【文献】
Wei Liu et al.,Diffraction barrier breakthrough in coherent anti-Stokes Raman scattering microscopy by additional probe-beam-induced phonondepletion,PHYSICAL REVIEW A,米国,American Physical Society,2011年 2月28日,83,023830-1 - 023830-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態として誘導放出顕微鏡を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の誘導放出顕微鏡の構成図である。
図1に示すとおり誘導放出顕微鏡には、パルスレーザ光源11と、レンズ12と、ビームスプリッタ131、132と、ミラーM1と、光パラメトリック発振器(OPO:optical parametric oscillator)141、142、143と、音響光学変調器(AOM:Acousto-optic modulator)15と、位相板18と、ミラーM2と、ダイクロイックミラー133、134と、対物レンズ19と、試料20と、試料ステージ28と、対物レンズ21と、波長選択フィルタ22と、集光レンズ23と、フォトダイオードなどの光検出器24と、ロックインアンプ25と、信号発生器26と、パーソナルコンピュータ27とが配置される。
【0013】
パルスレーザ光源11は、フェムト秒パルスレーザ光源、ピコ秒パルスレーザ光源などのパルスレーザ光源である。パルスレーザ光源11によるパルス発振の繰り返し周波数frは、例えば80MHzであり、パルスレーザ光源11が発振するパルスレーザ光のパルス幅ΔTは、例えば数百fs(フェムト秒)である。
【0014】
パルスレーザ光源11から射出したパルスレーザ光は、レンズ12により径の太い平行光束となり、ビームスプリッタ131へ入射する。ビームスプリッタ131へ入射したパルスレーザ光は、ビームスプリッタ131を透過するパルスレーザ光と、ビームスプリッタ131を反射するパルスレーザ光とに分割され、ビームスプリッタ131を透過したパルスレーザ光は光パラメトリック発振器141へ入射する。
【0015】
ビームスプリッタ131を反射したパルスレーザ光は、ビームスプリッタ132へ入射すると、ビームスプリッタ132を反射するパルスレーザ光と、ビームスプリッタ132を透過するパルスレーザ光とに分割され、ビームスプリッタ132を反射したパルスレーザ光は、光パラメトリック発振器142へ入射する。
【0016】
ビームスプリッタ132を透過したパルスレーザ光は、ミラーM1を反射し、光パラメトリック発振器143へ入射する。
【0017】
光パラメトリック発振器141は、入射したパルスレーザ光の光周波数をω
1に変換し、光パラメトリック発振器142は、入射したパルスレーザ光の光周波数をω
2’に変換し、光パラメトリック発振器143は、入射したパルスレーザ光の光周波数をω
2に変換する。
【0018】
ここで、光周波数ω
1、ω
2’、ω
2の大小関係は、ω
1>ω
2’、ω
1>ω
2、ω
2’≒ω
2である。なお、本実施形態では、光周波数ω
2’の光と光周波数ω
2の光とを波長分離できるような所定の周波数差が光周波数ω
2、ω
2’の間に付与されると仮定する。この周波数差は、波長差に換算して数nm以上であることが望ましい。
【0019】
音響光学変調器15は、光パラメトリック発振器141の射出光路、つまり光周波数ω
1のパルスレーザ光の単独光路に配置され、そのパルスレーザ光の強度を時間方向にかけて変調周波数f
1で変調する。なお、音響光学変調器15によるパルスレーザ光の変調周波数f
1及び変調タイミングは、信号発生器26によって制御される。
【0020】
位相板18は、光パラメトリック発振器142の射出光路、つまり光周波数ω
2’のパルスレーザ光の単独光路に配置される。この位相板18の位相遅延量分布は、光軸を中心とした周方向にかけて非一様、かつ、光軸を中心とした径方向にかけて一様に設定されている。また、位相板18の周方向に亘る位相遅延量分布は、周位置が180°ずれた2つの位置の間に位相差πが付与されるような分布である。よって、光周波数ω
2’のパルスレーザ光が試料20の観察対象面P
0に形成する光スポット(後述)の形状は、ドーナツ状となる。
【0021】
さて、光パラメトリック発振器141から射出した光周波数ω
1のパルスレーザ光は、音響光学変調器15を介してミラーM2を反射し、ダイクロイックミラー133を介してダイクロイックミラー134を反射する。
【0022】
光パラメトリック発振器142から射出した光周波数ω
2’のパルスレーザ光は、位相板18を介してダイクロイックミラー133を反射し、光周波数ω
1のパルスレーザ光と光路を統合させる。
【0023】
光パラメトリック発振器143から射出した光周波数ω
2のパルスレーザ光は、ダイクロイックミラー134を透過して、光周波数ω
1のパルスレーザ光及び光周波数ω
2’のパルスレーザ光と光路を統合させる。
【0024】
なお、光パラメトリック発振器141、142、143の各々の射出光路には、不図示の光強度調整機構(NDフィルタ)が設置されている。これらのNDフィルタによると、光周波数ω
1のパルスレーザ光の強度と、光周波数ω
2’のパルスレーザ光の強度と、光周波数ω
2のパルスレーザ光の強度とを、独立に調整することができる。
【0025】
互いの光路を統合させた3つのパルスレーザ光(光周波数ω
1、ω
2’、ω
2)は、対物レンズ19の瞳側へ入射すると、対物レンズ19の先端から射出し、試料20の観察対象面P
0の微小領域に向かって集光し、光スポットを形成する。
【0026】
なお、上記した位相板18は、光周波数ω
1のパルスレーザ光、光周波数ω
2’のパルスレーザ光、光周波数ω
2のパルスレーザ光のうち、光周波数ω
2’のパルスレーザ光の単独光路にのみ配置されている。このため、観察対象面P
0に光周波数ω
1のパルスレーザ光が形成する光スポットは円形であり、観察対象面P
0に光周波数ω
2’のパルスレーザ光が形成する光スポットはドーナツ状(輪帯状)であり、観察対象面P
0に光周波数ω
2のパルスレーザ光が形成する光スポットは円形である。
【0027】
ここで、本実施形態の誘導放出顕微鏡では、観察対象面P
0に照射される順序が以下の順序となるように、光周波数ω
1のパルスレーザ光の光路長と、光周波数ω
2’のパルスレーザ光の光路長と、光周波数ω
2のパルスレーザ光の光路長との関係が予め調整されている。
【0028】
(1)光周波数ω
1のパルスレーザ光
(2)光周波数ω
2’のパルスレーザ光
(3)光周波数ω
2のパルスレーザ光
このうち、光周波数ω
1のパルスレーザ光が観察対象面P
0に形成する円形の光スポットには、特定の観察対象物質の電子のエネルギー準位を励起準位へ移行(励起)させる働きがあり、光周波数ω
2’のパルスレーザ光が観察対象面P
0に形成するドーナツ状の光スポットには、励起中の電子を基底準位へ移行(誘導放出)させて誘導放出光を発生させる働きがあり、光周波数ω
2のパルスレーザ光が観察対象面P
0に形成する円形の光スポットには、光周波数ω
2’のパルスレーザ光によって誘導放出されなかった励起中の電子を基底状態へ変移(誘導放出)させて誘導放出光を発生させる働きがある。
【0029】
なお、光周波数ω
1は、波長換算でおよそ紫外域〜可視域の波長範囲内の値に設定されることが望ましく、光周波数ω
2、ω
2’の各々は、波長換算でおよそ紫外域〜近赤外領域の波長範囲内の値に設定されることが望ましい。
【0030】
そこで以下では、
図2(A)に示すとおり、観察対象面P
0に対して最初に照射される光周波数ω
1のパルスレーザ光を「励起光」と称し、次に照射される光周波数ω
2’のパルスレーザ光を「ドーナツ誘導光」と称し、最後に照射される光周波数ω
2のパルスレーザ光を「円形誘導光」と称す。なお、
図2(A)では、観察対象面P
0に形成される個々の光スポットを、光軸方向にずらして描いている。
【0031】
また、以下では、観察対象面P
0おいて励起光が照射される円形の領域を「励起光スポット」と称し、観察対象面P
0においてドーナツ誘導光が照射されるドーナツ状の領域を「ドーナツ誘導光スポット」と称し、観察対象面P
0において円形誘導光が照射される円形の領域を「円形誘導光スポット」と称す。
