特許第6366936号(P6366936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許6366936接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用
<>
  • 特許6366936-接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用 図000026
  • 特許6366936-接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用 図000027
  • 特許6366936-接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用 図000028
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366936
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20180723BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20180723BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20180723BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20180723BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20180723BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20180723BHJP
   C09J 171/12 20060101ALI20180723BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20180723BHJP
   H05K 1/14 20060101ALI20180723BHJP
   H05K 3/36 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C09J175/06
   C09J4/00
   C09J7/00
   C09J9/02
   C09J11/00
   C09J11/08
   C09J171/12
   H01B1/20 D
   H05K1/14 J
   H05K3/36 A
【請求項の数】4
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-534742(P2013-534742)
(86)(22)【出願日】2012年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2012074051
(87)【国際公開番号】WO2013042724
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2015年7月24日
【審判番号】不服2016-14973(P2016-14973/J1)
【審判請求日】2016年10月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/071388
(32)【優先日】2011年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 弘行
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤木 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】横田 弘
(72)【発明者】
【氏名】山村 泰三
【合議体】
【審判長】 國島 明弘
【審判官】 原 賢一
【審判官】 天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−64331(JP,A)
【文献】 特開2009−277682(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/023670(WO,A1)
【文献】 特開2009−108158(JP,A)
【文献】 特開2009−170898(JP,A)
【文献】 特開2003−64331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J4/00-201/10
H01B1/00-1/24
H05K1/00-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、
第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材との間に、接着剤組成物を介在させ硬化させることにより、前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とが電気的に接続するように前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とを接着する、回路部材の接続方法であって、
前記第一の回路基板及び前記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板であり、
前記接着剤組成物が、熱可塑性樹脂と、ラジカル重合性化合物と、コア層と前記コア層を被覆するように設けられたシェル層とを有するコアシェル型シリコーン微粒子と、ラジカル重合開始剤と、前記接着剤組成物全体積に対して0.1体積%以上30体積%以下の導電粒子と、を含有するものであり、
前記熱可塑性樹脂がポリエステルウレタン樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ラジカル重合性化合物がウレタン(メタ)アクリレート及びリン酸基を有するビニル化合物を含み、
前記シリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度が−130℃以上−20℃以下であり、
前記シリコーン微粒子のコア層の重量平均分子量が150万以下であり、
前記シリコーン微粒子のシェル層のガラス転移温度及び弾性率が前記コア層のガラス転移温度及び弾性率よりも高く、
前記シリコーン微粒子のシェル層が架橋構造を有するものであり、
前記シリコーン微粒子の平均粒径が0.05μm以上25μm以下であり、
前記シリコーン微粒子の含有量が、前記導電粒子を除く前記接着剤組成物の質量を基準として、1質量%以上50質量%以下であり、
加熱温度100℃以上200℃以下で前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とを接着する、回路部材の接続方法。
【請求項2】
着剤組成物の使用であって、
第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、
前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、
前記第一の回路基板及び前記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板であり、
前記接着剤組成物が、熱可塑性樹脂と、ラジカル重合性化合物と、コア層と前記コア層を被覆するように設けられたシェル層とを有するコアシェル型シリコーン微粒子と、ラジカル重合開始剤と、前記接着剤組成物全体積に対して0.1体積%以上30体積%以下の導電粒子と、を含有するものであり、
前記熱可塑性樹脂がポリエステルウレタン樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ラジカル重合性化合物がウレタン(メタ)アクリレート及びリン酸基を有するビニル化合物を含み、
前記シリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度が−130℃以上−20℃以下であり、
前記シリコーン微粒子のコア層の重量平均分子量が150万以下であり、
前記シリコーン微粒子のシェル層のガラス転移温度及び弾性率が前記コア層のガラス転移温度及び弾性率よりも高く、
前記シリコーン微粒子のシェル層が架橋構造を有するものであり、
前記シリコーン微粒子の平均粒径が0.05μm以上25μm以下であり、
前記シリコーン微粒子の含有量が、前記導電粒子を除く前記接着剤組成物の質量を基準として、1質量%以上50質量%以下であり、
加熱温度100℃以上200℃以下で前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とを接着する、前記接着剤組成物の使用。
【請求項3】
着剤組成物をフィルム状に成形することにより得られる、フィルム状接着剤の使用であって、
第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、
前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、
前記第一の回路基板及び前記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板であり、
前記接着剤組成物が、熱可塑性樹脂と、ラジカル重合性化合物と、コア層と前記コア層を被覆するように設けられたシェル層とを有するコアシェル型シリコーン微粒子と、ラジカル重合開始剤と、前記接着剤組成物全体積に対して0.1体積%以上30体積%以下の導電粒子と、を含有するものであり、
前記熱可塑性樹脂がポリエステルウレタン樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ラジカル重合性化合物がウレタン(メタ)アクリレート及びリン酸基を有するビニル化合物を含み、
前記シリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度が−130℃以上−20℃以下であり、
前記シリコーン微粒子のコア層の重量平均分子量が150万以下であり、
前記シリコーン微粒子のシェル層のガラス転移温度及び弾性率が前記コア層のガラス転移温度及び弾性率よりも高く、
前記シリコーン微粒子のシェル層が架橋構造を有するものであり、
前記シリコーン微粒子の平均粒径が0.05μm以上25μm以下であり、
前記シリコーン微粒子の含有量が、前記導電粒子を除く前記接着剤組成物の質量を基準として、1質量%以上50質量%以下であり、
加熱温度100℃以上200℃以下で前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とを接着する、前記フィルム状接着剤の使用。
【請求項4】
基材と、該基材上に形成された、接着剤組成物をフィルム状に成形することにより得られるフィルム状接着剤からなる接着剤層と、を備える、接着シートの使用であって、
第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、
前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、
前記第一の回路基板及び前記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板であり、
