(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366996
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】リフトオフ方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/57 20140101AFI20180723BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20180723BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20180723BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
B23K26/57
B23K26/36
H01L33/32
H01S5/323 610
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-103522(P2014-103522)
(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公開番号】特開2015-217421(P2015-217421A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】小柳 将
(72)【発明者】
【氏名】武田 昇
(72)【発明者】
【氏名】森數 洋司
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−229508(JP,A)
【文献】
特開2004−112000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
H01L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板または移設基板のいずれかの面に超音波振動を付与し、エピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に楔を挿入してエピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する、
ことを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項2】
エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板または移設基板のいずれかの面に第1の超音波振動を付与し、エピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に楔を挿入するとともに該楔に第2の超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する、
ことを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項3】
該第1の超音波振動と該第2の超音波振動は、異なる周波数に設定されている、請求項2記載のリフトオフ方法。
【請求項4】
エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に楔を挿入するとともに該楔に超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する、ことを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項5】
エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に先端に形成された細孔からエアーを噴出する楔を挿入するとともに該楔に超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する、ことを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項6】
エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に先端に形成された細孔から水を噴出する楔を挿入するとともに該楔に超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する、ことを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項7】
エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板に第1の超音波振動を付与するとともに移設基板に第2の超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する、ことを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項8】
該第1の超音波振動と該第2の超音波振動は、異なる周波数に設定されている、請求項7記載のリフトオフ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア基板や炭化珪素等のエピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法に関する。
【0002】
光デバイス製造工程においては、略円板形状であるサファイア基板や炭化珪素基板等のエピタキシー基板の表面にバッファー層を介してGaN(窒化ガリウム)等で構成されるn型半導体層およびp型半導体層からなる光デバイス層が積層され格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスを形成して光デバイスウエーハを構成する。そして、光デバイスウエーハをストリートに沿って分割することにより個々の光デバイスを製造している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、光デバイスの輝度を向上させる技術として、光デバイスウエーハを構成するサファイア基板や炭化珪素等のエピタキシー基板の表面にバッファー層を介して積層されたn型半導体層およびp型半導体層からなる光デバイス層をAuSn(金錫)等の接合材を介してモリブデン(Mo)、銅(Cu)、シリコン(Si)の移設基板に接合し、エピタキシー基板の裏面側からエピタキシー基板を透過しバッファー層で吸収される波長のレーザー光線を照射してバッファー層を破壊し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離することにより、光デバイス層を移設基板に移し替えるリフトオフと呼ばれる製造方法が下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【特許文献2】特開2004−72052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、エピタキシー基板の裏面側からバッファー層に集光点を位置付けてレーザー光線を照射してバッファー層を破壊する際に、バッファー層を十分に破壊することができない場合があり、エピタキシー基板を円滑に剥離することができないという問題がある。