【0032】
なお、基本的には、
図2(A)に示すとおり、励起光スポットAeの輪郭と、ドーナツ誘導光スポットAdの内輪郭と、円形誘導光スポットAoの輪郭とは、ほぼ一致する。なぜなら、これら輪郭のサイズは回折限界によってほぼ決まるからである。
【0033】
しかし、本実施形態では、
図2(B)に示すとおり、励起光スポットAeの輪郭よりもドーナツ誘導光スポットAdの内輪郭が小さくなるように、ドーナツ誘導光の強度が十分に高く設定される。
【0034】
そのために、本実施形態では、例えば、ドーナツ誘導光の単独光路に挿入されたNDフィルタの透過率が高めに設定される。あるいは、ビームスプリッタ131、132の反射比率が高めに設定される。
【0035】
したがって、本実施形態では、ドーナツ誘導光スポットAdが
図2(B)の右下に斜線を付したとおりドーナツ状の領域Ad’にて励起光スポットAeに重複する。
【0036】
以下、励起光スポットAeのうち、ドーナツ誘導光スポットAdと重複するドーナツ状の領域Ad’を「重複領域Ad’」と称し、励起光スポットAeのうち、ドーナツ誘導光スポットAdと重複しない円形の領域Amを「非重複領域Am」と称す。本実施形態では、信号光の検出元(観察対象点)を、この非重複領域Amのみに制限することで、超解像効果を得る。
【0037】
なお、ここでは、回折限界で決まるサイズ(励起光スポットAeのサイズ)より小さな領域(非重複領域Am)に信号光の検出元を制限することを「超解像」という。
【0038】
また、以下では、励起光スポットAe、ドーナツ誘導光スポットAd、円形誘導光スポットAoの集合を、単に「光スポット」と称す。
【0039】
図3(a)に示すのは励起光の時間波形であり、
図3(b)に示すのはドーナツ誘導光の時間波形であり、
図3(c)に示すのは円形誘導光の時間波形である。
【0040】
図3(a)、(b)、(c)に示すとおり、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の間でパルスの繰り返し周期Trは共通であるが、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の間でパルスが観察対象面P
0に到達するタイミングは若干ずつずれている。
図3(d)は、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の3パルス分の波形を同一座標上に拡大表示したものである。
図3(d)において実線で示すのが励起光のパルスであり、細かい点線で示すのがドーナツ誘導光のパルスであり、粗い点線で示すのが円形誘導光のパルスである。
図3(d)に示すとおり励起光のパルスが観察対象面P
0に到達するタイミングと、ドーナツ誘導光のパルスが観察対象面P
0に到達するタイミングと、円形誘導光のパルスが観察対象面P
0に到達するタイミングとの間のズレΔは、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の各々のパルス幅ΔTより若干大きい程度、例えば数百fs(フェムト秒)に設定される。
【0041】
ここで、ズレΔは、観察対象物質の電子が励起状態を維持できる期間(励起状態の寿命、例えばおよそフェムト秒〜ピコ秒)以下であることが望ましい。これによって、誘導放出が確実に生起する。また、この場合、パルス幅ΔTも励起状態の寿命以下であることが望ましい。これによって、ズレΔを励起状態の寿命以下に保ちつつ、時間的に近接するパルス同士を確実に分離することができる。
【0042】
なお、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光が観察対象面P
0に到達するタイミングのズレΔを調整するために、本実施形態の誘導放出顕微鏡では、励起光の単独光路、ドーナツ誘導光の単独光路、円形誘導光の単独光路のうち少なくとも2つの光路には、可動ミラーなどで構成された光路長調整機構(不図示)が設けられていることが望ましい。
【0043】
また、
図3(a)、(b)、(c)では、音響光学変調器15による励起光の変調を可視化しなかったが、可視化すると
図4(a)、(b)、(c)のとおりである。
図4に示すとおり、音響光学変調器15による励起光の変調周波数f
1は、パルスの繰り返し周波数frと比較して十分に低く、f
1≦fr/2であり、例えばf
1は数MHz程度である。なお、
図4において符号T
1で示すのは励起光の変調周期(=変調周波数f
1の逆数)であり、符号Trで示すのはパルスの繰り返し周期(=繰り返し周波数frの逆数)である。
【0044】
さて、
図1に戻り、試料20は、例えば、培養液と共に培養容器に収容された透明な生体細胞であり、この生体細胞中の特定物質(例えば、ヘモグロビンなどの特定タンパク質)が観察対象物質である。誘導放出顕微鏡は、観察対象物質に固有のエネルギー準位を利用するため、観察対象物質が予め蛍光染色されている必要は無い。
【0045】
試料ステージ28は、試料20を支持し、光軸方向(Z方向)にかけて試料20を移動させると共に、光軸に垂直な方向(XY方向)にかけて試料20を移動させる透過型のステージである。試料ステージ28がZ方向にかけて試料20を移動させると、試料20の内部における観察対象面P
0の深さが調整され、試料ステージ28がXY方向にかけて試料20を移動させると、前述した光スポットで(スポット内の観察対象点で)観察対象面P
0を二次元スキャンすることができる。
【0046】
観察対象面P
0の光スポットから射出した光、すなわち、光スポットから射出した励起光、光スポットから射出したドーナツ誘導光、光スポットから射出した円形誘導光、光スポットで発生した誘導放出光は、対物レンズ21の先端側から対物レンズ21に入射する。
【0047】
対物レンズ21の仕様(開口数、倍率など)は、対物レンズ19の仕様と同じであり、対物レンズ21と対物レンズ19との間の位置関係及び姿勢関係は、観察対象面P
0に関して対称である。なお、ここでは対物レンズ21の仕様と対物レンズ19の仕様とを共通としたが、完全に共通でなくても構わない。例えば、対物レンズ21の開口数は対物レンズ19の開口数より大きくても良い。
【0048】
対物レンズ21に先端側から入射した光、すなわち、観察対象面P
0の光スポットから射出した励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光、誘導放出光は、対物レンズ21の瞳側から射出し、波長選択フィルタ22、集光レンズ23を順に介して光検出器24へ向かう。
【0049】
但し、波長選択フィルタ22には、光周波数ω
1、ω
2’の光をカットし、かつ、光周波数ω
2の光を通過させる波長選択性が付与されている。
【0050】
よって、光スポットから射出した励起光(光周波数ω
1)、光スポットから射出したドーナツ誘導光(光周波数ω
2’)は、光検出器24へ入射せず、光スポットから射出した円形誘導光(光周波数ω
2)及び光スポットで発生した誘導放出光(光周波数ω
2)は、光検出器24へ入射する。
【0051】
光検出器24は、入射光の強度を電気信号に変換するフォトダイオードなどの光電変換素子である。
【0052】
ロックインアンプ25は、光検出器24の出力する電気信号から、励起光の変調周波数f
1と同じ周波数で変化する成分を信号としてロックイン検出する。なお、ロックインアンプ25の検出周波数及び検出タイミングは、信号発生器26によって制御される。
【0053】
パーソナルコンピュータ27は、ロックインアンプ25の検出した信号を取り込む。また、パーソナルコンピュータ27は、前述したスキャン中、観察対象点が観察対象面P
0の各位置にあるときに信号の取り込みを行い、観察対象面における信号の分布を誘導放出画像として取得すると、不図示のモニタへ表示する。
【0054】
以下、
図2(B)を参照して本実施形態の誘導放出過程を詳しく説明する。
【0055】
先ず、本実施形態では、観察対象面P
0に励起光が照射されると、励起光スポットAeに位置していた観察対象物質の電子のエネルギー準位が励起準位へ移行(励起)する。
【0056】
続いて、観察対象面P
0にドーナツ誘導光が照射されると、重複領域Ad’では、励起中の電子のエネルギー準位が基底準位に戻るが、非重複領域Amでは、励起中の電子のエネルギー準位は何ら変化しない。
【0057】
続いて、観察対象面P
0に円形誘導光が照射されると、重複領域Ad’では、励起中の電子が存在しないので誘導放出は生起しないが、非重複領域Amでは、励起中の電子のエネルギー準位が基底準位に戻り、誘導放出光が発生する。
