(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365835
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】電極形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20180723BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20180723BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20180723BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20180723BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20180723BHJP
H01L 29/417 20060101ALI20180723BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20180723BHJP
C23C 18/30 20060101ALI20180723BHJP
C23C 18/42 20060101ALI20180723BHJP
C23C 18/38 20060101ALI20180723BHJP
C23C 18/32 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
H01L29/78 616K
H01L29/78 618B
H01L29/28 100A
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L21/288 E
H01L29/50 M
C23C18/31 A
C23C18/30
C23C18/42
C23C18/38
C23C18/32
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-175244(P2014-175244)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-51758(P2016-51758A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228165
【氏名又は名称】日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162961
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正浩
【審査官】
岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−158805(JP,A)
【文献】
特開2005−146400(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/015364(WO,A1)
【文献】
特開2013−174011(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0105161(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/119703(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0243658(US,A1)
【文献】
特開2007−084850(JP,A)
【文献】
特開2013−047385(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0230657(US,A1)
【文献】
特開昭62−235473(JP,A)
【文献】
特開2016−023323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/288
H01L 21/336
H01L 29/417
H01L 29/786
C23C 18/30
C23C 18/31
C23C 18/32
C23C 18/38
C23C 18/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層上のコンタクト電極の形成方法において、有機半導体層上に糖アルコールによって保護された、金(Au)、白金(Pt)、またはパラジウム(Pd)の内のいずれかである貴金属ナノ粒子を吸着させる前処工程、およびその後にpH=5〜9の無電解メッキ浴中で当該貴金属ナノ粒子上にメッキ金属を析出させることを特徴とする電極形成方法。
【請求項2】
