(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
過酸化水素水溶液を、第1のH形強カチオン交換樹脂、塩形強アニオン交換樹脂、および第2のH形強カチオン交換樹脂に順次接触させて、該過酸化水素水溶液を精製する方法であって、
該第1のH形強カチオン交換樹脂および
該第2のH形強カチオン交換樹脂が、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であり、
該塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なく
とも過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化1】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋
共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋
共重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化2】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋
共重合体をアミン化合物と反応させる工程
請求項1において、前記第1のH形強カチオン交換樹脂、前記塩形強アニオン交換樹脂、および前記第2のH形強カチオン交換樹脂のうちの少なくとも一つがゲル型樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
第1のH形強カチオン交換樹脂塔、塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のH形強カチオン交換樹脂塔と、過酸化水素水溶液を該第1のH形強カチオン交換樹脂塔、該塩形強アニオン交換樹脂塔、および該第2のH形強カチオン交換樹脂塔に順次通水する手段とを有する過酸化水素水溶液の精製装置であって、
該第1のH形強カチオン交換樹脂塔および
該第2のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂が、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であり、
該塩形強アニオン交換樹脂塔に充填された塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なく
とも過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化3】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋
共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋
共重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化4】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋
共重合体をアミン化合物と反応させる工程
請求項3において、前記第1のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂、前記塩形強アニオン交換樹脂塔に充填された塩形強アニオン交換樹脂、および前記第2のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂のうちの少なくとも一つがゲル型樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近の高機能ウェーハや高機能半導体の製造工程においては、洗浄液中の有機物に起因する歩留まり低下が不定期に起きる問題が顕在化している。
本発明者らが種々検討した結果、この問題は洗浄液中の過酸化水素水溶液中のTOC濃度が管理濃度以下であるものの製造Lot毎でばらつくこと、このばらつきは過酸化水素水溶液の精製処理の不安定性に起因することを突き止めた。
即ち、従来法では、イオン交換樹脂の過酸化水素に対する耐酸化性について十分な検討がなされておらず、過酸化水素による酸化劣化でイオン交換樹脂から溶出したTOCにより、得られる精製過酸化水素水溶液中のTOC濃度がばらつく問題がある。この問題は、イオン交換樹脂塔の後段でRO膜処理を行うことで、ある程度軽減されるが、イオン交換樹脂からのTOCの溶出自体を防止することはできず、根本的な解決策とは言えない。
【0011】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、過酸化水素水溶液を、より耐酸化性に優れた低溶出性のイオン交換樹脂を用いて安定にかつ高純度に精製する精製方法と精製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、過酸化水素水溶液を第1のH形強カチオン交換樹脂塔、塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のH形強カチオン交換樹脂塔に順次通水して精製するに当たり、少なくとも第2のH形強カチオン交換樹脂塔に特定のH形強カチオン交換樹脂を用いることにより、イオン交換樹脂からのTOCの溶出を抑えて安定にかつ高純度に精製することができることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 過酸化水素水溶液を、第1のH形強カチオン交換樹脂、塩形強アニオン交換樹脂、および第2のH形強カチオン交換樹脂に順次接触させて、該過酸化水素水溶液を精製する方法であって、該第2のH形強カチオン交換樹脂が、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0015】
