特許第6365624号(P6365624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6365624過酸化水素水溶液の精製方法および精製装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365624
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】過酸化水素水溶液の精製方法および精製装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/013 20060101AFI20180723BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20180723BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20180723BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20180723BHJP
   C08F 12/00 20060101ALI20180723BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C01B15/013
   B01D61/02 500
   B01J39/05
   B01J41/05
   B01J47/02
   B01J39/20
   B01J41/14
   B01D69/02
   C08F12/00
   C08F8/00
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-206085(P2016-206085)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-65726(P2018-65726A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】横井 生憲
(72)【発明者】
【氏名】井出 吉昭
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−507411(JP,A)
【文献】 特開2012−188318(JP,A)
【文献】 特開2002−080207(JP,A)
【文献】 特開平11−180704(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/129984(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/013
B01D 61/02
B01D 69/02
B01J 39/05
B01J 39/20
B01J 41/05
B01J 41/14
B01J 47/02
C08F 8/00
C08F 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素水溶液を逆浸透膜分離処理して精製する方法において、該逆浸透膜分離処理を高圧型逆浸透膜分離装置を用いて行い、該逆浸透膜分離処理の透過水を、さらにイオン交換樹脂に接触させるイオン交換処理を行う過酸化水素水溶液の精製方法であって、
前記イオン交換処理が、前記透過水を、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂に順次接触させる処理であり、
前記ゲル型塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化1】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋共重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化2】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋共重合体をアミン化合物と反応させる工程
【請求項2】
請求項1において、前記イオン交換処理が、前記透過水を、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂、第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂、第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂に順次接触させる処理であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【請求項3】
過酸化水素水溶液を逆浸透膜分離処理して精製する方法において、該逆浸透膜分離処理を高圧型逆浸透膜分離装置を用いて行い、該逆浸透膜分離処理の透過水を、さらにイオン交換樹脂に接触させるイオン交換処理を行う過酸化水素水溶液の精製方法であって、
前記イオン交換処理が、前記透過水を、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂、第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂、第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂に順次接触させる処理であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記高圧型逆浸透膜装置が、有効圧力2.0MPa、温度25℃における純水の透過流束が0.6〜1.3m/m/dayで、NaCl除去率が99.5%以上の特性を有するものであることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であり、
前記第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくとも過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【請求項6】
過酸化水素水溶液を逆浸透膜分離装置に通水して精製する装置において、該逆浸透膜分離装置が高圧型逆浸透膜分離装置であり、
該逆浸透膜分離装置の透過水が通水されるイオン交換装置を有する過酸化水素水溶液の精製装置であって、
前記イオン交換装置は、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔と、前記透過水を該第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、該ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および該第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に順次通水する手段とを有し、
前記ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔に充填されたゲル型塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【化3】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋共重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋共重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【化4】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋共重合体をアミン化合物と反応させる工程
