特許第6366599号(P6366599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366599
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】N−アルキルピロリドンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/267 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   C07D207/267
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-543384(P2015-543384)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公表番号】特表2015-537036(P2015-537036A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】EP2013073533
(87)【国際公開番号】WO2014079720
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年11月9日
(31)【優先権主張番号】12193748.6
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ ピンコス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フォーグラー
(72)【発明者】
【氏名】カール オット
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 韓国登録特許第10−1134663(KR,B1)
【文献】 特開2012−188369(JP,A)
【文献】 特開2013−119551(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0150591(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103012234(CN,A)
【文献】 米国特許第04965370(US,A)
【文献】 特開平01−313459(JP,A)
【文献】 特開2007−099690(JP,A)
【文献】 特開2004−284958(JP,A)
【文献】 特開平11−349566(JP,A)
【文献】 特開平03−014559(JP,A)
【文献】 特開平06−279401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すでに使用されたことにより、一般式IまたはII
【化1】
[式中、Rは、水素またはC1〜C20アルキル基を表す]
の不純物の少なくとも1種を含むN−アルキルピロリドンの精製方法であって、
精製されるべきN−アルキルピロリドンに、NaOH、KOH、ナトリウムメトキシドおよびカリウムメトキシドからなる群から選択される塩基性化合物を添加して、混合物の温度が、前記塩基性化合物の添加から遅くとも20分後に少なくとも80℃であること、および
N−アルキルピロリドンを、前記得られた混合物から留去すること
を特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記N−アルキルピロリドンが、N−メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩基性化合物が、水100質量部中に5質量部の量で(20℃、1barにて)、少なくとも8のpH値をもたらす化合物であることを特徴とする、請求項1また2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基性化合物が、NaOHまたはカリウムメトキシドであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基性化合物を、N−アルキルピロリドン100質量部に対して0.01〜10質量部の量で添加することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物の温度が、前記塩基性化合物の添加から遅くとも5分後に少なくとも100℃であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性化合物を、蒸留の間に添加することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸留を、100〜300℃の温度および0.005〜10barの圧力で実施することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記蒸留を、酸素の非存在下に実施することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法を、連続的に実施することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基性化合物が添加された後のN−アルキルピロリドンが、N−アルキルピロリドンの製造プロセスからのさらなるN−アルキルピロリドンとの混合物として蒸留されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記蒸留後に得られる、精製されたN−アルキルピロリドンが、N−アルキルピロリドン100質量部に対して、
