特許第6365812号(P6365812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365812
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】フッ素系樹脂組成物及びフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20180723BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20180723BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180723BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C08L27/16
   C08L33/08
   C08L101/00
   B32B27/30 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-198485(P2013-198485)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-63621(P2015-63621A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝志
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 慎二
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−338632(JP,A)
【文献】 特開平08−120214(JP,A)
【文献】 特開平07−053822(JP,A)
【文献】 特開昭50−051535(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/039119(WO,A1)
【文献】 特開2015−044967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/16
B32B 27/30
C08L 33/08
C08L 101/00
C09D 127/16
C09D 133/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)の合計100質量%に対し、60〜99.9質量%のフッ化ビニリデン系樹脂(A)および40〜0.1質量%のその他の樹脂(B)を含み、酸価が0.1mgKOH/g以上であり、
フッ化ビニリデン系樹脂(A)が、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)であり、
その他の樹脂(B)が、酸価が15mgKOH/g以上のアクリル系樹脂(B1)を含む樹脂組成物、
からなる溶融押出フィルム。
【請求項2】
フッ化ビニリデン系樹脂(A)の異種結合比が9以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフィルムを表層に持つ積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化ビニリデン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる樹脂組成物及び、該組成物からなるフィルムに関する。更に詳しくは、成形品表面の着色が生じ難く、特に自動車等の車輌や家具、建材の内外表装材料に好適な樹脂組成物及びそれからなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系樹脂フィルムは、耐候性、耐薬品性、更には耐汚染性に優れているため、プラスチック、ガラス、スレート、ゴム、金属板、木板等の各種基材表面にラミネートされる保護フィルムとして広く使用されている。しかしながら、フッ化ビニリデン系樹脂を単独で用いたフッ化ビニリデン系フィルムでは、結晶化速度が大きく、延伸した場合に白化し、結晶性に由来する不都合が生じる。これを回避する為、フッ化ビニリデン系樹脂と他の樹脂との複合樹脂にして結晶性を調整することが行われている。特許文献1には、フッ化ビニリデン系樹脂とアクリル系樹脂と複合化させて透明性や接着性を解決たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−19051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらフッ化ビニリデン系樹脂は加熱処理や、塩基性物質との接触で着色しやすい点において更に問題がある。本発明の目的は、着色の少ない樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、特定のフッ化ビニリデン系樹脂(A)とその他の樹脂(B)からなる樹脂組成物において、樹脂組成物に特定の酸価を持たせることで着色の課題を解決しうることを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち本発明の第1の要旨は、フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)の合計100質量%に対し、60〜99.9質量%のフッ化ビニリデン系樹脂(A)および40〜0.1質量%のその他の樹脂(B)を含み、酸価が0.1[mgKOH/g]以上である樹脂組成物にある。
本発明の第2の要旨は、上記第1に記載の樹脂組成物においてその他の樹脂(B)が酸価が1[mgKOH/g]以上のアクリル系樹脂(B1)を含む点にある。
本発明の第3の要旨は、上記アクリル系樹脂(B1)の酸価が25[mgKOH/g]以上である点にある。
本発明の第4の要旨は、上記第1に記載の樹脂組成物においてフッ化ビニリデン系樹脂(A)の異種結合比が9以下である点にある。
本発明の第5の要旨は、上記第1、2、3または4の樹脂組成物からなるフィルムである。
