【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 アメリカ電気化学会、固体酸化物燃料電池に関する第13回国際シンポジウム(SOFC−XIII) イーシーエストランザクションズ(ECS transactions)、vol.57、No.1、2013年10月6日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高く、環境への負荷が低く、また、多様な燃料の使用が可能であるというメリットを有している。固体酸化物形燃料電池の構造には種々あるが、例えば、多孔質構造を有するアノード(燃料極)、酸化物イオン伝導体からなる緻密な固体電解質(例えば、緻密膜層)、多孔質構造を有するカソード(空気極)の順に積層されてなる構造の固体酸化物形燃料電池を挙げることができる。このような構造の固体酸化物形燃料電池は、アノードに燃料ガス(例えば、水素ガス、メタンガス等)を供給し、カソードに酸素含有ガスを供給して動作させる。
【0003】
また、現在、上記固体酸化物形燃料電池では、ジルコニウム二酸化物(ZrO
2)系固体電解質とランタンコバルト三酸化物(LaCoO
3)系ペロブスカイト酸化物がカソードとして用いられており、それらの界面における反応生成物抑制のために、セリウム二酸化物(CeO
2)系カソード薄膜中間層が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、CeO
2系薄膜中間層上に、有機金属酸塩溶液から得られた酸化物イオン・電子混合導電体を700℃〜950℃での低温アニールにより設けてなる複合層構造体は知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カソード材料の焼付けに伴う反応活性に関し、低温活性に優れた比表面積の大きい粉末を電解質に焼付けする際に、比表面積の低下を伴う。カソード材料の電解質への密着性と焼付け後の比表面積とには、トレードオフの関係がある。CeO
2系薄膜中間層の上にカソード材料を直接焼き付ける1,000〜1,150℃程度の高温焼成の場合は、密着性は良いが、カソード粒子の粗大化に伴い、比表面積が低下する。一方、低温焼き付けの場合は、粒径は変化しないが、カソード材料と固体電解質との密着性が悪いという相反する問題がある。
【0007】
本発明の課題は、従来技術の問題点を解決することにあり、SOFCのCeO
2系固体電解質基板またはCeO
2系薄膜中間層上へ有機金属酸塩熱分解(MOD)法によってカソードと同じ材料による酸化物イオン・電子混合導電体(カソードナノコート)を設けてなる複合層構造体を構築することで、カソードの低温焼付けを可能とし、それによって、カソード粒子の表面積を低下させず、そして原料粉に近い活性を維持することができるため、高性能なカソード性能を提供することができる複合層構造体及びその製造方法並びに固体酸化物形燃料電池のカソード製造方法を提供することにある。更に、カソードナノコート自体にもカソード機能を持たせた複合層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合層構造体は、SOFCのCeO
2系固体電解質基板またはCeO
2系薄膜中間層上に、有機金属酸塩熱分解(MOD)法によるカソードと同じ材料系からなる酸化物イオン・電子混合導電体層(カソードナノコート)を設けてなることを特徴とする。
【0009】
本発明の複合層構造体の製造方法は、CeO
2系固体電解質基板またはCeO
2系薄膜中間層を基板として用い、この基板上に、有機金属酸塩溶液を塗布して酸化物イオン・電子混合導電体層前駆体を形成し、空気中で所定の温度で乾燥し、次いで700℃〜950℃で熱アニールすることにより所望の酸化物イオン・電子混合導電体層を形成して複合層構造体を製造することを特徴とする。但し、熱アニール処理温度は、酸化物イオン・電子混合導電体のSOFC運転時の経時変化を避けるために、上記熱アニール温度範囲内で、SOFCの運転温度(500℃〜950℃、好ましくは600℃〜900℃、より好ましくは700℃〜900℃の範囲内で決定される温度)と同等か、それ以上の温度とする必要がある。
【0010】
熱アニール温度が700℃未満であると、立方晶BSCFは、形成されない傾向が有り、950℃を超えると、BSCF中のCoの揮発が懸念される傾向がある。
【0011】
本発明の固体酸化物形燃料電池のカソード製造方法は、SOFCのCeO
2系固体電解質基板またはCeO
