特許第6367035号(P6367035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367035
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】不揮発性メモリ素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20180723BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20180723BHJP
   H01L 45/00 20060101ALI20180723BHJP
   H01L 49/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01L27/105 448
   H01L45/00 Z
   H01L49/00 Z
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-149390(P2014-149390)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-25258(P2016-25258A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(個人型研究(さきがけ))「強誘電体と機能性酸化物の融合による不揮発ナノエレクトロニクス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】澤 彰仁
(72)【発明者】
【氏名】福地 厚
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−008884(JP,A)
【文献】 特開平09−307073(JP,A)
【文献】 特開平07−014990(JP,A)
【文献】 特開平05−347422(JP,A)
【文献】 特開平06−236826(JP,A)
【文献】 特開2015−061019(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/009218(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0205448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239,27/105,45/00,49/00
G11C 11/22,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、導電性を有する酸化物の下部電極と、強誘電酸化物のバリア層と、常誘電酸化物の単原子層膜と金属の上部電極とからなる積層体であって、バリア層と単原子層膜によりトンネル障壁が構成され、その電流‐電圧特性が「8の字型」のヒステリシスを示すことを特徴とする不揮発性メモリ素子。
【請求項2】
前記強誘電酸化物のバリア層はBaTiO3であることを特徴とする請求項1に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項3】
上部電極の金属は、Coであることを特徴とする請求項1又は2に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項4】
前記常誘電酸化物は、アルカリ土類金属の酸化物であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項5】
前記常誘電酸化物の単原子層膜は、単原子層BaO膜である請求項に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項6】
不揮発性メモリ素子の製造方法であって、
基板の上に導電性を有する酸化物の下部電極を積層し、
下部電極の上に強誘電酸化物のバリア層を積層し、
バリア層の上に常誘電酸化物の単原子層膜を積層し、
単原子層膜の上に金属の上部電極を積層し、
バリア層と単原子層膜によりトンネル障壁が構成され、その電流‐電圧特性が「8の字型」のヒステリシスを示すことを特徴とする不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項7】
前記バリア層の表面に前記常誘電酸化物の二原子層からなる薄膜を堆積し、前記堆積した薄膜に水による攪拌処理を施して前記バリア層の上に前記常誘電酸化物の単原子層膜を積層したことを特徴とする請求項に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項8】
前記強誘電酸化物のバリア層はBaTiO3であることを特徴とする請求項又はに記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項9】
上部電極の金属は、Coであることを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項10】
前記常誘電酸化物は、アルカリ土類金属の酸化物であることを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項11】
前記常誘電酸化物の単原子層膜は、単原子層BaO膜である請求項10に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル抵抗変化型不揮発性メモリ素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性の強誘電酸化物のp型の半導体Bi1-xFeO3(1<x<0)と金属のPtを使用し、Bi1-xFeO3とPtの間に形成されるショットキー型のバリア障壁高さが強誘電電気分極に依存することを利用して、不揮発抵抗スイッチングメモリ機能を有するショットキー接合の抵抗変化型の不揮発性メモリ素子が開示されている(特許文献1)。
【0003】
また強誘電体を利用した抵抗変化型の不揮発性メモリ素子として、上部電極にCo、バリア層に膜厚3nmのBaTiO3、下部電極にLa0.67Sr0.33MnO3、基板にNdGaO3単結晶基板を用いた構造のトンネル接合素子を作製して、不揮発メモリ効果を得たとして2例が開示されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
この場合、電気分極が下部電極(La0.67Sr0.33MnO3)を向いている時が高抵抗状態であるとする非特許文献1に反して、非特許文献2では、電気分極が上部電極(Co)を向いているときが高抵抗状態であると報告されている。
【0005】
いずれも同じ構成でありながら、その相違の根拠が示されていないことから、本質的に強誘電特性と対応した抵抗状態変化メモリ効果の動作機構(物理現象)の制御ができていないことがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−008884
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Chanthbouala, et al. Nature Mater. Vol.11, 860-864 (2012).