前記糖アルコールがトリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、イノシトール、クエルシトール、ペンタエリスリトールのうちの少なくとも1種以上を合計で前処理液中に0.01〜200g/L含有していることを特徴とする請求項1に記載の電極形成方法。
【請求項3】
前記有機半導体層が[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体、2,9−ジアルキルジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b] チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−d:2’,3’−d’]ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン誘導体、TIPS−ペンタセン、TES−ADT、およびその誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ、F4−TCNQ、F4−TCNQ、ルブレン、ペンタセン、p3HT、pBTTT、およびpDA2T−C16の結晶体であることを特徴とする請求項1に記載の電極形成方法。
【請求項4】
前記メッキ浴が自己還元型無電解メッキ液からなり、金(Au)、白金(Pt)、またはパラジウム(Pd)の無電解メッキ液であることを特徴とする請求項1に記載の電極形成方法。
【請求項5】
前記貴金属ナノ粒子の平均粒径が5〜60nmであることを特徴とする請求項1に記載の電極形成方法。
【請求項6】
前記貴金属ナノ粒子が低分子保護剤によって保護されていることを特徴とする請求項1に記載の電極形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体基材上に電極パターンを形成する技術に関するものであり、特に有機半導体電界効果型トランジスタ(Organic field effect transistor(OFET))のソース電極およびドレイン電極を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニスク業界においては、シリコンなどの無機材料から作られた無機半導体のトランジスタから、有機材料を利用した、いわゆる有機半導体のトランジスタ開発が進められている。この有機材料を利用したOFETは、印刷法、スピンコート法、浸漬法等の手段を用いることで、簡便に電子回路形成が可能になる結果、従来のSi系半導体装置より桁違いに安く製造できる。そして、OFETは、プラスチック上にも形成することができ、軽く薄い上に、柔らかく曲げることができるフレキシブルディスプレイやフレキシブルセンサーなどのデバイスの実現が期待されている。
【0003】
OFETの構造として、ボトムゲート・トップコンタクト型のトランジスタを例に挙げる。
基板に形成されたゲート電極上にゲート絶縁膜が設けられ、その上に有機半導体層が形成される。さらに、このゲート絶縁膜の上の有機半導体層には、キャリア注入用のコンタクト電極(ソース電極、ドレイン電極)が形成される。
【0004】
ゲート絶縁膜の材料としては、例えば、SiO
2、Al
2O
3のような酸化物絶縁体や、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルフェニレン、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなアクリル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂、ポリビニルフェノールあるいはノボラック樹脂のようなフェノール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテンなどのオレフィン系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0005】
また、有機半導体材料としては、例えば、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体、2,9−ジアルキルジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、TIPS−ペンタセン、TES−ADT、およびその誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ、F4−TCNQ、F4−TCNQ、ルブレン、ペンタセン、p3HT、pBTTT、およびpDA2T−C16のような単分子有機半導体材料や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ポリアリールアミン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂、フルオレン−ビチオフェン共重合体、フルオレン−アリールアミン共重合体またはこれらの誘導体のような高分子の有機半導体材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0006】
