【文献】
MATVEEVA,A.G. et al.,Structure and dynamic behaviour of lanthanide nitrate complexes with bis(diphenylphosphorylmethyl)me,Inorganica Chimica Acta,2009年,Vol.362,p.3607-3616
【文献】
MATVEEVA,A.G. et al.,Mononuclear lanthanide complexes with tetradentate bis(phosphorylamino)-substituted 1,8-naphthyridin,Inorganica Chimica Acta,2012年,Vol.384,p.266-274
【文献】
ROSARIO-AMORIN,D. et al.,Synthesis, Lanthanide Coordination Chemistry, and Liquid-Liquid Extraction Performance of CMPO-Decor,Inorganic Chemistry,2013年,Vol.52, No.6,p.3063-3083
【文献】
MYASOEDOV,B.F. et al.,poly-(diphenylphosphinylmethyl)arenes - new organophosphorus extractants of trans- plutonium element,Solvent Extraction and Ion Exchange,1983年,Vol.1, No.4,p.689-707
【文献】
TURANOV,A.N. et al.,Extraction of rare-earth elements from nitric solutions by phosphoryl-containing podands,Solvent Extraction and Ion Exchange,1999年,Vol.17, No.6,p.1423-1444
【文献】
ALIBAEVA,Z.M. et al.,Rare earth element complexes with phosphoryl containing podands,Zhurnal Neorganicheskoi Khimii,1986年,Vol.31, No.11,p.2780-2783
【文献】
TURANOV,A.N. et al.,Extractive properties of phosphoryl-containing podands bearing a 2,6-bis(dimethyl)pyridine moiety in,Zhurnal Neorganicheskoi Khimii,1998年,Vol.43, No.2,p.332-338
【文献】
LINDAHL,S. E. et al.,Utilizing Redox-Mediated Bergman Cyclization toward the Development of Dual-Action Metalloenediyne T,Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135, No.10,p.3826-3833
【文献】
YANG,X. et al.,Ph2P(O) group for protection of terminal acetylenes,Synlett,2011年,No.16,p.2402-2406
【文献】
MATVEEVA,E.V. et al.,Bisphosphorylated ligands based on isomeric N,N'-phenylenedibenzimidoyl dichlorides,Russian Chemical Bulletin, International Edition,2009年,Vol.58, No.4,p.817-822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(1)で表される化合物と希土類元素含有化合物と前記一般式(2)で示されるジケト化合物を溶媒中で混合して、前記前記一般式(1)で表される化合物と前記希土類元素と前記一般式(2)で示されるジケト化合物との錯体を得ることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の錯体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<化合物>
本発明は、下記一般式(1)で示される化合物を包含する。
X
1−L
1−Ar−L
2−X
2 (1)
一般式(1)中、Arは、
芳香族ヘテロ炭化水素基、
芳香族炭化水素基
を示し、Arに結合するL
1及びL
2は、Arを中心に分子内で屈曲している。L
1及びL
2にさらに結合するX
1及びX
2は修飾ホスホリル基であり、陽イオンに対して配位結合し得る。本発明の化合物は後述するように、Arに結合するL
1及びL
2は、Arを中心に分子内で屈曲するように結合しており、かつ陽イオンに対して配位結合し得る修飾ホスホリル基を有することから、本発明の化合物と陽イオンが交互に配置された多量体の錯体を形成することができ、かつ多量体の錯体はクラスター構造を有する錯体となり得る。Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)であることで、多量体の錯体は、2〜6個の化合物を含むクラスター構造を形成し得る。ここで、クラスター構造とは、本発明の化合物が希土類元素イオンを介して、2〜6量体化して、安定化した分子構造(錯体)を形成したものである。クラスター構造には環状構造も含む。クラスター構造を形成しても錯体は溶媒に溶解させることができる。また、その分子量はMSスペクトルより容易に測定できる。
【0010】
芳香族ヘテロ炭化水素基としては、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含み、縮環していてもよい5〜14員芳香族ヘテロ炭化水素基が挙げられる。
【0011】
単環の芳香族ヘテロ炭化水素基としては、例えば、置換又は無置換のアゾール基、オキソール基、チオール基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、アゼピン基、オキセピン基、チエピン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、ピラジン基、及びチアジン基を挙げることができる。これらの基をArとして有する化合物においては、L
