(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366226
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】マイクロチップ反応装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20180723BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20180723BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20180723BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20180723BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N35/02 A
G01N37/00 101
B01D19/00 H
C12M1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-109712(P2013-109712)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-226623(P2014-226623A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年1月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム、「網膜細胞移植医療に用いるヒトiPS細胞から移植細胞への分化誘導に係わる工程および品質管理技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】明地 将一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩久
(72)【発明者】
【氏名】紀ノ岡 正博
(72)【発明者】
【氏名】金 美海
(72)【発明者】
【氏名】稲森 雅和
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−181095(JP,A)
【文献】
特開2005−224765(JP,A)
【文献】
特開2005−140511(JP,A)
【文献】
特開2006−035111(JP,A)
【文献】
特開2009−150756(JP,A)
【文献】
特開2007−216206(JP,A)
【文献】
特開2009−236555(JP,A)
【文献】
特開2009−101299(JP,A)
【文献】
特開2006−224011(JP,A)
【文献】
特開2011−013208(JP,A)
【文献】
特開2008−290027(JP,A)
【文献】
特開2004−147555(JP,A)
【文献】
特開2011−030522(JP,A)
【文献】
特表2008−537063(JP,A)
【文献】
特開2005−147840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
C12M 1/00
B81B 1/00
B01D 19/00
G01N 35/02
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を透過させず気体を透過させるガス透過性材料からなる外壁を有し、前記外壁によって該マイクロチップの外部と隔てられた内部空間を有するマイクロチップと、
前記内部空間内において液体を流通させない状態で、所定溶液で満たされた前記マイクロチップの前記内部空間内を加圧して前記マイクロチップの外部の圧力よりも高くすることによって前記内部空間内の気体に前記外壁を透過させ、前記外壁を介して前記内部空間内の気泡を前記マイクロチップの外部へ移動させる気泡除去手段と、を備えたマイクロチップ反応装置。
【請求項2】
前記マイクロチップは前記内部空間に通じる入口流路を備え、
前記入口流路には前記所定溶液を供給する溶液供給部が接続されており、
前記気泡除去手段は所定溶液で満たされた前記内部空間内に前記溶液供給部から前記所定溶液を過剰に供給することにより前記内部空間内を加圧するものである請求項1に記載のマイクロチップ反応装置。
【請求項3】
前記内部空間には該内部空間内の圧力を加圧ガスにより上昇させる加圧機構が接続されており、
前記気泡除去手段は密閉空間となった前記内部空間内に前記加圧機構によって前記加圧ガスを供給することにより前記内部空間内を加圧するものである請求項1に記載のマイクロチップ反応装置。
【請求項4】
前記内部空間は細胞培養室であり、前記加圧ガスは炭酸ガス濃度が所定濃度になるように調製された空気であり、前記内部空間内の圧力と前記マイクロチップの外部の圧力の差は常に10kPa以内である請求項3に記載のマイクロチップ反応装置。
