特許第6367047号(P6367047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367047
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】真空断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/065 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   F16L59/065
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-172127(P2014-172127)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-44800(P2016-44800A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年3月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度経済産業省「日米エネルギー環境技術研究・標準化協力事業(日米クリーン・エネルギー技術協力)」委託研究、産業技術協力法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】中納 暁洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博
【審査官】 大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/065162(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/109288(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0128920(US,A1)
【文献】 特開平09−236194(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0305717(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L59/00−59/22
A44B18/00
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートと、
前記芯材シートを覆うガスバリア性の外被材とからなり、
前記突起状微細構造物は、前記芯材シートが積層される場合に互いに隣接する層の芯材シート同士の前記突起状微細構造物が脱着可能に係合できる形状を有し、
前記芯材シートを前記外被材で覆った内部空間が減圧密封されてなる真空断熱材。
【請求項2】
フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートであって、該芯材シートには複数の穴状空間が形成されており、
前記芯材シートが複数枚積層され、互いに隣接する層の芯材シート同士の穴状空間がずらすように配置積層され、当該芯材シート同士の前記突起状微細構造物は脱着可能に係合する芯材と、
前記芯材を覆うガスバリア性の外被材とからなり、
前記芯材を前記外被材で覆った内部空間が減圧密封されてなる真空断熱材。
【請求項3】
前記突起状微細構造物は、面ファスナーの雄片と雌片であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空断熱材。
【請求項4】
フレキシブルな基材の両面に面ファスナーの雄片と雌片が配設された帯状面ファスナーを格子状に重ね、
前記格子状に重ねた格子の空間部分を覆うようにさらに帯状面ファスナーを少なくとも1層以上重ねて構成された芯材と、
前記芯材を覆うガスバリア性の外被材とからなり、
前記芯材を前記外被材で覆った内部空間が減圧密封されてなる真空断熱材。
【請求項5】
前記帯状面ファスナーは結束バンドであることを特徴とする請求項4に記載の真空断熱材。
【請求項6】
フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートであって、かつ、複数の穴状空間が形成されている芯材シートを、複数枚積層し、互いに隣接する層の芯材シート同士の穴状空間がずらすように配置積層し、当該芯材シート同士の前記突起状微細構造物を脱着可能に係合して芯材を構築する工程と、
前記芯材をガスバリア性の外被材で覆う工程と、
前記芯材をガスバリア性の外被材で覆った内部空間を減圧密封する工程からなる真空断熱材の製造方法。
【請求項7】
フレキシブルな基材の両面に面ファスナーの雄片と雌片が配設された帯状面ファスナーを格子状に重ね、該格子状に重ねた格子の空間部分を覆うようにさらに帯状面ファスナーを少なくとも1層以上重ねて芯材を構築する工程と、
前記芯材をガスバリア性の外被材で覆う工程と、