前記接着剤組成物が、熱可塑性樹脂と、ラジカル重合性化合物と、コア層と前記コア層を被覆するように設けられたシェル層とを有するコアシェル型シリコーン微粒子と、ラジカル重合開始剤と、前記接着剤組成物全体積に対して0.1体積%以上30体積%以下の導電粒子と、を含有するものであり、
前記熱可塑性樹脂がポリエステルウレタン樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ラジカル重合性化合物がウレタン(メタ)アクリレート及びリン酸基を有するビニル化合物を含み、
前記シリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度が−130℃以上−20℃以下であり、
前記シリコーン微粒子のコア層の重量平均分子量が150万以下であり、
前記シリコーン微粒子のシェル層のガラス転移温度及び弾性率が前記コア層のガラス転移温度及び弾性率よりも高く、
前記シリコーン微粒子のシェル層が架橋構造を有するものであり、
前記シリコーン微粒子の平均粒径が0.05μm以上25μm以下であり、
前記シリコーン微粒子の含有量が、前記導電粒子を除く前記接着剤組成物の質量を基準として、1質量%以上50質量%以下であり、
加熱温度100℃以上200℃以下で前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とを接着する、前記接着シートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、フィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶表示素子において、素子中の種々の部材を結合させる目的で、従来から種々の接着剤組成物が使用されている。上記接着剤組成物は、例えば、液晶表示素子とTCP(Tape Carrier Package)又はCOF(Chip On Film)との接続、TCP又はCOFとプリント配線板との接続、FPC(Flexible Printed Circuit)とプリント配線板との接続や、半導体素子の基板への実装等に使用されている。
【0003】
従来、半導体素子や液晶表示素子用の接着剤組成物としては、高接着性及び高信頼性を示すエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂が用いられている(例えば、特許文献1参照)。上記熱硬化性樹脂の構成成分としては、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂に対する反応性を有するフェノール樹脂等の硬化剤、及びエポキシ樹脂と硬化剤の反応を促進する熱潜在性触媒が一般に用いられる。熱潜在性触媒は、室温等の貯蔵温度では反応せず、加熱した際に高い反応性を示す物質である。また硬化温度及び硬化速度を決定する重要な因子となっており、接着剤組成物の室温での貯蔵安定性と加熱時の硬化速度の観点から種々の化合物が用いられている。実際の工程では、170℃〜250℃の温度で1〜3時間硬化させる硬化条件により、所望の接着性を得ている。
【0004】
一方、最近の半導体素子の高集積化、液晶表示の高精細化に伴い、素子間及び配線間ピッチが狭小化し、硬化時の加熱が周辺部材に悪影響を及ぼす傾向が出てきたため、低温で接着剤組成物を硬化させることが要求されている。また、低コスト化のためにはスループットを向上させる必要があるため、短時間で接着剤組成物を硬化させることも要求されている。
【0005】
しかし、従来のエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂において、低温且つ短時間での硬化(低温速硬化性)を達成するためには、活性化エネルギーの低い熱潜在性触媒を使用する必要があり、その場合、接着剤組成物の室温での貯蔵安定性が低下する問題がある。
【0006】
代わりに、低温速硬化性を有する接着剤組成物として、(メタ)アクリレート誘導体等のラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤である過酸化物とを併用したラジカル硬化型接着剤組成物が注目されている(例えば、特許文献2参照)。ラジカル硬化によれば、反応活性種であるラジカルが反応性に富むため、低温且つ短時間での硬化が可能である。
【0007】
しかし、ラジカル硬化を用いた接着剤組成物は、硬化時の硬化収縮が大きいため、エポキシ樹脂を用いた場合と比較して接着強度に劣り、特に無機材質や金属材質の基材に対する接着強度が低下する傾向がある。
【0008】
また、ガラス基板等を用いた半導体素子や液晶表示素子又はFR4基材等を用いたプリント基板と、ポリイミドやポリエステルなどの高分子フィルムを基材とするフレキシブル配線板(FPC)とを接続する場合、熱膨張率差に基づく内部応力が大きくなり、接着剤組成物の剥離や接続信頼性の低下が生じることが問題となっている。
【0009】
接着強度の改善方法としては、シランカップリング剤に代表される接着助剤を使用する方法(例えば、特許文献3参照)、エーテル結合によって硬化物の可とう性を付与し接着強度を改善する方法(例えば、特許文献4参照)、接着剤組成物中にゴム系の弾性材料からなる応力吸収粒子を分散させることにより接着強度を改善する方法(特許文献5、6、7等参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−113480号公報
【特許文献2】国際公開第98/044067号パンフレット
【特許文献3】特許第3344886号
【特許文献4】特許第3503740号公報
【特許文献5】特許第3477367号公報
【特許文献6】国際公開第09/020005号パンフレット
【特許文献7】国際公開第09/051067号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
昨今、タッチパネル、電子ペーパー等の薄型化、軽量化、フレキシブル化等を目的として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を含む回路部材の適用が検討されている。しかしながら、PET、PC、PEN、COP等の耐熱性の低い有機基材を用いる場合には、硬化時の加熱が有機基材及び周辺部材に悪影響を及ぼす傾向が高まるため、より低温で接着剤組成物を硬化させることが要求される。また、PET、PC、PEN、COP等の表面は平滑であるため、物理的な投錨効果(アンカー効果)による接着効果が小さい。
【0012】
そこで、低温硬化性を有するラジカル硬化型の接着剤組成物において、接着強度を改善することが望まれるが、熱可塑性樹脂であるPET、PC、PEN、COP等の有機基材は、ベンゼン環等による分子間相互作用によって結晶部分を形成しやすいため、シランカップリング剤と共有結合を形成することは困難である。したがって、これらの有機基材を用いる場合には、特許文献3に記載の方法では充分な接着強度改善効果が得られない。
【0013】
また、PET、PC、PEN、COP等の有機基材は、ガラス基板より熱膨張係数が大きく、表面エネルギーも異なる。そのため、被着体に対する濡れ性向上や内部応力低減のために、接着剤組成物に充分な可とう性を付与する必要があるが、特許文献4に記載の方法では、充分な可とう性を付与することはできず、更なる接着強度の向上が望まれる。
【0014】
特許文献5に記載の方法によっても、応力吸収粒子のガラス転移温度が80℃〜120℃と高いため、充分な応力緩和効果が得られず、高温高湿試験後の接着強度や接続抵抗などの性能が充分に得られない問題がある。特許文献6に記載の応力吸収粒子を分散させる方法によっても、PET、PC、PEN、COP等の有機基材に対する充分な接着強度向上効果は得られない。また、特許文献5、6及び7に記載の方法では、エポキシ樹脂を接着剤組成物の硬化成分として使用しているため、充分な接着力を得るためには比較的高温での加熱が求められ、耐熱性の低いPET、PC、PEN、COP等の有機基材への悪影響が懸念される。
【0015】
そこで、本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の耐熱性の低い有機基材に対して、低温で硬化させた場合でも、優れた接着強度を得ることができ、長時間の信頼性試験(高温高湿試験)後においても安定した性能(接着強度や接続抵抗)を維持することができる接着剤組成物並びにそれを用いたフィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着剤組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、耐熱性の低い熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の有機基材と、半導体素子や液晶表示素子との接続において接着強度が低いのは、内部応力の緩和が不充分であることが原因であることを見出した。これらを解決するために更に検討した結果、特定の構造を有するシリコーン微粒子を用いることで優れた接着強度を得ることができ、長時間の信頼性試験(高温高湿試験)後においても安定した性能(接着強度や接続抵抗)を維持することができることを見出し、本発明の完成に至った
【0017】
すなわち、本発明は、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、第一の回路電極と第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するための接着剤組成物であって、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板であり、コア層と該コア層を被覆するように設けられたシェル層とを有するコアシェル型シリコーン微粒子を含有する、接着剤組成物を提供する。
【0018】
上記接着剤組成物は、上記特定の構造を有するシリコーン微粒子を含有することで、シリコーン微粒子間相互作用が緩和され、構造粘性(非ニュートン粘性)が低くなるため、シリコーン微粒子の樹脂中への分散性が向上し、効果的に内部応力を充分に緩和することができると考えられる。これにより、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基材(例えばPET、PC、PEN、COP等)に対する接着強度を向上させ、回路部材間の接着強度を向上させることができる。また、長時間の信頼性試験後にも安定した性能(接着強度や接続抵抗)を維持することができる。
【0019】
本明細書において、「ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板」とは、熱可塑性樹脂としてポリマーハンドブック(高分子学会編:高分子データハンドブック、基礎編、p.525、培風館(1986))等に記載されるガラス転移温度が200℃以下の値で示される熱可塑性樹脂を含む基板である。ここで、熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する樹脂であり、通常は架橋構造を有さないものであるが、熱可塑性を有していれば若干の架橋構造を有するものも含むものとする。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は後述する測定方法によって求めることができる。
【0020】
