特許第6366066号(P6366066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366066
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】脳神経外科手術用リトラクター
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20180723BHJP
   A61B 17/34 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   A61B17/02
   A61B17/34
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-227028(P2014-227028)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-87228(P2016-87228A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年11月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503047869
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤津 和三
(72)【発明者】
【氏名】石川 仁二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隆
(72)【発明者】
【氏名】太田 守
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 敏仁
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸
(72)【発明者】
【氏名】島田 悟
(72)【発明者】
【氏名】中尾 幸道
【審査官】 吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−508943(JP,A)
【文献】 特開2013−013592(JP,A)
【文献】 特開2006−204472(JP,A)
【文献】 特開2000−287915(JP,A)
【文献】 特開2000−325356(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0310230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂製の円筒管からなり、長さ方向に沿って互いに所定の間隔を存して形成され、X線造影可能な複数の目盛りを備える脳神経外科手術用リトラクターにおいて、
該目盛りは金属めっき層からなり、前記金属めっき層は、無電解めっき層と、該無電解めっき層上にイオンプレーティングにより形成された金属層若しくは金属化合物層又は、無電解めっき層と、該無電解めっき層上に形成された金属粉末を含む塗膜とからなることを特徴とする脳神経外科手術用リトラクター。
【請求項2】
請求項1記載の脳神経外科手術用リトラクターにおいて、前記イオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層は、Zr、Ta又はそれらとC、N、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素との化合物からなることを特徴とする脳神経外科手術用リトラクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下脳内血腫除去術等の脳神経外科手術に用いられる脳神経外科手術用リトラクターに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な脳神経疾患の1つに脳内血腫がある。前記脳内血腫は出血した血液が脳内で塊となったものであり、頭蓋内圧を亢進させる。そこで、生命が危険に晒される場合には、前記脳内血腫を除去することがある。
【0003】
前記脳内血腫を除去する方法のひとつに、内視鏡下脳内血腫除去術がある。前記内視鏡下脳内血腫除去術は、まず、穿頭術により頭蓋骨に形成された直径10mm程度の孔部から脳内血腫まで円筒形のリトラクターを穿刺し、該リトラクターの内部に内視鏡及び吸引管を挿入する。そして、前記内視鏡により患部を観察しながら、前記吸引管により前記脳内血腫を吸引除去する。
【0004】
従来、前記リトラクターとして、透明樹脂からなり外面の長さ方向に沿って目盛りを付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
前記従来のリトラクターによれば、脳に穿刺する際に、外部から前記目盛りを視認することにより、脳表から該リトラクターの先端までの距離を認識することができ、目標とする深さに確実に穿刺することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−325356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のリトラクターでは、X線照射により患部を三次元的に解析しようとするときに、前記目盛りを造影することができないので、確実な治療が困難になるという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、X線照射により患部を三次元的に解析するときに確実な治療を行うことができる脳神経外科手術用リトラクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、透明樹脂製の円筒管からなり、長さ方向に沿って互いに所定の間隔を存して形成され、X線造影可能な複数の目盛りを備える脳神経外科手術用リトラクターにおいて、該目盛りは金属めっき層からなり、前記金属めっき層は、無電解めっき層と、該無電解めっき層上にイオンプレーティングにより形成された金属層若しくは金属化合物層又は、無電解めっき層と、該無電解めっき層上に形成された金属粉末を含む塗膜とからなることを特徴とする。
【0010】
本発明の脳神経外科手術用リトラクターによれば、前記金属めっき層からなる目盛りを備えることにより、脳に穿刺する際に脳表から該リトラクターの先端までの距離を目視により確認することができ、目標とする深さに確実に穿刺することができる。また、前記金属めっき層からなる目盛りはX線造影可能であるので、X線照射により患部を三次元的に解析するときに、該目盛りにより該リトラクターと患部との相互位置を容易に把握することができ、確実な治療を行うことができる。