2系薄膜中間層を用い、その上に、有機金属酸塩溶液を塗布して酸化物イオン・電子混合導電体層前駆体を形成し、空気中で乾燥し、次いで700℃〜950℃で熱アニールすることにより酸化物イオン・電子混合導電体層を形成し、その後、酸化物イオン・電子混合導電体層の熱変質を防ぐために、SOFCの運転温度と熱アニール処理温度との間の温度範囲、またはSOFCの運転温度とそれよりも100℃未満の温度範囲の、どちらか一方の狭い温度範囲において、カソードの低温焼付を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、CeO
2系固体電解質基板またはCeO
2系薄膜中間層上に、有機金属酸塩溶液を用いて、MOD法により、低温(700〜950℃)での熱アニールで酸化物イオン・電子導電体層を形成することにより、得られた酸化物イオン・電子導電体層(カソードナノコート)自体にも優れたカソード性能を持たせることができるようにし、カソードの電解質への低温焼き付けを可能にするという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、実施の形態の概要を説明し、次いでこの構成要素について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る複合層構造体の実施の形態によれば、この複合層構造体は、CeO
2系層、例えば、希土類元素をドープしたセリア系層(例えば、GdドープしたCe
0.9Gd
0.1O
1.95多結晶層等)を基板(CGO基板)として用い、この基板上に、酸化物イオン・電子混合導電体(例えば、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(δは酸素欠損による変動であり、電気的中性条件を満たすように定まる値である。)等)層を設けてなる。
【0016】
例えば、
図1に示す複合層構造体では、低温成膜されたCeO
2系薄膜基板1の上に、MOD法により、有機金属酸塩溶液を用いて低温熱アニール法により酸化物イオン・電子混合導電体層からなるカソードナノコート2を設けてある。このカソードナノコートの上にはカソード材料3を低温焼き付けする。この場合、カソードナノコート自体もナノカソードとして非常に活性があり、カソード性能に優れている。カソード材料の低温焼き付けによっても、密着性は良く、比表面積が低下せず、カソード粒子は原料粉に近い活性を維持しているという特徴がある。
【0017】
本発明における酸化物イオン・電子混合導電体層(カソードナノコート)は、カソード材料と同じ材料系からなり、カソード材料としては、例えば、(La
1−xSr
x)(Co
1−yFe
y)O
3−δや(Ba
1−xSr
x)(Co
1−yFe
y)O
3−δ等を挙げることができる。この場合、カソードナノコートは、必ずしもカソード材料と同組成である必要はない。また、CeO
2系材料としては、例えば、Ce
1−xM
xO
2−α(M=3価の希土類元素:Y、Gd、Sm、Dy等)等を挙げることができる。
【0018】
(実施例1)
MOD法においては、MOD溶液の分解温度を把握することは成膜温度(焼成温度、熱アニール温度)を決める上で重要である。例えば、BSCFには、BaとSrという塩基性の高い元素が含まれていることから、有機金属酸塩が分解した後、直ぐに炭酸塩を形成する可能性が高い。炭酸塩の形成は、その後のBSCF酸化物相形成を最終的に妨害する影響が確認されており、この炭酸塩の影響を排除するためには、昇温時の昇温速度の調整により炭酸塩の生成を抑えることが必要であると考えられる。このため、MOD溶液の分解温度帯と熱アニールの昇温速度との関係を明らかにするため、示差熱測定(DSC404、独 Netzsch社製)及び熱重量測定(TG439、独 Netzsch社製)を行った。
図2に、示差熱(DTA)及び熱重量(TG)の測定結果を示す。
図2の横軸は測定温度(℃)であり、縦軸は相対質量(Δm/%)、DTA(μVmg
−1)である。この測定では、昇温速度を、1℃/min及び15℃/minに設定して行った。
図2から明らかなように、どちらの昇温速度においても、領域Iでは、有機溶剤の揮発に伴う大幅な重量減や揮発に伴う吸熱が生じている。その後、領域IIにおいて、有機金属酸塩の熱分解に伴う、発熱と重量減少が確認された。この結果から、450℃程度までには有機金属酸塩の熱分解は終了していると考えられた。熱分解の後、領域IIIにおいて、何らかの水酸化物、炭酸塩、酸化物の形成が始まっていると考えられるが、測定原理上、重量と熱量との測定からは、複数の生成物の形成過程は定性的にも分析できない。領域IVにおいて、最終的に700℃以上において、重量減少が終わっている。このことから、700℃以上において、重量の増減を伴う生成物の形成が終了し、最終生成物に近い酸化物が形成されているものと推察された。以上より、成膜(アニール)における昇温温度については、450℃までに終了する有機金属酸塩分解後、速やかに酸化物形成領域に持ち込みたいこと、また、成膜における昇温速度が早いほうが緻密化される結果が得られることが知られていることから、昇温速度15℃/minを採用して本発明を説明する。また、膜生成物の相同定は、少なくとも700℃以上を目安に行うことが望ましいことも分かった。
