(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記導電助剤の添加量は、酸化チタン換算重量と導電助剤重量との合計に対し0.1wt%以上10wt%未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
上記導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子が、導電助剤の10倍以上の平均粒子径で、かつ0.1ミクロン以上100ミクロン未満の平均粒子径を持つことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
請求項7に記載の方法により製造されたプロトン交換体を、酸素ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で250℃以上350℃未満の温度範囲で熱処理をすることを特徴とするチタン酸化物の製造方法であって、アルカリ金属チタン酸化物がNa2Ti3O7であり、プロトン交換体がH2Ti3O7である、チタン酸化物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国においては、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯型電子機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウム二次電池である。また、リチウム二次電池は、今後ハイブリッドカー、電力負荷平準化システムなどの大型電池としても実用化されるものと予測されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
このリチウム二次電池は、いずれもリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料を含有する正極及び負極、さらに非水系電解液を含むセパレータまたは固体電解質を主要構成要素とする。
【0004】
これらの構成要素の内、電極用の活物質として検討されているのは、リチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)、リチウムチタン酸(Li
4Ti
5O
12)などの酸化物系、金属リチウム、リチウム合金、スズ合金などの金属系、及び黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)などのカーボン系材料が挙げられる。
【0005】
これらの材料について、それぞれの活物質中のリチウム含有量における、化学ポテンシャルの差によって、電池の電圧が決定されるが、特に組合せによって、大きな電位差を形成できることが、エネルギー密度に優れるリチウム二次電池の特徴である。
【0006】
特に、リチウムコバルト酸化物LiCoO
2活物質とカーボン材料を電極とした組合せにおいて、4V近い電圧が可能となり、また充放電容量(電極から脱離・挿入可能なリチウム量)も大きく、さらに安全性も高いことから、この電極材料の組合せが、現行のリチウム電池において広く採用されている。
【0007】
一方、スピネル型のリチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)活物質とスピネル型のリチウムチタン酸化物(Li
4Ti
5O
12)活物質を含む電極の組合せにより、リチウムの吸蔵・脱離反応がスムーズに行われやすく、また反応に伴う結晶格子体積の変化がより少ないことから、長期にわたる充放電サイクルに優れたリチウム二次電池が可能となることが明らかになっており、実用化されている。
【0008】
今後、リチウム二次電池やキャパシタ等の化学電池は、自動車用電源や大容量のバックアップ電源、緊急用電源など、大型で長寿命のものが必要となることが予測されていることから、前項のような酸化物活物質の組合せで、さらに高性能(大容量)な電極活物質が必要とされている。
【0009】
この内、チタン酸化物系活物質は、対極にリチウム金属を使用した場合、約1V−2V程度の電圧であることから、負極用の材料として、様々な結晶構造を有する材料が、電極活物質としての可能性について検討されている。
【0010】
スピネル型リチウムチタン酸化物Li
4Ti
5O
12やナトリウムブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン、結晶構造中に水素元素を含む酸化チタンであるH
2Ti
12O
25などの活物質が、電極材料として注目されている。(特許文献1−6,非特許文献1−5)
【0011】
これらの活物質は、主にTi原料である酸化チタンとアルカリ金属塩の固体を機械的に混合した物を出発原料として、焼成及びそれに続く酸処理などの工程によって得られる。(特許文献1,2,4−6、非特許文献1−5)
【0012】
しかしながら、固体試料を用いた混合方法では、混合段階での試料の混合状態はミクロレベルでは不均一であり、固相反応が進行することで均質な物に近づいていくが未反応部が残る危険性がある。そのため、試料原料の粒度によっては、必要以上に長い焼成が必要になったり、焼成後に再度粉砕・混合を行い、均質性を高める必要がある。
【0013】
また、酸化チタンとアルカリ金属塩を水に混合溶解してスラリー化し、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥または噴霧熱分解法などによるドライアップで混合原料を調整する場合もある。(特許文献3)
【0014】
このようにアルカリ金属塩が水に溶解したスラリーを噴霧乾燥等で乾燥した場合、噴霧された液滴自身の均質性は保持されるが、乾燥過程でアルカリ金属塩が偏析し、ミクロレベルでは不均一であり、このため焼成による生成物も不均一となる。
【0015】