【0058】
したがって、本実施形態の誘導放出顕微鏡では、ドーナツ誘導光の照射により、誘導放出光の検出元(信号の取得元)が、対物レンズ19の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さい非重複領域Amのみに制限される。したがって、本実施形態の誘導放出顕微鏡は、試料20の超解像観察が可能である。
【0059】
以下、本実施形態のロックイン検出を説明する。
【0060】
通常、誘導放出顕微鏡では、誘導光に応じて試料で発生した誘導放出光(以下、「信号光」と称す。)と、試料から射出した誘導光(以下、「ノイズ光」と称す。)との間では、光周波数は共通(ω
2)であり、伝播方向も共通であるため、信号光とノイズ光との分離を波長選択フィルタで行うことはできない。
【0061】
このため、本実施形態の誘導放出顕微鏡では、上述したとおり音響光学変調器15で励起光の強度を周波数f
1で変調すると共に、光検出器24の出力する電気信号から、周波数f
1で変化する成分をロックインアンプ25でロックイン検出した。
【0062】
図5は、光検出器24へ入射する光を説明する図である。
図5(A)は、誘導放出過程と、光検出器24へ入射する光との関係を説明する図であり、
図5(B)は、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の各波形と、光検出器24へ入射する光の波形との関係を説明する図である。
【0063】
また、
図5の左側は非重複領域Amから光検出器24へ向かう光を説明し、
図5の右側は重複領域Ad’から光検出器24へ向かう光を説明している。なお、
図5では、非重複領域Amからの光と重複領域Ad’からの光とを区別して描いたが、実際の光検出器24には、非重複領域Amからの光と重複領域Ad’からの光とが区別されることなく入射する。
【0064】
先ず、
図5(A)の左側に示すとおり、非重複領域Amでは、ドーナツ誘導光が照射されないため、信号光の発生が何ら抑制されない。よって、非重複領域Amから光検出器24に向かう光は、信号光とノイズ光との双方である。
【0065】
一方、
図5(A)の右側に示すとおり、重複領域Ad’には、ドーナツ誘導光が照射されるため、信号光の発生が抑制される。よって、重複領域Ad’から光検出器24に向かう光は、ノイズ光のみである。
【0066】
そして、本実施形態では
図5(B)(a)に示すとおり励起光が周波数f
1で変調される。信号光の量は、励起光の強度に応じて変化するのに対して、ノイズ光の量は、励起光の強度に依存しない。
【0067】
したがって、
図5(B)(d)の左側に示すとおり、非重複領域Amから光検出器24に向かう光の波形には、周波数f
1の変調が転写される(変調量は信号光の強度に応じた量となる)のに対して、
図5(B)(d)の右側に示すとおり、重複領域Ad’から光検出器24に向かう光の波形には、周波数f
1の変調が転写されない。
【0068】
したがって、本実施形態のように、光検出器24の出力する電気信号から周波数f
1で変化する信号をロックイン検出すれば、信号光の強度を高精度に検知できることは明らかである(以上、ロックイン検出の説明。)。
【0069】
なお、本実施形態では、観察対象面P
0の光スポットから射出したドーナツ誘導光を光検出器24の手前でカットするために、ドーナツ誘導光と円形誘導光とを波長分離した。すなわち、観察対象面P
0に向かうドーナツ誘導光の光周波数と円形誘導光の光周波数とに差異を与えると共に、ドーナツ誘導光と同じ光周波数の光をカットし円形誘導光と同じ光周波数の光を通過させる波長選択フィルタ22を光検出器24の手前に配置した。
【0070】
しかし、本実施形態では、ドーナツ誘導光と円形誘導光とを波長分離する代わりに、ドーナツ誘導光と円形誘導光とを偏光分離してもよい。すなわち、観察対象面P
0に向かうドーナツ誘導光の偏光方向と観察対象面に向かう円形誘導光の偏光方向とに差異を与えると共に、ドーナツ誘導光と同じ偏光方向の光をカットし円形誘導光と同じ偏光方向の光を通過させる検光子を光検出器24の手前に配置してもよい(以下の変形例を参照)。
[第1実施形態の変形例]
以下、第1実施形態の変形例を説明する。ここでは、第1実施形態(
図1)との相違点のみを説明する。
【0071】
図6は、変形例の誘導放出顕微鏡の構成図である。
【0072】
先ず、変形例の誘導放出顕微鏡では、ドーナツ誘導光の光周波数が円形誘導光の光周波数ω
2と同じに設定される。
【0073】
また、変形例の誘導放出顕微鏡において、波長選択フィルタ22には、光周波数ω
1の光をカットし、かつ、光周波数ω
2の光を通過させる波長選択性が付与される。
【0074】
また、変形例の誘導放出顕微鏡において、励起光の単独光路と、ドーナツ誘導光の単独光路と、円形誘導光の単独光路との各々には、偏光子41及び1/4波長板51が順に配置され、対物レンズ21と集光レンズ23との間には、1/4波長板60及び検光子70が順に配置される。
【0075】
また、変形例の誘導放出顕微鏡において、偏光子41及び1/4波長板51の軸方向は予め調整されており、
図7に示すとおり、観察対象面P
0に入射する励起光及び円形誘導光の偏光状態は、同じ方向に旋回する円偏光(例えば右旋回円偏光)に設定され、観察対象面P
0に入射するドーナツ誘導光の偏光状態は、励起光及び円形誘導光とは逆旋回の円偏光(例えば左旋回円偏光)に設定される。
【0076】
また、変形例の誘導放出顕微鏡では、1/4波長板60の軸方向も予め調整されており、検光子70に向かう励起光及び円形誘導光の偏光状態は、
図8左側に示すとおり所定方向の直線偏光に設定され、検光子70に向かうドーナツ誘導光の偏光状態は、
図8右側に示すとおり、励起光及び円形誘導光と直交する方向の直線偏光に設定される。
【0077】
また、変形例の誘導放出顕微鏡では、
図8に示すとおり、検光子70に入射する円形誘導光及び励起光の偏光方向と同じ方向(つまりドーナツ誘導光の偏光方向に直交する方向)に検光子70の透過軸方向が設定される。
【0078】
したがって、変形例の誘導放出顕微鏡では、観察対象面P
0から射出したドーナツ誘導光は光検出器24の手前でカットされ、観察対象面P
0から射出した円形誘導光は光検出器24へ入射する。
【0079】
なお、ここでは、観察対象面P
0に入射する励起光の偏光方向を、観察対象面P
0に入射する円形誘導光の偏光方向と一致させたので、非重複領域Amにおける誘導放出の効率を高めることができる。
【0080】
但し、非重複領域Amにおける誘導放出の効率を高める必要の無い場合は、観察対象面P
0に入射する励起光の偏光方向を、観察対象面P
0に入射する円形誘導光の偏光方向と一致させなくてもよい。
【0081】
また、ここでは、位相板18を通過するドーナツ誘導光の偏光状態を円偏光としたので、ドーナツ誘導光スポットを等方的(光軸の周りに回転対称)にすることができる。
【0082】
但し、ドーナツ誘導光スポットを等方的にする必要の無い場合は、位相板18を通過するドーナツ誘導光の偏光状態を直線偏光としてもよい。
【0083】
なお、その場合は、1/4波長板51、60を省略し、観察対象面P
0に入射する励起光、観察対象面P
0に入射するドーナツ誘導光、観察対象面P
0に入射する円形誘導光の各々の偏光状態を、直線偏光とすればよい。
【0084】
この場合も、光検出器24の手前において、ドーナツ誘導光の偏光方向を、円形誘導光の偏光方向及び励起光の偏光方向と直交させればよい。
[第1実施形態及び変形例の補足]
なお、第1実施形態及び変形例では、励起光が観察対象面P
0に到達するタイミングと、ドーナツ誘導光が観察対象面P
0に到達するタイミングと、円形誘導光が観察対象面P
0に到達するタイミングとをずらしたが、これら3つのタイミングのうち少なくとも2つを一致させてもよい。
【0085】
例えば、観察対象面P
0へ励起光とドーナツ誘導光とを同時に照射した後に円形誘導光を照射してもよい(但し、ω
2’≠ω
2)。
【0086】
あるいは、励起光と円形誘導光との間にエネルギー換算で3600cm
−1以上の波長差を付与した状態で、励起光とドーナツ誘導光と円形誘導光とを同時に照射してもよい(但し、ω
2’≠ω
2)。
【0087】
また、第1実施形態及び変形例は、誘導放出顕微鏡に本発明を適用したものであるが、励起状態吸収(ESA:exited state absorption)顕微鏡にも同様に本発明を適用することができる。