また、光デバイスの品質を向上させるためにエピタキシー基板の表面に複数の微細な凹凸が形成されている場合には、レーザー光線の照射によってバッファー層が破壊されてもエピタキシー基板の表面に形成された複数の微細な凹凸によってエピタキシー基板の剥離が困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術課題は、バッファー層を十分に破壊することができない場合でもエピタキシー基板を円滑に剥離することができるリフトオフ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、エピタキシー基板の表面にバッファー層を介して光デバイス層が積層された光デバイスウエーハの光デバイス層を、移設基板に移し替えるリフトオフ方法であって、
光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、
該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、
該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程と、を含み、
該光デバイス層移設工程は、
以下の如く複合基板に超音波振動を付与して実施する、
ことを特徴とするリフトオフ方法が提供される。
【0008】
上記光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板または移設基板のいずれかの面に超音波振動を付与し、エピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に楔を挿入してエピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する。
上記光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板または移設基板のいずれかの面に第1の超音波振動を付与し、エピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に楔を挿入するとともに該楔に第2の超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する。
上記第1の超音波振動と該第2の超音波振動は、異なる周波数に設定されている。
上記光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に楔を挿入するとともに該楔に超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する。
上記光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に先端に形成された細孔からエアーを噴出する楔を挿入するとともに該楔に超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する。
上記光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板と移設基板との境界部であるバッファー層に先端に形成された細孔から水を噴出する楔を挿入するとともに該楔に超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する。
上記光デバイス層移設工程は、複合基板を形成するエピタキシー基板に第1の超音波振動を付与するとともに移設基板に第2の超音波振動を付与し、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する。
上記第1の超音波振動と該第2の超音波振動は、異なる周波数に設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるリフトオフ方法は、光デバイスウエーハの光デバイス層の表面に接合材を介して移設基板を接合して複合基板を形成する移設基板接合工程と、該複合基板を構成する光デバイスウエーハのエピタキシー基板の裏面側からバッファー層にエピタキシー基板に対しては透過性を有しバッファー層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程と、該バッファー層破壊工程を実施した後に、エピタキシー基板を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板に移設する光デバイス層移設工程とを含み、光デバイス層移設工程は、複合基板に超音波振動を付与して実施するので、バッファー層破壊工程においてバッファー層が十分に破壊されていない場合でもエピタキシー基板を光デバイス層から容易に剥離して光デバイス層を移設基板に移設することができる。
また、光デバイス層移設工程は複合基板に超音波振動を付与して実施するので、光デバイスの品質を向上させるためにエピタキシー基板の表面に複数の微細な凹凸が形成されている場合においてもエピタキシー基板を光デバイス層から容易に剥離して光デバイス層を移設基板移設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明によるリフトオフ方法によって移設基板に移し替えられる光デバイス層が形成された光デバイスウエーハの斜視図および要部拡大断面図。
【
図2】本発明によるリフトオフ方法における移設基板接合工程を示す説明図。
【
図3】本発明によるリフトオフ方法におけるバッファー層破壊工程を実施するためのレーザー加工装置の斜視図。
【