【0019】
(実施例2)
支持基板として、厚さ400μm、直径25mmのセリア系酸化物イオン導電性酸化物(CeO
2系層として、10mol%GdをドープしたCeO
2系基板(CGO:Ce
0.9Gd
0.1O
1.95多結晶基板、第一希元素化学工業(株)製))を用いた。この基板上に、Ba、Sr、Co、及びFeの各有機金属酸塩が、Ba、Sr、Co、及びFeのモル比が、それぞれ、0.5、0.5、0.8、及び0.2になるように調整されたエステル系有機溶剤に溶解したコーティング溶液(MOD溶液)を1回のスピンコーティングで塗布して前駆体均一層を作成し、次いで、空気中、5分間、200℃で乾燥した後、5分間、600℃〜950℃(600℃、700℃、800℃、850℃、900℃、950℃)で熱アニールすることにより、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(δは酸素欠損による変動であり、電気的中性条件を満たすように定まる値である。)(BSCF)層からなるカソードナノコート層(薄膜カソード層)(従来技術では、1050〜1100℃で焼結して作製している)からなる複合層構造体を作製した。熱アニールの昇温速度は、15℃/minで行った。なお、スピンコーティンの回数は、適宜、変更可能である。
【0020】
(実施例3)
実施例2に記載のように、MOD法により、CGO基板上にBSCF層を形成し、BSCF相の形成温度を確認した。すなわち、CGO基板上に、BSCF層用の有機金属酸塩溶液を1回のスピンコーティングで塗布し、乾燥後、5分間、600℃〜950℃(600℃、700℃、800℃、850℃、900℃、950℃)で熱アニール(昇温速度:15℃/min)することにより、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ(δは酸素欠損による変動であり、電気的中性条件を満たすように定まる値である。)層からなるカソードナノコート(薄膜カソード層)層を形成し、これをXRD回折により解析した。かくして得られたX線回折結果を
図3に示す。
【0021】
このBSCF層に対するXRD測定には、Siemens D5000(現在の独 Bruker−AXS社製)を用い、X線入射角度を1°として斜入射XRD法により測定を行った。
【0022】
上記したTG測定とDTA測定とでは、700℃以上で重量の増減を伴う生成物の形成が終了し、最終生成物に近い酸化物が形成されているものと推察されたように、このX線回折結果からも、700℃未満では、BSCFが形成される前の六方晶Ba
0.75Sr
0.25CoO
3−δと六方晶BSCFとの生成が確認された。800℃では六方晶Ba
0.5Sr
0.5CoO
3の生成は無くなり、六方晶BSCFと立方晶BSCFが生成されていることが確認された。さらに温度を上げると、900℃で立方晶BSCF単相が生成されることが確認された。かくして、CGO多結晶基板において、ペロブスカイト型酸化物であるBSCFが、MOD法の特徴である低温でも簡便に形成できることが判明した。
【0023】
(実施例4)
上記のようにして形成したBSCF層の物性値(導電率)を測定した。但し、基板としてセリア系基板の代わりにNdGaO
3層基板(NGO(110)単結晶基板)を用いた。これは、物性値測定に影響が及ばないようにするためである。この物性値測定は、微量の第二相の影響が一番小さいと考えられる成膜温度(熱アニール温度)の一番高い950℃で行うため、実施例1の記載に準じて、950℃で形成したBSCF層の相同定を行った。
【0024】
形成されたBSCF層に対する斜入射法によるXRD測定結果からバックグラウンドピークの削除を行った結果を、
図4に示す。立方晶BSCF文献値(Powder Diffr., 18,(2003)56))とピーク位置がほぼ一致したことから、得られた層は立方晶BSCF多結晶層であることが同定できた。
【0025】
また、平滑な表面を有するNGO単結晶基板上に、950℃で形成したBSCF層の表面をSEM観察した結果を
図5に示す。視認では、膜表面は完全な鏡面のようであったが、SEM観察では、CGO基板上と比較して、NGO基板上の表面にはBSCF層がほぼ平滑に形成されている。
【0026】
上記したようにして得られたBSCF層の破断面をSEM観察して、その結果を