1及びL
2は、アゾール基、オキソール基、チオール基、イミダゾール基、オキサゾール基、又はチアゾール基については、例えば、2、5位(又は2、5位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合し、ピラゾール基については、例えば、3、5位(又は3、5位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合し、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ピラジン基、又はチアジン基については、例えば、2、6位(又は2、6位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合し、又はアゼピン基、オキセピン基、チエピン基については、例えば、2、7位(又は2、7位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合したものであることができる。これらの位置においてL
1及びL
2がそれぞれ結合することで、上記のように、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)である化合物とすることができる。
【0012】
多環の(縮環した)芳香族ヘテロ炭化水素基としては、例えば、置換又は無置換のインドール基、イソインドール基、ベンゾイミダゾール基、キノリン基、イソキノリン基、キナゾリン基、フタラジン基、プテリジン基、クマリン基、クロモン基、1,4−ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン基、アクリジン基、フェノキサジン基、フェノチアジン基等を挙げることができる。これらの基を有する化合物においては、L
1及びL
2は、インドール基、イソインドール基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾフラン基、イソキノリン基、フタラジン基については4、6位にそれぞれ結合することができる。キノリン基、キナゾリン基、クマリン基、クロモン基については、例えば、5、7位(又は5、7位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。プテリジン基については、例えば、2、4位(又は2、4位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。1,4−ベンゾジアゼピンについては、例えば、1、9位(又は1、9位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。アクリジン基、フェノキサジン基、フェノチアジン基については、例えば、1、3位、2、4位、5、7位、又は6、8位(又はそれらとほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。これらの位置においてL
1及びL
2が結合することで、上記のように、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)である化合物とすることができる。
【0013】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素原子を6〜14個含み、縮環していてもよい芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0014】
単環の芳香族炭化水素基は、例えば、置換又は無置換のフェニレン基であり、L
1及びL
2は、フェニレン基のm位(1,3位)に結合する化合物を挙げることができる。フェニレン基のm位(1,3位)にL
1及びL
2が結合することで、上記のように、Ar(フェニレン基)を中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後である化合物とすることができる。
【0015】
多環の芳香族炭化水素基は、例えば、置換又は無置換のナフタレン基であり、L
1及びL
2は、ナフタレン基のm位(1,3位)又は2,7位に結合する化合物を挙げることができる。その他の多環式の芳香族炭化水素基は、例えば、置換若しくは無置換のアントラセン基又は置換若しくは無置換のフェナントロレン基であり、L
1及びL
2は、アントラセン基の1,3位又は2,7位に結合するか、フェナントロレン基の1,3位又は3,6位に結合する化合物を挙げることができる。これらの位置においてL
1及びL
2が結合することで、上記のように、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)である化合物とすることができる。
【0016】
芳香族ヘテロ炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有しもよい置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、アルコキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。C1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。C1−6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。アルコキシ基としては、例えば、C1−6アルコキシ基が挙げられる。C1−6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0017】
一般式(1)で示される化合物の実施例で用いた3つの例を以下に示す。さらに各化合物におけるArを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度を示す。化合物4は144°であり、化合物6及び化合物10は、上記屈曲の角度は120°である。
【化1】
【0018】
L
1及びL
2は、独立に、リンカーを示し、リンカーは、例えば、−C≡C−、−CH=CH−、芳香族炭化水素基又は芳香族ヘテロ炭化水素基であることができる。芳香族炭化水素基及び芳香族ヘテロ炭化水素基は前述の基と同様である。