前記芯材をガスバリア性の外被材で覆った内部空間を減圧密封する工程からなる真空断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材及びその製造方法に関し、特に、曲面形状壁に対応できる真空断熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、曲面を有する被断熱体に対する断熱材としては、エアロフレックス(登録商標、独立気泡構造の柔軟な特殊エラストマー断熱材)や発泡ウレタンといったやわらかい素材の断熱材を使用していた。
また、折り曲げ可能な真空断熱材として、例えば特許文献1〜3等が提案されている。
特許文献1は、対向する2つの伝熱面を有する板状の芯材をガスバリア性の外被材で覆い、外被材の内部を減圧して密封した真空断熱材であって、真空断熱材は外被材における芯材の少なくとも一方の伝熱面を覆っている部分に、3方向以上の複数の折曲線を形成して折り曲げられる網状の凹部を有し、被断熱材における真空断熱材を配設しようとする曲面の形状に添うように、網状の凹部の複数箇所で折り曲げて真空断熱材を変形させて、被断熱体の曲がった表面に沿うように真空断熱材を配設するものである。
特許文献2は、真空断熱材は、熱溶着によって正方形に区画区分された連続包装体である内包材に粉末からなる芯材をガスバリア性の外被材で覆い内部を減圧して成り、この複数の芯材3は、内包材と外被材の表裏で熱溶着し一体化することによって、それぞれが独立した空間内を形成する。そのため、熱溶着部で折り曲げられる柔軟性を有する。また、熱溶着部で切断すれば任意形状で、有効断面積が大きい真空断熱材とすることができる。
特許文献3は、複数個の略正八角形に形成されたガラス繊維からなる芯材をガスバリア性の外被材で覆い内部を減圧して成り、この芯材は、八角形の各辺に平行に、縦、横、斜め45度の4方向の折曲線を形成できるように格子状に所定間隔離して配置されており、複数個の芯材が独立した空間に位置するように芯材周囲の外被材を熱溶着部としたもので、4方向に折り曲げられる柔軟性を有する。また、芯材に沿った熱溶着部を周囲3mm程度が残るように切断すれば任意形状で、有効断熱面積が大きい真空断熱材とすることができる。更に、芯材自体の形状を任意として複雑な形状や貫通孔等にも対応でき、いずれもきわめて広範囲の目的に対応できる真空断熱材となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−202709号公報
【特許文献2】特開2007−132425号公報
【特許文献3】特開2004−197935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、曲面を有する被断熱体として、水素吸蔵合金タンクを例にとって説明すると、水素吸蔵合金の水素の吸蔵・放出に伴う合金反応熱の利用を行う場合、なるべく多くの合金反応熱を回収するため、水素吸蔵合金タンクから周囲に熱が逃げないよう合金タンク外壁を断熱材で覆う必要がある。合金タンクの外筒は円筒形状であることが一般的であるため、エアロフレックス(登録商標、独立気泡構造の柔軟な特殊エラストマー断熱材)や発泡ウレタンといったやわらかい素材の断熱材を使用していた。しかし、これらの断熱材を使用して十分な断熱性能を得ようとすると厚みが増し、断熱材を含めた合金タンクの容量が大きくなり設置場所の確保に問題が生じる。
そこで、上記の特許文献1〜3等の従来の真空断熱材に着目したが、水素吸蔵合金タンクは円筒形状をしており、これら従来の真空断熱材ではタンク側面の曲面に対し密着できず隙間が生じてしまうため十分な断熱性能が得られない。なぜなら、折り曲げ可能にした上記従来技術では、図1に示すように、芯材部は平面で構成されるためタンクの円筒形の曲面に十分な密着ができないのに加え、折り曲げに対応する折り曲げ部では外被材部は真空断熱されておらず、そこから熱侵入、又は熱が逃げ、十分な断熱性能が得られないという問題が生じる。
したがって、本発明の解決しようとする課題は、被断熱体の曲面形状壁にぴったりと密着可能な真空断熱材を提供するとともに、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートと、前記芯材シートを覆うガスバリア性の外被材とからなり、前記芯材シートを前記外被材で覆った内部空間が減圧密封されてなる真空断熱材である。
また、本発明は、フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートであって、該芯材シートには複数の穴状空間が形成されており、前記芯材シートが複数枚積層され、互いに隣接する層の芯材シート同士の穴状空間がずらすように配置積層されてなる芯材と、前記芯材を覆うガスバリア性の外被材とからなり、前記芯材を前記外被材で覆った内部空間が減圧密封されてなる真空断熱材である。
また、本発明は、上記真空断熱材において、前記突起状微細構造物は、面ファスナーの雄片と雌片であることを特徴とする。
また、本発明は、フレキシブルな基材の両面に面ファスナーの雄片と雌片が配設された帯状面ファスナーを格子状に重ね、前記格子状に重ねた格子の空間部分を覆うようにさらに帯状面ファスナーを少なくとも1層以上重ねて構成された芯材と、前記芯材を覆うガスバリア性の外被材とからなり、前記芯材を前記外被材で覆った内部空間が減圧密封されてなる真空断熱材である。
また、本発明は、上記真空断熱材において、前記帯状面ファスナーは結束バンドであることを特徴とする。