【請求項7】
請求項6において、前記イオン交換装置は、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔と、前記透過水を該第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、該第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、該第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および該第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に順次通水する手段とを有することを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【請求項8】
過酸化水素水溶液を逆浸透膜分離装置に通水して精製する装置において、該逆浸透膜分離装置が高圧型逆浸透膜分離装置であり、
該逆浸透膜分離装置の透過水が通水されるイオン交換装置を有する過酸化水素水溶液の精製装置であって、
前記イオン交換装置は、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔と、前記透過水を該第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、該第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、該第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および該第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に順次通水する手段とを有することを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1項において、前記高圧型逆浸透膜装置が、有効圧力2.0MPa、温度25℃における純水の透過流束が0.6〜1.3m/m/dayで、NaCl除去率が99.5%以上の特性を有するものであることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項において、前記第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に充填されたゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であり、
前記第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に充填されたゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくとも過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素水溶液の精製方法および精製装置に係り、詳しくは、イオン交換処理では除去しにくい過酸化水素水溶液中の全有機炭素(Total Organic Carbon;TOC)とホウ素を効率よく除去する精製方法と精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素水溶液は、一般的にアントラセン誘導体の自動酸化(アントラキノン自動酸化法)により、次のようにして製造されている。
2−エチルアントラヒドロキノンもしくは2−アミルアントラヒドロキノンを溶媒に溶解し、空気中の酸素と混合するとアントラヒドロキノンが酸化されてアントラキノンと過酸化水素が生じる。生成した過酸化水素をイオン交換水を用いて抽出し、アントラキノンと過酸化水素を分離する。得られた抽出液を減圧蒸留することにより30〜60重量%濃度の過酸化水素水溶液を得る。副生成物であるアントラキノンはニッケルまたはパラジウム触媒による水素還元でアントラヒドロキノンに戻され再利用される。
【0003】
減圧蒸留で得られた30〜60重量%の過酸化水素水溶液は必ずしも純度が高いとは限らず、含有する金属不純物で過酸化水素が分解してしまう。そのため、特許文献1では、過酸化水素水溶液に安定剤(過酸化水素分解抑制剤)を添加して、過酸化水素の分解を抑制している。
安定剤としては、リン酸塩、ピロリン酸塩、錫酸塩などの無機キレート剤や、エチレンジアミンテトラメチレンなどのホスホン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸などの有機キレート剤があり、減圧蒸留で得られた30〜60重量%過酸化水素数溶液中にmg/Lオーダーで添加されている。
【0004】
電子部品の製造工程で洗浄薬液等として使用される高純度の過酸化水素水溶液は、このように安定剤が添加された30〜60重量%の過酸化水素水溶液を精製して得られる。
【0005】
電子部品の製造工程で洗浄薬液として使用する場合、過酸化水素水溶液に求められる品質は、金属濃度が10ng/L未満、TOC濃度が10mg/L未満であり、この要求水質を達成するために、安定剤が添加された30〜60重量%の過酸化水素水溶液を、吸着樹脂、イオン交換樹脂、キレート樹脂、更にこれらに逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜などを組み合わせて精製することが行われている(例えば特許文献1,2)。
【0006】
従来、過酸化水素水溶液の精製に逆浸透膜を用いる場合、過酸化水素水溶液は塩類濃度が低いものであるため、逆浸透膜としては、超純水等の製造におけると同様に、標準運転圧力1.47MPaの低圧逆浸透膜や標準運転圧力0.75MPaの超低圧逆浸透膜が用いられている。例えば、特許文献1には、用いる逆浸透膜の操作圧力について0.49〜1.5MPaと記載されている。また、特許文献2には、1.5MPa以下で0.5〜1.0MPaの範囲が好ましいと記載されている。
【0007】
近年では、ウェーハと半導体の製造工程で洗浄に使用する薬液の不純物として、有機物濃度のより一層の低減が求められている。
【0008】
洗浄に使用される超純水中の有機物濃度は全有機炭素(TOC;Total Organic Carbon)として1μg/L以下で管理されているのに対して、薬液の30〜35重量%の過酸化水素水溶液中のTOCは超純水に比べて1000倍以上も高いmg/Lオーダーで管理されているため、過酸化水素水溶液中のTOCが洗浄液中のTOC濃度を高める原因となっている。
【0009】
例えば、主に微粒子除去を目的として用いられるアンモニア水と30〜35重量%の過酸化水素水溶液と超純水を混合したSC1(Standard Clean 1)洗浄液においては、30〜35重量%の過酸化水素水溶液は超純水により容積比として1/3〜1/10程度にしか希釈されないため、洗浄に使用する直前のSC1洗浄液中のTOC濃度は、超純水以外の、過酸化水素水溶液等の薬液からの持ち込みで量で決定される。
【0010】
また、主に金属除去を目的として用いられる塩酸と30〜35重量%の過酸化水素水溶液と超純水を混合したSC2(Standard Clean 2)洗浄液においても、30〜35重量%の過酸化水素水溶液は超純水により容積比として1/5〜1/10程度にしか希釈されないため、洗浄に使用する直前のSC2洗浄液中のTOC濃度もまた、過酸化水素水溶液等の超純水以外の薬液からの持ち込み量で決定される。
【0011】