【請求項5】
前記マイクロチップの前記ガス透過性材料からなる前記外壁はポリジメチルシロキサン又はシリコン樹脂からなるものである請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロチップ反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばμTAS(Micro Total Analysis System)のような分野において、チップ上で微量な試料液の流れを制御して化学分析、化学反応又は細胞培養などを行なうためのマイクロチップ反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小さな基板に様々な機能を集積するμTASの研究が盛んに行なわれている。そして、そのようなμTAS技術を利用し、内部に微小空間とその微小空間に試薬や培養液などの液体を供給するための流路を備えたマイクロチップを作成し、そのマイクロチップ内において化学分析や細胞培養を行なうことが提案されている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0003】
化学分析や細胞培養に上記のマイクロチップを利用することの利点としては、高価な試薬又は培養液の消費量を低減できることのほか、マイクロチップの熱容量が小さいことから温度を均一に制御しやすく温度変化の追従性が良いことなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−361205号公報
【特許文献2】特開2006−220566号公報
【特許文献3】特開2011−244713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロチップ内の微小空間を溶液で満たす場合においてその微小空間内に気泡が存在すると、その部分はデッドボリュームとなる。例えば、マイクロチップ内で細胞培養を行なう場合には、細胞培養室となる微小空間内に気泡が存在すると気泡の部分に培養液が存在しないため、その部分は細胞の培養ができない領域となってしまう。気泡が微小なものであっても、細胞培養室は微小空間であり、細胞の培養ができない領域が細胞培養室にとって大きな割合となるため、マイクロチップ内において細胞培養を行なう上では、細胞培養室に存在する気泡を除去することは重要な課題である。
【0006】
しかし、微小空間において液体を流す場合には乱流が発生しにくく、液体の攪拌が非常に難しいことが一般的に知られている。液体の攪拌が困難であるため、培養液などの液体を充填した微小空間内に気泡が存在する場合に、微小空間内において液体を大流量で流しても気泡を押し流して除去することは難しい。
【0007】
なお、細胞培養室に培養液を充填する前であれば、細胞培養室内の流体をすべて二酸化炭素で置換した直後に培養液を充填することで、細胞培養室内に残った二酸化炭素は培養液に溶けてなくなるため、細胞培養室内に気泡が発生することを予防することは可能であるが、細胞培養室内を培養液で満たした後に気泡が発生した場合には、これを除去することはできない。
【0008】
そこで、本発明は、溶液で満たされたマイクロチップの微小空間内に気泡が存在する場合にその気泡を除去することができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるマイクロチップ反応装置は、液体を透過させず気体を透過させるガス透過性壁面により別の空間と隔てられた内部空間を有するマイクロチップと、所定溶液で満たされた内部空間内の圧力を前記別の空間の圧力よりも高くすることにより内部空間の所定溶液内の気泡を別の空間へ移動させる気泡除去手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロチップ反応装置は、マイクロチップ内に設けられた内部空間が液体を透過させず気体を透過させるガス透過性壁面により別の空間と隔てられており、該内部空間内の圧力を別の空間よりも高くして内部空間内の気泡を別の空間へ移動させる気泡除去手段を備えているので、溶液で満たされた微小空間内に気泡が存在しても、その気泡を微小空間から除去することができる。これにより、所定溶液を充填した後の微小空間内に気泡が存在することによってデッドボリュームとなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】マイクロチップ反応装置に使用されるマイクロチップの一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のX−X位置における断面図である。
【
図2】マイクロチップ反応装置の一実施例を示す概略構成図である。
【
図3】マイクロチップ反応装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【
