特許第6365747号(P6365747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365747
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/04 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   G02B7/04 D
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-155405(P2017-155405)
(22)【出願日】2017年8月10日
(62)【分割の表示】特願2012-226551(P2012-226551)の分割
【原出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2017-199037(P2017-199037A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】堺 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】内堀 駿
【審査官】 草野 顕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−119081(JP,A)
【文献】 特開平08−240762(JP,A)
【文献】 特開平10−020178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 − 7/16
G03B 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸を中心に回転可能な操作部と、
前記操作部に固定され、前記操作部の回転に連動して前記光軸を中心に回転する第1部材及び第2部材と、
前記操作部の回転に伴う前記第1部材の回転に連動して、前記光軸を中心に回転するカム筒と、を備え、
前記光軸を中心とした周方向における前記第2部材の一端は前記操作部が第1方向へ回転する際に前記カム筒と接触し、前記第2部材の他端は前記操作部が第2方向へ回転する際に前記カム筒との間に隙間を有する
レンズ鏡筒。
【請求項2】
前記カム筒は、前記操作部が前記第1方向に回転すると前記第1部材及び前記第2部材に連動して回転し、前記操作部が第2方向に回転すると前記第1部材のみに連動して回転する
請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記操作部の回転によって光軸方向に移動するレンズを備え、
前記操作部が前記第1方向に回転すると、前記レンズは前記第1部材又は前記第2部材から遠ざかる方向へ移動する
請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
前記操作部が前記第2方向に回転すると、前記レンズは前記第1部材又は前記第2部材に近づく方向へ移動する
請求項3に記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記操作部の回転によって光軸方向に移動する第1レンズと、
前記第1レンズとは異なる第2レンズと、を備え、
前記操作部が前記第1方向に回転すると、前記第1レンズと前記第2レンズとの距離は大きくなる
請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項6】
前記操作部が前記第2方向に回転すると、前記第1レンズと前記第2レンズとの距離は小さくなる
請求項5に記載のレンズ鏡筒。
【請求項7】
前記第1部材と前記第2部材とは、前記光軸を基準として非対称の位置に配置されている
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレンズ鏡筒を備える撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒、撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラ等に用いられる結像光学系を備えるレンズ鏡筒では、光学系を構成する一部のレンズ(群)を光軸方向に移動操作して結像位置や焦点距離を変更可能に構成される。
