【文献】
押切友也ら,金ナノ構造/チタン酸ストロンチウム/ルテニウム触媒を用いたアンモニアの光電気化学的合成,2013年光化学討論会講演要旨集,2013年 9月 7日,276ページ、講演番号3P083
【文献】
T. OSHIKIRI et al.,Plasmon assisted photoelectrochemical synthesis of ammonia using strontium titanate bearing gold-nanoislands ruthenium,Abstract of the 14th RIES-HOKUDAI international symposium,2013年12月11日,142〜143ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに導体で接続された光触媒材料を含む第1基材及び第2基材を有する基材と、前記第1基材の表面または前記第1基材の内部に設けられ、複数領域に分離して配置されたプラズモン共鳴吸収性を有する金属体と、前記第2基材に設けられたアンモニア発生触媒と、前記基材、前記金属体、及び前記アンモニア発生触媒を収容する密閉容器と、を備え、前記基材の少なくとも一部が前記金属体と前記アンモニア発生触媒との間に配置されているアンモニア発生装置を用意し、
前記アンモニア発生触媒に窒素を接触させて保持し、
前記基材に光を照射し、
前記密閉容器は、前記第1基材の前記表面と対向する第1底面に設けられた前記光を入射させるための第1窓部と、前記第1底面とは反対側の第2底面に設けられた前記光を入射させるための第2窓部と、を有し、
前記第1窓部及び前記第2窓部から前記基材に前記光を照射する、
アンモニア発生方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のアンモニア合成方法では、半導体光触媒の性質上、窒素の還元のようにエネルギー準位が負に大きい還元反応を達成するためには高エネルギーを有する短波長光を用いる必要があるので、可視光化への限界がある。一方、特許文献2に記載の光電変換装置によれば、可視光及び近赤外光照射に応じて水の酸化還元反応を誘起させて酸素や過酸化水素を発生させることが可能ではあるが、その場合には光電変換装置に電気化学測定装置を接続して外部から電圧を印加する必要がある。
【0007】
本発明は、外部装置を必要とせずにアンモニアを効率的に発生させることが可能なアンモニア発生装置及びアンモニア発生方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るアンモニア発生装置は、光触媒材料を含む基材と、基材の表面または基材の内部に設けられ、複数領域に分離して配置された金属体と、基材に設けられたアンモニア発生触媒と、を備える。基材の少なくとも一部は、金属体とアンモニア発生触媒との間に配置されている。
【0009】
このようなアンモニア発生装置によれば、基材の金属体が設けられている側の一面に水を接触させ、基材のアンモニア発生触媒が設けられている側の他面に窒素を接触させた状態で、基材に光を照射することにより、基材の一面において水を酸化させて酸素を発生させるとともに、基材の他面において窒素を還元させてアンモニアを発生させることができる。この場合、金属体の微細構造によって決まるプラズモン共鳴の波長域において水の光電気分解が効率よく行われると同時に、アンモニア発生触媒によっても窒素の還元反応が効率的に行われる。その結果、外部装置による電圧の印加を必要とせずに、アンモニアを効率的に発生させることが可能となる。
【0010】
本発明の他の態様に係るアンモニア発生装置では、光触媒材料は金属酸化物であってもよい。この場合、プラズモン共鳴吸収によって励起された電子を光触媒材料の電子伝導帯に効率的に遷移させることができる。その結果、水の酸化反応及び窒素の還元反応をさらに活性化でき、アンモニアをさらに効率的に発生させることが可能となる。
【0011】