図4】マイクロチップ反応装置のさらに他の実施例を示す概略構成図である。
【
図5】マイクロチップ反応装置のさらに他の実施例を示す概略構成図である。
【
図6】減圧空間を備えたマイクロチップの一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のY−Y位置における断面図である。
【
図7】
図6のマイクロチップを備えたマイクロチップ反応装置の一実施例を示す概略構成図である。
【
図8】マイクロチップの内部空間内の圧力と内部空間内の気泡の時間変化の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかるマイクロチップ反応装置では、マイクロチップが内部空間に通じる入口流路を備え、入口流路には所定溶液を供給する溶液供給部が接続されており、気泡除去手段は所定溶液で満たされた内部空間内に溶液供給部から所定溶液を過剰に供給することにより内部空間内を加圧するものであってもよい。
【0013】
また、内部空間には該内部空間内の圧力を加圧ガスにより上昇させる加圧機構が接続されており、気泡除去手段は密閉空間となった内部空間内を加圧機構によって加圧するものであってもよい。
【0014】
マイクロチップの内部空間を細胞培養室として使用する場合であって、内部空間内を炭酸ガス濃度が所定濃度になるように調製された空気からなる加圧ガスで加圧することによって内部空間内の気泡を除去する場合には、内部空間内の圧力と別の空間の圧力の差は常に10kPa以内であることが好ましい。細胞培養室を満たす培養液の二酸化炭素濃度は加圧ガスの圧力が高くなると培養液に溶け込む二酸化炭素の濃度が増加する。一般的に使われる培養液の二酸化炭素濃度は5%程度であるが、細胞培養室を大気圧101.3kPaよりも10kPa高くなるように加圧ガスで加圧すると、培養液の二酸化炭素濃度が5.5%に増加する。しかし、これは±0.5%程度という一般的な培養装置の制御精度を満たす値であり、細胞培養に適した環境を維持することができる。
【0015】
また、マイクロチップはその内部を減圧にする減圧チャンバ内に収容されており、マイクロチップの外側の減圧チャンバ内の空間が内部空間とガス透過性壁面により隔てられた別の空間であり、気泡除去手段は減圧チャンバ内の空間を減圧にすることで内部空間内の気泡を内部空間から減圧チャンバ内の空間へ移動させるものであってもよい。
【0016】
マイクロチップは内部空間とはガス透過性壁面を隔てて設けられた第2内部空間を別の空間として有し、第2内部空間に減圧ポンプが接続されており、気泡除去手段は第2減圧ポンプによって第2内部空間内を減圧にすることで内部空間内の気泡を第2内部空間へ移動させるものであってもよい。
【0017】
ガス透過性の壁面としては、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMS)又はシリコン樹脂からなるものが挙げられる。
【0018】
図1及び
図2を用いてマイクロチップ反応装置の一実施例について説明する。
まず
図1に示されているように、この実施例のマイクロチップ反応装置に使用されるマイクロチップ2は、内部に、平面形状が円形の空間(内部空間)10と一端がその内部空間10に通じる流路12と16を備えている。流路12の他端は上面に設けられた接続ポート14に通じており、流路16の他端は上面に設けられた接続ポート18に通じている。
【0019】
マイクロチップ2はベース基板4の上に中間基板6が積層され、中間基板6の上にカバー基板8が積層され接合されて構成されている。最下層のベース基板4と最上層のカバー基板8の間に挟み込まれた中間層の基板6には内部空間10をなす貫通孔と流路12及び16をなす溝が形成されている。最上層の基板8には接続ポート14及び18をなす貫通孔が形成されている。接続ポート14,18はそれぞれ流路12,16の端部に位置決めされている。
【0020】
ベース基板4、中間基板6及びカバー基板8は平面形状が例えば20mm角の平板であり、ベース基板4の厚みは例えば3mm、中間基板6の厚みは例えば5mm、カバー基板8の厚みは例えば3mmである。内部空間をなす中間基板6の貫通孔は直径が例えば5mmであり、流路12及び16をなす溝は幅が例えば1mm、深さが例えば0.1mmである。接続ポート14及び18をなすカバー基板8の孔は直径が例えば1mmである。
【0021】
基板4,6及び8の材質は例えばPDMS(SILPOT184:ダウコーニング社の製品)であるが、PDMSのほかシリコーン樹脂など液体を透過させず気体を透過させるガス透過性材料であればよい。なお、基板4,6及び8のすべてがガス透過性材料からなるものである必要はなく、ベース基板4は例えばパイレックス(登録商標)ガラスからなるものであってもよい。
【0022】
図1のマイクロチップ2を用いたマイクロチップ反応装置である細胞培養装置は、