本発明の第6の要旨は、上記第5のフィルムを表層に持つ積層体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐薬品性に優れ、また加熱や塩基での着色の少ないフィルムを与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の樹脂組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)の合計100質量%に対し、60〜99.9質量%のフッ化ビニリデン系樹脂(A)および40〜0.1質量%のその他の樹脂(B)を含み、酸価が0.1mgKOH/g以上であることを特徴とする
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂(A)としては、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、またはフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
本発明において、フッ化ビニリデン系樹脂(A)はジフロロエチレン単位を60質量%以上含有するものであることが好ましい。フッ化ビニリデンと共重合される他のモノマーとしては、4フッ化エチレン、6フッ化プロピレン、3フッ化エチレン、3フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル等の、炭素数が2〜5、好ましくは炭素数が2〜3のフッ化アルキレンが挙げられる。また、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)の合計100質量%に対して、フッ化ビニリデン系樹脂(A)を60〜99.9質量%含むことが好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂(A)を60質量%以上とすることで、得られるフィルムの耐薬品性が向上する傾向にあるからである。フッ化ビニリデン系樹脂(A)の好ましい範囲は60〜90質量%である。
【0008】
本発明のその他の樹脂(B)は、透明性を有する熱可塑性樹脂であれば特に制限されない。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。中でも透明性の点からアクリル系樹脂が好ましい。
本発明に用いるアクリル系樹脂としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート及びブチルメタクリレートから成る群より選ばれる少なくとも一種のアルキルメタクリレートから得られる構成単位を60質量%以上含有するものである。必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の他のビニル単量体から得られる構成単位を有する単一重合体又は共重合体及びアルキル(メタ)アクリレート単位を主構成単位とするアクリルゴム等を含有することができる。
【0009】
本発明のその他の樹脂(B)は、フッ化ビニリデン系樹脂(A)およびその他の樹脂(B)の合計100質量%に対して、40〜0.1質量%である。0.1質量%以上とすることで結晶性に由来する白化を低減する効果が見られるからであり、40質量%以下とすることで樹脂組成物の耐薬品性が良好になるからである。より好ましい範囲は、40〜0.3質量%であり、更に好ましい範囲は30〜3質量%である。
【0010】
本発明の樹脂組成物の酸価は0.1mgKOH/g以上である。本発明における酸価とは、試料を溶媒に溶解し、フェノールフタレインを指示薬として水酸化カリウム溶液で滴定し、試料1g中に含まれている酸を中和するに要する水酸化カリウムのmg数を算出したものである。これは酸価を0.1mgKOH/g以上とすることで、樹脂組成物の着色が低減するからである。この酸価は0.5〜100mgKOH/gが好ましく、1〜50mgKOH/gがより好ましく、5〜50mgKOH/gがもっとも好ましい。
【0011】
本発明のその他の樹脂(B)は酸価1mgKOH/g以上のアクリル樹脂(B1)を含むことが好ましい。これは(B1)を含有することで樹脂組成物の着色が低減する傾向にあるからである。(B1)の酸価は15mgKOH/g以上が好ましく、25mgKOH/g以上が更に好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましい。これは、酸価の高い樹脂を少量添加した場合、低酸価の樹脂を用いたときよりも樹脂組成物としての酸価が低くても着色低減に効果が見られるからである。アクリル樹脂(B1)の酸価の上限は780mgKOH/g以下が好ましく、300mgKOH/g以下がより好ましい。
本発明の酸価が1mgKOH/g以上のアクリル系樹脂(B1)の製造方法は、特に限定されないが懸濁重合、乳化重合、バルク重合等の既知の方法で製造することができる。このようなアクリル樹脂に酸価を導入する方法としては、酸モノマーを共重合することなどが挙げられる。酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸等である。このような酸含有のアクリル系樹脂としては、例えば三菱レイヨン(株)製の商品名「ダイヤナールBR−106、MB−7143、BR−77、PB−2322K、PB−2388、PB−2601」等が挙げられる。
【0012】
本発明における、フッ化ビニリデン系樹脂(A)の異種結合比は0〜9が好ましく、1〜9がより好ましい。これは異種結合比9以下とすることでII型の結晶となりやすいため、得られるフィルムが白化しにくい傾向にあるからである。異種結合の比率は、フッ化ビニリデン系樹脂(A)の19F−NMRスペクトルの回折ピークから求めることができる。具体的には、フッ化ビニリデン系樹脂(A)40mgを重水素ジメチルホルムアミド(DMF-D7)0.8mlに溶解し、室温下で19F−NMRを測定する。得られた19F−NMRのスペクトルは、−91.5ppm、−92.0ppm、−94.7ppm、−113.5ppm、−115.9ppmの位置に主要な5本のピークを有する。これらのピークの内、−113.5ppmと−115.9ppmのピークが、異種結合に由来するピークと同定される。従って、5本の各ピークの面積の合計をST、−113.5ppmの面積をS1、−115.9ppmの面積をS2として、異種結合の比率は、次式により算出される。