【0019】
X
1及びX
2は、独立に、O=P(Ar
11Ar
12)−で示される修飾ホスホリル基を示す。Ar
11及びAr
12は、独立に、置換若しくは無置換アリール基、置換若しくは無置換ヘテロアリール基、又は置換若しくは無置換アラルキル基を示す)を示す。
【0020】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、C6〜20アリール基が挙げられる。C6〜20アリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0021】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0022】
C1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、アルコキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、前記芳香族ヘテロ炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有しもよい置換基で説明した基と同じである。
【0023】
C6−14アリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0024】
アリールオキシ基としては、例えば、C6−12アリールオキシ基が挙げられる。C6−12アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0025】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0026】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。
【0027】
前記芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示できる。
【0028】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0029】
前記置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0030】
置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0031】
置換されていてもよいアラルキル基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0032】
前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0033】
X
1及びX
2は、例えば、Ar
11及びAr
12がフェニル基であるジフェニルホスホリル基であることができる。
【0034】
<化合物の製造方法>
一般式(1)で示される化合物は、実施例に例示されているように、X−Ar−X(Xはハロゲン)を原料化合物として用い、トリアルキルシリルアセチレンを触媒(例えば、CuI及びPd(PPh
3)Cl
2、PPh
3)の存在下に反応させ、得られた生成物をアルカリ処理して、ジアセチルArを得る。得られたジアセチルArと修飾ホスフィンクロライド、例えば、ジフェニルホスフィンクロライドを反応させ、その後例えば、過酸化水素を用いて酸化することで、修飾ホスフィン基を修飾ホスホリル基(例えば、ジフェニルホスホリル基)に変換して一般式(1)で示される化合物を得ることができる。各反応は適当な有機溶媒(例えば、ジエチルエーテル、THF(テトラヒドロフラン)、トルエン)中で実施できる。リンカーがエチレン基の場合には、上記トリアルキルシリルアセチレンに替えてトリアルキルシリルエチレンをもちいることで、同様の反応を経て、一般式(1)で示される化合物を得ることができる。
【0035】
X−Ar−X(Xはハロゲン)で示される原料化合物は、市販品として入手できる化合物がある他、Xが水素原子であるH−Ar−Hで示される化合物を公知の方法でハロゲン化することでも入手できる。トリアルキルシリルアセチレンは、例えば、トリメチルシリルアセチレンは、市販品として入手できる。修飾ホスフィンクロライドも、例えば、ジフェニルホスフィンクロライドであれば市販品として入手できる。その他の修飾ホスフィンクロライドも、常法に従って適宜合成できる。合成した化合物は公知の方法で適宜精製することができる。
【0036】
<錯体>
本発明は、上記本発明の化合物と希土類元素を含む錯体を包含する。本発明の錯体において、希土類元素は、希土類元素イオンとして含有されているものと推察される。希土類元素は、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選ばれる1種又は2種以上の元素であることかできる。希土類元素イオンは、各元素に固有の価数のイオンであり、例えば、+2価又は+3価である陽イオンが挙げられる。希土類金属イオンとしては、発光体を得るという観点からは、例えば、Eu
3+、Tb
3+、Gd
3+、Tm
3+又はEr
3+が好ましく、例えば、前記希土類元素がEu
3+の場合、赤色発光を示し、前記希土類元素がTb
3+の場合、緑色発光示す。本発明の錯体において、希土類元素は、単独で存在するもの、または2種以上が存在する錯体も包含する。
【0037】
本発明の錯体において、本発明の化合物と希土類元素との含有量は、例えば、等モル量であることができる。本発明の化合物は配位座としてX
1及びX
2の2箇所を有する。一方、1個の希土類元素イオンは、これらの配位座の2個が配位することができる。従って、理想的な錯体は、本発明の化合物と希土類元素との含有量が、等モル量で存在する。
【0038】
本発明の錯体は、希土類元素イオンを介して、本発明の化合物が2〜6量体化、好ましくは3〜5量体化、より好ましくは3〜4量体化、さらに好ましくは3量体化したクラスターを形成した錯体であることができる。1つの錯体においては、前述のように本発明の化合物と等モル量の希土類元素イオンが存在する。前述のように、本発明の化合物はArに結合するL
1及びL