【0088】
この場合、光スポットが円形である光周波数ω
1の光を励起光として使用し、光スポットがドーナツ状である光周波数ω
2’の光を誘導光として使用する点は第1実施形態又は変形例と同様であるが、光スポットが円形である残りの光の光子エネルギー(光周波数ω
2)は、ESAの第一励起状態と第二励起状態との間のエネルギー差に相当する値に設定される。例えば、光周波数ω
1、ω
2’は、波長換算でおよそ紫外域〜可視域の波長範囲内に設定され、光周波数ω
2は、波長換算でおよそ可視域〜近赤外域の波長範囲内に設定される。
【0089】
また、第1実施形態及び変形例は、誘導放出顕微鏡に本発明を適用したものであるが、基底状態の電子を枯渇させるGSD(Ground State Depletion)顕微鏡にも同様に本発明を適用することができる。
【0090】
その場合は、光スポットが円形である光周波数ω
1の光と、光スポットがドーナツ状である光周波数ω
2’の光と、光スポットが円形である光周波数ω
2の光と使用し、それらの光周波数ω
1、ω
2’、ω
2は、基底状態から励起状態への励起が生じるような値に設定される。例えば、光周波数ω
1、ω
2’、ω
2の各々は、波長換算でおよそ紫外域〜可視域の波長範囲内に設定される。
【0091】
また、第1実施形態及び変形例では、励起光による励起が1光子励起であるか多光子励起であるか言及しなかったが、1光子励起でもよいし、多光子励起でもよい。例えば2光子励起の場合、励起光の光周波数ω
1は、波換算で可視域〜近赤外域の波長範囲内に設定されることが望ましい。
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態としてCARS顕微鏡を説明する。ここでは、第1実施形態(
図1)との相違点のみを説明する。
【0092】
図9は、CARS顕微鏡の構成図である。
【0093】
先ず、CARS顕微鏡では、ドーナツ誘導光の光周波数ω
2’が円形誘導光の光周波数ω
2と同じに設定される。
【0094】
また、CARS顕微鏡では、励起光(光周波数ω
1)が観察対象面P
0に照射されるタイミングと、ドーナツ誘導光(光周波数ω
2)が観察対象面P
0に到達するタイミングと、円形誘導光(光周波数ω
2)が観察対象面P
0に到達するタイミングとを一致させる。
【0095】
また、CARS顕微鏡では、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の各々のパルス形状(パルス光強度、パルス幅)と、光周波数ω
1、ω
2とは、観察対象面P
0の光スポット内の観察対象物質にてCARS過程が生起するように設定されている(ω
1>ω
2)。これらの光のパルス形状は、パルスレーザ光源11が発振するパルスの形状と、ビームスプリッタ131の透過反射率と、ビームスプリッタ132の透過反射率とによって調整可能である(なお、前述したNDフィルタの透過率によって調整してもよい。)。
【0096】
また、CARS顕微鏡で検出すべき信号光(CARS光)の光周波数は(2ω
1−ω
2)であって、励起光の光周波数(ω
1)、誘導光の光周波数(ω
2)の何れとも異なるため、信号発生器26、音響光学変調器15、ロックインアンプ25は基本的に不要である。
【0097】
その代わりに、CARS顕微鏡における波長選択フィルタ22には、CARS光と同じ光周波数(2ω
1−ω
2)の光を通過させ、かつ、光周波数ω
1の光及び光周波数ω
2の光をカットする波長選択性が付与される。
【0098】
また、CARS光は微弱であるため、CARS顕微鏡の光検出器24としては、高感度な光検出器、例えば光電子増倍管(PMT:photomultiplier Tube)が使用されることが望ましい。
【0099】
また、本実施形態のCARS顕微鏡では、超解像を可能とするために、励起光の単独光路に偏光子41が配置され、ドーナツ誘導光の単独光路に偏光子41、1/4波長板51が順に配置され、円形誘導光の単独光路に偏光子41、1/4波長板51が順に配置され、対物レンズ21と集光レンズ23との間に検光子70が配置される。
【0100】
また、本実施形態のCARS顕微鏡において、偏光子41及び1/4波長板51の軸方向は予め調整されており、
図10に示すとおり、観察対象面P
0に入射する励起光の偏光状態は、所定方向の直線偏光(以下、0°方向の直線偏光とする。)に設定され、観察対象面P
0に入射するドーナツ誘導光の偏光状態は、右旋回又は左旋回の円偏光(以下、右旋回円偏光とする。)に設定され、観察対象面P
0に入射する円形誘導光の偏光状態は、ドーナツ誘導光とは反対に旋回する円偏光(ここでは左旋回円偏光)に設定される。
【0101】
ここで、観察対象面P
0の重複領域Ad’には、右旋回円偏光であるドーナツ誘導光と、左旋回円偏光である円形誘導光との双方が入射するので、重複領域Ad’における誘導光のトータルの偏光状態は、ドーナツ誘導光と円形誘導光の合成となる。
【0102】
但し、観察対象面P
0に向かうドーナツ誘導光の振幅と、観察対象面P
0に向かうドーナツ誘導光の位相と、観察対象面P
0に向かう円形誘導光の振幅と、観察対象面P
0に向かう円形誘導光の位相との関係は、観察対象面P
0に向かうドーナツ誘導光及び円形誘導光の合成偏光方向が90°方向となるように予め調整されているものとする。
【0103】
一方、非重複領域Amには、右旋回円偏光であるドーナツ誘導光は入射しないので、非重複領域Amにおける誘導光のトータルの偏光状態は、左旋回円偏光である。
【0104】
したがって、本実施形態のCARS顕微鏡では、
図11に示すとおり、非重複領域Amで発生するCARS光(光周波数2ω
1−ω
2)は、非重複領域Amに作用する誘導光と同じ「左旋回円偏光」となるのに対して、重複領域Ad’で発生するCARS光(光周波数2ω
1−ω
2)は、重複領域Ad’に作用する誘導光と同じく「90°方向の直線偏光」となる。
【0105】
そこで、本実施形態のCARS顕微鏡において、検光子70の透過軸方向は、
図11に示すとおり、励起光の偏光方向(ここでは0°方向)と同じに設定される。
【0106】
したがって、本実施形態のCARS顕微鏡では、重複領域Ad’で発生したCARS光は光検出器24の手前でカットされ、非重複領域Amで発生したCARS光は光検出器24へ入射する。
【0107】
したがって、本実施形態のCARS顕微鏡では、CARS光の検出元を、対物レンズ19の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さい非重複領域Amのみに制限することができる。つまり、本実施形態のCARS顕微鏡では、試料20の超解像観察が可能である。
【0108】
なお、ここでは、位相板18を通過するドーナツ誘導光の偏光状態を円偏光としたので、ドーナツ誘導光スポットAdを等方的(光軸の周りに回転対称)にすることができる。
【0109】
但し、ドーナツ誘導光スポットAdを等方的にする必要の無い場合は、位相板18を通過するドーナツ誘導光の偏光状態を直線偏光としてもよい。
【0110】
なお、その場合は、1/4波長板51を省略し、観察対象面P
0に入射する励起光、観察対象面P
0に入射するドーナツ誘導光、観察対象面P
0に入射する円形誘導光の各々の偏光状態を、直線偏光とすればよい。
【0111】
その場合、観察対象面P
0に入射するドーナツ誘導光の偏光方向を、観察対象面P
0に入射する円形誘導光及び励起光の偏光方向と直交させればよい。
【0112】
また、CARS顕微鏡において、光検出器24の出力する電気信号が微弱である場合は、励起光の強度を時間方向にかけて周波数f
1で変調すると共に、周波数f
1又は2f
1でロックイン検出を行うことにより、CARS光の検出精度を高めてもよい。なお、ロックイン検出の方法は、第1実施形態で説明したとおりである。
【0113】
また、本実施形態のCARS顕微鏡では、重複領域Ad’からのCARS光を光検出器24の手前でカットするために、重複領域Ad’からのCARS光と、非重複領域AmからのCARS光とを偏光分離した。
【0114】
しかし、本実施形態では、重複領域Ad’からのCARS光と非重複領域AmからのCARS光とを偏光分離する代わりに、「2周波ロックイン」を行ってもよい(「第2実施形態の変形例」を参照)。
【0115】
また、本実施形態の顕微鏡は、光周波数(2ω
1−ω
2)の信号光(CARS光)を検出対象としたCARS顕微鏡であったが、光周波数(2ω
1−ω