[2] [1]において、前記第1のH形強カチオン交換樹脂が、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0016】
[3] [1]または[2]において、前記塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【0017】
【化1】
【0018】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【0019】
【化2】
【0020】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋重合体をアミン化合物と反応させる工程
【0021】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記第1のH形強カチオン交換樹脂、前記塩形強アニオン交換樹脂、および前記第2のH形強カチオン交換樹脂のうちの少なくとも一つがゲル型樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【0022】
[5] 第1のH形強カチオン交換樹脂塔、塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のH形強カチオン交換樹脂塔と、過酸化水素水溶液を該第1のH形強カチオン交換樹脂塔、該塩形強アニオン交換樹脂塔、および該第2のH形強カチオン交換樹脂塔に順次通水する手段とを有する過酸化水素水溶液の精製装置であって、該第2のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂が、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0023】
[6] [5]において、前記第1のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂が、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0024】
[7] [5]または[6]において、前記塩形強アニオン交換樹脂塔に充填された塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【0025】
【化3】
【0026】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【0027】
【化4】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋重合体をアミン化合物と反応させる工程
【0028】
[8] [5]ないし[7]のいずれかにおいて、前記第1のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂、前記塩形強アニオン交換樹脂塔に充填された塩形強アニオン交換樹脂、および前記第2のH形強カチオン交換樹脂塔に充填されたH形強カチオン交換樹脂のうちの少なくとも一つがゲル型樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、精製処理に用いるイオン交換樹脂からのTOCの溶出を抑えて、金属のみならずTOCの要求が厳しい高純度の過酸化水素水溶液をLotによらず、安定かつ確実に製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図面を参照して本発明の過酸化水素水溶液の精製方法および精製装置について詳細に説明する。なお、以下の記載は本発明の実施形態の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載に限定されるものではない。
【0032】
図1,2は、本発明の過酸化水素水溶液の精製装置の実施の形態を示す系統図である。
【0033】
図1の過酸化水素水溶液の精製装置は、未精製過酸化水素水溶液を第1のH形強カチオン交換樹脂塔(以下「第1H塔」と称す場合がある。)1、塩形強アニオン交換樹脂塔(以下「OH塔」と称す場合がある。)2、第2のH形強カチオン交換樹脂塔(以下「第2H塔」と称す場合がある)3の順で通水して精製過酸化水素水溶液を得るものである。
図2に示す過酸化水素水溶液の精製装置は、
図1の精製装置における塩形強アニオン交換樹脂塔として、第1の塩形強アニオン交換樹脂塔(以下「第1OH塔」と称す場合がある。)2Aと第2の塩形強アニオン交換樹脂塔(以下「第2OH塔」と称す場合がある。)2Bとを直列2段に配置したものである。
【0034】
即ち、本発明において、各イオン交換樹脂塔は、1段に設けられるものに限らず、2段以上の多段に設けられていてもよい。
また、本発明は、過酸化水素水溶液を第1のH形強カチオン交換樹脂、塩形強アニオン交換樹脂、および第2のH形強カチオン交換樹脂の順で接触させて処理するものであればよく、各イオン交換樹脂は異なる塔に充填されている形態に限定されず、2以上のイオン交換樹脂が同一の塔内に通水性の仕切板を介して積層されていてもよい。
【0035】