別の成分総計0.5質量部未満、
水0.05質量部未満、および
一般式IおよびIIの化合物総計0.005質量部未満
を含むことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
N−アルキルピロリドンの使用方法であって、
a)ポリマーをN−アルキルピロリドン中に溶解させ、
b)前記ポリマーを用いてリチウムイオン蓄電池の電極を製造し、および、ここで、一般式IまたはII
【化2】
[式中、Rは水素またはC1〜C20アルキル基を表す]
の不純物の少なくとも1種を含む、不要物が混入したN−アルキルピロリドンを回収し、
c)該回収した精製されるべきN−アルキルピロリドンに、NaOH、KOH、ナトリウムメトキシドおよびカリウムメトキシドからなる群から選択される塩基性化合物を添加して、混合物の温度を、前記塩基性化合物の添加から遅くとも20分後に少なくとも80℃に高め、
d)前記N−アルキルピロリドンを、前記得られた混合物から留去し、および
e)リチウムイオン蓄電池の電極を製造するための溶媒として再び使用する
ことを特徴とする前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すでに使用されたことにより、一般式IまたはII
【化1】
[式中、Rは、水素またはC1〜C20アルキル基を表す]
の不純物の少なくとも1種を含むN−アルキルピロリドンの精製方法に関する。
【0002】
前記方法は、
・精製されるべきN−アルキルピロリドンに塩基化合物を添加して、混合物の温度が、前記塩基性化合物の添加から遅くとも20分後に少なくとも80℃であること、および
・前記N−アルキルピロリドンを、前記得られた混合物から留去すること
を特徴としている。
【0003】
さらに、本発明は、N−アルキルピロリドンの使用、精製および再利用のための方法に関しており、この方法は、
a)ポリマーをN−アルキルピロリドン中に溶解させ、
b)前記ポリマーを用いてリチウムイオン蓄電池の電極を製造し、および、ここで、一般式IまたはII
【化2】
[式中、一般式IおよびIIのRは、水素またはC1〜C20アルキル基を表す]
の不純物の少なくとも1種を含む、不要物が混入したN−アルキルピロリドンを回収し、
c)この回収したN−アルキルピロリドンに塩基性化合物を添加して、この混合物の温度を、前記塩基性化合物の添加から遅くとも20分後に少なくとも80℃に高め、
d)前記N−アルキルピロリドンを、得られた混合物から留去し、および
e)リチウムイオン蓄電池の電極を製造するための溶媒として再び使用する
ことを特徴としている。
【0004】
リチウムイオン蓄電池を製造するために、多くの場合、ポリマーが、例えば、ポリマー電解質として使用されるか、または電極を製造するために使用される。通常、例えば、電極を製造するために、ポリフッ化ビニリデンが使用される。
【0005】
そのために、ポリフッ化ビニリデンは、通常、有機溶媒中に溶解されて、リチウム貯蔵材料(Lithiumspeichermaterialien)および場合により導電性の添加物の添加により懸濁液が製造される。担体、例えば、金属担体に、前記懸濁液を被覆し、続いて前記溶媒を除去することによって電極が得られる。N−アルキルピロリドン、特に、N−メチルピロリドンは、好適な溶媒であることが明らかになっている。
【0006】
上述の使用により、前記溶媒は、不要物が混入することがある。被覆プロセスによって不純物が導入され、また高温が必要であるためおよび/または酸化作用をする化合物が存在するため、前記使用される溶媒の副生成物が生じる。N−メチルピロリドン(NMP)の場合、不所望な副反応により、上記一般式IおよびII(式中、Rは、H原子を表す)の化合物が生じる。これらは、NMPと同じような沸点を有しており、したがって、NMPから蒸留により分離することはほとんどできない。
【0007】
長期耐用のリチイウムイオン蓄電池を製造する場合、純度が高く、無水の溶媒しか使用することができない。ここで、1回使用された溶媒は、精製され、ならびに純度および無水に対する高い要求が再び満たされる場合にのみ再び使用することができる。
【0008】