レンズの移動操作構造としては、移動方向を案内するガイドを備える固定環に、周方向において光軸方向の位置が変位するカム溝を備えるカム環を相対回転可能に嵌合配置する共に、内部に収容されたレンズを保持する保持部材に突設されたカムフォロアピンをカム溝と直進溝とに連通させ、カム環をレンズ鏡筒の外周に設けられた操作環で操作部材を介して回転操作することで、レンズをカム溝で直進溝に沿って移動させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−276219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、移動レンズを備えるレンズ鏡筒では、移動レンズの移動によって重量バランスや重心位置が変化するために、移動レンズの移動範囲内における位置および移動方向によって移動レンズの傾きが異なる場合がある。
【0005】
本発明の課題は、移動レンズの移動方向の違いによる移動レンズの傾きの変化を抑制できるレンズ鏡筒、撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレンズ鏡筒は、光軸を中心に回転可能な操作部と、前記操作部に固定され、前記操作部の回転に連動して前記光軸を中心に回転する第1部材及び第2部材と、前記操作部の回転に伴う前記第1部材の回転に連動して、前記光軸を中心に回転するカム筒と、を備え、前記光軸を中心とした周方向における前記第2部材の一端は前記操作部が第1方向へ回転する際に前記カム筒と接触し、前記第2部材の他端は前記操作部が第2方向へ回転する際に前記カム筒との間に隙間を有する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移動レンズの移動方向の違いによる移動レンズの傾きの変化を抑制できるレンズ鏡筒、撮像装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態であるレンズ鏡筒の概略図である。
図2】ズーミングレンズ移動機構の広角端状態を示す図である。
図3図2のA矢視図に相当するズーミングレンズ移動機構を背面側から見た図である。
図4】ズーミングレンズ移動機構の望遠端状態を示す図である。
図5】ズーム操作時におけるレンズの傾きの差を測定した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるレンズ鏡筒1の概略図である。図2は、そのズーミングレンズ移動機構の広角端状態を示す図である。図3は、図2のA矢視図に相当するズーミングレンズ移動機構を背面側から見た図である。図4は、ズーミングレンズ移動機構の望遠端状態を示す図である。図5は、ズーム操作時における第2レンズ群および第3レンズ群の傾きの差を測定した実験結果を示すグラフである。
【0010】
なお、以下の各図には、説明と理解を容易にするために、XYZ直交座標系を設けた。この座標系では、撮影者が光軸OAを水平として横長の画像を撮影する場合のカメラの位置(以下、正位置という)において撮影者から見て左側に向かう方向をXプラス方向とし、正位置において上側に向かう方向をYプラス方向とする。また、正位置において被写体に向かう方向をZプラス方向とする。このZプラス方向を前面側、Zマイナス方向を背面側とも呼称する。さらに、光軸OA(すなわちZ軸)と平行な方向の移動を「直進」、光軸OAを中心とする回動を「回転」と呼称する。
【0011】
レンズ鏡筒1は、焦点距離を可変調整可能ないわゆるズームレンズであって、外装外筒10の内部に、撮影光学系を構成する複数のレンズ群(L1〜L4)と、図示しないが絞り等の光学要素を備えて構成されている。
外装外筒10の外周には、ズーム操作環11が回転可能に設けられており、このズーム操作環11を回転操作することで、内装されたズーミングレンズである第2レンズ群L2および第3レンズ群L3が光軸OA方向に移動して焦点距離が変化するようになっている。
【0012】
本実施形態におけるレンズ鏡筒1は、いわゆる交換レンズであって、図1に2点鎖線で示すように、図中右側の端部である基端部に構成されたレンズマウントLMによってカメラ本体2に着脱可能に装着される。なお、本発明は、このような交換レンズに限らず、カメラ本体と一体に構成されたものに適用しても良い。
【0013】
つぎに、ズーム操作環11の回転操作によって第2レンズ群L2および第3レンズ群L3を光軸OA方向に移動させるズーミングレンズ移動機構について説明する。