このような共役系分子材料は、結晶性が高い事から特有な電子雲の広がりが生まれ、キャリアの移動能が高く、低温での形成が可能といった点から、低コストかつ大面積の半導体薄膜をプラスティックフィルム上に形成することが可能であると期待されている。さらに分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることが可能であるため材料のバリエーションが豊富であり、無機半導体材料ではなし得なかったような機能や素子を実現することが可能である。
【0007】
トランジスタの特性を示すパラメータの一つとして、電流のオンオフ比(I
on/I
off)が挙げられる。このオン電流を大きくするためには、電界効果移動度を向上させること、コンタクト電極(ソース電極、ドレイン電極)の電極間距離を狭くすること、有機半導体層とコンタクト電極の接触抵抗を低くすること等が有効であることが知られている。
【0008】
しかし、有機半導体層は、一般的に耐薬品性、耐熱性のみならず、耐候性、耐水性も劣っており、非常に劣化しやすい欠点を有する。よって、上記のような高キャリア移動度を与える有機半導体材料であっても、有機FETの作製においては、真空蒸着法によりコンタクト電極を形成する方法が主流である。ところが、コンタクト電極形成に真空蒸着法を用いてしまうと、その処理が煩雑であり、コストもかかるため、大気中で形成可能な有機半導体のメリットを大きく損ねてしまうことになる。
【0009】
そこで、大気中でのトランジスタ形成を可能にするために、金属ペーストや、金属インクを利用した電極形成技術が提案されている(国際公開2005/122233号、国際公開2007/015364号)。しかしこれらの電極形成技術は次段落に示すような、有機半導体層との接触抵抗が高いという問題や、含有する有機溶剤が有機半導体層を溶かしてしまうといった問題を抱えていた。
【0010】
すなわち、一般的に報告されている金属ペーストや金属インクにより形成されたコンタクト電極と有機半導体層の接触抵抗の値は100〜1000kΩcm程度となっており、これはSi−MOSFETの値と比較して5、6桁以上高くなっている。特に有機半導体層とコンタクト電極の接触抵抗は、その接合界面の状態が大きく影響しており、有機半導体層と接触させる電極の形成方法が重要となる。
【0011】
しかしながら、導電粒子で構成される金属ペーストや金属インクによりコンタクト電極を形成する場合、用いる導電粒子の微細化に限界があり、数十nm以下の粒径の導電粒子は実用化されていない。このため数百nm程度の導電粒子と有機半導体層との接合界面における接触面積が小さくなり、接触抵抗は高くなる傾向にある。100℃以上での焼結を行い、接触抵抗を低減することも考案されているが、高温処理による有機半導体の劣化が問題となる。また、一般的には、金属ペーストや金属インクは有機溶剤を含有するため、電極形成の際に有機半導体結晶を溶かしてしまうという問題もある。そのため有機半導体層と大気中で形成されたコンタクト電極との接触抵抗は依然として大きな課題となっている。
【0012】
そこで、上記のような課題を解決するため、これまでも数種類の湿式メッキによる電極形成技術が検討されている。湿式メッキではメッキ液中の金属イオンをメッキ金属として原子レベルで有機半導体表面に析出させることができる。よって、所望の箇所にメッキ金属を密着して形成できれば、有機半導体層とメッキ金属との接触抵抗は低くなるものと考えられた。
【0013】
例えば、国際公開2007/015364号(後述する特許文献1)では有機半導体層上のチャネル部分にフォトリソグラフィーにより保護層を形成した後、「触媒液として塩化パラジウムの塩酸溶液(塩化バラジウム1質量%、塩酸10質量%、イソプロピルアルコール20質量%およびポリビニルアルコール1質量%水溶液)を用い」(165段落)、その後に「無電解金メッキ浴(ジシアノ金カリウム0.1モル/リットル、蓚酸ナトリウム0.1モル/リットルおよび酒石酸ナトリウムカリウム0.1モル/リットルを溶解した均一溶液)に浸漬して、厚み110nmの金からなる金属薄膜M2によりソース電極およびドレイン電極を形成」(166段落)している。
【0014】
しかしながら、特許文献1で用いられている有機半導体材料はチオフェンオリゴマーであり、一般的なキャリア移動度は〜10
−2cm
2/Vs程度である。このため、保護層を形成しない場合は、触媒液としての塩酸溶液(塩酸10質量%)によって有機半導体層がダメージを受けると思われるが、キャリア移動度が低いためソース・ドレイン電極形成工程における有機半導体層へのダメージが相対的に小さくなり、有機半導体層とコンタクト電極との接触抵抗に変化は確認されにくい。また、特許文献1に記載されているメッキ用触媒核の形成方法では、有機半導体膜上に触媒核を含んだ溶液を保持したまま無電解メッキ工程に移行するため、この触媒核サイトで還元された金属原子が置換されて析出物が成長していくと、余分な触媒核や成長した析出物が無電解メッキ浴中に遊離し、メッキ浴の暴走反応を起こすという課題もある。