JP11071346およびJP10310795から、ポリフッ化ビニリデンのための溶媒として使用されるNMPを、酸性化合物の添加により、特に、酸性固形物と接触させることにより精製することが公知である。
【0009】
WO2010/057917は、ポリフッ化ビニリデンのため、およびリチウムイオン蓄電池を製造するために溶媒として使用されたNMPの精製を記載している。この精製は、活性炭の添加により行われる、したがって、吸着剤による精製である。
【0010】
アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物のNMPへの添加も、すでに記載されている。例えば、JP2004284958およびJP2007099690からは、過酸化物の形成を阻止して、NMPを安定化させるために、NMPをアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の存在下に蒸留することが公知である。
【0011】
US4965370、JP2001354769およびJP11349566では、ポリアリーレンスルフィドの製造で使用されたNMPの精製が記載されている;アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の添加により、そのつど不純物はポリアリーレンスルフィドプロセスから除去されて、NMPは、このプロセスに再び使用することができる。
【0012】
JP03014559は、金属水酸化物または金属炭酸塩の添加による、N−メチルスクシンイミドおよびフェノールのNMPからの除去を開示している。ここでも、前記ポリアリーレンスルフィドプロセスからのNMPである。
【0013】
WO03/053924では、γ−ブチロラクトンおよびメチルアミンからのNMPの製造方法が記載されている。ここで、金属水酸化物は、過剰のγ−ブチロラクトンを塩形成により除去するために使用される。
【0014】
本発明の課題は、すでに使用されたN−アルキルピロリドン、特に、任意の適用、特に、リチウムイオン蓄電池の製造のためのN−アルキルピロリドンの再利用を可能にするNMPの精製方法であった。この方法は、できる限り簡単および有効なものである。この方法によって、導入された、または生じた上記一般式IおよびIIの不純物が可能な限り完全に除去されるのが望ましい。
【0015】
それに応じて、上記方法が見いだされた。
【0016】
本発明による方法は、すでに少なくとも1回使用されたN−アルキルピロリドンの精製方法である。例えば、N−アルキルピロリドンは、溶媒として使用されたものであってよい。
【0017】
一般式A
【化3】
[式中、Rは、水素またはC1〜C20アルキル基を表す]
のN−アルキルピロリドンであるのが好ましい。
【0018】
特に、一般式AのRは、水素またはC1〜C3アルキル基を表し、特に好ましくは、Rは、水素またはメチル基を表す。Rが水素を表す場合、N−メチルピロリドン(NMP)であり、Rがメチル基を表す場合、N−エチルピロリドン(NEP)である。NMPまたはNEPであるのが特に好ましい。NMPであるのが殊に好ましい。
【0019】
N−アルキルピロリドンは、すでに使用されたことにより、一般式IまたはII
【化4】
[式中、Rは、水素またはC1〜C20アルキル基を表す]
の不純物の少なくとも1種を含んでいる。
【0020】
一般式IおよびIIの化合物は異性体であり、これらは、多くの場合、混合物として生じる。したがって、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、前記2つの化合物を含んでいることがある。Rは、水素またはC1〜C4アルキル基であるのが好ましい。
【0021】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンが、NMPである場合、一般式IおよびIIのRは、水素を表す。
【0022】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンが、NEPである場合、一般式IおよびIIのRは、メチル基を表す。
【0023】
N−アルキルピロリドン中の一般式IおよびIIの化合物の含有量は、N−アルキルピロリドン100質量部に対して特に0.0005〜1質量部であってよい。前記方法の場合、特に、一般式IおよびIIの化合物を、N−アルキルピロリドン100質量部に対して総計で0.0005〜0.5、特に好ましくは0.0005〜0.1質量部の割合を有するN−アルキルピロリドンが使用される。
【0024】
一般式IおよびIIの化合物の他に、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、不純物としてさらなる有機化合物を含んでいることがある。
【0025】
不純物として含まれうる、さらなる有機化合物は、例えば、以下の一般式
【化5】