図2に示すように、ズーミングレンズ移動機構は、固定環20と、固定環20の内周側に配置されたカム環30と、ズーム操作環11の回転をカム環30に連動させる周方向2カ所に配設された操作部材40U,40Lと、によって構成されている。第2レンズ群L2および第3レンズ群L3は、それぞれレンズ保持枠50,60に保持されており、このレンズ保持枠50,60を介してカム環30の内部に配設されている。
【0014】
固定環20は、所定径で所定長さの円筒状であって、その中心軸を当該レンズ鏡筒1の光軸OAに一致させて、図1に示す外装外筒10およびレンズマウントLMに対して相対移動不能に設けられている。固定環20は、中心軸と平行な長穴状で内外を貫通する直進ガイド21,22を備えている。また、固定環20の背面側端部の内周には、カム環30の背面側端部36と係合しカム環30を光軸方向に所定のがた量に調整するワッシャ70の他端面と係合する小径の受け部23が形成されている。
【0015】
直進ガイド21は、後述するレンズ保持枠50におけるカムフォロアピン51が所定の公差で摺動移動可能に嵌合する幅で中心軸と平行に、第2レンズ群L2の移動範囲に亘る長さに形成されている。
直進ガイド22は、後述するレンズ保持枠60におけるカムフォロアピン61が所定の公差で摺動移動可能に嵌合する幅で中心軸と平行に、第3レンズ群L3の移動範囲に亘る長さに形成されている。
【0016】
直進ガイド21は、レンズ保持枠50におけるカムフォロアピン51と対応し、本実施形態では、周方向に等間隔(120°間隔)で3条形成されている。また、直進ガイド22は、レンズ保持枠60におけるカムフォロアピン61と対応し、本実施形態では周方向に等間隔(120°間隔)で3条形成されている。つまり、固定環20は、6条の直進ガイド21,22を備えているものである。
【0017】
カム環30は、固定環20の内周に所定の公差で嵌合する固定環20と対応する長さの円筒状であって、その前端側の外周に嵌合フランジ31を備えると共に、基端側の周方向2カ所に被操作部32U,32Lを備えている。
被操作部32U,32Lは、カム環30の内周側に一旦屈曲された後、背面側に向けて2つの被操作突起32t,32w(図3に示す)が突出形成されている。
被操作部32U,32Lの周方向における位置は、後述する操作部材40U,40Lの配設位置と対応しており、被操作突起32t,32wの間には、それぞれ操作部材40U,40Lの操作アーム41が嵌入している。
【0018】
また、カム環30は、第2レンズ群L2を移動操作する2群カム溝34と、第3レンズ群L3を移動操作する3群カム溝35と、を備えている。2群カム溝34と3群カム溝35とは、後述するレンズ保持枠50,60におけるカムフォロアピン51,61と対応してそれぞれ周方向に等間隔(120°間隔)で3条形成されている。
2群カム溝34および3群カム溝35は、それぞれレンズ保持枠50,60におけるカムフォロアピン51,61が所定の公差で摺動移動可能に嵌合する幅で内外を貫通し、光軸OA方向の位置がカム環30の周方向において所定の関係で変化するように光軸OAに対して角度を有して形成されている。
そして、カム環30は、固定環20の内周に、嵌合フランジ31が嵌合し背面側の端縁が固定環20の係合部23に係止されて、摺動回転可能且つ光軸OA方向には移動不能として装着されている。
【0019】
2カ所の操作部材40U,40Lは、全く同じ形状であり、側面形状L字状に形成され、長辺側がカム環30を操作する操作アーム41、短辺側が操作アーム41より周方向に広い固定部42となっている。操作部材40U,40Lは、固定部42でズーム操作環11に締着固定され、操作アーム41の先端がカム環30における被操作部32U,32L(被操作突起32t,32wの間)に嵌合して設けられている。これにより、操作部材40U,40Lは、ズーム操作環11の回転に伴ってその回転中心(光軸OA)回りに回動し、被操作部32U,32Lを介してカム環30を回転操作し得るようになっている。
2カ所の操作部材40U,40Lの、周方向における配設位置は、ズーム操作環11の回転中心を挟む対称位置(すなわち周方向に180°離間した位置)を避けて、たとえば、対称位置から30°ずらして設定されている。
【0020】
第2レンズ群L2を保持するレンズ保持枠50と第3レンズ群L3を保持するレンズ保持枠60は、共にカム環30の内部に摺動移動可能に嵌合する外径であって、レンズ保持枠50の外周にはカムフォロアピン51が、レンズ保持枠60の外周にはカムフォロアピン61が、それぞれ周方向に等間隔で3カ所(すなわち120°間隔で)立設されている。
