(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記2種類の軟磁性粒子を用いる技術では、予め酸化ケイ素を主成分とする絶縁被膜をそれぞれの軟磁性粒子の表面に形成する必要がある。そして、更に成形用樹脂を混合して造粒する手順を経てから、成形体形成、成形用樹脂を気化させる第1熱処理工程と、酸化相の生成を抑制するために非酸化性雰囲気での第2熱処理工程を行う必要がある。このように従来の2種類の軟磁性粒子を用いた磁心を得るには煩雑な工程が必要であった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みたものであり、製造性に優れ、高透磁率を発揮できる磁心およびその製造方法、ならびに該磁心を用いるコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁心は、Fe系軟磁性合金粉と、
前記Fe系軟磁性合金粉の粒間に介在する酸化物相と
を備え、
前記Fe系軟磁性合金粉は、Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉とを含む。
【0009】
当該磁心では、Fe系軟磁性合金粉としてFe−Si−Al系合金粉とこのFe−Si−Al系合金粉より成形性の良好なFe−Al−Cr系合金粉とを含んでいるので、加圧成形時にFe−Al−Cr系合金粉が塑性変形を起こしてFe−Si−Al系合金粉間の空隙を埋めることができ、密度を高めることができる。これにより、得られる磁心では非磁性である空隙が低減されて透磁率を向上させることができる。
【0010】
前記Fe系軟磁性合金粉より前記酸化物相にAlが濃化しているのが好ましい。何れのFe系軟磁性合金粉にもAlを含んでいるので、Fe系軟磁性合金粉の粒間にはAlを多く含む酸化物相を介在させることができる。これにより、良好な絶縁性を発揮することができる。また、上記酸化物相によりFe系軟磁性合金粉同士を結合することもできる。
【0011】
当該磁心の密度は5.4×10
3kg/m
3以上であることが好ましい。このような範囲まで密度を高めることにより、磁心の強度および透磁率をより向上させることができる。
【0012】
当該磁心では、前記Fe系軟磁性合金粉の平均粒径(d50)が20μm以下であることが好ましい。Fe系軟磁性合金粉の平均粒径を上記範囲とすることで、磁心の高周波における渦電流損失を低減することができる。
【0013】
本発明はまた、当該磁心の製造方法であって、
Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉とを含む混合粉を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を熱処理して前記酸化物相を形成する工程を含む磁心の製造方法に関する。
【0014】
当該製造方法では、Fe−Si−Al系合金粉とこれより成形性の良好なFe−Al−Cr系合金粉とを含む混合粉を成形するので、合金粉間の空隙が充填されて高密度化を図ることができる。また、熱処理によりFe系軟磁性合金粉の粒間にAlを含む酸化物相を形成でき、磁心の絶縁性を高めることができる。
【0015】
本発明には、当該磁心と、前記磁心に設けられたコイルとを備えるコイル部品も含まれる。
【0016】
当該磁心によれば、コイル部品の生産性を向上させることができる。また、高透磁率のコイル部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る磁心を模式的に示す斜視図である。
【
図1B】本発明の一実施形態に係る磁心を模式的に示す正面図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係るコイル部品を模式的に示す平面図である。
【
図2B】本発明の一実施形態に係るコイル部品を模式的に示す底面図である。
【
図3】実施例で作製したトロイダル形状の磁心を模式的に示す斜視図である。
【
図4】実施例における磁心の密度とFe−Al−Cr系合金粉含有量との相関性を示す説明図である。
【
図5】実施例における磁心の圧環強度とFe−Al−Cr系合金粉含有量との相関性を示す説明図である。
【
図6】実施例における磁心の初透磁率とFe−Al−Cr系合金粉含有量との相関性を示す説明図である。
【