図4】本発明によるリフトオフ方法のバッファー層破壊工程を示す説明図。
【
図5】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第1の
参考例を示す説明図。
【
図6】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
1の実施形態を示す説明図。
【
図7】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
2の実施形態を示す説明図。
【
図8】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
3の実施形態を示す説明図。
【
図9】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
4の実施形態を示す説明図。
【
図10】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
5の実施形態を示す説明図。
【
図11】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
2の参考例を示す説明図。
【
図12】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
3の参考例を示す説明図。
【
図13】本発明によるリフトオフ方法における光デバイス層移設工程の第
6の実施形態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明によるリフトオフ方法の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1の(a)および(b)には、本発明によるリフトオフ方法によって移設基板に移し替えられる光デバイス層が形成された光デバイスウエーハの斜視図および要部拡大断面図が示されている。
図1の(a)および(b)に示す光デバイスウエーハ2は、直径が50mmで厚みが600μmの円板形状であるサファイア基板からなるエピタキシー基板21の表面21aにn型窒化ガリウム半導体層221およびp型窒化ガリウム半導体層222からなる光デバイス層22がエピタキシャル成長法によって形成されている。なお、エピタキシー基板21の表面にエピタキシャル成長法によってn型窒化ガリウム半導体層221およびp型窒化ガリウム半導体層222からなる光デバイス層22を積層する際に、エピタキシー基板21の表面21aと光デバイス層22を形成するn型窒化ガリウム半導体層221との間には窒化ガリウム(GaN)からなる厚みが例えば1μmのバッファー層23が形成される。このように構成された光デバイスウエーハ2は、図示の実施形態においては光デバイス層22の厚みが例えば10μmに形成されている。なお、光デバイス層22は、
図1の(a)に示すように格子状に形成された複数のストリート223によって区画された複数の領域に光デバイス224が形成されている。
【0013】
上述したように光デバイスウエーハ2におけるエピタキシー基板21を光デバイス層22から剥離して移設基板に移し替えるためには、光デバイス層22の表面22aに移設基板を接合する移設基板接合工程を実施する。即ち、
図2の(a)、(b)および(c)に示すように、光デバイスウエーハ2を構成するエピタキシー基板21の表面21aに形成された光デバイス層22の表面22aに、厚みが1mmの銅基板からなる移設基板3を金錫(AuSn)からなる接合材層4を介して接合する。なお、移設基板3としてはモリブデン(Mo)、銅(Cu)、シリコン(Si)等を用いることができ、また、接合材層4としてはAuSn(金錫)、金(Au)、,白金(Pt)、クロム(Cr)、インジウム(In)、パラジウム(Pd)等を用いることができる。この移設基板接合工程は、エピタキシー基板21の表面21aに形成された光デバイス層22の表面22aまたは移設基板3の表面3aに上記接合材を蒸着して厚みが3μm程度の接合材層4を形成し、この接合材層4と移設基板3の表面3aまたは光デバイス層22の表面22aとを対面させて圧着することにより、光デバイスウエーハ2を構成する光デバイス層22の表面22aに移設基板3の表面3aを接合材層4を介して接合して複合基板200を形成する。
【0014】
上述したように光デバイスウエーハ2を構成する光デバイス層22の表面22aに移設基板3の表面3aを接合材層4を介して接合し複合基板200を形成したならば、エピタキシー基板21の裏面側からバッファー層23にエピタキシー基板21に対しては透過性を有しバッファー層23に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、バッファー層を破壊するバッファー層破壊工程を実施する。このバッファー層破壊工程は、
図3に示すレーザー加工装置5を用いて実施する。
図3に示すレーザー加工装置5は、被加工物を保持するチャックテーブル51と、該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52を具備している。チャックテーブル51は、被加工物を吸引保持するように構成されており、図示しない加工送り手段によって
図3において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに、図示しない割り出し送り手段によって
図3において矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
【0015】
上記レーザー光線照射手段52は、実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでいる。ケーシング521内には図示しないパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。上記ケーシング521の先端部には、パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器522が装着されている。なお、レーザー光線照射手段52は、集光器522によって集光されるパルスレーザー光線の集光点位置を調整するための集光点位置調整手段(図示せず)を備えている。
【0016】
上記レーザー加工装置5を用いてバッファー層破壊工程を実施するには、