なお、本発明において、過酸化水素水溶液の精製に用いる高圧型逆浸透膜分離装置は、従来、海水淡水化プラントに用いられているものであり、塩分濃度の高い海水を逆浸透膜処理するために膜面有効圧力(1次側圧力と2次側圧力との差)を5.52MPa程度の高圧として使用されている。本願出願人は、先のこの海水淡水化用高圧型逆浸透膜分離装置を、超純水製造装置の一次純水システムや、ホウ素含有水の処理に利用することを提案しているが(特許文献3〜5)、従来、高圧型逆浸透膜分離装置を過酸化水素水溶液の精製に用いる提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−139811号公報
【特許文献2】特開2012−188318号公報
【特許文献3】特開2012−245439号公報
【特許文献4】特開2015−20131号公報
【特許文献5】特開2015−196113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
最近の高機能ウェーハや高機能半導体の製造工程においては、洗浄液中の有機物に起因する歩留まり低下が不定期に起きる問題が顕在化している。
本発明者らが種々検討した結果、この問題は洗浄液中の過酸化水素水溶液中のTOC濃度が管理濃度以下であるものの製造Lot毎でばらつくこと、このばらつきは、従来の過酸化水素水溶液のイオン交換処理や、これと逆浸透膜分離処理との組み合わせによる精製処理では、過酸化水素水溶液中のTOCとホウ素を十分に除去し得ないことに起因することを突き止めた。
【0014】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、過酸化水素水溶液中のTOCとホウ素を効率的に除去して安定にかつ高純度に過酸化水素水溶液を精製する精製方法と精製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、過酸化水素水溶液を高圧型逆浸透膜分離装置を用いて処理することにより、過酸化水素水溶液中のTOC及びホウ素を効率的に除去して安定にかつ高純度に精製することができることを見出した。
前述の通り、高圧型逆浸透膜は、従来、海水淡水化に用いられているが、高圧型逆浸透膜は低圧型または超低圧型の逆浸透膜に比べて膜表面に緻密なスキン層があるため、単位操作圧力あたりの膜透過水量は低いものの、TOCとホウ素の除去率は高いものであることから、高圧型逆浸透膜分離装置を用いて過酸化水素水溶液を高度に精製することができる。
【0016】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0017】
[1] 過酸化水素水溶液を逆浸透膜分離処理して精製する方法において、該逆浸透膜分離処理を高圧型逆浸透膜分離装置を用いて行うことを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【0018】
[2] [1]において、前記高圧型逆浸透膜装置が、有効圧力2.0MPa、温度25℃における純水の透過流束が0.6〜1.3m/m/dayで、NaCl除去率が99.5%以上の特性を有するものであることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【0019】
[3] [1]または[2]において、前記逆浸透膜分離処理の透過水を、さらにイオン交換樹脂に接触させるイオン交換処理を行うことを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【0020】
[4] [3]において、前記イオン交換処理が、前記透過水を、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂に順次接触させる処理であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
【0021】
[5] [4]において、前記第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であり、前記第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0022】
[6] [4]または[5]において、前記ゲル型塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製方法。
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【0023】
【化1】
【0024】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【0025】
【化2】
【0026】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋重合体をアミン化合物と反応させる工程
【0027】
[7] 過酸化水素水溶液を逆浸透膜分離装置に通水して精製する装置において、該逆浸透膜分離装置が高圧型逆浸透膜分離装置であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【0028】
[8] [7]において、前記高圧型逆浸透膜装置が、有効圧力2.0MPa、温度25℃における純水の透過流束が0.6〜1.3m/m/dayで、NaCl除去率が99.5%以上の特性を有するものであることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【0029】
[9] [7]または[8]において、前記逆浸透膜分離装置の透過水が通水されるイオン交換装置を有することを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【0030】
[10] [9]において、前記イオン交換装置は、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔と、前記透過水を該第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔、該ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔、および該第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に順次通水する手段とを有することを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
【0031】
[11] [10]において、前記第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に充填されたゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であり、前記第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔に充填されたゲル型H形強カチオン交換樹脂が、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0032】
[12] [10]または[11]において、前記ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔に充填されたゲル型塩形強アニオン交換樹脂が、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂であることを特徴とする過酸化水素水溶液の精製装置。
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【0033】