さらに、上記の様な現状の課題を解決した均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物及びこのアルカリ金属チタン酸化物を処理して得られるプロトン交換体及びチタン酸化物の製造方法として、多孔性のチタン化合物粒子の細孔内及び表面にアルカリ金属含有成分の水溶液を含浸したものを焼成する均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物及びこのアルカリ金属チタン酸化物を処理して得られるプロトン交換体及びチタン酸化物を製造する方法も提案されている。(特許文献7)
【0016】
しかしながら、これらはいずれも活物質単独の合成方法である。これらの活物質はほとんどの場合は導電性に乏しいため、リチウム二次電池として用いる場合、内部抵抗を下げてリチウムイオンの移動を手助けする導電助剤を添加して電極として使用している。導電助剤としては、ほとんどの場合はカーボン材料が用いられており、カーボンブラックであるアセチレンブラックやケッチェンブラックが主流であり、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等も用いられている。また、金粉やアルミニウム粉などの金属粉も用いられている。
【0017】
これらの導電助剤は活物質の合成後に機械的に添加・混合されている。この場合、導電助剤の凝集や偏析が起こるため、均一に添加することは困難であり、一般的には導電パスを形成するには過剰に添加する必要がある。過剰の導電助剤の添加は電極組成の活物質の割合を相対的に低下させるため、電池とした場合の実質的な容量が減るため好ましくない。
【0018】
また、化学蒸着法やスパッタリング、活物質に付着した有機系ポリマーやバインダーの炭化によって活物質をカーボンで被覆してより均一に導電助剤を添加したり、活物質とカーボン材料の混合後に熱処理や通電加熱することでより強固に被覆する方法も行われている。しかしながら、これらの方法でもカーボン被覆は活物質の合成後に行われるため、その効果は活物質の二次粒子などの表層部が中心であり、十分とは言えない。(特許文献8−11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記の様な現状の課題を解決し、活物質を合成するための出発原料であるチタン源に導電助剤を均一に複合させることによって、導電助剤が均一に複合し、かつ組成の異なる副生成物や未反応物が残存しない、あっても痕跡程度(1wt%未満)である均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物を容易に製造する方法を提供することを目的とし、また、このアルカリ金属チタン酸化物を処理して得られるプロトン置換体及びチタン酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は鋭意検討した結果、導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子の細孔内及び表面にアルカリ金属含有成分の水溶液を含浸したものを焼成することによって、導電助剤を複合し、かつ組成の異なる副生成物や未反応物が残存しない、あっても痕跡程度(1wt%未満)である均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物が得られること、及びこのアルカリ金属チタン酸化物を酸性化合物と反応させて得たプロトン交換体を出発原料として熱処理を行えば、同じく、導電助剤を複合し、かつ組成の異なる副生成物や未反応物が残存しない、あっても痕跡程度(1wt%未満)である均一な組成を有するチタン酸化物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
すなわち、本発明は下記に示す導電助剤を複合し、かつ組成の異なる副生成物や未反応物が残存しない、あっても痕跡程度(1wt%未満)である均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物、プロトン交換体及びチタン酸化物の製造方法を提供する。
(1)導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子の細孔内及び表面にアルカリ金属含有成分を含浸させ、焼成することを特徴とする、アルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(2)上記導電助剤が10nm以上10ミクロン未満の平均粒子径を持つことを特徴とする、(1)に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(3)上記導電助剤の添加量は、酸化チタン換算重量と導電助剤重量との合計に対し0.1wt%以上10wt%未満であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(4)上記導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子が、導電助剤の10倍以上の平均粒子径で、かつ0.1ミクロン以上100ミクロン未満の平均粒子径を持つことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(5)上記導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子が10m
2/g以上1000m
2/g未満の比表面積を持つことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(6)上記導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物の比表面積が0.1m
2/g以上10m