[式中、Rは、それぞれ水素またはC1〜C20アルキル基を表す]の化合物である。
【0026】
一般式I、IIおよび場合によりIII〜XIIの化合物の他に、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、すでにN−アルキルピロリドンの製造プロセスから生じており、かつ不純物と見なされないさらなる有機化合物を含んでいることがある。γ−ブチロラクトン、およびN−アルキルピロリドンの製造に使用されるアミン(NMPの場合メチルアミン)の他に、前記さらなる有機化合物は、環炭素原子でアルキル基と置換されているN−アルキルピロリドンの誘導体である。好ましいアルキル基は、メチル基およびエチル基であり、すべての環炭素原子で単独または混合物として存在していてよい。前記置換されたN−アルキルピロリドンの含有量は、一般に、N−アルキルピロリドン100質量部に対して1質量部未満、特に0.5質量部未満である。γ−ブチロラクトンの含有量は、一般に、N−アルキルピロリドン100質量部に対して0.1質量部未満、特に0.05質量部未満である。前記N−アルキルピロリドンの製造に使用されるアミンの含有量は、一般に、N−アルキルピロリドン100質量部に対して0.005質量部未満、特に0.003質量部未満である。
【0027】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、N−アルキルピロリドン100質量部に対して、一般に、不純物として一般式I〜XIIの有機化合物を総計で0.005〜5質量部、特に0.0005〜2質量部含んでいる。
【0028】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、さらに水を含んでいてよい、もしくは水との混合物として存在していてよい。前述の使用により、大量の水が導入されていてよい。
【0029】
したがって、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、例えば、以下、
N−アルキルピロリドン100質量部
不純物である一般式I〜XIIの有機化合物総計0.0005〜5質量部、および
水0.01〜200質量部
から構成されていてよい。
【0030】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、特に以下、
N−アルキルピロリドン100質量部
不純物である一般式I〜XIIの有機化合物総計0.0005〜2.5質量部、および水0.1〜100質量部
から構成されていてよい。
【0031】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンに、塩基性化合物が添加される。塩基性化合物という概念は、以下において、種々の塩基性化合物の混合物であるとも理解される。
【0032】
前記塩基性化合物は、好ましくは、水100質量部中に5質量部の量で(20℃、1barにて)、少なくとも8、特に好ましくは少なくとも9のpH値をもたらす化合物である。前記定義の場合、前記塩基性化合物の5質量部が完全に水中に溶解している必要はなく、前記塩基性化合物の添加後にpHの上昇が起こることが重要であるにすぎない。
【0033】
前記塩基性化合物は、有機または無機化合物であってよい。例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボキシレート、錯体水素化物、アンモニアまたはアミンが考慮される。例えば、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Ca(HCO32、CaCO3、シュウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムメタノキシド、カリウムメトキシド、カリウムメタノキシド、およびN−アルキル置換されたピロリドンに相応するアルキルアミンが挙げられる。
【0034】
無機化合物、特に、アルカリ金属を含む塩基またはアルカリ土類金属を含む塩基が特に好ましい。
【0035】
前記添加される塩基性化合物は、NaOH、KOH、ナトリウムメトキシドまたはカリウムメトキシドであるのが殊に好ましい。
【0036】
特に好ましい実施態様では、水酸化ナトリウムである。
【0037】
前記塩基性化合物は、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンに、塊状で、または溶液として添加されてよい。前記塩基性化合物が溶液として添加される場合、前記溶媒は、例えば、水または有機溶媒、例えば、それぞれのN−アルキルピロリドンまたはそれぞれのN−アルキルピロリドンと水との混合物であってもよい。
【0038】