異種結合の比率={(S1+S2)/ST}×100(%)。
【0013】
このようなフッ化ビニリデン系樹脂(A)としては、例えばクレハ(株)製商品名「KFポリマーW850、W1100」等の懸濁重合により得られたものが挙げられる。
【0014】
本発明の樹脂組成物には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を必要に応じて用いることができる。
【0015】
本発明のフィルムの製造方法は、特に限定されないが溶融押出等の公知の方法で製造することができる。
【0016】
本発明のフィルムの用途は、自動車等車輌や家具、建材の内外表装材料等に用いることができる。このような用途に用いる場合、必要に応じて厚みを選択することや他のフィルムとの多層化を行うことができる。多層化を行う場合の基材としては、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。多層化を行う時は、本発明のフィルムが表層となることが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、評価方法は以下のように行った。
【0018】
酸価:アクリル系樹脂または樹脂組成物1gをプロピレングリコールモノメチルエーテル50mlに溶解後、フェノールフタレインを指示薬として0.1mol/lの水酸化カリウム溶液で中和滴定を行い、試料1g中に含まれている酸を中和するに要する水酸化カリウムのmg数を算出した。
【0019】
異種結合比:フッ化ビニリデン系樹脂40から50mgを重水素ジメチルホルムアミド(DMF−D7)0.8mlに溶解し、以下の条件で測定した。
測定装置:Varian(株)製 核磁気共鳴スペクトロメーター UNITY INOVA 500
測定温度:室温
積算回数:16回
【0020】
吸光度:樹脂組成物0.5gをジメチルホルムアミド(DMF)20mlに溶解し、以下の条件で測定した。
測定装置:日立分光光度計:U−3300、測定波長:435nm、セル10mm
【0021】
着色の評価:樹脂組成物0.5gをジメチルホルムアミド(DMF)20mlに溶解し、目視で着色度合を評価した。
×:著しい着色が見られた
△:わずかに着色が見られた
○:ほとんど着色が見られなかった
◎:まったく着色が見られなかった
【0022】
〔実施例1〕
フッ化ビニリデン系樹脂(A)としてクレハ(株)製商品名「KFポリマーW850」(PVDF、異種結合比8.3)75質量部、酸価1mgKOH/g以上のアクリル樹脂(B1)として三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールBR−106」(酸価3.3mgKOH/g)25質量部をヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を180〜220℃に加熱したベント式2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM−35B)に供給、混練してペレット状の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物をシリンダー温度230〜240℃の30mmφ(直径)の単軸押出機に供給し、個別に溶融可塑化した。そして、230℃に加熱したダイを用いて、厚さが150μmの単層フィルムを得た。その際、冷却ロールの温度を76℃とし、樹脂フィルムを得た。
【0023】
〔実施例2〜11、比較例1〕
用いる樹脂を表1の組成とすること以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物を得た。
評価結果を表1に示す。実施例1及び2は参考例である。
表1

表1(続き)
*1:単位[mgKOH/g]

表中の略号を以下に示す。
W850:クレハ(株)製商品名「KFポリマーW850」
BR−106:三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールBR−106」(アクリル樹脂)
MB−7143:三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールMB−7143」(アクリル樹脂)
BR−77:三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールBR−77」(アクリル樹脂)PB−2388:三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールPB−2388」(アクリル樹脂)
PB−2601:三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールPB−2601」(アクリル樹脂)
PB−2322K:三菱レイヨン(株)製商品名「ダイヤナールPB−2322K」(アクリル樹脂)
VH:三菱レイヨン(株)製商品名「アクリペットVH」(メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体)
【0024】
評価結果より明らかなように、比較例1は樹脂組成物の酸価が0.1mgKOH/g未満であり著しい着色が見られた。実施例1〜11の樹脂組成物は酸価が0.1mgKOH/g以上であり着色低減効果が見られた。特に、酸価が高くなると着色低減効果が高くなる傾向にあることがわかった。
また、樹脂組成物の酸価が同程度であっても、その他の樹脂(B)に相当する樹脂の酸価が高いものを用いると、低い酸価のものを用いた場合より着色低減効果が高くなる傾向にあった(例えば、実施例1と実施例10など)。