B]≦100の範囲で収量が増加する点は共通するが、収量の変化を表す山の形が実験例4の方が実験例3より緩やかであり、[A]/[B]に対する収量増加傾向において実験例4の方がよりロバスト性が高いことが示された。実験例4においては、原料ガスにメチルアセチレンを用いているが、メチルアセチレンの一部は加熱によって異性体のプロパジエン(aC
3H
4)に変化して触媒に接触していることがガス分析から判明している。アレン類の1つであるプロパジエンを含むガスを触媒に接触させることで、製造条件のロバスト性を向上させられることが示された。
【0145】
(実験例5)
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表14のように、アセチレン類(炭化水素B’)としてビニルアセチレンを用いてCNTを製造した。表14に記載しない諸条件は実験例3と同様とした。
【0146】
【表14】
【0147】
各条件において、炭素濃度を一定(6.0%)とし、原料ガスのCPEとビニルアセチレンの濃度比([A’]/[B’])を表14に示す通りに変えて製造を行った。また、各条件において、原料ガスに添加する水素H
2の濃度は、CPEが熱分解することによって発生する水素と合計して2%となるように変更し、触媒賦活物質H
2Oの濃度は0.0200%で一定とした。
【0148】
触媒基材を設置する位置は実験例2と同じとした。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表15に示す。
【0149】
【表15】
【0150】
表15以外の成分として、アセチレン類としては1−ブチン、ジアセチレン、メチルビニルアセチレン、フェニルアセチレンが数10ppm程度、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが極微量(数ppm以下)検出された。アレン類としては1,2-ブタジエンが数〜10ppm程度検出された。また、その他成分として、水素、メタン、エチレン、シクロペンテン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、スチレン、インデンなどが検出された。
【0151】
各条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表16及び
図6に示す。
【表16】
【0152】
原料ガスの炭化水素B’をビニルアセチレンに変えても、実験例3と同様の結果を得ることができた。
【0153】
また、
図6において、実験例3(炭化水素B’がアセチレンの場合)と実験例5(炭化水素B’がビニルアセチレンの場合)とで、CNTの収量を比較する。0.2≦[A]/[B]≦100の範囲で収量が増加する点は共通するが、収量の変化を表す山の形が実験例5の方が実験例3より緩やかであり、[A]/[B]に対する収量増加傾向において実験例5の方がよりロバスト性が高いことが示された。ビニルアセチレン分子は炭素間の三重結合と二重結合の両方をもっており、アセチレン化合物の性質とアレン類の性質の両方の性質を合わせ持っているためと考えられる。
【0154】
(実験例6)
図3に示すようなバッチ式成長炉内でフォーメーション工程と成長工程とを順次行うことでCNTを製造した。前述の触媒基材を縦40mm×横120mmの大きさに切り出したものを触媒基材として用い、フォーメーション工程、成長工程を順次行なって基材表面にCNTを製造した。各工程におけるガス流量、ガスの組成、加熱器の設定温度、および処理時間を表17に示す。
【0155】
【表17】
【0156】
触媒基材を設置する位置を変更することで原料ガス加熱時間を調整した。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表18に示す。
【0157】
【表18】
【0158】
表18以外の成分として、アセチレン類としては1−ブチン、ジアセチレン、フェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが、アレン類としては1,2-ブタジエンが、それぞれ極微量(10ppm以下)検出された。また、その他成分として、水素、メタン、エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン、アセトン、シクロペンテン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、インデン、ナフタレンなどが検出された。この実験例は、原料ガスが炭化水素A’及び炭化水素B’の併用であり、接触ガスにおける炭化水素Aの合計体積濃度[A]が0.06%以上であるため、「実施例6」とする。
【0159】
上記条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表19に示す。
【表19】
【0160】
比較例1と比較して収量が2.7倍ほど増加し、且つ比表面積を900m
2/g以上に維持し、炭素変換効率においては約27倍に向上することが示された。
【0161】
(実験例7)
