【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様では、薬物送達デバイスの駆動機構が薬剤の用量の投薬のために提供される。この駆動機構は、軸方向に延びる細長いハウジングを含む。通常、ハウジングは、駆動機構または薬物送達デバイス全体を使用者の片手で把持し操作することを可能にして助ける、実質的に管状または円筒形である。
【0012】
駆動機構はさらに、駆動機構によって投薬されるべき薬剤を収容するカートリッジのピストンと動作可能に係合するためのピストンロッドを含む。カートリッジは、ある量の薬剤を軸方向の遠位方向に変位することによってカートリッジから排出するように機能するピストンを含む。前記排出または投薬される量は、駆動機構のピストンロッドのそれぞれの軸方向変位によって決まるピストンの軸方向変位と相互に関連している。
【0013】
通常、ピストンはカートリッジを軸方向の近位方向で封止する。駆動機構のピストンロッドは、カートリッジのピストンを軸方向に変位させるように機能する。したがってピストンロッドは、薬剤のそれぞれの量に対応する、したがって投薬されるべき薬剤の用量に対応する既定の距離だけピストンを遠位方向に変位させるための、遠位向きの推力または圧力をカートリッジのピストンに加えるように動作可能である。
【0014】
加えて、駆動機構は、ハウジングに軸方向に固定される駆動ホイールを含む。駆動ホイールはまた、ピストンロッドと係合され、さらにはピストンロッドを遠位方向に駆動するためにハウジングに対して回転可能である。
【0015】
さらに、駆動機構は、遠位用量投薬位置で駆動ホイールと回転可能に係合するように、また近位用量設定位置で駆動ホイールから係合解除するように、駆動ホイールに対して軸方向に変位可能な駆動スリーブを含む。駆動スリーブは、遠位用量投薬位置と近位用量設定位置の間で、駆動ホイールに対して、したがってハウジングに対して軸方向に変位可能である。
【0016】
用量設定位置にあるとき、駆動スリーブは駆動ホイールから係合解除され、したがって、駆動ホイールとのいかなる相互作用もなしに用量設定の目的のために回転させることができる。その近位用量設定位置では、したがって駆動機構の用量設定モードでは、駆動スリーブは駆動ホイールと無接触である。駆動ホイールと動作可能に係合させるために、したがって回転可能に係合させるために、たとえば駆動スリーブを駆動ホイールに向けて軸
方向の遠位方向に変位させることによって、用量投薬モードの駆動機構を切り替えると、駆動スリーブのそれぞれの用量投薬回転または用量投薬トルクが駆動ホイールへ移り、それによって、ピストンロッドが遠位方向に駆動されて所定の量の薬剤がカートリッジから排出される。
【0017】
駆動スリーブは、ラチェット部材によって近位用量設定位置でハウジングに回転可能に留められる。ラチェット部材によって、駆動スリーブはハウジングに対して離散的および段階的に回転可能になる。通常、駆動スリーブは、保持力または後退力の作用に抗して用量増加方向に回転可能であるのに対し、ラチェット部材は、駆動スリーブをハウジングに対して連続する離散的な段階で留めて固定するように機能する。ラチェット部材は、投薬されるべき薬剤のサイズと合致し得る適切に規定された回転構成で駆動スリーブを留めて保持できるように、保持力または後退力を補償する働きをする。
【0018】
通常、駆動スリーブは、用量設定位置にあるとき、ハウジングだけに、またはハウジングに限って回転可能に留められる。駆動スリーブを遠位方向に遠位用量投薬位置に向けて、またはその位置へと変位させると、ラチェット部材は実質的に効果がなくなり、または抑えられ、それによって、駆動スリーブに作用する保持力または後退力によって誘発または引き起こされるハウジングに対する駆動スリーブの回転が解放される。
【0019】
その結果、用量設定位置にあるとき、駆動スリーブは自由に回転し、さらには駆動ホイールに回転可能に係合されるか、または回転可能にロックされる。したがって、駆動スリーブの回転が駆動ホイールに移され、さらにピストンロッドの遠位向き変位に変わる。このようにして、駆動スリーブは、具体的にはハウジングに対する、および駆動ホイールに対するその軸方向の変位は、クラッチ機構を提供し、このクラッチ機構は、用量投薬目的でピストンロッドを遠位方向に変位させるための駆動ホイールに対する駆動トルクを選択的に誘導するように動作可能である。
【0020】