2/g未満であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(7)上記の(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法で得られた導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物をプロトン交換することを特徴とする、プロトン交換体の製造方法。
(8)(7)に記載の方法により製造されたプロトン交換体を、酸素ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で250℃以上350℃未満の温度範囲で熱処理をすることを特徴とするチタン酸化物の製造方法であって、アルカリ金属チタン酸化物がNa
2Ti
3O
7であり、プロトン交換体がH
2Ti
3O
7である、チタン酸化物の製造方法。
また、本発明は、次のような態様を含むことができる。
(9)導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子は、多孔性チタン化合物の出発原料を溶解または熔融した液体に導電助剤粒子を分散し、該分散液体を沈殿処理または噴霧乾燥処理することにより得られるものであることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(10)導電助剤の少なくとも一部は多孔性のチタン化合物粒子の細孔内に充填されていることを特徴とする、(1)〜(6)、(9)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(11)導電助剤は、カーボン材料、貴金属粉、導電性セラミックス粉から選択されるものであることを特徴とする、(1)〜(6)、(9)、(10)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(12)アルカリ金属チタン酸化物は、リチウム二次電池の電極活物質用である、(1)〜(6)、(9)〜(11)のいずれか1項に記載のアルカリ金属チタン酸化物の製造方法。
(13)(9)〜(11)のいずれか1項に記載の方法で得られた導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物をプロトン交換することを特徴とする、プロトン交換体の製造方法。
(14)(13)に記載の方法により製造されたプロトン交換体を、酸素ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で250℃以上350℃未満の温度範囲で熱処理をすることを特徴とするチタン酸化物の製造方法であって、アルカリ金属チタン酸化物がNa
2Ti
3O
7であり、プロトン交換体がH
2Ti
3O
7である、チタン酸化物の製造方法。
(15)チタン酸化物は、リチウム二次電池の電極活物質用である、(8)または(14)に記載のチタン酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、導電助剤を均一に複合し、かつ均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物が容易に製造できる。このアルカリ金属チタン酸化物を酸性化合物と反応させて得たプロトン交換体を出発原料として熱処理を行えば、同じく、導電助剤を均一に複合し、均一な組成を有するチタン酸化物が容易に製造できる。
これらの均一な導電助剤を複合し、かつ均一な組成を有するアルカリ金属チタン酸化物やチタン酸化物は、種々の用途において有用であり、たとえば、電極活物質として使用した場合、レート特性に優れ、高容量が期待できるリチウム二次電池を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係わる製造方法をさらに詳しく説明する。
【0027】
(導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物の製造方法)
本発明の方法では、まず、導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子の細孔内及び表面にアルカリ金属含有成分を含浸させ、焼成し、導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物を製造する。
【0028】
(1)導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物粒子
ここで用いられる導電助剤は、製造工程の初期から原料に含まれるため、焼成工程や酸性化合物との反応工程にさらされてもほとんど反応しない必要がある。このような導電助剤としては、カーボン材料や貴金属粉、導電性セラミックス粉体などの導電性材料の粉体が使用できる。たとえば、カーボン材料であれば、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどが挙げられる。金属粉では、白金、金、銀などが挙げられる。導電性セラミックス粉体では、炭化チタン、窒化チタン、炭化ニオブなどが挙げられる。これらの中で、特にカーボン材料が好ましい。
【0029】
導電助剤の粒子形状は、球状、多面体状などの等方性形状、棒状、板状などの異方性形状など、特に制限はない。所望の生成物の形状に応じて適宜、選択することが出来る。
導電助剤の平均粒子径(透過型電子顕微鏡などを用い、画像中の粒子100個の重心を通る長径と短径を測定し、その平均値を粒子が球状であると仮定した場合の重量平均粒子径(電子顕微鏡法)、またはBET法などを用いて測定した粒子の比表面積と密度から、真球中実粒子と仮定して算出した平均粒子径)は、チタン原料に内包あるいは表面に付着できる大きさであれば良く、チタン原料の平均粒子径の10%以下で、かつ10nm以上10ミクロン未満の平均粒子径が好ましい。より好ましくは、50nm以上5ミクロン未満である。
