(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365931
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】加工香辛料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/14 20160101AFI20180723BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20180723BHJP
A23L 3/24 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
A23L27/14
A23L27/10 C
A23L27/10 E
!A23L3/24
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-136047(P2014-136047)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-13077(P2016-13077A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100179925
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 真紀
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】種田 豊
(72)【発明者】
【氏名】里見 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】黒部 史明
【審査官】
飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−089722(JP,A)
【文献】
特開2007−061015(JP,A)
【文献】
特表平03−500723(JP,A)
【文献】
特開昭57−152863(JP,A)
【文献】
特開昭57−005664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未粉砕の香辛料又は840μm以上の粒度を有する香辛料を、0.05MPa・G以上0.30MPa・G未満の蒸気の圧力、4.0%より高く8.0%以下の酸素濃度、及び70℃以上120℃以下の過熱度で過熱水蒸気により処理した加工香辛料。
【請求項2】
香辛料が、フェヌグリーク、クミン、フェンネル、コリアンダー、辛子、唐辛子、パプリカ、黒胡麻、白胡麻及び麻の実からなる群より選ばれる請求項1に記載の加工香辛料。
【請求項3】
過熱水蒸気による処理後、さらに粉砕処理した請求項1又は2に記載の加工香辛料。
【請求項4】
未粉砕の香辛料又は840μm以上の粒度を有する香辛料を、0.05MPa・G以上0.30MPa・G未満の蒸気の圧力、4.0%より高く8.0%以下の酸素濃度、及び70℃以上120℃以下の過熱度で過熱水蒸気により処理する加工香辛料の製造方法。
【請求項5】
香辛料が、フェヌグリーク、クミン、フェンネル、コリアンダー、辛子、唐辛子、パプリカ、黒胡麻、白胡麻及び麻の実からなる群より選ばれる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
過熱水蒸気による処理を、ロータリーバルブ式装置を用いて行う請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
過熱水蒸気による処理後、さらに粉砕処理する請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工香辛料又は請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られた加工香辛料を含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工香辛料、特に、香ばしい香りが付与された加工香辛料及びその製造方法に関する。また本発明は、本発明の加工香辛料を含む食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