本発明は、このように、過酸化水素水溶液を、第1H塔1、OH塔2(あるいは第1OH塔2Aおよび第2OH塔2B)、第2H塔3に順次通水して精製するに当たり、第2H塔3に充填する第2のH形強カチオン交換樹脂として、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂(以下「低架橋樹脂」と称す場合がある。)、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂(以下「高架橋樹脂」と称す場合がある。)、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂(以下「(a)〜(b)樹脂」と称す場合がある。)を用いることを特徴とするものであり、好ましくは、第1H塔1に充填する第1のH形強カチオン交換樹脂として、架橋度9%以上の高架橋樹脂、または(a)〜(b)樹脂を用い、OH塔(第1OH塔2Aおよび/または第2OH塔2B)2に充填する塩形強アニオン交換樹脂として、好ましくは下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂(以下「(c)〜(g)樹脂」と称す場合がある)を用いるものである。
【0036】
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0037】
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【0039】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【0041】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋重合体をアミン化合物と反応させる工程
【0042】
また、本発明において用いる第1のH形強カチオン交換樹脂、塩形強アニオン交換樹脂および第2のH形強カチオン交換樹脂は、ゲル型樹脂であることが好ましい。
即ち、イオン交換樹脂には、ゲル型とポーラス型とがあるが、ゲル型の方がポーラス型よりも表面積が小さく、過酸化水素水溶液の精製において過酸化水素に対する耐酸化性が高く、より精製純度および精製安定性を上げることができ、好ましい。
【0043】
なお、本発明における「架橋度」とは、イオン交換樹脂の製造に用いるモノビニル芳香族モノマーと架橋剤である架橋性芳香族モノマーの重量の合計に対する架橋性芳香族モノマーの重量割合を意味し、当該分野において使われている定義と同様である。即ち、架橋性芳香族モノマーの使用量が多い程、樹脂の鎖状構造が架橋されて網目構造部分の多い密な樹脂となり、架橋性芳香族モノマーの使用量が少ないと網目の大きい樹脂が得られる。
市販のイオン交換樹脂の架橋度は4〜20%程度であり、通常の水処理には、イオンを除去しやすい領域である架橋度8%程度の樹脂が標準架橋樹脂として使用されている。このため、前掲の特許文献2でも架橋度6〜10、好ましくは7〜9とされている。
【0044】
本発明による精製処理では、第1のH形強カチオン交換樹脂による処理で、過酸化水素水溶液中のカチオン性の金属イオン不純物が除去され、次いで塩形強アニオン交換樹脂による処理で、アニオン性の金属不純物や塩素イオン、硫酸イオンが除去され、更に、第2のH形強カチオン交換樹脂による処理で、前段の塩形強アニオン交換樹脂中に不純物として含まれる微量のNa
+、K
+、Al
3+などの金属イオン不純物などを高度に除去することができる。
【0045】
<高架橋樹脂>
本発明における第1H塔1の第1のH形強カチオン交換樹脂および/または第2H塔3の第2のH形強カチオン交換樹脂に用いられる高架橋樹脂は、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂であり、好ましくは架橋度9%以上のゲル型H形強カチオン交換樹脂である。
【0046】
架橋度9%以上の高架橋樹脂は、過酸化水素に対する耐酸化性に優れ、低溶出性の樹脂であるため、これを例えば第1H塔1に用いることにより、溶出物による後段のOH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)の負荷を低減して精製処理を安定化させることができる。
従って、第1H塔1には、このような高架橋樹脂を充填することが好ましい。また、第2H塔3に高架橋樹脂を用いた場合は、この後段の塔でも高い耐酸化性を得ることができる。
【0047】
本発明で用いる高架橋樹脂の架橋度は9%以上、好ましくは9%を超え、耐酸化性と処理効率のバランスから、より好ましくは10〜20%、特に好ましくは11〜16%である。架橋度が12%以上であれば、特に耐酸化性、耐溶出性に優れる。
【0048】
<低架橋樹脂>
本発明における第2H塔3に用いられる低架橋樹脂は、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂であり、好ましくは架橋度6%以下のゲル型H形強カチオン交換樹脂である。
【0049】
架橋度6%以下の低架橋樹脂は、標準架橋樹脂よりも除去効率、洗浄効率が高く、前段のOH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)から溶出するTOC(アミン等)を効率的に除去することができるため、第2H塔3に充填するH形強カチオン交換樹脂として適している。
【0050】
低架橋樹脂の架橋度は6%以下、好ましくは6%未満、例えば5%以下であり、その下限については、前述の通り、市販のイオン交換樹脂の架橋度の下限が4%程度であることにより、通常4%程度である。
【0051】
この低架橋樹脂は、下記(A)の超純水通水試験におけるΔTOCが20μg/L以下であることが好ましい。
【0052】
(A)超純水通水試験
(1) 空の測定カラム単体に、測定対象の低架橋樹脂量に対して50hr
−1の空間速度(Space Velocity;SV)で超純水を通水し、通水1時間後の該測定カラム単体出口水のTOC濃度(TOC
0)を分析する。
(2) 上記(1)の測定カラムに、測定対象の低架橋樹脂を充填後、該低架橋樹脂を充填した測定カラムに、該低架橋樹脂量に対して50hr
−1のSVで超純水を通水し、通水1時間後の該測定カラム出口水のTOC濃度(TOC
1)を分析する。
