特許第6367000号(P6367000)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許6367000生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液
<>
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000002
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000003
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000004
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000005
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000006
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000007
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000008
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000009
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000010
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000011
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000012
  • 特許6367000-生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367000
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20180723BHJP
   C01B 33/141 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20180723BHJP
   C12N 11/00 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C01B33/141
   B01J31/02 102M
   !C12N11/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-107106(P2014-107106)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-221872(P2015-221872A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 且也
(72)【発明者】
【氏名】永田 夫久江
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁美
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−040273(JP,A)
【文献】 特開2003−160693(JP,A)
【文献】 特開2011−192396(JP,A)
【文献】 特開2011−192397(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00−10/00
C09D101/00−201/10
B01J 31/02
C01B 33/141
C12N 11/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量15kDa〜100kDaのポリL−リジンを反応触媒に用いて、中性条件下、静置界面反応によりシリコンアルコキシドを加水分解することによりシリカゾル液からなるコーティング液を得ることを特徴とするコーティング液の製造方法。
【請求項2】
前記コーティング液は、生体材料用のコーティング液であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング液の製造方法。
【請求項3】
平均分子量15kDa〜100kDaのポリL−リジンと、シリカとを含み、中性であるシリカゾル液からなるコーティング液であって、前記シリカゾル液中のシリカ濃度が6重量%以下であることを特徴とするコーティング液。
【請求項4】
体材料がさらに混合されていることを特徴とする請求項3に記載のコーティング液。
【請求項5】
前記シリカゾル液中のコロイド粒径が200nmから900nmであることを特徴とする請求項3又は4に記載のコーティング液。
【請求項6】
前記シリカゾル液中のシリカ濃度が4〜5重量%であることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のコーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料用コーティング液の製造方法及び該方法により製造されたコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNAタンパク質、ペプチド、抗体、または細胞などの生体材料を基材にコーティングして、バイオセンサーやマイクロアレイとするためのコーティグ液はいくつか知られている。
しかしながら、コーティイング液が有機物の場合は耐性が弱い。そこで、光硬化性又は熱硬化性ポリマーを用いたコーティグ液を用いて、耐性を有する硬化膜を得ることが提案されている(非特許文献1)が、紫外線を照射したり、加熱したりせねばならず、生体材料には不向きな場合が少なくない。一方、コーティング液として、シリカゾルからなる無機物を用いることで、耐性のあるコーティングを得ることも提案されている。
【0003】
しかしながら、通常、シリカゾルは、水性媒体中において、強酸又は強塩基の存在下で、テトラエトキシシラン(TEOS)などのシリコンアルコキシドの加水分解反応により製造されるが、残存する強酸や強塩基が、生体材料を変性させて悪い影響を及ぼすので、例えば、酵素活性を保持した状態で基材にコーティングするには不向きである。
このため、例えば、特許文献1に記載されているように、生体材料をコーティングするには、例えば、酸性ゾルの貯蔵溶液を作成して必要になるまで貯蔵しておき、用いる際に中和して、得られた中性懸濁液を用いるなどの方法を採用せねばならず、このような事情から、中性でシリカゾルを製造することが望まれている。
【0004】
また、前記のシリコンアルコキシドから強酸又は強塩基を反応触媒に用いて、シリカゾルを製造する場合、通常は機械的に撹拌しながら加水分解反応を行うが、得られたシリカゾル中のSiO2濃度が高く、コーティング液には不向きであるため、SiO2濃度が低いシリカゾル液を簡便に得る方法が望まれている。
さらに、従来法で得られたシリカゾルは、その安定性が悪いために、加水分解反応で生成されたアルコールが出てしまうことがあるが、アルコールも生体材料には好ましくない成分であるため、シリカゾルの安定性を高めて、生成するアルコール量を低く抑えることが望まれている。
【0005】
一方、発明者らは、ゾルゲル反応を用いてシリカゲル内に酵素を入れる方法において、用いるシリカゲルの合成方法を検討し、合成ペプチドを加水分解・重合用触媒として用いた静置反応により、温和な条件でシリカゲルの合成を行うことにより、ゲルの合成と同時に薬物や酵素などの同時封入が可能となることを報告している(非特許文献2)。しかしながら、該報告では、シリカゾルを用いたコーティング液についてまでは何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−507498号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. de Jong, R. G. H. Lammertink and M. Wessling, Membranes and microfluidics: a review, Lab Chip, 2006, 6, 1125-1139.