本発明はまた、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するための接着剤組成物であって、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板であり、コア層と該コア層を被覆するように設けられたシェル層とを有するコアシェル型シリコーン微粒子を含有する、接着剤組成物を提供する。
【0021】
上記接着剤組成物は、上記特定の構造を有するシリコーン微粒子を含有することで、シリコーン微粒子間相互作用が緩和され、構造粘性(非ニュートン粘性)が低くなるため、シリコーン微粒子の樹脂中への分散性が向上し、効果的に内部応力を充分に緩和することができると考えられる。これにより、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基材に対する接着強度を向上させ、回路部材間の接着強度を向上させることができる。また、長時間の信頼性試験後にも安定した性能(接着強度や接続抵抗)を維持することができる。
【0022】
上記シリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度は、−130℃以上−20℃以下であることが好ましく、−125℃以上−40℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは、−120℃以上−50℃以下である。これにより、内部応力を充分に緩和することができるため、回路部材間の接着強度を向上させることができる。また、長時間の信頼性試験後にも安定した性能を維持することができる。上記ガラス転移温度が−20℃より高い場合、内部応力を充分に緩和できないため充分な接着強度向上効果が得られない傾向があり、−130℃より低い場合、充分な凝集力が得られないため接着強度が低下する傾向がある。
【0023】
本発明に係る接着剤組成物は、ラジカル重合性化合物を更に含有することが好ましい。これにより、より低温硬化での接着が可能となる。
【0024】
上記接着剤組成物は、導電粒子を更に含有することが好ましい。導電粒子を含有することにより、接着剤組成物に良好な導電性又は異方導電性が付与されるため、回路電極(接続端子)を有する回路部材同士の接着用途等に、より好適に用いられる。また、導電粒子を含有する接着剤組成物を介して回路部材間を電気的に接続することにより、接続抵抗をより低減することができる。
【0025】
本発明は、上記接着剤組成物をフィルム状に成形することにより得られる、フィルム状接着剤を提供する。また、本発明は、基材と、該基材上に形成された上記フィルム状接着剤からなる接着剤層と、を備える接着シートを提供する。
【0026】
本発明は、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材と、上記第一の回路部材の上記第一の回路電極が形成された面と上記第二の回路部材の上記第二の回路電極が形成された面との間に介在し、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とを電気的に接続する接続部と、を備える回路接続体であって、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板であり、上記接続部が、上記本発明に係る接着剤組成物の硬化物からなる、回路接続体を提供する。
【0027】
本発明に係る回路接続体においては、接続部が本発明に係る接着剤組成物の硬化物からなることにより、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板を用いた場合でも、優れた接着強度及び長期信頼性試験後の安定した性能(接着強度や接続抵抗)を得ることができる。
【0028】
上記熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、回路基板と接着剤組成物との濡れ性が向上して接着強度がより向上し、優れた接続信頼性を得ることができる。
【0029】
さらに、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板のうち、一方の回路基板が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、もう一方の回路基板が、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、回路基板と接着剤組成物との濡れ性及び接着強度がより向上し、優れた接続信頼性を得ることができる。
【0030】
本発明はまた、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材と、上記第一の回路部材の上記第一の回路電極が形成された面と上記第二の回路部材の上記第二の回路電極が形成された面との間に介在し、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とを電気的に接続する接続部と、を備える回路接続体であって、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板、上記接続部が、上記本発明に係る接着剤組成物の硬化物からなる、回路接続体を提供する。
【0031】
上記回路接続体においては、接続部が本発明に係る接着剤組成物の硬化物からなることにより、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板を用いた場合でも、優れた接着強度及び長期信頼性試験後の安定した性能(接着強度や接続抵抗)を得ることができる。
【0032】
上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板のうち、一方の回路基板が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、もう一方の回路基板が、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、回路基板と接着剤組成物との濡れ性及び接着強度がより向上し、優れた接続信頼性を得ることができる。
【0033】
本発明は、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材との間に、本発明に係る接着剤組成物を介在させ硬化させることにより、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように上記第一の回路部材と上記第二の回路部材とを接着する、回路部材の接続方法であって、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板である、回路部材の接続方法を提供する。
【0034】
本発明に係る回路部材の接続方法によれば、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板に適した低温硬化を行った場合にも、充分な接着強度及び長期信頼性試験後の安定した性能(接着強度や接続抵抗)を有する回路接続体が得られる。
【0035】
本発明はまた、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材との間に、本発明に係る接着剤組成物を介在させ硬化させることにより、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように上記第一の回路部材と上記第二の回路部材とを接着する、回路部材の接続方法であって、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板である、回路部材の接続方法を提供する。
【0036】
上記の回路部材の接続方法によれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板に適した低温硬化を行った場合にも、充分な接着強度及び長期信頼性試験後の安定した性能(接着強度や接続抵抗)を有する回路接続体が得られる。
【0037】
本発明は、上記本発明の接着剤組成物の使用であって、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板である、上記接着剤組成物の使用を提供する。
【0038】
本発明はまた、上記本発明の接着剤組成物の使用であって、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板である、上記接着剤組成物の使用を提供する。
【0039】
本発明は、上記本発明のフィルム状接着剤の使用であって、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板である、上記フィルム状接着剤の使用を提供する。
【0040】
本発明はまた、上記本発明のフィルム状接着剤の使用であって、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板である、上記フィルム状接着剤の使用を提供する。
【0041】
本発明は、上記本発明の接着シートの使用であって、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む基板である、上記接着シートの使用を提供する。
【0042】
本発明はまた、上記本発明の接着シートの使用であって、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが電気的に接続するように接着するために用いられ、上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板の少なくとも一方が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む基板である、上記接着シートの使用を提供する。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の耐熱性の低い有機基材に対して、低温で硬化させた場合でも、優れた接着強度を得ることができ、長時間の信頼性試験(高温高湿試験)後においても安定した性能(接着強度や接続抵抗)を維持することができる接着剤組成物並びにそれを用いたフィルム状接着剤、接着シート、回路接続体、回路部材の接続方法、接着材組成物の使用、フィルム状接着剤の使用及び接着シートの使用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の接着シートの一実施形態を示す端面図である。
図2】本発明のシリコーン微粒子の一実施形態を示す端面図である。
図3】本発明の回路接続体の一実施形態を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0046】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸又はそれに対応するメタクリル酸を示し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」とはアクリロイル基又はそれに対応するメタクリロイル基を意味する。
【0047】