2は、Arを中心に分子内で屈曲するように結合しており、かつ希土類元素イオンに対して配位結合し得る修飾ホスホリル基を有することから、本発明の化合物と希土類元素イオンが交互に配置された多量体の錯体を形成することができ、かつ多量体の錯体はクラスター構造を有する錯体となり得る。Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)であることで、多量体の錯体は、2〜5個の化合物を含むクラスター構造を形成し得る。L
1及びL
2によって形成される屈曲の角度によって、2量体〜6量体のいずれかの多量体からなる錯体が形成される。
【0039】
本発明の錯体は、本発明の化合物と希土類元素イオンが交互に配置された多量体の錯体であり、かつ希土類元素イオンには、本発明の化合物に加えて、本発明の化合物以外の配位化合物をさらに含み、前記配位化合物は、希土類元素イオンに配位する。希土類元素イオンの内、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuは、4f電子を有し、そのため、配位数が8〜10配位を取り得る。配位数は、希土類元素イオンの種類及び価数によって決定される。また、Sc、Y、Lイオンは4f電子を有さず、d及びs電子のみが配位結合に関与し、そのため2〜4配位である。本発明の錯体における希土類元素イオンの配位数が3以上の場合には、本発明の化合物に加えて、本発明の化合物以外の配位化合物をさらに含む。
【0040】
本発明の化合物以外の配位化合物は、好ましくは多座配位化合物である。多座配位化合物は、例えば、2座配位化合物、3座配位化合物、又は4座配位化合物であることができる。多座配位化合物の中でも2座配位化合物の例としては、ジケト化合物を挙げることができ、ジケト化合物としては一般式(2)で示される化合物を例示できる。一般式(2)中、Aは、独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Zは水素原子又は重水素原子を示す。炭素数1〜6のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n−及びiso)、ブチル基(n−及びtert−)、ペンチル基、ヘキシル基である。
【0042】
一般式(2)で示されるジケト化合物は、より具体的には、例えば、アセチルアセトン(acac)、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン(TMHD)、1,1,1−トリフルオロアセチルアセトン(TFA)、及び1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらの化合物は公知化合物である。
【0043】
本発明の上記多量体からなるクラスター構造を有する錯体は、有機化合物を配位子として有する錯体であるにも関わらず、ガラス転移温度を有する。ガラス転移温度は、配位子である本発明の化合物の種類と希土類元素の種類に応じて変化し、配位子である本発明の化合物の種類と希土類元素の種類を適宜変化させることで、所望のガラス転移温度を有する錯体を得ることもできる。
【0044】
<錯体の製造方法>
錯体は、上記本発明の化合物と希土類元素含有化合物とを溶媒中で混合して、前記化合物と前記希土類元素との錯体を得ることを含む方法で製造することができる。本発明の化合物と希土類元素含有化合物の混合比(本発明の化合物のモル数/希土類元素のモル数)は、例えば、0.2〜5の範囲とすることができ、好ましくは0.5〜3の範囲とすることができ、より好ましくは0.8〜2の範囲とすることができる。前記混合比は等モル量とすることもできる。但し、どちらかを過剰量とすることもできる。本発明の化合物は、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)であること及び末端には配位性の官能基であるL
1及びL
2を有することから、溶媒中で希土類元素含有化合物と混合することで、自己組織化の機能により、本発明の化合物と希土類元素とからなる多量体のクラスターが得られる。溶媒としては、本発明の化合物及び希土類元素含有化合物の両者を溶解する溶媒を用いる。例えば、限定する意図ではないが、メタノール、エタノール、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)等を用いることができる。溶媒中での混合は、例えば、室温(例えば、20℃)〜120℃の範囲で、使用する溶媒の沸点も考慮して適宜選択できる。]
【0045】
上記反応に用いる希土類元素含有化合物は、希土類元素を含有する化合物であれば、特に限定はない。希土類元素含有化合物は、例えば、配位化合物及び希土類イオン含有化合物であることができ、配位化合物及び希土類イオン含有化合物は、例えば、配位化合物を配位子の少なくとも一部として有する希土類イオン錯体化合物であることができる。好ましくは、配位化合物を配位子の一部として有し、かつ残りの配位子が、本発明の化合物の希土類イオンに対する配位力より弱い配位力を有する配位子である希土類イオン錯体化合物であることが、本発明の希土類錯体の合成を容易にするという観点から好ましい。本発明の化合物の希土類イオンに対する配位力より弱い配位力を有する配位子の例としては、例えば、水(H
20)、メタノール、エタノール等を挙げることができる。生成した本発明の錯体は、常法により精製することができる。
【0046】
<発光素子>
本発明は、上記本発明の錯体を発光材料として用いた発光素子を包含する。本発明の発光素子は本発明の錯体の薄膜を有するものであることができる。より具体的には、本発明の希土類錯体は、例えば、白色LED素子の発光層(発光媒体)及び有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。本発明の発光素子はディスプレイまたは照明であることもできる。さらに、本発明の希土類錯体は、例えば、発光性インキ組成物に用いることもできる。
【0047】
前記希土類錯体をこれらの用途に用いる場合、前記希土類錯体を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
また、前記希土類錯体を必須成分として含有し、さらに該錯体以外のイオン、化合物等をさらに含有する混合物として用いることもできる。前記混合物には、前記希土類錯体が含まれていればよく、本発明の効果を阻害しない範囲内で、希土類金属イオン、前記本発明の化合物が配位していない希土類錯体等をさらに含んでいてもよい。
【0049】
(1)白色LED素子