導電助剤の添加量は、酸化チタン換算重量(=含有チタンが酸化チタンとして存在すると仮定して換算した重量)と導電助剤重量との合計に対し0.1wt%以上10wt%未満が好ましい。より好ましくは、0.5wt%以上5wt%未満である。
【0030】
チタン原料としては、多孔性のチタン化合物を用いる。チタン化合物としては、チタンを含有するものであれば特に制限されず、たとえば、TiO、Ti
2O
3、TiO
2 等の酸化物、TiO(OH)
2、TiO
2・xH
2O(xは0〜10)等で表される酸化チタン水和物、その他、水溶液に不溶の無機チタン化合物等が挙げられる。これらの中でも、特に酸化チタン水和物が好ましく、TiO(OH)
2またはTiO
2・H
2Oで表されるメタチタン酸やTiO
2・2H
2Oで表されるオルトチタン酸、あるいはそれらの混合物などを用いることが出来る。
【0031】
酸化チタン水和物はチタン化合物の加熱加水分解や中和加水分解により得られ、たとえば、メタチタン酸は硫酸チタニル(TiOSO
4)の加熱加水分解または中和加水分解など、塩化チタンの高温下での中和加水分解などで、オルトチタン酸は硫酸チタン(Ti(SO
4)
2),塩化チタンの低温下での中和加水分解で、また、メタチタン酸とオルトチタン酸の混合物は塩化チタンの中和加水分解温度を適宜制御することで得られる。中和加水分解に用いる中和剤としては、一般的な水溶性のアルカリ性化合物であれば特に制限はなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニアなどを用いることが出来る。また、加熱等の操作によってアルカリ性化合物が生成する尿素((NH
2)
2CO+H
2O → 2NH
3+CO
2)などを用いることが出来る。
【0032】
このようにして得られる酸化チタン水和物の多孔性を示すファクターとなる比表面積は、酸化チタン水和物の沈殿が析出する速度を制御したり、生成した酸化チタン水和物を水溶液中で熟成することによって制御することが出来る。たとえば、加熱加水分解温度を制御したり、中和加水分解の中和剤の濃度及び滴下速度を制御することによって、酸化チタン水和物の沈殿の析出速度を制御することが出来る。また、生成した酸化チタン水和物を高温の水溶液中に撹拌したままの状態で保持すると、オストワルド熟成によって酸化チタン水和物の水溶液への溶解−析出が起こり、粒子径が増大するとともに、細孔がふさがれて比表面積が減少するので、これによっても多孔性を調整することが出来る。
【0033】
導電助剤と多孔性チタン化合物を複合化する方法としては、まず導電助剤の粒子を多孔性チタン化合物の出発原料を溶解あるいは熔融した液体に均一に分散し、導電助剤粒子を内包する形で多孔性チタン化合物を沈殿させたり、噴霧乾燥等で導電助剤粒子が均一に分散した液滴を固化するなどによって導電助剤粒子を均一に内包できる方法であれば、特に限定されない。これらの中でも、特に導電助剤粒子を均一に分散させたチタン化合物水溶液から導電助剤を内包した酸化チタン水和物を沈殿させる方法が好ましい。
【0034】
導電助剤と複合した多孔性のチタン化合物の粒子形状は、球状、多面体状などの等方性形状、棒状、板状などの異方性形状など、特に制限はない。所望の生成物の形状に応じて適宜、選択することが出来る。また、一次粒子であっても、二次粒子であってもよく、これも所望の生成物の形状に応じて適宜、選択する。
なお、本発明における二次粒子とは、一次粒子が強固に結合した状態であり、通常の混合、粉砕、ろ過、搬送、秤量、袋詰め、堆積などの工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。
【0035】
導電助剤と複合化したチタン化合物の平均粒子径(透過型電子顕微鏡などを用い、画像中の粒子100個の重心を通る長径と短径を測定し、その平均値を粒子が球状であると仮定した場合の重量平均粒子径)も特に限定されないが、導電助剤を内包あるいは表面に付着させるに適したサイズがある。このため、たとえばアルカリ金属チタン酸化物やチタン酸化物を電極活物質として使用する場合、その平均粒子径(一次粒子径または二次粒子径)は、0.1ミクロン以上100ミクロン未満の平均粒子径であることが好ましい。より好ましくは0.5ミクロン以上、50ミクロン未満である。
【0036】
導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物の比表面積(窒素吸着によるBET法による)は10m
2/g以上1000m
2/g未満であることが好ましい。より好ましくは50m
2/g以上600m
2/g未満である。
【0037】
また、平均細孔直径は好ましくは1nmから10nmの間で、細孔容積は好ましくは0.05cm
3/gから1.0cm
3/gの間である。
細孔容積は、窒素吸着法で求めた窒素の吸脱着等温線をBET法、HK法、BJH法などで解析して細孔分布を求め、細孔分布から算出することが出来る。平均細孔直径は、全細孔容積と、比表面積の測定値とから求めることが出来る。
【0038】
(2)アルカリ金属含有成分
アルカリ金属原料としては、アルカリ金属を含有する化合物(アルカリ金属化合物)で水溶液として溶解可能なものであれば特に制限されない。たとえば、アルカリ金属がLiの場合には、Li
2CO
3、LiNO
3等の塩類、LiOH等の水酸化物、Li
2O等の酸化物等が挙げられる。また、アルカリ金属がNaの場合には、Na
2CO
3、NaNO
3等の塩類、NaOH等の水酸化物、Na
2O、Na
2O
2等の酸化物等が挙げられる。また、アルカリ金属がKの場合には、K
2CO
3、KNO
3等の塩類、KOH等の水酸化物、K
2O、K
2O
2等の酸化物等が挙げられる。ナトリウムチタン酸化物の製造の場合には特にNa
2CO
3等が好ましい。
