(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記放電サイクルの3サイクル目に得られる放電容量の50%放電時における正負極電位に対し、終止電位時の正負極電位変化率が正極よりも負極が大きいものである請求項1又は2記載の使用方法。
前記ケイ素系活物質が、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用方法。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、更なる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量の更なる向上が求められている。
電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
負極活物質材としてのケイ素材の開発は、ケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。
また、活物質形状は、炭素材では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。
負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じると共に、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成について下記のようなさまざまな検討がなされている。
【0008】
i.良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。
ii.高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。
iii.サイクル特性を改善すると共に高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。
iv.サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
v.初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO
2、M
yO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。
vi.サイクル特性改善のため、SiO
x(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。
vii.サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。
viii.電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。
ix.サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
x.サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm
-1及び1580cm
-1にブロードなピークが現れると共に、それらの強度比I
1330/I
1580が1.5<I
1330/I
1580<3となっている。
xi.高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば特許文献11参照)。
xii.過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
xiii.高い電池容量、サイクル特性の改善のため、ケイ素と炭素の混合電極を作製し、ケイ素比率を5wt%以上13wt%以下で設計している(例えば特許文献13参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。
この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
しかしながら、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電池容量の増加、サイクル特性及び初期充放電特性を向上させることが可能な負極電極を用いた非水電解質二次電池の使用方法及び非水電解質二次電池用負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、非水電解質二次電池用負極における負極活物質として、少なくともケイ素系活物質(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含むと共に、前記ケイ素系活物質を含んだ負極電極を用いた非水電解質二次電池について、単位面積あたり0.7mA/cm
2の電流量で2回目の放電を行い、得られる電池容量の1/5に相当する電流量で電池放電を行ったとき(3回目)に対して、20倍以上の電流量で放電サイクルを行う非水電解質二次電池の使用方法を提供する。
なお、本発明において、3回目の放電を行ったときの20倍以上の電流量で放電サイクルを始めたときを1サイクル目とする。
【0014】
このような二次電池に使用されるケイ素酸化物は放電電位約0.65V近辺の変曲点より高い電位において、リチウムシリケートの一部が分解され、電池サイクル特性を低下させる。本充放電条件を用いて電池サイクル試験を行うことで、シリケートの分解を抑制することが可能であるため、電池サイクル特性を向上させることができる。本二次電池はハンドドリルに代表される高出力型電池に最も適しており、ケイ素材の容量向上効果と共に、長期サイクルを実現する二次電池となる。
【0015】
このとき、20倍以上の電流量で放電することで電池特性を飛躍的に改善することができる。但し、10倍程度でも改善することが可能となるが、一般的な電池試験である500サイクル近辺まで寿命を延長することができない。市販電池、特に炭素系を主流として用いた高出力型電池に比べ、類似した電池特性を実現するためには20倍以上が望ましい。
【0016】
特に40倍以上で使用することで負極側の寿命を大幅に延命することが可能となる。また80倍を超えると、正極側の影響が無視できなくなり電池特性を低下させることとなる。しかしながら、これは本発明で実施した正極材及び正極組成における評価であり、より改善された材料、組成を用いることで電流量範囲を増加することも可能である。
【0017】