【化3】
【0034】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【0035】
【化4】
【0036】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋重合体をアミン化合物と反応させる工程
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、高圧型逆浸透膜分離装置を用いて、過酸化水素水溶液中の金属のみならずTOC及びホウ素を高度に除去することができ、要求が厳しい高純度の過酸化水素水溶液をLotによらず、安定かつ確実に製造することが可能になる。
【0038】
本発明によれば、例えば、逆浸透膜分離装置とイオン交換装置を組み合わせて過酸化水素水溶液を精製する場合、高圧型逆浸透膜分離装置による処理を行う。これにより、TOCのみならず金属イオンを高度に除去した高純度の透過水を得ることができ、この透過水を処理するイオン交換装置の負荷を軽減し、装置全体での処理コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の過酸化水素水溶液の精製装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
図2】本発明に好適なイオン交換装置の実施の形態を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、図面を参照して本発明の過酸化水素水溶液の精製方法および精製装置について詳細に説明する。なお、以下の記載は本発明の実施形態の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載に限定されるものではない。
【0041】
図1は、本発明の過酸化水素水溶液の精製装置の実施の形態を示す系統図である。
【0042】
図1の過酸化水素水溶液の精製装置は、未精製過酸化水素水溶液を熱交換器1、精密濾過膜分離装置2及び高圧型逆浸透膜分離装置3に順次通水して精製するものである。
【0043】
熱交換器1は、前述の減圧蒸留等により得られた5〜25℃の未精製過酸化水素水溶液を処理開始前と比較して温度を上昇させないように調整するものである。これにより、過酸化水素の自己分解による逆浸透膜の酸化劣化を抑制することができる。また、精密濾過膜分離装置2は、この過酸化水素水溶液中の微粒子等の不純物を除去するためのものである。
高圧型逆浸透膜分離装置3の詳細については、以下に説明する。
【0044】
本発明では、高圧型逆浸透膜分離装置3の透過水を、さらにゲル型強イオン交換樹脂に接触させるイオン交換処理を2段以上行って処理することが好ましく、このイオン交換処理は、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂に順次接触させる処理であることが好ましい。
このようなイオン交換処理では、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂による処理で、高圧型逆浸透膜透過水中のカチオン性の金属イオン不純物が除去され、次いでゲル型塩形強アニオン交換樹脂による処理で、アニオン性の金属不純物や塩素イオン、硫酸イオンが除去され、更に、第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂による処理で、前段のゲル型塩形強アニオン交換樹脂中に不純物として含まれる微量のNa、K、Al3+などの金属イオン不純物などを高度に除去することができる。
【0045】
[過酸化水素水溶液]
本発明において精製対象とする過酸化水素水溶液としては、前述のアントラキノン自動酸化法や、水素と酸素を直接反応させる直接合成法など、公知の製造法によって製造された工業用過酸化水素水溶液が挙げられる。この過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は70重量%以下であれば特に制限されないが、日本国内においては、工業用過酸化水素水溶液は工業用規格で過酸化水素濃度35重量%、45重量%、60重量%と定められており、通常はそのいずれかの濃度である。
【0046】
この過酸化水素水溶液は、前述の通り、リン酸塩、ピロリン酸塩、錫酸塩などの無機キレート剤や、エチレンジアミンテトラメチレンなどのホスホン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸などの有機キレート剤といった安定剤の1種または2種以上を含んでいてもよく、過酸化水素水溶液中の安定剤は、通常、高圧型逆浸透膜分離装置による処理でその大半が除去される。
【0047】
[高圧型逆浸透膜分離装置]
本発明において、過酸化水素水溶液の逆浸透膜分離処理に用いる高圧型逆浸透膜分離装置は、従来、海水淡水化に用いられている逆浸透膜分離装置であり、高圧逆浸透膜は、従来の過酸化水素水溶液の精製に用いられている低圧または超低圧逆浸透膜に比べて膜表面のスキン層が緻密となっている。そのため、高圧型逆浸透膜は低圧型または超低圧型逆浸透膜に比べて単位操作圧力当たりの膜透過水量は低いものの有機物やホウ素の除去率が高い。
【0048】
この高圧型逆浸透膜分離装置は、上述の通り、単位操作圧力当たりの膜透過水量は低く、本発明においては、有効圧力2.0MPa、温度25℃における純水の透過流束が0.6〜1.3m/m/dayで、NaCl除去率99.5%以上の特性を有するものを好適に用いることができる。ここで、有効圧力とは平均操作圧力から浸透圧差と二次側圧力とを差し引いた膜に働く有効な圧力で、NaCl除去率はNaCl濃度32000mg/LのNaCl水溶液に対する25℃、有効圧力2.0PMaでの除去率である。なお、平均操作圧力は、膜の一次側における膜供給水の圧力(運転圧力)と濃縮水の圧力(濃縮水出口圧力)の平均値で、以下式により表される。
平均操作圧力=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2
【0049】
前述の通り、高圧型逆浸透膜は、低圧または超低圧型逆浸透膜に比べて膜表面のスキン層が緻密となっているため、高圧型逆浸透膜は低圧型または超低圧型逆浸透膜に比べて単位操作圧力当りの膜透過水量は低いもののTOC除去率やホウ素除去率は極端に高い。
【0050】
本発明で用いる高圧型逆浸透膜分離装置は芳香族ポリアミド系の膜であることが好ましく、高圧型逆浸透膜の膜形状は、特に限定されるものではなく、例えばスパイラル型、中空子型等、4インチRO膜、8インチRO膜、16インチRO膜などのいずれでもよい。
【0051】
本発明においては、このような高圧型逆浸透膜分離装置に、過酸化水素水溶液を操作圧力0.5〜3.0MPa、好ましくは1.0MPa以上、水回収率50〜90%で通水して逆浸透膜分離処理することが好ましい。但し、これらの値は、過酸化水素水溶液の塩類濃度等によって変化する。
【0052】
[イオン交換装置]
上記の高圧型逆浸透膜分離装置により過酸化水素水溶液を処理して得られた透過水は、更にイオン交換装置で処理することが好ましい。このイオン交換装置は、ゲル型強イオン交換樹脂を充填した、2塔以上からなるイオン交換装置が好ましく、特に制限はないが、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔の前後にゲル型H形強カチオン交換樹脂塔を設けたイオン交換装置が好ましい。
【0053】
以下に、本発明に好適なイオン交換装置について、図2を参照して説明する。
【0054】