【非特許文献1】D.J.Kim, et al. Nano Letters, vol.12, 5697-5702 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の、強誘電酸化物のバリア層を用いたトンネル抵抗変化型の不揮発性メモリ素子作製技術では、抵抗変化に必須となる、強誘電酸化物の表面状態、および金属電極との界面状態が一定でなく、その極性および大きさを安定して制御することが困難であった。
【0009】
本発明では、素子の示す不揮発抵抗スイッチングにおける抵抗変化の大きさ、およびその極性(正負いずれの電圧で抵抗が増加または減少するか)が制御され安定したメモリ素子動作特性を有するトンネル抵抗変化型の不揮発性メモリ素子、およびその作製方法が課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
強誘電酸化物のバリア層と金属電極との間に、常誘電酸化物であるアルカリ土類酸化物等の単原子層膜を挿入し、スイッチングに必要な、かつ、室温大気下で安定した強誘電酸化物の一様かつ一定の表面状態を形成する。
具体的には、以下のトンネル抵抗変化型の不揮発性メモリ素子とその製造方法を提供する。
【0011】
(1)基板と、金属の下部電極と、強誘電酸化物のバリア層と、常誘電酸化物の単原子層膜と金属の上部電極とからなる積層体であって、バリア層と単原子層膜によりトンネル障壁が構成され、その電流‐電圧特性が「8の字型」のヒステリシスを示すことを特徴とする不揮発性メモリ素子。
【0012】
(2)前記常誘電酸化物の単原子層膜は、前記常誘電酸化物の二原子層からなる薄膜を前記バリア層に堆積し、水による攪拌処理を施して作製したことを特徴とする(1)に記載の不揮発性メモリ素子。
【0013】
(3)前記強誘電酸化物のバリア層は膜厚2nm-5nmのBaTiO3であることを特徴とする(1)または(2)に記載の不揮発性メモリ素子。
【0014】
(4)上部電極の金属は、Coであることを特徴とする(1)乃至(3)に記載の不揮発性メモリ素子。
【0015】
(5)前記常誘電酸化物は、アルカリ土類金属の酸化物であることを特徴とする(1)乃至(4)に記載の不揮発性メモリ素子。
(6)前記常誘電酸化物の単原子層膜は、単原子層BaO膜である(3)に記載の不揮発性メモリ素子。
【0016】
(7)不揮発性メモリの製造方法であって、
基板の上に金属の下部電極を積層し、
下部電極の上に強誘電酸化物のバリア層を積層し、
バリア層の上に常誘電酸化物の単原子層膜を積層し、
単原子層膜の上に金属の上部電極を積層し、
バリア層と単原子層膜によりトンネル障壁が構成され、その電流‐電圧特性が「8の字型」のヒステリシスを示すことを特徴とする不揮発性メモリ素子の製造方法。
【0017】
(8)前記バリア層の表面に前記常誘電酸化物の二原子層からなる薄膜を堆積し、前記堆積した薄膜に水による攪拌処理を施して前記バリア層の上に前記常誘電酸化物の単原子層膜を積層したことを特徴とする(7)に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【0018】
(9)前記強誘電酸化物のバリア層は膜厚2nm-5nmのBaTiO3であることを特徴とする(7)又は(8)に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【0019】
(10)上部電極の金属は、Coであることを特徴とする(7)乃至(9)に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【0020】
(11)前記常誘電酸化物は、アルカリ土類金属の酸化物であることを特徴とする(7)乃至(10)に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
(12)前記常誘電酸化物の単原子層膜は、単原子層BaO膜である(9)に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