【0039】
(3)導電助剤を複合した多孔性チタン化合物粒子へのアルカリ金属含有成分の含浸及び焼成
まず、乾燥させた導電助剤と複合した多孔性のチタン化合物粒子に、上記のリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどから選択されるアルカリ金属化合物の1種または2種以上を含む水溶液を目的組成になるように含浸させ、ろ過後に必要であれば乾燥し、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で加熱することによって導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物を製造することが出来る。導電助剤が金粉や導電性セラミックス粉体のように酸化に強いものであれば、空気中などの酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱しても良い。
【0040】
導電助剤を複合した多孔性チタン化合物粒子へのアルカリ金属含有成分の含浸及び焼成により、導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物が合成される様子を
図1に模式的に示す。
図1は、等方性形状のチタン化合物の一次粒子から、異方性形状を有する導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物の二次粒子が製造されることを模式的に示したものである。
【0041】
含浸の予備工程
上記の通り、本発明の方法では、目的の化学組成になるように導電助剤を複合した多孔性チタン化合物の表面及び細孔にアルカリ金属含有成分を含浸させる。多孔性チタン化合物への溶液の含浸量は、原料である多孔性チタン化合物の表面積や細孔容積によって変化するため、所定の含浸量の多孔性チタン化合物を得るためには、該多孔性チタン化合物について、予め、含浸量を確認して、使用する水溶液濃度を調整する必要がある。
【0042】
具体的には、導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物を乾燥し、細孔内の水分を取り除き、アルカリ金属化合物が溶解した水溶液に懸濁し、チタン化合物の細孔内及び表面をアルカリ金属化合物が溶解した水溶液によって十分に膨潤させる。ついで、フィルターろ過や遠心分離器などによって固形分と溶液を分離して、多孔性チタン化合物に含浸された水溶液の飽和量(最大の含浸量)を測定する。チタン化合物は親水性表面を持つので、アルカリ金属化合物が溶解した水溶液に浸漬すれば、短時間で深部まで水溶液で満たすことができ、含浸することが出来る。
アルカリ金属化合物の水溶液濃度によっては、多孔性チタン化合物におけるアルカリ金属化合物の水溶液の含浸量そのものは変化しないので、水溶液濃度を変化させることによって、多孔性チタン化合物に含浸されるアルカリ金属化合物の量を調節することが出来る。1回の含浸工程ではアルカリ金属化合物の含浸量が不足する場合には、上記の工程を繰り返すことによってアルカリ金属化合物の含浸量を増やし、目的の化学組成とすることが可能である。
【0043】
含浸の本工程
導電助剤を複合した多孔性のチタン化合物を乾燥し、細孔内の水分を取り除き、予備工程により割り出した所定の濃度に調製したアルカリ金属化合物が溶解した水溶液に懸濁し、チタン化合物の細孔内及び表面をリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属化合物が溶解した水溶液に十分に膨潤させる。アルカリ金属化合物を所望の化学組成になるように多孔性のチタン化合物の深部にまで含浸させた後、フィルターろ過や遠心分離器などによって固形分と溶液を分離し、好ましくは固形分を乾燥させる。1回の含浸工程でリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属化合物の含浸量が不足する場合には、上記の工程を繰り返し、アルカリ金属化合物の含浸量を増やして目的の化学組成とする。
【0044】
ここで目的の化学組成は、所望するアルカリ金属チタン酸化物に特有のX線回折パターンと同様のX線回折パターンを示す化合物を提供しうるものであれば足る。
たとえば、所望のアルカリ金属チタン酸化物がLi
4Ti
5O
12である場合、粉末X線回折測定(CuKα線使用)において、2θが18.5°、35.7°、43.3°、47.4°、57.3°、62.9°、66.1°の位置(いずれも誤差±0.5°程度)のLi
4Ti
5O
12に特有のピークを有する化合物を提供し得る組成であれば良い。また、同様に所望のアルカリ金属チタン酸化物Na
2Ti
3O
7である場合、 粉末X線回折測定(CuKα線使用)において、2θが10.5°、15.8°、25.7°、28.4°、29.9°、31.9°、34.2°、43.9°、47.8°、50.2°、66.9°の位置(いずれも誤差±0.5°程度)のNa
2Ti
3O
7で特有のピークを有する化合物を提供し得る組成であればよい。
【0045】
アルカリ金属化合物の濃度は、好ましくは、飽和濃度を基準として、0.1倍から1.0倍の間で変動させることが出来、含浸時間は通常、1分から60分の間で、好ましくは3分から30分の間である。
【0046】
焼成
次いで、アルカリ金属化合物を含浸した導電助剤を複合したチタン化合物粒子を焼成する。
焼成温度は、原料によって適宜設定することができるが、通常は、600℃から1200℃程度、好ましくは700℃から1050℃とすれば良い。焼成雰囲気は導電助剤の種類によって選択する必要がある。複合している導電助剤がカーボン材料の場合には、焼成温度範囲において酸化の影響を受けるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で実施する必要がある。一方、複合している導電助剤が金粉などの貴金属粉や導電性セラミックス粉体などの場合には、焼成温度範囲において酸化の影響を受けないため、焼成雰囲気は特に限定されず、通常は空気中などの酸素ガス雰囲気中あるいは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で実施すれば良い。