2)の信号光(CARS光)の代わりに、光周波数(2ω
2−ω
1)の信号光(CSRS光)を検出対象とすれば、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS: Coherent Stokes Raman scattering)顕微鏡が実現する。このCSRS顕微鏡もCARS顕微鏡と同様、信号光(CSRS光)に対して非重複領域Amの分子振動を反映させることができるので、試料20の無染色超解像観察が可能である。
[第2実施形態の変形例]
以下、第2実施形態の変形例として、2周波ロックイン型CARS顕微鏡を説明する。ここでは、第2実施形態(
図9)との相違点のみを説明する。
【0116】
図12は、2周波ロックイン型CARS顕微鏡の構成図である。
【0117】
先ず、2周波ロックイン型CARS顕微鏡では、偏光子41、1/4波長板51、検光子70は省略され、その代わりに、音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25が備えられる。
【0118】
また、2周波ロックイン型CARS顕微鏡において音響光学変調器15は、励起光の単独光路と、円形誘導光の単独光路との双方に配置される。
【0119】
また、励起光の光路に配置された音響光学変調器15は、励起光の強度を時間方向にかけて周波数f
1で変調し、円形誘導光の光路に配置された音響光学変調器15は、円形誘導光の強度を時間方向にかけて周波数f
2で変調する(但し、f
1≠f
2)。
【0120】
以上の2周波ロックイン型CARS顕微鏡において、観察対象面P
0の非重複領域Amには、CARS過程を生起させる光として、
図13に示すとおり、周波数f
1で変調された励起光と、周波数f
2で変調された円形誘導光とが入射する。
【0121】
一方、観察対象面P
0の重複領域Ad’には、CARS過程を生起させる光として、
図13に示すとおり、周波数f
1で変調された励起光と、変調されていないドーナツ誘導光と、周波数f
2で変調された円形誘導光とが入射する。
【0122】
よって、2周波ロックイン型CARS顕微鏡では、
図14に示すとおり、非重複領域Amで発生するCARS光(光周波数2ω
1−ω
2)は、周波数f
1、f
2、2f
1、|f
1±f
2|、|2f
1±f
2|の何れかで変化し、重複領域Ad’で発生するCARS光(光周波数2ω
1−ω
2)は、周波数f
1、2f
1の何れかで変化する。
【0123】
そこで、2周波ロックイン型CARS顕微鏡におけるロックインアンプ25は、周波数f
2、|f
1±f
2|、|2f
1±f
2|の何れかでロックイン検出を行うことにより、非重複Amで発生したCARS光のみを検出する。
【0124】
したがって、2周波ロックイン型CARS顕微鏡でも、CARS光の検出元を、対物レンズ19の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さい非重複領域Amのみに制限することができる。つまり、2周波ロックイン型CARS顕微鏡でも、試料20の超解像観察が可能である。
【0125】
なお、2周波ロックイン型CARS顕微鏡において上記の周波数f
1、f
2の大小関係は問わないが、周波数f
1、f
2の各々とロックイン検出の検出周波数(周波数f
2、|f
1±f
2|、|2f
1±f
2|の何れか)とが非整数倍の関係になるように、周波数f
1、f
2の組み合わせが選定されることが望ましい。
【0126】
また、1/4波長板51を光パラメトリック発振器142の射出光路に挿入し、ドーナツ誘導光の偏光状態を円偏光とすると、ドーナツの形状(ドーナツ誘導光スポットの強度分布)をより等方的にすることができる。
【0127】
また、第2実施形態で説明したCSRS顕微鏡も、本変形例と同様に変形すること(すなわち2周波ロックイン型に変形すること)が可能である。但し、その場合は、ロックイン検出の検出周波数を、f
1、|f
2±f
1|、|2f
2±f
1|の何れかに設定することが望ましい。
[第3実施形態]
以下、本実施形態の第3実施形態としてSRS顕微鏡を説明する。ここでは、第2実施形態(
図9のCARS顕微鏡)との相違点のみを説明する。
【0128】
図15は、SRS顕微鏡の構成図である。
【0129】
先ず、SRS顕微鏡では、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の各々のパルス形状(パルス光強度、パルス幅)と、光周波数ω
1、ω
2とは、観察対象面P
0の光スポット内の観察対象物質にてSRS過程が生起するように設定されている(ω
1>ω
2)。これらの光のパルス形状は、パルスレーザ光源11が発振するパルスの形状と、ビームスプリッタ131の透過反射率と、ビームスプリッタ132の透過反射率とによって調整可能である(なお、前述したNDフィルタの透過率によって調整してもよい。)。
【0130】
光スポット内でSRS過程が生起すると、光スポットから射出する光の強度が変化する。具体的には、光周波数ω
1の光の強度が減少し、光周波数ω
2の光の強度が減少する。したがって、SRS顕微鏡で検出すべき信号光(SRS光)の光周波数はω
1又はω
2である。この信号光の光周波数(ω
1又はω
2)は、励起光の光周波数(ω
1)又は誘導光の光周波数(ω
2)と同じであるため、音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25によるロックイン検出が必要となる。なお、
図15に示した構成例は、検出対象となる光周波数をω
2とした場合の構成例である。検出対象となる光周波数をω
1とする場合には、
図15における光周波数ω
1をω
2に、光周波数ω
2をω
1にそれぞれ置き換えれば良い。なお、信号光と同じ光周波数のノイズ光の影響を排除するためのロックイン検出は公知なので説明を省略する。
【0131】
また、SRS顕微鏡における波長選択フィルタ22には、SRS光と同じ光周波数(ω
1又はω
2)の光を通過させ、かつSRS光とは異なる光周波数の光をカットする波長選択性が付与される。
【0132】
以上のSRS顕微鏡でも、第2実施形態(CARS顕微鏡)と同様、
図16に示すとおり、観察対象面P
0の重複領域Ad’で発生する信号光(ここではSRS光)と、非重複領域Amで発生する信号光(ここではSRS光)との間で偏光方向がずれる。よって、SRS顕微鏡でも、非重複領域Amで発生する信号光(ここではSRS光)を、重複領域Ad’で発生する信号光(ここではSRS光)から分離することができる。
【0133】
したがって、SRS顕微鏡でも、第2実施形態(CARS顕微鏡)と同様、試料20の超解像観察が可能である。
【0134】
なお、本実施形態も、第2実施形態(CARS顕微鏡)と同様に変形することが可能である。例えば、本実施形態では、重複領域Ad’からのSRS光と非重複領域AmからのSRS光とを偏光分離する代わりに、「2周波ロックイン」を行ってもよい(以下の変形例を参照)。
[第3実施形態の変形例]
以下、第3実施形態の変形例として、2周波ロックイン型SRS顕微鏡を説明する。ここでは、第3実施形態との相違点のみを説明する。
【0135】
図17は、2周波ロックイン型SRS顕微鏡の構成図である。
【0136】
先ず、2周波ロックイン型SRS顕微鏡では、偏光子41、1/4波長板51、検光子70は省略され、その代わりに、励起光の単独光だけでなく、円形誘導光の単独光路にも音響光学変調器15が配置される。
【0137】
また、励起光の単独光路に配置された音響光学変調器15は、励起光の強度を時間方向にかけて周波数f
1で変調し、円形誘導光の単独光路に配置された音響光学変調器15は、円形誘導光の強度を時間方向にかけて周波数f
2で変調する(但し、f
1≠f
2)。
【0138】
以上の2周波ロックイン型SRS顕微鏡において、観察対象面P
0の非重複領域Amには、SRS過程を生起させる光として、周波数f
1で変調された励起光と、周波数f
2で変調された円形誘導光とが入射する。
【0139】
一方、観察対象面P
0の重複領域Ad’には、SRS過程を生起させる光として、周波数f
1で変調された励起光と、変調されていないドーナツ誘導光と、周波数f
2で変調された円形誘導光とが入射する。
【0140】
よって、2周波ロックイン型SRS顕微鏡では、
図18に示すとおり、非重複領域Amで発生するSRS信号(ここではSRS信号の光周波数をω
2とする。)の大部分は、周波数|f
1±f