本発明のさらに他の態様に係るアンモニア発生装置では、金属体は11族元素を含んでいてもよい。この場合、基材の金属体が設けられている側の一面において、光に対するプラズモン共鳴吸収性を高めることができる。その結果、水の酸化反応及び窒素の還元反応をさらに効率的に発生させることができ、アンモニアをさらに効率的に発生させることが可能となる。
【0012】
本発明のさらに他の態様に係るアンモニア発生装置では、アンモニア発生触媒は遷移金属元素を含んでいてもよい。この場合、基材のアンモニア発生触媒が設けられている側の他面において、窒素の還元反応を活発化することができ、外部装置による電圧の印加を必要とせずにアンモニアをさらに効率的に発生させることが可能となる。
【0013】
本発明の一態様に係るアンモニア発生方法は、光触媒材料を含む基材と、基材の表面または基材の内部に設けられ、複数領域に分離して配置された金属体と、基材に設けられたアンモニア発生触媒と、を備え、基材の少なくとも一部が金属体とアンモニア発生触媒との間に配置されているアンモニア発生装置を用意し、アンモニア発生触媒に窒素を接触させて保持し、基材に光を照射する。
【0014】
このようなアンモニア発生方法によれば、基材の金属体が設けられている側の一面に水を接触させ、基材のアンモニア発生触媒が設けられている側の他面に窒素を接触させた状態で、基材に光を照射することにより、基材の一面において水を酸化させて酸素を発生させるとともに、基材の他面において窒素を還元させてアンモニアを発生させることができる。この場合、金属体の微細構造によって決まるプラズモン共鳴の波長域において水の光電気分解が効率よく行われると同時に、アンモニア発生触媒によっても窒素の還元反応が効率的に行われる。その結果、外部装置による電圧の印加を必要とせずに、アンモニアを効率的に発生させることが可能となる。
【0015】
本発明の他の態様に係るアンモニア発生方法では、光の波長は400nm以上であってもよい。この場合、太陽光等の可視光領域または近赤外領域の波長を含む光を基材に照射するだけで、外部装置による電圧の印加を必要とせずに、アンモニアを効率的に発生させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外部装置を必要とせずにアンモニアを効率的に発生させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るアンモニア発生装置及びアンモニア発生方法の一実施形態が詳細に説明される。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号が付され、重複する説明は省略される。また、各図面は説明のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るアンモニア発生装置の側面図である。このアンモニア発生装置は、広範囲の波長領域の光エネルギーを水の酸化反応及び窒素の還元反応によって化学エネルギーに変換する光電気化学セルである。
【0020】
図1に示されるように、アンモニア発生装置1は、略円柱状の密閉容器3と、密閉容器3の内部に収容された光触媒5と、を備えている。密閉容器3は、その内部中央に隔壁3cを有し、隔壁3cを隔てた一方の底面3a側の空間S1に水溶液7aを保持し、隔壁3cを隔てた他方の底面3b側の空間S2にガス7bを保持する。そして、光触媒5は、その両面5a,5bを密閉容器3の円形状の底面3a,3bにそれぞれ対向させるように、密閉容器3内の隔壁3cの中央部に固定されている。これにより、光触媒5は、その一方の面5aが水溶液7aに浸され(接触され)、また、その他方の面5bがガス7bに接触された状態で密閉容器3内に保持されることになる。密閉容器3の底面3aの中央に石英等からなる窓部3dが設けられている。外部から照射された光Lを、窓部3dを透過させることにより光触媒5の一方の面5aに向けて入射させることが可能に構成されている。さらに、密閉容器3の側面の底面3a側には排出口3eが設けられ、空間S1での酸化反応によって発生した酸素を外部に取り出し可能にされ、密閉容器3の側面の底面3b側には排出口3fが設けられ、空間S2での還元反応によって発生したアンモニア(アンモニウム塩)を外部に取り出し可能にされている。
【0021】
