特許第6366326号(P6366326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山陽特殊製鋼株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366326
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】高靱性熱間工具鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20180723BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20180723BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C22C38/00 302E
   C22C38/48
   C21D8/00 D
   C22C38/00 301H
   C21D8/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-71259(P2014-71259)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193867(P2015-193867A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】舘 幸生
(72)【発明者】
【氏名】中間 一夫
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−226939(JP,A)
【文献】 特表2006−504868(JP,A)
【文献】 特開2013−087322(JP,A)
【文献】 特開2013−213255(JP,A)
【文献】 特開2006−104519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.30〜0.55%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:1.5〜6.0%を含有し、さらにMoおよびWのいずれか1種または2種からなり、Mo+1/2W:0.1〜2.5%を含有し、さらにVおよびNbのいずれか1種または2種からなり、V+1/2Nb:0.2〜1.0%を含有し、さらにAl:0.03%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であって、この不可避的不純物としてのNおよびTiは、N≦0.0150%、Ti≦0.005%で、かつ、[N]×[Ti]≦3×10-5を満たし、さらにJIS規定の鍛練成形比で4s以上に鍛伸した鋼材を焼なましした状態で鋼材の断面に長さが5μm以上である炭窒化物が面積率で0.4%以下であることを特徴とする高靱性熱間工具鋼。
【請求項2】
質量%で、C:0.30〜0.55%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:1.5〜6.0%を含有し、さらにMoおよびWのいずれか1種または2種からなり、Mo+1/2w:0.1〜2.5%を含有し、さらにVおよびNbのいずれか1種または2種からなり、V+1/2Nb:0.2〜1.0%を含有し、さらにAl:0.03%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であって、この不可避的不純物としてのNおよびTiは、N≦0.0150%、Ti≦0.005%で、かつ[N]×[Ti]≦3×10-5を満たし、鋳造したままの上記鋼の鋼塊を
1200〜1300℃の温度範囲内で、かつ、1334−73×[C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)>0を満たす温度で均質化熱処理し、
JIS規定の鍛練成形比で4s以上の鋼材に鍛伸し、
さらにこの鋼材を焼なましすることで、
焼なました状態で鋼材の断面に長さが5μm以上である炭窒化物が面積率で0.4%以下となる鋼とすることを特徴とする高靭性熱間工具鋼の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱間鍛造、鋳造またはダイカストなどの金型用の熱間工具鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱間鍛造、鋳造またはダイカストなどの金型用の熱間工具鋼としては、JIS G 4404 のSKD61、SKD6、SKTなどのほか、3Cr−3Mo系鋼、セミハイス系鋼などが使用されている。しかし、近年は複数の部品に分かれていたものを、生産効率の向上を狙って一体に製造することが多くなり、従来の鋼種では、早期にヒートクラックの発生や大割れが起こるようになっており、より高強度、高靱性を有する熱間工具鋼が求められている。
【0003】
例えば、この熱間工具用の鋼材料としては、重量%で、C:0.3〜0.4%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:4〜6%、Mo:1.8〜3%、V:0.4〜0.6%、残部鉄および不可避金属不純物および不可避非金属不純物からなる熱間加工工具用の鋼材で、これらの鋼材は、1000〜1080℃におけるオーステナイト化および550〜650℃における焼戻しによって45HRC超の硬度を得ることができる鋼材が発明として開示されている(例えば、特許文献1参照。)。ところで、この特許文献1には窒素とチタンの低減が凝固時に生成するMX系晶出物を軽減することで鋼材の靭性低下が抑えられることが述べられている。しかしながら、窒素とチタンを規定値以下にするだけでは不十分であり、靱性の向上が得られない場合がある。なお、上記のMXは、MがV、Tiであり、XはCおよび/またはNを表す。