熱可塑性樹脂又は回路基板の「ガラス転移温度(Tg)」とは、ティー・エイ・インスツルメント社製粘弾性アナライザー「RSA−3」(商品名)を用いて、昇温速度5℃/min、周波数10Hz、測定温度−150℃〜300℃の条件で測定した、tanδピーク温度の値をいう。なお、回路基板のガラス転移温度の測定において、熱可塑性樹脂基板上にガラス層等の下地層、アクリル樹脂層等のハードコート層、ガスバリア層などが形成されている場合には、それらも含んだ回路基板のガラス転移温度を測定する。
【0048】
微粒子の「ガラス転移温度(Tg)」とは、Tgが既知の熱可塑性樹脂中に微粒子を分散させ、作製したフィルムをティー・エイ・インスツルメント社製粘弾性アナライザー「RSA−3」(商品名)を用いて、昇温速度5℃/min、周波数10Hz、測定温度−150℃〜300℃の条件で測定した、tanδピーク温度の値をいう。
【0049】
微粒子の「平均粒径」とは、微粒子をメチルエチルケトンで0.1wt%(質量%)に希釈した後、Zetasizer Nano−S(Malvern Instruments Ltd.製、商品名)を用いて測定した平均粒子直径(Z−average値)をいう。また、上記測定装置で正確な測定ができない大きさの粒径を有する微粒子については、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−2200((株)島津製作所製、商品名)を用いて測定した平均粒径を用いることもできる。
【0050】
本発明に係る接着剤組成物は、コアシェル型の構造を有するシリコーン微粒子を含有することを特徴とする。コアシェル型の構造としては、コア層とコア層を被覆するように設けられたシェル層とを有する構造が挙げられ、核材(コア層)表面のガラス転移温度又は弾性率より高いガラス転移温度又は弾性率を有する表面層(シェル層)を形成したもの、核材(コア層)の外部にグラフト層(シェル層)を有するものなどがあり、コア層とシェル層で組成が同一又は異なるシリコーン微粒子を用いることができる。具体的には、シリコーンゴム球状微粒子の水分散液に、アルカリ性物質又はアルカリ性水溶液とオルガノトリアルコキシシランを添加し、加水分解、縮合反応したコアシェル型シリコーン微粒子(例えば、特許第2832143号公報参照)、国際公開第2009/051067号パンフレットに記載されるようなコアシェル型シリコーン微粒を用いることもできる。また、分子末端若しくは分子内側鎖に水酸基やエポキシ基、ケチミン、カルボキシル基、メルカプト基などの官能基を含有したシリコーン微粒を用いることができる。このようなシリコーン微粒子はフィルム形成成分やラジカル重合性物質への分散性が向上するため好ましい。なお、上記のコア層とシェル層は必ずしも明瞭な境界線を有していなくてもよい。
【0051】
また、上記コアシェル型シリコーン微粒子を構成するコア層は、応力緩和効果の観点から、シリコーン、シリコーンゴムが好ましく、シェル層はコア層の同種のポリマ又は他の種類のポリマを用いることができるが、コア層よりシェル層の物性(ガラス転移温度、弾性率等)が高いことが好ましい。これにより、コア層の構造及び形状を安定化することができ、効果的にその性能が発揮される。特に、シリコーン、シリコーンゴム等をコア層としたとき、溶剤、又は接着剤組成物の構成材料によってシリコーン、シリコーンゴムが膨潤し、それら微粒子同士が接着して、凝集体を形成しやすい。シェル層を形成することにより、前記凝集体の形成を抑制することができる。
【0052】
上記シリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度は、−130℃以上−20℃以下であることが好ましく、−125℃以上−40℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは、−120℃以上−50℃以下である。このようなシリコーン微粒子は接着剤組成物の内部応力を充分に緩和することができる。
【0053】
また、内部応力の緩和の観点から、シリコーン微粒子のコア層の重量平均分子量は150万以下であることが好ましく、150万以下50万以上がより好ましく、140万以下80万以上が特に好ましい。
【0054】
なお、本実施形態における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)分析により下記条件で測定し、標準ポリスチレンの検量線を使用して換算することにより求められるものである。
GPC条件は、以下のとおりである。
使用機器:日立L−6000型((株)日立製作所製、商品名)
検出器:L−3300RI((株)日立製作所製、商品名)
カラム:ゲルパックGL−R420+ゲルパックGL−R430+ゲルパックGL−R440(計3本)(日立化成工業(株)製、商品名)
溶離液:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流量:1.75ml/min
【0055】
また、上記コアシェル型シリコーン微粒子におけるシェル層については、コア層の構造安定化、形状維持、高機能化を達成するために、架橋構造を有していることが好ましく、3次元網目構造を有する架橋構造であることがより好ましく、シェル層が3次元網目構造を有する架橋構造であることが特に好ましい。また、更に好ましくは、ポリメタクリル酸メチル共重合体等の有機化合物、又は、シリコーン、シリカ、シルセスキオキサン等の無機化合物であることがよい。これにより、シリコーンによる内部応力の緩和が、効果的に発揮される。
【0056】
上記シリコーン微粒子、コアシェル型シリコーン微粒子の構造を確認する手法としては、上記コアシェル型シリコーン微粒子の断面を表面観察及び表面の組成分析を行うことで確認することができる。具体的な手法としては、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による構造解析を下記に示す条件で行うことで確認することができる。
樹脂注型:エポキシ樹脂(リファインテック株式会社製 エポマウント主剤及び硬化剤)
重金属染色:OsO(四酸化オスミウム)を2質量%水溶液調整し、その中で24時間、注型した試料のバルク染色を行う。
前処理:クライオウルトラミクロトームで−120℃に冷却しながら、ダイアモンドナイフで刃速度0.6mm/秒で前処理し、薄膜を作成する。
TEM観察:日立ハイテクノロジーズ社製STEM/EDX装置;HD−2700を用いて、画像又はEDXマッピングからコア層、シェル層の種類、構成を確認する。
【0057】
また、他の手法としては、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)による構造解析を下記に示す条件で行うことができる。
樹脂注型:エポキシ樹脂(リファインテック株式会社製 エポマウント主剤及び硬化剤)
前処理:クライオウルトラミクロトームで−120℃に冷却しながら、ダイアモンドナイフで刃速度0.6mm/秒で前処理し、薄膜を作成する。
観察:SII・ナノテクノロジー社製の原子間力顕微鏡AFMを用いて、断面を観察し、DFMモードにて、形状像と位相像を測定して、位相像でコアシェル構造を確認する。
【0058】
上記シリコーン微粒子の平均粒径は0.05μm以上25μm以下が好ましく、0.1μm以上20μm以下がより好ましく、0.6μm以上10μm以下が特に好ましい。上記シリコーン微粒子の平均粒径を上記範囲内とすることにより、接着剤組成物の流動性と内部応力の緩和との両立が容易となる。
【0059】
上記シリコーン微粒子の配合量は、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下が特に好ましい。上記シリコーン微粒子の配合量を上記範囲内とすることにより、内部応力の緩和、並びに、接着剤組成物の可とう性(弾性率、伸び)及び接着強度を十分に得ることができる。
【0060】
コアシェル型シリコーン微粒子は単独で用いる他に、2種以上を併用してもよい。更に、本願発明の効果を損なわない範囲であれば、他のシリコーン微粒子と併用してもよい。
【0061】
他のシリコーン微粒子は、分散性及び内部応力の緩和の観点から、シリコーン微粒子の重量平均分子量は150万以下であることが好ましく、150万以下50万以上がより好ましく、140万以下80万以上が特に好ましい。また、他のシリコーン微粒子は、三次元架橋構造を有することが好ましい。「三次元架橋構造を有する」とは、ポリマー鎖が三次元網目構造を有していることを示す。三次元架橋構造を有するシリコーン微粒子は、樹脂に対する分散性が高く、硬化後の応力緩和性に一層優れる。100万以上の重量平均分子量及び/又は三次元架橋構造を有するシリコーン微粒子は、熱可塑性樹脂等のポリマー、モノマー、溶媒等への溶解性が低いため、分散性及び応力緩和効果を一層顕著に得ることができる。
【0062】
他のシリコーン微粒子としては、ゴム弾性を有するポリオルガノシルセスキオキサン樹脂の微粒子が挙げられ、球状及び不定形のシリコーン微粒子が用いられる。具体的には、ビニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンとケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンと白金系触媒との反応によって得られるシリコーン微粒子(例えば、特開昭62−257939号公報参照)、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン及び白金系触媒を用いて得られるシリコーン微粒子(例えば特開昭63−77942号公報参照)やジオルガノシロキサン、モノオルガノシルセスキオキサン、トリオルガノシロキサン及び白金系触媒を用いて得られるシリコーン微粒子(例えば、特開昭62−270660号公報参照)、メチルシラントリオール及び/又はその部分縮合物の水/アルコール溶液をアルカリ水溶液に滴下し重縮合反応を行わせて得られるシリコーン微粒子(例えば、特許第3970453号公報参照)等を用いることができる。また、分散性や基板との密着性を向上させるために、エポキシ化合物を添加又は共重合させたシリコーン微粒子(例えば、特開平3−167228号公報参照)、アクリル酸エステル化合物を添加又は共重合させたシリコーン微粒子等を用いることもできる。
【0063】
接着剤組成物に含有されるラジカル重合性化合物は、ラジカル重合開始剤の作用でラジカル重合を生じる化合物をいうが、光や熱等の活性化エネルギーを付与することでそれ自体ラジカルを生じる化合物であってもよい。ラジカル重合性化合物としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリール基、マレイミド基等の活性ラジカルによって重合する官能基を有する化合物を好適に用いることができる。
【0064】
ラジカル重合性化合物として具体的には、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー等のオリゴマー、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性2官能(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性3官能(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンアクリレート、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルのグリシジル基に(メタ)アクリル酸を付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンアクリレート、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルのグリシジル基に(メタ)アクリル酸を付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルのグリシジル基にエチレングリコールやプロピレングリコールを付加させた化合物に(メタ)アクリロイルオキシ基を導入した化合物、下記一般式(A)又は(B)で表される化合物等が挙げられる。