本発明の白色LED素子は、発光層を構成する発光媒体(例えば、蛍光体)中に前記希土類錯体を含有させる以外は、公知のLED素子と同様の構成を採用できる。例えば、LEDチップと発光媒体とからなる発光層を有するLED素子が挙げられる。
【0050】
LEDチップは、電極より電気エネルギーを受けて、発光し光を放射する。LEDチップから放射される光を吸収した発光媒体は、吸収した光とは異なる波長の光を放射する。この時、LEDチップから放射される光と発光体から放射される光とが組み合わさることにより、新たな光の色が形成される。本発明では、発光体中に前記希土類錯体を含有させることにより、白色の光を発することができる。また、前記希土類錯体は、有機媒体に好適に溶解し、有機媒体中で析出することが基本的にないため、効率よく(高い光取り出し効率で)、白色光を放射できる。
【0051】
LEDチップとしては、紫外〜近紫外〜可視〜近赤外領域の光を放出する素子であればよく特に限定されない。例えば、青色LED、近紫外LED等が挙げられる。
【0052】
発光媒体は、前記希土類錯体が有機媒体に溶解してなるものである。本発明では、前記希土類錯体中の希土類元素イオン(中心元素イオン)を適宜選択することにより、発光媒体から放射される光の色を制御できる。例えば、中心元素イオンが全てEu
3+である希土類錯体を含む発光媒体は、赤色の光を放射できる。また、中心元素イオンが全てTb
3+である希土類錯体を含む発光媒体は、緑色の光を放射できる。さらに、中心元素イオンがEu
3+及びTb
3+以外の希土類元素イオン(例えば中心元素イオンが全てTm
3+)である希土類錯体を含む発光媒体は、青色の光を放射できる。
【0053】
発光媒体には、2種類以上の前記希土類錯体を含有させてもよい。発光媒体には、光取り出し効率が低下する等の観点から、公知の発光性無機化合物粒子を含有させないほうがよいが、本発明の効果を妨げない範囲であれば、必要に応じて前記粒子を含有させてもよい。
【0054】
前記粒子としては、Y
3Al
5O1
2(YAG)にCeを付活してなる粒子等の黄色光を放射する無機化合物粒子;Sr
10(PO
4)
6Cl
2にEuを付活してなる粒子、Ca
10(PO
4)
6C
l2にEuを付活してなる粒子、Ba
10(PO
4)
6C
l2にEuを付活してなる粒子、BaMgAl
10O
17にEuを付活してなる粒子、Ba
3MgSi
2O
8にEuを付活してなる粒子等の青色光を放射する無機化合物粒子;SrGa
2S
4にEuを付活してなる粒子、CaAl
2O
4にEuを付活してなる粒子、BaAl
2O
4にEuを付活してなる粒子、SrAl
2O
4にEuを付活してなる粒子等の緑色光を放射する無機化合物粒子;SrSにEuを付活してなる粒子、CaSにEuを付活してなる粒子、CaAlSiN
3にEuを付活してなる粒子、Ba
3MgSi
2O
8にEu、Mnを付活してなる粒子等の赤色光を放射する無機化合物粒子等が挙げられる。これらの粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0055】
例えば、下記LEDチップと発光媒体との組み合わせの場合、好適に白色光を得ることができる。
(1)LEDチップ:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体:赤色光を放射する希土類錯体+黄色光を放射する無機化合物粒子(例えば、Y3Al5O12(YAG)結晶にCeを付活してなる粒子)
(2)LEDチップ:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体:赤色光を放射する希土類錯体+緑色光を放射する希土類錯体
(3)LEDチップ:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体:青色光を放射する無機化合物粒子(例えば、Sr
10(PO
4)
6Cl
2にEuを付活してなる粒子、Ca
10(PO
4)
6Cl
2にEuを付活してなる粒子、Ba
10(PO
4)
6C
l2にEuを付活してなる粒子等)+赤色光を放射する希土類錯体+緑色光を放射する希土類錯体
(4)LEDチップ:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体:赤色光を放射する希土類錯体+緑色光を放射する希土類錯体+青色光を放射する希土類錯体
前記有機媒体としては、例えば、有機溶媒、液状ポリマー等が挙げられる。
【0056】
前記有機溶媒としては、例えばフッ素系溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒は、一種単独で又は二種以上からなる混合溶媒として使用できる。
【0057】
前記液状ポリマーとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。前記フッ素系樹脂、前記シリコーン系樹脂等としては、市販品を好適に用いることができる。フッ素系樹脂の市販品としては、例えば、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭ガラス製)等が挙げられる。シリコーン樹脂の市販品としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等が挙げられる。
【0058】
特に、前記有機媒体としては、液状ポリマーが好ましく、フッ素系樹脂がより好ましい。フッ素系樹脂は、高ガラス転移点、高防湿性、低気体透過性等の特性を有するため、前記有機媒体としてフッ素系樹脂を用いることにより、発光媒体3の発光特性、発光寿命、耐久性等を向上させることができる。
【0059】
発光媒体中における前記希土類錯体の含有量は、特に限定されないが、5〜90質量%程度が好ましい。
【0060】
発光媒体中における前記発光性無機化合物粒子の含有量は、本発明を妨げない範囲である限り特に限定されない。
【0061】
本発明の白色LED素子は、砲弾型LED、表面実装型LED等の種々のLEDに用いることができる。前記LEDの具体的構成は、前記白色LED素子が配置される以外は公知のLEDと同様の構成を採用できる。
【0062】
(2)有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
本発明の有機EL素子は、前記希土類錯体を含む発光層を有する。