【0004】
また、質量%で、C:0.2〜0.7%、Cr:0.5〜7.0%、MoまたはWの1種または2種を(Mo+1/2W)にて、0.1〜6.0%、V:3.0%以下を含有する、JISに記載される成分組成の熱間加工具において、Alが0.04%以下に記載されかつ、基地組成のCrの偏析度合いが±0.2質量%以内、(Mo+1/2W)の偏析度合いが±0.08質量%以内、Vの偏析度合いが±007質量%以内であり、断面組織中に観察される最大径5μm以下の窒化アルミニウムが2500個/mm2以下(0個を含む)である靱性に優れた熱間工具鋼の発明が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この提案では、基地組成のC、Mo、Vの偏析度合いの規定、およびAlの低減による窒化アルミニウムの抑制により高靱性が得られるとされているが、凝固時の偏析による晶出炭窒化物については考慮されておらず、また原材料等に含まれる製品に混入するTiを考慮しないと窒化物量の抑制は不十分であり、またソーキングの効果も得られにくくなるため、高い靱性が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4516211号公報
【特許文献2】特許第4441907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、不純物としてのTiとNの含有量を制御することで、靭性に有害な凝固時の晶出炭化物の形成量を低減し、また、適正な均質化熱処理を加えるなどにより、鋼材製品に残存する晶出物である炭窒化物の面積率を一定値以下に減少させることで、極めて優れた靭性を有する熱間工具鋼およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.30〜0.55%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:1.5〜6.0%を含有し、さらにMoおよびWのいずれか1種または2種からなり、Mo+1/2W:0.1〜2.5%を含有し、さらにVおよびNbのいずれか1種または2種からなり、V+1/2Nb:0.2〜1.0%を含有し、さらにAl:0.03%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であり、この不可避的不純物としてのNおよびTiは、N≦0.0150%、Ti≦0.005%を満たし、かつ、[N]×[Ti]≦3×10-5…(式1)を満たし、JIS規定の鍛練成形比:4s以上に鍛伸して焼なまし状態とした場合の鋼材の断面組織中における、5μm以上の長さを有する炭窒化物の面積率が0.4%以下であることを特徴とする高靱性熱間工具鋼である。
【0008】
第2の手段では、質量%で、C:0.30〜0.55%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:1.5〜6.0%を含有し、さらにMoおよびWのいずれか1種または2種からなり、Mo+1/2w:0.1〜2.5%を含有し、さらにVおよびNbのいずれか1種または2種からなり、V+1/2Nb:0.2〜1.0%を含有し、さらにAl:0.03%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であって、この不可避的不純物としてのNおよびTiは、N≦0.0150%、Ti≦0.005%で、かつ[N]×[Ti]≦3×10-5を満たし、鋳造したままの上記鋼の鋼塊を1200〜1300℃の温度範囲内で、かつ、1334−73×[C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)>0を満たす温度で均質化熱処理し、JIS規定の鍛練成形比で4s以上の鋼材に鍛伸し、さらにこの鋼材を焼なましすることで、焼なました状態で鋼材の断面に長さが5μm以上である炭窒化物が面積率で0.4%以下となる鋼とすることを特徴とする高靭性熱間工具鋼の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本願の請求項に係る発明は、上記の手段としたことで、晶出物である炭窒化物の面積率が0.4%以下であり、均質化熱処理温度を行ったときに、偏析部で溶融層が発生したことによるボイドの発生が無く、且つ、粗大な一次炭化物が無い、衝撃値が40J/cm2以上となる、優れた靱性を有する熱間工具鋼が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明における化学成分の含有量および構成要素について、以下に説明する。なお、%は質量%である。
【0011】
C:0.30〜0.55%
Cは、十分な焼入れ性を確保し、炭化物を形成させることで鋼の硬度、耐摩耗性および強度を得るために必要な元素で、また焼入れ時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する元素である。Cが0.30%より低すぎると、十分な強度および耐摩耗性が得られない。一方、Cが0.55%より多すぎると、凝固偏析を助長し、粗大炭化物の晶出や、ソーキング時に溶融層の発生が生じやすくなり、靱性を阻害する。そこで、Cは0.30〜0.55%とし、望ましくは、0.30〜0.50%とする。