試料の作製条件に左右されず、再現性・制御性良く不揮発メモリ特性を得ることができる。
特に、素子作製に用いる基板材料が、シリコンのように、バリア層である強誘電酸化物と全く結晶構造が異なるため表面状態が制御できないようなものであっても、スイッチングに必要な強誘電酸化物の表面状態を得ることができる。
【0022】
これにより、不揮発性メモリ素子における抵抗スイッチング比およびその極性を制御した信頼性のあるメモリ動作を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明素子構造と従来素子構造の断面図である。
図2図2(a)は、二原子層BaO膜/BaTiO3/La0.6Sr0.4MnO3積層構造が、二原子層BaO膜の堆積量に依存して単原子層BaO膜/BaTiO3/La0.6Sr0.4MnO3積層構造に転換されることを示した図であり、図2(b)は、本発明素子の電流(I)‐電圧(V)特性を示す図であり、二原子層BaO膜の堆積量は、0,1,2分子層として作製した三種類の素子について測定した図である。(電圧矢印は電圧スイープの方向(順序)である。Vmaxは最大印加電圧で、Vmax=5Vは、電圧を0V→-5V→5V→0Vのように電圧をスイープしたことを表す。)図2(c)本発明素子の高抵抗および低抵抗状態における抵抗値(RH,RL)の比率(RH/RL)が、単原子層BaO膜の被覆率増加に伴い向上することを示した図である。
図3図3(a)は、従来型素子と、本発明素子の電流(I)‐電圧(V)特性の違いを示す比較図であり、図3(b)は、BaTiO3/La0.6Sr0.4MnO3 積層構造の表面の模式図であって、最表面に存在する二原子層BaO膜が、単原子層BaO膜に転換される機構を示している。
図4図4は、抵抗変化メモリ効果が発現している上部電極(Co)/常誘電層/バリア層(BaTiO3)の界面のバンド構造の模式図である(EFはフェルミ準位、矢印は強誘電電気分極の向きを表す。)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、図を用いて説明する。
図中において、同一の要素には同一符号を付す。
また、本文説明中の分子式の元素表記はその頭文字だけに省略されたり、分子式の原子数は省略されたりすることがある。
また、図1の素子構造は、積層の概念図であって、各層の厚さや幅は、適宜、決めることができる。
【実施例1】
【0025】
図1(a)は、本発明に係る強誘電酸化物をバリア層として使用しバリア層と単原子層膜によりトンネル障壁を構成した不揮発性メモリ素子の断面図であり、その作製方法は次のとおりである。
【0026】
まず絶縁体でBaTiO3と同一の結晶構造を有するSrTiO3酸化物単結晶基板上に、オーミック電極となるLa0.6Sr0.4MnO3のような高い導電性を有する酸化物を、基板温度750℃、酸素圧力1mTorrの作製条件で、パルスレーザー堆積法により30nm厚に形成した。
続いてその上に、基板温度650℃、酸素圧力35mTorrの作製条件で、強誘電バリア層となるBaTiO3を3nm厚に形成した。
さらに、常誘電酸化物の単原子層膜を得るための前駆体として、二原子層BaO膜を基板温度600℃、酸素圧力35mTorrの作製条件で0〜2分子層(1分子層=0.55nm)の厚さで堆積した。
【0027】
次に、二原子層BaO膜を常誘電酸化物の単原子層BaO膜に転換させるために、試料を空気中、水中において10分間超音波洗浄することにより攪拌処理した。
【0028】
さらにその上に、リフトオフで金属電極を作製するために、まずフォトリソグラフィーにより、4μm×4μmの大きさの素子の反転レジストパターンを作製し、次に室温で電子線蒸着によりCoのような金属を10nm厚形成し、さらに酸化防止用にAuのような金属を10nm厚に形成し、SrTiO3酸化物単結晶基板上に、Au/Co/単原子層BaO膜/BaTiO3/La0.6Sr0.4MnO3積層構造を作製した。
【0029】