ラチェット部材は、駆動スリーブがその近位用量設定位置にあるときだけ能動的であるので、駆動機構の用量設定は、駆動ホイールとのいかなる干渉または相互作用もなしに駆動スリーブを回転させることによって行うことができ、この駆動スリーブはその後、駆動ホイールから動作可能に分離および係合解除することができる。トルクを移すようにして駆動スリーブを駆動ホイールと同時または連続的に連結することによる、また駆動スリーブをハウジングから解放することによる、遠位用量投薬位置への駆動スリーブの遠位向き変位の故に、駆動機構を用量設定モードと用量投薬モードの間で切り換えるためのクラッチ機構だけでなく効果的インターロック機能もまた、駆動機構が用量設定モードにあるときに駆動ホイールの回転変位を妨げるのに効果的な、したがってピストンロッドの遠位向き変位を妨げるのに効果的な駆動機構に提供することができる。
【0021】
さらなる実施形態によれば、駆動スリーブは、近位用量設定位置にあるときに、ばね要素の作用に抗して用量増加方向に回転可能である。したがって、駆動スリーブがその近位用量設定位置にあるときに能動的であるラチェット部材は、ハウジングに対する駆動スリーブの用量増加回転を少なくとも可能にする。ラチェット部材は特に、他の場合では引っ張られたばね要素の作用を受けて起こり得る、駆動スリーブの自己起動回転変位を妨げるための単方向インターロックとして機能する。
【0022】
通常、ラチェット部材とハウジングの相互係合は、適切に規定された離散的な回転位置に駆動スリーブを留めて固定するように作用可能であり、この回転位置は通常、薬物送達デバイスによって投薬されるべき薬剤の標準単位に対応する。ラチェット部材と、ハウジングおよび/または駆動スリーブとの相互係合によって支配される刻み幅は、薬物送達デバイスがインスリン注射用に設計される場合には、たとえばインスリンの国際単位IUと相互に関連し得る。
【0023】
ばね要素は通常、駆動スリーブをハウジングに対して回転させることによって緊張させることができる螺旋ばね、またはねじりばねとして実施することができる。駆動スリーブが前記ばね要素の作用に抗してハウジングに対し用量増加方向に回転した後で、駆動スリーブが、ラチェット部材によって前記回転構成でハウジングに対して回転可能に留められると、用量を投薬するための機械的エネルギーは駆動機構内に保存すること、具体的には緊張したばね要素によって保存することができる。
【0024】
解除するとき、駆動スリーブは、それがハウジングから解放されると、前に付勢されたばね要素の作用を受けて反対の用量減少方向に回転することができる。このようにして、ばね要素は機械的エネルギー保存手段として機能し、これによって、半自動または全自動の用量投薬を実施することができる。通常、ばね要素は、駆動スリーブが近位用量設定位置にある用量設定操作時に、緊張および付勢される。駆動スリーブを用量投薬方向に変位させると、そのラチェット部材に支配されたハウジングとの連結が除かれ、駆動スリーブは、それぞれのトルクを駆動ホイールに移すためのばねの作用を受けて、用量減少方向に回転することができる。
【0025】
駆動スリーブと恒久的に連結および係合されたばね要素によって、また選択的に回転可能にハウジングと係合可能な駆動スリーブによって、ばねエネルギーで駆動される投薬手順を行うことができる。言い換えると、用量投薬手順時に遠位方向にピストンロッドを駆動するために、ピストンロッドに移されるべき駆動力は、先行する用量設定手順時にあらかじめ付勢または伸張されたばね要素によって完全に提供することができる。
【0026】
別の実施形態によれば、駆動スリーブは、近位用量設定位置にあるとき、ラチェット部材の作用に抗して用量減少方向に回転可能である。したがって、ラチェット部材による駆動スリーブとハウジングの相互係合は、駆動スリーブが近位用量設定位置にあるときに、付勢されたばね要素の作用を受けたハウジングに対する駆動スリーブの自己起動回転変位をラチェット部材が効果的に妨げるように設計される。しかし、力を駆動スリーブに対し用量減少方向に能動的に加えると、ラチェット部材の留める効果を抑えることができる。したがって、ラチェット部材は、ハウジングに対して駆動ホイールに、トルクまたは力に依存する回転インターロックを提供するように機能する。
【0027】
所定の閾値を超える力またはトルクを用量減少方向に加えると、ラチェット部材の効果および作用を抑えることができる。このようにして、駆動スリーブの用量増加操作だけでなく用量減少操作も、駆動機構が用量設定モードのときに可能になる。選択された用量が大きすぎる場合、駆動スリーブの用量補正回転、したがって用量増加回転がラチェット部材によって実行可能であり、可能になる。
【0028】
別の実施形態によれば、駆動スリーブは、近位用量設定位置にあるときに、ハウジングの第1の鋸歯状輪郭と噛み合うラチェット部材を含む。ハウジングの鋸歯状輪郭は、通常は円環形であり、ハウジングの半径方向内側向き側壁部分の上に延びる。したがって、駆動スリーブのラチェット部材は、ハウジングの第1の鋸歯状輪郭と噛み合うように半径方向に弾性変形可能である。
【0029】