前記塩基性化合物は、前記精製されるべきN−アルキルピロリドン100質量部(N−アルキルピロリドンおよびその中に含まれるすべての有機成分、例えば、不純物および誘導体からの総体)に対して0.01〜10質量部の量で使用されるのが好ましい。前記塩基性化合物は、前記精製されるべきN−アルキルピロリドン100質量部に対して特に好ましくは0.01〜1質量部の量で、殊に好ましくは0.01〜0.5質量部の量で、特に0.05〜0.5質量部の量で使用される。
【0039】
前記塩基性化合物の添加から遅くとも20分後、好ましくは遅くとも10分後、特に好ましくは遅くとも5分後、殊に好ましくは遅くとも2分後に、精製されるべきN−アルキルピロリドンと塩基性化合物とから得られた混合物の温度は、少なくとも80℃である。
【0040】
前記温度は、少なくとも100℃であるのが好ましい。
【0041】
前記温度は、
・前記塩基性化合物と前記精製されるべきN−アルキルピロリドンとが合されて、得られた混合物が迅速に加熱され、それによって定められた時間内に必要な温度が達成される(代替案1)か、または
・前記精製されるべきN−アルキルピロリドンがすでにあらかじめ加熱されたため、前記塩基性化合物の添加後に所望の温度がすぐに与えられる(代替案2)
ことによって容易に調整することができる。
【0042】
代替案2の特別な実施態様は、前記精製されたN−アルキルピロリドンが分離される蒸留において直接、前記塩基性化合物を添加することである。
【0043】
前述の温度上昇をしないと、固形物は容易に沈殿しうる。ここで、例えば、配管およびバルブが詰まることがあり、これによって、前記設備の停止が必要になり、結果として相応の精製費用がかかることが欠点である。
【0044】
N−アルキルピロリドンは、前記混合物から留去される。前記精製されたN−アルキルピロリドンは、塔頂で取り除かれるのが好ましい。
【0045】
前記蒸留は、好ましくは50〜350℃、特に好ましくは100〜250℃の温度、および0.3〜5barの圧力で実施される。
【0046】
前記蒸留のための塔として、当業者に公知の塔が好適である。規則充填物塔、シーブトレイを有する棚段塔、デュアルフロートレイを有する塔、バブルキャップトレイを有する塔、またはバルブトレイが設けられた精留塔、分離壁塔または薄膜蒸発器および流下薄膜蒸発器が好ましい。
【0047】
前記蒸留は、酸素の非存在下に実施されるのが好ましい。ここで、非存在とは、酸素の体積分率が、蒸留塔の総体積に対して0.1%未満、特に0.01%未満、殊に0.001%未満であると理解される。
【0048】
前記塩基性化合物のN−アルキルピロリドンへの添加が、すでに不活性ガス雰囲気下に実施されるのが好ましいため、前記方法全体の間、酸素含有量は減少する。前記方法全体は、酸素の非存在下で実施されるのが好ましく、ここで、酸素の非存在下とは、酸素の体積分率が、それぞれ使用される装置部材(タンク、蒸留塔)の総体積に対して0.1%未満、特に0.01%未満、殊に0.001%未満であると理解される。
【0049】
前記使用される装置は、配管および塔内部構造体もすべて特殊鋼から作られているのが好ましい。
【0050】
前記方法は、不連続的または連続的に実施されてよい。
【0051】
不連続的に実施する場合、前記塩基性化合物は、精製されるべきN−アルキルピロリドンの装入量に加えられて、得られた混合物は回分式に蒸留されてよい。
【0052】
前記方法は、連続的に実施されるのが好ましい。
【0053】
そのために、前記出発材料、つまり、前記塩基性化合物と前記精製されるべきN−アルキルピロリドンとが連続的に合される。これらは、例えば、連続的に、貯蔵容器に導入されて、そこで混合されてよく;この貯蔵容器から蒸留物が連続的に供給されてよい。
【0054】
前記塩基性化合物および前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、別個の流として直接および連続的に前記蒸留物に供給されてよい。
【0055】
前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、前記塔の回収部で供給されるのが好ましい。前記塩基性化合物は、純粋物質として、または溶液として、前記蒸留塔の任意のトレイ上に供給されてよい。
【0056】
蒸留は、1段または多段、つまり、1つまたはそれ以上の塔で行われてよい。
【0057】
1段で、連続的な蒸留の場合、例えば、分離壁塔も好適である。
【0058】
好ましい実施態様では、連続的な、2段の蒸留が実施される。
【0059】
そのために、前記精製されるべきN−アルキルピロリドン(好ましくは、精製されるべきNMP)および前記塩基性化合物(好ましくはNaOH)は、混合物として、または別個に、第一蒸留塔に供給されてよい。第一蒸留塔では、易沸分、例えば、メチルアミン、特に、水は、150〜250℃、特に、180〜250℃の塔底温度、および0.1〜5bar、特に0.3〜3barの圧力で頂部から分離されるのが好ましい。次に、第二蒸留塔では、第一蒸留塔の底部の精留が、減圧下に、例えば、80〜180℃、特に、100〜160℃の塔底温度、および0.005〜0.5bar、特に、0.01〜0.3barの圧力で行われてよい。精製されたN−アルキルピロリドンは、第二塔の側方排出分として分離されてよく、不純物および前記塩基性化合物、もしくはその反応生成物を含む底部は、連続的に排出されてよい。