図2(a)に示すイオン交換装置は、高圧逆浸透膜透過水を、第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔(以下「第1H塔」と称す場合がある。)11、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔(以下「OH塔」と称す場合がある。)12、第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔(以下「第2H塔」と称す場合がある)13の順で通水して精製過酸化水素水溶液を得るものである。
図2(b)に示すイオン交換装置は、図2(a)のイオン交換装置における塩形ゲル型強アニオン交換樹脂塔として、第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔(以下「第1OH塔」と称す場合がある。)12Aと第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔(以下「第2OH塔」と称す場合がある。)12Bとを直列2段に配置したものである。
【0055】
即ち、各イオン交換樹脂塔は、1段に設けられるものに限らず、2段以上の多段に設けられていてもよい。
また、高圧逆浸透膜透過水を第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂、および第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂の順で接触させて処理するものであればよく、各イオン交換樹脂は異なる塔に充填されている形態に限定されず、2以上のイオン交換樹脂が同一の塔内に通水性の仕切板を介して積層されていてもよい。
【0056】
このように、高圧逆浸透膜透過水を、第1H塔11、OH塔12(あるいは第1OH塔12Aおよび第2OH塔12B)、第2H塔13に順次通水して精製するに当たり、第1H塔11に充填する第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂として、架橋度9%以上のH形強カチオン交換樹脂(以下「高架橋樹脂」と称す場合がある。)、または、下記(a)および(b)の工程を経て製造されたH形強カチオン交換樹脂(以下「(a)〜(b)樹脂」と称す場合がある。)を用い、第2H塔13に充填する第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂として、架橋度6%以下のH形強カチオン交換樹脂(以下「低架橋樹脂」と称す場合がある。)、架橋度9%以上の高架橋樹脂、または、(a)〜(b)樹脂を用い、OH塔12(第1OH塔12Aおよび/または第2OH塔12B)に充填するゲル型塩形強アニオン交換樹脂として、下記(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の工程を経て製造された塩形強アニオン交換樹脂(以下「(c)〜(g)樹脂」と称す場合がある)を用いることが好ましい。
【0057】
(a)モノビニル芳香族モノマーと、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量が3重量%以下である架橋性芳香族モノマーとを、ラジカル重合開始剤を全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用い、かつ該ラジカル重合開始剤として少なくもと過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用い、重合温度を70℃以上、250℃以下にして共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)該架橋共重合体をスルホン化する工程
【0058】
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(d)(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整し、該架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)を57重量%以上とすることで、化学式(I)で示される溶出性化合物の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して400μg以下とする工程
【0059】
【化5】
【0060】
(式(I)中、Zは水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(e)該溶出性化合物の含有量が架橋重合体1gに対して400μg以下の架橋共重合体を、フリーデル・クラフツ反応触媒を架橋共重合体の重量に対して0.001〜0.7倍量使用することによりハロアルキル化する工程
(f)ハロアルキル化架橋共重合体を、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒により洗浄することにより、ハロアルキル化された架橋重合体から、化学式(II)で示される溶出性化合物を除去する工程
【0061】
【化6】
【0062】
(式(II)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。Yはハロゲン原子を示す。m、nはそれぞれ独立に自然数を示す。)
(g)該溶出性化合物が除去されたハロアルキル化架橋重合体をアミン化合物と反応させる工程
【0063】
イオン交換樹脂として、ゲル型樹脂を用いるのは、以下の理由による。
即ち、イオン交換樹脂には、ゲル型とポーラス型とがあるが、ゲル型の方がポーラス型よりも表面積が小さく、過酸化水素水溶液の精製において過酸化水素に対する耐酸化性が高く、精製純度および精製安定性を上げることができ、好ましい。
【0064】
なお、「架橋度」とは、イオン交換樹脂の製造に用いるモノビニル芳香族モノマーと架橋剤である架橋性芳香族モノマーの重量の合計に対する架橋性芳香族モノマーの重量割合を意味し、当該分野において使われている定義と同様である。即ち、架橋性芳香族モノマーの使用量が多い程、樹脂の鎖状構造が架橋されて網目構造部分の多い密な樹脂となり、架橋性芳香族モノマーの使用量が少ないと網目の大きい樹脂が得られる。
市販のイオン交換樹脂の架橋度は4〜20%程度であり、通常の水処理には、イオンを除去しやすい領域である架橋度8%程度の樹脂が標準架橋樹脂として使用されている。このため、前掲の特許文献2でも用いるイオン交換樹脂の架橋度は6〜10、好ましくは7〜9とされている。
【0065】
<高架橋樹脂>
第1H塔11の第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂および/または第2H塔13の第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂に用いられる架橋度9%以上のゲル型H形強カチオン交換樹脂は、過酸化水素に対する耐酸化性に優れ、低溶出性の樹脂であるため、これを例えば第1H塔11に用いることにより、溶出物による後段のOH塔12(第1OH塔12A,第2OH塔12B)の負荷を低減して精製処理を安定化させることができる。
従って、第1H塔11には、このような高架橋樹脂を充填することが好ましい。
また、第2H塔13に高架橋樹脂を用いた場合は、この後段の塔でも高い耐酸化性を得ることができる。
【0066】
本発明で用いる高架橋樹脂の架橋度は9%以上、好ましくは9%を超え、耐酸化性と処理効率のバランスから、より好ましくは10〜20%、特に好ましくは11〜16%である。架橋度が12%以上であれば、特に耐酸化性、耐溶出性に優れる。