【0065】
【化1】
【0066】
上記一般式(A)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に1〜8の整数を示す。
【0067】
【化2】
【0068】
上記一般式(B)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、c及びdはそれぞれ独立に0〜8の整数を示す。
【0069】
また、ラジカル重合性化合物としては、単独で30℃に静置した場合にワックス状、ろう状、結晶状、ガラス状、粉状等の流動性が無く固体状態を示すものであっても、特に制限することなく使用することができる。このようなラジカル重合性化合物として具体的には、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、N−フェニルマレイミド、N−(o−メチルフェニル)マレイミド、N−(m−メチルフェニル)マレイミド、N−(p−メチルフェニル)−マレイミド、N−(o−メトキシフェニル)マレイミド、N−(m−メトキシフェニル)マレイミド、N−(p−メトキシフェニル)−マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−オクチルマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、N−メタクリロキシマレイミド、N−アクリロキシマレイミド、1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、N−メタクリロイルオキシコハク酸イミド、N−アクリロイルオキシコハク酸イミド、2−ナフチルメタクリレート、2−ナフチルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジビニルエチレン尿素、ジビニルプロピレン尿素、2−ポリスチリルエチルメタクリレート、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン、テトラメチルピペリジルメタクリレート、テトラメチルピペリジルアクリレート、ペンタメチルピペリジルメタクリレート、ペンタメチルピペリジルアクリレート、オクタデシルアクリレート、N−t−ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−(ヒドロシキメチル)アクリルアミド、下記一般式(C)〜(L)のいずれかで表される化合物等が挙げられる。
【0070】
【化3】

上記一般式(C)中、eは1〜10の整数を示す。
【0071】
【化4】
【0072】
【化5】
【0073】
上記一般式(E)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、fは15〜30の整数を示す。
【0074】
【化6】
【0075】
上記一般式(F)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、gは15〜30の整数を示す。
【0076】
【化7】

上記一般式(G)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。
【0077】
【化8】

上記一般式(H)中、R10は水素原子又はメチル基を示し、hは1〜10の整数を示す。
【0078】
【化9】
【0079】
上記一般式(I)中、R11は水素原子又は下記一般式(i)若しくは(ii)で表される有機基を示し、iは1〜10の整数を示す。
【0080】
【化10】

【化11】
【0081】
【化12】
【0082】
上記一般式(J)中、R12は水素原子又は下記一般式(iii)若しくは(iv)で表される有機基を示し、jは1〜10の整数を示す。また、R12はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0083】
【化13】

【化14】
【0084】
【化15】

上記一般式(K)中、R13は水素原子又はメチル基を示す。
【0085】
【化16】

上記一般式(L)中、R14は水素原子又はメチル基を示す。
【0086】
また、ラジカル重合性化合物として、ウレタン(メタ)アクリレートを、単独で又は他のラジカル重合性化合物と共に用いることができる。ウレタン(メタ)アクリレートを用いることで、可とう性が向上し、PET、PC、PEN、COP等の有機基材に対する接着強度を向上させることができる。
【0087】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、特に制限はないが、下記一般式(M)で表されるウレタン(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。ここで、下記一般式(M)で表されるウレタン(メタ)アクリレートは、脂肪族又は脂環式系ジイソシアネートと、少なくとも1種類以上の脂肪族若しくは脂環式エステル系ジオール又は脂肪族若しくは脂環式カーボネート系ジオールとの縮合反応により得ることができる。
【0088】
【化17】
【0089】
上記一般式(M)中、R15及びR16はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R17はエチレン基又はプロピレン基、R18は飽和脂肪族基又は飽和脂環式基を示し、R19はエステル基を含有する飽和脂肪族基又は飽和脂環式基、カーボネート基を含有する飽和脂肪族基又は飽和脂環式基を示し、kは1〜40の整数を示す。なお、式中、R17同士、R18同士、R19同士はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0090】
上記ウレタン(メタ)アクリレートを構成する脂肪族系ジイソシアネートは、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリメチルキシリレンジイソシアネート等から選択される。
【0091】
上記ウレタン(メタ)アクリレートを構成する脂肪族エステル系ジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1、2−ペンタンジオール、1、4−ペンタンジオール、1、5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2、4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2、2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2、5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−デカンジオール、ドデカンジオール、ピナコール、1,4−ブチンジオール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等、の飽和の低分子グリコール類、ならびにアジピン酸、3−メチルアジピン酸、2,2,5,5−テトラメチルアジピン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2−エチル−2−メチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、しゅう酸、マロン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ブチルマロン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、2,4−ジメチルグルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の二塩基酸若しくはこれらに対応する酸無水物を脱水縮合させて得られるポリエステルジオール類やε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合して得られるポリエステルジオールなどから選択される。上記ジオール類及びジカルボン酸から得られるポリエステルジオール類は単独で用いる他に、2種以上のポリエステルジオール類を混合して用いてもよい。
【0092】
上記ウレタン(メタ)アクリレートを構成するポリカーボネート系ジオールは、少なくとも1種類以上の上記グリコール類とホスゲンとの反応によって得られるポリカーボネートジオール類から選択される。上記グリコール類とホスゲンとの反応によって得られるポリカーボネートジオール類は単独で用いるほかに、2種類以上のポリカーボネート系ジオールを混合して用いてもよい。
【0093】
上記ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、PET、PC、PEN、COP等の基材に対する接着強度向上の観点から、5000以上30000未満の範囲内で自由に調整し、好適に使用することができる。上記ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記範囲内であれば、柔軟性と凝集力の双方を得ることができ、PET、PC、PEN、COP等の有機基材との接着強度が向上し、優れた接続信頼性を得ることができる。更に、上記ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記範囲内であれば、接着剤組成物の充分な可とう性と流動性とを両立させることが容易となる。また、このような効果をより充分に得る観点から、上記ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、80000以上25000未満であることがより好ましく、10000以上20000未満が特に好ましい。
【0094】
なお、本実施形態における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)分析により下記条件で測定し、標準ポリスチレンの検量線を使用して換算することにより求められるものである。
GPC条件は、以下のとおりである。
使用機器:日立L−6000型((株)日立製作所製、商品名)
検出器:L−3300RI((株)日立製作所製、商品名)
カラム:ゲルパックGL−R420+ゲルパックGL−R430+ゲルパックGL−R440(計3本)(日立化成工業(株)製、商品名)
溶離液:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流量:1.75ml/min
【0095】