【0015】
一般的に有機半導体膜は、酸、アルカリ水溶液や有機溶剤に非常に敏感であるため、強酸や強アルカリの前処理液やメッキ液、またはフォトレジスト等に接触すると、有機表面層の変質が起こる。特に1cm
2/Vsを超えるような高移動を誇る結晶性の高い有機半導体結晶では、大幅な移動度の低下が引き起こされる。
【0016】
また、特開2008−192752号公報(後述する特許文献2)では無機絶縁層上にシランカップリング反応により自己組織化単分子層を形成し、その上に順次有機層を堆積させて有機半導体層を形成している。さらにその有機半導体層の表面末端をアミノ基に変換することで、次工程でメッキ用Pd触媒となるPdイオンが強固に吸着できるようにしている。その後L−アスコルビン酸を含む無電解金メッキ液によりソース・ドレイン電極を形成している。そして、これにより接触抵抗が低減されたとされている。
【0017】
しかしながら、この手法では工程が複雑なため手間暇がかかり、結晶性が高く高移動度な有機半導体層の形成は難しい。さらに、この手法では積層された有機半導体上の表面末端をアミノ基に変換するコンタクト電極形成方法となるため、現状の高速動作する有機トランジスタの製造方法への適用は困難である。今後、高度な電子デバイスを駆動させる目的で、有機トランジスタを高速に動作させるためには、コンタクト電極(ソース電極、ドレイン電極)の電極間距離を狭くし、さらに有機半導体層とコンタクト電極の接触抵抗を低くすることが必要となると指摘されている。
【0018】
他方、既存のSi半導体等に適用される無電解メッキ方法を有機半導体層に応用することも検討される。例えば、特開2009−293082号公報の34段落に、「(S23) つぎに、塩化パラジウム溶液…に基板11を1〜3分浸漬した後、純水で洗浄、乾燥を行い、触媒金属12bとしてPdを有機分子膜12aに触媒付与し、密着層12を形成した。(S24) 基板11をNi−Bの析出が可能な無電解めっき溶液…に浸漬し、密着層12上にNi−Bを析出させた。このとき、金属層13の膜厚は無電解めっき液への浸漬時間によって200nm程度となるように制御した。ついで無電解めっき溶液に浸漬した後、基板11を純水で洗浄し、ついで乾燥N
2によって乾燥させ」る方法が記載されており、35段落には、Siの酸化膜除去処理によっても金属層が剥離することのなく、良好な密着性を有することが開示されている。
【0019】
また、特開2005−146400号公報には、「主として有機材料で構成される有機層に接触する電極を形成する電極形成方法であって、前記電極を形成するための金属の金属塩と還元剤とを含みアルカリ金属イオンを実質的に含まないメッキ液を用いて、無電解メッキにより前記電極を形成することを特徴とする電極形成方法」(請求項1)が開示され、その46段落に「触媒としてPdを用いる場合には、Sn−Pd等のPd合金のコロイド液…中に、基板2を浸漬することにより、Pd合金…を基板2の表面に吸着させる。その後、触媒に関与しない元素を除去することにより、Pdを基板2の表面に露出させる。」こと、および、112・113段落に「次に、Sn−Pdコロイド液(25℃)中に、ガラス基板を60秒間浸漬した。これにより、ガラス基板の表面にSn−Pdを吸着させた。その後、水を用いてガラス基板を洗浄した。次に、HBF
4とブドウ糖とを含む水溶液(25℃)中に、ガラス基板を60秒間浸漬した。これにより、ガラス基板の表面からSnを除去して、Pdをガラス基板の表面に露出させた。その後、水を用いてガラス基板を洗浄した。次に、Niメッキ液(80℃、pH8.5)中に、ガラス基板を60秒間浸漬した。これにより、ガラス基板の表面に、平均厚さ100nmのNiメッキ膜を形成した。」ことが記載されている。
【0020】
さらに、特開2008−019457号公報の16段落には、「1%−塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液を含む暗褐色透明なパラジウムヒドロゾル中にポリエステル板を25℃、1時間浸漬したのち水洗して表面にパラジウムを付与し、つぎに、20mM−塩化金(III)酸水溶液(1ml)と0.5M−過酸化水素水溶液(1ml)を混合して得られる無電解金メッキ液中に、25℃、5分間浸漬して、外観が金色のポリエステル板を得、このポリエステル板が0.7%の金を含み、良好な導電性を示した、旨が記載されている。
【0021】
しかしながら、高移動を誇る結晶性の高い有機半導体結晶では、酸やアルカリや液温などによって結晶表面が大きく変わり大幅な移動度の低下が引き起こされる。すなわち、一般的な塩化パラジウム溶液では塩酸によって表面が侵される。また、吸着させたSn−PdコロイドからSnを完全に除去する際などに結晶表面が大きく変わってしまう。さらに、過酸化水素水溶液でも発生期の酸素によって表面が侵される。