図2に示されているように、マイクロチップ2の接続ポート14にはチューブ20を介して培養液を送液するためのシリンジポンプ22が接続され、接続ポート18にはチューブ24を介してドレインポット26が接続され、内部空間10が細胞培養室として使用される。シリンジポンプ22は溶液供給部を構成し、流路12はシリンジポンプ22からの培養液を内部空間10へ導く入口流路を構成し、流路16は内部空間10内の気体や液体をドレインポット26へ排出するための出口流路を構成する。なお、
図2においては流路の接続関係を把握しやすくするために便宜上マイクロチップ2の主平面が水平方向に対して垂直に立てられた状態で示されているが、マイクロチップ2は主平面が水平になるように配置されている。
図3、
図4、
図5及び
図7の実施例についても同じである。
【0023】
ドレインポット26は密閉された容器であり、ドレインポット26にチューブ24とは別のチューブ28の一端が接続されている。チューブ28の他端は開放されているが、チューブ28上に電磁弁30が設けられておりその電磁弁30によって開閉される。細胞培養室である内部空間10に培養液を充填する際は、電磁弁30が開いた状態でシリンジポンプ22から培養液が送液され、内部空間10が培養液で満たされる。
【0024】
内部空間10を培養液で満たした後、内部空間10内に気泡が存在する場合は、電磁弁30が閉じた状態でシリンジポンプ22からさらなる培養液の送液動作を行なうことで、内部空間10内の気泡を除去することができる。この実施例において、シリンジポンプ22及び電磁弁30は内部空間10内の気泡を除去するための気泡除去手段を構成している。電磁弁30が閉じた状態でシリンジポンプ22による培養液の送液を実行すると、チューブ20からドレインポット26までの系に培養液が過剰に供給され、この系の内部圧力が上昇し、内部空間10内が外気よりも高い圧力となる。内部空間10の内部圧力が外気よりも高くなると、内部空間10内に存在する気泡がマイクロチップを構成するPDMSを透過して外気へ放出され、内部空間10内の気泡が除去される。
【0025】
次に、マイクロチップ2を用いたマイクロチップ反応装置の他の実施例について
図3を用いて説明する。
この実施例では、接続ポート14に一端が接続されたチューブ32の他端が切換バルブ33の共通のポートに接続され、切換バルブ33の1つの選択ポートにチューブ34を介してシリンジポンプ22が接続され、残りの1つの選択ポートにチューブ36を介して加圧ボンベ38が接続されている。これにより、接続ポート14に繋がるチューブ32は切換バルブ33の切換えによってシリンジポンプ22と加圧ボンベ38のいずれか一方に接続される。
【0026】
電磁弁30を閉じた状態で加圧ボンベ38をチューブ32に接続することで、マイクロチップ2の内部空間10内を加圧することができる。例えば内部空間10が細胞培養室である場合は、加圧ボンベ38から供給されるガスは、例えば炭酸ガス濃度が5%に調製された空気である。
【0027】
図8は内部空間10内の圧力と内部空間10内の気泡の体積の時間変化の測定結果を示すグラフである。このグラフからわかるように、内部空間10の圧力を外気の圧力(大気圧)よりも高くすればするほど内部空間10内の気泡が早く除去される。
ただし、内部空間10が細胞培養室であり、内部空間10内を加圧ボンベによって加圧する場合には、内部空間10内の圧力を大気圧よりも高くするほど内部空間10内の二酸化炭素濃度も上昇するため、内部空間10の内部圧力は例えば大気圧+3kPa程度、高くても大気圧+10kPa程度に留めておくことが好ましい。大気圧+10kPaであれば、培養液の二酸化炭素濃度が5.5%程度となり、±0.5%程度という一般的な培養装置の制御精度を満たす。
【0028】
この実施例では、電磁弁30、切換バルブ33及び加圧ボンベ38が、内部空間10内の気泡を除去するための気泡除去手段を構成している。培養液で満たされた内部空間10内に気泡が存在する場合に、電磁弁30を閉じて切換バルブ33を加圧ボンベ38側へ切り換えることで、加圧ボンベ38によって内部空間10内が加圧され、内部空間10内に存在する気泡がガス透過性のPDMSを透過してマイクロチップ2の外部へ放出される。
【0029】
図4はマイクロチップ反応装置のさらに他の実施例を示したものである。
この実施例では、ドレインポット26に一端が接続されたチューブ40の他端が切換バルブ42の共通ポートに接続され、切換バルブ42の1つの選択ポートにチューブ44の一端が接続され、残りの1つの選択ポートにチューブ46を介して加圧ボンベ38が接続されている。チューブ44の他端は開放されている。加圧ボンベ38をチューブ40に接続することで、マイクロチップ2の内部空間10内を加圧することができる。
【0030】