香辛料の殺菌方法として、過熱水蒸気による処理方法が知られている。過熱水蒸気殺菌は、対象物に飽和温度以上に加熱した水蒸気を当てることにより、短時間で高い殺菌効果が得られることを特徴とする方法である。また、低過熱度・高圧力の条件で処理することにより、殺菌前後における香辛料の色や香りなどの状態変化を抑えられることから、一般的に使用されている殺菌方法である。特公昭62−50101号公報には、香辛料ホールを蒸気と接触させて殺菌する方法が開示されている。特開平2−177879号公報には、過熱水蒸気殺菌装置を用いて、香辛料を加熱処理する方法が開示されている。特公昭63−50984号公報には、気流式殺菌装置を用いて、殺菌後における香りや味の逸散、変質が少ない香辛料を製造する方法が開示されている。また、特許第3724612号公報には、ロータリーバルブを利用し、過熱水蒸気により粉粒物質を加熱処理する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭62−50101号公報
【特許文献2】特開平2−177879号公報
【特許文献3】特公昭63−50984号公報
【特許文献4】特許第3724612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の香辛料の殺菌処理は、殺菌前後における香辛料の色や香りの変化をいかに抑えるかという観点のものである。これに対して、本発明は、殺菌前後における香辛料の色や香りの変化を抑制するという上記従来の技術とは一線を画し、殺菌処理が施された加工香辛料であって、それぞれの香辛料特有の香りが引き出され、むしろ香ばしい香りが付与された加工香辛料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、香辛料を過熱水蒸気により所定の条件下で処理することで、上記課題が解決できることを見出し、完成するに至ったものである。
本発明は、未粉砕の香辛料又は840μm以上の粒度を有する香辛料を、0.30MPa・G未満の蒸気の圧力、4.0%より高く8.0%以下の酸素濃度、及び70℃以上120℃以下の過熱度の条件下で過熱水蒸気により処理した加工香辛料を提供する。
また、本発明は、未粉砕の香辛料又は840μm以上の粒度を有する香辛料を、0.30MPa・G未満の蒸気の圧力、4.0%より高く8.0%以下の酸素濃度、及び70℃以上120℃以下の過熱度の条件下で過熱水蒸気により処理する加工香辛料の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、上記加工香辛料又は上記製造方法により得られた加工香辛料を含む食品にも関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、殺菌処理が施された加工香辛料であって、それぞれの香辛料特有の軽やかな香りが引き出され、過熱水蒸気による焙煎によって香ばしい香りが付与された加工香辛料及びその製造方法が提供される。特に、本発明の加工香辛料は、処理前の香辛料が有していなかった、鼻を突き刺すような(鼻に抜けるような)香ばしい香りを有するのが特徴である。また本発明の加工香辛料を含む食品は、香辛料の香ばしい香りが付与された、嗜好性の高い非常に好ましいものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明においては、香辛料を過熱水蒸気により処理して、殺菌及び焙煎を行う。
本発明が対象とする香辛料としては、特に限定されないが、オールスパイス、カルダモン、キャラウェー、クミン、クローブ、コリアンダー、ジンジャー、セロリシード、ターメリック、ナツメグ、バジル、パプリカ、黒胡椒、ローレル、花椒、桂皮、唐辛子、白胡椒、ケシの実、シナモン、スターアニス、山椒、青のり、陳皮、黒胡麻、白胡麻、麻の実、フェヌグリーク、フェンネル及び辛子等が挙げられる。中でも、過熱水蒸気による焙煎処理前後の風味差が大きく、かつ焙煎香を付与した場合の用途の幅が広いフェヌグリーク、クミン、フェンネル、コリアンダー、辛子、唐辛子、パプリカ、黒胡麻、白胡麻及び麻の実が好ましい。
本発明においては、これらの香辛料を、未粉砕又は840μm以上の粒度を有するように粗く砕いた状態で用いる。このような状態で香辛料に過熱水蒸気を当てることによって、香辛料表面に付着している病原菌を死滅させ、かつ、所期の香ばしい香りを付与することができる。ここで、粒度は、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」に定義されるふるい分け法によって測定した、試験用ふるいの目開きで表したものをいう。