【0022】
以上のことから、高キャリア移動を誇る有機半導体層の表面性状を変質させることなく、有機半導体層上に低接触抵抗のコンタクト電極を、真空環境を使用せずに形成する方法がもとめられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開2007/015364号
【特許文献2】特開2008−192752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、このような事情を背景になされたものであり、無電解メッキ中に有機半導体層の表面性状を変質させず、有機半導体層とコンタクト電極のあいだの接触抵抗を真空蒸着並みに低くした無電解メッキによる金などの貴金属のコンタクト電極を形成する電極形成方法を提供することを目的とする。
【0025】
特に、本発明は、OFETのコンタクト電極と有機半導体との接触抵抗を大幅に低減するコンタクト電極を大気中で形成する方法を提供することを目的とする。また本発明は、有機半導体結晶の特性を劣化させることなく、大気中でコンタクト電極を形成する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、広い表面積の有機半導体層上に均一な厚さのOFET用コンタクト電極を形成する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、繰り返して無電解メッキを行っても一定の品質のメッキ電極が安定して量産化できるOFET用コンタクト電極を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の課題を解決するための電極形成方法は、有機半導体層上のコンタクト電極の形成方法において、有機半導体層上に貴金属ナノ粒子を吸着させる前処工程、およびその後にpH=5〜9の無電解メッキ浴中で当該貴金属ナノ粒子上にメッキ金属を析出させることを特徴とする。
【0027】
本発明の電極形成方法によれば、有機半導体表面を変質させることなく、有機半導体表面形状に追従したメッキ金属膜を得ることができ、低抵抗なコンタクト電極を形成することが可能となる。
【0028】
本発明の電極形成方法によれば、無電解メッキ工程でメッキ浴中の金属イオンが還元されてゼロ価の金属原子となり、有機半導体上に電極が形成される。本発明では、この反応が有機半導体層上に吸着させた貴金属ナノ粒子の触媒反応により表面から連鎖的に電極形成が起こり、有機半導体表面形状に追従したメッキ金属膜を得ることができる。
【0029】
また、従来の電極の形成方法では、強酸性や強アルカリ中での還元反応を含んでいた結果、有機半導体面の性状が変化し、有機半導体の移動度が大幅に低下する、または有機半導体膜とコンタクト電極とのあいだの接触抵抗が高くなる現象を引き起こしていた。本発明の電極形成方法によれば、前記メッキ浴のpHを5〜9の中性領域とすることにより、変質しやすい有機半導体結晶面を保持することができる。本発明に係る電極形成方法においては、後工程における無電解メッキ液の種類には特に制限はなく、電極を構成する成分を含む無電解メッキ液を採用することができるが、有機半導体面の性状を変化させないためpH=5〜9のメッキ浴とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の電極回路の形成方法において、好ましい実施態様は、以下のとおりである。
前記有機半導体層が[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体、2,9−ジアルキルジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−d:2’,3’−d’]ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン誘導体、TIPS−ペンタセン、TES−ADT、およびその誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ、F4−TCNQ、F4−TCNQ、ルブレン、ペンタセン、p3HT、pBTTT、およびpDA2T−C16の結晶体であることが好ましい。これらの半導体結晶は、1cm
2/Vsを超えるような高移動を誇る結晶性の高い有機半導体結晶が得られるからである。
【0031】
また、貴金属ナノ粒子が金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)の内のいずれかであることが好ましい。特に、密度の大きな金(Au)または白金(Pt)のナノ粒子が好ましい。
【0032】