【非特許文献2】Yuki KAWACHI, Shin-ichi KUGIMIYA, Katsuya KATO, ‘Preparation of silica hydrogels using a synthetic peptide for application as carriers for controlled drug release and mesoporous oxides’Journal of the Ceramic Society of Japan 122 [2] 134-140 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のシリカゾルコーティング液における、弱耐性や高酸性などの種々の問題点を克服して、様々な基材上に、生体材料が有する活性を低下させることなくコーティイング可能な、低濃度の生体材料用コーティング液の製造方法及びコーティング液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩基性ペプチドを反応触媒に用い、中性条件下でシリコンアルコキシドを加水分解し、極低濃度のシリカゾル液を合成することにより、酵素の活性を低下させることなく、様々な基材上に簡便にコーティングすることができるという知見を得た。
具体的には、シリコンアルコキシドからシリカゾルを作成するための反応触媒として、生体由来高分子である塩基性ペプチドを利用する。塩基性ペプチドは、強酸や強塩基触媒で行うシリカゾルゲル反応と同程度の加水分解・重合反応を中性条件下で行うことが可能である。またそのシリカゾル液中のシリカ成分をできるだけ低濃度にするため、下層にペプチド触媒水溶液、上層にシリコンアルコキシド溶液の静置界面反応を行うことにより、
長時間ゲル化しない極低濃度のシリカゾル液を得ることができ、得られた中性シリカゾル液を用いた酵素コーティング剤としての利用が可能となる。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]塩基性ペプチドを反応触媒に用いて、中性条件下、静置界面反応によりシリコンアルコキシドを加水分解することによりシリカゾル液からなるコーティング液を得ることを特徴とするコーティング液の製造方法。
[2]前記コーティング液は、生体材料用のコーティング液であることを特徴とする[1]に記載のコーティング液の製造方法。
[3][1]又は[2]に記載の製造方法で得られたシリカゾル液からなるコーティング液であって、前記シリカゾル液中のシリカ濃度が6質量%以下であることを特徴とするコーティング液。
[4]前記コーティング液に、生体材料が混合されていることを特徴とする請求項3に記載のコーティング液。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られたシリカゾル液は、強酸や強塩基を用いずに製造されたものであるため、これまでコーティングが困難であった酵素を簡単にガラス基材やポリマー基材上にコーティングすることでき、バイオセンサーなどの適応範囲を大きく広げることが可能となる。また、本発明により得られたシリカゾル液は、SiO2濃度が高すぎないので、そのままコーティング液として用いることができるばかりでなく、長時間ゾル化状態を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一例を模式的に示す図
図2】静置法によるシリカゾル液の作成法の概要及びシリカゾル中のコロイド粒径の経時変化を示す図
図3】本発明のコーティング液を用いて、ガラス基板上へ酵素コーティングした状態を撮影した写真
図4】コーティング層のFT−IR図
図5】コーティング液の酵素活性と乾燥時間の関係を示す図
図6】基板上への乾燥防止用緩衝液の滴下の有無と保存期間の関係を示す図
図7】コーティング層内酵素の高次構造の解析結果及びグルコース酸化酵素の立体構造を示す図
図8】コーティング酵素のリサイクル利用回数の検討結果を示す図
図9】コーティング酵素の感度測定
図10】酵素コーティング液のドット・コーティングを撮影した写真