2|で変化し、重複領域Ad’で発生するSRS信号(光周波数ω
2)の大部分は、周波数f
1で変化する。
【0141】
そこで、2周波ロックイン型SRS顕微鏡において、ロックインアンプ25は、周波数|f
1±f
2|でロックイン検出を行うことにより、非重複領域Amで発生したSRS光(光周波数ω
2)を、重複領域Ad’で発生したSRS光(光周波数ω
2)から分離して検出する。
【0142】
したがって、2周波ロックイン型SRS顕微鏡でも、SRS光(光周波数ω
2)の検出元を、対物レンズ19の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さい非重複領域Amのみに制限することができる。つまり、2周波ロックイン型SRS顕微鏡でも、試料20の超解像観察が可能である。
【0143】
なお、ここでは、信号光(SRS光)の光周波数をω
2としたが、ω
1としてもよいことはいうまでもない。
【0144】
また、1/4波長板51を光パラメトリック発振器142の射出光路に挿入し、ドーナツ誘導光の偏光状態を円偏光とすると、ドーナツの形状(ドーナツ誘導光スポットの強度分布)をより等方的にすることができる。
【0145】
なお、上記の周波数f
1、f
2の大小関係は問わないが、周波数f
1、f
2の各々とロックイン検出の検出周波数|f
1±f
2|とが非整数倍の関係になるように、周波数f
1、f
2の組み合わせが選定されることが望ましい。
[第4実施形態]
以下、本実施形態の第4実施形態として2光子吸収顕微鏡を説明する。ここでは、第3実施形態(
図15のSRS顕微鏡)との相違点のみを説明する。
【0146】
図19は、2光子吸収顕微鏡の構成図である。
【0147】
図19に示すとおり、2光子吸収顕微鏡の構成は、第3実施形態(SRS顕微鏡)の構成と基本的に同じである。
【0148】
但し、2光子吸収顕微鏡では、励起光、ドーナツ誘導光、円形誘導光の各々のパルス形状(パルス光強度、パルス幅)と、光周波数ω
1、ω
2とは、観察対象面P
0の光スポット内の観察対象物質にて2光子吸収過程が生起するように設定されている(ω
1>ω
2)。
【0149】
また、2光子吸収顕微鏡で検出すべき信号光(2光子吸収による光の減少分)の光周波数はω
2であるので、2光子吸収顕微鏡における波長選択フィルタ22には、信号光(2光子吸収による光の減少分)と同じ光周波数(ω
2)の光を通過させ、信号光(2光子吸収による光の減少分)とは異なる光周波数(ω
1)の光をカットする波長選択性が付与される。
【0150】
以上の2光子吸収顕微鏡でも、第3実施形態(SRS顕微鏡)と同様、試料20の超解像観察が可能である。
【0151】
また、本実施形態も第3実施形態(SRS顕微鏡)と同様に変形することが可能である。例えば、本実施形態では、重複領域からの信号光と非重複領域からの信号光とを偏光分離する代わりに、「2周波ロックイン」を行ってもよい(以下の変形例を参照)。
[第4実施形態の変形例]
以下、第4実施形態の変形例として、2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡を説明する。ここでは、第4実施形態との相違点のみを説明する。
【0152】
図20は、2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡の構成図である。
【0153】
先ず、2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡では、偏光子41、1/4波長板51、検光子70は省略され、その代わりに、励起光の単独光だけでなく、円形誘導光の単独光路にも音響光学変調器15が配置される。
【0154】
また、励起光の光路に配置された音響光学変調器15は、励起光の強度を時間方向にかけて周波数f
1で変調し、円形誘導光の光路に配置された音響光学変調器15は、円形誘導光の強度を時間方向にかけて周波数f
2で変調する(但し、f
1≠f
2)。
【0155】
以上の2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡でも、ロックインアンプ25は、周波数|f
1±f
2|でロックイン検出を行うことにより、非重複領域Amで発生した信号光(2光子吸収による光の減少分)を、重複領域Ad’で発生した信号光から分離して検出する。
【0156】
したがって、2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡でも、信号光(2光子吸収による光の減少分)の検出元を、対物レンズ19の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さい非重複領域Amのみに制限することができる。つまり、2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡でも、試料20の超解像観察が可能である。
【0157】
なお、上記の周波数f
1、f
2の大小関係は問わないが、周波数f
1、f
2の各々とロックイン検出の検出周波数|f
1±f
2|とが非整数倍の関係になるように、周波数f
1、f
2の組み合わせが選定されることが望ましい。
【0158】
また、1/4波長板51を光パラメトリック発振器142の射出光路に挿入し、ドーナツ誘導光の偏光状態を円偏光とすると、ドーナツの形状(ドーナツ誘導光スポットの強度分布)をより等方的にすることができる。
[実施形態及び変形例の補足]
なお、上述した第1実施形態〜第4実施形態又は変形例において、超解像効果(空間分解能)を更に高めるためには、観察対象面P
0における非重複領域Amのサイズを小さくすればよい。
【0159】
また、非重複領域Amのサイズを小さくするためには、ドーナツ誘導光の強度を高めればよい。そのためには、例えば、ドーナツ誘導光の単独光路に挿入されたNDフィルタの透過率を高めに設定すれば良い。あるいは、ビームスプリッタ131、132の反射比率を高めに設定すればよい。
【0160】
なお、何れかの実施形態で偏光を利用する場合は、ドーナツ誘導光の強度増加とともに重複領域Ad’からの光の偏光と非重複領域Amからの光の偏光との直交性が悪くなり、非重複領域Amからの信号の割合が小さくなる虞がある。このため、偏光を利用する場合は、ドーナツ誘導光の強度調整を、重複領域Ad’からの光の偏光状態を考慮しつつ適切に行うことが望ましい。
【0161】
また、上述した実施形態では、光路の異なる3つのレーザ光を生成するために1台のレーザ光源と3台の光パラメトリック発振器との組み合わせを使用したが、1台のレーザ光源と2台のパラメトリック発振器との組み合わせを使用してもよい。但し、その場合は、3つのレーザ光の何れか1つとしてレーザ光源から射出したレーザ光がそのまま使用される。
【0162】
また、光周波数ω
2と光周波数ω
2’とが等しい場合は、光周波数ω
2の光を生成する光パラメトリック発振器と光周波数ω
2’の光を生成する光パラメトリック発振器とを共通化してもよい。
【0163】
また、上述した実施形態では、光路の異なる3つのレーザ光を生成するために1台のレーザ光源と3台の光パラメトリック発振器との組み合わせを使用したが、1台の光パラメトリック発振器から波長の異なる2つの光を取り出してそれぞれを利用しても良い。ただし、この場合、2つの光のうち一方の光周波数を変化させると他方の光周波数もそれに伴って変化するため注意が必要である。
【0164】
また、上述した実施形態では、光路の異なる3つのレーザ光を生成するために1台のレーザ光源と3台の光パラメトリック発振器とを使用したが、3台のレーザ光源を使用してもよい。但し、その場合は、3台のレーザ光源はタイミング同期されることが望ましい。
【0165】
また、上述した幾つかの実施形態では、パルスレーザ光の強度を時間方向にかけて変調するために音響光学変調器15を使用したが、電気光学素子と偏光子との組み合わせを使用してもよい。
【0166】
また、上述した幾つかの実施形態では、パルスレーザ光の強度を時間方向にかけて変調するために音響光学変調器15を使用したが、パルスレーザ光の繰り返し周波数を制御してもよい。
【0167】
例えば、第1実施形態又は変形例においては、光周波数ω
1のパルスレーザ光の繰り返し周波数frep1を、光周波数ω
2のパルスレーザ光の繰り返し周波数frep2の1/m倍に設定し、かつ、ロックイン検出の検出周波数をfrep1に設定してもよい(但し、mは2以上の整数)。
【0168】