【0012】
Si:0.1〜1.2%
Siは、製鋼での脱酸効果、焼入性確保として必要な元素である。Siが0.1%未満であると、これらの効果を発揮しない。一方、Siが1.2%より多すぎると靱性を低下させ、また、熱間工具鋼として重要な物性値である熱伝導率を低下させる。そこで、Siは0.1〜1.2%とし、望ましくは、0.2〜1.1%とする。
【0013】
Mn:0.2〜1.5%
Mnは、製鋼での脱酸効果、焼入性の確保として必要な元素である。Mnが0.2%未満ではこれらの効果を十分に得られない。一方、Mnが1.5%を超えると靱性および被削性を低下させる。そこで、Mnは0.2〜1.5%とし、望ましくは、0.3〜1.2%とする。
【0014】
Ni:0.1〜2.0%
Niは、焼入性、靱性を向上する元素である。Niが0.1%未満では、これらの効果が得られない。一方、Niが2.0%より多すぎても特性向上が殆どなく、また、A1変態点を低下させて耐熱性を劣化させ、被削性も悪化する。そこでNiは0.1〜2.0%とし、望ましくは、0.1〜1.5%とする。
【0015】
Cr:1.5〜6.0%
Crは、焼入性を改善し、耐摩耗性の向上に有効な元素である。しかし、Crが1.5%未満ではこれらの効果は十分に得られない。一方、Crが6.0%より多すぎると、焼入焼き戻し時にCr系の炭化物が多量に形成され、靱性、高温強度および軟化抵抗性を低下させる。そこで、Crは1.5〜6.0%とし、望ましくは、1.5〜5.5%とする。
【0016】
Mo+1/2W:0.1〜2.5%
MoまたはWは、焼入性と二次硬化および耐摩耗性に寄与する析出炭化物を得るために必要な元素である。さらに、MoまたはWは、焼入れ時に未固溶となった微細な炭化物が結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する。しかし、MoまたはWの1種あるいは2種からなるMo+1/2Wが0.1%より少ないと、上記の効果が得られない。一方、MoまたはWの1種あるいは2種からなるMo+1/2Wは過剰に添加してもその効果は飽和するばかりか、炭化物が粗大凝集することにより靱性を低下させ、また、コスト高となる。そこで、Mo+1/2Wは0.1〜2.5%とし、望ましくは、0.3〜2.2%とする。
【0017】
V+1/2Nb:0.2〜1.0%
VまたはNbは、焼戻し時に微細で硬質な炭化物、炭窒化物を析出し、強度や耐摩耗性に寄与する元素である。また、VまたはNbは、焼入れ時には微細な炭化物や微細な炭窒化物が結晶粒の粗大化を抑制し、靱性の低下を抑制する。しかし、VまたはNbの1種あるいは2種からなるV+1/2Nbが0.2%より少ないと、上記の効果が得られない。一方、VまたはNbの1種あるいは2種からなるV+1/2Nbは多すぎると、凝固時に粗大な晶出物を生成し、靱性を阻害する。そこで、V+1/2Nbは0.2〜1.0%とし、望ましくは、0.2〜0.8%とする。
【0018】
Al:0.03%以下
Alは、0.03%より多いと、酸化物や窒化物が多くなり、割れ起点となりやすく、鋼の疲労強度、靱性が低下する。そこで、Alは0.03%以下とし、望ましくは、0.02%以下とする。
【0019】
不可避的不純物としてのNおよびTi:N≦0.0150%、Ti≦0.005%、かつ、[N]×[Ti]≦3×10-5…(式1)を満足する。
不可避的不純物としてのNおよびTiは、N≦0.0150%、Ti≦0.005%であって、かつ、[N]×[Ti]≦3×10-5…(式1)を満足するときは、凝固時の晶出物生成を抑制する。しかし、[N]×[Ti]が3×10-5を超えると、晶出物が固溶しにくくなり鋼材中の炭窒化物が粗大になりやすい。そこで、不可避的不純物としてのNおよびTiはN≦0.0150%、Ti≦0.005%、かつ、[N]×[Ti]≦3×10-5…(式1)を満足するものとする。
【0020】
JIS規格の鍛練成形比:4s以上に鍛伸した焼なまし状態の鋼材の断面組織中における5μm以上の長さを有する炭窒化物の面積率:0.4%以下
JIS規格の鍛練成形比を4s以上に鍛伸した焼なまし状態の鋼材の断面組織中における5μm以上の長さを有する炭窒化物の面積率が0.4%より増えると、炭窒化物への応力集中で発生した割れが炭窒化物に沿って進展して近傍の炭化窒化物につながり易くなり、靱性が低下する。そこで、鍛練成形比を4s以上に鍛伸した焼なまし状態の鋼材の断面組織中における5μm以上の長さを有する炭窒化物の面積率は0.4%以下とする。
【0021】
鋳造したままの鋼塊:1200〜1300℃の範囲で、かつ、1334−73×[C]−12[Si]−で均質化熱処理温度(℃)>0を満たす温度で均質化熱処理を行う
鋳造したままの鋼塊は、均質化熱処理が1200℃未満で行われると、晶出物の固溶および固溶元素の拡散が不十分になる。一方、鋳造したままの鋼塊は、1334−73×[C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)≦0、若しくは均質化熱処理が1300℃を超えて行われると、偏析部で溶融層が発生し、一次炭化物の粗大化、靱性の低下や熱間加工性の悪化が起きる。そこで、鋳造したままの鋼塊は1200〜1300℃の範囲で、かつ、1334−73×[C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)>0を満たす温度で均質化熱処理する。