【0060】
前記方法の特別な実施態様は、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンが、その製造プロセスからのさらなるN−アルキルピロリドンとの混合物として蒸留されることである。
【0061】
N−アルキルピロリドン、特に、NMPは、γ−ブチロラクトンと相応のアミン(NMPの場合はメチルアミン)との反応により得ることができる。この反応では、N−アルキルピロリドン(NMP)、水、未反応の出発材料(γ−ブチロラクトンおよびメチルアミン)および場合により副生成物からの生成流が得られる。この生成流は、蒸留により後処理される。前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、前記生成流と任意の量で混合されてよい。前記精製されるべきN−アルキルピロリドンは、前記生成流と合する前にすでに、塩基性化合物を含んでいてよい。代替的に、前記塩基性化合物を前記生成流に添加することも当然可能であり、例えば、前記塩基性化合物は、前記精製されるべきN−アルキルピロリドンに、まず前記生成流との混合により供給される。
【0062】
蒸留後、精製されたN−アルキルピロリドンは、N−アルキルピロリドン100質量部に対して、
・不純物III〜XII総計0.5質量部未満
・水0.05質量部未満、および
・一般式IおよびIIの化合物総計0.01質量部未満
を含んでいる。
【0063】
特に、前記精製されたN−アルキルピロリドンは、N−アルキルピロリドン100質量部に対して、
・不純物III〜XII総計0.1質量部未満、
・水0.03質量部未満、および
・一般式IおよびIIの化合物総計0.0005質量部未満
を含んでいる。
【0064】
前記精製されたN−アルキルピロリドンは、不要物が混入したもとのN−アルキルピロリドン中に含まれる一般式IおよびIIの化合物の総量を、特に5質量%未満、好ましくは1質量%未満、特に好ましくは0.1質量%含んでいる。
【0065】
この得られた、精製されたN−アルキルピロリドンは、その純度が高いため、リチウム蓄電池の電極の製造に再び好適である。
【0066】

本発明を明らかにするために、以下の例を用いる。例に示される不純物の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC機器HP6890、FID検出器、キャリアガス 窒素1.0mL/分(一定流量);分割比1:50;カラムRTX−1、30m、0.32mm、膜1.0μm;温度プログラム80℃で開始、その後140℃まで5℃/分、その後200℃まで5℃/分、および等温10分、その後340℃まで10℃/分および等温8分)により測定されたものである。水当量は、Karl−Fischer滴定法で測定した。NMPならびに相応の不純物は、例に表示の通り使用した。作業工程はすべて、洗浄された装置内で、窒素雰囲気下に行われ、異質化合物が存在しないことを試験開始前にGCにより監視した。
【0067】
比較例1
水0.5%および一般式I〜XIIの不純物0.031%(一般式IおよびIIの不純物0.004%、一般式IIIの不純物0.017%、一般式IV〜VIの不純物0.003%、一般式VII〜IXの不純物0.002%、一般式X〜XIIの不純物0.005%)が混入したNMPに、NaOH0.1%(純粋なNaOHとして算出、30%水溶液として使用)を加えて、タンクコンテナに圧送した。温度15℃で4時間滞留させた後、NMP23.5tの開始量で沈殿物約100kgが沈殿した。それに続く2段蒸留のために、タンク内容物を、上昇管で連続的に500L/hの量で第一バルブトレイ塔(トレイ40段、トレイ21に供給)に供給して、タンクに23.3tが入った後、供給を停止し、その結果、タンクコンテナ内に固形物が残留した。蒸留は、180〜185℃の底部温度、塔頂圧530mbar、および還流対取出比(Ruecklauf− zu Abnahme−Verhaeltnis)が約1:1で行った。塔底物は、第二バルブトレイ塔(トレイ40段、トレイ21に供給)に導入して、165〜170℃の塔底温度、塔頂圧220mbarで蒸留し、生成物を頂部から取り出した。第二バルブトレイ塔の供給流中のナトリウム含有量は、0.0005〜0.001%であり、蒸留物は、さらに、一般式IおよびIIの不純物0.002%と一般式IV〜VIの不純物0.001%とを有しており、一般式IIIの不純物は含んでおらず、蒸留収率は、90%であり、生成物中の含水率は、0.005%であった。
【0068】
比較例2