【0047】
焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜変更することができる。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)または徐冷とすれば良い。この工程で得られるアルカリ金属チタン酸化物は、アルカリ金属がLiの場合には、LiTiO
2、LiTi
2O
4、Li
4TiO
4、Li
2TiO
3、Li
2Ti
3O
7、Li
4Ti
5O
12等のLi/Ti比が異なるチタン酸化物である。また、アルカリ金属がNaの場合には、NaTiO
2、NaTi
2O
4、Na
2TiO
3、Na
2Ti
6O
13、Na
2Ti
3O
7、Na
4Ti
5O
12等のNa/Ti比が異なるチタン酸化物である。また、アルカリ金属がKの場合には、K
2TiO
3、K
2Ti
4O
9、K
2Ti
6O
13、K
2Ti
8O
17等のK/Ti比が異なるチタン酸化物である。
【0048】
焼成後は、必要に応じて焼成物を公知の方法で粉砕し、さらに上記の焼成過程を再度、実施しても良い。なお、粉砕の程度は、焼成温度等に応じて適宜調節すれば良い。
【0049】
(導電助剤と複合したアルカリ金属チタン酸化物のプロトン交換体の製造方法)
上記により得られた導電助剤を複合したアルカリ金属チタン酸化物を出発原料として、酸性水溶液中でプロトン交換反応を適用することにより、出発原料化合物中のアルカリ金属のほぼ全てが水素と交換した導電助剤と複合したアルカリ金属チタン酸化物のプロトン交換体が得られる。
【0050】
この場合、上記により得られた導電助剤と複合したアルカリ金属チタン酸化物を酸性水溶液中に分散させ、一定時間保持した後、乾燥することが好ましい。使用する酸としては、任意の濃度の塩酸、硫酸、硝酸などの内で、いずれか1種類以上を含む水溶液が好ましい。この内、濃度0.1から1.0Nの希塩酸の使用が好ましい。処理時間としては、10時間から10日間、好ましくは、1日から7日間である。また、処理時間を短縮するために、適宜溶液を新しいものと交換することが好ましい。さらに、交換反応を進行しやすくするために、処理温度を室温(20℃)より高く、30℃から100℃とすることが好ましい。乾燥は、公知の乾燥方法が適用可能であるが、真空乾燥等がより好ましい。
【0051】
このようにして得られた導電助剤と複合したアルカリ金属チタン酸化物のプロトン交換体は、その交換処理の条件を最適化することにより、出発原料に由来して残存するアルカリ金属量を、湿式法による化学分析の検出限界以下にまで低減することが可能である。
【0052】
(導電助剤と複合したアルカリ金属チタン酸化物のプロトン交換体の熱処理方法)
上記により得られたアルカリ金属チタン酸化物のプロトン交換体を出発原料として、空気中などの酸素ガス雰囲気中、あるいは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で熱処理することによって、チタン酸化物が得られる。
【0053】
たとえば、プロトン交換体としてH
2Ti
3O
7を用いて、チタン酸化物としてH
2Ti
12O
25を合成する場合、H
2Oの熱分解を伴って、目的とするチタン酸化物H
2Ti
12O
25が得られる。この場合、熱処理の温度は、250℃から350℃、好ましくは270℃から330℃の範囲である。処理時間は、通常0.5から100時間、好ましくは1から30時間であり、処理温度が高い程、処理時間を短くすることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
(カーボンを複合したNa
2Ti
3O
7の製造方法)
硫酸チタニル水和物(TiOSO
4・xH
2O, xは2〜5の範囲内)6.25gを95%硫酸7mlを含む硫酸水溶液200mlに加えて溶解し、さらに尿素30gを溶解した後に最終的に蒸留水を加えて250mlとした。この水溶液に導電助剤であるカーボン粒子(TIMCAL社製、SuperC65、比表面積:46m
2/g、平均粒子径:58nm(BET法による比表面積より算出))50mgを入れ、超音波分散5分間を行った。これを丸底の3つ口フラスコに入れ、撹拌用のプロペラで上記水溶液を撹拌しながら、オイルバスで95℃に加熱した。尿素の加水分解による沈殿剤の供給と硫酸チタニルの自己加水分解によって白濁が生じ、加熱開始から1時間30分後にオイルバスから3つ口フラスコを取り出し、流水で冷却した。得られた白濁の固形物を遠心分離器で分離し、蒸留水による洗浄を3回繰り返したものを60℃、1昼夜乾燥したものをNa
2Ti
3O
7製造のチタン原料とした。
【0056】
得られたチタン原料は、一様に灰色をしていた。X線粉末回折装置により、チタン原料はアナターゼ型TiO
2の非晶質であることがわかった。また、熱重量分析により、100℃付近に脱水に伴う明確な重量減少と吸熱反応が認められ、得られたチタン原料が酸化チタン水和物であることが明らかになった。さらに、BET比表面積測定により、この粉体の比表面積は152m
2/gで、平均細孔直径が2.5nm、細孔容積が0.09cm
3/gである多孔体であることが明らかとなった。さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)観察より、1から3ミクロンの球状粒子が凝集していた(