また、前記メッキ液が自己還元型無電解メッキ液であることが好ましい。高移動度の有機半導体結晶表面に還元時に悪影響を及ぼさないからである。具体的には、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)またはコバルト(Co)の無電解メッキ液であることが好ましい。
【0033】
また、前記貴金属ナノ粒子の平均粒径が5〜60nmであることが好ましい。また、貴金属ナノ粒子は一般的に金(Au)、白金(Pt)、特に金(Au)が好ましい。金ナノ粒子は化学反応を受けにくく、金属メッキ浴中の有機半導体結晶面で安定的に還元作用をするからである。
【0034】
また、前記貴金属ナノ粒子は、メッキ時までの変質を避けるため低分子保護剤によって保護されていることが好ましい。特に、前記貴金属ナノ粒子が糖アルコールによって保護された金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)の内のいずれかであることが好ましい。糖アルコールを用いることによって、純水中でナノ粒子の球状形状が保持でき、有機半導体結晶面で安定的に還元作用をするからである。また、糖アルコールによって保護された金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)の微粒子は、強アルカリや強酸中でも安定しており、熱に対しても影響されない性質を有する。
【0035】
また、前記糖アルコールは、トリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、イノシトール、クエルシトール、ペンタエリスリトールのうちの少なくとも1種以上を合計で前処理液中に0.01〜200g/L含有していることが好ましい。適度に球状の貴金属ナノ粒子を有機半導体結晶面上に分散することができるからである。
【0036】
また、本発明に係る電極形成方法において、p型有機半導体上に電極形成する場合には、特に金メッキ浴が好ましい。またn型有機半導体上に電極形成する場合には、特に銀メッキ浴が好ましい。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、有機半導体層上に金属メッキ法を用いて安定して電極を形成することができる。しかも、無電解メッキ中に有機半導体層の表面性状を変質させず、有機半導体の移動度を低下させず、かつ有機半導体層とコンタクト電極のあいだの接触抵抗を真空蒸着並みに低くすることができる。また、本発明の電極の形成方法によれば、真空プロセスを用いずにコンタクト電極を大気中で形成することができ、コンタクト電極の作製費用を大幅に削減することができる。さらに本発明の電極の形成方法によれば、広い表面積の有機半導体層上に均一なナノレベルの厚さのOFET用コンタクト電極を形成することができる。また、本発明は、繰り返して無電解メッキを行っても一定の品質のメッキ電極が安定して量産化できる。また、本発明の電極回路の形成方法によれば、有機半導体層とソース・ドレイン電極がナノ粒子を介して金属メッキされているため、接触抵抗が低く安定した長寿命のデバイスを得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0039】
〔実施例1〕
図1に示すようなボトムゲート・トップコンタクトタイプのOFETを作製した。
基板は熱酸化により厚さ200nmの酸化シリコン(SiO
2)が形成されたシリコン(Si)基板を用い、シリコン(Si)をゲート電極、酸化シリコン(SiO
2)を絶縁層とした。この基板をアセトンに浸漬し超音波洗浄により脱脂した後、紫外線(UV)照射とオゾン処理を行い清浄な表面を得た。
【0040】
次に真空蒸着法により有機半導体層を堆積した。有機半導体材料は2,9−ジデシル−ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン用い、平均厚さ30nmの有機半導体層を得た。
【0041】
次に、金(Au)ナノ粒子を調整した。具体的には、まず、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム・四水和物を金(Au)換算濃度で0.1g/Lおよび10.0g/Lのグリセリンを90℃の水酸化ナトリウム水溶液(pH=12)に溶解した。その後、クエン酸ナトリウム・二水和物で還元してコロイド状金(Au)ナノ粒子水溶液を得た。この金(Au)ナノ粒子の平均粒径は30nmで95%以上が20〜40nmの範囲(d=30±10nm)に入っていた。
【0042】
次に、金(Au)ナノ粒子の有機半導体上への吸着処理を行った。
有機半導体層まで形成された基板を0.1%塩化トリメチルステアリルアンモニウム水溶液に30秒浸漬し、5分間流水にて純水洗浄を行った。さらに上記の金(Au)ナノ粒子を含んだ水溶液に5分間浸漬した後、5分間流水にて純水洗浄を行った。
【0043】
次に、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製の非シアン系自己還元型無電解金メッキ浴(商品名プレシャスファブACG 3000WX、金(Au)濃度(2g/L)、pH=7.5)に65℃で5分間浸漬し、平均膜厚50nmの金(Au)層を得た。