図4に示すような連続式成長炉内で、フォーメーション工程と成長工程を含む工程を連続的に行なうことでCNT配向集合体を製造した。前述の触媒基材をそのまま(縦500mm×横500mm)製造装置のメッシュベルト上に載置し、メッシュベルトの搬送速度を変更しながら基材上にCNT配向集合体を製造した。製造装置の各部の条件は以下のように設定した(表20)。
【0162】
【表20】
【0163】
還元ガス噴射部2B及び原料ガス噴射部3Bで噴射するガス量は、炉の体積に比例させてCNT配向集合体の製造に好適なガス量に設定した。また、フォーメーション炉2Aと成長炉3Aのガスの相互混入を強く防止するため、3つのガス混入防止手段11、12、13の中でガス混入防止手段12のシールガス量及び排気量は最も多く設定した。なお、成長ユニット3内、触媒基材が通過する位置近傍にガスサンプリングのためのプローブを設置し、触媒基材を通過させないこと以外は、CNT配向集合体を製造する場合と同様の条件で装置を作動させて空炉のまま炉内を加熱し、前記プローブでガスをサンプリングし、得られたガスのガス分析を行った結果、接触ガスの組成は実施例6とほぼ同等の結果であった。
【0164】
上記条件によって、500mm×500mmの大型基材上に実験例6とほぼ同等のCNTが均一に製造できることが確認できた(実施例7)。
【0165】
(実験例8)
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表21のように変更してCNTを製造した。表21に記載しない諸条件は実験例1と同様とした。
【0166】
【表21】
【0167】
各条件において、炭素濃度を一定(3.0%)とし、原料ガスのCPEの体積濃度[A’]とC
2H
2の体積濃度[B’]の比[A’]/[B’]を表21に示す通りに変えて製造を行った。また、各条件において、原料ガスに添加する水素H
2の濃度は、CPEが熱分解することによって発生する水素と合計して1%となるように変更し、触媒賦活物質H
2Oの濃度は0.0100%で一定とした。
【0168】
触媒基材を設置する位置を変更することで原料ガス加熱時間を調整した。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表22に示す。
【0169】
【表22】
【0170】
表22以外の成分として、アセチレン類としてはフェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類はメチルシクロペンタジエンが、それぞれ極微量(数ppm以下)検出された。また、その他成分として、水素、エチレン、アセトン、シクロペンテン、などが検出された。
【0171】
成長工程中において、原料ガスとして導入したシクロペンテンの約40〜90%がシクロペンタジエンに変換し、導入したアセチレンの90%以上がそのままアセチレンとして、触媒に接触していることが判明した。
【0172】
各条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表23に示す。
【表23】
【0173】
原料ガスがエチレンの場合(比較例1)、アセチレン単独の場合(比較例8−1)と比較して、原料ガスにアセチレンとCPEを併用した実施例8−1〜8−4では、比表面積及びG/Dを高く維持しつつ、収量を増加させることができた。また、実施例では炭素変換効率を比較例1のおよそ1.2〜5.1倍に向上できた。炭素変換効率を向上させることは、副反応によって生成する排気タールの生成速度の低減および炉材の浸炭速度の低減に大きく寄与する。
【0174】
(実験例9:タール生成速度および炉材浸炭速度の比較)
図2に示すようなバッチ式成長炉内で成長工程を長時間行い、排気中に生成されるタールの生成速度と炉材の浸炭速度を測定した。この装置の構成は
図1の装置と同じ構成とし、炉内の排気側にタール収集用円筒114(SUS製φ50mm×長さ33mm)を設置し、触媒基材を設置する位置に炉材サンプル(縦44mm×横36mm×厚み0.25mmの母材SUS310Sに溶融アルミめっき処理を施したもの)を設置した。成長工程の条件は、ガス流量を2000sccmで統一した以外は実験例1,8と同様の条件とした。各条件でのタール生成速度および炉材サンプルの浸炭速度を表24に示す。
【0175】
【表24】
【0176】
原料ガスにアセチレンとCPEを併用した実施例8−1〜8−4では、エチレンの場合(比較例1)と比較して、タール生成速度を約1/2、浸炭速度を約1/4に低減できることが示された。
【0177】
(実験例10)
図3に示すようなバッチ式成長炉内でフォーメーション工程と成長工程とを順次行うことでCNTを製造した。前述の触媒基材を縦40mm×横120mmの大きさに切り出したものを触媒基材として用い、フォーメーション工程、成長工程を順次行なって基材表面にCNTを製造した。各工程における条件は、成長工程におけるガス流量を2000sccmにする以外は、実施例8−2と同じとした。
【0178】
上記条件で得られたCNTの特性を評価した。結果を表25に示す。
【表25】
【0179】
この実施例9は、実施例8−2と比較して収量、比表面積はほぼ同等であり、炭素変換効率を約6倍に向上できることが示された。