また、上述した幾つかの実施形態又は変形例(ロックイン型)では、試料20に照射される光の強度を時間方向にかけて変調したが、試料20に照射される光の他の特性、例えば、位相、偏光、光周波数の何れかを時間方向にかけて変調してもよい。
【0169】
また、上述した幾つかの実施形態又は変形例(ロックイン型)では、試料20に照射される光の強度を時間方向にかけて変調するために、試料20に向かう光の偏光を時間方向にかけて変調すると共に、変調された光の光路のうち試料20の上流側に検光子を配置してもよい。
【0170】
因みに、上述した幾つかの実施形態又は変形例(ロックイン型)において、試料20に向かう光の位相を時間方向にかけて変調したならば、試料20に照射されるパルスレーザ光のパルス間隔が時間変化する。
【0171】
また、上述した幾つかの実施形態又は変形例(ロックイン型)において、エネルギー準位変化を伴う光学過程(誘導放出、CARS、CSRS、SRS、2光子吸収など)が生起するか否か、すなわち信号光が生起するか否かは、試料20に照射される光の光周波数に依存する。このため、試料20に照射される光の光周波数を時間方向にかけて変調すれば、信号光の強度に変調が転写されることは明らかである。つまり、信号光をロックイン検出可能であることは明らかである。
【0172】
また、上述した幾つかの実施形態又は変形例(ロックイン型)では、試料20に照射される3つの光のうち1つの光の特性を時間方向にかけて変調したが、3つの光のうち少なくとも2つの光の特性を、時間方向にかけて互いに異なる変調周波数で変調してもよい。
【0173】
また、上述した何れかの実施形態又は変形例では、透過型の顕微鏡を説明したが、反射型の顕微鏡にも本発明は適用可能である。
【0174】
また、上述した第1実施形態〜第4実施形態又は変形例では、観察対象面P
0へ同時に形成される光スポットの個数(すなわち観察対象点の個数)を単数としたが、複数としてもよい。観察対象点の個数を複数化すれば、観察対象面P
0の全体を光スポットで(観察対象点で)スキャンするのに要する時間を短縮することができる。
【0175】
また、上述した第1実施形態〜第4実施形態又は変形例では、面内分解能を向上させるために面内方向における光スポットの形状をドーナツ状にしたが、光軸方向の分解能を向上させるために光軸方向における光スポットの形状をドーナツ状にしてもよい。そのためには、中央の円形領域と周辺のリング領域との間にπ[rad]の位相差が付与された位相板18’を使用すればよい(位相板18’は不図示)。前述した誘導放出、励起状態吸収、GSD、2光子吸収、SRS、CARS、CSRSが発生するのは光強度の高い集光点のみに制限されるため、上述した第1実施形態〜第4実施形態又は変形例では高いセクショニング能力(光軸方向の分解能)が得られるが、そのセクショニング能力は本手法の適用により更に向上する。
【0176】
また、面内方向における光スポットの形状がドーナツ状である光(位相板18により生成される)と、光軸方向における光スポットの形状がドーナツ状である光(位相板18’により生成される)とを合成したものを、ドーナツ誘導光として使用してもよい。この場合は、面内方向と光軸方向との双方に亘って超解像効果を得ることができる。
【0177】
これを実現するためには、位相板18により位相変化を受けた光と、位相板18’により位相変化を受けた光とを、ビームスプリッタや偏光ビームスプリッタ等の光合成素子で合成し、合成された光を試料に向けて対物レンズで集光すれば良い。
【0178】
また、上述した第1実施形態〜第4実施形態又は変形例では、無染色試料の観察に本発明を適用した場合を説明したが、染色された蛍光試料、染色された非蛍光試料など、他の試料の観察にも本発明は適用可能である。また、バイオ観察のみでなく、例えば材料観察などの他種の観察にも本発明は適用可能である。
[実施形態の作用効果]
上述した何れかの実施形態又は変形例(誘導放出顕微鏡、CARS顕微鏡、CSRS顕微鏡、SRS顕微鏡、2光子吸収顕微鏡)は、観察対象(試料20)の第1領域(励起光スポットAe)に第1光周波数ω
1を有した第1照明光(励起光)を集光し、前記第1領域(照射領域Ae)と部分的に重複する第2領域(ドーナツ誘導光スポットAd)に第2光周波数ω
2’を有した第2照明光(ドーナツ誘導光)を集光し、前記第1領域(励起光スポットAe)のうち前記第2領域(ドーナツ誘導光スポットAd)と重複しない非重複領域(Am)を含む第3領域(円形誘導光スポットAo)に第3光周波数ω
2を有した第3照明光(円形誘導光)を集光する照明光学系(パルスレーザ光源11、光パラメトリック発振器141、142、143、位相板18、対物レンズ19)と、前記第1領域(励起光スポットAe)及び前記第2領域(ドーナツ誘導光スポットAd)及び前記第3領域(円形誘導光スポットAo)の全体(光スポット)で発生した光から、前記非重複領域(Am)に存在する物質のエネルギー準位変化に応じて生じた信号光(誘導放出光、CARS光、SRS光、2光子吸収による光の減少分)を抽出する抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25、偏光子41、1/4波長板51、波長選択フィルタ22、1/4波長板60、検出光子70など)とを備える。
【0179】
したがって、上述した何れかの実施形態又は変形例(誘導放出顕微鏡、CARS顕微鏡、CSRS顕微鏡、SRS顕微鏡、2光子吸収顕微鏡)は、前記照明光学系の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さな前記非重複領域(Am)を、前記信号光(誘導放出光、CARS光、CSRS光、SRS光、2光子吸収による光の減少分)の検出元とすることができる。
【0180】
また、第1実施形態又は変形例(誘導放出顕微鏡)における前記照明光学系(パルスレーザ光源11、光パラメトリック発振器141、142、143、位相板18、対物レンズ19)は、前記観察対象(試料20)に対して前記第1照明光(励起光)、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)、前記第3照明光(円形誘導光)を順次に照射し、前記抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25、偏光子41、1/4波長板51、波長選択フィルタ22、検出光子70)は、光周波数ω
2を有した前記信号光(誘導放出光)を抽出する。
【0181】
また、第1実施形態(誘導放出顕微鏡)における前記抽出部(信号発生器26、ロックインアンプ25)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第1照明光(励起光)の特性を時間方向にかけて周波数f
1で変調すると共に、前記全体(光スポット)で発生した光を周波数f
1でロックイン検出することにより、抽出される前記信号光(誘導放出光)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0182】
また、第1実施形態(誘導放出顕微鏡)における前記照明光学系は、前記第1照明光(励起光)と前記第2照明光(ドーナツ誘導光)とを同時に照射した後に前記第3照明光(円形誘導光)を照射する、あるいは前記第1照明光(励起光)と前記第3照明光(円形誘導光)との間にエネルギー換算で3600cm
−1以上の波長差を付与した状態で前記第1照明光(励起光)と前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と前記第3照明光(円形誘導光)とを同時に照射し、前記抽出部は、光周波数ω
2を有した前記信号光を抽出する。
【0183】
また、第1実施形態の超解像観察装置(誘導放出顕微鏡)における前記抽出部(光パラメトリック発振器142、143、波長選択フィルタ22)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と前記第3照明光(円形誘導光)との間に光周波数差を与えると共に、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と同じ光周波数(ω
2’)の光を前記観察対象(試料20)の下流側でカットすることにより、抽出される前記信号光(誘導放出光)に対する前記第2照明光(ドーナツ誘導光)の混入を抑える。
【0184】