常誘電酸化物である単原子層BaO膜の表面被覆率は、前駆体である二原子層BaOの膜厚を変えることで調整した。
図2(a)は、さまざまな膜厚をもった二原子層BaOをBaTiO3/La0.6Sr0.4MnO3積層構造の上に堆積させ、水で10分超音波洗浄した後に形成された単原子層BaO膜の表面被覆率を示したものである。
【0030】
表面被覆率は、水で超音波洗浄した後、Co電極を付けずに、内殻光電子分光のBa3d準位の化学シフトを測定することにより決定した。二原子層BaOの堆積量が多いほど、単原子層BaO膜の表面被覆率が増加するのがわかる。
【0031】
ここで注意すべきは、二原子層BaO膜の堆積量がゼロの場合でも単原子層BaO膜が形成されていることである。
これは、下記に詳述するように、表面の化学組成は内部とは異なるという、いわゆる表面再構成現象のため、二原子層BaO膜を積層しなくても、ある程度の二原子層BaO膜が自然に発生しているからである。
【0032】
図2(b)は、本発明に係る方法で作製した不揮発性メモリ素子構造において、前駆体BaOの膜厚を0分子層、1分子層、2分子層と変化させた時に、下部電極(LSMO)と上部電極(Co)の間に-5V〜+5Vの範囲で掃引した場合に流れる電流を、原子間力顕微鏡の導電性チップを探針として用いて、室温にて測定した結果である。
【0033】
プラス方向は、図1に示すメモリ素子の上部から下部に電流を流す方向である。
前駆体BaOの膜厚によらず、いずれも「8の字型」のヒステリシスを描いている。
BaTiO3バリア層における電気分極の上下方向がスイッチする電圧は±3Vである。
したがって、+5Vの電圧を印加すると、強誘電バリア層であるBaTiO3の電気分極は下向きになり、これは電圧を除去しても維持される。
逆に-5Vの電圧を印加すると、電気分極は上向きになる。
【0034】
したがって、図3(a)の下図において、電圧-2V〜+2Vの範囲内で電流-電圧特性が「8の字型」のヒステリシスを描くのは、電気分極が下向きの時はトンネル抵抗が低い状態になり、電気分極が上向きの時はトンネル抵抗が高い状態になることを意味し、強誘電特性と対応した抵抗状態を可逆的にスイッチする抵抗変化メモリ効果が実現されていることが分かる。
【0035】
図2(c)は、低抵抗状態および高抵抗状態において+1Vにおける抵抗値(RH、RL)、およびその比をプロットしたものである。
前駆体の二原子層BaO膜の膜厚が大きいほど、常誘電酸化物の単原子膜の被覆率が多くなり、その結果、抵抗変化比(RH/RL)は増加し、抵抗変化メモリ効果が増強されているのがわかる。
【0036】
図3(a)の上図は、比較のため、図1に示すメモリ素子において、水による超音波洗浄処理をせずにBaTiO3/LSMO積層構造をそのまま用いる従来の方法によって作製した素子について、-3V〜+3Vの範囲で電圧掃引した場合に流れる電流を室温で測定した結果である。
超音波洗浄処理した場合と同様にヒステリシスが見られているものの、その向きは「逆8の字」であって、電気分極と抵抗の関係が逆転し、電気分極が上向きの時は低抵抗状態になり、電気分極が下向きの時は高抵抗状態になったことがわかる。
【0037】
図3(b)の上図は、超音波洗浄する前のBaTiO3/LSMO積層構造の表面構造の模式図である。SrTiO3基板の最表面は、二つの副格子サイト(SrOおよびTiO2)のうち、TiO2で構成されているため、BaTiO3もTiO2面で終端される。
【0038】
しかし、BaTiO3の最表面における安定な化学組成は、BaTiO3内部とは必ずしも一致せず、BaTiO3の場合、表面はTiO2面とは別に過剰なチタン酸化物(過剰TiOx層)が形成されることが知られている。
つまり表面は内部よりもTiの濃度が高くなるため、余剰のBaが酸化物、すなわち二原子層BaO膜として析出することになる。
この表面状態は、基板、作製条件などに左右されるので、制御することは難しい。
【0039】
図3(b)の下図は超音波洗浄により単原子膜に転換した積層構造の模式図である。