本電池充放電終止電位は、負極律束であることが望ましい。特に高出力系電池において、正極側の電池降下を用いて電池終止を行う場合、容量が不安定になるばかりでなく、電池劣化も進むおそれがある。そのため、3サイクル目に得られた電池容量の半分に値する電池容量を放電した時の電位に対し、電池終止電位における正負極電位の変化率は負極の方が正極よりも大きいことが望ましい。電池終止電位は負極の変化寄与が大きいこととなる。
なお電位規定は3サイクル目の低レート放電時における電位変化を用いる。
【0018】
負極利用率は90%以上99%以下が望ましい。99%を超えると負極側でLi析出が発現しやすくなる。また90%を下回ると、電池容量低下が無視できなくなる。
負極利用率は以下の式で得られる。
[正極充電容量(対Li:電池充電電位+0.05Vで得られる正極容量)−負極不可逆容量(対Li:0V−1.2Vの範囲で得られる負極不可逆容量)]/負極可逆容量(対Li:0V−1.2V範囲で得られる負極放電容量)
【0019】
ケイ素酸化物は不可逆容量が大きく、炭素材に置換する量が多くなると可逆リチウム量が低下するため、効率改善が必須となる。特にケイ素酸化物のバルク内部にリチウムシリケートを予め生成することで、電池充電時に消失するリチウムを補填することが可能となる。
リチウム補填方法は特に限定することはないが、熱ドープ法、電気化学法、酸化還元法などが挙げられる。熱ドープ法はLiHなどと混合し、加熱することで得ることができる。電気化学法は電気化学的に電位制御を用いて必要なLiを挿入・脱離することができる。酸化還元法では、例えばナフタレンなどに溶解したリチウムを用いてリチウム補填を行うことができる。
【0020】
特に炭素系活物質とケイ素系活物質との総量(負極活物質に対するケイ素系活物質)の置換量として、6wt%以上が好ましい。少量添加である場合、ケイ素酸化物の容量寄与率が小さいだけでなく、負極の微視的な容量増減が発現するため、対極である正極側に負極容量に応じた微視的な電位変化が生じやすくなる。
具体的には、例えば、ケイ素酸化物の充電容量が2200mAh/gに対し、炭素系活物質が350mAh/gである場合、微視的にケイ素酸化物が分散した状況下において、対抗する正極は規定された電池電位に到達するまでLiを抜き取ることとなり、当初予定していた到達電位を上回る高充電電圧となる。そのため、分散状態を緩和するためにケイ素酸化物を負極活物質層中に均一分散することが必要となる。
【0021】
ケイ素系活物質の
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られるケミカルシフト値として、リチウムシリケートに起因するピーク強度Aと二酸化ケイ素に起因するピーク強度Bの比がA>Bであることが望ましい。不可逆容量の一部として二酸化ケイ素領域を予めリチウムシリケートへ置換することで、初期効率の高いケイ素系活物質の作製が可能となる。
【0022】
またこのとき、前記ケイ素系活物質と炭素系活物質とを混合した負極活物質を使用して作製した負極電極と対極リチウムとからなる試験セルを充放電し、放電容量Qを前記対極リチウムを基準とする前記負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと前記電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、前記ケイ素系活物質がリチウムを脱離するよう電流を流す放電時における前記負極電極の電位Vが0.40〜0.55Vの範囲にピークを有するものであることが好ましい。
【0023】
V−dQ/dV曲線における上記のピークはケイ素材のピークと類似しており、より高電位側における放電カーブが鋭く立ち上がるため、電池設計を行う際、容量発現しやすくなる。
【0024】
このとき、前記ケイ素系活物質が、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズ(Si(111)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求められる)が7.5nm以下であることが好ましい。このような半値幅及び結晶子サイズを有するケイ素系活物質は、結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、電池特性を向上させることができる。
【0025】
以上のことから、本発明は、下記の非水電解質二次電池の使用方
法を提供する。
〔1〕
正極と、SiO
x(但し、0.5≦x≦1.6)で示されるケイ素酸化物を主成分とするケイ素系活物質を含む負極活物質を用いた負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池の使用方法であって、前記電池について負極の単位面積あたり0.7mA/cm
2の電流量で2回目の放電を行って得られる電池容量の1/5に相当する電流量で3回目の電池放電を行ったときの20倍以上の電流量で放電サイクルを行うことを特徴とする非水電解質二次電池の使用方法。
〔2〕
3回目の電池放電時における電流量の40倍以上80倍以下の電流量で放電サイクルを行う〔1〕記載の使用方法。
〔3〕
前記放電サイクルの3サイクル目に得られる放電容量の50%放電時における正負極電位に対し、終止電位時の正負極電位変化率が正極よりも負極が大きいものである〔1〕又は〔2〕記載の使用方法。
〔4〕
負極利用率が90%以上99%以下である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の使用方法。
〔5〕
ケイ素系活物質が、ケイ素酸化物の内部にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4のうち少なくとも1種を含むものであり、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比が6質量%以上である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の使用方法。
〔6〕
前記ケイ素系活物質が、
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られるケミカルシフト値として−75ppm付近に与えられるLi
2SiO
3に由来するピークの強度Aと、−95〜−150ppmに与えられるSiO
2領域に由来するピークの強度Bとが、A>Bの関係を満たす〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の使用方法。
〔7〕