【0008】
本発明においては、過熱水蒸気により以下の条件下で処理することにより、香辛料に所期の香ばしい香りを付与することができる。
蒸気の圧力は0.30MPa・G未満、好ましくは0.25MPa・G以下、より好ましくは0.05MPa・G以上0.20MPa・G以下である。
酸素濃度は、4.0%より高く8.0%以下、好ましくは5.0%以上8.0%以下、より好ましくは5.7%以上8.0%以下である。香辛料の加熱殺菌処理を行う場合、酸素存在下においては、香辛料が酸化して好ましくないと考えられることがあるが、本発明者らは、意外にも、上記濃度範囲で酸素を存在させることによって、香辛料に所期の香ばしい香りを付与できることを見出した。上記範囲の酸素濃度で処理を行うことにより、無酸素又は低酸素の条件下よりも、香辛料に付与される香りがより強く香ばしいものとなる。酸素の供給は香辛料同士の間隙に含まれている酸素を用いてもよいし、予め空気若しくは酸素と過熱水蒸気を混合したものを用いてもよい。ここで、本発明においては、以下の方法により酸素濃度を算出するものとする。なお、以下の酸素濃度の算出における各圧力は絶対圧力を指し、ゲージ圧に大気圧である0.1MPaを加えた値である。
− 焙煎する香辛料が入った密閉空間に過熱水蒸気を投入する形式の装置で処理する場合(例えば、ロータリーバルブ式装置等)
酸素濃度%={(香辛料同士の間隙に含まれる空気の圧力)×(空気中の酸素濃度)+(供給される気体の圧力)×(供給される気体の酸素濃度)}/(香辛料同士の間隙に含まれる空気の圧力+供給される気体の圧力+注入される蒸気の圧力)
− 焙煎する香辛料を過熱水蒸気中を含む密閉配管または容器に投入する形式の装置で処理する場合(例えば、気流式装置等)
酸素濃度%={(香辛料同士の間隙に含まれる空気の圧力)×(空気中の酸素濃度)/(香辛料同士の間隙に含まれる空気の圧力+供給される気体の圧力+注入される蒸気の圧力)}×{(香辛料同士の間隙に含まれる空気の体積)/(香辛料同士の間隙に含まれる空気の体積+密閉配管または容器の体積)}+{(供給される気体の圧力)×(供給される気体の酸素濃度)/(供給される気体の圧力+注入される蒸気の圧力)}×{(密閉配管または容器の体積)/(香辛料同士の間隙に含まれる空気の体積+密閉配管または容器の体積)}
− 焙煎する香辛料を、開放空間に投入する形式の装置で処理する場合(例えば、連続式装置等)
酸素濃度%=(供給される気体の圧力)×(供給される気体の酸素濃度)/(供給される気体の圧力+注入される蒸気の圧力)
【0009】
過熱水蒸気の過熱度は、70℃以上120℃以下、好ましくは80℃以上110℃以下、より好ましくは80℃以上100℃以下である。
過熱水蒸気による処理時間は、3秒以上60秒以下、好ましくは5秒以上30秒以下、より好ましくは7秒以上15秒以下である。
香辛料は、10kg/時間以上200kg/時間以下、好ましくは30kg/時間以上150kg/時間以下、より好ましくは50kg/時間以上100kg/時間以下の処理速度で処理することができる。
上記条件の範囲内において、それぞれの香辛料に応じて、殺菌効果及び香ばしい香りを付与できる条件を適宜決定すればよい。
【0010】
本発明においては、各種の過熱水蒸気殺菌装置を用いることができる。例えば、気流式、ロータリーバルブ式、バッチ式、連続式等の装置を使用することができる。気流式の過熱水蒸気殺菌装置は、殺菌する対象物を過熱水蒸気が流れる配管内に投入し、移送中に殺菌する装置であり、最も基本的な殺菌装置である。処理するスパイスの体積に対して処理する空間(配管の体積)が大きいため、配管内の空気が水蒸気により希釈され、またドレーンと共に処理空間外に押し出されやすく、酸素濃度が低くなる傾向がある。ロータリーバルブ式装置は、対象物を投入した個々のセルに直接過熱水蒸気を注入して殺菌する装置で、セルがロータリーバルブ等によりなる装置である。処理するスパイスの体積に対して処理する空間(セルの体積)が小さいため、セル内の空気が水蒸気によって希釈されず、また処理空間外に押し出されにくく、蒸気の圧力を設定することで酸素濃度は設定しやすい。本発明においては、酸素濃度の設定のしやすさ及び処理時間の観点から、ロータリーバルブ式装置を用いることが好ましい。
【0011】