(3) 上記(1),(2)の分析結果から、下記式でΔTOCを算出する。
ΔTOC=TOC
1−TOC
0
【0053】
上記の(A)超純水通水試験で使用する超純水の水質は、抵抗率;18.0MΩ・cm以上、TOC;2μg/L以下、シリカ;0.1μg/L以下、φ50nm以上微粒子;5個/mL以下、金属;1ng/L以下、アニオン;1ng/L以下である。
【0054】
上記(A)超純水通水試験によるΔTOCが20μg/L以下の低架橋樹脂であれば、樹脂からのTOCの溶出量が少なく、このような低架橋樹脂を後段の第2H塔3に充填して用いることにより、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができる。
【0055】
<(a)〜(b)樹脂>
(a)〜(b)樹脂は、前述の(a)および(b)の工程を経て製造されたものであり、樹脂からのTOCの溶出量が少なく、このような(a)〜(b)樹脂を第1H塔1および/または第2H塔2に充填して用いることにより、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができる。
【0056】
前記(a)の工程で用いるモノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレンなどのアルキル置換スチレン、またはブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはスチレン或いはスチレンを主体とするモノマーである。
【0057】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルトルエンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはジビニルベンゼンである。
【0058】
架橋性芳香族モノマーの使用量は、当該(a)〜(b)樹脂を第1H塔1に用いるか、第2H塔3に用いるかによって異なり、第1H塔1に用いる場合は、前述の高架橋樹脂が得られるように全モノマー重量に対する重量割合で9%以上、特に10〜20%、とりわけ11〜16%とすることがことが好ましい。一方、第2H塔3に用いる場合は、上記の高架橋樹脂となる使用量であるか、前述の低架橋樹脂が得られるように、全モノマー重量に対する重量割合で6%以下、特に4〜6%とすることが好ましい。
【0059】
ただし、(a)〜(b)樹脂の架橋度は、9%以上あるいは6%以下に限定されるものではなく4〜20%の範囲で幅広く設定することができる。
【0060】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどが得られるが、少なくとも、過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用いる。
【0061】
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0062】
共重合反応における重合温度は、70℃以上、250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。
【0063】
前記(b)の工程のスルホン化は常法に従って行うことができる。
【0064】
このようにして得られる(a)〜(b)樹脂は、通常、前述の(A)超純水通水試験によるΔTOCが5μg/L以下の低溶出性のものである。
【0065】
<塩形強アニオン交換樹脂>
OH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)に充填する塩形強アニオン交換樹脂の塩形の種類や塩形への製法については特に制限はなく、塩形としては炭酸塩形、重炭酸塩形、ハロゲン(F、Cl、Br)形、硫酸形等が挙げられるが、好ましくは炭酸塩形、重炭酸塩形であり、また、この塩形強アニオン交換樹脂はゲル型塩形強アニオン交換樹脂であることが好ましい。
【0066】
この塩形強アニオン交換樹脂は、前述の(c)〜(g)樹脂であることが、樹脂からの溶出量が少なく、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができるため、好ましい。
【0067】
前記(c)の工程で用いるモノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレンなどのアルキル置換スチレン、またはブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはスチレン或いはスチレンを主体とするモノマーである。
【0068】
また、架橋性芳香族系モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルトルエンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはジビニルベンゼンである。
【0069】
架橋性芳香族モノマーの使用量は、好適な架橋度の(c)〜(g)樹脂が得られるような割合であればよい。
【0070】
モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合反応は、ラジカル重合開始剤を用いて公知の技術に基づいて行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の1種又は2種以上が用いられ、通常、全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用いられる。
【0071】
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0072】
共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。