前記ケイ素系活物質が、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の使用方法。
〔8〕
前記ケイ素系活物質が、導電性炭素で被覆されている〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の使用方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の非水電解質二次電池用負極におけるケイ素系活物質は少なくともケイ素酸化物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含むと共に、前記ケイ素系活物質を含んだ負極電極を用いた非水電解質二次電池は、単位面積あたり0.7mA/cm
2の電流量で2回目の放電を行って得られる電池容量の1/5に相当する電流量で電池放電を行ったとき(3回目)に対して、20倍以上の電流量で放電サイクルを行うことにより、電池容量を向上させ、かつ安定した電池サイクル特性を得ることが可能となる。
【0027】
本発明の負極活物質を用いた非水電解質二次電池用負極及びこの負極を用いた非水電解質二次電池は、電池容量、サイクル特性、及び初回充放電特性を向上させることができる。また、上記二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができ、特に電動工具などに適している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。
このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0030】
そこで、本発明者らは、リチウムイオン二次電池の負極として、良好なサイクル特性が得られる負極活物質について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
本発明の非水電解質二次電池用負極はケイ素酸化物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含むと共に、前記ケイ素酸化物を主成分とするケイ素系活物質を含んだ負極電極を用いた非水電解質二次電池は、単位面積あたり0.7mA/cm
2の電流量で2回目の放電を行って得られる電池容量の1/5に相当する電流量で電池放電を行ったとき(3回目)に対して、20倍以上の電流量で放電サイクルを行うことである。
なお、1回目の充放電及び2回目の充電は、特に制限されないが、少なくとも1回目又は2回目の電池電位が4V以上で充電することが好ましい。
【0031】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質を用いた非水電解質二次電池用負極について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極(以下、単に「負極」と称することがある)の断面構成を表している。
【0032】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていてもよい。更に、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0033】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けたもので構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0034】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0035】
負極集電体11の表面は、粗化されていても、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば圧延金属箔などである。
【0036】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な複数の粒子状負極活物質(以下、負極活物質粒子とも称する)を含んでおり、電池設計上、更に負極結着剤や導電助剤など、他の材料を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の負極に用いられる負極活物質は、ケイ素系活物質及び炭素系活物質を含む。そして、ケイ素系活物質はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素酸化物の部分(表面又は内部)にLi化合物を含有しており、更にその表面に炭素による被膜層を有する。
【0038】
本発明の負極に用いられるケイ素酸化物はSiO
x(但し、0.5≦x≦1.6)で示される酸化ケイ素材であり、その組成としてはxが1に近い方が好ましい。高いサイクル特性が得られるからである。本発明におけるケイ素酸化物組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0039】
ケイ素系活物質は、そのケイ素酸化物粒子内部にLi
2SiO
3及びLi
4SiO
4のうち少なくとも1種を含み、更に上記のように、ケイ素系活物質の表層は炭素にて被覆されていることが好ましい。このようなものであれば、安定した電池特性を得ることをできる。
【0040】
このようなケイ素系活物質粒子は、内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ変更することにより得ることができる。中でもLi
4SiO
4、Li
2SiO
3は特によい特性を示す。
Li化合物はNMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置:X線光電子分光装置
・X線源:単色化Al Kα線
・X線スポット径:100μm
・Arイオン銃スパッタ条件:0.5kV 2mm×2mm
29Si−MAS−NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置:Bruker社製700NMR分光器
・プローブ:4mmHR−MASローター 50μL
・試料回転速度:10kHz
・測定環境温度:25℃
【0041】
このように得られたケイ素系活物質を含んだ負極電極を用いた非水電解質二次電池は、負極の単位面積あたり0.7mA/cm
2の電流量で2回目の放電を行って得られる電池容量の1/5に相当する電流量で電池放電を行ったとき(3回目)に対して20倍以上の電流量で放電サイクルを行う。ケイ素酸化物の高電位側におけるリチウムシリケートの一部分解を抑制することで、電池サイクル特性を向上させることができる。