【0011】
尚、本願において、「金属めっき」とは、金属原子、金属微粒子、金属粉末、金属化合物等により対象物上に形成された被膜を意味する。
【0012】
本発明の脳神経外科手術用リトラクターにおいて、前記金属めっき層は、無電解めっき層と、該無電解めっき層上にイオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層とからなるものとすることができる。前記イオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層としては、Zr、Ta又はそれらとC、N、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素との化合物からなるものを挙げることができる。
【0013】
また、本発明の脳神経外科手術用リトラクターにおいて、前記金属めっき層は、無電解めっき層と、該無電解めっき層上に形成された金属粉末を含む塗膜とからなるものであってもよい。
【0014】
前記金属めっき層は、前記無電解めっき層上に、前記イオンプレーティングにより形成された金属層若しくは金属化合物層、又は前記金属粉末を含む塗膜を備えることにより、該金属層又は塗膜を前記透明樹脂製の円筒管の表面に強固に結合させることができ、摩擦等による剥落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の脳神経外科手術用リトラクターの構成を示す模式的斜視図。
図2】本発明の脳神経外科手術用リトラクターの製造方法を示し、(A)は第1工程、(B)は第2工程、(C)は第3工程をそれぞれ示す模式的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
まず、図1を参照して、本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1について説明する。
【0018】
本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1は、透明樹脂製の円筒管2と、円筒管2の外周面に周方向に沿って形成された複数の帯状の金属めっき層3とを備えている。ここで、金属めっき層3は円筒管2の長さ方向に沿って互いに所定の間隔を存して形成されて、X線造影可能な目盛り4を構成している。
【0019】
円筒管2を構成する透明樹脂として、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂を挙げることができる。
【0020】
金属めっき層3は、例えば、無電解めっき層と、該無電解めっき層上にイオンプレーティングにより形成された金属層又は、該無電解めっき層上に形成された金属粉末を含む塗膜とからなる。
【0021】
次に、図2を参照して、脳神経外科手術用リトラクター1の製造方法について説明する。
【0022】
脳神経外科手術用リトラクター1を製造するときには、まず、図2(A)に示すように、円筒管2の内部に金属(例えばステンレス)製の丸棒5を配置する。ここで、円筒管2の内径は丸棒5の外径よりも大きく設定されており、円筒管2と丸棒5との間には空隙Sが形成されている。
【0023】
次に、図2(B)に示すように、円筒管2を加熱することにより熱収縮させ、丸棒5に密着させる。円筒管2は、例えばPFA又はFEPからなり、熱収縮させて丸棒5に密着させることにより、円筒管2の内径を丸棒5の外径に一致させることができる。
【0024】
従って、丸棒5の外径を調整することにより、脳神経外科手術用リトラクター1の内径を容易に所望の寸法とすることができる。脳神経外科手術用リトラクター1の内径は、例えば、内視鏡と吸引管とを同時に挿入できる寸法とすることができる。
【0025】
次に、図2(C)に仮想線で示すように、円筒管2の外周面に周方向に沿って複数の金属めっき層3を形成する。
【0026】
円筒管2の表面に金属めっき層3を形成するときは、まず、金属めっき層3を形成する部分を除いてマスキングした円筒管2を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬し、水洗、乾燥する。次に、浸漬処理した円筒管2を貴金属ゾル中に浸漬することにより、円筒管2の外周面に、該貴金属ゾル中に存在する貴金属が固定される。次に、前記貴金属ゾルに浸漬処理した円筒管2を水洗、乾燥した後、無電解めっき液に浸漬することにより無電解めっき層を形成する。
【0027】
前記陽イオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤を用いることができる。第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤として、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等を挙げることができる。
【0028】
第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤は、炭素数が12〜22程度の長鎖4級アンモニウム化合物が好ましく、具体的には、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0029】
前記陽イオン性界面活性剤水溶液は、0.01〜1質量%の範囲の濃度とすることが好ましい。前記濃度が0.01質量%未満では、前記陽イオン性界面活性剤水溶液を浸漬処理した円筒管2を前記貴金属ゾル中に浸漬したときに、円筒管2の外周面に前記貴金属を固定する効果を得ることが難しく、1質量%を超えるとコスト増となることが避けられない。
【0030】
前記貴金属ゾルは、貴金属ヒドロゾルであることが好ましく、例えば、水中で貴金属塩を還元剤で還元することにより調製することができる。
【0031】
前記貴金属塩としては、塩化白金(VI)酸、塩化パラジウム(II)、塩化ロジウム(III)、塩化ルテニウム(III)、硝酸銀(I)等を挙げることができる。また、前記還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、クエン酸三ナトリウム等を挙げることができる。前記水中における貴金属の濃度は、1000ppm程度以下であることが好ましい。