上記条件により処理した加工香辛料は、そのままの状態で用いることができ、又はさらに粉砕処理して用いてもよい。粉砕処理は、ロール粉砕機、スタンプ粉砕機、ピンミル及びハンマーミル等の装置を用いて行えばよい。粉砕処理は、香辛料の種類と使用用途に応じて、所定の粒度まで粉砕すればよい。
本発明は、本発明の加工香辛料を含む食品にも関する。本発明の食品は、調味料や加工食品を含む食品全般を含む。調味料としては、例えば、ラーメン、そば及びうどん等の液体・粉末調味料、カレー、シチュー及びハヤシ等のルウ・ソース、ポテトチップス等のスナック食品用調味料、パスタ、焼き肉、ハンバーグ、ステーキ及び照焼き等のソース、ドレッシング等の調味料、七味唐辛子及び五香粉等のスパイスミックス等が挙げられる。加工食品などの食品は、本発明の加工香辛料又は上記調味料を含み、種々の食品や、レトルト食品及びチルド食品などの工業製品を含む。
本発明の食品は、用途に応じて、1つ以上の本発明の加工香辛料を含む。加工香辛料の合計含有量は、用途に応じて任意の値とすることができるが、例えば、麺類等の液体・粉末調味料やスナック食品用調味料、ドレッシング等においては0.01重量%以上90重量%以下、カレー等のルウ・ソースやパスタ等のソース等においては0.01重量%以上20重量%以下とすればよい。
【実施例】
【0012】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
未粉砕のクミンを、蒸気の圧力0.15MPa・G、過熱度70℃、酸素濃度8.0%の条件下で、処理時間10秒間、処理速度86.5kg/時間にて処理した。装置はロータリーバルブ式過熱水蒸気殺菌装置(株式会社大川原製作所製)を用いた。
(実施例2〜6、比較例1、2)
実施例1から、蒸気の圧力、過熱度及び酸素濃度を表1の通り変更した。
(実施例7〜10)
実施例5から、香辛料を、それぞれフェヌグリーク、コリアンダー、辛子及びフェンネルに変更して処理を行った。
(実施例11)
実施例5から、香辛料を唐辛子に変更した。唐辛子は840μm以上の粒度(目開き840μmオン)となるように粗く砕いて用いた。
(比較例3)
未粉砕のクミンを、蒸気の圧力0.15MPa・G、過熱度100℃、酸素濃度0.7%の条件下で、処理時間約6秒、処理速度500kg/時間にて処理した。装置は気流式殺菌装置(キッコーマン株式会社製)を用いた。
【0013】
得られた加工香辛料を、以下の基準を用いて評価した。
[官能評価]
◎:非常に強い鼻を突き刺すような香ばしい香りがあり、焦げ臭はない
○:強い鼻を突き刺すような香ばしい香りがあり、焦げ臭はない
△:香ばしい香りが弱い、又は焦げ臭があるが許容範囲内である
×:香ばしい香りに乏しい、又は焦げた嫌な香りがあり許容できない
また、得られた加工香辛料の殺菌効果を、一般生菌及び大腸菌群について調べた。
以下の表1に、実施例及び比較例の処理条件及び結果を示す。
【0014】
【表1】
【0015】
処理前のクミンは、香ばしい香りが非常に弱いものであった。蒸気の圧力、過熱度及び酸素濃度をそれぞれ設定して過熱水蒸気により処理した実施例1〜5及び7〜11のクミン及び各香辛料においては、強い鼻を突き刺すような香ばしい香りが付与され、実施例6のクミンにおいても香ばしい香りが付与されていた。一方で、比較例1及び比較例2の条件で処理したクミンは、香ばしい香りに欠けていた。また、比較例3の条件では、クミンが焦げてしまい、許容できないものとなってしまった。
【0016】
(実施例12)
ラード33.5gと小麦粉37gを120℃になるまで炒めた。そこにターメリック2g、コリアンダー2g、フェヌグリーク1g、唐辛子1g、および実施例5で処理したクミン2gを加え、3分間炒めた。次に、グラニュー糖6.5g、食塩7.5g、グルタミン酸ナトリウム6.5g、核酸調味料0.7g、カラメル色素0.3g、水600gを加え撹拌し、カレーソースを作った。前記カレーソース200gをレトルトパウチに入れ、120℃で60分間、殺菌処理を行い、レトルトカレーソースを得た。このレトルトカレーソースは、クミンの鼻を突き刺すような香ばしい香りを有していた。
(実施例13)
実施例5で処理したクミン8.4g、花椒25g、唐辛子15g、陳皮20g、ターメリック10g、グルタミン酸ナトリウム30g、コショウ9gを混合し、スパイスミックスを得た。市販の冷凍カレーうどんに2g添加したところ、非常に香ばしい香りと適度な辛味を得ることができた。