アンモニア発生装置1の空間S1には、水溶液7aとして、例えば10体積%のエタノールを含む濃度0.1M、ph13.0の水酸化カリウム(KOH)溶液が収容される。アンモニア発生装置1の空間S2には、ガス7bとして、例えば水蒸気飽和窒素ガスが収容される。また、アンモニア発生装置1の空間S2には、ガス7bに加えて、例えば濃度0.01M、ph2.0、容量15μLの塩化水素(HCl)溶液が注入される。
【0022】
外部から照射される光Lは、可視光領域または近赤外光領域の波長を含む光であり、例えば太陽光である。光Lの波長は、例えば400nm以上である。
【0023】
図2は、光触媒5の詳細構造を示す断面図である。
図3は、
図1の光触媒5の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像の一例を示す図である。
図4は、
図3に示す金属体のサイズの分布の一例を示すグラフである。
図5は、
図2の光触媒5の面5aの消光スペクトルの一例を示す図である。
図6は、
図2の光触媒5の面5bのX線光電子分光(XPS)スペクトルの一例を示す図である。
【0024】
図2に示されるように、光触媒5は、基材9と、金属体11と、アンモニア発生触媒13と、を備えている。基材9は、可視光の照射に対してアンモニア及び酸素生成に関して活性な光触媒材料を含んでいる。光触媒材料は、例えば金属酸化物である。このような光触媒材料として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)または酸化チタン(TiO
2)等が挙げられる。基材9としては、例えば、0.05wt%でニオブ(Nb)がドープされたチタン酸ストロンチウム基板が用いられる。この場合、基材9の表面9aは、例えばチタン酸ストロンチウムの(110)面である。基材9のサイズは、例えば10mm×10mmである。この基材9の表面9aが光触媒5の面5aに対応し、基材9の裏面9bが光触媒5の面5bに対応する。
【0025】
金属体11は、基材9に接するように設けられており、例えば基材9の表面9a上に沿って複数領域に分離して配列されている。金属体11は、例えば11族元素を含んでいる。11族元素としては、金(Au)等が挙げられる。
図3及び
図4に示されるように、金属体11は、その直径が10nm〜100nmの範囲であり、平均直径が例えば52nmの略円形状の金属膜である。
図5に示されるように、光触媒5は、面5aに金属体11の微細構造(ナノ構造)を有することにより、可視光領域または近赤外領域の波長の光に応答する(金属体11のプラズモン共鳴による光アンテナ効果)。つまり、金属体11の微細構造(サイズ及び形状)は、可視光領域または近赤外領域の波長において応答可能なよう構成されている。この光アンテナ効果により捕集された可視光または近赤外光は金属体11の電荷分離を引き起こし、生成された電子が基材9の光触媒材料に移動することによりアンモニアの還元反応が引き起こされる。
【0026】
ここで、金属体11の材料としては、金以外にも、サイズや形状により様々な波長の入射光に対してプラズモン共鳴吸収性を有する金属材料であってもよい。このような金属材料としては、銀、銅、白金、アルミニウム及びこれらの合金等の金属材料が挙げられる。プラズモン共鳴吸収性とは、入射光と共鳴してその光を局在化して電場を増強させ、いわゆる局在表面プラズモンと言われる現象を引き起こす性質である。金属体11の材料としてこのような金属材料を使用することで、光触媒5の面5aにおける可視光領域及び近赤外光領域における応答波長を、金属体11のサイズ及び形状によって制御することができる。
【0027】
アンモニア発生触媒13は、基材9に接するように設けられており、例えば基材9の表面9aの反対側の裏面9b上に配置されている。つまり、金属体11、基材9及びアンモニア発生触媒13の順に配列され、金属体11及びアンモニア発生触媒13は、基材9を挟むように配置されている。アンモニア発生触媒13は、例えば遷移金属元素を含んでいる。アンモニア発生触媒13が遷移金属元素としてルテニウム(Ru)を含む場合、光触媒5の面5b側では
図6に示されるようなX線光電子分光スペクトルが得られる。