図7】実施例における磁心のコアロスとFe−Al−Cr系合金粉含有量との相関性を示す説明図である。
【
図8】実施例における磁心の渦電流損およびヒステリシス損とFe−Al−Cr系合金粉含有量との相関性を示す説明図である。
【
図9】実施例における磁心の比抵抗とFe−Al−Cr系合金粉含有量との相関性を示す説明図である。
【
図10A】実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
【
図10B】実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
【
図10C】実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
【
図10D】実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
【
図10E】実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
【
図10F】実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
【
図11A】実施例の試料No.5の磁心の断面のSEM画像である。
【
図11B】実施例の試料No.5の磁心の断面のSEM画像である。
【
図11C】実施例の試料No.5の磁心の断面のSEM画像である。
【
図11D】実施例の試料No.5の磁心の断面のSEM画像である。
【
図11E】実施例の試料No.5の磁心の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る磁心およびその製造方法、ならびにコイル部品について具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。なお、図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大または縮小等して図示した部分がある。
【0019】
《磁心》
図1Aは、本実施形態の磁心を模式的に示す斜視図であり、
図1Bはその正面図である。磁心1は、コイルを巻回するための円柱状の導線巻回部5と、導線巻回部5の両端部にそれぞれ対向配設された一対の鍔部3a、3bを備える。磁心1の外観はドラム型を呈する。導線巻回部5の断面形状は円形に限らず、正方形、矩形、楕円形等の任意の形状を採用し得る。また、鍔部は導線巻回部5の両端部に配設されていてもよく、一方の端部にのみ配設されていてもよい。
【0020】
本実施形態の磁心は、Fe系軟磁性合金粉と、前記Fe系軟磁性合金粉の粒間に介在する酸化物相とを備え、前記Fe系軟磁性合金粉は、Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉とを含む。前記Fe系軟磁性合金粉より前記酸化物相にAlが濃化している。
【0021】
(Fe−Al−Cr系合金粉)
含有比率の高い三つの主要元素としてFe、CrおよびAlを含むFe−Al−Cr系合金粉の組成は、磁心を構成できるものであれば、特に限定されるものではない。AlおよびCrは耐食性等を高める元素である。また、Alは特に表面酸化物の形成に寄与する。かかる観点から、Fe−Al−Cr系合金粉中のAlの含有量は、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上である。一方、Alが多くなりすぎると飽和磁束密度が低下するため、Alの含有量は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは7.0質量%以下である。Crは上述のように耐食性を高める元素である。かかる観点から、Fe−Al−Cr系合金粉中のCrの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。一方、Crが多くなりすぎると飽和磁束密度が低下し、合金粉が硬くなるため、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下である。
【0022】
上記耐食性等の観点から、CrとAlを合計した含有量は、6.0質量%以上が好ましい。また、表面の酸化物層にはCrに比べてAlが顕著に濃化するため、CrよりもAlの含有量が多いFe−Al−Cr系合金粉を用いることがより好ましい。
【0023】