カムフォロアピン51,61は、円柱状であって、その中心軸をレンズ保持枠50,60の径方向に一致させて、レンズ保持枠50,60の外周面に回転自在としてネジによって締着されている。
【0021】
第2レンズ群L2を保持するレンズ保持枠50は、カム環30の内部に摺動移動可能に嵌合し、そのカムフォロアピン51はカム環30の2群カム溝34に摺動移動可能に嵌合して貫通し、先端が固定環20の直進ガイド21に摺動移動可能に嵌合している。カムフォロアピン51は、光軸OAに対して角度を有する2群カム溝34と、光軸OAと平行な直進ガイド21との交点に位置する。
第3レンズ群L3を保持するレンズ保持枠60は、カム環30の内部に摺動移動可能に嵌合し、そのカムフォロアピン61はカム環30の3群カム溝35に摺動移動可能に嵌合して貫通し、先端が固定環20の直進ガイド22に摺動移動可能に嵌合している。カムフォロアピン61は、光軸OAに対して角度を有する3群カム溝35と、光軸OAと平行な直進ガイド22との交点に位置する。
【0022】
上記のように構成されたズーミングレンズ移動機構は、ズーム操作環11を回転操作すると、下記のように作用して、レンズ保持枠50(第2レンズ群L2)およびレンズ保持枠60(第3レンズ群L3)を所定の関係で光軸OA方向に移動させて、焦点距離の変更作用を行う。
【0023】
すなわち、ズーム操作環11の回転操作に伴う操作部材40U,40Lの回動によって、被操作部32U,32Lを介してカム環30が回転する。
カム環30が固定環20に対して回転すると、カム環30の2群カム溝34と固定環20の直進ガイド21との交点、およびカム環30の3群カム溝35と固定環20の直進ガイド22との交点は、それぞれ2群カム溝34および3群カム溝35の形成角度に応じて光軸OA方向に変化する。
【0024】
これにより、レンズ保持枠50のカムフォロアピン51は、カム環30の2群カム溝34によって操作されると共に直進ガイド21によって規定されて(直進ガイド21に沿って)光軸OA方向に移動する。その結果、レンズ保持枠50(第2レンズ群L2)はカム環30内を無回転で光軸OA方向に移動する。
同様に、レンズ保持枠60のカムフォロアピン61は、カム環30の3群カム溝35によって操作されると共に直進ガイド22によって規定されて(直進ガイド22に沿って)光軸OA方向に移動する。その結果、レンズ保持枠60(第3レンズ群L3)はカム環30内を無回転で光軸OA方向に移動する。
【0025】
このように、ズーム操作環11の回転によって第2レンズ群L2と第3レンズ群L3とがそれぞれ2群カム溝34および3群カム溝35の形状によって規定される所定の関係で光軸OA方向に移動し、これによってレンズ鏡筒1における焦点距離が所定の範囲で変化する。
ズーム操作環11の回転位置に対する第2レンズ群L2および第3レンズ群L3の位置(すなわち焦点距離)と、ズーム操作環11の回転方向に対する焦点距離の変化方向とは、2群カム溝34および3群カム溝35によって規定される。
【0026】
本実施形態では、図2に示す第2レンズ群L2がカム環30の前方側に位置すると共に、第3レンズ群L3がカム環30の前後方向中央やや後方寄りに位置する状態で、当該レンズ鏡筒1の焦点距離が最も短い広角端となる設定となっている。
この広角端から、図3中に示すように、ズーム操作環11を背面側から見て時計回りに回転させることで、その回転角度に応じて第2レンズ群L2および第3レンズ群L3がそれぞれ光軸OA方向に移動して、当該レンズ鏡筒1の焦点距離が漸次長く変化する。
そして、図4に示すように、第2レンズ群L2および第3レンズ群L3がカム環30の後方側に接近して位置した状態で、当該レンズ鏡筒1の焦点距離が最も長い望遠端となるように設定されている。
【0027】
上記のようなズーミングレンズ移動機構では、カム環30は、その背面側の端部に設けられた被操作部32を介して回転操作されるため、前端側の端部との間に捻るような力が作用する。このため、ズーム操作の際にカム環30に回転操作力が作用すると、カム環30が固定環20の内部で傾き、その結果、カム環30の保持するレンズ群Lが光軸方向に対して垂直な方向から傾く場合がある。
【0028】