【0067】
<低架橋樹脂>
第2H塔13に用いられる架橋度6%以下のゲル型H形強カチオン交換樹脂は、標準架橋樹脂よりも除去効率、洗浄効率が高く、前段のOH塔12(第1OH塔12A,第2OH塔12B)から溶出するTOC(アミン等)を効率的に除去することができるため、第2H塔13に充填するゲル型H形強カチオン交換樹脂として適している。
【0068】
低架橋樹脂の架橋度は6%以下、好ましくは6%未満、例えば5%以下であり、その下限については、前述の通り、市販のイオン交換樹脂の架橋度の下限が4%程度であることにより、通常4%程度である。
【0069】
この低架橋樹脂は、下記(A)の超純水通水試験におけるΔTOCが20μg/L以下であることが好ましい。
【0070】
(A)超純水通水試験
(1) 空の測定カラム単体に、測定対象の低架橋樹脂量に対して50hr−1の空間速度(Space Velocity;SV)で超純水を通水し、通水1時間後の該測定カラム単体出口水のTOC濃度(TOC)を分析する。
(2) 上記(1)の測定カラムに、測定対象の低架橋樹脂を充填後、該低架橋樹脂を充填した測定カラムに、該低架橋樹脂量に対して50hr−1のSVで超純水を通水し、通水1時間後の該測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を分析する。
(3) 上記(1),(2)の分析結果から、下記式でΔTOCを算出する。
ΔTOC=TOC−TOC
【0071】
上記の(A)超純水通水試験で使用する超純水の水質は、抵抗率;18.0MΩ・cm以上、TOC;2μg/L以下、シリカ;0.1μg/L以下、φ50nm以上微粒子;5個/mL以下、金属;1ng/L以下、アニオン;1ng/L以下である。
【0072】
上記(A)超純水通水試験によるΔTOCが20μg/L以下の低架橋樹脂であれば、樹脂からのTOCの溶出量が少なく、このような低架橋樹脂を後段の第2H塔13に充填して用いることにより、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができる。
【0073】
<(a)〜(b)樹脂>
(a)〜(b)樹脂は、前述の(a)および(b)の工程を経て製造されたものであり、樹脂からのTOCの溶出量が少なく、このような(a)〜(b)樹脂を第1H塔11および/または第2H塔12に充填して用いることにより、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができる。
【0074】
前記(a)の工程で用いるモノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレンなどのアルキル置換スチレン、またはブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはスチレン或いはスチレンを主体とするモノマーである。
【0075】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルトルエンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはジビニルベンゼンである。
【0076】
架橋性芳香族モノマーの使用量は、当該(a)〜(b)樹脂を第1H塔11に用いるか、第2H塔13に用いるかによって異なり、第1H塔11に用いる場合は、前述の高架橋樹脂が得られるように全モノマー重量に対する重量割合で9%以上、特に10〜20%、とりわけ11〜16%とすることがことが好ましい。一方、第2H塔13に用いる場合は、上記の高架橋樹脂となる使用量であるか、前述の低架橋樹脂が得られるように、全モノマー重量に対する重量割合で6%以下、特に4〜6%とすることが好ましい。
【0077】
ただし、(a)〜(b)樹脂の架橋度は、9%以上あるいは6%以下に限定されるものではなく4〜20%の範囲で幅広く設定することができる。
【0078】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどが得られるが、少なくとも、過酸化ベンゾゾイルおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートを用いる。
【0079】
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0080】
共重合反応における重合温度は、70℃以上、250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。
【0081】
前記(b)の工程のスルホン化は常法に従って行うことができる。
【0082】
このようにして得られる(a)〜(b)樹脂は、通常、前述の(A)超純水通水試験によるΔTOCが5μg/L以下の低溶出性のものである。
【0083】
<ゲル型塩形強アニオン交換樹脂>
OH塔12(第1OH塔12A,第2OH塔12B)に充填するゲル型塩形強アニオン交換樹脂の塩形の種類や塩形への製法については特に制限はなく、塩形としては炭酸塩形、重炭酸塩形、ハロゲン(F,Cl,Br)形、硫酸形等が挙げられるが、好ましくは重炭酸塩形、炭酸塩形である。
【0084】
また、このゲル型塩形強アニオン交換樹脂は、前述の(c)〜(g)樹脂であることが、樹脂からの溶出量が少なく、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができるため、好ましい。
【0085】
前記(c)の工程で用いるモノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレンなどのアルキル置換スチレン、またはブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはスチレン或いはスチレンを主体とするモノマーである。
【0086】
また、架橋性芳香族系モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルトルエンなどの1種または2種以上が挙げられるが、好ましくはジビニルベンゼンである。
【0087】
架橋性芳香族モノマーの使用量は、好適な架橋度の(c)〜(g)樹脂が得られるような割合であればよい。
【0088】
モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合反応は、ラジカル重合開始剤を用いて公知の技術に基づいて行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の1種または2種以上が用いられ、通常、全モノマー重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用いられる。
【0089】
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0090】
共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。
【0091】
(d)の工程における前記式(I)で示される溶出性化合物(以下「溶出性化合物(I)」と称す場合がある。)のZのアルキル基は炭素数1〜8のアルキル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0092】