また、第1実施形態の変形例(誘導放出顕微鏡)における前記抽出部(偏光子41、検光子70)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と前記第3照明光(円形誘導光)との間に偏光方向差を与えると共に、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と同じ偏光方向の光を前記観察対象(試料20)の下流側でカットすることにより、抽出される前記信号光(誘導放出光)に対する前記第2照明光(ドーナツ誘導光)の混入を抑える。
【0185】
また、第2実施形態又は変形例(CARS顕微鏡)における前記照明光学系(パルスレーザ光源11、光パラメトリック発振器141、142、143、対物レンズ19)は、前記観察対象(試料20)に対して前記第1照明光(励起光)、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)、前記第3照明光(円形誘導光)を同時に照射し、前記抽出部(波長選択フィルタ22)は、光周波数(2ω
1−ω
2)を有した前記信号光(CARS光)を抽出する。
【0186】
また、第2実施形態(CARS顕微鏡)における前記抽出部(偏光子41、検光子70)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と前記第3照明光(円形誘導光)との間に偏光方向差を与えると共に、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)及び前記第3照明光(円形誘導光)の合成偏光方向と同じ偏光方向の光を観察対象(試料20)の下流側でカットすることにより、抽出される前記信号光(CARS光)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0187】
また、第2実施形態の変形例(2周波ロックイン型CARS顕微鏡)では、前記抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第1照明光(励起光)の特性を時間方向にかけて周波数f
1で変調し、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第3照明光(円形誘導光)の特性を時間方向にかけて周波数f
2で変調すると共に、前記全体(光スポット)で発生した光を周波数f
2、|f
1±f
2|、|2f
1±f
2|の何れかでロックイン検出することにより、抽出される前記信号光(CARS光)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0188】
また、第2実施形態の変形例(CSRS顕微)における前記照明光学系(パルスレーザ光源11、光パラメトリック発振器141、142、143、対物レンズ19)は、前記観察対象(試料20)に対して前記第1照明光(励起光)、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)、前記第3照明光(円形誘導光)を同時に照射し、前記抽出部(波長選択フィルタ22)は、光周波数(2ω
2−ω
1)を有した前記信号光(CSRS光)を抽出する。
【0189】
また、第2実施形態(CSRS顕微鏡)における前記抽出部(偏光子41、検光子70)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と前記第3照明光(円形誘導光)との間に偏光方向差を与えると共に、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)及び前記第3照明光(円形誘導光)の合成偏光方向と同じ偏光方向の光を前記観察対象(試料20)の下流側でカットすることにより、抽出される前記信号光(CSRS光)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0190】
また、第2実施形態の変形例(2周波ロックイン型CSRS顕微鏡)では、前記抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第1照明光(励起光)の特性を時間方向にかけて周波数f
1で変調し、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第3照明光(円形誘導光)の特性を時間方向にかけて周波数f
2で変調すると共に、前記全体(光スポット)で発生した光を周波数f
1、|f
2±f
1|、|2f
2±f
1|の何れかでロックイン検出することにより、抽出される前記信号光(CSRS光)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0191】
また、第3実施形態又は第4実施形態及び変形例(SRS顕微鏡又は2光子吸収顕微鏡)における前記照明光学系(パルスレーザ光源11、光パラメトリック発振器141、142、143、位相板18、対物レンズ19)は、前記観察対象(試料20)に対して前記第1照明光(励起光)、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)、前記第3照明光(円形誘導光)を同時に照射し、前記抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25、偏光子41、1/4波長板51、波長選択フィルタ22、検出光子70)は、光周波数ω
2又はω
1を有した前記信号光(SRS光、又は、2光子吸収による光の減少分)を抽出する。
【0192】
また、第3実施形態又は第4実施形態(SRS顕微鏡又は2光子吸収顕微鏡)における前記抽出部(偏光子41、検光子70)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第2照明光(ドーナツ誘導光)と前記第3照明光(円形誘導光)との間に偏光方向差を与えると共に、前記第2照明光(ドーナツ誘導光)及び前記第3照明光(円形誘導光)の合成偏光方向と同じ偏光方向の光を前記観察対象(試料20)の下流側でカットすることにより、抽出される前記信号光(SRS光、又は、2光子吸収による光の減少分)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0193】
また、第3実施形態又は第4実施形態の変形例(2周波ロックイン型SRS顕微鏡又は2周波ロックイン型2光子吸収顕微鏡)における前記抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25)は、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第1照明光(励起光)の特性を時間方向にかけて周波数f
1で変調し、前記観察対象(試料20)へ向かう前記第3照明光(円形誘導光)の特性を時間方向にかけて周波数f
2で時間変調すると共に、前記全体(光スポット)で発生した光を周波数|f
1±f
2|でロックイン検出することにより、抽出される前記信号光(SRS光、又は、2光子吸収による光の減少分)の発生元を前記非重複領域(Am)のみに制限する。
【0194】
また、上述した何れかの実施形態又は変形例(ロックイン型)において、前記抽出部(音響光学変調器15、信号発生器26、ロックインアンプ25)の変調対象である前記特性は、前記光の強度、位相、偏光、光周波数の何れかである。
【0195】
また、上述した何れかの実施形態又は変形例(誘導放出顕微鏡、CARS顕微鏡、CSRS顕微鏡、SRS顕微鏡、2光子吸収顕微鏡)において、前記第1領域(励起光スポットAe)及び前記第3領域(円形誘導光スポットAo)の形状は、円形であり、前記第2領域(ドーナツ誘導光スポットAd)の形状は、輪帯状であり、前記第1領域(励起光スポットAe)の中心と前記第2領域(ドーナツ誘導光スポットAd)の中心と前記第3領域(円形誘導光スポットAo)の中心とは一致する。
【0196】
したがって、上述した何れかの超解像観察装置又は変形例(誘導放出顕微鏡、CARS顕微鏡、CSRS顕微鏡、SRS顕微鏡、2光子吸収顕微鏡)は、観察対象点(非重複領域Am)を、前記照明光学系の解像限界(励起光スポットAeのサイズ)より小さくすることができる。
[その他]
また、上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態及び変形例で引用した装置などに関する全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。