図11】ポリイミド基板への酵素コーティングにおける酵素活性を示す図
図12】フィルタペ−パーへの酵素コーティングにおけるリサイクル活性評価を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、塩基性ペプチドを反応触媒に用いて、中性条件下、静置界面反応によりシリコンアルコキシドを加水分解することにより得られたシリカゾル液を、生体材料用コーティング液とすることを特徴とするものである。
【0014】
図1は、本発明の例を模式的に示す図であり、塩基性ポリプチドとしてポリリジンを用いて中性条件下で調整したシリカゾル液を使って、ガラス基板やポリイミドなどのポリマー基板上にグルコース酸化酵素(GOX)をコーティングした様子を示すものである。
【0015】
本発明において、原料であるシリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどが用いられ、好ましくは、テトラメトキシシラン(TMOS)であり、より好ましくは、テトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0016】
また、塩基性ペプチドとしては、ポリL-リジン、ポリD-リジン、ポリL-アルギニン、ポリD-アルギニン、ポリL-ヒスチジン、ポリD-ヒスチジンなどが用いられ、好ましくは、ポリL-リジンである。またそれぞれのペプチドの持つ分子量は、15kDa〜100kDaの範囲で利用可能である。
【0017】
本発明においては、静置界面反応により、すなわち、下層に前記塩基性ペプチド水溶液を、上層に前記シリコンアルコキシドを、それぞれ配置し、静置した状態で加水分解反応を行う。
本発明において、下層に配置する塩基性ペプチドの量は、上層のシリコンアルコキシドに対して、同量mL(例えば3mLシリコンアルコキシド/3mLペプチド溶液)であり、また、塩基性ペプチド水溶液の濃度は、0.05質量%であることが好ましい。
また、本発明における反応温度は、20〜25℃、反応時間は、2〜7日間程度である。
【0018】
本発明の方法により得られるシリカゾル液中のSiO2濃度は、6質量%以下、好ましくは4〜5質量%であり、そのままコーティング液として用いることにより、種々の基材にコーティングすることができる。
また、本発明の方法により得られるシリカゾル液は、中性であり、かつ、アルコール量を低く抑えることができるために、酵素などの生体材料と混合して、生体材料用コーティング液とすることができる。
混合される生体材料は、特に制限されないが、例えば、酵素、抗体、核酸(DNA、RNA)、動物細胞、植物細胞、細菌類などが例としてあげられる。
コーティング液に、生体材料を混合する方法は、まず生体材料溶液を作成し、その溶液と上述の方法で作成したシリカゾル液を混合して、軽く攪拌する。また、その混合比は、シリカゾル液100μLに対して、生体材料溶液100μL程度が適当である。
【0019】
本発明の方法により得られるコーティング液は、透明であり、コーティング後の表面の分析方法には、分光検出法や重量測定法などの様々な定性・定量方法が適応可能である。
【0020】
本発明の方法により得られるコーティング液は、シリカゾル中のSiO2濃度が高くならないので、スピンコーティング法、ディップコーティング法、ドット・コーティング法など、通常使用されているゾル溶液の種々な既存の方法を用いて、各種の基材にコーティングすることができる。
そのために、本発明のコーティング液を用いてコーティングする基材は、特に限定されず、ガラス、石英、セラミックス、チタンなどの金属又はそれらの合金などの無機材料からなる基材、及びポリイミド、ポリメタクリレートなどの有機材料からなる基材に、コーティングすることができる。
【0021】
また、本発明の方法により得られるコーティング液は、塗布後、室温乾燥することにより、コーティング膜を形成することができるので、耐熱性のないポリマー等からなる基材にもコーティングすることができる。