【0028】
ここで、アンモニア発生触媒13の材料としては、ルテニウム以外にも、アンモニア発生効率を増大させる材料であってもよい。このようなアンモニア発生触媒としては窒素の吸着性の観点から遷移金属元素を含むことが好ましく、窒素還元性の観点からモリブデン、鉄、コバルト、レニウム、ジルコニウムを含むことが特に好ましい。
【0029】
次に、光触媒5の作製方法の一例について説明する。まず、基材9を用意する。そして、例えばスパッタリングにより基材9の表面9aに金属体11を3nm程度の厚さで成膜し、その後、基材9の表面9aを窒素雰囲気下の800°Cの温度で所定時間(例えば、1時間)アニール処理を施すことにより、複数領域に分離された金属体11を形成する。このような処理により、基材9の表面9a上で金属原子は温度上昇に伴って拡散し、表面拡散長の範囲内で粒径サイズが膜厚に対応してある程度制御された略円形状のアイランドが形成される。
【0030】
なお、金属体11の材料としては金が用いられる場合、金属体11が基材9の表面9aを拡散しやすくアイランドが容易に形成される。また、スパッタリングした金属体11をアニール処理することにより、アイランド構造を容易に作成できる。
【0031】
続いて、例えば電子線蒸着により基材9の裏面9bにアンモニア発生触媒13を3nm程度の厚さで成膜する。このようにして、光触媒5が作製される。
【0032】
次に、上述のように構成されたアンモニア発生装置1を用いたアンモニア発生方法について詳述する。まず、アンモニア発生装置1を用意する。そして、アンモニア発生装置1の密閉容器3の空間S1内に水溶液7aを注入し、空間S2内にガス7bを注入する。これによって、光触媒5の面5aに水溶液7aを接触させ、面5bにガス7bを接触させた状態で密閉容器3内に水溶液7a及びガス7bを保持させる。さらに、密閉容器3の空間S2に塩化水素溶液等の水溶液を注入する。そして、密閉容器3の窓部3dから光触媒5の面5aに向けて可視光領域または近赤外領域の波長を含む光Lを入射させる。
【0033】
その結果、光触媒5の面5a(基材9の表面9a)において金属体11によるプラズモン増強により金属体11の電子が励起され、励起された電子が基材9の光触媒材料の電子伝導帯に移動させられる。この電子の移動により光触媒5の面5a側にホールが生成され、そのホールが基材9の光触媒材料の表面準位にトラップされる。そして、そのホールにより水溶液7a中の水酸化物イオン及びエタノールの酸化反応が引き起こされる。この水及びエタノールの酸化反応は、下記化学式;
4h
++4OH
−→O
2+2H
2O
2h
++C
2H
5OH→CH
3CHO+2H
+
で表されるような反応であり、このような反応により空間S1の光触媒5の面5a近傍で酸素及びアセトアルデヒドが生成され、酸素は排出口3eから排出される。
【0034】
また、基材9の光触媒材料の電子伝導帯に移動させられた電子は、アンモニア発生触媒13に到達する。そして、その電子により光触媒5の面5b(基材9の裏面9b)において、ガス7b中の窒素の還元反応が引き起こされる。この窒素の還元反応は、下記化学式;
N
2+6H
++6e
−→2NH
3
で表されるような反応であり、このような反応により空間S2中の光触媒5の面5b近傍でアンモニアが生成される。そして、生成されたアンモニアは空間S2内の塩酸と結合してアンモニウム塩(塩化アンモニウム:NH
4Cl)となる。このアンモニウム塩を排出口3fから取り出して、水酸化ナトリウム等の強塩基と反応させることによりアンモニアが得られる。
【0035】
以上説明したアンモニア発生装置1及びアンモニア発生装置1を用いたアンモニア発生方法によれば、光触媒5の面5aに水溶液7aを接触させ、面5bにガス7bを接触させた状態で、金属体11が配置された光触媒5の面5aに光Lを照射することにより、光触媒5の面5aにおいて水溶液7aを酸化させて酸素を発生させるとともに、光触媒5の面5bにおいてガス7bを還元させてアンモニアを発生させることができる。この場合、金属体11の微細構造によって決まるプラズモン共鳴の波長域において水の光電気分解が効率よく行われると同時に、アンモニア発生触媒13によって窒素の還元反応が効率的に行われる。その結果、外部装置による電圧の印加を必要とせずに、アンモニアを効率的に発生させることができる。