上記CrおよびAl以外の残部は主にFeで構成されるが、Fe−Al−Cr系合金粉が持つ成形性等の利点を発揮する限りにおいて、他の元素を含むこともできる。ただし、非磁性元素は飽和磁束密度等を低下させるため、かかる他の元素の含有量は1.0質量%以下であることが好ましい。なおSiを多く含むと、Fe−Al−Cr系合金粒子が硬質となるため、本実施形態では、Fe−Al−Cr系合金粉の通常の製造プロセスを経て入り込む不可避的不純物レベル(好ましくは0.5質量%以下)とするのがよい。Fe−Al−Cr系合金粉は、不可避的不純物を除きFe、CrおよびAlで構成されることがさらに好ましい。
【0024】
(Fe−Si−Al系合金粉)
含有比率の高い三つの主要元素としてFe、SiおよびAlを含むFe−Si−Al系合金粉の組成は、磁心を構成できるものであれば、特に限定されるものではない。Fe−Si−Al系合金粉の代表例には、Fe−9.5Si−5.5Alが挙げられる。コアロスが小さくて高透磁率が得られるFe−Si−Al合金中のSiの含有量は、5質量%〜11質量%程度が好ましく、Alの含有量は、3質量%〜8質量%程度が好ましい。この組成のFe−Si−Al合金粒子は、硬質であって、圧縮成形時の圧力で変形し難くなるが、本実施形態では、成形性に優れるFe−Al−Cr系合金粉を混合することで、高密度化しやすく、高透磁率の磁心を効率よく成形することができる。
【0025】
(合金粉の配合割合)
Fe−Si−Al系合金は高透磁率の磁性体であるものの、その硬さからそれを用いた磁心は多くの空隙を含むものとなる。前記空隙は磁路において磁気ギャップとして機能するので、透磁率は空隙の多少によって変化する。これに対し、本実施形態の磁心では、Fe−Al−Cr系合金粉の含有量が多いほど空隙が減じられて磁心の透磁率が高くなるので、Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉との配合割合は、目的とする特性が得られる程度までFe−Al−Cr系合金粉の配合割合を高めればよい。Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉との合計量に対するFe−Al−Cr系合金粉の配合比としては20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。またFe−Al−Cr系合金粉の配合割合が高くなるほど磁心の強度が向上する。Fe−Al−Cr系合金粉の配合比の上限は任意に設定することができ、99.5質量%でもよく、99質量%でもよく、95質量%でもよい。一方でコアロス増加の抑制の観点から、Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉との合計量に対するFe−Al−Cr系合金粉の配合比としては90質量%以下が一層好ましい。
【0026】
(合金粉の平均粒径)
Fe系軟磁性合金粉の平均粒径(ここでは、累積粒度分布におけるメジアン径d50を用いる)は特に限定されるものではないが、平均粒径を小さくすることで磁心の強度、高周波特性が改善されるので、例えば、高周波特性が要求される用途では、20μm以下の平均粒径を有するFe系軟磁性合金粉を好適に用いることができる。メジアン径d50はより好ましくは18μm以下、さらに好ましくは16μm以下である。一方、平均粒径が小さい場合は透磁率が低くなるため、メジアン径d50はより好ましくは5μm以上である。また、篩等を用いて軟磁性合金粉から粗い粒子を除くことがより好ましい。この場合、少なくとも32μmアンダーの(すなわち、目開き32μmの篩を通過した)軟磁性合金粉を用いることが好ましい。
【0027】
Fe系軟磁性合金粉の平均粒径は、稠密な充填とするようにFe−Si−Al系合金粉とFe−Al−Cr系合金粉とで、配合割合等に応じて異ならせても良い。
【0028】
(酸化物相)
本実施形態の磁心では、Fe系軟磁性合金粉の粒間に酸化物相が介在しており、Fe系軟磁性合金粉の領域よりこの酸化物相にAlが濃化している。成形体を熱処理後、走査型電子顕微鏡(SEM/EDX:Scanning Electron Microscope/energy dispersive X−ray spectroscopy)を用いて磁心の断面の観察と各構成元素の分布を調べると、Fe系軟磁性合金粒の粒間に形成された酸化物相ではAlが濃化していることが観察される。酸化物相は主にAl酸化物を主体としてFe、Cr、Siを含む相からなる。ただし、これ以外にも、Fe酸化物、Cr酸化物、Si酸化物を主体とする相が存在していても良い。