【0063】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、通常、基板、陽極、電荷(正孔)輸送層、前記発光層、電荷(電子)輸送層及び陰極が順に積層された構造を有する。前記発光層中における前記希土類錯体の含有量は、例えば、5〜100質量%程度であることができる。
【0064】
前記発光層は本発明の希土類錯体単独で形成されていてもよいし、本発明の希土類錯体以外の化合物をさらに含有していてもよい。例えば下記に示す電荷(正孔)輸送層の材料もしくは電荷(電子)輸送層の材料等をホスト化合物として含有していても良い。
【0065】
前記発光層の膜厚は、少なくともピンホールが発生しないような厚みが必要であるが、厚すぎると素子の抵抗が増し、高い駆動電圧が必要となるためあまり好ましくない。従って前記発光層の膜厚は、0.0005〜10μm程度、好ましくは0.001〜1μm程度、より好ましくは、0.005〜0.2μm程度である。
【0066】
前記発光層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、前記希土類錯体を正孔輸送層上に蒸着する方法、或いは、後述する発光性インキ組成物をスピンコート法、インクジェット法等の印刷方法により塗布する方法が挙げられる。
【0067】
前記基板は、透明のものであればよく、例えば、ガラス、石英、光透過性プラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート(PC)等)等が挙げられる。前記基板の厚みは、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。
【0068】
前記陽極の材料として、例えば、仕事関数の大きな導電性材料であるITO(インジウム錫酸化物)等を用いることができる。前記陽極の厚みは、0.1〜0.3μm程度とすることができる。
【0069】
前記電荷(正孔)輸送層の材料としては、例えば、トリアリールアミン等のアリールアミン系化合物等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0070】
前記電荷(電子)輸送層の材料としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、トリアゾール類、フェナントロリン類、オキサジアゾール類等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0071】
これら電荷輸送層の厚みは、それぞれ通常0.0005μm〜10μm程度であり、好ましくは0.001〜1μm程度である。
【0072】
前記陰極の材料としては、仕事関数が小さな金属であるアルミニウム、マグネシウム、インジウム、アルミ−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が使用される。前記陰極の厚みは、0.01〜0.5μm程度が好ましい。
【0073】
前記陽極、前記正孔輸送層、前記電子輸送層及び前記陰極は、前記各種材料を用いて抵抗加熱蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等の公知の方法に従って形成できる。
【0074】
本発明の有機EL素子は、カラー液晶表示器のバックライト等の照明器、ディスプレイ等に用いることができる。
【0075】
(3)発光性インキ組成物
本発明の発光性インキ組成物は、前記希土類錯体を含有する。前記希土類錯体は、天然光の下では放射する光の色は実質的に無色である。
【0076】
一方、前記希土類錯体に紫外光を照射する場合、該錯体は有色の光を放射するので、その放射光を観察することができる。従って、前記希土類錯体を溶解させたインキ組成物を種々の基材上に印刷することにより、ブラックライト等を使用した紫外線照射下でのみ印刷内容の視認が可能になる。例えば、紙幣、文書、書類、カード等の基材に前記インキ組成物を印刷することにより、偽造、不正複写等を防止できるセキュリティー機能を持たせることができる。
【0077】
前記放射光の色は、前記希土類錯体の中心元素イオンの種類に応じて異なる。例えば、中心元素イオンがEu
3+の場合、前記錯体は強い赤色の光を放射し、中心元素イオンがTb
3+の場合、前記錯体は強い緑色の光を放射する。なお、前記希土類錯体が中心元素イオンを複数個有する場合、複数の希土類元素イオンは全て同一であることが好ましい。
【0078】
前記インキ組成物中には2種類以上の前記希土類錯体組成物を含有させてもよい。
【0079】
例えば、第1の発光体に、波長365nm及び254nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射で強い緑色発光を示す中心元素イオンがTb
3+からなる本発明の希土類錯体を、第2の発光体に波長365nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射で強い赤色発光を示し、波長254nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射ではほとんど赤色発光を示さない中心元素イオンがEu
3+からなる本発明の希土類錯体を混ぜ合わせた、2色混合型のインキを作成することができる。
【0080】
前記インキ組成物は、波長365nmの紫外線を放射するブラックライトランプを照射した場合、第1の発光体と第2の発光体が、それぞれ緑と赤の混色である黄色に近い色を発光する。一方、波長254nmの紫外線を放射するブラックライトランプを照射した場合、第2の発光体はほとんど発光せず、第1の発光体の緑色のみが発光する。
【0081】
この様に、前記2つの波長領域を使用して異なる色相を判別することになるため、真偽判別性をより高めることができる。
【0082】
本発明の発光性インキ組成物中における前記希土類錯体の含有量は、前記基材の種類等に応じて適宜設定すればよいが、0.001〜30質量%程度が好ましく、0.05〜3質量%程度がより好ましい。
【0083】
本発明の発光性インキ組成物には、必要に応じて、溶媒、樹脂(バインダー)、浸透剤、消泡剤、分散剤、着色剤等の添加物を含有させてもよい。特に、本発明のインキ組成物は、前記希土類錯体が溶媒中に溶解したものが好ましい。
【0084】