上記ウレタン(メタ)アクリレートの配合量は、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、5質量%以上95質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上70質量%以下が特に好ましい。上記ウレタン(メタ)アクリレートの配合量が上記範囲内であると、硬化後に充分な耐熱性が得られるとともに、フィルム状接着剤として使用する場合に、良好なフィルム形成性を得ることが容易となる。
【0096】
また、ラジカル重合性化合物に属する化合物である、リン酸基を有するビニル化合物(リン酸基含有ビニル化合物)や、N−ビニル化合物及びN,N−ジアルキルビニル化合物からなる群より選ばれるN−ビニル系化合物を、これら以外のラジカル重合性化合物と併用することができる。リン酸基含有ビニル化合物の併用により、接着剤組成物の金属基材への接着性を向上させることが可能になる。また、N−ビニル系化合物の併用により、接着剤組成物の橋かけ率を向上させることができる。
【0097】
リン酸基含有ビニル化合物としては、リン酸基及ビニル基を有する化合物であれば特に制限はないが、下記一般式(N)〜(P)で表される化合物が好ましい。
【0098】
【化18】
【0099】
上記一般式(N)中、R20は(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、R21は水素原子又はメチル基を示し、l及びmはそれぞれ独立に1〜8の整数を示す。なお、式中、R20同士、R21同士、l同士及びm同士はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0100】
【化19】
【0101】
上記一般式(O)中、R22は(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、n、o及びpはそれぞれ独立に1〜8の整数を示す。なお、式中、R22同士、n同士、o同士及びp同士はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0102】
【化20】
【0103】
上記一般式(P)中、R23は(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、R24は水素原子又はメチル基を示し、q及びrはそれぞれ独立に1〜8の整数を示す。なお、式中、R23同士、R24同士、q同士及びr同士はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0104】
リン酸基含有ビニル化合物として具体的には、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシエチルアクリレート、アシッドホスホオキシプロピルメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、2,2’−ジ(メタ)アクリロイロキシジエチルホスフェート、EO変性リン酸ジメタクリレート、リン酸変性エポキシアクリレート、リン酸ビニル等が挙げられる。
【0105】
一方、N−ビニル系化合物として、具体的には、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、4,4’−ビニリデンビス(N,N−ジメチルアニリン)、N−ビニルアセトアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0106】
リン酸基含有ビニル化合物およびN−ビニル系化合物の配合量は、リン酸基含有ビニル化合物以外のラジカル重合性化合物の配合量とは独立に、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、0.2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上10量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下が特に好ましい。リン酸基含有ビニル化合物およびN−ビニル系化合物の配合量が上記範囲内であると、接着剤組成物の高い接着強度と、接着剤組成物の硬化後の物性とを両立させることが容易となり、信頼性を確保しやすくなる。
【0107】
上記リン酸基含有ビニル化合物及びN−ビニル化合物を除いたラジカル重合性化合物の配合量は、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、5質量%以上95質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上70質量%以下が特に好ましい。上記ラジカル重合性化合物の配合量が上記範囲内であると、硬化後に充分な耐熱性が得られるとともに、フィルム状接着剤として使用する場合に、良好なフィルム形成性を得ることが容易となる。
【0108】
接着剤組成物に含有されるラジカル重合開始剤としては、従来から知られている有機過酸化物やアゾ化合物等、外部からのエネルギーの付与によりラジカルを発生する化合物を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、安定性、反応性、相溶性の観点から、1分間半減期温度が90℃以上175℃以下で、かつ分子量が180以上1000以下の有機過酸化物が好ましい。1分間半減期温度がこの範囲にあることで、貯蔵安定性に優れ、ラジカル重合性も充分に高く、短時間で硬化できる。
【0109】
ラジカル重合開始剤としては、具体的には、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−アミルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、t−アミルパーオキシノルマルオクトエート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられる。これらの化合物は、単独で用いる他に、2種以上の化合物を混合して用いてもよい。
【0110】
また、ラジカル重合開始剤としては、150nm以上750nm以下の光照射によってラジカルを発生する化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えば、Photoinitiation,Photopolymerization,and Photocuring,J.−P. Fouassier,Hanser Publishers(1995年、p17〜p35)に記載されているα−アセトアミノフェノン誘導体やホスフィンオキサイド誘導体が光照射に対する感度が高いためより好ましい。これらの化合物は、単独で用いる他に、上記有機過酸化物やアゾ化合物と混合して用いてもよい。
【0111】
ラジカル重合開始剤の配合量は、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、0.5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上20質量%以下が特に好ましい。ラジカル重合開始剤の配合量が上記範囲内であると、接着剤組成物の硬化性と貯蔵安定性とを両立させることが容易となる。
【0112】
接着剤組成物に含有される熱可塑性樹脂は、加熱により粘度の高い液体状態になって外力により自由に変形し、冷却し外力を取り除くとその形状を保ったままで硬くなり、この過程を繰り返して行える性質を持つ樹脂(高分子)が好適に使用できる。また、上記の性質を有する反応性官能基を有する樹脂(高分子)も含む。熱可塑性樹脂のTgは、−30℃以上190℃以下が好ましく、−25℃以上170℃以下がより好ましく、−20℃以上150℃以下が特に好ましい。
【0113】
このような熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、酢酸ビニル共重合体等を用いることができる。これらは単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。更に、これら熱可塑性樹脂中にはシロキサン結合やフッ素置換基が含まれていてもよい。これらは、混合する樹脂同士が完全に相溶するか、若しくはミクロ相分離が生じて白濁する状態であれば好適に用いることができる。
【0114】
接着剤組成物をフィルム状に成形してフィルム状接着剤として利用する場合、上記熱可塑性樹脂の分子量が大きいほど、良好なフィルム形成性が容易に得られ、またフィルム状接着剤としての流動性に影響する溶融粘度を広範囲に設定できる。熱可塑性樹脂の重量平均分子量としては5000以上150000以下が好ましく、7000以上100000以下がより好ましく、10000以上80000以下が特に好ましい。熱可塑性樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であると、良好なフィルム形成性と、他の成分との良好な相溶性とを両立させることが容易となる。
【0115】
なお、本実施形態における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)分析により下記条件で測定し、標準ポリスチレンの検量線を使用して換算することにより求められるものである。
GPC条件は、以下のとおりである。
使用機器:日立L−6000型((株)日立製作所製、商品名)
検出器:L−3300RI((株)日立製作所製、商品名)
カラム:ゲルパックGL−R420+ゲルパックGL−R430+ゲルパックGL−R440(計3本)(日立化成工業(株)製、商品名)
溶離液:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流量:1.75ml/min
【0116】
熱可塑性樹脂の含有量は、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、15質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内であると、接着剤組成物をフィルム状にして利用する場合に、良好なフィルム形成性と、フィルム状接着剤の良好な流動性とを両立させることが容易となる。
【0117】
接着剤組成物に含有される導電粒子は、その全体又は少なくとも表面に導電性を有する粒子であることが好ましく、接続端子(回路電極)を有する回路部材の接続に使用する場合は、接続端子間距離より平均粒径が小さいことがより好ましい。
【0118】
導電粒子としては、Au、Ag、Ni、Cu、Pd、はんだ等の金属粒子やカーボンなどが挙げられる。また、非導電性のガラス、セラミック、プラスチック等を核とし、この核に上記金属、金属粒子やカーボンを被覆したものでもよい。導電粒子が、プラスチックを核とし、この核に上記金属、金属粒子やカーボンを被覆したものや熱溶融金属粒子の場合、加熱加圧により変形性を有するので接続時に電極との接触面積が増加し信頼性が向上するので好ましい。また、導電粒子は、例えば、銅からなる金属粒子に銀を被覆した粒子であってもよい。更に、導電粒子は、特開2005−116291号公報に記載されるような、微細な金属粒子が多数、鎖状に繋がった形状を有する金属粉末を用いることもできる。
【0119】
また、これらの導電粒子の表面を、更に絶縁性粒子により被覆した微粒子、又は、ハイブリダイゼーション等の方法により上記導電粒子の表面に絶縁性物質からなる絶縁層が設けられた微粒子は、導電粒子の配合量を増加した場合の粒子同士の接触による短絡を抑制し、電極回路間の絶縁性が向上できることから、適宜これを単独であるいは他の導電粒子と混合して用いてもよい。