図6に示す。成膜条件は、スピンコーティングを5回行い、その後950℃で60分焼成した。得られたBSCF層は、緻密になっており、このSEM観察では厚さ61nmであった。複数の実験の結果、厚さは、50nm〜100nm程度の範囲になることを確認した。非常に均一で平滑なものが得られた。
【0027】
次に、形成されたBSCF層の物性値(導電率)を測定した。上記したように、基板としてNdGaO
3層基板(NGO(110)単結晶基板)を用い、上記に準じて、その上に焼成温度(熱アニール温度)950℃でBSCF層を形成し、測定に供した。
【0028】
導電率は次のようにして測定した。BSCF層試料の両端にマグネトロンDCスパッタによって金電極を蒸着し、その後、リード金線を電極部にスポット溶接し、測定用治具の電流・電圧端子のそれぞれに据え付けて測定を行った。抵抗測定は、電気炉中の雰囲気を空気として、15℃/minで昇温しながら、300〜800℃の間において、20秒間隔で2端子法にて、Agilent 34420マイクロオームメータを用いて定電流法(10μA〜1mA)にて実抵抗を計測した。その後、導電率[S/cm](S(ジーメンス)=1/Ω)をセル定数[1/cm]÷測定抵抗[Ω]として計算によって求めた。セル定数=厚さ×試料の幅/電極間の距離=61nm×10mm/6.5mmとして決定した。
【0029】
上記のようにして測定した抵抗値から導電率を算出した結果を
図7に示す。
図7において、横軸は測定温度(℃)であり、縦軸は導電率(σ/Scm
−1)である。
図7中には、BSCFバルク体で測定された導電率とパルスレーザーデポジション(PLD)法により物理的に成膜されたBSCF薄膜の導電率を併記する。
図7から明らかなように、MOD法で形成されたBSCF層の導電率は、エピタキシャル成長膜よりも値は小さいが、バルク体よりも高い値を示した。そのため、得られたBSCF層は、薄膜カソード等として有用であることが分かる。
【0030】
図7から明らかなように、導電率の温度依存性に関しては、バルク体では、500℃以上において温度上昇に伴う値の変化はなく、むしろ450℃付近を最大値として減少している。しかし、MOD法により形成したBSCF層やPLD法により成膜した薄膜の導電率は、温度の上昇と共に増大している。これは、BSCFが酸化物イオンと電子との混合導電体であることに起因していると考えられる。BSCF層は空気雰囲気中では、温度の上昇に伴い酸化物イオン導電の寄与が増大し、電子導電の寄与が減少することにより、トータルとしての全導電率が減少されることが知られている。
図7の結果は、温度上昇に伴う酸化物イオン導電と電子導電の寄与に違いが生じていることが考えられる。つまり、PLD法で成膜したBSCF薄膜では、酸化物イオンで導電の寄与が小さく、電気導電の寄与の減少が小さいため、全導電率の低下が抑えられている。つまり、バルク体よりも電子導電率が高く、酸化物イオン導電率が低いことを意味している。本発明において、MOD法により低温で形成したBSCF層は、XRD解析の結果、配向性もなく、多結晶BSCF層であるため、NGO単結晶基板からそれ程強く影響を受けず、その導電率の温度依存性は、バルク体の温度依存性に近いものと考えられる。
【0031】
(実施例5)
実施例2の記載に準じて、CGO基板上に熱アニール温度700℃、950℃で形成したBSCF層の表面状態をSEM観察し、その結果を
図8(a)及び(b)に示す。
図8(a)は熱アニール温度700℃の場合であり、
図8(b)は熱アニール温度950℃の場合である。熱アニール温度700℃の場合は、MOD溶液を1回スピンコーティングすることによりBSCF層を形成し、また、熱アニール温度950℃の場合は、MOD溶液を5回スピンコーティングすることによりBSCF層を形成した。
【0032】
図8(a)及び(b)から明らかなように、700℃未満の場合、XRD回折の結果から、まだBSCF層の形成は起こっておらず、表面はナノサイズのポアが無数空いている状態であったが、950℃の場合、ナノサイズのポアがなくなっていた。5回のスピンコーティングの影響もあるとは思われるが、950℃で熱アニールすることにより、充分緻密化したBSCF層をCGO基板上に複合化できることが分かった。このBSCF層はCGO基板と密着性良く形成されており、形成時の熱処理による剥離等は一切観察されなかった。
【0033】
次いで、実施例2の記載に準じて、Ce
0.9Gd
0.1O
1.95電解質基体の上に、MOD溶液のスピンコーティング、続いてMOD法に従って、有機金属前駆体の熱分解により、100nm以下の膜厚で堆積せしめたナノ寸法のBa
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ層からなる薄膜カソード(カソードナノコート)について、カソード反応プロセスについて説明する。電気化学インピーダンス分光法を、温度(T=500−625℃)及び酸素分圧(pO
