【実施例】
【0029】
以下では、実施例に基づいて本発明やその特徴とするところをより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
<バルクでの金ナノロッド製造の実験例1>
(成長溶液の調製)
100mMのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(HTAB)水溶液5mlに10mMの塩化金酸水溶液400μlを加え、そこに100mMのアスコルビン酸64μlを加えて撹拌し成長溶液とした。
【0031】
(結晶核分散液の調製)
100mMのHTAB水溶液1.875mlに、10mMの塩化金酸水溶液62.5μlを加え、そこに10mMの水素化ホウ素ナトリウム150μlを加えて2分間激しく撹拌した。撹拌後、この溶液を2時間室温にて静置した。2時間静置した溶液を100mMのHTAB溶液で10
5倍に希釈したものを結晶液分散液とした。
【0032】
(結晶核分散液と成長溶液との混合)
前記成長溶液と結晶液分散液とを容器に入れ撹拌して、金ナノロッドに成長させた。
図1に生成された金ナノロッドの電子顕微鏡像を示す。生成した金ナノロッドは、長さが1μmを超えるものが存在するものの、粒状のもの等も存在しており、長さが揃っておらず、長さ分散が大きなものとなっている。
【0033】
<バルクでの直径の揃った金ナノロッド製造の実験例2>
バルク合成(溶液量10ml)で、太さの揃った金ナノロッドを作製する方法について説明する。以下の方法は次の論文に記載されている(Chemical Physics Letters 467 (2009) 327-330)。
今回用いたシード法で金ナノロッドを作製する。つまり、結晶核分散液と成長溶液を混合することで金ナノロッドを作製する。
【0034】
(1)結晶核分散液の調製
100mMのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(HTAB)水溶液1.875mlに、10mMの塩化金酸水溶液62.5μlを加え、そこに10mMの水素化ホウ素ナトリウム150μlを加えて2分間激しく撹拌した。撹拌後、この溶液を2時間室温(25℃)にて静置し、結晶核分散液とした。
【0035】
(2)成長溶液の調製
100mMのHTAB水溶液9.5mlに10mMの塩化金酸水溶液400μlを加え、そこに100mMのアスコルビン酸64μlを加えて撹拌し成長溶液とした。
【0036】
(3)結晶核分散液と成長溶液との混合
調製後2時間室温(25℃)にて静置した結晶核分散液17μlを成長溶液内に投入した。その後混合液を静かに混ぜ合わせ、室温(25℃)で静置して成長した金ナノロッドを得た。
【0037】
上記の方法で得られる金ナノロッドの太さは、16.5±3.4nmであった。非特許文献2によれば、規格化された標準偏差NSD(normalized standard deviation)が0.3以下になった状態を、直径が揃った状態としている。今、上記の方法で得られた金ナノロッドの直径のNSDを次式で求めると、
【数1】
(式中、Standard deviationは直径の標準偏差を、Averageは直径の平均値を、それぞれ意味する。)
よりNSD=0.21となり、直径が揃った状態であることがわかる。なおNSDの計算には、少なくとも100本以上のナノロッドの直径を測定し求めた。
【0038】
<マイクロ流路を用いた金ナノロッド製造の実施例>
(1)作製したマイクロ流路
図2に作製したマイクロ流路を示す。マイクロ流路は、主マイクロ流路と、該主マイクロ流路に接続され該主マイクロ流路に混合液を導入して混合液の液滴を多数形成する混合液用マイクロ流路と、該混合液用マイクロ流路の上流側にそれぞれ接続され、前記混合液の成分である成長溶液と結晶核分散液をそれぞれ供給する成長溶液用マイクロ流路及び結晶核分散液用マイクロ流路と、混合液用マイクロ流路の接続部よりも上流側の主マイクロ流路に接続され、前記混合液と相溶性の無い非相溶性液体(油)を供給する非相溶性液体(油)供給部と、前記成長溶液用マイクロ流路に接続され、2重膜を形成し得る界面活性剤、金又は銀化合物、及び、アスコルビン酸を含む成長溶液供給部と、前記結晶核分散液用マイクロ流路に接続され、結晶核分散液を供給する結晶核分散液供給部と、前記主マイクロ流路の下流側に設けられ、前記多数の液滴のうちの少なくとも一部の液滴中で成長した金又は銀ナノロッドを回収する回収部を具備する。
前記主マイクロ流路は、ほぼ一直線状に形成され、液滴排出部分(混合液用マイクロ流路の接続部)の上流と下流の所定範囲を除き、流路幅がほぼ一定で50μmであるが、前記所定範囲内の液滴排出部分を含む中間部は、流路幅がおよそ30μm、前記中間部の両側は、流路幅が30μmから50μmまで徐々に変化する遷移部となっている。
前記成長溶液用マイクロ流路及び結晶核分散液用マイクロ流路は、混合液用マイクロ流路に対し、混合液用マイクロ流路の中心軸線を対称軸とする略V字の対称形となるように接続され、どちらも、流路幅がおよそ25μmである。両液が衝突、混合される混合液用マイクロ流路は、流路幅が細くおよそ7μmで、流路長も比較的短く設定され、その中心軸線が主マイクロ流路に対し垂直となるように接続されている。