図3に示すようにチャックテーブル51の上面(保持面)に上記複合基板200の移設基板3側を載置する。そして、図示しない吸引手段によってチャックテーブル51上に複合基板200を吸着保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル51上に保持された複合基板200は、光デバイスウエーハ2を構成するエピタキシー基板21の裏面21bが上側となる。このようにチャックテーブル51上に複合基板200を吸引保持したならば、図示しない加工送り手段を作動してチャックテーブル51をレーザー光線照射手段52の集光器522が位置するレーザー光線照射領域に移動し、一端(
図4の(a)において左端)をレーザー光線照射手段52の集光器522の直下に位置付ける。そして、
図4の(b)で示すように集光器522から照射されるパルスレーザー光線のデフォーカス状態のスポット(S)をバッファー層23に合わせる。次に、レーザー光線照射手段52を作動して集光器522からパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル51を
図4の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして、
図4の(c)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光器522の照射位置にエピタキシー基板21の他端(
図4の(c)において右端)が達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル51の移動を停止する。このレーザー光線照射工程をバッファー層23の全面に対応する領域に実施する。
なお、上記バッファー層破壊工程は、集光器522をエピタキシー基板21の最外周に位置付け、チャックテーブル51を回転しつつ集光器522を中心に向けて移動することによりバッファー層23の全面にパルスレーザー光線を照射してもよい。
【0017】
上記バッファー層破壊工程は、例えば以下の加工条件で実施される。
光源 :YAGレーザー
波長 :257nm
繰り返し周波数 :50kHz
平均出力 :0.12W
パルス幅 :100ps
スポット径 :70μm
デフォーカス :1.0(エピタキシー基板21の裏面にレーザー光線の集
光点を位置付けた状態で集光器522を1mmエピタキシ
ー基板21に近付ける。)
加工送り速度 :600mm/秒
【0018】
上述したバッファー層破壊工程を実施したならば、エピタキシー基板21を光デバイス層22から剥離して光デバイス層22を移設基板3に移設する光デバイス層移設工程を実施する。
光デバイス層移設工程の第1の
参考例について、
図5を参照して説明する。
バッファー層破壊工程が実施された複合基板200の移設基板3側を載置し、図示しない吸引手段を作動することにより複合基板200を保持テーブル6上に吸引保持する。従って、保持テーブル6上に吸引保持された複合基板200は、エピタキシー基板21の裏面21bが上側となる。次に、
図5の(b)に示すように吸引パッド7の下面である吸引面を保持テーブル6上に吸引保持された複合基板200を構成するエピタキシー基板21の裏面21bに載置するとともに、図示しない吸引手段を作動することにより吸引パッド7の下面である吸引面にエピタキシー基板21の裏面21bを吸引する。そして、保持テーブル6に配設された図示しない超音波振動手段を作動して移設基板3の裏面に超音波振動を付与するとともに、吸引パッド7に配設された図示しない超音波振動手段を作動してエピタキシー基板21の裏面21bに超音波振動を付与せしめる。次に、
図5の(b)に示すように吸引パッド7を保持テーブル6から離反する方向に引き上げる。なお、移設基板3の裏面およびエピタキシー基板21の裏面に付与する超音波振動は、例えば20kHzに設定されている。このように複合基板200に超音波振動を付与せしめて吸引パッド7を保持テーブル6から離反する方向に引き上げるので、上述したバッファー層破壊工程においてバッファー層23が十分に破壊されていない場合でも、
図5の(c)に示すようにエピタキシー基板21を光デバイス層22から容易に剥離して光デバイス層22を移設基板3に移設することができる。なお、上述した第1の
参考例においては、移設基板3の裏面およびエピタキシー基板21の裏面に超音波振動を付与する例を示したが、いずれか一方の面でもよい。
【0019】
次に、光デバイス層移設工程の第
1の実施形態について、
図6を参照して説明する。
図6に示す第
1の実施形態は、上記
図5に示す第1の
参考例と同様に
図6の(a)に示すように保持テーブル6上に上述したバッファー層破壊工程が実施された複合基板200の移設基板3側を載置し、図示しない吸引手段を作動することにより複合基板200を保持テーブル6上に吸引保持する。次に、
図6の(b)に示すように吸引パッド7の下面である吸引面を保持テーブル6上に吸引保持された複合基板200を構成するエピタキシー基板21の裏面21bに載置するとともに、図示しない吸引手段を作動することにより吸引パッド7の下面である吸引面にエピタキシー基板21の裏面21bを吸引する。そして、保持テーブル6に配設された図示しない超音波振動手段を作動して移設基板3の裏面に超音波振動を付与するとともに、吸引パッド7に配設された図示しない超音波振動手段を作動してエピタキシー基板21の裏面21bに超音波振動を付与せしめる。次に、
図6の(b)に示すようにエピタキシー基板21と移設基板3との境界部であるバッファー層23に楔8を挿入していくとともに吸引パッド7を保持テーブル6から離反する方向に引き上げる。なお、移設基板3の裏面およびエピタキシー基板21の裏面に付与する超音波振動は、例えば20kHzに設定されている。このように複合基板200に超音波振動を付与せしめるとともにエピタキシー基板21と移設基板3との境界部であるバファー層23に楔8を挿入しつつ吸引パッド7を保持テーブル6から離反する方向に引き上げるので、上述したバッファー層破壊工程においてバッファー層23が十分に破壊されていない場合でも、
図6の(c)に示すようにエピタキシー基板21を光デバイス層22から容易に剥離して光デバイス層22を移設基板3に移設することができる。なお、上述した第
1の実施形態においては、移設基板3の裏面およびエピタキシー基板21の裏面に超音波振動を付与する例を示したが、いずれか一方の面でもよい。
【0020】
次に、光デバイス層移設工程の第
2の実施形態について、
図7を参照して説明する。
図7に示す第