マイクロチップ2の内部空間10に培養液を充填する際は、切換バルブ42をチューブ44側にしてシリンジポンプ22から培養液を送液することで、内部空間10内を培養液で満たす。培養液で満たされた内部空間10内に気泡が存在する場合は、切換バルブ42を加圧ボンベ38側へ切り換えることで、加圧ボンベ38によって内部空間10内が加圧され、内部空間10内に存在する気泡がガス透過性のPDMSを透過してマイクロチップ2の外部へ放出される。すなわち、この実施例では、切換バルブ42及び加圧ボンベ38が内部空間10内の気泡を除去するための気泡除去手段を構成している。
【0031】
以上においては、マイクロチップ2の内部空間10を加圧することができる構成を有することにより、溶液で満たされた内部空間10内に存在する気泡の除去を可能にした実施例について説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、内部空間10とはガス透過性の壁面により隔てられた空間を減圧にすることで、溶液で満たされた内部空間10内に存在する気泡を除去できるようにしてもよい。以下、そのような構成を有する実施例について説明する。
【0032】
図5はマイクロチップ2を密閉空間を内部に有する減圧チャンバ50内に収容した実施例を示している。減圧チャンバ50には真空ポンプ52が接続されており、真空ポンプ52の駆動によって内部の密閉空間を大気圧よりも低い減圧状態にすることができる。溶液で満たされたマイクロチップ2の内部空間10内に気泡が存在するときに、真空ポンプ52を駆動して減圧チャンバ50内を減圧にすることで、圧力平衡の影響により内部空間10内に存在する気泡がガス透過性のPDMSを透過してマイクロチップ2の外部へ放出される。この実施例では、減圧チャンバ50及び真空ポンプ52が内部空間10内の気泡を除去するための気泡除去手段を構成している。
【0033】
図6及び
図7はマイクロチップの内部に減圧空間を設けた実施例を示したものである。
まず、この実施例で使用されるマイクロチップ2aについて
図6を用いて説明する。
マイクロチップ2aは
図1を用いて説明したマイクロチップ2と同様に、内部空間10aとその内部空間10aに通じる流路12a及び16aを内部に備え、上面に流路12a及び16aの端部に通じる接続ポート14a及び18aを備えている。
【0034】
マイクロチップ2aの内部には、内部空間10aの周囲を例えば1mmの隔壁を隔てて囲うリング状の空間54(第2内部空間)とその空間54に通じる流路56が設けられている。マイクロチップ2aの上面には流路56に通じる接続ポート58が設けられている。
【0035】
マイクロチップ2aは下層側からベース基板4a、中間基板6a及びカバー基板8aが積層されて形成されている。中間基板6aには、内部空間10aをなす円形の貫通孔が設けられているとともに、上面に流路12a及び16aをなす溝が設けられ、下面にリング状の空間54と流路56をなす溝及び流路56の端部に通じる接続ポート58の一部をなす貫通孔が設けられている。カバー基板8aには接続ポート14a及び18aをなす貫通孔と接続ポート58の一部をなす貫通孔が設けられている。
【0036】
このマイクロチップ2aを用いたマイクロチップ反応装置である細胞培養装置は、
図7に示されているように、マイクロチップ2の接続ポート14aにはチューブ20を介して培養液を送液するためのシリンジポンプ22が接続され、接続ポート18aにはチューブ24を介してドレインポット26が接続され、内部空間10aが細胞培養室として使用される。シリンジポンプ22は溶液供給部を構成し、流路12aはシリンジポンプ22からの培養液を内部空間10aへ導く入口流路を構成し、流路16aは内部空間10a内の気体や液体をドレインポット26へ排出するための出口流路を構成する。
【0037】
さらに、接続ポート58にはチューブ60を介して真空ポンプ62が接続されている。マイクロチップ2aのリング状の空間54は内部空間10aとはPDMS製の隔壁を隔てて設けられた密閉空間となっており、真空ポンプ62を駆動することによって空間54は内部空間10aよりも低い内部圧力を有する減圧空間となる。これにより、培養液で満たされた内部空間10a内に気泡が存在する場合には、真空ポンプ62を駆動することで内部空間10a内の気泡を空間54側へ移動させることができる。この実施例では、リング状の空間54及びシンクポンプ62が内部空間10a内の気泡を除去するための気泡除去手段を構成している。
【符号の説明】
【0038】
2,2a マイクロチップ
4,4a ベース基板
6,6a 中間基板
8,8a カバー基板
10,10a 内部空間
12,12a,16,16a,56 流路
14,14a,18,18a,58 接続ポート
20,24,28,32,36,34,40,44,46,60 チューブ
22 シリンジポンプ
26 ドレインポット
30 電磁弁
33,42 切換バルブ
38 加圧ボンベ
50 減圧チャンバ
52,56 真空ポンプ
54 減圧空間