【0120】
導電粒子の平均粒径は、分散性、導電性の点から1μm以上18μm以下であることが好ましい。このような導電粒子を含有する場合、接着剤組成物は異方導電性接着剤として、好適に用いることができる。
【0121】
導電粒子の使用量は、特に制限は受けないが、接着剤組成物全体積に対して0.1体積%以上30体積%以下とすることが好ましく、0.1体積%以上10体積%以下とすることがより好ましい。導電粒子の使用量が上記範囲内であると、十分な導電性が得られながらも回路の短絡は十分抑制することができる。なお、体積%は23℃の硬化前の各成分の体積をもとに決定されるが、各成分の体積は、比重を利用して重量から体積に換算することができる。また、メスシリンダー等にその成分を溶解したり膨潤させたりせず、その成分をよくぬらす適当な溶媒(水、アルコール等)を入れたものに、その成分を投入し増加した体積をその成分の体積として求めることもできる。
【0122】
また、接着剤組成物には、硬化速度の制御や貯蔵安定性の付与のために、安定化剤を添加することできる。このような安定化剤としては、特に制限なく公知の化合物を使用することができるが、ベンゾキノンやハイドロキノン等のキノン誘導体、4−メトキシフェノールや4−t−ブチルカテコール等のフェノール誘導体、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルや4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等のアミノキシル誘導体、テトラメチルピペリジルメタクリレート等のヒンダードアミン誘導体などが好ましい。
【0123】
安定化剤の配合量は、接着剤成分(導電粒子を除く接着剤組成物)の質量を基準として、0.005質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以上5質量%以下が特に好ましい。安定化剤の配合量が上記範囲内であると、他の成分との相溶性に悪影響を及ぼすことなく、硬化速度の制御や貯蔵安定性の付与が可能となる。
【0124】
また、接着剤組成物には、アルコキシシラン誘導体やシラザン誘導体に代表されるカップリング剤、密着向上剤及びレベリング剤などの接着助剤を適宜添加してもよい。カップリング剤として具体的には、下記一般式(Q)で表される化合物が好ましく、単独で用いる他に、2種以上の化合物を混合して用いてもよい。
【0125】
【化21】
【0126】
上記一般式(Q)中、R25、R26及びR27はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、炭素原子数1〜5のアルコキシカルボニル基又はアリール基を示し、R28は(メタ)アクリロイル基、ビニル基、イソシアナート基、イミダゾール基、メルカプト基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、モルホリノ基、ピペラジノ基、ウレイド基又はグリシジル基を示し、sは1〜10の整数を示す。
【0127】
接着剤組成物は、接着性向上を目的に、ゴム成分を併用してもよい。ゴム成分とは、そのままの状態でゴム弾性(JIS K6200)を示す成分又は反応によりゴム弾性を示す成分をいう。ゴム成分は、室温(25℃)で固形でも液状でもよいが、流動性向上の観点から液状であることが好ましい。ゴム成分としては、ポリブタジエン骨格を有する化合物が好ましい。ゴム成分は、シアノ基、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基又はモルホリン基を有していてもよい。また、接着性向上の観点から、高極性基であるシアノ基、カルボキシル基を側鎖あるいは末端に含むゴム成分が好ましい。なお、ポリブタジエン骨格を有していても、熱可塑性を示す場合は熱可塑性樹脂に分類し、ラジカル重合性を示す場合はラジカル重合性化合物に分類する。
【0128】
ゴム成分として具体的には、ポリイソプレン、ポリブタジエン、カルボキシル基末端ポリブタジエン、水酸基末端ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、カルボキシル基末端1,2−ポリブタジエン、水酸基末端1,2−ポリブタジエン、アクリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水酸基末端スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基又はモルホリン基をポリマー末端に含有するアクリロニトリル−ブタジエンゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、水酸基末端ポリ(オキシプロピレン)、アルコキシシリル基末端ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール等が挙げられる。
【0129】
また、上記高極性基を有し、室温で液状であるゴム成分としては、具体的には、液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基又はモルホリン基をポリマー末端に含有する液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム、液状カルボキシル化ニトリルゴム等が挙げられ、極性基であるアクリロニトリル含有量は10質量%以上60質量%以下が好ましい。
【0130】
これらの化合物は単独で用いる他に、2種以上の化合物を混合して用いてもよい。
【0131】
接着剤組成物は、応力緩和及び接着性向上を目的に、本発明に係るコアシェル型シリコーン微粒子以外の有機微粒子を添加してもよい。有機微粒子の平均粒径は0.05μm以上1.0μm以下が好ましい。なお、有機微粒子が上述のゴム成分からなる場合は、有機微粒子ではなくゴム成分に分類し、有機微粒子が上述の熱可塑性樹脂からなる場合は、有機微粒子ではなく熱可塑性樹脂に分類する。
【0132】
有機微粒子として具体的には、ポリイソプレン、ポリブタジエン、カルボキシル基末端ポリブタジエン、水酸基末端ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、カルボキシル基末端1,2−ポリブタジエン、アクリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基又はモルホリン基をポリマー末端に含有するアクリロニトリル−ブタジエンゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、水酸基末端ポリ(オキシプロピレン)、アルコキシシリル基末端ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール(メタ)アクリル酸アルキル−ブタジエン−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル−シリコーン共重合体又はシリコーン(メタ)−アクリル共重合体若しくは複合体からなる有機微粒子が挙げられる。
【0133】
接着剤組成物は、常温で液状である場合にはペースト状で使用することができる。室温で固体の場合には、加熱して使用する他、溶媒を使用してペースト化してもよい。使用できる溶媒としては、接着剤組成物及び添加剤と反応性がなく、かつ充分な溶解性を示すものが好ましく、常圧での沸点が50℃以上150℃以下であるものが好ましい。溶媒の沸点が上記範囲内であると、室温で放置しても揮発しにくく開放系での使用が容易であるとともに、接着後の信頼性を十分確保するために溶媒を十分揮発させることができる。
【0134】
また、本発明の接着剤組成物は、フィルム状に成形してフィルム状接着剤として用いることもできる。接着剤組成物に必要により溶媒等を加えるなどした溶液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、離型紙等の剥離性基材上に塗布し、あるいは不織布等の基材に上記溶液を含浸させて剥離性基材上に載置し、溶媒等を除去してフィルム状接着剤として使用することができる。フィルムの形状で使用すると取扱性等の点から一層便利である。
【0135】
本発明の接着剤組成物は、加熱及び加圧を併用して接着させることができる。加熱温度は、100℃以上200℃以下の温度が好ましい。圧力は、被着体に損傷を与えない範囲が好ましく、一般的には0.1MPa以上10MPa以下が好ましい。これらの加熱及び加圧は、0.5秒以上120秒以下の範囲で行うことが好ましく、110℃以上190℃以下、3MPa、10秒の加熱でも接着させることが可能である。
【0136】
本発明の接着剤組成物は、熱膨張係数の異なる異種の被着体の接着剤組成物として使用することができる。具体的には、異方導電接着剤、銀ペースト、銀フィルム等に代表される回路接続材料として使用することができる。
【0137】
本発明の接着剤組成物を用いて回路部材を接続する場合には、例えば、第一の回路基板上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の回路基板上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材との間に、本発明の接着剤組成物を介在させ硬化させることにより、第一の回路電極と第二の回路電極とが電気的に接続するように第一の回路部材と第二の回路部材とを接着する方法によって、回路部材同士を接続し、回路接続体を得ることができる。
【0138】
上記第一の回路基板及び上記第二の回路基板のうち少なくとも一方は、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。このような熱可塑性樹脂を含むことによって、本発明の接着剤組成物との濡れ性が向上して接着強度及び接続信頼性が向上する。
【0139】
更に、第一の回路基板及び第二の回路基板のうち、一方の回路基板が、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、もう一方の回路基板が、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。このような回路基板を用いることによって、本発明の接着剤組成物との濡れ性がより向上して接着強度及び接続信頼性がより向上する。
【0140】
回路基板としては他にも、半導体、ガラス、セラミック等の無機基板、有機基板などを組み合わせて用いることができる。
【0141】
なお、本発明の接着剤組成物は、完全硬化(所定硬化条件で達成できる最高度の硬化)に達している必要はなく、上記特性を生じる限りにおいて部分硬化の状態であってもよい。
【実施例】
【0142】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0143】
[導電粒子の作製]
ポリスチレンを核とする粒子の表面に、厚み0.2μmのニッケル層を設け、このニッケル層の外側に、厚み0.02μmの金層を設け、平均粒径10μm、比重2.5の導電粒子を作製した。
【0144】
[接着剤組成物の調製]
表1に示す各成分を表1に示す固形質量比にて配合し、更に、上記導電粒子を1.5体積%ずつ配合分散させて、実施例1〜5及び比較例1〜11の接着剤組成物を調製した。以下、表1に示す各成分について詳細に説明する。
【0145】
<熱可塑性樹脂>
(ポリエステルウレタン樹脂A)