【0029】
酸化物相は、後述の熱処理によってFe系軟磁性合金粉が酸化されることで、Fe系軟磁性合金粉の表面に形成されることになる。このとき、Fe−Si−Al合金粉およびFe−Al−Cr系合金粉中のAlが表層に濃化し、前記酸化物相ではそれぞれの合金粉内部の合金相よりもAlの比率が高くなる。かかる酸化物が形成されることによって、軟磁性合金粉の絶縁性および耐食性が向上する。また、かかる酸化物相は、成形体を構成した後に形成されるため、該酸化物相を介した軟磁性合金粉同士の結合にも寄与させることができる。軟磁性合金粉同士が前記酸化物相を介して結合されることで、高強度の磁心が得られる。元素分布はSEM画像にて観察することができる。
【0030】
(磁心の性状)
本実施形態に係る磁心は、成形性に優れ、高い磁心強度及び透磁率を実現する上で好適である。また、その酸化物相によって絶縁性が確保され、磁心として十分なコアロス特性が実現される。
【0031】
磁心の密度は、強度及び透磁率向上の観点から高いほど好ましく、熱処理を経た状態で5.4×10
3kg/m
3以上が好ましく、5.5×10
3kg/m
3以上がより好ましく、5.8×10
3kg/m
3以上がさらに好ましい。本実施形態の磁心では、比較的硬質のFe−Si−Al系合金粉に成形性の良好なFe−Al−Cr系合金粉を配合しているので、成形体での充填率を高めることができ、磁心の高密度化を図ることができる。
【0032】
《磁心の製造方法》
本実施形態の磁心の製造方法は、Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉とを含む混合粉を成形して成形体を得る工程(成形体形成工程)と、前記成形体を熱処理して前記酸化物相を形成する工程(熱処理工程)を含む。使用するFe系軟磁性合金粉はFe−Al−Cr系合金粉およびFe−Si−Al系合金粉であり、熱処理工程によって、Fe系軟磁性合金粉の粒表面に、質量比で内部の合金相よりもAlを多く含む酸化物相を形成する。
【0033】
(成形体形成工程)
CrおよびAlを含むFe−Al−Cr系の合金粉は、Fe−Si−Al系合金粉に比べて塑性変形しやすい。したがって、Fe−Al−Cr系の合金粉は、低い成形圧力でも高い密度と強度を備えた磁心を得ることができる。そのため、成形機の大型化・複雑化も回避することができる。また、低圧で成形できるため、金型の破損も抑制され、生産性が向上する。
【0034】
さらに、軟磁性合金粉としてFe−Al−Cr系の合金粉を用いることにより、後述するように、成形後の熱処理によって軟磁性合金粉の表面に絶縁性の酸化物を形成することができる。したがって、成形前に絶縁性酸化物を形成する工程を省略することが可能であるうえ、絶縁性被覆の形成方法も簡易になるため、かかる点においても生産性が向上する。
【0035】
Fe系軟磁性合金粉の形態は、特に限定されるものではないが、流動性等の観点からアトマイズ粉に代表される粒状粉を用いることが好ましい。ガスアトマイズ、水アトマイズ等のアトマイズ法は、展性や延性が高く、粉砕しにくい合金の粉末作製に好適である。また、アトマイズ法は略球状の軟磁性合金粉を得る上でも好適である。
【0036】
本実施形態では、加圧成形する際、Fe系軟磁性合金粉の混合粉の粒同士を結着させ、成形後のハンドリングに耐える強度を成形体に付与するためにバインダーを添加することが好ましい。バインダーの種類は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等の各種有機バインダーを用いることができる。有機バインダーは成形後の熱処理により、熱分解する。そのため、熱処理後においても固化、残存して粉末同士を結着する、シリコーン樹脂などの無機系バインダーを併用してもよい。ただし、本実施形態に係る磁心の製造方法においては、熱処理工程で形成される酸化物相がFe系軟磁性合金粉の粒同士を結着する作用を奏するため、上記の無機系バインダーの使用を省略して、工程を簡略化することが好ましい。
【0037】
バインダーの添加量は、Fe系軟磁性合金粉間に十分に行きわたり、十分な成形体強度を確保できる量にすればよい。一方、これが多すぎると密度や強度が低下するようになる。かかる観点から、バインダーの添加量は、例えば、Fe系軟磁性合金粉100重量部に対して、0.5〜3.0重量部にすることが好ましい。