【0042】
この場合、電流量は20倍以上であることが望ましく、より望ましくは40倍以上80倍以下となる。20倍未満においてもサイクル特性を向上させる効果があるが、炭素系活物質を用いた二次電池により近い電池特性を得るためには20倍以上である必要がある。
【0043】
電池終止に伴う正負極電位はその多くは負極側の変化によってもたらされることが望ましい。
上記放電サイクルの3サイクル目に得られる放電容量の50%放電時における正負極電位に対し、終止電位時の正負極電位変化率が正極よりも負極が大きいものであることが好ましい。
【0044】
負極利用率は90%以上99%以下が望ましい。99%を超えると負極側でLi析出が発現しやすくなる。また90%を下回ると、電池容量低下が無視できなくなる。
【0045】
更に、本発明においてケイ素系活物質は、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比率を2質量%以上、特に6質量%以上とすることが好ましく、これにより、負極電極の容量を均一化することができ、より好ましくは10質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0046】
本発明の負極材に含まれるケイ素系活物質の結晶性は低いほどよい。具体的には、ケイ素系活物質のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが望ましい。特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的なLi化合物の生成をすることができる。ケイ素系活物質は非晶質でもよい。
【0047】
ケイ素系活物質の
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られるケミカルシフト値として、リチウムシリケートに起因するピーク強度Aと二酸化ケイ素に起因するピーク強度Bの比がA>Bであることが望ましい。不可逆容量の一部として二酸化ケイ素領域を予めリチウムシリケートへ置換することで、初期効率の高いケイ素系活物質の作製が可能となる。
【0048】
本発明において、前記ケイ素系活物質以外の負極活物質としては、好ましくは炭素系活物質が挙げられ、炭素系活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、MCMB、ハードカーボン、ソフトカーボン、表面ピッチ層コート天然黒鉛等の1種又は2種以上が用いられる。
【0049】
なお、上述したように、負極活物質としてはケイ素系活物質を単独で用いてもよいが、ケイ素系活物質と炭素系活物質とを併用することができ、この場合、ケイ素系活物質と炭素系活物質との比率は、質量比として2:98〜100:0、より好ましくは6:94〜100:0、更に好ましくは10:90〜100:0であることがよいが、例えば6:94〜30:70の質量比とすることで、ケイ素系活物質の割合を低減することができる。
【0050】
またこのとき、前記ケイ素系活物質と炭素系活物質とを混合した負極活物質を使用して作製した負極電極と対極リチウムとからなる試験セルを充放電し、放電容量Qを前記対極リチウムを基準とする前記負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと前記電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、前記ケイ素系活物質がリチウムを脱離するよう電流を流す放電時における前記負極電極の電位Vが0.40〜0.55Vの範囲にピークを有するものであることが好ましい。
【0051】
V−dQ/dV曲線における上記のピークはケイ素材のピークと類似しており、より高電位側における放電カーブが鋭く立ち上がるため、電池設計を行う際、容量発現しやすくなる。
【0052】
負極結着剤として、例えば高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種以上が挙げられる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、あるいはカルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、あるいはエチレンプロピレンジエンなどである。
【0053】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上が挙げられる。特にカーボンナノチューブは膨張収縮率が高いケイ素材と炭素材の電気コンタクトを得ることに向いている。
【0054】
負極活物質層は、例えば塗布法で形成される。塗布法とは負極活物質粒子と上記した結着剤など、また必要に応じて導電助剤、炭素材料を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0055】
[負極の製造方法]
本発明の非水電解質二次電池用負極材に含まれる負極活物質粒子の製造方法を説明すると、まず、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物を作製する。次に、ケイ素酸化物にLiを挿入することにより、該ケイ素酸化物の内部にLi化合物を生成させて該ケイ素酸化物を改質し、これをケイ素系活物質とすることが好ましい。
【0056】
より具体的には、負極活物質粒子は、例えば、以下の手順により製造される。
まず、酸化ケイ素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900〜1,600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属ケイ素粉末と二酸化ケイ素粉末との混合物であり、金属ケイ素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属ケイ素粉末/二酸化ケイ素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取り出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0057】
次に、得られた粉末材料の表層に炭素層を生成することができるが、この工程は必須ではない。
【0058】