また、本発明は、フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートをガスバリア性の外被材で覆う工程と、前記芯材シートを前記外被材で覆った内部空間を減圧密封する工程とからなる真空断熱材の製造方法である。
また、本発明は、フレキシブルな基材の両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートであって、かつ、複数の穴状空間が形成されている芯材シートを、複数枚積層し、互いに隣接する層の芯材シート同士の穴状空間がずらすように配置積層して芯材を構築する工程と、前記芯材をガスバリア性の外被材で覆う工程と、前記芯材をガスバリア性の外被材で覆った内部空間を減圧密封する工程からなる真空断熱材の製造方法である。
また、本発明は、フレキシブルな基材の両面に面ファスナーの雄片と雌片が配設された帯状面ファスナーを格子状に重ね、該格子状に重ねた格子の空間部分を覆うようにさらに帯状面ファスナーを少なくとも1層以上重ねて芯材を構築する工程と、前記芯材をガスバリア性の外被材で覆う工程と、前記芯材をガスバリア性の外被材で覆った内部空間を減圧密封する工程からなる真空断熱材の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、芯材自体がフレキシブルで曲がる構造であるため広い真空断熱部を確保することができ、また、芯材を積層構造にすれば、真空の空間を増大させることができ、所望の断熱性能を実現できる。
更に、外被材としてガスバリア性を持つ熱溶着できる真空パック用包装材、それに脱気シーラーがあれば低コストで簡単に製作可能である。また、芯材の構成部材と外被材を高温に対応できるものにすることにより高温領域で使用できる真空断熱材となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、従来の真空断熱材を示した図である。
図2図2は、本発明の実施例1の真空断熱材における芯材を説明した図である。なお、真空断熱材として完成するには、図示の芯材をガスバリア性の外被材で覆い内部を減圧密封して真空断熱材とする。
図3図3は、外径16.5cmφの水素吸蔵合金タンクに、従来のエアロフレックス(登録商標)断熱材と実施例1の真空断熱材とを適用した例を示しており、(a)が厚さ6cmの従来のエアロフレックス(登録商標)断熱材を使用、(b)が厚さ6mmの実施例1の真空断熱材と化粧用に厚さ1cmの従来のエアロフレックス(登録商標)断熱材を使用したものである。
図4図4は、図3aと図3bの断熱性能を比較した実験結果を示した図である。図4における、(a),(b),(c)は厚さ6cm従来型断熱材エアロフレックス(登録商標)のみ使用(図3a参照)した時の圧力−組成−温度(PCT)曲線、水素吸蔵時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化、水素放出時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化である。図4の(d),(e),(f)は実施例1の真空断熱材を採用(図3b参照)した時の圧力−組成−温度(PCT)曲線、水素吸蔵時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化、水素放出時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化である。
図5図5は、本発明の実施例2の真空断熱材における芯材を説明した図である。なお、真空断熱材として完成するには、図示の芯材をガスバリア性の外被材で覆い内部を減圧密封して真空断熱材とする。
図6図6は、本発明の実施例3の真空断熱材における芯材を説明した図である。なお、真空断熱材として完成するには、図示の芯材をガスバリア性の外被材で覆い内部を減圧密封して真空断熱材とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者等は、真空断熱材の芯材に柔らかく折り曲げ可能で、且つ微細な真空の空間が確保できる結束バンド等の帯状の面ファスナーを用い、帯状の面ファスナーを格子状に重ねたものを芯材として採用し、これをガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封し曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材を開発した。
また、薄くフレキシブルな基材の表裏両面に真空の空間を確保できる突起状微細構造物を配した柔らかく折り曲げ可能な芯材を、ガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封し曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材を開発した。