【0032】
また、前記貴金属塩を原料として貴金属ゾルを調製するときには、安定剤を存在させることが好ましい。前記安定剤として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゼラチン等の水溶性ポリマー、蔗糖、クエン酸三ナトリウム等を挙げることができる。前記安定剤は、1種または2種以上用いることができる。前記安定剤の使用量は、共存する貴金属塩の種類や量等によって変動するので一概に規定することができないが、例えば貴金属1質量部に対して0.1〜10質量部とすることが好ましい。
【0033】
前記無電解めっき液は、無電解めっき層を形成する金属含有化合物、還元剤、各種配合剤から形成される。
【0034】
前記金属含有化合物としては、例えば、塩化金(III)酸、臭化金(III)酸及びこれらのアルカリ金属(K,Na)塩等の金ハロゲン化塩、硫酸ニッケル(II)六水塩、硫酸銅(II)五水塩、硫酸コバルト(II)七水塩等を挙げることができる。前記無電解めっき液中における前記金属含有化合物の濃度は、例えば、1〜100mMの範囲とすることができる。
【0035】
前記還元剤としては、次亜燐リン酸ナトリウム、過酸化水素、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等を挙げることができる。前記無電解めっき液中における前記還元剤の濃度は、例えば、1〜100mMの範囲とすることが好ましい。
【0036】
前記配合剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性ポリマー、pH調整剤、緩衝剤、錯化剤等を挙げることができる。
【0037】
円筒管2は、前記無電解めっき液に浸漬することにより前記無電解めっき層を形成した後、円筒管2を構成する材料のガラス転移点以上融点以下の温度で加熱処理することにより、該無電解めっき層を円筒管2の外周面に強固に結合させることができる。
【0038】
次に、前述のようにして形成された前記無電解めっき層上に、さらにイオンプレーティングにより形成される金属層若しくは金属化合物層、又は金属粉末を含む塗膜を積層することにより、金属めっき層3とすることができる。
【0039】
前記イオンプレーティングは、チャンバー内にターゲットとなる金属又は金属化合物と、前記のようにマスキングした円筒管2とを配置し、該チャンバー内の雰囲気を所定の真空度に維持した状態で、該ターゲットに電子ビームを照射してイオン化させる一方プラズマを発生させることにより行うことができる。
【0040】
前記ターゲットとなる金属としては、例えば、Zr、Ta等を挙げることができる。
【0041】
前記雰囲気としては、例えば、アルゴン等の不活性ガスに、二酸化炭素、窒素、酸素等の原料ガスを添加したものを挙げることができる。前記真空度は、例えば、10−3〜10−5Paの範囲とすることが好ましい。
【0042】
前記電子ビームは、例えば、電子銃等により発生させることができる。前記電子銃の出力は、例えば、1.0〜3.0kWの範囲とすることが好ましい。
【0043】
この結果、前記イオンプレーティングにより、Zr、Ta又はそれらとC、N、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素との化合物からなる金属層又は金属化合物層を形成することができる。
【0044】
また、金属粉末を含む塗膜は、前記無電解めっき層上に、該金属粉末を含むペーストを塗布し、安定剤を含浸させた後、乾燥させることにより形成することができる。
【0045】
前記金属粉末を含むペーストは、例えば、金、白金等の金属粉末を分散媒に添加し、撹拌して分散させ、静置した後、上澄みを除去することにより得ることができる。前記分散媒としては、1質量%−ゼラチン水溶液等を挙げることができる。また、前記安定剤としては1質量%−ゼラチン水溶液等を挙げることができる。
【0046】
前述のようにして形成された金属めっき層3は、円筒管2の外周面に強固に結合しているため摩擦等により剥落することがなく、X線に対して良好な造影性を示すことができる。
【0047】
本実施形態では、前述のようにして金属めっき層3を形成した後、前記マスキングを除去し、円筒管2から丸棒5を引き抜くことにより、図1に示す脳神経外科手術用リトラクター1を得ることができる。
【0048】
本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1は、X線造影可能な複数の目盛り4を備えているが、さらに脳に穿刺する際に先端となる部分にX線造影可能なエンドマーク(図示せず)を備えていることが好ましい。前記エンドマークは、脳神経外科手術用リトラクター1において、目盛り4と同様にして形成することができる。
【0049】
本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1は、例えば、内視鏡下脳内血腫除去術を行う際に、脳表から脳内血腫の位置まで穿刺され、円筒管2の内部に挿通される内視鏡及び吸引管を脳内血腫に案内する。このとき、脳神経外科手術用リトラクター1は目盛り4を備えるので、外部から目盛り4を視認することにより、脳表から脳神経外科手術用リトラクター1の先端までの距離を認識することができる。従って、脳神経外科手術用リトラクター1を脳内血腫の内部まで、確実に穿刺することができる。
【0050】
また、目盛り4はX線造影可能であるので、X線照射により前記脳内血腫を三次元的に解析するときに、目盛り4により脳神経外科手術用リトラクター1と該脳内血腫との相互位置を容易に把握することができ、確実な治療を行うことができる。目盛り4には、前記エンドマークを基点として目盛り番号を付与してもよい。
【0051】
さらに、脳神経外科手術用リトラクター1は透明樹脂製であるので、前記内視鏡を介して脳室内を観察することができ、出血の有無、脳内血腫の状態、脳内血腫の取り残しの有無等を容易に確認することができる。
【0052】
尚、本実施形態では、前記無電解めっき層上に前記金属粉末を含む塗膜を積層することにより金属めっき層3としているが、金属めっき層3は該金属粉末を含む塗膜のみからなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…脳神経外科手術用リトラクター、 2…円筒管、 3…金属めっき層、 4…目盛り。
図1
図2