得られた粉末材料の表層に炭素層を生成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内にセットしたケイ素酸化物(以下、酸化ケイ素という場合がある)粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1,200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、活物質粒子の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、CnHm組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性がよいからである。
【0059】
次に、粉末材料のバルク内の改質を行う。バルク内改質は電気化学的にLiを挿入・脱離し得る装置を用いて行うことが望ましい。特に装置構造を限定することはないが、例えば
図2に示すバルク内改質装置20を用いてバルク内改質を行うことができる。バルク内改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源、改質源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、酸化ケイ素の粉末22が格納される。そして、粉末格納容器には、酸化ケイ素粒子を格納し、電源により酸化ケイ素粒子を格納した粉末格納容器と陽電極(リチウム源)に電圧をかける。これにより、酸化ケイ素粒子にリチウムを挿入、脱離することができるため、酸化ケイ素の粉末を改質できる。
【0060】
浴槽内の有機溶媒として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどを用いることができる。また、有機溶媒に含まれる電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などを用いることができる。
【0061】
陽電極はLi箔を用いてもよく、また、Li含有化合物を用いてもよい。Li含有化合物として、炭酸リチウム、酸化リチウム、コバルト酸リチウム、オリビン鉄リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸バナジウムリチウムなどが挙げられる。
【0062】
また、改質は熱ドープ法を使用して行ってもよい。この場合、例えば、粉末材料をLiH粉やLi粉と混合し、非酸化雰囲気下で加熱をすることで改質可能である。非酸化雰囲気としては、例えば、Ar雰囲気などが使用できる。より具体的には、まず、Ar雰囲気下でLiH粉又はLi粉と酸化ケイ素粉末を十分に混ぜ、封止を行い、封止した容器ごと攪拌することで均一化する。その後、700〜750℃の範囲で加熱し改質を行う。またこの場合、Liをケイ素化合物から脱離するには、加熱後の粉末を十分に冷却し、その後アルコールやアルカリ水、弱酸や純水で洗浄する方法などを使用できる。
【0063】
酸還元反応を用いた改質法では、10質量%のリチウム片を加えたビフェニルのテトラヒドロフラン(THF)1mol/L溶液に20℃、10時間含浸後、粉末を濾取し、次にナフタレンのTHF2mol/L溶液に20℃、20時間含浸後、粉末を濾取し、次にp−ベンゾキノンのTHF1mol/L溶液に20℃、2時間含浸後、粉末を濾取し、更に炭酸リチウム飽和水溶液中で攪拌し、粉末を濾取する。次に、洗浄処理後のケイ素化合物を減圧下で乾燥処理する。
【0064】
続いて、上記ケイ素系活物質と前記の炭素系活物質を混合すると共に、負極活物質粒子と負極結着剤、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0065】
次に負極集電体の表面に合剤スラリーを塗布し、乾燥させて
図1に示す負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。
【0066】
[リチウムイオン二次電池]
次に、上記した負極を用いた非水電解質二次電池の具体例として、リチウムイオン二次電池について説明する。
【0067】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
ラミネートフィルム型二次電池は、主にシート状の外装部材の内部に積層電極体が収納されたものである。この電極体は正極、負極間にセパレータを有し、積層されたものである。正極に正極リードが取り付けられ、負極に負極リードが取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0068】
正負極リードは、例えば、外装部材の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リードは、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リードは、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0069】
外装部材は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は、例えばナイロンなどである。
【0070】
外装部材と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルムが挿入されている。この材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0071】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成されている。
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいてもよい。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0072】
正極活物質材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物が挙げられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
yM
1O
2あるいはLi
zM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。y、zの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦y≦1.10、0.05≦z≦1.10で示される。
【0073】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
yCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
zNiO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1-uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0074】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0075】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0076】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることがない。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性よく組成などを正確に調べることができる。
【0077】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有してもよい。合成樹脂として、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0078】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいてもよい。
【0079】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。よりよい特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0080】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステル又はハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において負極活物質表面に安定な被膜が形成されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0081】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は、多いほど望ましい。得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0082】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0083】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0084】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0085】
更に、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えばプロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0086】
電解質塩は、例えばリチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種以上含むことができる。リチウム塩として、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0087】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0088】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用いて正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱してもよく、また圧縮を複数回繰り返してもよい。
【0089】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0090】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていてもよい(
図1を参照)。
【0091】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リードを取り付けると共に、負極集電体に負極リードを取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層させて電極体を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように電極体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、電極体を封入する。正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。解放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池を製造することができる。
【0092】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が90%以上99%以下であることが好ましい。
負極利用率を90%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
以下の手順により、ラミネートフィルム型二次電池を作製した。
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)であるLiCo
0.33Ni
0.33Mn
0.33O
2を96質量部と、正極導電助剤(ケッチェンブラック)2質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)2質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体(アルミニウムシート)の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0095】
次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取り出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層を被覆した。作製した粉末はLiHを用いて740℃、アルゴン雰囲気下で2時間、熱ドープを行った。作製した粉末は純水とエタノール混合液で洗浄し、残渣及び異物除去を行って、負極ケイ素系活物質粒子を得た。