さらに、真空の空間による断熱部の増加と芯材による熱伝導の低減を図るために、前記薄くフレキシブルな基材の表裏両面に真空の空間を確保できる突起状微細構造物を配した柔らかく折り曲げ可能な芯材に複数個の空間(穴)を空けるとともに芯材を重ねて多層化し、重なり合う層の芯材の空間がずれるように重ねて配置し、多層化した芯材を、ガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封し曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材を開発した。なお、多層化する場合には、突起状微細構造物を面ファスナーの雄片と雌片とで構成しておけば、多層化する際に重なり合う芯材同士が雄片と雌片の係合により適度にくっつき、型崩れ等を防ぐことができる。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
図2は本発明の一実施例である実施例1の真空断熱材における芯材を説明するための図であり、実施例1では芯材として結束バンド等で知られている帯状の面ファスナーを用いる。帯状の面ファスナーは、図2の右図に示すように帯状のフレキシブルな基材の両面に面ファスナーの雄片と雌片を備えており、図では雄片、雌片の典型例であるフックとループで示してあるが、雄片、雌片の構造についてはフックとループに限らず面ファスナーに用いられている雄片、雌片の構造であれば採用可能である。図からわかるように、雄片と雌片であるフックとループの根元部分に微細な空間が存在し、この空間を真空にすることにより熱伝導による伝熱が大幅に制限され性能の良い断熱材を構成することができる。さらに帯状の面ファスナー自体による熱伝導を抑えるため、帯状の面ファスナーを図2の左図に示したように、格子状に重ね帯状面ファスナーの使用量を低減するとともに、できるだけ真空の空間を増大させるよう工夫した(図では、説明をわかりやすくするために、横に3本の帯状面ファスナーを置き、それに縦に7本の帯状面ファスナーを重ねている)。
そして、図2の左図の状態から、格子の空間部分を覆うように横に帯状面ファスナーを重ね(図の場合には横に2本となる)、縦に帯状面ファスナーを重ね(図の場合には縦に6本となる)、順次帯状面ファスナーを積層させて作成した構造体を真空断熱材の芯材とし、これをガスバリア性がある外被材で覆い、内部を減圧密封することで、曲面形状壁に対応できるフレキシブルな真空断熱材が実現できる。
帯状面ファスナーを重ねる際には、雄片と雌片とが係合し重なった帯状面ファスナー同士を繋ぎ合わせ、あるいは、一旦繋げた帯状面ファスナーは剥ぎ取ることも可能である。また、雄片と雌片の係合により繋ぎ合わせているので型崩れが防止できるとともに、曲面に合わせてある程度変形させることもできる。
【0010】
図3は、水素吸蔵合金タンクに、従来の断熱材であるエアロフレックス(登録商標)と本発明の実施例1の真空断熱材を適用した場合を比較したものである。水素吸蔵合金タンクの長さは1m、外径が約16.5cmφである。図3の(a)は全て従来の断熱材であるエアロフレックス(登録商標)を使用したもので外径は約28.5cmφである。一方、図3(b)は実施例1の厚さ約6mmの真空断熱材を円筒形の側壁に適用し、化粧用に厚さ1cmのエアロフレックス(登録商標)断熱材を適用したもので、外径は約19.7cmφとスリムになっていることが分かる。なお、この厚さ約6mmの真空断熱材は、帯状面ファスナー(結束バンド)を、上記説明のように順次重ね合わせて横−縦−横−縦−横−縦に積層して芯材を構成したものを用いた。
図4は、図3(a)の全て従来の断熱材であるエアロフレックス(登録商標)を使用した外径約28.5cmφのものと、図3(b)の実施例1の厚さ約6mmの真空断熱材を円筒形の側壁に適用し、化粧用に厚さ1cmのエアロフレックス(登録商標)断熱材を適用した外径約19.7cmφのものが同じ断熱性能を有することを示した実験結果である。
図4中の左列の図4a,4b,4cが厚さ6cmの従来の断熱材エアロフレックス(登録商標)のみ使用した時の圧力−組成−温度(PCT)曲線、水素吸蔵時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化、水素放出時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化を表し、図4中の右列の図4d,4e,4fが実施例1の真空断熱材を採用した時の圧力−組成−温度(PCT)曲線、水素吸蔵時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化、水素放出時のタンク内部温度、循環水出入口温度及びタンク内圧力の時間変化を表す。なお、水素の吸蔵・放出時の水素流量、循環水の温度、及び流量は同じ条件で行っている。左右の図を見比べて分かるように水素の吸蔵・放出に関し特に差異は見られない。厚さ6cmの従来型断熱材エアロフレックス(登録商標)を使用した時の合金反応熱の回収率は水素吸蔵時で89.4%、水素放出時で89.8%であったのに対し、本実施例1の真空断熱材を採用した時の合金反応熱の回収率は水素吸蔵時で88.6%、水素放出時で89.1%とほんの僅か回収率が下がっているように見えるが、これは測定誤差の範囲でありほぼ同等の回収性能であることが実験的に確認できた。つまり、厚さ6cmの従来型断熱材の性能を、僅か厚さ6mmの実施例1の真空断熱材と化粧用に使用した厚さ1cmの断熱材で引き出せていることが分かる。したがって、本発明の真空断熱材により断熱性能を落とさず水素貯蔵装置の大幅なサイズ低減を図ることが確認できた。