ラチェット部材は通常、第1の鋸歯状輪郭の歯と合致する幾何形状の半径方向外向きに延びる突起を特徴として備える、円弧形掛止要素を含む。通常、ラチェット部材の歯および/または半径方向外向きに延びる突起は、駆動スリーブを用量増加方向および用量減少方向にそれぞれ回転させるときに異なる機械的抵抗をもたらすように、何らかの形で非対称形になっている。
【0030】
通常、第1の鋸歯状輪郭の形状および/またはラチェット部材の突起の形状は、駆動スリーブを用量減少方向に回転させるためのトルクが、駆動スリーブを用量増加方向に回転させるためのトルクよりも大きくなければならないように設計される。このようにして、かなり滑らかで容易な用量設定または用量増加がもたらされるのに対し、用量減少または用量補正では、所定の閾値を超えるかなりのトルクを加えることが必要である。
【0031】
別の実施形態によれば、駆動スリーブは、ハウジングによって軸方向に支持された保持ばね要素の作用に抗して、遠位方向に変位可能である。保持ばね要素によって、駆動スリーブは、初期設定でその近位用量設定位置に保持される。用量の投薬のために、駆動スリーブは、前記保持ばね要素の作用に抗して遠位方向に能動的に変位させなければならない。
【0032】
通常では、また用量投薬のために、駆動スリーブは、用量投薬処置の全体を通じて遠位用量投薬位置に能動的に保持されなければならない。これにはたとえば、用量投薬の持続期間中、薬物送達デバイスの使用者がそれぞれの用量投薬部材を常に押し下げていることが必要になり得る。たとえば用量投薬部材の早すぎる解除、または早めの解除はすぐに、保持ばね要素の作用を受けた駆動スリーブの近位向け変位を招き得る。
【0033】
その場合、駆動スリーブは直ちに、駆動ホイールからデカップリングまたは係合解除される。その結果、ピストンロッドの遠位向け変位はすぐに止まることになり、駆動ホイールは、ラチェット部材によって繰り返し回転可能にハウジングと係合することができる。このようにして、用量設定手順時にばね要素にあらかじめ保存された機械エネルギーはなくならない。
【0034】
さらに、駆動スリーブを遠位用量投薬位置に保つには、用量投薬部材の少なくとも押下げを常にしておく必要があるので、使用者は、非常に直感的かつ簡単に、ただ単にそれぞれの用量投薬部材を解除することによって投薬手順を終わらせる、または中断することができる。
【0035】
保持ばね要素は、駆動スリーブとハウジングのそれぞれの支持体との間で軸方向に変位させることができる。さらに、保持ばね要素は、駆動スリーブまたはハウジングと一体化して形成することもできる。通常、保持ばね要素は螺旋形であり、用量投薬手順時に軸方向に圧縮することができる。保持ばね要素は、駆動スリーブの遠位端に位置することができると共に、ハウジングの半径方向内向きに延びるフランジまたはリムの近位面と軸方向に当接することができる。あるいは、保持ばね要素は、ハウジングと一体化して形成され、駆動スリーブの遠位当接面と軸方向に当接する。この遠位当接面は、必ずしも駆動スリーブの遠位端に位置しなくてよく、どこか別の場所に、たとえば駆動スリーブの中間部または近位端に位置してもよい。
【0036】
別の実施形態によれば、駆動機構はさらに、ハウジングの近位端に置かれた用量投薬部材を含む。この用量投薬部材は、動作可能に駆動スリーブと係合されており、駆動スリーブを遠位用量投薬位置へ変位させるために、ハウジングに対して遠位に押し下げ可能である。ここで、用量投薬部材は、用量投薬処置を起動させるための始動手段として機能する。これは具体的には、遠位に押し下げ可能な用量投薬部材であり、これによって駆動スリーブは、通常では保持ばね要素の作用に抗して、遠位方向および遠位用量投薬方向に変位可能になる。したがって、用量投薬部材、駆動スリーブ、ラチェット部材およびハウジングはインターロック−解除機構を提供し、これによって使用者は、用量投薬手順を起動および制御することができる。
【0037】
動作可能に駆動スリーブと係合された用量投薬部材がハウジングの近位端に置かれているので、用量投薬部材を遠位向けに押し下げることは、使用者の親指によって制御および誘導することができる。
【0038】
別の実施形態によれば、駆動スリーブは、対応する駆動ホイールのクラウンホイールと係合するように、その遠位端にクラウンホイールを含む。駆動スリーブおよび駆動ホイールのそれぞれのクラウンホイールは、駆動ホイールに対し駆動スリーブを軸方向に変位させることを可能にし、助ける。駆動スリーブおよび/または駆動ホイールのクラウンホイールの歯の軸方向伸張は、駆動ホイールがその近位用量設定位置からその遠位用量投薬位置へと遠位向きに変位する間に、駆動スリーブが対応するクラウンホイールによって駆動ホイールと回転可能に連結および係合されてから、ラチェット部材が駆動ホイールの回転をハウジングに対して解放または解除するように、選択される。このようにして、螺旋ばね要素またはねじりばね要素によって保存された機械エネルギーの消散を効果的に防止する、むしろ無すべりのクラッチ機構を提供することができる。