本発明のコーティング液を、酵素などの生体材料用のコーティング液として用いる場合、シリカゾルの中の水分が重要であるため、塗布後の乾燥時間は要である。具体的には、塗布後の乾燥時間は2〜4時間程度であり、室温下で3時間が特に好ましい。乾燥時間が短い場合には、該コーティング液に混合される酵素などの生体材料が充分な固定ができない。また、乾燥時間が4時間を超えると、コーティング液中の生体材料が酵素の場合、その活性が失活してしまう。
【0022】
また、本発明においては、形成されたコーティング膜におけるシリカゾル中の水分を維持するために、基材上に、あらかじめ乾燥防止用の緩衝液を滴下して、形成されたコーティング膜の乾燥を防止することが有効である。
該乾燥防止用緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、MOPSO(2-Hydroxy-3- morpholino-1-propanesulfonic acid)等を用いることができるが、特に、リン酸緩衝液が好ましい。
【0023】
以上のとおり、本発明は、活性の不安定な生体材料を効率的に基板上にコーティングすることが可能なシリカコーティング液を提供するものであり、本発明のシリカコーティング液を用いることで、酵素などの生体材料の活性を高度に維持した状態で、ガラスやポリマーなど基板上やフィルター細孔内へ簡単にコーティングすることが可能となる。また、本発明によれば、コーティングされた酵素は、反応を繰りかえし使用することができ、コーティング層からの酵素の漏出を防止することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1:シリカゾル液の作成)
図2は、静置法によるシリカゾル液の作成法の概要を示す図である。
図中、(a)に示すように、1.5mgのポリリジン(シグマ-アルドリッチ社製 ポリL−リジン、平均分子量15kDa、30kDa及び100kDaの3種)を3mLの水に溶解させ、上層にトリエトキシシラン(TEOS,信越化学社製)3mLをゆっくりと加え、静置した状態で20℃の恒温槽で反応を行った。反応はTEOSと水の界面から進行し、3日後に、(b)に示すように、下層に濁りのある液体が生成された。
【0026】
図中、(c)は、平均分子量15kDaから作成されたシリカゾル中のコロイド粒径の経時変化を示し、(d)は、平均分子量100kDaから作成されたシリカゾル中のコロイド粒径の経時変化を示す。調直後では、両分子量サイズから作成されたコロイド粒径は、約200nm程度であるが、9日後、平均分子量15kDaから作成されたシリカゾル中のコロイド粒径は、2000nm以上に成長してゲル化した。また平均分子量100kDaから作成されたシリカゾル中のコロイド粒径は、9日後500nm、23日後900nmを示し、ゾル溶液として長時間安定に存在することが明らかとなった。
【0027】
界面を乱さないように、上澄みに残存するTEOSをゆっくりと除去して、得られた濁りのある液体を、別の容器に移す。得られたシリカゾルの濃度は、4〜5質量%程度である。
【0028】
(実施例2:酵素コーティング液の作成)
実施例1で得られたシリカゾル15μLに、1mg/mLリン酸緩衝液(pH7.0)の濃度で作成したシグマ−アルドリッチ社製のグルコース酸化酵素溶液15mLを混合してコーティング液を作成した。
比較のために、酵素を含まないコーティング液を作成し、酵素なしコーティング液とした。
【0029】
(実施例3:ガラス基板へのコーティング)
得られた酵素コーティイング液を用いて、洗浄したガラス基板上にコーティングした。
コーティング法は、30〜50μL程度の酵素コーティング液をガラス基板上に塗布コーティングして、3時間、室温で乾燥させた。乾燥後の膜厚は100μm程度であった。
【0030】
図3は、本発明のコーティング液を用いて、ガラス基板上へ酵素コーティングした状態を撮影した写真であり、図中、(A)は、コーティングあり、(B)は、コーティングなしを、それぞれ示している。
本発明の酵素コーティング液が透明であることが分かる。
【0031】
得られたコーティング層について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(日本分光製 JASCO MFT-2000 FT-IR spectrophotometer)を用いて分析した。