【0036】
アンモニア発生装置1では、金属体11が、様々な波長の入射光を捕集して、その光を局在化させて増幅させることが可能な光アンテナとして機能する。例えば、チタン酸ストロンチウム単体では600nm付近の光はほとんど透過してしまうが、金属体11の微細構造を制御して、金属体11のプラズモン共鳴波長を可視光領域または近赤外光領域とすることにより、当該波長領域でのアンモニア生成反応を進行させることができる。さらに、太陽エネルギーの波長帯域にプラズモン共鳴波長が一致するように金属体11の構造を制御すれば、太陽エネルギーを効率的に化学エネルギーに変換することができ、反応中心波長が680nm程度である植物の光合成にも劣らないシステムの構築が可能である。
【0037】
また、アンモニア発生装置1では、基材9の光触媒材料として金属酸化物が用いられているので、プラズモン共鳴吸収によって励起された電子を光触媒材料の電子伝導帯に効率的に遷移させることができ、水溶液7aの酸化反応及びガス7bの還元反応をさらに活性させることができる。また、光触媒5に形成された金属体11は11族元素を材料としているので、基材9の表面9aにおいて光に対するプラズモン共鳴吸収性を高めることができる。このため、水溶液7aの酸化反応及びガス7bの還元反応をさらに効率的に発生させることができる。さらに、アンモニア発生触媒13は遷移金属元素によって構成されているので、基材9の裏面9bにおいてガス7bの還元反応を活発化することができ、外部装置による電圧の印加を必要とせずに水溶液7aの酸化反応及びガス7bの還元反応をさらに効率的に発生させることができる。その結果、アンモニアをさらに効率的に発生させることが可能となる。
【0038】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されない。例えば、アンモニア発生装置1には窓部3dが設けられて、窓部3dを介して光Lを光触媒5の面5aに入射させるように構成されているが、密閉容器3の窓部3dの反対側(例えば、底面3b)に窓部が設けられ、光触媒5の面5bに外部から光を入射可能に構成されていてもよい。このような構成によれば、外部から可視光領域または近赤外光領域の波長を含む光Lを光触媒5の面5bに照射することにより、アンモニア発生触媒13及び基材9を透過した光が金属体11によって捕集されて電荷分離を引き起こすことができる。さらに、窓部3dに加えて密閉容器3の窓部3dの反対側に窓部が設けられてもよい。この場合、面5a及び面5bに可視光または近赤外光を同時に照射させることができ、より効率的にアンモニアを発生させることが可能となる。
【0039】
また、アンモニア発生装置1では、基材9の表面9aに金属体11が設けられ、基材9の裏面9bにアンモニア発生触媒13が設けられているが、基材9の少なくとも一部が金属体11とアンモニア発生触媒13との間に配置されていればよい。つまり、ある方向に沿って、金属体11、基材9及びアンモニア発生触媒13がその順に配列されていればよい。例えば、
図7の(a)に示されるように、金属体11のすべての領域が基材9の内部に設けられてもよく、
図7の(b)に示されるように、金属体11の一部の領域が基材9の内部に設けられてもよい。また、基材9の形状は板状に限られず、例えば
図8の(a)に示されるように、基材9は複数の凸部を備えていてもよい。また、アンモニア発生装置1は、2以上の基材9を備えてもよい。例えば、
図8の(b)に示されるように、金属体11の各領域とアンモニア発生触媒13との間にそれぞれ基材9が設けられてもよい。また、
図8の(c)に示されるように、導体16で接続された基材91及び基材92を備え、基材91に金属体11が設けられ、基材92にアンモニア発生触媒13が設けられてもよい。導体16としては、例えば金属、電解質溶液、イオン性溶液または溶融塩等が用いられる。また、アンモニア発生触媒13は、基材9の裏面9bの全面に設けられる必要はない。
図7及び