【0039】
別の実施形態によれば、駆動ホイールは、インターロック部材によって用量増加方向に対し回転可能にハウジングにロックされる。インターロック部材は、ハウジングの第2の鋸歯状輪郭と係合される。通常、ハウジングの第1と第2の鋸歯状輪郭は、軸方向に分離されるか、または軸方向にオフセットされる。駆動スリーブは、その遠位端で駆動ホイールと係合可能であるので、駆動ホイールのインターロック部材と協働し噛み合う第2の鋸歯状輪郭は、第1の鋸歯状輪郭から遠位方向に軸方向に分離される。
【0040】
インターロック部材は通常、半径方向外向きに延びる自由端の突起を特徴とする、半径方向に弾性変形可能なラチェットまたはラチェット部材を含む。たとえば用量投薬手順時に、用量減少方向に回転するとインターロック部材は、第2の鋸歯状輪郭と段階的および離散的に噛み合う。具体的には、インターロック部材の半径方向外向きに延びる突起は、円周方向に、具体的にはハウジングの内側向き側壁部分に、隣り合って配置されている第2の鋸歯状輪郭の各歯と連続して係合し噛み合う。
【0041】
駆動スリーブのラチェット部材と、第1の鋸歯状輪郭との相互係合とは対照的に、駆動ホイールのインターロック部材は、駆動ホイールの用量増加方向の回転を厳格に阻止するように適用される。このようにして、ピストンロッドの後向きの動き、したがって近位向き変位は、効果的に防止することができる。加えて、駆動ホイールのインターロック部材と、ハウジングの第2の鋸歯状輪郭との係合はまた、用量投薬手順時に使用者に可聴フィードバックを提供する。弾性変形可能なインターロック部材の半径方向外向きに延びる突起が、第2の鋸歯状輪郭の連続した隣接する歯と繰り返して噛み合い、係合するとき、かなり規則的なクリック音を発生させて、用量投薬手順が現に進行中であることを使用者に可聴的に示すことができる。このようにして、インターロック部材は、一種の投薬クリック音発生器として機能する。
【0042】
実際上、駆動ホイール、および駆動ホイールと、ハウジングとの係合は、用量投薬時にピストンロッドを遠位方向に限って変位させるための一方向クラッチを提供する。駆動スリーブが駆動ホイールからデカップリングされる用量設定時に、駆動ホイールは、ハウジングに対してピストンロッドを軸方向に固定するように機能する。
【0043】
別の実施形態によれば、駆動ホイールはねじ付オリフィスを、したがって、中心に置かれた貫通口を含み、この貫通口はピストンロッドの外側ねじ付部分とねじ係合される。このねじ係合によって、ピストンロッドが回転可能にハウジングに留められていることを考えると、駆動ホイールの用量減少回転がピストンロッドの遠位向き変位に変わる。駆動ホイールとピストンロッドのねじ係合のリードにより、さらに伝達率が決まる。
【0044】
通常、ねじ付オリフィスのリード、および対応するピストンロッドのねじ付部分のリードは、自己ロック型である。したがって、遠位向きまたは近位向きの力をピストンロッドに加えることが駆動ホイールの回転に変わることはない。駆動ホイールはハウジングに軸方向に固定されているので、半径方向に広がる圧力足を遠位端に通常含むピストンロッドは、用量注射手順が完了または終了した後に、カートリッジのピストンと軸方向に当接したままである。
【0045】
さらに、駆動機構の遠位端でのその配置により、駆動ホイールは、ピストンロッドならびにピストンロッドの軸方向インターロックのための、かなり直接的で隣接した半径方向誘導部を提供する。したがって、ピストンロッド、駆動ホイールおよびハウジングの間の機械的遊びまたはバックラッシュの悪影響が最小限に低減され、それによって用量設定精度ならびに用量投薬精度が向上し得る。
【0046】
別の実施形態によれば、ピストンロッドは、ハウジングの案内部分の半径方向突起と係合した、軸方向に延びる半径方向溝を含む。このようにして、ピストンロッドは、回転可能にハウジングにロックすることができる。ハウジングの半径方向突起はピストンロッドの軸方向に延びる溝または切込みと係合するので、ピストンロッドは、ハウジングに対して回転しないように軸方向にもっぱら摺動自在に変位可能である。ピストンロッドと、軸方向に固定された駆動ホイールとのねじ係合により、ピストンロッドは、駆動ホイールが用量減少方向に回転すると、ハウジングに対して遠位向きの変位をする。
【0047】
代替実施形態では、ピストンロッドがその外側ねじ付部分によってハウジングの案内部分とねじ係合されることが考えられ、ここでピストンロッドは、駆動ホイールと回転可能に係合可能である。両方の場合で、ピストンロッドは、長手方向または軸方向に延びる少なくとも1つの溝が横切るねじ付部分を含む。代替実施形態では、前記溝は、駆動ホイールの、対応した形の半径方向内向きに延びる突起またはピンと係合される。