続いて、負極ケイ素系活物質粒子と人造黒鉛、天然黒鉛(必要に応じてハードカーボン、ソフトカーボンを一部配合)を10:80:10の重量比で配合した。次に配合した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(アセチレンブラック)、スチレンブタジエンコポリマー(以下、SBRと称する)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)を90.5〜92.5:1:1:2.5:3〜5の乾燥重量比で混合した後、純水で希釈し負極合材スラリーとした。最後に、真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。
【0096】
また、ケイ素系活物質粒子、導電助剤1、導電助剤2、負極結着剤の前駆体(ポリアミック酸)とを83:10:2:5の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で400℃で1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成された。
本実施例中ケイ素酸化物100%のみ本組成を用いた。
【0097】
次に、溶媒エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。得られた電解液に(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC))、ビニレンカーボネート(VC)をそれぞれ2wt%、1wt%添加した。
【0098】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体部と塗布部を有するシートを打ち抜いた。この時正極塗布部の幅は32mm×35mmであった。続いて、負極集電体部と塗布部を有するシートを打ち抜いた。負極塗布部の幅は34mm×37mmであった。打ち抜きシートは複数枚用意し、片面正極塗布部を打ち抜いたシートを1番下に敷いた後、セパレータ、両面塗布負極、セパレータ、両面塗布正極の順に18層積層し、最後に正極片面部を負極塗布部に合うようセパレータを介して積層した。
正極集電体にはアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。
積層体はPET(ポリエチレンテレフタレート)保護テープで固定した。
セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを挟んだ積層フィルム10μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及びポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0099】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2回充放電を行った。次に2回目の放電容量に対して1/5に相当する電流値で3回目の放電を行った。電池サイクル試験は3回目の放電容量で得られた数値(本実験では約1A)に対して、電流値を倍増させてサイクル試験を行った。この時、電流値を増加させた最初の放電を1サイクル目とした。なお充電時の電流値は2サイクル目に得られた放電容量の1/5で行った。
続いて総サイクル数が500サイクル(初期充放電、2回目、3回目充放電を除いて500サイクル)となるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に500サイクル目の放電容量を電流値を増加させた1サイクル目の放電容量で割り、%表示のため100を掛け、容量の維持率を算出した。1,2回目充放電条件として、4.2Vに達するまで定電流密度0.7mA/cm
2で充電し、4.2Vに達した段階で4.2V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は0.7mA/cm
2の定電流密度で電池電圧が2.0Vに達するまで放電した。
サイクル特性は得られた電池容量から算出した電流値を用い、放電レートとした。充電レートは前述したように2サイクル目に得られた放電容量の1/5で行った。
電池塗布面積は電池を解体し算出可能である。購入後0.7mA/cm
2で放電を行い2回目の放電容量を算出した(なお、市販品の場合は1回目の充放電はなされていると仮定した)。得られた放電容量の1/5に相当する電流量(ここでは一般的にCレートと表現し、0.2C相当である)で放電を行う。その時得られる容量から1サイクル目以降のサイクルに伴う放電電流量を定義する。
【0100】
ケイ素系活物質の初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。ケイ素系活物質の電極はケイ素系活物質とポリアクリル酸を85:15wt%の比率で混合し、塗布を行った後、90℃で1時間乾燥した。電極はφ15で打ち抜き、対極Liで0VまでCCCV充電を行った。この時の電流密度は0.2mA/cm
2であり、終止は電流値が0.1mAとした。その後、CC放電を行い1.2V時における容量からケイ素系活物質の初期効率を算出した。
【0101】
[実施例1−1〜1−7、比較例1−1〜1−3]
SiO
x(x=1.0)10wt%
Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)=1.845°、結晶面に起因する結晶子サイズ=4.62nm
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
負極利用率93%
dQ/dV=あり
SiO初期効率80%
Liシリケートあり
【表1】
【0102】
電池放電電流を増加させて電池サイクル特性を評価した。
ケイ素系活物質は高電位側にリチウムシリケートの容量を持ち、低レート時は高電位側へシフトするため、一部リチウムシリケートが分解することで電池特性が悪化した。
放電電流を増加させることで、負極放電電位が上昇し、リチウムシリケートが分解する電位まで上昇しづらくなる。その結果、電池サイクル特性が向上する結果となった。
【0103】
[実施例2−1〜2−5、比較例2−1,2−2]
SiO
x10wt%
Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)=1.845°、結晶面に起因する結晶子サイズ=4.62nm