前記溶媒としては、前記希土類錯体を溶解することができるものであればよく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は発光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。
【0085】
前記樹脂(バインダー)は、前記希土類錯体を前記基材上に良好に定着でき、且つ、上記溶媒に良好に溶解するものが好ましい。前記樹脂は、光学的に透明であってもよいし、不透明であってもよい。例えば、ポリビニル系樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は発光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0086】
浸透剤は、紙等へのインク組成物の浸透を早め、見かけの乾燥性を早くする目的で加える。前記浸透剤としては、例えば、グリコールエーテル、アルキレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの浸透剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0087】
消泡剤は、インク組成物の移動やインク組成物製造時の泡の発生を防止する目的で添加する。前記消泡剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性及び両イオン性界面活性剤を使用できる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ホスファチジルコリン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0088】
前記分散剤としては、例えば、ステアリン酸石鹸、オレイン酸石鹸、ロジン酸石鹸、Na−ジ−β−ナフチルメタンジサルフェート、Na−ラウリルサルフェート、Na−ジエチルヘキシルスルホサクシネート、Na−ジオクチルスルホサクシネート等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0089】
前記着色剤としては、公知の顔料や染料を使用できる。例えば、アゾ系、アゾメチン系、キナクドリン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、キノリン系、ペリレン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の有機染顔料を使用できる。これらの着色剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0090】
本発明の発光性インキ組成物中における上記各種添加剤の含有量は特に限定されず、前記基材の種類、用途等に応じて適宜設定すればよいが、本発明の発光性インキ組成物中における前記樹脂(バインダー)の含有量は0.5〜30質量%程度が好ましく、1〜10質量%程度がより好ましい。前記樹脂の含有量が0.5質量%未満の場合、非浸透性の基材に対して前記希土類錯体を十分に定着できない。また前記樹脂の含有量が30質量%を超える場合、発光性インキ組成物中において前記希土類錯体の周囲を前記樹脂(バインダー)が厚く覆うこととなるため前記希土類錯体の発光の低下を招く恐れがある。
【0091】
<希土類錯体含有プラスチック>
本発明は、本発明の希土類錯体を含有する発光性のプラスチック組成物を包含する。発光性のプラスチック組成物に用いるプラスチック材料としては、特に制限されず、種々の材料を適用することができる。プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。希土類錯体を配合して成形加工する方法としては、特に限定されないが、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、押出成形、反応成形、中空成形、熱成形、FRP成形等が挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下本発明を実施例によりさらに説明する。但し、本発明は実施例により限定される意図ではない。
【0093】
本発明の超分子型Eu(III)錯体を構成する有機配位子を以下のスキームに従い合成した。原料、触媒および溶媒は市販品(関東化学、東京化成工業、和光純薬工業)を用いた。各化合物は既報の文献に従って合成し、構造決定は
1H-NMR、EI-MS、元素分析により行った。
【0094】
実施例1 配位子合成
1.1 2,5-bis[(trimethylsilyl)ethynyl]thiophene : 2の合成
10)
【化3】
【0095】
500 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、触媒としてCuI (0.35 g, 1.84 mmol)、Pd(PPh
3)Cl
2 (1.00 g, 1.43 mmol)、PPh
3 (0.95 g, 3.62 mmol)を加えた。フラスコ内をAr置換し、ここにTHF (80.0 ml)、diisopropylamine (80.0 ml)を加えた。固形化したPPh
3を撹拌しながら溶かした後、2,5-dibromothiophene (3.00 ml, 26.6 mmol)、trimethylsilylacetylene (9.50 ml, 68.6 mmol)を順次加えた。室温で3時間撹拌した後、オイルバスで50℃に加熱してさらに20時間撹拌を続けた。撹拌終了後、methanolとhexane、飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (dichloromethane : hexane = 3:7)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、茶色い油状の液体が得られ、これを放置したら茶色い針状結晶が得られた。
Yield : 6.53 g (88.7 %)
10) P. Lu et al, Macromolecules, 2011, 44, 5977-5986.
【0096】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) :
TM 0.25 (s, 9H, -CH
3),
TM 7.04 (s, 1H, -CH
3)ppm.