ここで、広角端から望遠端へのズーム操作時と、望遠側から広角側へのズーム操作時とで、カム環30に保持された第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の回転ブレの発生態様(レンズの傾き角度)が異なることがある。これは、以下のごとき理由によるものと推察される。
すなわち、広角端と望遠端とでは、カム環30内における第2レンズ群L2と第3レンズ群L3のそれぞれの位置および両者の相対的な位置関係が異なるため、カム環30全体としての重量バランスや重心位置が変化して、固定環20内におけるカム環30の安定性やカム環30の回転に係る抵抗等も変化する。このため、広角側から望遠側へのズーム操作時と、望遠側から広角側へのズーム操作時とで、カム環30の姿勢が異なり、その結果、カム環30に保持された第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の傾きがズーム操作の往復時において異なる。
【0029】
そこで、本実施形態では、周方向に2つ配設された操作部材40U,40Lによってカム環30を回転操作すると共に、ズーム操作方向によってその操作作用態様を変えることで、ズーム操作の往復時における第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の傾きの違いを抑制する。
図3に示すように、図中上側に位置する操作部材40Uは、その操作アーム41が、時計回り(広角側→望遠側)および反時計回り(望遠側→広角側)のいずれの回転方向においても、カム環30における被操作部32Uの被操作突起32t,32wに当接するように嵌合している。
一方、図中下側に位置する操作部材40Lは、その操作アーム41が、反時計回り(望遠側→広角側)においてはカム環30における被操作部32Lの被操作突起32wに当接し、時計回り(広角側→望遠側)では被操作部32Lの被操作突起32tとの間に隙間:Gが設定されて当接しないようになっている。なお、この被操作部32Lにおける被操作突起32tは機能しないため、これを省いた構成としても良い。
【0030】
このような構成により、ズーム操作環11を図3中時計回りに回転操作して焦点距離を広角側から望遠側に変化させるズーム操作の際には、図3中上側の操作部材40Uの操作アーム41がカム環30における被操作部32Uの被操作突起32tに当接して回転操作するのみで、下側の操作部材40Lは回転操作作用しない。また、ズーム操作環11を図3中反時計回りに回転操作して焦点距離を望遠側から広角側に変化させるズーム操作の際には、上下両方の操作部材40U,40Lのそれぞれの操作アーム41がカム環30における被操作部32U,32Lの被操作突起32wに当接して回転操作する。
【0031】
つまり、広角端では、図2に示すように第2レンズ群L2がカム環30の前方側に位置すると共に第3レンズ群L3がカム環30の前後方向中央やや後方寄りに位置しているためにカム環30の内部における重量分布が平均化しており、重心位置GWはカム環30の光軸方向略中央にある。このため、カム環30は固定環20にバランス良く安定して保持され、後端部において回転操作しても捻れは小さい。従って、広角側から望遠側へのズーム操作の際においては、2つの操作部材40U,40Lによってカム環30を拘束して回転操作するより、1つの操作部材40Uによってカム環30の拘束が少ない状態で回転操作することで、カム環30の姿勢変化(第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の傾き)は少なく自然なものとなる。
【0032】
一方、望遠端では、図4に示すように、第2レンズ群L2および第3レンズ群L3がカム環30の後方側に接近して位置しており、重心位置GTが被操作部32U,32Lに近い。このため、固定環20によるカム環30の前端側の拘束力が小さくなり、この状態で回転操作するとカム環30が捻れて容易に姿勢変化し、第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の傾きが変化する。従って、望遠側から広角側へのズーム操作の際においては、2つの操作部材40U,40Lでカム環30を拘束して安定した回転操作を行うものである。
【0033】
上記のように、広角側から望遠側へのズーム操作の際には、一方の操作部材40Uのみによってカム環30を回転操作し、望遠側から広角側へのズーム操作の際には、両方の操作部材40U,40Lによってカム環30を回転操作することで、ズーム操作の往復時におけるカム環30の姿勢変化(つまり第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の傾き)の差を小さくできる。