【0039】
今、液滴の流速をv m/s(ビデオより計測)とすると、液滴が生成されてから回収部分までの流路の長さLは次のように求められる。ナノロッドの成長にはT分が必要とすると、
L = v[μm/s]×T×60[s]
とかける。今、ビデオ画像より
v = 34.2[μm/s]
であるので、
L = 2.1T[mm]
と計算できる。
【0040】
(2)マイクロ流路の作製工程
上記マイクロ流路は、概略、下記(ア)〜(エ)の工程を順次経ることにより作製した。
(ア)光リソグラフィーによるマイクロ流路の鋳型の作製工程
鏡面研磨されたSi基板上にレジストTHB126N(JSR製ネガ型フォトレジスト)をスピンコートした後、
図2のパターンを露光し、基板を現像した。現像液はテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)現像液の50倍希釈水溶液で、該水溶液中に基板を8分間浸漬して現像を行った。
(イ)PDMSへのマイクロ流路の転写工程
表面にマイクロ流路の鋳型が形成されたSi基板を水平な基盤上に固定し、ポリジメチルシロキサン〔PDMS;シルポット(ダウコーニング社)と硬化剤を10:0.75の比で混合したもの〕をよく脱泡し、泡がない状態になったものをSi基板上に流し込み、完全に硬化したPDMSをSi基板から引きはがした。次に流路の各液体の供給部や回収部などの穴を生検トレパンであけた。流路の高さは後に使用する生検トレパンの高さ程度に高くして、チューブ装着後もチューブが抜ける等のトラブルが回避できるようにしている。
(ウ)パターンが転写されたPDMSのガラス基板への貼り付け工程
PDMSのパターン面とガラスの平坦な接着面に空気プラズマを照射後、すぐに両者のプラズマ照射面同士を接着し、マイクロ流路を形成した。
(エ)流路内部の疎水化処理工程
形成されたマイクロ流路の内部を1H,1H,2H,2H,perfluorodecyltriethoxysilaneのメタノール溶液(1wt%)で疎水化処理した。
【0041】
(3)マイクロ流路への結晶核分散液、成長溶液の挿入
マイクロ流路の各液の供給部にチューブをセットし、その先に結晶核分散液、成長溶液、油を入れたシリンジをセットした。結晶核分散液、成長溶液としては、上記実験例1で用いたと同じものを用いた。油としては、フロリナート(FC3283、住友スリーエム株式会社)を用いた。
用いるシリンジは1mlのものである。それぞれの溶液を流路内に流し込み、長さの揃った金ナノロッドを製造する。その際、それぞれの溶液の濃度と流速は、表1に記載のものを用いた。表1において、安定なw/o液滴が生成された油成分と水成分の流速範囲を示す。○と△で示された流速では、安定なw/o液滴が生成されたが、×で示された流速ではそのような生成ができなかった。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例の結晶核分散液を調製する際の希釈理由)
一般的なバルクでの金ナノロッド作製法では、成長溶液は100mMのHTAB水溶液9.5ml、10mMの塩化金酸水溶液400μl、100mMのアスコルビン酸64μlの混合物である。結晶核分散液は上述と同様に、100mMのHTAB水溶液1.875mlに、10mMの塩化金酸水溶液62.5μlを加え、そこに10mMの水素化ホウ素ナトリウム150μlを加えて2分間激しく撹拌し、撹拌後2時間室温に静置して作製する。2時間後、結晶核分散液を17μlとり、これを成長溶液に加えて金ナノロッドを成長させる。この時、結晶核のサイズが一律で5nmの立方体だと仮定すると、およそ10mlの成長溶液中に結晶核6.1×10
11個が含まれる(非特許文献8参照)。つまりバルク成長の場合には、結晶核1つあたりの成長溶液の体積は約16.4μm
3である。これは半径1.58μmの球に相当する。しかし、マイクロ流路での成長では、(1)成長溶液と結晶核分散液との混合比、(2)結晶核1つあたりの成長溶液の体積に違いがある。つまり、上記実施例で用いたマイクロ流路装置の場合、成長溶液と結晶核分散液の液量を1:1で混合する必要があり、また液滴サイズが半径15μm程度であることから、結晶核1つあたりの成長溶液の体積に約1000倍の違いがある。これらを考慮すると、およそ10
5倍に希釈した結晶核分散液を用いることでバルクと同様の成長が期待できることが分かる。
【0044】
(流速)
好ましい実施例では、結晶核分散液と成長溶液の流速を両方とも0.01ml/hで固定した。この時、安定にw/o液滴ができる油の流速範囲は0.03〜0.07ml/hであった(表1参照)。これ以外の範囲では水の連続流が観測され、安定な水液滴は生成されなかった。ただし、これらのデータは、
図2に示された実施例のマイクロ流路装置に関するものであり、マイクロ流路の設計変更等によって変化するものと考えられる。