【0073】
(d)の工程における前記式(I)で示される溶出性化合物(以下「溶出性化合物(I)」と称す場合がある。)のZのアルキル基は炭素数1〜8のアルキル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0074】
(e)の工程のハロアルキル化に供する架橋共重合体中の前記溶出性化合物(I)の含有量が、過酸化水素水溶液1gに対して400μgより多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないアニオン交換樹脂を得ることができない。該溶出性化合物(I)の含有量は少ない程好ましく、好ましくは過酸化水素水溶液1gに対して30μg以下、より好ましくは200μg以下であるが、通常その下限は50μg程度である。
【0075】
(d)工程は、特に、(c)工程における重合条件を調整することにより、(c)工程と同時に行われる。例えば、(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整することにより、重合の完結度を高めて、溶出性化合物(I)が低減された架橋共重合体を得ることができる。また、架橋性芳香族モノマー、例えば、ジビニルベンゼン中には、ジエチルベンゼン等の非重合性の不純物が存在し、これが溶出性化合物(I)の生成の原因となることから、重合に用いる架橋性芳香族モノマーとして、当該架橋性芳香族モノマー含有量(純度)が57重量%以上というような、特定のグレードを選択して使用することで溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得ることができる。
【0076】
架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)は、特に好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量は、モノマー重量当り通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。この不純物含有量が多すぎると、重合時に不純物に対する連鎖移動反応を起こしやすくなるため、重合終了後のポリマー中に残存する溶出性オリゴマー(ポリスチレン)の量が増加することがあり、溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得ることができない。
【0077】
また、重合後、得られた架橋共重合体を洗浄することによって溶出性化合物(I)を除去して、溶出性化合物含有量が低減された架橋共重合体を得ることもできる。
【0078】
(e)の架橋共重合体をハロアルキル化する工程は、(d)工程で得られた架橋共重合体を、膨潤状態で、フリーデル・クラフツ反応触媒の存在下、ハロアルキル化剤を反応させてハロアルキル化する工程である。
【0079】
架橋共重合体を膨潤させるには、膨潤溶媒、例えばジクロロエタンを使用することができるが、十分にハロメチル化を進行させるために、ハロアルキル化剤のみにより膨潤させるのが好ましい。
【0080】
フリーデル・クラフツ反応触媒としては、塩化亜鉛、塩化鉄(III)、塩化スズ(IV)、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0081】
ハロアルキル化剤を反応試薬としてだけではなく共重合体の膨潤溶媒として作用させるには、共重合体との親和性が高いものを用いることが好ましく、例えば、クロロメチルメチルエーテル、塩化メチレン、ビス(クロロメチル)エーテル、ポリ塩化ビニル、ビス(クロロメチル)ベンゼン等のハロゲン化合物が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良いが、より好ましいのはクロロメチルメチルエーテルである。即ち、本発明におけるハロアルキル化とは、好ましくはクロロメチル化である。
【0082】
(e)工程におけるハロアルキル基導入率は、モノビニル芳香族モノマーが100モル%ハロアルキル化されたと仮定したときの理論上のハロゲン含有率に対して80%以下、好ましくは75%以下、更に好ましくは70%以下とすることが好ましい。このハロアルキル基導入率(モノビニル芳香族モノマーが100モル%ハロアルキル化されたと仮定したときの理論上のハロゲン含有率に対する導入されたハロゲン原子の割合の百分率)を高くすると、導入時において、架橋共重合体の主鎖が切れたり、過剰に導入されたハロアルキル基が、導入後に遊離して不純物の原因となるが、このようにハロアルキル基導入率を制限することにより、不純物の生成を抑制して溶出物の少ないアニオン交換樹脂を得ることができる。
【0083】
このように、ハロアルキル基の導入量を抑えることにより、ハロアルキル化工程での副反応も低減するので、溶出性のオリゴマーも発生しにくくなる。また、発生する副生物も、従来処方と比べて後工程で洗浄除去されにくい物質が少なくなる。その結果、溶出物量が著しく少ないアニオン交換樹脂を得ることができる。
【0084】
具体的なハロアルキル基導入方法については以下の通りである。
ハロアルキル化剤の使用量は、架橋共重合体の架橋度、その他の条件により広い範囲から選ばれるが、少なくとも架橋共重合体を十分に膨潤させる量が好ましく、架橋共重合体に対して、通常1重量倍以上、好ましくは2重量倍以上であり、通常50重量倍以下、好ましくは20重量倍以下である。
【0085】
また、フリーデル・クラフツ反応触媒の使用量は通常架橋共重合体の重量に対して0.001〜7倍量、好ましくは0.1〜0.7倍量、更に好ましくは0.1〜0.7倍量である。
【0086】