図4は、コーティング層のFT−IR図であり、実線で示すものが、酵素コーティング液であり、破線で示すものが、酵素なしコーティング液である。
該図から、シリカが生成されていることが分かる。また、酵素を含むコーティング液からは、シリカおよび酵素由来の有機物ピーク(シリカ:1100および3400cm-1、酵素:1650および2980cm-1)が観察され、コーティング膜中に酵素が固定化されたことを示している。
【0032】
(実施例4:乾燥時間の検討)
本実施例では、乾燥時間を変化させて、乾燥時間と酵素活性の関係について検討した。
基板上の酵素コーティング層の酵素活性の測定は、実施例3と同様にして得られた乾燥後0〜5時間後のコーティング層上に、それぞれ、グルコース酸化酵素に対応する基質であるD−グルコース、4−アミノアンチピリン、フェノール及びペルオキシダーゼを含む酵素反応液を滴下して反応を開始し、5分後、酵素反応により反応液を赤色に変化させ、その吸光度(波長500nm、日本分光製 V-560)を測定することにより行った。
また、基板を洗浄し、洗浄液中の酵素活性も同様にして測定した。
【0033】
結果を図5に示す。
図中、白色(プレート)は、基板上の酵素活性であり、黒色(洗浄液)は、洗浄液中の酵素活性をそれぞれ示している。
該図から、乾燥時間が短い場合には、洗浄により、コロイド中の水分とともに酵素が脱離してしまうが、乾燥時間が3時間を超えると、コーティング液中の酵素が脱離しないものの、酵素の活性が失活してしまうことが分かる。
【0034】
(実施例5:基板の保存期間の検討)
本実施例では、前記実施例4において、3時間の乾燥で得られた基板を用いて、乾燥防止用緩衝液の滴下の有無と、保存期間の関係について検討した。なお、活性の測定方法は、実施例4と同様にして測定した。
乾燥防止用の緩衝液には、リン酸カルシウムpH7.0を用いた。
【0035】
結果を図6に示す。
図中、黒色(プレート)は、乾燥防止用緩衝液として、リン酸カルシウムpH7.0を滴下した基板の酵素活性、白色(水なし)は、乾燥防止用緩衝液を滴下しなかった基板の酵素活性、をそれぞれ示している。
図から明らかなように、乾燥防止用緩衝液を滴下した場合、4℃中で14日間程度ほとんど活性の低下が観察されなかった。しかし、乾燥防止用緩衝液を滴下しない場合では、5日程度でコーティング表面が乾燥し、酵素の活性が大きく低下した。
【0036】
(実施例6:コーティング液内の酵素の高次構造の検討)
図7は、コーティング内酵素の高次構造の解析結果を示す。
図中、(a)は酵素内(グルコース酸化酵素)に存在するトリプトファンの蛍光スペクトルを示す(島津製作所製 RF-5300PC spectrofluorophotometer)。
溶液状態の酵素(点線)とコーティング溶液内の酵素(実線)は、同じ極大蛍光波長(335nm)を示すのに対して、乾燥後のシリカコーティング層内酵素(破線)の極大蛍光波長は、大きく長波長側にシフトしていることが分かる(345nm)。
また酵素に結合することで、蛍光を発生する試薬ANSと上述3種類を混合して、同様に蛍光測定を行った。その結果を(b)に示す。
乾燥後のシリカコーティング層内酵素は、その蛍光強度を2割程度増強することが分かった。
【0037】
以上の結果から、溶液中およびコーティング液中の酵素の立体構造は大きく変化せず、酵素活性を維持することができるが、ゲルの乾燥に従って、酵素の構造が大きく変化し、その結果酵素の活性も大きく低下することが考察された。
(c)に、グルコース酸化酵素の立体構造を示す。酵素の比較的内部にトリプトファンおよび疎水性アミノ酸(黒ボール)と親水性アミノ酸(白ボール)が点在することが分かる。コーティング層が乾燥するに従って、内部に存在するトリプトファンが、酵素の立体構造の変化により外部に露出し、変性を生じ活性の低下が起こったと考えられる。
【0038】
(実施例7:コーティング酵素のリサイクル利用回数の検討)
本実施例においては、コーティング酵素のリサイクル利用回数について検討した。