図2;一次粒子の平均粒子径2.0ミクロン、二次粒子の平均粒子径7.6ミクロン)。表面は比較的平滑であり、50nm以上のカーボン微粒子が凝集している様子は観察されなかった。このチタン原料をアルゴン雰囲気下で800℃、10時間焼成することで酸化チタン水和物を酸化チタンにして脱水を完了し、空気中で熱重量分析を行った所、500℃から600℃にかけて緩やかな重量減少と発熱反応が認められた。熱重量分析後の試料が灰色から白色に変化したことから、得られたチタン原料にカーボンが複合されており、空気中での加熱によってカーボンが燃焼して消失したことが確認された。熱重量分析の結果から、得られたチタン原料には酸化チタン重量換算で1wt%のカーボンが複合されていることがわかった。また、(a)チタン原料が一様に灰色をしていたこと、(b)チタン原料のSEM写真において、50nm以上のカーボン微粒子が凝集している様子は観察されなかったこと、及び、(c)チタン原料を空気中で焼成して、カーボン焼失させることにより、チタニア本来の白色に変化したこと、からみて、導電助剤であるカーボンはチタン原料中に均一に複合しているといえる。
【0057】
このチタン原料約1gを、192g/lのNa
2CO
3水溶液100mlに懸濁し、超音波分散5分間を行った後、フィルターろ過により試料と水溶液を分離した。その後、試料は、60℃、1昼夜乾燥した。走査型電子顕微鏡(SEM)観察より、1から3ミクロンの球状粒子が凝集している状態はチタン原料の酸化チタン水和物と同じであり、含浸したNa
2CO
3の結晶が析出している様子は観察できなかった(
図3)。また、エネルギー分散型X線分光装置を用いて、個々の粒子にはNa元素とTi元素の両方が存在していことがわかった。このことから、ほとんどのNa
2CO
3は粒子内部の細孔内に存在するか、粒子表面に微粒子の状態で存在していることが明らかとなった。これをアルミナ製ボートに充填し、電気炉を用いて、アルゴンガス中、高温条件下で加熱した。焼成温度は800℃で、焼成時間は10時間とした。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料であるカーボンが複合したNa
2Ti
3O
7を得た。
【0058】
このようにして得られた試料は、チタン原料同様、一様に灰色をしていた。X線粉末回折装置により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることが明らかとなった(
図4)。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、1から3ミクロンの角張った粒子が凝集しており、更に細かい粒子も増えていることが明らかになった(
図5)。さらに、BET比表面積測定により、この粉体の比表面積は1.2m
2/gであり、ほとんど細孔がない中実な粒子であることが明らかとなった。
【0059】
(カーボンを複合したプロトン交換体H
2Ti
3O
7の製造方法)
上記で得られたカーボンを複合したNa
2Ti
3O
7を出発原料として、0.5N塩酸水溶液に浸漬し、60℃の条件下で3日間保持して、プロトン交換処理を行った。交換処理速度を速めるために24時間毎に塩酸水溶液を交換して行った。その後、水洗し、空気中60℃で1昼夜乾燥を行い、目的物であるカーボンを複合したプロトン交換体H
2Ti
3O
7を得た。
【0060】
このようにして得られた試料は、チタン原料同様、一様に灰色をしていた。X線粉末回折装置により、H
2Ti
3O
7の単一相であることが明らかとなった(
図6)。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、出発原料のNa
2Ti
3O
7と同様、1から3ミクロンの角張った粒子が凝集しており、更に細かい角張った粒子や棒状の粒子などが増えていた(
図7)。
【0061】
(カーボンを複合したチタン酸化物H
2Ti
12O
25の製造方法)
次に、上記で得られたカーボンを複合したH
2Ti
3O
7を、アルミナるつぼに充填した後に、空気中280℃で5時間熱処理することによって、目的とするカーボンを複合したH
2Ti
12O
25を得た。
【0062】
このようにして得られた試料は、チタン原料同様、一様に灰色をしていた。X線粉末回折装置により、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示すことが明らかとなった(
図8)。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、出発原料のNa
2Ti
3O
7やプロトン交換体H
2Ti
3O
7と比べて、より細かく異方性のある粒子が生成してきているが、適度な凝集構造も維持されていることが明らかとなった(
図9)。
【0063】
比較例1
(Na
2Ti
3O
7の製造方法)
硫酸チタニル水和物(TiOSO
4・xH
2O, xは2〜5の範囲内)6.25gを95%硫酸7mlを含む硫酸水溶液200mlに加えて溶解し、さらに尿素30gを溶解した後に最終的に蒸留水を加えて250mlとした。これを丸底の3つ口フラスコに入れ、撹拌用のプロペラで上記水溶液を撹拌しながら、オイルバスで95℃に加熱した。尿素の加水分解による沈殿剤の供給と硫酸チタニルの自己加水分解によって白濁が生じ、加熱開始から1時間30分後にオイルバスから3つ口フラスコを取り出し、流水で冷却した。得られた白濁の固形物を遠心分離器で分離し、蒸留水による洗浄を3回繰り返したものを60℃、1昼夜乾燥したものをNa
2Ti
3O
7製造のチタン原料とした。
【0064】
得られたチタン原料は白色であった。X線粉末回折装置により、アナターゼ型TiO
2の非晶質であることがわかった。また、熱重量分析により、100℃付近に脱水に伴う明確な重量減少と吸熱反応が認められ、得られたチタン原料が酸化チタン水和物であることが明らかになった。さらに、BET比表面積測定により、この粉体の比表面積は60m
2/gで、平均細孔直径が3.1nm、細孔容積が0.05cm