【0038】
Fe系軟磁性合金粉として、Fe−Al−Cr系合金粉とFe−Si−Al系合金粉とを準備し、上述の配合割合で両者を混合して混合粉とする。混合粉には必要に応じてバインダーを添加する。本工程における、Fe系軟磁性合金粉とバインダーとの混合方法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている混合方法、混合機を用いることができる。バインダーが混合された状態では、その結着作用により、混合粉は広い粒度分布をもった凝集粉となっている。かかる混合粉を、例えば振動篩等を用いて篩に通すことによって、成形に適した所望の二次粒子径の造粒粉を得ることができる。また、加圧成形時の粉末と金型との摩擦を低減させるために、ステアリン酸、ステアリン酸塩等の潤滑材を添加することが好ましい。潤滑材の添加量は、Fe系軟磁性合金粉100重量部に対して0.1〜2.0重量部とすることが好ましい。潤滑剤は、金型に塗布することも可能である。
【0039】
次に、得られた混合粉を加圧成形して成形体を得る。上記手順で得られた混合粉は、好適には上述のように造粒されて、加圧成形工程に供される。造粒された混合粉は、成形金型を用いて、トロイダル形状、直方体形状等の所定形状に加圧成形される。加圧成形は、室温成形でもよいし、バインダーが消失しない程度に加熱して行う温間成形でもよい。加圧成形時の成形圧は1.0GPa以下が好ましい。低圧で成形することで、金型の破損等を抑制しながら、高磁気特性および高強度を備えた磁心を実現することができる。なお、混合粉の調製方法および成形方法は上記に限定されるものではない。
【0040】
(熱処理工程)
次に、前記成形体形成工程を経て得られた成形体を熱処理する熱処理工程について説明する。成形等で導入された応力歪を緩和して良好な磁気特性を得るために、成形体に対して熱処理が施される。かかる熱処理によって、さらに、Fe系軟磁性合金粉の表面にAlが濃化した酸化物相を形成する。この酸化物相は、熱処理によりFe系軟磁性合金粉と酸素とを反応させ成長させたものであり、Fe系軟磁性合金粉の自然酸化を超える酸化反応により形成される。かかる熱処理は、大気中、酸素と不活性ガスの混合気体中など、酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。また、水蒸気と不活性ガスの混合気体中など、水蒸気が存在する雰囲気中で熱処理を行うこともできる。これらのうち大気中の熱処理が簡便であり好ましい。
【0041】
本工程の熱処理は、上記酸化物相が形成される温度で行えばよい。かかる熱処理によって強度に優れた磁心が得られる。さらに、本工程の熱処理は、Fe系軟磁性合金粉が著しく焼結しない温度で行うことが好ましい。Fe系軟磁性合金粉が著しく焼結すると合金どうしのネッキングによって、Alが濃化した(Alの比率が高い)酸化物相の一部が合金相に取り囲まれてアイランド状に孤立化するようになる。そのため、軟磁性合金粉の母体の合金相同士を隔てる酸化物相としての機能が低下し、コアロスも増加するようになる。具体的な熱処理温度は、600〜900℃の範囲が好ましく、700〜800℃の範囲がより好ましく、750〜800℃の範囲がいっそう好ましい。上記温度範囲での保持時間は、磁心の大きさ、処理量、特性ばらつきの許容範囲などによって適宜設定され、例えば0.5〜3時間に設定される。
【0042】
(その他の工程)
本実施形態の製造方法では、成形体形成工程や熱処理工程以外の工程を追加することも可能である。例えば、成形体形成工程の前に、熱処理やゾルゲル法等によってFe系軟磁性合金粉に絶縁被膜を形成する予備工程を付加してもよい。ただし、本実施形態に係る磁心の製造方法においては、熱処理工程によってFe系軟磁性合金粉の表面に酸化物相を形成することができるため、上記のような予備工程を省略して製造工程を簡略化することがより好ましい。また、酸化物相自体は塑性変形しにくいので、加圧成形後に上述のAlに富む酸化物相を形成するプロセスを採用することで、加圧成形の際にFe−Al−Cr系合金粉が持つ高い成形性を有効に利用することができる。
【0043】
《コイル部品》
図2Aは、本実施形態のコイル部品を模式的に示す平面図であり、
図2Bはその底面図であり、
図2Cは、