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
負極利用率93%
dQ/dV=あり
SiO初期効率80%
Liシリケートあり
電流量倍率50倍
【表2】
【0104】
酸素が十分にない場合、容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合、導電性の低下が生じ、SiO材の容量が設計通り発現しなかった。炭素材のみ充放電を行ったが、容量増加が得られず、評価を中断している。このように、SiO
x(0.5≦x≦1.6)の範囲で、良好な電池特性を得られることが確認された。
【0105】
[実施例3−1,3−2]
SiO
x(x=1.0)10wt%
Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)=1.845°、結晶面に起因する結晶子サイズ=4.62nm
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
負極利用率93%
dQ/dV=あり
Liシリケートあり
電流量倍率50倍
【表3】
【0106】
ケイ素系活物質の初期効率を変化させ、正極律束で終止電位がかかるように評価した。
正極側の放電カーブは緩やかな傾斜をもっているため、電池インピーダンスの影響を受けやすく、高出力サイクルを行った際、十分な電池容量が得られにくいこととなる。また放電末期の変曲点より低い電位まで正極を引っ張るため正極が劣化しやすくなる。
【0107】
[実施例1−4,4−1〜4−5]
SiO
x(x=1.0)10wt%
Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)=1.845°、結晶面に起因する結晶子サイズ=4.62nm
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
dQ/dV=あり
SiO初期効率80%
Liシリケートあり
電流量倍率50倍
【表4】
【0108】
負極利用率が90%未満の場合、維持率は増加するが、負極として使用しない部位が多く存在する設計となり、電池容量向上がしづらくなる。
また、負極利用率を100%とした場合は電池容量が増加すると考えられるが、設計上Li析出が懸念されるため最大利用率を99%とすることが望ましい。以上より、電池容量増加を考慮した場合、負極利用率は90%以上99%以下であることが望ましいことが分かった。
【0109】
[実施例1−4,5−1]
SiO
x(x=1.0)10wt%
Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)=1.845°、結晶面に起因する結晶子サイズ=4.62nm
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
負極利用率93%
dQ/dV=あり
電流量倍率50倍
【表5】
【0110】
ケイ素酸化物の改質を行わない場合、Liシリケートが生成せず、またSi−MAS−NMRから得られるケミカルシフトピーク比も逆転することとなる。
この場合、電池維持率は大きく低下することはないが、不可逆容量の多い、ケイ素酸化物を使用した系では電池の容量向上に繋がりにくい。
【0111】
[実施例1−4,6−1〜6−6、比較例6−1]
SiO
x(x=1.0)
Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)=1.845°、結晶面に起因する結晶子サイズ=4.62nm
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
負極利用率93%
dQ/dV=あり
SiO初期効率80%
Liシリケートあり
電流量倍率50倍
【表6】
【0112】
負極活物質中に占めるケイ素系活物質の割合を変化させ維持率を評価した。
ケイ素系活物質を導入しない炭素負極は最も電池特性が向上する結果となったが、負極容量が向上しないため電池容量向上につながらない。
ケイ素系活物質量が6wt%を超えたあたりで維持率が安定する結果となった。
特に負極中に存在するケイ素系活物質は対極である正極に対して微視的な電位上昇をもたらすため、できる限り均一に分散することが望ましい。均一分散を実現するために必要なケイ素系活物質の割合は6wt%以上であると考えられる。
【0113】
[実施例1−4,7−1〜7−9]
SiO
x(x=1.0)10wt%
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
負極利用率93%
dQ/dV=あり
SiO初期効率80%
Liシリケートあり
電流量倍率50倍
【表7】
【0114】
結晶性に応じて容量維持率が変化した。
特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、なおかつSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率が得られた。特に、非結晶領域では最もよい電池特性が得られた。
【0115】
[実施例1−4,8−1,8−2]
SiO
x(x=1.0)10wt%
終止負極律束
EC:DMC(3.7vol%)
LiPF
6 1.0mol/kg
FEC 2wt%、VC 1wt%
正極NCM
A>B
負極利用率93%
dQ/dV=あり
SiO初期効率80%
Liシリケートあり
電流量倍率50倍
【表8】
【0116】
改質法を電気化学法、酸化還元法を用いて作製した結果、熱をかけずに改質する場合、ケイ素の結晶が進まないため、低結晶状態の改質が可能となる。その結果、電池サイクル維持率は向上する結果となった。
【0117】
[実施例8−2,9−1]
Siの結晶性が低い材料を使用して、実施例8−2と同様の手法でドープ処理を行った。
【表9】
【0118】
放電カーブ形状がより鋭く立ち上がるためには、ケイ素化合物(SiOx)において、ケイ素(Si)と同様の放電挙動を示す必要がある。30回の充放電で上記の範囲(0.40〜0.55V)にピークが発現しないケイ素化合物は、比較的緩やかな放電カーブとなるため、二次電池にした際に、若干初期効率が低下する結果となった。ピークが30回以内の充放電で発現するものであれば、安定したバルクが形成され、容量維持率及び初期効率が向上した。
【0119】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。