超音波洗浄する前の積層構造の表面は、過剰なTiOx層、および前駆体となる二原子層BaO膜からなる混合物であるが、これは室温・空気中においては安定ではないため、水で超音波洗浄すると、過剰なチタン、バリウムが除去されるとともに単原子層BaO膜に転換し、室温・空気中においては安定な表面状態に転移する。
【0040】
図4は、低抵抗状態と高抵抗状態の上部電極(Co)とバリア層(BaTiO3)の界面のバンド構造の模式図である。
本発明に関する積層構造において、もし、金属電極と強誘電バリア層の間に常誘電酸化物が全く存在しなければ、強誘電電気分極によってバンド構造に電場の勾配が生じることはなく、抵抗変化によるメモリ効果も生じ得ない。
【0041】
従前、図4に示すように、金属電極と強誘電バリア層の間に、常誘電層が挟まっている場合は、バンド構造に電場の勾配が生じ、強誘電電気分極の向きに依存してトンネル伝導的な障壁高さが変化することが知られていて、これが、強誘電電気分極に対応した抵抗変化を生み出す原因と考えられていた。
【0042】
その常誘電層が本発明の単原子層BaO膜である場合は、電気分極方向と抵抗状態の関係から、障壁の高さを決定しているのはBaTiO3の価電子バンドと単原子層BaO膜中に含まれる酸素の2p軌道であると考えられる。
【0043】
しかし従来の超音波洗浄していない積層構造の表面状態においては、過剰なTiOx層が存在し、単原子層BaO膜と同様に常誘電の単原子膜であるのでスイッチングに関与してしまう。
なお、前駆体の二原子層BaO膜は、絶縁性が高くまた化学的に不安定であり、スイッチング動作には寄与しない。
しかし障壁の高さを決定するのがTiの3d軌道であるため、過剰なTiOx層が存在すると、分極方向と抵抗状態の関係が逆転してしまうほど大きく特性が変化してしまう。
つまり、抵抗状態を決定するBaTiO3の表面状態が、TiOx層および単原子層BaO膜の二成分存在し、従来の作製方法では、背反する両者の寄与が共存ないしは競合し、かつその寄与比が作製条件に依存して一定しないため結果的にスイッチング特性に大きなばらつきがあったものと思われる。
【0044】
本発明に関わる不揮発性メモリ素子およびその作製方法においては、BaTiO3の示す多種多様な表面状態から、室温で安定な表面状態を選択的に形成したことにより、スイッチング特性の安定性・制御性を向上させることができた。
【0045】
本実施例では、強誘電酸化物としてBaTiO3を積層したが、バリア層はBaTiO3と同一の結晶構造を有する他の強誘電酸化物、例えば、Pb(Zr,Ti)O3,BiFeO3であってもよい。
また、本実施例では、常誘電酸化物の単原子層BaO膜の積層を常誘電酸化物の二原子層からなる薄膜を当該バリア層へ堆積し水による攪拌処理により行ったが、単原子層成長が可能でかつBaTiO3等の結晶構造と整合するのであれば直接的に、他の常誘電酸化物の単原子層膜を積層してもよい。
【0046】
本実施例では、常誘電体酸化物としてBaOを用いたが、他のアルカリ土類金属の酸化物であってもよい。
また、前駆体酸化物は、BaOに代えて、CaO,SrOおよびそれらの固溶体であってもよい。
【0047】
本実施例では、金属電極としてCoを使用したが、これに代えてFe,Ni,Cu,Au,Pt等又はそれらの合金若しくは化合物であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のトンネル抵抗変化型不揮発性メモリ素子は、高速動作、低消費電力、非破壊読出し等の特徴を有する不揮発メモリ素子であって、好適には、(Resistance Random Access Memory:ReRAM)に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 本発明による不揮発性メモリ素子
2 従来構造の不揮発性メモリ素子
3 基板
4 下部電極
5 バリア層
6 上部電極
7 常誘電酸化物の単原子層膜
8 常誘電酸化物の二原子層膜
9 常誘電層(常誘電酸化物)
図1
図2
図3
図4