図2AにおけるA−A’線一部断面図である。コイル部品10は、磁心1と、磁心1の導線巻回部5に巻き付けられたコイル20を備える。磁心1の鍔部3bの実装面にはその重心を挟んで対象位置にある縁部に金属端子50a、50bが設けられており、実装面からはみ出す金属端子50a、50bの一方の自由端部はそれぞれ磁心1の高さ方向に直角に立ち上がっている。これらの金属端子50a、50bの立ち上がった自由端部のそれぞれとコイルの端部25a、25bとがそれぞれ接合されることで、両者の電気的接続が図られている。このような磁心とコイルとを有するコイル部品は、例えばチョーク、インダクタ、リアクトル、トランス等として用いられる。
【0044】
磁心は、上述のようにバインダー等を混合した軟磁性合金粉末だけを加圧成形した磁心単体の形態で製造してもよいし、内部にコイルが配置された形態で製造してもよい。後者の構成は、特に限定されるものではなく、例えば軟磁性合金粉末とコイルとを一体で加圧成形する手法や、あるいはシート積層法や印刷法といった積層プロセスを用いたコイル封入構造の磁心の形態で製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0046】
<磁心の作製>
以下のようにして、磁心を作製した。Fe系軟磁性合金粉として、Fe−Al−Cr系合金粉およびFe−Si−Al系合金粉(エプソンアトミックス製「合金パウダーPF18」)を用いた。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)で測定した軟磁性合金粉の平均粒径(メジアン径d50)は、Fe−Al−Cr系合金粉で16.8μm、Fe−Si−Al系合金粉で9μmであった。Fe−Al−Cr系合金粉は粒状のアトマイズ粉であり、その組成は質量百分率でFe−5.0%Al−4.0%Crであった。また、Fe−Si−Al系合金粉は粒状のアトマイズ粉であり、その組成は質量百分率でFe−9.8%Si−6.0%Alであった。
【0047】
Fe−Al−Cr系合金粉およびFe−Si−Al系合金粉を所定の配合割合で混合し、前記混合粉100重量部に対して、エマルジョンのアクリル樹脂系のバインダー(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP−604 固形分40%)を2.5重量部の割合で混合した。この混合粉を120℃で10時間乾燥し、乾燥後の混合粉を篩に通して造粒粉を得た。この造粒粉に、軟磁性合金粉末100重量部に対して0.4重量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加、混合して成形用の混合物を得た。
【0048】
得られた混合粉は、プレス機を使用して、0.91GPaの成形圧で室温にて加圧成形し、
図3に示すトロイダル形状の成形体を得た。この成形体に、大気中、750℃の熱処理温度で1時間の熱処理を施し、磁心を得た(試料No.1〜No.4)。磁心の外形寸法は、外径φ13.4mm、内径φ7.74mm、高さ4.3mmであった。
【0049】
比較のために、軟磁性合金粉末として、Fe−Al−Cr系合金粉を配合せずにFe−Si−Al系合金粉のみを用いて、同様の条件で混合、加圧成形、熱処理し、同形状かつ同寸法の磁心を得た(試料No.5)。
【0050】
<評価>
以上の工程により作製した各磁心について以下の評価を行った。評価結果を表1及び
図4〜9、10A〜10F及び11A〜11Eに示す。
図4〜9は、実施例における各評価項目のFe−Al−Cr系合金粉含有量への相関性を示す説明図である。
図10A〜10Fは、実施例の試料No.3の磁心の断面のSEM画像である。
図11A〜11Eは、実施例の試料No.5の磁心の断面のSEM画像である。
【0051】
(密度の測定)
各磁心の密度(kg/m
3)をその寸法および質量から算出した。
【0052】
(圧環強度の測定)
トロイダル形状の磁心の外周側面から直径方向に荷重をかけ、破壊時の最大加重P(N)を測定し、次式から圧環強度σr(MPa)を求めた。
σr=P(D−d)/(Id
2)
(ここで、D:コアの外径(mm)、d:コアの肉厚(mm)、I:コアの高さ(mm)である。)
【0053】
(透磁率(初透磁率μi)の測定)
トロイダル形状の磁心に導線を30ターン巻回してコイル部品とし、周波数100kHzでヒューレット・パッカード社製4285AによりインダクタンスLを測定して初透磁率μiを次式により算出した。
初透磁率μi=(le×L)/(μ
0×Ae×N