図8に示されるような光触媒5を用いた場合でも、金属体11が光を捕集し、金属体11と基材9との界面において電荷分離が引き起こされ、アンモニア発生触媒13に電子が運ばれる。その結果、外部装置による電圧の印加を必要とせずに、アンモニアを発生させることが可能となる。
【0040】
(実施例)
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明がより具体的に説明されるが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0041】
図9は、アンモニア発生装置1の特性測定に用いたアンモニア生成装置の概略図である。この特性測定では、実施例の光触媒5及び比較例の光触媒105を用意した。実施例の光触媒5は、以下のように作製した。基材9として0.05wt%のニオブをドープしたチタン酸ストロンチウム基板を使用した。スパッタリングにより基材9の表面9aに金からなる金属体11を3nmの厚さで成膜した後、窒素雰囲気下の800°Cで1時間アニール処理を施し、電子線蒸着により基材9の裏面9bにルテニウムからなるアンモニア発生触媒13を3nmの厚さで成膜した。この光触媒5は、
図3〜
図6に示される特性を有していた。
【0042】
比較例の光触媒105では、基材9として0.05wt%のニオブをドープしたチタン酸ストロンチウム基板を使用した。金属体11及びアンモニア発生触媒13を形成せず基材9のみとした。
【0043】
そして、これらの光触媒を収容したアンモニア発生装置1の空間S1に10体積%のエタノールを含む濃度0.1M、ph13.0の水酸化カリウム溶液を収容し、空間S2に水蒸気飽和窒素ガスを収容し、さらに空間S2に濃度0.01M、ph2.0の塩化水素溶液を15μL注入した。そして、
図9に示されるように、アンモニア発生装置1に対して、光源20を用いて所定の波長の光を照射した。つまり、800Wのキセノンランプ21から出射された光を水フィルター22、レンズ23及び光学フィルター24を介してアンモニア発生装置1の窓部3dから光触媒の一方の面5aに照射した。そして、反応後のアンモニア発生装置1に純水を通液し、純水に溶出したアンモニウム塩を定量した。
【0044】
(アンモニアの定量)
ここで、アンモニアの定量方法について説明する。アンモニウム塩を溶出した水溶液0.5mLに対して、発色させるために50wt%のEDTA・4Na・4H
2O溶液を0.08mL加える。そして、濃度1.25Mの水酸化ナトリウムと0.87wt%の塩素元素を含む次亜塩素酸ナトリウムとの混合溶液を0.52mL加え、アンモニウム塩と水酸化ナトリウムとを反応させてアンモニアを生成し、アンモニアと次亜塩素酸イオンとを反応させる。この化学反応は、下記化学式;
NH
4Cl+NaOH→NH
3+NaCl+H
2O
NH
3+ClO
−→NH
2Cl+OH
−
で表されるような反応であり、このような反応によりモノクロラミンが生成される。そして、濃度1.46Mのサリチル酸ナトリウムと濃度0.24Mのピラゾールとの混合溶液を0.16mL加え、モノクロラミンとサリチル酸と次亜塩素酸イオンとを反応させる。この化学反応は、下記化学式;
【化1】
で表されるような反応であり、このような反応によりサリチル酸二量化物が生成される。
【0045】
図10は、各アンモニア濃度における光の波長とサリチル酸二量化物の吸光度との関係を示す図である。サリチル酸二量化物は、アンモニアと定量的に反応するので、サリチル酸二量化物の吸光度とアンモニアの濃度は比例関係にある。また、サリチル酸二量化物は、650nmの波長の光に対して吸光度が最大となる。このため、上記のようにして得られたサリチル酸二量化物に対して、650nmの波長の光を照射し、その吸光度を測定することにより、
図10に示される関係からアンモニアの濃度を算出し、アンモニアの量を算出する。なお、アンモニアの定量は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーまたはイオンクロマトグラフィー等の方法を用いて行ってもよい。
【0046】
(測定結果)