ジガルボン酸にテレフタル酸(Aldrich社製)、イソフタル酸(Aldrich社製)、ジオールにネオペンチルグリコール(Aldrich社製)を用いイソシアネートに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(Aldrich社製)を用い、テレフタル酸/イソルタル酸/ネオペンチルグリコール/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのモル比が0.34/0.66/1.1/0.33となるポリエステルウレタン樹脂Aを調整した。得られたポリエステルウレタン樹脂Aの数平均分子量は25000であった。得られたポリエステルウレタン樹脂A(PEU―A)をメチルエチルケトンとトルエンの1:1に固形分40質量%となるように溶解した。
【0146】
(YP−50:フェノキシ樹脂)
東都化成(株)製のフェノキシ樹脂(商品名:YP−50)を、メチルエチルケトンに溶解して、固形分40質量%の溶液として用いた。
【0147】
(EV40W:エチレン−酢酸ビニル共重合体)
エチレン−酢酸ビニル共重合体のトルエン溶解品(固形分30質量%)(三井・デュポンポリケミカル(株)製、EV40W(商品名))を用いた。
【0148】
<ラジカル重合性化合物>
(UA1:ウレタン(メタ)アクリレート1)
撹拌機、温度計、塩化カルシウム乾燥管付き還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、数平均分子量1000のポリ(1,6−ヘキサンジオールカーボネート)(商品名:デュラノール T5652、旭化成ケミカルズ(株)製)2500質量部(2.50モル)と、イソホロンジイソシアネート(シグマ アルドリッチ社製)666質量部(3.00モル)を、3時間かけて均一に滴下し、充分に窒素ガスを導入した後、70〜75℃に加熱し、反応させた。
【0149】
次いで、ハイドロキノンモノメチルエーテル(シグマ アルドリッチ社製)0.53質量部と、ジブチルスズジラウレート(シグマ アルドリッチ社製)5.53質量部を添加し、更に、2−ヒドロキシエチルアクリレート(シグマ アルドリッチ社製)238質量部(2.05モル)を加え、空気雰囲気下70℃で6時間反応させ、ウレタン(メタ)アクリレート1(UA1)を得た。
【0150】
(UA2:ウレタン(メタ)アクリレート2)
撹拌機、温度計、塩化カルシウム乾燥管付き還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、メチルエチルケトン1000質量部、数平均分子量1000のポリカプロラクトンジオール(商品名:プラクセル210N、ダイセル化学工業(株)製)2500質量部(2.50モル)、及びイソホロンジイソシアネート(シグマ アルドリッチ社製)666質量部(3.00モル)を3時間かけて均一に滴下し、充分に窒素ガスを導入した後、70〜75℃に加熱し、反応させた。
【0151】
次いで、ハイドロキノンモノメチルエーテル(シグマ アルドリッチ社製)0.53質量部と、ジブチルスズジラウレート(シグマ アルドリッチ社製)5.53質量部を添加し、更に、2−ヒドロキシエチルアクリレート(シグマ アルドリッチ社製)238質量部(2.05モル)を加え、空気雰囲気下70℃で6時間反応させ、ウレタン(メタ)アクリレート2(UA2)を得た。
【0152】
<有機微粒子>
(KMP−600)
信越化学工業(株)製のコアシェル型シリコーン微粒子(商品名:KMP−600、平均粒径:5μm)を用いた。このシリコーン微粒子のコア層のガラス転移温度は−110℃であった。
【0153】
(BR:架橋ポリブタジエン微粒子)
ステンレス製オートクレーブに純水を入れ、懸濁剤としてポリビニルアルコール(関東化学(株)製)を添加し溶解させた。この中にブタジエン(シグマ アルドリッチ社製)を入れ、撹拌して分散させた。更に、ラジカル重合開始剤としてベンゾイルパーオキシド(商品名:カドックス CH−50L、化薬アクゾ(株)製)を溶解させ、撹拌した。次いでオートクレーブを60〜65℃に昇温させ、撹拌下で45分間重合した。未反応のモノマーを放出後、生成した架橋ポリブタジエン粒子をろ過、水洗浄、エタノ−ル洗浄し、得られた架橋ポリブタジエン粒子を真空下で乾燥して、架橋ポリブタジエン微粒子(BR)を得た。得られた架橋ポリブタジエン微粒子をメチルエチルケトンに分散させ、粒子の平均粒径をZetasizer Nano−S(Malvern Instruments Ltd.製)を用いて測定したところ平均粒子径0.5μmであった。
【0154】
(KMP594:シリコーンゴム微粒子)
信越化学工業(株)製シリコーンゴム微粒子(商品名:KMP594、平均粒径5μm、ガラス転移温度:−70℃)を用いた。
【0155】
(W−5500)
三菱レイヨン(株)製のコアシェル型アクリル微粒子(商品名:メタブレン W−5500、平均粒径:0.6μm)を用いた。
【0156】
(BTA−712)
ローム・アンド・ハース社製のコアシェル型アクリル酸アルキルエステル−ブタジエン−スチレン共重合体微粒子(商品名:パラロイド BTA−712)を用いた。
【0157】
<リン酸基を有するビニル化合物>
(P−2M)
共栄社化学(株)製の2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート(商品名:ライトエステル P−2M)を用いた。
【0158】
<ラジカル重合開始剤>
(ナイパーBW)
日油(株)製のジベンゾイルパーオキサイド(商品名:ナイパーBW)を用いた。
【0159】
【表1】
【0160】
[フィルム状接着剤の作製]
実施例1〜5及び比較例1〜14の接着剤組成物を、厚み80μmのフッ素樹脂フィルム(基材)上に塗工装置を用いて塗布し、70℃で10分間熱風乾燥することによって、基材上に厚み20μmの接着剤層が形成された接着シートを得た。上記接着シートから基材を剥離したものを、実施例1〜10及び比較例1〜11のフィルム状接着剤とする。しかしながら、比較例4、8、12のフィルム状接着剤においては、用いたKMP594の凝集体によって、接着剤層の表面に凹凸が発生し、特性の評価を行うことができないことが分かった。
【0161】
[接続抵抗、接着強度の測定]
(参考例1〜9)
実施例1、2、5及び比較例3、5〜7、9、10のフィルム状接着剤を、ポリイミドフィルム(Tg350℃)上にライン幅25μm、ピッチ50μm、厚み18μmの銅回路を500本有するフレキシブル回路板(FPC)と、0.2μmのITOの薄層を形成したガラス(厚み1.1mm、表面抵抗20Ω/□)との間に介在させた。これを、熱圧着装置(加熱方式:コンスタントヒート型、東レエンジニアリング社製)を用いて、150℃、2MPaで10秒間加熱加圧して幅2mmにわたり接着し、回路接続体を作製した。
【0162】
上記回路接続体の隣接回路間の抵抗値を、接着直後と、85℃、85%RHの高温高湿槽中に240時間保持した後(試験後)にマルチメータで測定した。抵抗値は隣接回路間の抵抗37点の平均で示した。
【0163】
また、上記接続体の接着強度をJIS−Z0237に準じて90度剥離法で測定し、評価した。接着強度の測定装置としては、東洋ボールドウィン(株)製「テンシロンUTM−4」(商品名)(剥離速度50mm/min、25℃)を使用した。測定結果を表2に示す。
【0164】
【表2】
【0165】
表2に示すように、参考例1〜9の回路接続体は、加熱温度150℃の条件下で、接着直後及び試験後のいずれにおいても、4.0Ω以下の良好な接続抵抗及び560N/m以上の良好な接着強度を示した。すなわち、ポリイミドフィルムからなるフレキシブル回路板とITO薄膜を形成したガラスとの接着においては、有機微粒子の種類の違いが接続抵抗や接着強度に大きな影響を与えないことが確認された。
【0166】
(実施例1〜5及び比較例1〜14)
実施例1〜5及び比較例1〜14のフィルム状接着剤を、ポリイミドフィルム(Tg350℃)上にライン幅150μm、ピッチ300μm、厚み8μmの銅回路を80本有するフレキシブル回路板(FPC)と、厚み5μmのAgペーストの薄層を形成したPET基板(厚み0.1μm)との間に介在させた。次いで、熱圧着装置(加熱方式:コンスタントヒート型、東レエンジニアリング社製)を用いて、150℃、2MPaで20秒間加熱加圧して幅2mmにわたり接着し、回路接続体を作製した。
【0167】
上記回路接続体の隣接回路間の抵抗値を、接着直後と、85℃、85%RHの高温高湿槽中に240時間保持した後(試験後)にマルチメータで測定した。抵抗値は隣接回路間の抵抗37点の平均で示した。測定結果を表3に示す。
【0168】
また、実施例1〜5及び比較例1〜14のフィルム状接着剤を、厚み0.1μmのPET、PC又はPENフィルム上にライン幅150μm、ピッチ300μm、厚み10μmのAgペースト回路を形成した基板と、上記FPCとの間に介在させた。次いで、上記熱圧着装置を用いて、150℃、2MPaで20秒間加熱加圧して幅2mmにわたり接着し、回路接続体を作製した。
【0169】
上記回路接続体の接着強度をJIS−Z0237に準じて90度剥離法で測定し、評価した。接着強度の測定装置としては、東洋ボールドウィン(株)製「テンシロンUTM−4」(商品名)(剥離速度50mm/min、25℃)を使用した。測定結果を表3に示す。
【0170】
【表3】
【0171】
実施例1〜5のフィルム状接着剤を用いて作製した回路接続体は、加熱温度150℃の条件下で、接着直後及び試験後のいずれにおいても、約2.6Ω以下の良好な接続抵抗及び約600N/m以上の良好な接着強度を示した。
【0172】
これに対して、シリコーン微粒子を含有しない比較例1〜14(比較例4、8、12は除く)のフィルム状接着剤を用いて作成した回路接続体は、良好な接続抵抗を示すものの、接着直後の接着強度は590N/m以下と低い値を示し、試験後の接着強度は510N/m以下と更に低い値を示した。
【0173】
以上の結果から、少なくとも一方の回路基板がガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む一対の回路部材を接着する場合、本発明に係るシリコーン微粒子を含有する接着剤組成物を用いることで、低温の硬化条件においても優れた接着強度を得ることができ、長時間の信頼性試験(高温高湿試験)後においても安定した性能(接着強度や接続抵抗)を維持可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明に係る接着剤組成物は、ガラス転移温度が200℃以下の熱可塑性樹脂を含む回路基板に対して、低温で硬化した場合でも優れた接着強度を得ることができるため、PRT、PC、PEN、COP等の耐熱性の低い有機基材を用いた半導体素子とFPCとの接着等において、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0175】
5…接着シート、6…基材、8…接着剤層(接着剤組成物)、9…接着剤成分、10…シリコーン微粒子、10a…コアシェル型シリコーン微粒子、11…コア層、12…シェア層、20…導電粒子、30…第一の回路部材、31…第一の回路基板、31a…第一の回路基板の主面、32…第一の回路電極、40…第二の回路部材、41…第二の回路基板、41a…第二の回路基板の主面、42…第二の回路電極、50…接続部、100…回路接続体。
図1
図2
図3