2の実施形態は、保持テーブル6上に上述したバッファー層破壊工程が実施された複合基板200の移設基板3側を載置し、図示しない吸引手段を作動することにより複合基板200を保持テーブル6上に吸引保持する。次に、吸引パッド7の下面である吸引面を保持テーブル6上に吸引保持された複合基板200を構成するエピタキシー基板21の裏面21bに載置するとともに、図示しない吸引手段を作動することにより吸引パッド7の下面である吸引面にエピタキシー基板21の裏面21bを吸引する。そして、エピタキシー基板21と移設基板3との境界部であるバッファー層23に挿入する楔8に超音波振動を付与したものであり、更にエピタキシー基板21の剥離効果が得られる。
【0021】
次に、光デバイス層移設工程の第
3の実施形態について、
図8を参照して説明する。
図8に示す第
3の実施形態は、
図7に示す第
2の実施形態における移設基板3の裏面および/またはエピタキシー基板21の裏面に第1の超音波振動を付与するとともに、エピタキシー基板21と移設基板3との境界部であるバッファー層23に挿入する楔8に第2の超音波振動を付与したものである。なお、移設基板3の裏面および/またはエピタキシー基板21の裏面に付与する第1の超音波振動と楔8に付与する第2の超音波振動は異なる周波数であることが望ましい。例えば、移設基板3の裏面および/またはエピタキシー基板21の裏面に付与する第1の超音波振動の周波数は20kHzに設定し、楔8に付与する第2の超音波振動の周波数は32kHzに設定する。このように、移設基板3の裏面および/またはエピタキシー基板21の裏面に付与する第1の超音波振動の周波数と楔8に付与する第2の超音波振動の周波数を異なる周波数に設定することにより、更にエピタキシー基板21の剥離効果が得られる。
【0022】
次に、光デバイス層移設工程の第
4の実施形態について、
図9を参照して説明する。
図9に示す第
4の実施形態は、
図7に示す第
2の実施形態における楔8の先端に開口する細孔81を設け、該細孔81からバッファー層23にエアーを噴出するようにしたものである。
【0023】
次に、光デバイス層移設工程の第
5の実施形態について、
図10を参照して説明する。
図10に示す第
5の実施形態は、
図9に示す第
4の実施形態における楔8に設けられた細孔81からバファー層23に水を噴出するようにしたものである。
【0024】
次に、光デバイス層移設工程の第
2の参考例について、
図11を参照して説明する。
図11に示す第
2の参考例は、水槽9に配設された保持テーブル91上に上述したバッファー層破壊工程が実施された複合基板200の移設基板3側を載置し、図示しない吸引手段を作動することにより複合基板200を保持テーブル91上に吸引保持する。従って、保持テーブル91上に吸引保持された複合基板200は、エピタキシー基板21の裏面21bが上側となる。次に、水槽9に水90を充満させるとともに保持テーブル91に配設された図示しない超音波振動手段を作動して移設基板3の裏面に超音波振動を付与する。そして、上述した吸引パッド7等の剥離手段を用いてエピタキシー基板21を光デバイス層から剥離して光デバイス層を移設基板3に移設する。
【0025】
次に、光デバイス層移設工程の第
3の参考例について、
図12を参照して説明する。
図12に示す第
3の参考例は、バッファー層破壊工程が実施された複合基板200の移設基板3側を保持テーブル6上に載置し、図示しない吸引手段を作動することにより複合基板200を保持テーブル6上に吸引保持する。次に吸引パッド7の下面である吸引面を保持テーブル6上に吸引保持された複合基板200を構成するエピタキシー基板21の裏面に載置するとともに、図示しない吸引手段を作動することにより吸引パッド7の下面である吸引面にエピタキシー基板21の裏面を吸引する。そして、保持テーブル6に配設された図示しない加熱手段を作動して複合基板200を加熱するとともに、吸引パッド7に配設された図示しない超音波振動手段を作動してエピタキシー基板21の裏面21bに超音波振動を付与せしめる。次に上述したように吸引パッド7を保持テーブル6から離反する方向に引き上げることにより、エピタキシー基板21を光デバイス層22から容易に剥離して光デバイス層22を移設基板3に移設することができる。なお、上述した
参考例においては、エピタキシー基板21の裏面に超音波振動を付与する例を示したが、移設基板3に超音波振動を付与してもよい。
【0026】
次に、光デバイス層移設工程の第
6の実施形態について、
図13を参照して説明する。
図13に示す第
6の実施形態は、バッファー層破壊工程が実施された複合基板200の移設基板3側を保持テーブル6上に載置し、図示しない吸引手段を作動することにより複合基板200を保持テーブル6上に吸引保持する。次に吸引パッド7の下面である吸引面を保持テーブル6上に吸引保持された複合基板200を構成するエピタキシー基板21の裏面に載置するとともに、図示しない吸引手段を作動することにより吸引パッド7の下面である吸引面にエピタキシー基板21の裏面を吸引する。そして、吸引パッド7に配設された図示しない超音波振動手段を作動してエピタキシー基板21の裏面21bに第1の超音波振動を付与するとともに、保持テーブル6に配設された図示しない超音波振動手段を作動して移設基板3の裏面に第2の超音波振動を付与せしめる。なお、エピタキシー基板21の裏面に付与する第1の超音波振動と移設基板3の裏面に付与する第2の超音波振動は異なる周波数である。例えば、移設基板3の裏面に付与する第1の超音波振動の周波数は20kHzに設定し、エピタキシー基板21の裏面に付与する第2の超音波振動の周波数は32kHzに設定する。次に上述したように吸引パッド7を保持テーブル6から離反する方向に引き上げることにより、エピタキシー基板21を光デバイス層22から容易に剥離して光デバイス層22を移設基板3に移設することができる。このように、移設基板3の裏面に付与する第1の超音波振動の周波数とエピタキシー基板21の裏面に付与する第2の超音波振動の周波数を異なる周波数に設定することにより、更にエピタキシー基板21の剥離効果が得られる。
【符号の説明】
【0027】
2:光デバイスウエーハ
21:エピタキシー基板
22:光デバイス層
23:バッファー層
3:移設基板
4:接合材層
200:複合基板
5:レーザー加工装置
51:レーザー加工装置のチャックテーブル
52:レーザー光線照射手段
522:集光器
6:保持テーブル
7:吸引パッド
8:楔
9:水槽