(e)の工程のハロアルキル化に供する架橋共重合体中の前記溶出性化合物(I)の含有量が、過酸化水素水溶液1gに対して400μgより多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないアニオン交換樹脂を得ることができない。該溶出性化合物(I)の含有量は少ない程好ましく、好ましくは過酸化水素水溶液1gに対して30μg以下、より好ましくは200μg以下であるが、通常その下限は50μg程度である。
【0093】
(d)工程は、特に、(c)工程における重合条件を調整することにより、(c)工程と同時に行われる。例えば、(c)工程における重合温度を18℃以上、250℃以下に調整することにより、重合の完結度を高めて、溶出性化合物(I)が低減された架橋共重合体を得ることができる。また、架橋性芳香族モノマー、例えば、ジビニルベンゼン中には、ジエチルベンゼン等の非重合性の不純物が存在し、これが溶出性化合物(I)の生成の原因となることから、重合に用いる架橋性芳香族モノマーとして、当該架橋性芳香族モノマー含有量(純度)が57重量%以上というような、特定のグレードを選択して使用することで溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得ることができる。
【0094】
架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)は、特に好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量は、モノマー重量当り通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。この不純物含有量が多すぎると、重合時に不純物に対する連鎖移動反応を起こしやすくなるため、重合終了後のポリマー中に残存する溶出性オリゴマー(ポリスチレン)の量が増加することがあり、溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得ることができない。
【0095】
また、重合後、得られた架橋共重合体を洗浄することによって溶出性化合物(I)を除去して、溶出性化合物含有量が低減された架橋共重合体を得ることもできる。
【0096】
(e)の架橋共重合体をハロアルキル化する工程は、(d)工程で得られた架橋共重合体を、膨潤状態で、フリーデル・クラフツ反応触媒の存在下、ハロアルキル化剤を反応させてハロアルキル化する工程である。
【0097】
架橋共重合体を膨潤させるには、膨潤溶媒、例えばジクロロエタンを使用することができるが、十分にハロメチル化を進行させるために、ハロアルキル化剤のみにより膨潤させるのが好ましい。
【0098】
フリーデル・クラフツ反応触媒としては、塩化亜鉛、塩化鉄(III)、塩化スズ(IV)、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0099】
ハロアルキル化剤を反応試薬としてだけではなく共重合体の膨潤溶媒として作用させるには、共重合体との親和性が高いものを用いることが好ましく、例えば、クロロメチルメチルエーテル、塩化メチレン、ビス(クロロメチル)エーテル、ポリ塩化ビニル、ビス(クロロメチル)ベンゼン等のハロゲン化合物が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良いが、より好ましいのはクロロメチルメチルエーテルである。即ち、本発明におけるハロアルキル化とは、好ましくはクロロメチル化である。
【0100】
(e)工程におけるハロアルキル基導入率は、モノビニル芳香族モノマーが100モル%ハロアルキル化されたと仮定したときの理論上のハロゲン含有率に対して80%以下、好ましくは75%以下、更に好ましくは70%以下とすることが好ましい。このハロアルキル基導入率(モノビニル芳香族モノマーが100モル%ハロアルキル化されたと仮定したときの理論上のハロゲン含有率に対する導入されたハロゲン原子の割合の百分率)を高くすると、導入時において、架橋共重合体の主鎖が切れたり、過剰に導入されたハロアルキル基が、導入後に遊離して不純物の原因となるが、このようにハロアルキル基導入率を制限することにより、不純物の生成を抑制して溶出物の少ないアニオン交換樹脂を得ることができる。
【0101】
このように、ハロアルキル基の導入量を抑えることにより、ハロアルキル化工程での副反応も低減するので、溶出性のオリゴマーも発生しにくくなる。また、発生する副生物も、従来処方と比べて後工程で洗浄除去されにくい物質が少なくなる。その結果、溶出物量が著しく少ないアニオン交換樹脂を得ることができる。
【0102】
具体的なハロアルキル基導入方法については以下の通りである。
ハロアルキル化剤の使用量は、架橋共重合体の架橋度、その他の条件により広い範囲から選ばれるが、少なくとも架橋共重合体を十分に膨潤させる量が好ましく、架橋共重合体に対して、通常1重量倍以上、好ましくは2重量倍以上であり、通常50重量倍以下、好ましくは20重量倍以下である。
【0103】
また、フリーデル・クラフツ反応触媒の使用量は通常架橋共重合体の重量に対して0.001〜7倍量、好ましくは0.1〜0.7倍量、更に好ましくは0.1〜0.7倍量である。
【0104】
架橋共重合体へのハロアルキル基導入率を80%以下とするための手段としては、反応温度を低くする、活性の低い触媒を用いる、触媒添加量を少なくする等の手段が挙げられる。即ち、架橋共重合体とハロアルキル化剤との反応に影響を与える主因子としては、反応温度、フリーデル・クラフツ反応触媒の活性(種類)およびその添加量、ハロアルキル化剤添加量等が挙げられるため、これらの条件を調整することによりハロアルキル基導入率を制御することができる。
【0105】
反応温度は、用いるフリーデル・クラフツ反応触媒の種類によっても異なるが、通常0〜55℃である。好ましい反応温度の範囲は、使用するハロアルキル化剤、フリーデル・クラフツ反応触媒によって異なるが、例えばハロアルキル化剤にクロロメチルメチルエーテルを用い、フリーデル・クラフツ反応触媒に塩化亜鉛を用いた場合には、通常30℃以上、好ましくは35℃以上であり、通常50℃以下、好ましくは45℃以下である。この際、反応時間等を適宜選択することにより、過度のハロアルキル基導入を抑制することができる。
【0106】
なお、ハロアルキル基導入反応では、後架橋反応も同時に進行しており、後架橋反応により最終製品の強度を確保する意味もあるので、ハロアルキル基導入反応の時間はある程度確保するほうがよい。ハロアルキル化の反応時間は好ましくは30分以上、更に好ましくは3時間以上、更に好ましくは5時間以上である。また好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下、さらに好ましくは9時間以下である。
【0107】
前記(f)の工程は、ハロアルキル化された架橋共重合体(ハロアルキル化架橋共重合体)を前述の特定の溶媒で洗浄することにより、前記(II)で示される溶出性化合物(以下「溶出性化合物(II)」と称す場合がある。)を除去する処理を行って、ハロアルキル化架橋共重合体1gに対して、前記溶出性化合物(II)の含有量が好ましくは400μg以下、より好ましくは100μg以下、特に好ましくは50μg以下、とりわけ好ましくは30μg以下となるように、ハロアルキル化架橋共重合体を精製する工程である。この溶出性化合物(II)含有量が多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないアニオン交換樹脂を得ることができない。溶出性化合物(II)の含有量は少ない程好ましいが、通常その下限は30μg程度である。
【0108】