2)
(le:磁路長(m)、L:試料のインダクタンス(H)、μ
0:真空の透磁率=4π×10
−7(H/m)、Ae:磁心の断面積(m
2)、N:コイルの巻数)
【0054】
(磁心損失(コアロス)の測定)
トロイダル形状の磁心に、一次側と二次側それぞれ巻線を15ターン巻回してコイル部品とし、岩通計測株式会社製B−HアナライザーSY−8232により、最大磁束密度30mT、周波数300kHzの条件で測定した。
【0055】
(比抵抗の測定)
円板状(外径φ13.5mm、厚み4mm)の磁心を被測定物として作製し、その対向する二平面に導電性接着剤を塗り、乾燥・固化の後、被測定物を電極の間にセットした。電気抵抗測定装置(株式会社エーディーシー製8340A)を用いて、50Vの直流電圧を印加し、抵抗値R(Ω)を測定した。被測定物の平面の面積A(m
2)と厚みt(m)とを測定し、次式により比抵抗ρ(Ωm)を算出した。
比抵抗ρ(Ωm)=R×(A/t)
【0056】
(組織観察、組成分布)
トロイダル形状の磁心を切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)により観察した(倍率:2000倍)。
【0057】
【表1】
【0058】
表1および
図4〜6に示すようにFe−Al−Cr系合金粉およびFe−Si−Al系合金粉を用いて作製したNo.1〜No.4の磁心は、Fe−Si−Al系合金粉単独を用いたNo.5の磁心に比べて、圧環強度および透磁率が大幅に高くなった。上記実施例に係る構成が、優れた圧環強度および透磁率を得るうえできわめて有利であることが分かった。すなわち、上記実施例に係る構成によれば、簡易な加圧成形によって高強度かつ高透磁率を有する磁心を提供できた。また、
図4〜6からFe−Al−Cr系合金粉の配合割合と圧環強度および透磁率との相関性も確認されるので、Fe−Al−Cr系合金粉の配合割合を調整するだけで目的とする特性を有する磁心を効率的に作製することができる。
【0059】
なお、Fe−Al−Cr系合金粉の配合割合の増加に伴い、コアロス(特にヒステリシス損)が増加しているものの、いずれも500kW/m
3以下であり実用上問題なく利用可能なレベルであった。また、Fe−Al−Cr系合金粉の配合割合の増加に伴い、比抵抗が低下しているものの、いずれも5kΩm以上であり実用上問題なく利用可能なレベルであった。
【0060】
No.3の磁心について、走査電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いた断面観察の評価結果を
図10Aに示し、各構成元素の分布の評価結果を
図10B〜10Fに示す。
図10Aに示すように、Fe−Al−Cr系合金粉を含んでいるので、合金粉が塑性変形している領域が多くみられ、これにより合金粉間の空隙が低減して合金粉同士の密着性が高まっていることが分かる。
【0061】
図10B〜10Fはそれぞれ、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)、O(酸素)、Si(ケイ素)、Cr(クロム)の分布を示すマッピングである。明るい色調ほど対象元素が多いことを示す。従って、本実施例におけるAlの濃化の判断は、元素分布の観察像において、合金粉が占める領域でのAlの輝度より酸化物相が占める領域でのAlの輝度が高いか否かに基づいて目視で簡易的に行うことができる。また、Alの濃化の有無や程度を定量的に評価する場合には、SEM/EDXで測定時間をより長くするなどして合金粉内と酸化物相内の必要箇所についてAl組成を詳細分析することによっても知ることができる。
図10Dから、Fe系軟磁性合金粉の表面には酸素が多く、酸化物が形成されていること、および各Fe系軟磁性合金粉同士がこの酸化物を介して結合している様子がわかる。また、
図10Cから、Alは軟磁性合金粉の表面での濃度が顕著に高くなっている。これらのことから、軟磁性合金粉の表面に、内部の合金相よりもAlの比率が高い酸化物相が形成されていることが確認された。
【0062】
これに対し、No.5の磁心について、走査電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いた断面観察の評価結果を
図11Aに示すが、硬質で成形性に乏しいFe−Si−Al系合金粉のみを用いているので、合金粉間の空隙が多くみられ、合金粉同士の密着性が低いことが分かる。