水1.0%および一般式I〜XIIの不純物0.074%(一般式IおよびIIの不純物0.003%;一般式IIIの不純物0.035%;一般式IV〜VIの不純物0.002%;一般式VII〜IXの不純物0.032%;一般式X〜XIIの不純物0.002%)が混入したNMPに、NaOH0.1%(純粋なNaOHとして算出、30%水溶液として使用)を加えて、容器に圧送した。25℃の温度で6時間の滞留時間内に、NMP30kgの開始量で沈殿物約0.1kgが沈殿した。それに続く蒸留のために、前記容器の内容物を、蒸留装置の蒸留器(Blase)に移して、回分式に分留した。固形物が、前記容器内に残留した。前記蒸留は、返送分配器を有する塔(Sulzer CY Packung、0.63mごとに13セグメント(Schuesse)、0.30mごとに1セグメント)で、塔底温度130〜140℃、および開始1000mbar(易沸分分離)〜頂部圧90mbarの圧力、還流対取出比50:1で実施した。総計30の蒸留留分を取り出した。55〜118℃の頂部温度で得られた最初の5つの留分中は、大部分が水であった(98%超)。100mbarおよび122〜126℃の頂部温度では、後続の留分6〜24(総計約21kg)が得られた。これらは、水0.1%未満、純度99.8%超のNMPを含んでいたが、さらに、すでに装入物中に存在している一般式IおよびIIの不純物0.001%および一般式IV〜VIの不純物0.001%を含んでいた。留分25以降(総計約4kg)は、GC分析では一般式I〜XIIの不所望の不純物を検出することはもうできず、蒸留収率は13%であり、生成物中の含水率は0.005%であった。
【0069】
本発明による例
例1
比較例1の出発混合物に、静的ミキサーによって、滞留時間30秒にて、不要物が混入したNMPの供給速度500リットル(L)/時間(h)および温度15℃で、連続的にNaOH0.1%(純粋なNaOHとして算出、30%水溶液として使用)を加えた。この供給流は、比較例1と異なり、第一バルブトレイ塔に直接導入され(トレイ21に供給)、そこで2分以内に150℃超に加熱した。固形物の形成は、観察されなかった。蒸留は、比較例1と同じく2段階で行った。第二バルブトレイ塔の供給流中のナトリウム含有量は0.05〜0.06%であり、蒸留収率は90%であり、GC分析では生成物中の一般式I〜XIIの不純物は検出することはできず、含水率は0.005%であった。
【0070】
例2
比較例2の出発混合物を、NaOH0.1%(純粋なNaOHとして算出、30%水溶液として使用)と、静的ミキサーによって滞留時間30秒にて混合して、予備ヒーターで10分以内に95℃に加熱し、ここで、固形物の形成は観察されなかった。供給速度5L/分で、前記混合物を蒸留装置の蒸留器に移して、直接回分式に比較例2と同様に分留した(さらに20分以内に130℃に加熱)。総計20の蒸留留分を取り出した。頂部温度55〜118℃で得られた最初の5つの留分中の大部分は水であった(98%超)。100mbaおよび頂部温度122〜126℃では、それに続く留分6〜20(総計約25kg)が得られた。これらは、水0.1%未満、純度99.8%超のNMPを含んでおり、GC分析では一般式I〜XIIの不所望の不純物は検出することはもうできなかった。蒸留収率は83%であり、生成物中の含水率は0.005%であった。
【0071】
例3
比較例2の出発混合物を、カリウムメトキシド(略してKOMe、純粋なKOMeとして算出、25%メタノール溶液として使用)0.15%と、静的ミキサーによって滞留時間30秒にて混合して、圧力安定した予熱器で10分以内に95℃に加熱し、ここで、固形物の形成は観察されなかった。供給速度10L/分で、前記混合物を蒸留装置の蒸留器に移して、直接回分式に、比較例2と同様に分留した(さらに20分以内に130℃に加熱)。総計20の蒸留留分を取りだした。頂部温度55〜118℃で得られた最初の5つの留分中には、主に水(98%超)と少ない割合のメタノールとが存在した。100mbarおよび頂部温度122〜126℃では、後続の留分6〜20(総計約25kg)が得られた。これらは、水0.1%未満、純度99.8%超のNMPを含んでおり、GC分析では一般式I〜XIIの不所望の不純物およびメタノールはもう検出できなかった。
【0072】
例4
比較例1の出発混合物(500ミリリットル)を、鋼製オートクレーブ内でモノメチルアミン1%(純粋なアミンとして算出、40%水溶液として使用)と一緒に、15分以内に100℃に加熱して、その後、さらに6時間にわたって200℃に加熱し、ここで、約20barの圧力が生じた。固形物を含まない反応流出分を、続いて比較例2の条件と同じように実験装置(ビグリューカラムを備える標準蒸留構成)内で蒸留した。約90%の所望の純度のNMPが得られ(モノメチルアミン含有量0.002%未満)、ここで、残りの大部分は、高すぎる含水率(0.1%超)によってのみ不要物が混入していた。