前記式(II)において、Xのハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基は、通常炭素数1〜10のアルキル基またはハロアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ハロメチル基、ハロエチル基、ハロプロピル基、ハロブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、ハロメチル基、ハロエチル基である。
また、nは通常1以上であり、通常8以下、好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下である。
【0109】
前述の溶媒による洗浄方法は、ハロアルキル化架橋共重合体をカラムに詰めて溶媒を通水するカラム方式か、或いはバッチ洗浄法で行うことができる。
洗浄温度は、通常室温(20℃)以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、特に好ましくは90℃以上、また通常150℃以下、好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。洗浄温度が高すぎると重合体の分解やハロアルキル基脱落を併発する。洗浄温度が低すぎると洗浄効率が低下する。
溶媒との接触時間は、通常5分以上、好ましくは架橋共重合体が80%以上膨潤する時間以上であり、通常4時間以下である。この接触時間が短すぎると洗浄効率が低下し、時間が長すぎると生産性が低下する。
【0110】
前記(g)の工程は、上記のようにして溶出性化合物(II)が除去されたハロアルキル化架橋共重合体にアミン化合物を反応させることにより、アミノ基を導入してアニオン交換樹脂を製造する工程であり、アミノ基の導入は公知の技術で容易に実施することができる。
例えば、ハロアルキル化架橋共重合体を溶媒中に懸濁し、トリメチルアミンやジメチルエタノールアミンと反応させる方法が挙げられる。
【0111】
この導入反応の際に用いられる溶媒としては、例えば水、トルエン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジクロロエタン等が単独で、あるいは混合して用いられる。
【0112】
その後は公知の方法によって塩形を各種の形に変えることによって、OH塔12(第1OH塔12A,第2OH塔12B)に充填するゲル型塩形強アニオン交換樹脂を得ることができる。
【0113】
このようにして得られる(c)〜(g)樹脂を塩形にした塩形強アニオン交換樹脂は、通常、前述の(A)超純水通水試験によるΔTOCが20μg/L以下の低溶出性のものである。
【0114】
<樹脂塔構成例>
イオン交換装置の具体例としては、例えば以下の樹脂塔構成のものが挙げられる。
構成例1:高架橋樹脂塔→ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔→低架橋樹脂塔で順次処理するもの
構成例2:高架橋樹脂塔→ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔→高架橋樹脂塔で順次処理するもの
【0115】
前述の通り、前段の第1H塔11に、耐酸化性に優れた高架橋樹脂を充填することにより、第1H塔11からの溶出量を低減して、後段のOH塔12(第1OH塔12A,第2OH塔12B)の負荷を軽減することができる。
後段の第2H塔13に低架橋樹脂を用いる構成例1であれば、後段の第2H塔13において、前段のOH塔12(第1OH塔12A,第2OH塔12B)のゲル型塩形強アニオン交換樹脂から溶出するTOC(アミン等)をこの第2H塔13において、効率的に除去すると共に、更に効率的に洗浄して再生することができる。
後段の第2H塔13に高架橋樹脂を用いる構成例2であれば、この第2H塔13においても耐酸化性を十分に高いものとして溶出量を低減することができる。
【0116】
上記構成例1,2のいずれであっても、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂とゲル型H形強カチオン交換樹脂により高圧型逆浸透膜透過水中の金属イオン等の不純物を高度にイオン交換除去した上で、樹脂からのTOCの溶出を防止して、高純度過酸化水素水溶液を安定に得ることができる。
【0117】
なお、樹脂塔への樹脂充填量や通水条件には特に制限はなく、精製前過酸化水素水溶液の不純物濃度に応じて、ゲル型塩形強アニオン交換樹脂とゲル型H形強カチオン交換樹脂の充填量(容積比)や空間速度(SV)をバランスよく設計することが好ましい。
【実施例】
【0118】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0119】
以下の実施例および比較例では、TOC約15mg/Lの35重量%工業用過酸化水素水溶液(pH中性)の精製処理を行った。
【0120】
[実施例1]
下記仕様の高圧型逆浸透膜分離装置に工業用過酸化水素水溶液を、水温25℃、操作圧力2.0MPaで通水し、水回収率70%で処理した。なお、ホウ素濃度は100μg/Lに調整した。
【0121】
<高圧型逆浸透膜分離装置>
高圧型逆浸透膜:日東電工(株)製 芳香族ポリアミド系逆浸透膜「SWC4+」
有効圧力2.0MPa、温度25℃における純水透過流束:0.78m/m/day
有効圧力2.0MPa、温度25℃におけるNaCl除去率(NaCl濃度32000mg/L):99.8%
【0122】
高圧型逆浸透膜分離装置の給水(入口水)のTOC濃度と得られた透過水のTOC濃度をオフラインTOC計(島津製作所(株)製 TOC−V CPH)で測定し、結果を表1に示した。
【0123】
[比較例1]
高圧型逆浸透膜の代りに、低圧逆浸透膜(日東電工(株)製「ES−20」)を用い、操作圧力0.5MPaで通水したこと以外は、実施例1と同条件で処理し、同様に逆浸透膜給水と得られた透過水のTOC濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0124】
【表1】
【0125】
表1より、膜表面に緻密なスキン層がありTOC除去率の高い高圧型逆浸透膜分離装置で処理することにより、TOCを効率よく除去できることが分かる。
また、実施例1における高圧型逆浸透膜分離装置の透過水中のホウ素濃度は、約8μg/Lにまで低減でき、後段のイオン交換装置の負荷を低減できた。一方、比較例1における低圧逆浸透膜装置の透過水中のホウ素濃度は、約70μg/Lであった。
従って、不純物除去率の高い高圧型逆浸透膜分離装置を適用することで、後段のイオン交換装置のイオン交換能の低下を抑制することができ、再生不良や処理時間の低下の頻度を下げる(再生頻度の低減)ことができることが分かる。
【0126】
このように、本発明によれば、逆浸透膜装置を用いた過酸化水素水溶液の精製において、適用する逆浸透膜の条件を明確にすることで、過酸化水素水溶液中のTOC濃度を効率よく、大幅に低減することができ、製造コストを削減することができる。
【符号の説明】
【0127】
1 熱交換器
2 精密濾過膜分離装置
3 高圧型逆浸透膜分離装置
11 第1のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔(第1H塔)
12 ゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔(OH塔)
12A 第1のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔(第1OH塔)
12B 第2のゲル型塩形強アニオン交換樹脂塔(第2OH塔)
13 第2のゲル型H形強カチオン交換樹脂塔(第2H塔)
図1
図2