【0180】
(実験例11)
図4に示すような連続式成長炉内で、フォーメーション工程と成長工程を含む工程を連続的に行なうことでCNT配向集合体を製造した。前述の触媒基材をそのまま(縦500mm×横500mm)製造装置のメッシュベルト上に載置し、メッシュベルトの搬送速度を変更しながら基材上にCNT配向集合体を製造した。製造装置の各部の条件は以下のように設定した。
【0181】
【表26】
【0182】
還元ガス噴射部2B及び原料ガス噴射部3Bで噴射するガス量は、炉の体積に比例させてCNT配向集合体の製造に好適なガス量に設定した。また、フォーメーション炉2Aと成長炉3Aのガスの相互混入を強く防止するため、3つのガス混入防止手段11、12、13の中でガス混入防止手段12のシールガス量及び排気量は最も多く設定した。
【0183】
上記条件によって、500mm×500mmの大型基材上に実験例10とほぼ同等のCNTが均一に製造できることが確認できた。また、長時間連続製造時におけるメンテナンス頻度が従来(原料ガスとしてエチレンを用いた場合)の約1/2程度に低減された(実施例10)。
【0184】
次に、金属性CNTの含有量を多いCNTの製造に関する実験例12,13を示す。
【0185】
(実験例12)
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表27のように変更してCNTを製造した。表27に記載しない諸条件は実験例1と同様とした。
【0186】
【表27】
【0187】
各条件において、炭素濃度を一定(3.0%)とし、原料ガスのCPEとC
2H
2の濃度比([A’]/[B’])を表27に示す通りに変えて製造を行った。また、各条件において、原料ガスに添加する水素H
2の濃度は、CPEが熱分解することによって発生する水素と合計して1%となるように変更し、触媒賦活物質H
2Oの濃度は0.010%で一定とした。
【0188】
触媒基材を設置する位置を変更することで原料ガス加熱時間を調整した。まず始めに、触媒基材を設置しないで成長工程を実施し、基材設置位置近傍のガスを約200sccm吸引サンプリングしてガス分析を実施した。分析結果を表28に示す。
【0189】
【表28】
【0190】
表28以外の成分として、アセチレン類としてはフェニルアセチレンが、シクロペンタジエン類としてはメチルシクロペンタジエンが、それぞれ極微量(10ppm以下)検出された。また、その他成分として、水素、エチレン、アセトン、シクロペンテンなどが検出された。成長工程中において、原料ガスとして導入したシクロペンテンの約40〜90%がシクロペンタジエンに変換し、導入したアセチレンの90%以上がそのままアセチレンとして、触媒に接触していることが判明した。
【0191】
各条件で製造されたCNTのラマンスペクトルを
図8〜11の各(A)に、デコンボリューション解析後のスペクトルを
図8〜11の(B)に示す。各ピークの波数と強度、比表面積、蛍光X線測定による純度、および中心直径サイズを表29に示す。
【0192】
【表29】
【0193】
全ての実験例において、金属性CNT由来のG−バンドのピークが2つ(1520cm
-1付近と1550cm
-1付近)検出され、0.3≦[A]/[B]≦1000を満たす全実施例では、金属性CNT由来のG−バンドのピーク強度の合計が0.6以上となることが確認できた。また、RMBの最大ピークは230cm
-1付近であり、200〜270cm
-1の範囲にあることが確認できた。
【0194】
また、実施例11−4で製造したCNTの直径分布ヒストグラムを
図12に示す。平均直径は3.2nmとなり、直径1nm付近と直径4nm付近にそれぞれピークが現れる2コブ型の分布となった。中心直径サイズは、1.5nmと3.5nmである。実施例11−1,11−2,11−3でも同様であった。
【0195】
ラマンスペクトルにおける、(1)金属性CNT由来のG−バンドピークが複数あり、かつ、強度が強いこと、(2)230cm
-1付近のRBMピークは直径約1nmの金属性CNT由来であること、以上2点の特徴と、CNT直径分布として直径1nm付近にピークが見られることは、実施例のCNTが直径約1nmの金属性CNTを多く含むことを矛盾なく示している。また、実施例のCNTは直径3〜5nmのCNTも多く含んでいるためにCNT同士のバンドル化が防止され、高い比表面積を保つことが可能になっていると推察される。
【0196】
(実験例13)
【0197】
上記の実施例2−2,2−3の条件で製造されたCNTのラマンスペクトルを
図13,14の各(A)に、デコンボリューション解析後のスペクトルを
図13,14の(B)に示す。各ピークの波数と強度、比表面積、蛍光X線測定による純度、および中心直径サイズを表30に示す。
【0198】
【表30】
【0199】
[A]/[B]を約0.6とし、炭素濃度を6%、9%と増やしても、金属性CNT由来のG−バンドのピークが2つ(1520cm
-1付近と1550cm
-1付近)検出され、これらのピーク強度の合計が0.6以上となることが確認できた。また、RMBの最大ピークは230cm
-1付近であり、200〜270cm
-1の範囲にあることが確認できた。