【0011】
(実施例2)
上記実施例1では真空の空間を増大させるために帯状面ファスナーを格子状に重ね合わせた芯材を採用したが、本実施例2では、薄くフレキシブルな基材の表裏両面に真空の空間を確保するための突起状微細構造物を配設した芯材シートを採用し、当該芯材シートをガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封して曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材を実現したものである。要求される断熱性能に応じた真空の空間がそれほど必要でない場合には、本実施例2の真空断熱材を用いることもできる。
図5は、実施例2の真空断熱材で採用する芯材を説明した図であり、左図が芯材シートの平面図および断面図であり、右図が芯材シートの断面図を拡大した断面拡大図である。芯材シートは、フレキシブルな基材の両面には空間を確保するための突起状微細構造物を配設したものから構成されており、このように構成された芯材シートをガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封すると、突起状微細構造物により外被材が支持されているので外被材が凹変形しても隣り合う突起状微細構造物の間の基材表面に接触するまで変形するには至らず、突起状微細構造物の根元部に連続する真空の空間が形成され、被断熱物の曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材が実現できる。
突起状微細構造物の形状は、図5ではフック状のもので示したが、突起形状はこれに限定されず、外被材で覆い内部を減圧密封したときに外被材が凹変形しても隣り合う突起状微細構造物の間の基材表面に接触するまで凹変形するには至らず、突起状微細構造物の根元部に連続する真空の空間が形成されるものであればよい。なお、凹変形した外被材が隣り合う突起状微細構造物の間の基材表面に接触すると、接触した部分では真空の空間による断熱が実現できないので、採用する外被材の厚みや強度、突起状微細構造物の高さや隣り合う突起状微細構造物同士の間隔などを調整して接触しないようにすればよい。
【0012】
(実施例3)
実施例3は、真空の空間を増大させて断熱性能を上げるために、上記実施例2の芯材シートを複数枚積層したものを芯材とし、この芯材をガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封して曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材を実現したものである。ただし、芯材シートには、芯材自体による熱伝導の低減を図り、かつ芯材の使用量を低減するために、図6に示すように複数の空間(穴)を空け、互いに重ね合わせる芯材シートの空間(穴)がずらすように配置されている。図6で示した例は、2層目の芯材シートの空間(穴)は、1層目の芯材シートの空間(穴)からずらした位置に配置されており、3層目には1層目の芯材シートと同じものを用いれば、2層目の芯材シートと3層目の芯材シートの空間(穴)は互いにずらした配置となっている。図示の例では、奇数層に1層目と同じ芯材シートを、偶数層に2層目と同じ芯材シートを用いれば、所望の断熱性能に応じた複数層の芯材を構成でき、この芯材をガスバリア性がある外被材で覆い内部を減圧密封して曲面形状壁に対して密着できるフレキシブルな真空断熱材を実現ことができる。
さらに、芯材シートを重ねて芯材とした本実施例3では、芯材シートの両面に配設する突起状微細構造物を、面ファスナーの雄片と雌片にすれば、芯材シートを重ね合わせて積層する際に、雄片と雌片とが係合することにより重なった芯材シート同士を繋ぎ合わせ、あるいは、一旦繋げた芯材シートは剥ぎ取ることも可能であり、また、雄片と雌片の係合により適度に繋ぎ合わせているので型崩れが防止できるとともに、曲面に合わせて変形させることも可能である。
【0013】
上記実施例1〜3において、外被材としてガスバリア性を持つ熱溶着できる真空パック用包装材、それに脱気シーラーがあれば低コストで簡単に製作可能である。
また、芯材の構成部材と外被材を高温に対応できる材質にすることにより高温領域で使用できる真空断熱材となる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、熱利用を行う水素吸蔵合金タンク用に開発したものであるが、断熱材を必要とするあらゆる分野に利用することができる。
例えば、冷蔵庫やエアコンなど民生品においても需要が見込まれ、また、保温・保冷が必要な工業製品一般に対しても活用可能である。また、自動車産業・建設業などで使用されるパイプラインの断熱にも応用可能である。更に、プラントなどで高温対象物に対する断熱が必要な場合は各部材を高温対応のものにすれば適用可能で、用途の幅は非常に広範囲である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6