架橋共重合体へのハロアルキル基導入率を80%以下とするための手段としては、反応温度を低くする、活性の低い触媒を用いる、触媒添加量を少なくする等の手段が挙げられる。即ち、架橋共重合体とハロアルキル化剤との反応に影響を与える主因子としては、反応温度、フリーデル・クラフツ反応触媒の活性(種類)およびその添加量、ハロアルキル化剤添加量等が挙げられるため、これらの条件を調整することによりハロアルキル基導入率を制御することができる。
【0087】
反応温度は、用いるフリーデル・クラフツ反応触媒の種類によっても異なるが、通常0〜55℃である。好ましい反応温度の範囲は、使用するハロアルキル化剤、フリーデル・クラフツ反応触媒によって異なるが、例えばハロアルキル化剤にクロロメチルメチルエーテルを用い、フリーデル・クラフツ反応触媒に塩化亜鉛を用いた場合には、通常30℃以上、好ましくは35℃以上であり、通常50℃以下、好ましくは45℃以下である。この際、反応時間等を適宜選択することにより、過度のハロアルキル基導入を抑制することができる。
【0088】
なお、ハロアルキル基導入反応では、後架橋反応も同時に進行しており、後架橋反応により最終製品の強度を確保する意味もあるので、ハロアルキル基導入反応の時間はある程度確保するほうがよい。ハロアルキル化の反応時間は好ましくは30分以上、更に好ましくは3時間以上、更に好ましくは5時間以上である。また好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下、さらに好ましくは9時間以下である。
【0089】
前記(f)の工程は、ハロアルキル化された架橋共重合体(ハロアルキル化架橋共重合体)を前述の特定の溶媒で洗浄することにより、前記(II)で示される溶出性化合物(以下「溶出性化合物(II)」と称す場合がある。)を除去する処理を行って、ハロアルキル化架橋共重合体1gに対して、前記溶出性化合物(II)の含有量が好ましくは400μg以下、より好ましくは100μg以下、特に好ましくは50μg以下、とりわけ好ましくは30μg以下となるように、ハロアルキル化架橋共重合体を精製する工程である。この溶出性化合物(II)含有量が多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないアニオン交換樹脂を得ることができない。溶出性化合物(II)の含有量は少ない程好ましいが、通常その下限は30μg程度である。
【0090】
前記式(II)において、Xのハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基は、通常炭素数1〜10のアルキル基又はハロアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ハロメチル基、ハロエチル基、ハロプロピル基、ハロブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、ハロメチル基、ハロエチル基である。
また、nは通常1以上であり、通常8以下、好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下である。
【0091】
前述の溶媒による洗浄方法は、ハロアルキル化架橋共重合体をカラムに詰めて溶媒を通水するカラム方式か、或いはバッチ洗浄法で行うことができる。
洗浄温度は、通常室温(20℃)以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、特に好ましくは90℃以上、また通常150℃以下、好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。洗浄温度が高すぎると重合体の分解やハロアルキル基脱落を併発する。洗浄温度が低すぎると洗浄効率が低下する。
溶媒との接触時間は、通常5分以上、好ましくは架橋共重合体が80%以上膨潤する時間以上であり、通常4時間以下である。この接触時間が短すぎると洗浄効率が低下し、時間が長すぎると生産性が低下する。
【0092】
前記(g)の工程は、上記のようにして溶出性化合物(II)が除去されたハロアルキル化架橋共重合体にアミン化合物を反応させることにより、アミノ基を導入してアニオン交換樹脂を製造する工程であり、アミノ基の導入は公知の技術で容易に実施することができる。
例えば、ハロアルキル化架橋共重合体を溶媒中に懸濁し、トリメチルアミンやジメチルエタノールアミンと反応させる方法が挙げられる。
【0093】
この導入反応の際に用いられる溶媒としては、例えば水、トルエン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジクロロエタン等が単独で、あるいは混合して用いられる。
【0094】
その後は公知の方法によって塩形を各種の形に変えることによって、OH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)に充填する塩形強アニオン交換樹脂を得ることができる。
【0095】
このようにして得られる(c)〜(g)樹脂を塩形にした塩形強アニオン交換樹脂は、通常、前述の(A)超純水通水試験によるΔTOCが20μg/L以下の低溶出性のものである。
【0096】
<樹脂塔構成例>
本発明による過酸化水素水溶液の精製処理の具体例としては、例えば以下の樹脂塔構成例が挙げられる。
構成例1:高架橋樹脂塔→塩形強アニオン交換樹脂塔→低架橋樹脂塔で順次処理する方法
構成例2:高架橋樹脂塔→塩形強アニオン交換樹脂塔→高架橋樹脂塔で順次処理する方法
【0097】
前述の通り、前段の第1H塔1に、耐酸化性に優れた高架橋樹脂を充填することにより、第1H塔1からの溶出量を低減して、後段のOH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)の負荷を軽減することができる。