【0022】
ここで、本発明の実施の形態について述べることとする。
先ず、質量%で示す、表1の本発明例および比較例に挙げた化学成分を含有し、残部がFeと不可避不純物からなる組成の鋼を、1ton真空溶解炉を用いて溶製した後、インゴットに造塊した。これらのインゴットを表2に設定した均質化熱処理温度で12時間保持して均質化熱処理を施した後、鍛錬成形比が凡そ6Sとなる直径160mm(すなわち、直径960mmのものを直径160mm)に熱間鍛造して鋼材を製造した。なお、本発明では、上記の真空溶解炉の他に、ESR(エレクトロスラグ再溶解)法、あるいは、VAR(真空アーク再溶解)法による二次溶解を行ってもよい。
【0023】
【表1】
【0024】
上記で製造した各鋼材の中周部すなわち半径40mmの部分より割出して得た60mm角の立方体を用い、880〜1030℃の焼入れ温度にて30分間均熱保持した後、撹拌している50℃の油に投入して油冷して焼入れをした。
【0025】
【表2】
【0026】
さらに、これらの試験片は、500℃以上の焼戻し温度で焼戻しを行い、熱間工具鋼で主に使用される44〜46HRCに調質した。得られた鋼材の靱性は、シャルピー衝撃試験により破壊に要したエネルギーで評価した。これらに用いた試験片は、直径160mm鍛造材の中心部の垂直方向から採取し、JIS Z 2242に規定する深さ2mmのUノッチを圧延方向に垂直となる面に加工したものである。靭性の良し悪しの判断には、一般的に熱間工具鋼に最低20J/cm2必要とされていることから、その2倍の40J/cm2以上の衝撃値が得られるか否かで判断した。
【0027】
炭窒化物である晶出物量は、直径160mmの鍛造材の中心部より、圧延方向に平行な面にて10mm角で長さが16mmの試験片を採取し、観察により計測した。すなわち、試験片を最終バフ研磨にて鏡面研磨仕上げをした後、光学顕微鏡にて400倍で観察を行い、炭窒化物の晶出物が多い箇所を30視野選択し、炭窒化物である晶出物の面積率を算出して炭窒化物面積率(%)として晶出物量を示した。
【0028】
既に記載したように、本発明の実施の形態における表1の、質量%で示す化学成分からなる、本発明例のNo.1〜16および比較例のNo.17〜31につき、さらに説明すると、本発明の請求項1および請求項2に係る発明の不可避的不純物として、質量%で、N≦0.0150%およびTi≦0.005%であり、かつ、[N]×[Ti]≦3×10-5…(1)式を満足し、さらに表2の、4s以上に鍛伸した焼なまし状態の鋼材の断面組織中において、5μm以上の長さを有する炭窒化物の面積率は0.4%以下であり、さらに請求項2に係る発明は、これの要件に加えて、均質化熱処理温度1200〜1300℃の範囲内で、且つ、1334−73×[C]−12[Si]−で均質化熱処理温度(℃)>0を満たす温度で均質化熱処理するものである。これらは溶融層の有無、および(T方向の)衝撃値40J/cm2以上の値について、表2で示されている。なお、上記の[N]および[Ti]はそれぞれNおよびTiの質量%を示している。
【0029】
表2に示す本発明例のNo.1〜No.16は、炭窒化物の面積率はいずれも0.4%以下であり、均質化熱処理温度も1200〜1300℃で、且つ、1334−73× [C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)>0を満たしており、溶融層の発生もなく、衝撃値(T方向)も40J/cm2以上で靭性も高く○である。
【0030】
一方、表2に示す比較例の、No.17は均質化熱処理をしないことで、No.18はNが0.015%より多いことで、No.28は表1に示すようにTiが0.005%より多いことで、長さ5μm以上の炭窒化物が鋼在中に多く存在し、それぞれ衝撃値(T方向の)が40J/cm2未満で靱性が低く×である。
【0031】
比較例のNo.19、およびNo.20は、焼入性が悪く、靱性が低く×である。
【0032】
比較例のNo.21、およびNo.24は、析出炭化物が少なく、焼入れ加熱時に結晶粒の粗大化が抑制できず、靱性が低く×である。
【0033】
比較例のNo.22、No.23およびNo.26は、均質化熱処理後も粗大な晶出炭化物が多くなり、また、偏析が著しいため、靱性が低く×である。
【0034】
比較例のNo.25は、酸化物、窒化物生成量が多くなり過ぎて、靱性が不足して×である。
【0035】
比較例のNo.27は、Mnが2.2%と1.5%より多すぎ基地の脆化が起こり、十分な靱性が得られず×である。
【0036】
比較例のNo.29は、Cが0.65%と0.55%より多く、1334−73×[C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)≦0であるため、均質化熱処理時に偏析部で溶融層が発生して一次炭化物が粗大化し、また、偏析も著しいため靱性が不足して×である。
【0037】
比較例のNo.30は、均質化熱処理温度が1150℃と1200℃より低いため、偏析部での晶出物の固溶が十分には進まず、靱性が不十分になり×である。
【0038】
比較例のNo.31は、均質化熱処理温度が1320℃と1300℃より高く、1334−73×[C]−12[Si]−均質化熱処理温度(℃)≦0であるため、均質化熱処理時に偏析部で溶融層が発生して一次炭化物が粗大化し、靱性が不足して×である。