【0044】
次に、フォトリソグラフィーにより金(Au)層上に電極パターンを形成した。その後ヨウ素系金エッチング液(関東化学株式会社製の商品名:オーラム)により不要部分の金を除去し、電極パターンを形成した。その結果、
図2に示すような、チャネル幅1000μm、チャネル長5、10、20、50、100μmの金(Au)のコンタクト電極を持つ、OFETを得た。
【0045】
作製した素子の評価として、トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約2.0cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗の評価としてTML法(Transfer Line Method)により接触抵抗を見積もったところ、0.8kΩcmであった。
【0046】
〔基準例〕
実施例1での金(Au)層形成にメッキ法の代わりに、真空蒸着法を用いた。金(Au)層形成後に実施例1と同様の処理を行い、OFETを得た。作製した素子の評価としてトランジスタとしてのキャリア移動を測定したところ、約2.1 cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗は、0.5kΩcmであった。
【0047】
すなわち、湿式法で作製した実施例1での金(Au)層のキャリア移動度約2.0cm
2/Vsは真空蒸着法のキャリア移動約2.1 cm
2/Vsとそん色はなく、また、コンタクト電極の接触抵抗も0.5kΩcmに対し0.8kΩcmとほぼ同等であることがわかる。
【0048】
〔実施例2〕
図3に示すようなボトムゲート・トップコンタクトタイプのOFETを作製した。基板はPEN(テオネックス125Q65HA TEIJIN(株)製)を使用した。この基板に真空蒸着法を用いCr/Au/Cr=3/5/3nmのゲート電極層を形成した。次にALD法を用いアルミナ絶縁層(100nm)を形成した。次に真空蒸着法により有機半導体層を堆積した。有機半導体材料は3,10−ジデシル−ジナフト[2,3−d:2’,3’−d’]ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン用い、平均厚さ30nmの有機半導体層を得た。
【0049】
次に、金(Au)ナノ粒子を調整した。具体的には、まず、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム・四水和物を金(Au)換算濃度で0.1g/Lおよびキシリトール:1.0g/Lを90℃の水酸化ナトリウム水溶液(pH=12)に溶解し、クエン酸ナトリウム・二水和物で還元してコロイド状金(Au)ナノ粒子水溶液を得た。この金(Au)ナノ粒子の平均粒径は19nmで90%以上が14〜24nmの範囲(d=19±5nm)に入っていた。
【0050】
次に、金(Au)ナノ粒子の有機半導体上への吸着処理を行った。
すなわち、有機半導体層まで形成された基板を0.1%塩化トリメチルステアリルアンモニウム水溶液に30秒浸漬し、5分間流水にて純水洗浄を行った。さらに上記の金(Au)ナノ粒子を含んだ水溶液に5分間浸漬した後、5分間流水にて純水洗浄を行った。次に、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製の非シアン系自己還元型無電解金メッキ浴(商品名プレシャスファブACG 3000WX、金(Au)濃度(2g/L)、pH=7.5)に65℃で5分間浸漬し、平均膜厚50nmの金(Au)層を得た。
【0051】
次に、フォトリソグラフィーにより金(Au)層上に電極パターンを形成した。その後ヨウ素系金エッチング液(オーラム 関東化学薬品製)により不要部分の金を除去し、電極パターンを形成した。その結果、
図2に示すような、チャネル幅1000μm、チャネル長5、10、20、50、100μmの金(Au)のコンタクト電極を持つ、OFETを得た。
【0052】
作製した素子の評価として、トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約2.0cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗の評価としてTML法により接触抵抗を見積もったところ、0.7kΩcmであった。
【0053】
〔実施例3〕
実施例1と同様に
図1に示すようなボトムゲート・トップコンタクトタイプのOFETを作製した。
基板は熱酸化によりSiO
2(200nm)が形成されたSi基板を用い、Siをゲート電極、SiO
2を絶縁層とした。基板をアセトンに浸漬し超音波洗浄により脱脂した後、UVオゾン処理を行い清浄な表面を得た。次に真空蒸着法により有機半導体層を堆積した。有機半導体材料は2,9−ジデシル−ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン用い、平均厚さ30nmの有機半導体層を得た。