後段の第2H塔3に低架橋樹脂を用いる構成例1であれば、後段の第2H塔3において、前段のOH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)の塩形強アニオン交換樹脂から溶出するTOC(アミン等)をこの第2H塔3において、効率的に除去すると共に、更に効率的に洗浄して再生することができる。
後段の第2H塔3に高架橋樹脂を用いる構成例2であれば、この第2H塔3においても耐酸化性を十分に高いものとして溶出量を低減することができる。
【0098】
上記構成例1,2のいずれであっても、塩形強アニオン交換樹脂とH形強カチオン交換樹脂により過酸化水素水溶液中の金属イオン等の不純物を高度にイオン交換除去した上で、樹脂からのTOCの溶出を防止して、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができる。
【0099】
なお、樹脂塔への樹脂充填量や通水条件には特に制限はなく、精製前過酸化水素水溶液の不純物濃度に応じて、塩形強アニオン交換樹脂とH形強カチオン交換樹脂の充填量(容量比)や空間速度(SV)をバランスよく設計する。
【0100】
<過酸化水素水溶液>
本発明における精製対象とする過酸化水素水溶液としては、前述のアントラキノン自動酸化法や、水素と酸素を直接反応させる直接合成法など、公知の製造法によって製造された工業用過酸化水素水溶液が挙げられる。この過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は70重量%以下であれば特に制限されない。なお、工業用過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は、工業用規格として、日本では35重量%、45重量%、60重量%と定められている。
この工業用過酸化水素水溶液は、RO膜処理した後、本発明に従って、第1H塔1、OH塔2(第1OH塔2A,第2OH塔2B)、第2H塔3で順次処理することが好ましい。
【実施例】
【0101】
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0102】
以下の実施例および比較例では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の第1H塔1とOH塔2と第2H塔3からなる
図1の過酸化水素水溶液の精製装置を用いて、35重量%工業用過酸化水素水溶液をRO膜処理したものを、クラス1000(アメリカ連邦規格 Fed. Std. 209Dとして、JIS規格 JIS B 9920 ISO規格 ISO 14644−1ではクラス6相当)のクリーンルーム内で精製した。
【0103】
カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂としては、下記表1A,1Bに示すものを用いた。
なお、カチオン交換樹脂の表1AにおけるΔTOCは、当該カチオン交換樹脂を樹脂塔に充填する前に、前述の(A)超純水通水試験に供し、オンラインTOC計((株)ハック・ウルトラ製 Anatel A1000)で測定したTOC濃度から求めたΔTOCの値である。
また、アニオン交換樹脂については、それぞれ塩形を重炭酸塩形として用いた。
【0104】
【表1】
【0105】
[実施例1〜8、比較例1〜4]
第1H塔1、OH塔2および第2H塔3に充填するイオン交換樹脂として、それぞれ表2に示すものを用い、第1H塔1、OH塔2、第2H塔3のイオン交換樹脂充填量が容積比で2:1:4となるようにそれぞれ充填し、第2H塔3に充填したゲル型H形強カチオン交換樹脂量に対して、空間速度(Spece Velocity;SV)が5hr
−1になるよう前述のRO膜処理過酸化水素水溶液を通水して、精製過酸化水素水溶液をサンプリングした。
【0106】
精製過酸化水素水溶液中のTOC濃度(Total Organic Carbon;全有機炭素)はオフラインTOC計(島津製作所(株)製 TOC−V CPH)で、金属濃度は誘導結合プラズマ質量分析計(Inductivity Coipled Plasma;ICP−MS、アジレント・テクノロジー(株)製 Agilent 7500cs)で測定した。
【0107】
実施例1〜4と比較例1、2の精製過酸化水素水溶液のTOC濃度と金属濃度の比較を表3A,3Bに示す。表3Aは通水2時間後の精製過酸化水素水溶液のTOC濃度と金属濃度の比較、表3Bは通水4時間後の精製過酸化水素水溶液のTOC濃度と金属濃度の比較である。
また、実施例5〜8と比較例3,4の精製過酸化水素水溶液のTOC濃度と金属濃度の比較を表4A,4Bに示す。表4Aは通水2時間後の精製過酸化水素水溶液のTOC濃度と金属濃度の比較、表4Bは通水4時間後の精製過酸化水素水溶液のTOC濃度と金属濃度の比較である。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
表3(表3A,3B)より、架橋度が6%以下のゲル型H形強カチオン交換樹脂、または(a)〜(b)樹脂であるゲル型H形強カチオン交換樹脂、または架橋度が9%以上のゲル型塩形強アニオン交換樹脂を第2H塔に充填して過酸化水素水溶液の精製を行うことにより、精製初期から精製過酸化水素水溶液の不純物濃度を安定して低レベルに抑えることができることが分かる。また、表4(表4A,4B)より、更に、(c)〜(g)樹脂であるゲル型塩形強アニオン交換樹脂をOH塔に充填して処理することで、より不純物濃度を安定させることができることが分かる。
【0112】
このように、本発明によれば、過酸化水素水溶液の精製に用いるイオン交換樹脂として、特定のものを用いることで、得られる精製過酸化水素水溶液の品質の安定化を図ることができ、併せて生産性の向上も達成される。