【0048】
このようにして、駆動ホイールの回転がピストンロッドの回転に同等に移る。ピストンロッドと、ハウジングの案内部分とのねじ係合により、次に、ピストンロッドの回転がすぐに、ハウジングに対するピストンロッドの遠位向き変位を招く。しかし、回転するピストンロッドによって、カートリッジのピストンの近位端面と軸方向に係合している半径方向に広がった圧力足は、ピストンロッドの遠位端で自由に回転可能に支持されるはずである。
【0049】
別の実施形態では、駆動スリーブは、駆動トルクを駆動ホイールに移すために遠位用量投薬位置にあるとき、ばね要素の作用を受けて用量減少方向に回転可能である。駆動スリーブを遠位方向に変位させることによって、そのラチェット部材はハウジングの第1の鋸歯状輪郭から係合解除し、したがって駆動スリーブは解放されて、螺旋形ねじりばねの作用を受けて回転する。ねじりばねは通常、駆動スリーブのまわりに配置され、やはり軸方向に延びる。
【0050】
ねじりばねの一端は通常、駆動スリーブと連結され、ねじりばねの他端はハウジングに、またはハウジングに固定して取り付けられたベース部材に、連結される。駆動スリーブは、その遠位用量投薬位置に達したときにハウジングから係合解除されるので、ばね要素の作用に従って自由に回転する。駆動スリーブはさらに、駆動ホイールと回転可能に連結または回転可能に係合されるので、駆動スリーブのトルクおよび回転運動を変更不能に駆動ホイールに移し、それによって、ピストンロッドを遠位方向に駆動し、カートリッジのピストンをさらにカートリッジの中に強制的に入れて、所定の量の薬剤をカートリッジから排出することができる。
【0051】
したがって、駆動スリーブは、用量の設定または投薬のために、ハウジングまたは駆動ホイールと交互に係合可能である。通常、駆動スリーブとハウジングの係合解除は、スリーブと駆動ホイールの係合が確立された後に行われるだけであり、逆も同様である。
【0052】
さらなる実施形態では、駆動機構はまた、少なくとも用量増加方向に回転可能にハウジング上に支持された用量設定部材を含む。このようにして、用量設定部材は、用量設定位置にあるときに用量増加トルクを駆動スリーブに移すように動作可能である。
【0053】
加えて、用量設定部材はまた、すでに設定された用量を減らすために反対方向に、したがって用量減少方向に、回転可能とすることもできる。用量設定部材の回転を用量増加方向と用量減少方向の両方で可能にすることによって、用量設定ならびに用量訂正を単独の用量設定部材によって非常に直感的に行うことができる。用量設定および用量訂正が駆動機構の用量設定モードで行われるので、用量設定も用量訂正もピストンロッドの軸方向位置に影響を及ぼさない。
【0054】
用量設定部材は通常、駆動機構が用量設定モードにあるときにだけ、駆動スリーブと選択的に連結される。その場合、用量設定部材の回転変位があれば、駆動スリーブのそれぞれの回転に変えることができる。通常、ハウジングと駆動スリーブのラチェット部材との間の相互係合は、異なる大きさの用量増加トルクおよび用量減少トルクを実現するために、ある程度非対称になっている。このようにして、用量を設定する、すなわち用量を増加するには、駆動スリーブしたがって用量設定部材を反対に、したがって用量減少方向に回転させて、たとえばあらかじめ設定された用量を訂正するための、反対向きの駆動トルクよりも小さい駆動トルクを用量設定部材に加える必要があり得る。
【0055】
さらなる実施形態によれば、駆動スリーブが用量投薬位置にあるときに、用量設定部材は回転可能にハウジングにロックされ、駆動スリーブから回転可能にデカップリングされる。用量投薬時に用量設定部材と駆動スリーブをデカップリングすることによって、駆動スリーブは、用量設定部材とのいかなる相互作用もなしに用量減少方向に回転することができる。さらに、用量設定部材をハウジングに回転可能にロックすることによって、用量増加タイプまたは用量減少タイプの用量設定部材のいかなる操作も効果的に阻止される。これは、カートリッジ内に残っている薬剤の量を越える用量の設定を妨げるように動作可能である内容物終了機構を提供するための特別な使用法である。
【0056】
別の態様では、本発明はまた、薬剤の用量を投薬するための薬物送達デバイスに関する。薬物送達デバイスは、上述の駆動機構と、薬物送達によって投薬されるべき薬剤で少なくとも部分的に満たされたカートリッジとを含む。カートリッジは、駆動機構のハウジング内に配置されるか、または、たとえば使い捨て薬物送達デバイスの場合には、解除可能または解除不能にハウジングに固定されている薬物送達デバイスのカートリッジホルダ内に配置される。したがって、薬物送達デバイスは、薬剤で満たされたカートリッジを受けるため、および収容するためのカートリッジホルダを含む。