3/gである多孔体であることが明らかとなった。さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)観察より、実施例1と同様に、1から3ミクロンの粒子が凝集していることが明らかとなった(一次粒子の平均粒子径2.1ミクロン、二次粒子の平均粒子径5.1ミクロン)。
【0065】
このチタン原料約1gを、240g/lのNa
2CO
3水溶液100mlに懸濁し、超音波分散5分間を行った後、フィルターろ過により試料と水溶液を分離した。その後、試料は、60℃、1昼夜乾燥した。この試料を再度240g/lのNa
2CO
3水溶液100mlに懸濁し、超音波分散5分間を行った後、フィルターろ過により試料と水溶液を分離した。その後、試料は、60℃、1昼夜乾燥した。これをアルミナ製ボートに充填し、電気炉を用いて、アルゴンガス中、高温条件下で加熱した。焼成温度は、800℃で、焼成時間は10時間とした。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料であるNa
2Ti
3O
7を得た。
【0066】
このようにして得られた試料は、白色であった。X線粉末回折装置により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることが明らかとなった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、実施例1と同様に、直径が1から3ミクロン程度の角張った粒子が凝集しており、更に細かい粒子も増えていることが明らかになった。
【0067】
上記で得られたNa
2Ti
3O
7を出発原料として、実施例1と同様の方法で合成を行い、カーボンの入っていないH
2Ti
12O
25を得た。
【0068】
このようにして得られた試料は、わずかに茶褐色を帯びていたが、基本的に白色であった。X線粉末回折装置により、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示すことが明らかとなった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、実施例1と同様に、出発原料のNa
2Ti
3O
7やプロトン交換体H
2Ti
3O
7と比べて、より細かく異方性のある粒子が生成してきているが、適度な凝集構造も維持されていることが明らかとなった。
【0069】
(リチウム二次電池)
このようにして得られたカーボンを複合したH
2Ti
12O
25(実施例1)とカーボンの入っていないH
2Ti
12O
25(比較例1)を活物質として、導電剤としてアセチレンブラック、結着剤としてポリテトラフルオロエチレンを、重量比で5:5:1となるように配合して電極を作製し、対極にリチウム金属を用いて、6フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比1:1)に溶解させた1M溶液を電解液とする、
図10に示す構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その電気化学的リチウム挿入・脱離挙動を測定した。電池の作製は、公知のセルの構造・組み立て方法に従って行った。
【0070】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度10mA/g、3.0V−1.0Vのカットオフ電位で電気化学的にリチウム挿入・脱離試験を行った。1サイクル目は比較的大きな充放電の不可逆容量が発生し、組み立てたリチウム二次電池ごとにばらつきが大きいため、2サイクル目以降について実施例1と比較例1の充放電特性を比較した。
図11は、2サイクル目の充放電曲線を表しており、1.6V付近に電圧平坦部を有し、可逆的なリチウム挿入・脱離反応に伴う電圧変化が認められた。各サイクルにおける実施例1と比較例1の充放電容量を表1に示す。サイクル回数が少ない内は、カーボンを複合していない比較例1の方がやや高い容量を示していたが、カーボン複合の有無にかかわらず、230mAh/g程度の容量に収束していく様子が示されていた。このことから、電流密度が極めて低い場合には、カーボン複合の効果はほとんど見られないことがわかった。
【0071】
【表1】
【0072】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度40mA/g、3.0V−1.0Vのカットオフ電位で電気化学的にリチウム挿入・脱離試験を行った。
図12は、2サイクル目の充放電曲線を表しており、1.6V付近に電圧平坦部を有し、可逆的なリチウム挿入・脱離反応に伴う電圧変化が認められた。各サイクルにおける実施例1と比較例1の充放電容量を表2に示す。測定範囲内では、実施例1の試料が比較例1に比べて10から15mAh/g大きな充放電容量を示しており、比較例1では20サイクル目で充電容量が204mAh/gで電流密度10mA/gの場合と比較して89%あるのに対して、実施例1では20サイクル目では215mAh/gと11mAh/g高い値を示しており、電流密度10mA/gの場合と比較して95%の容量が得られていた。一般に、電流密度を増加させると内部抵抗によってリチウム挿入・脱離がスムーズにいかなくなり、充放電容量が低下する。カーボンなどの導電助剤はこの内部抵抗を低減させるために外部から機械的に混合されている。実施例1はこの導電助剤が活物質内部あるいは表面に均一に複合されているため、内部抵抗をより効果的に低減できたことがわかった。以上から、本発明の導電助剤を複合したH
2Ti
12O
25活物質は、可逆性の高いリチウム挿入・脱離反応が高電流密度で行っても高容量を維持することが可能、すなわちレート特性に優れた活物質であり、リチウム二次電池電極材料として有望であることが明らかとなった。
【0073】
【表2】