2=0.01atm〜0.5atm)の範囲で体系立てて変動させて実施した。次いで、インピーダンスデータを、緩和時間(DRT)の分布を計算し、そして複合/複素非線形最小二乗(CNLS)フィッティングを行うことにより分析した。カソード反応において、5種のプロセスを同定した。600℃でASR
pol=39mΩcm
2程の低い比面積分極抵抗が見出された。
【0034】
実施例2の記載に準じて、25mm直径、厚さ0.4mmのCeO
2系基板の両面にMOD溶液をスピンコーティングした後、空気中、5分間、200℃で乾燥し、次いで500℃まで、15℃/minで昇温し、その後、700℃まで3℃/minで昇温し、BSCFのナノカソードコートを得た(この場合、実施例3で示すようにナノカソードコートは、立方晶BSCF単相である必要はない)。その後、市販のBSCFカソード粉末を1cm
2面積で両面に焼き付けた。これを対称セルとして、試験に供した(試料1)。試料2は、ナノカソードをコートせず、直接、BSCFカソード粉末を1cm
2面積で、CeO
2基板両面に焼き付けた。それぞれ、カソード粉末の焼付けは、従来の焼付温度1,000〜1,150℃よりもかなり低い700℃で行った。
【0035】
試料1において、pO
2=0.01〜0.5atmの範囲の種々の酸素分圧で、575℃で行われたインピーダンススペクトルのナイキストプロットが
図9に示されている。さらに良く比較するために、抵抗損の値をデータの実数部から引いた。
図10にASR
polが示される。分極損が、600℃及びpO
2=0.2atmにおけるASR
pol=0.039Ωcm
2まで減少した。この値は極めて低い値である。
【0036】
上記MOD法によるカソードナノコート上にカソード粉末を低温カソード焼き付けした場合について、pO
2=0.05atm及び575℃において、試料1(カソードナノコートあり)及び試料2(カソードナノコートなし)に関して得られたDRTスペクトルの比較を
図11に示す。試料1は、実施例2の記載に準じて、CGO基板に対してMOD溶液をスピンコーティングした後、空気中、5分間、200℃で乾燥し、次いで15℃/minの昇温速度で500℃において、その後3℃/minの昇温速度で700℃において熱アニールして製造したものである。
【0037】
図11のDRT解析とACインピーダンス解析の結果、界面抵抗に相当する素プロセスP4、P5がカソードナノコートによる低温カソード焼き付けによりほぼ無くなっていることが分かる(図中のA点)。また、
図12(pO
2=0.01atm〜0.5atmの範囲の種々の酸素分圧で行われたインピーダンススペクトルのナイキストプロット)から、BSCFカソードに、MOD法によるBSCFカソードナノコートを挿入することにより、界面抵抗(素プロセスP4+P5)がなくなっている(図中のA点)と共に、カソード性能(素プロセスP2+P3)が明らかに向上している(図中のB点)ことが分かる。
【0038】
また、上記MOD法により、カソードナノコート上にカソード粉末を低温カソード焼き付けした場合について、BSCF薄膜カソードナノコートを設けた場合と設けなかった場合について、断面のSEM像を比較した(
図13(a)及び(b))。BSCFカソードナノコートを設けた場合の
図13(a)から明らかなように、試験後のBSCFカソード表面にはナノ構造がはっきり残り、活性を保持していること(図中のA点)、また、電解質界面の連続性があること(図中のB点)が分かる。BSCFカソードナノコートを設けなかった場合の
図13(b)からは、試験後のBSCFカソード表面にはナノ構造は残っている(図中のA’点)が、電解質界面の活性の連続性は損なわれていること(図中のB’点)が分かる。
【0039】
上記したように、MOD法を用い、スピンコーティングして前駆体を形成した後、低温で熱アニールして、CGO電解質上に調製されたナノ寸法のBa
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3−δ−ベースの薄膜カソード(カソードナノコート)は、上記したように、600℃及びpO
2=0.2atmでASR
pol=0.039Ωcm
2という低い分極抵抗を達成できた。DRT計算及びCNLSフィッティングを用いるナノ寸法のBSCFベースの薄膜カソードの電気化学分析は、カソード分極と関係付けられる最大5種までの異なる素プロセスの存在を明白に実証した。従って、ナノ寸法の薄膜カソード複合層構造体(カソードナノコート)を設けることによって、その上に、カソード粉末を従来の高温焼き付けを行わずに、より低温(試験運転温度)での焼き付けを行うことで、低い分極抵抗の高性能カソードを提供できる。