図11は、光の照射時間に対するアンモニア生成量を示す図である。実施例の光触媒5及び比較例の光触媒105に550nm〜800nmの波長の光を照射し続け、照射時間に対するアンモニア生成量の変化を測定した。また、実施例の光触媒5に光を照射することなく、暗下における時間の経過によるアンモニア生成量の変化を測定した。
図11に示されるように、比較例の光触媒105に550nm〜800nmの波長の光を照射した場合及び実施例の光触媒5に光を照射しなかった場合には、時間が経過してもアンモニア生成量は増加しなかった。一方、実施例の光触媒5に550nm〜800nmの波長の光を照射した場合には、照射時間の経過とともにアンモニア生成量が増加した。実施例の光触媒5に550nm〜800nmの波長の光を照射した場合の照射時間とアンモニア生成量との関係は、ほぼ比例関係であり、アンモニア生成速度は約0.231nmol/hourであった。
【0047】
図12は、入射光の波長範囲ごとのアンモニア生成量を示す図である。
図13は、入射光の波長範囲ごとの量子収率を示す図である。光Lの波長範囲を、410nm〜800nm、450nm〜800nm、550nm〜800nm、633nm〜800nm、700nm〜800nmに変化させて、実施例の光触媒5にそれぞれ24時間照射した。
図12のグラフRは、対象となる波長範囲を照射した時のアンモニア生成量を示す。例えば、グラフRの「410−」は410nm〜800nmの波長範囲の光を24時間照射した時のアンモニア生成量を示す。同様に、グラフRの「450−」は450nm〜800nmの波長範囲の光を24時間照射した時のアンモニア生成量、グラフRの「550−」は550nm〜800nmの波長範囲の光を24時間照射した時のアンモニア生成量、グラフRの「633−」は633nm〜800nmの波長範囲の光を24時間照射した時のアンモニア生成量、グラフRの「700−」は700nm〜800nmの波長範囲の光を24時間照射した時のアンモニア生成量を示す。
【0048】
図12のグラフSは、単位波長当たりのアンモニア生成量を示す。例えば、グラフSの「410−」は410nm〜450nmの単位波長当たりのアンモニア生成量を示し、{(410nm〜800nmの波長域の光を24時間照射した時のアンモニア生成量)−(450nm〜800nmの波長域の光を24時間照射した時のアンモニア生成量)}/(450−410)によって算出された値である。同様に、グラフSの「450−」は450nm〜550nmの単位波長当たりのアンモニア生成量、グラフSの「550−」は550nm〜633nmの単位波長当たりのアンモニア生成量、グラフSの「633−」は633nm〜700nmの単位波長当たりのアンモニア生成量、グラフSの「700−」は700nm〜800nmの単位波長当たりのアンモニア生成量を示す。
【0049】
図13の入射光の波長範囲ごとの量子収率η
appは、単位波長当たりのアンモニア生成量と、各波長における照射された光子数と、を用いて式(1)によって算出した値である。各波長範囲における照射された光子数は、多目的分光放射計(MSR−7000N)を用いて測定した。
【数1】
【0050】
図13には、光触媒5の面5aの消光スペクトル(すなわち、プラズモン共鳴スペクトル)を併せて示した。
図13に示されるように、見かけの量子収率は、光触媒5の面5aの消光スペクトルに対応していることが判明した。このことから、金属体11のプラズモン(実施例では金のプラズモン)が基材9(実施例ではチタン酸ストロンチウム)の電荷分離に寄与していることが証明された。つまり、プラズモン増強により金の電子が励起され、励起された電子がチタン酸ストロンチウムの電子伝導帯に移動して、光触媒5の面5bにおいて窒素を還元してアンモニアを発生させているといえる。そして、太陽光を光触媒5に照射した場合でも、太陽光に含まれる波長に応じた量子収率でアンモニアが生成されることが示された。
【0051】
以上のことから、金属体11のプラズモン共鳴波長を可視光領域または近赤外光領域(実施例では620nm付近)とすることにより、外部装置を用いず(pHの勾配は利用)に、太陽光を照射するだけで、水、窒素及びアルコールからアンモニアを発生させることが可能であることが示された。