【0054】
次に、白金(Pt)ナノ粒子を調整した。具体的には、まず、ヘキサヒドロキソ白金(IV)を白金(Pt)換算濃度で0.3g/Lおよびマンニトール:3.0g/Lを90℃の水酸化ナトリウム水溶液(pH=12)に溶解し、ヒドラジンで還元して白金(Pt)コロイド溶液を得た。この白金(Pt)ナノ粒子の平均粒径は35nm(d=35±20nm)であった。
【0055】
次に、白金(Pt)ナノ粒子の有機半導体上への吸着処理を行った。
有機半導体層まで形成された基板を上記の白金(Pt)ナノ粒子を含んだ水溶液に5分間浸漬した後、5分間流水にて純水洗浄を行った。次に、ヘキサヒドロキソ白金(IV)を白金(Pt)換算濃度で1.0g/L、硫酸アンモニウム50.0g/Lおよびホウ酸5.0g/Lおよびヒドラジン0.15g/Lを含有する無電解白金(Pt)メッキ液(pH=8.0)に25℃で3分間浸漬し、平均膜厚50nmの白金(Pt)膜を得た。
【0056】
次に、レーザーアブレーションにより不要部分の白金を除去し、電極パターンを形成したところ、チャネル幅2000μm、チャネル長50、100、200、5000μmの白金(Pt)のコンタクト電極を持つ、OFETを得た。
【0057】
作製した素子の評価として、トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約0.9cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗を見積もったところ、2.0kΩcmであった。
【0058】
〔比較例1〕
実施例1の金(Au)ナノ粒子と無電解金メッキ液を変更した以外は、実施例1と同様の試験を行った。
具体的には、まず、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム・四水和物を金(Au)換算濃度で0.1g/L、クエン酸ナトリウム・二水和物:0.6g/Lおよび水素化ホウ素ナトリウム:0.1g/Lを含有した水溶液を90℃で30分間加熱し、コロイド状金(Au)ナノ粒子水溶液を得た。この金(Au)ナノ粒子の平均粒径は3±2nmであった。次に、金(Au)ナノ粒子の有機半導体上への吸着処理を行った。有機半導体層まで形成された基板を0.1%塩化トリメチルステアリルアンモニウム水溶液に30秒浸漬し、5分間流水にて純水洗浄を行った。さらに上記の金(Au)ナノ粒子を含んだ水溶液に5分間浸漬した後、5分間流水にて純水洗浄を行った。次に強酸性の無電解金(Au)メッキ液を調整した。テトラクロロ金(III)酸ナトリウム・四水和物を10mMおよび過酸化水素水20mMを含有した無電解金メッキ(pH=1)に25℃で2分間浸漬し、平均膜厚50nmの金(Au)層を得た。その後実施例1と同様の処理を行い、OFETを得た。
【0059】
作製した素子の評価としてトランジスタとしてのキャリア移動を測定したところ、約0.4cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗は、8.0kΩcmであった。これは真空蒸着により電極を形成した基準例と比較すると、キャリア移動度が1桁小さくなり、接触抵抗は10倍以上の大きさであった。
【0060】
〔比較例2〕
実施例3の無電解白金メッキ液を、強アルカリ性の無電解金メッキ液に変更した以外は、実施例3と同様の試験を行った。すなわち、ヘキサヒドロキソ白金(IV)を白金(Pt)換算濃度で1.0g/L、アンモニア水20ml/Lおよびヒドラジン0.15g/Lを含有する無電解白金(Pt)メッキ液(pH=13.0)に50℃で4分間浸漬し、平均膜厚50nmの白金(Pt)膜を得た。
【0061】
作製した素子の評価としてトランジスタとしての特性を評価したところ、トランジスタとしての特性は示さず、有機半導体結晶へ深刻なダメージがあったことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、無電解メッキにより目的の金属による電極を、有機半導体表面に、確実にかつ安定的に形成することが可能となるので、有機半導体電界効果型トランジスタの生産効率を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】本発明の有機トランジスタの実施例を示す概略図である。
【
図2】本発明の有機トランジスタの接触抵抗の測定方法を示す概略図である。
【
図3】本発明の有機トランジスタの他の実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0064】
1:Siウェハー
2:SiO
2絶縁層
3:有機半導体層
4:ソース・ドレイン電極
5:PEN基板
6:Cr/Au/Crゲート電極
7:アルミナ絶縁層