【0057】
本明細書では、遠位方向は投薬およびデバイスの方向を示し、デバイスには、薬剤の送達のために生物組織または患者の皮膚に挿入される両頭注射針を有するニードルアセンブリが好ましくは設けられる。
【0058】
近位端または近位方向は、投薬端から最も遠い、デバイスまたはその構成要素の端部を示す。駆動部材は通常、薬物送達デバイスの近位端に位置し、回転させて用量を設定するように使用者が直接操作可能であり、また遠位方向に押し下げて用量を投薬するように動作可能である。
【0059】
駆動機構は特に、薬剤の用量を投薬する目的のためにピストンロッドを軸方向に変位させるように機能する。加えて、駆動機構は通常、以下の機構の一部を形成する、またこれらの機構のうちの少なくとも1つとして機能を有する、構成要素:すなわち、用量設定機構、最終用量制限機構および用量標示機構を含む。本明細書に記載の実施形態から明らかになるように、たとえば駆動機構の様々な構成要素はまた、用量設定機構、最終用量制限機構および/または用量標示機構のうちの少なくとも1つに属し、逆も同様である。したがって、本明細書に記載の本発明では、駆動機構、用量設定機構、最終用量制限機構および/または用量標示機構について同様に言及し、定義する。
【0060】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、および/または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモンもしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病関連の合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチの処置および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に関連する合併症の処置および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体を含む。
【0061】
インスリン類似体は、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28−B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0062】
インスリン誘導体は、たとえば、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−ミリストイルヒトインスリン;B29−N−パルミトイルヒトインスリン;B28−N−ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン;B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリン、およびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0063】
エキセンジン−4は、たとえば、H−His−Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Lys−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−NH2配列のペプチドであるエキセンジン−4(1−39)を意味する。
【0064】
エキセンジン−4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H−(Lys)4−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)5−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39);または
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
(ここで、基−Lys6−NH2が、エキセンジン−4誘導体のC−末端に結合していてもよい);
【0065】
または、以下の配列のエキセンジン−4誘導体:
desPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2(AVE0010)、
H−(Lys)6−desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desMet(O)14,Asp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2;
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Lys6−desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28,Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(S1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン−4誘導体の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和化合物
から選択される。
【0066】
ホルモンは、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストである。
【0067】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。
【0068】
抗体は、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり、分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0069】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2つの同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」字型の分子である。それぞれの重鎖は約440アミノ酸長であり、それぞれの軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含む。それぞれの鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは約70〜110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリン折り畳み構造を有する。
【0070】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0071】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(C
H)と可変領域(V
H)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリン・ドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0072】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を有し、哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0073】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)に3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0074】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH−H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0075】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩としては、たとえば、HClまたはHBr塩がある。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1〜R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1〜C6アルキル基、場合により置換されたC2〜C6アルケニル基、場合により置換されたC6〜C10アリール基、または場合により置換されたC6〜C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0076】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0077】
さらに、当業者には、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく様々な修正および変形を本発明に加えることができることが明らかであろう。さらに、添付の特許請求の範囲において使用されるいかなる参照数字も、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでないことに留意されたい。
【0078】
以下では、図面の簡単な説明が提供される。