図8に、分子量の異なる3種(平均分子量15kDa(−■−)、30kDa(−◆−)及び100kDa(−▲−))のポリL−リジンを用いて作成したシリカゾル液から作成した酵素コーティングのリサイクル利用について検討した結果を示す。酵素反応条件は、実施例4と同様である。
その結果、3種類のコーティングされた酵素は、いずれも9回繰りかえし使用後に、1回目と比較して、40〜50%の高活性を維持することが分かった。この結果は、シリカコーティング層内に存在する酵素は反応中に溶出する量は少量であり、繰り返して酵素反応に利用可能なことを示している。
【0039】
(実施例8:コーティング酵素の感度測定)
本実施例においては、溶液状態の酵素とコーティングされた酵素との、感度に差異が無いかどうかについて検討した。結果を図9に示す。
開発したシリカコーティング酵素を実際の酵素センサーとして利用するためには、その感度は重要である。そこで、低濃度(0.25mM)〜高濃度(8mM)のD−グルコース濃度を用いて、コーティング酵素(−■−)の活性を測定した。比較のために、溶液状の酵素(−▲−)も同時に測定した。
その結果、両酵素ともに同程度の酵素活性を示すことが分かった。つまり、シリカコーティング層に存在する酵素は、溶液状の酵素と同程度の基質感度を示すことが明らかとなった。
【0040】
(実施例9:酵素液のドット・コーティング)
図10は、酵素を溶解させたシリカコーティング液のドット・コーティング図およびその蛍光図を示す。(a)の、酵素コーティング液1μLを直径15mmの丸ガラスにドットプリントした写真から、その範囲内で、約80スポットのドット作成が可能であった。(b)に、グルコース酸化酵素をFITC蛍光色素で標識し、同様にドットプリントした部分の拡大した蛍光顕微鏡写真を示す。1ドットは、直径約500μm程度であり、比較的ドットの中央付近に酵素分子が局在していることが分かる。今後の本コーティング液の応用として、現在活発に開発されているドットプリンターへの応用可能を示唆するものであり、バイオチップやバイオセンサーへの適応が考えられる。
【0041】
(実施例10:ポリイミド基板への酵素コーティング)
本実施例では、基材として、ポリイミドを用いた。ポリイミドは耐熱性が高く、センサー基板しての利用がされている。
図11は、酵素コーティング液(silica-sol)を用いた場合と、単に酵素緩衝液(buffer)を用いた場合のポリイミド基板上での酵素活性を比較した結果である。ガラス基板上と同様に、本コーティング液を用いた場合、ポリマーであるポリイミド上においても高い酵素活性を示した。しかし、コーティング液を用いない場合では、ポリイミド上に酵素がほとんど残存することはなく、高い活性を示さなかった。この結果から、ガラス基板のみならず、ポリマーやその他の基板上において、本コーティング液は、酵素を効率的にコーティングすることが可能であった。
【0042】
(実施例11:フィルターペーパーへの酵素コーティングとリサイクル活性評価)
本実施例では、2種類のフィルターペーパーへ酵素コーティングを行い、そのリサイクル活性を評価した。
図12の左側に示すようにして、直径1cmサイズのフィルターに50μLの酵素シリカコーティング液を静置して、シリンジを使って、細孔内に充填させた。30分程度4℃で乾燥させた後、D−グルコースを含む溶液をシリンジによりフィルターに通した。ろ過後の液体中に存在する過酸化水素量を、実施例4と同様の手法で定量した。
図12に、酵素含有するシリカコーティング液を、ニトロセルロースフィルター(5μmポア) (−◆−)及びPVDFフィルター(5μmポア)(−■−)の細孔内に充填させ、連続的な酵素反応に利用した結果を示す。
その結果、ニトロセルロースフィルターの孔内に充填した酵素は、5回の繰りかえし利用においても高い活性を示すことが分かった。この結果から、ガラス基板の様な平面上のみならず、形状の複雑なファイルター細孔内においても、効率的に酵素をコーティングでき、高い酵素活性を発現することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12