【0034】
図5に、構成を種々変更して実験し、ズーム操作の往復時における第2レンズ群L2および第3レンズ群L3の傾きの差を測定した結果のグラフを示す。
図5中において、縦軸はズーム操作の往復時における傾きの差である。横軸に示す構成の内容は下記の通りである。
A:1つの操作部材を備え、この1つの操作部材が両方向のズーム操作時に作用する。
B:2つの操作部材を備え、2つの操作部材が両方向のズーム操作時に作用する構成。
C:2つの操作部材を備え、広角側から望遠側へのズーム操作の際には2つの操作部材が作用し、望遠側から広角側へのズーム操作の際には1つの操作部材のみが作用する構成。つまり、本発明とは作用を逆とした構成である。
D:本実施形態に係る構成。つまり、2つの操作部材を備え、望遠側から広角側へのズーム操作の際には2つの操作部材が作用し、広角側から望遠側へのズーム操作の際には1つの操作部材のみが作用する構成である。
【0035】
図5からわかるように、図中Dで示す本実施形態に係る構成では、他の構成に比較してズーム操作の往復時における第2レンズ群L2および第3レンズ群L3の傾きの差が有意に小さいと認められ、効果が実証されたものである。
【0036】
以上、本実施形態によると、以下の効果を有する。
(1)レンズ鏡筒1は、ズーミングレンズである第2レンズ群L2および第3レンズ群L3を保持すると共に移動操作するカム環30を回転操作する操作部材40U,40Lを周方向に2つ備えており、焦点距離を広角側から望遠側に変化させるズーム操作の際には一方の操作部材40Uがカム環30を回転操作するのみで他方の操作部材40Lは回転操作作用せず、望遠側から広角側に変化させるズーム操作の際には、両方の操作部材40U,40Lがカム環30を回転操作するように構成されている。これにより、ズーム操作の往復時におけるズーミングレンズ(第2レンズ群L2と第3レンズ群L3)の傾きの差を小さくできる。
【0037】
(2)2つの操作部材40U,40Lの周方向における配設位置は、ズーム操作環11の回転中心を挟む対称位置(すなわち周方向に180°離間した位置)を避けて設定されている。これにより、操作部材40U,40Lが鉛直方向に一直線に配列することで、カム環30がガタの範囲で自重落下することによって生ずる姿勢変化(第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の傾き)を防ぐことができる。
【0038】
(変形形態)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)上記実施形態では、望遠側から広角側へのズーム操作の際には2つの操作部材40U,40Lが作用し、広角側から望遠側へのズーム操作の際には1つの操作部材40Uのみが作用する。この操作方向(望遠側から広角側へ、または広角側から望遠側へ)と操作部材40U,40Lの作用の関係は、本実施形態の操作方向に限定されるものではなく、カム環30の内部におけるレンズの移動に伴う重量バランスや重心位置の変化に基づいて設定されるものである。従って、操作方向と操作部材40U,40Lの作用の関係が逆となっても良い。
【0039】
(2)上記実施形態は、本発明をズーミングレンズの移動機構に適用したものであるが、これに限らず、たとえばフォーカシングレンズの移動機構に適用しても良い。
(3)レンズ群の数や構成は、上記実施形態に限定されず、適宜変更可能なものである。(4)上記実施形態は、本発明をカメラ本体に着脱可能な交換レンズに適用したものであるが、本発明はカメラ本体と一体に構成されたレンズ鏡筒に適用しても良い。また、カメラ本体の形式も、図1に示すペンタプリズムを備えるものに限定されるものではない。
【0040】
また、上記実施形態および変形形態は適宜に組み合わせて用いることができるが、各実施形態の構成は図示と説明により明らかであるため、詳細な説明を省略する。さらに、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0041】
1:レンズ鏡筒、11:ズーム操作環、20:固定環、21,22:直進ガイド、30:カム環、32U,32L:被操作部、34:2群カム溝、35:3群カム溝、40U,40L:操作部材、L2:第2レンズ群、L3:第3レンズ群
図1
図2
図3
図4
図5