【0097】
実施例1.2 2,5-diethynylthiophene : 3の合成
11)
【化4】
【0098】
300 ml容三つ口フラスコをフレイムドライ後、2,5-bis((trimethylsilyl)ethynyl)thiopheneを加え、フラスコ内をAr置換した。methanol (100 ml)を加えて、Arガスでバブリングしながら撹拌し、2,5-bis((trimethylsilyl)ethynyl)thiophene (2.00g, 7.24 mmol)を溶かした。さらに1M KOH aq (18.0 ml, 18.0 mmol)を加えて室温で40分間撹拌した。撹拌終了後、methanolとhexane、飽和食塩水を用いて溶液の抽出を3回行い、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (dichloromethane : hexane = 1 : 10)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、茶色い油状の液体が得られた。
Yield : 0.65 g (68.0 %)
11) D. G. Whitten et al, J. Phys. Chem., 2008, 112, 14492-14499.
【0099】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 3.35 (s, 1H, -CH), δ7.09 (s, 1H, -CH)ppm.
【0100】
実施例1.3 2,5-bis[(diphenylphosphoryl)ethynyl]thiophene (dpet) : 4の合成
【化5】
【0101】
100 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、フラスコ内をAr置換した。2,5-diethynylthiophene (0.35 g, 2.65 mmol)、diethylether (30.0 ml)を順次加え、溶液が均一になるまで撹拌した。methanol bathに液体窒素を加えて、系を-80℃まで冷却してから1.6 M n-BuLi (3.50 ml, 5.60 mmol)を滴下しながら加えた。3時間かけて-20℃まで温度を上昇させてから、再び液体窒素を加えて-80℃まで冷却し、PPh
2Cl (1.20 ml, 6.64 mmol)を加えた。4時間かけて系の温度を室温まで上昇させ、15時間撹拌を続けた。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を3回行い、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた茶色い油状の液体を300 ml容のナスフラスコに加え、dichloromethaneによって溶かした。ここにH
2O
2 (1.20 ml)を加え、氷浴下で2時間撹拌した。撹拌終了後、エバポレーターにより溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (dichloromethane : ethyl acetate = 1 : 1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、黄緑色の油状の液体が得られた。これを放置したら15分ほどで黄色い結晶が析出した。
【0102】
Yield : 0.60 g (42.5 %)
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 7.47-7.62 (m, 6H, -CH), δ 7.82-7.91 (m, 4H, -CH),δ 7.35 (s, 1H, -CH)ppm. EI-MS(m/z) [M]
+ = 533.09.
図1にdpetの
1H-NMRスペクトルを示す。
【0103】
実施例1.4 1,3-bis[(diphenylphosphoryl)ethynyl]benzene (dpeb) : 6の合成
【化6】
【0104】
300 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、フラスコ内をAr置換した。1,3-diethynylbenzene (1.80 g, 14.2 mmol)、diethylether (70.0 ml)を順次加え、溶液が均一になるまで撹拌した。methanol bathに液体窒素を加えて、系を-80℃まで冷却してから1.6 M n-BuLi (19.6 ml, 31.4 mmol)を滴下しながら加えた。2.5時間かけて-20℃まで温度を上昇させてから、再び液体窒素を加えて-80℃まで冷却し、PPh
2Cl (5.80 ml, 31.4 mmol)を加えた。4時間かけて系の温度を室温まで上昇させ、15時間撹拌を続けた。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、有機層の溶媒をエバポレーターにより留去した。得られた橙色の油状の液体を300 ml容ナスフラスコ中でdichloromethaneを加えて溶かした。ここにH
2O
2 (5.00 ml)を加え、氷浴下で2時間撹拌した。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (dichloromethane : ethyl acetate = 1 : 1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、濃黄色の油状の液体が得られた。これを放置したら黄色い結晶が析出した。これをchloroformとhexaneによって再結晶し、さらにethyl acetateで十分に洗浄して白色針状結晶を得た。
Yield : 2.06 g (27.6 %)
【0105】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 7.84-7.95 (m, 8H, -CH), δ 7.82 (s, 1H, -CH), δ 7.67-7.70 (d, 1H, -CH),δ 7.64-7.66 (d, 1H, -CH), δ 7.47-7.62 (m, 12H, -CH), δ 7.38-7.46 (t, 1H, -CH)ppm. EI-MS(m/z) [M]
+ = 526.10. Anal. calcd for C
34H
24O
2P
2 : C, 72.17; H, 4.16 %. found : C, 72.31; H, 4.37 %.
図2にdpebの
1H-NMRスペクトルを示す。
【0106】
実施例1.5 2,7-bis[(trimethylsilyl)ethynyl]naphthalene : 8の合成
【化7】
【0107】
300 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、原料として2,7-dibromonaphthalene (2.20 g, 7.80 mmol)、触媒としてCuI (0.09 g, 0.45 mmol)、Pd(PPh
3)Cl
2 (0.25 g, 0.35 mmol)、PPh
3 (0.24 g, 0.90 mmol)を加えた。フラスコ内をAr置換し、ここにTHF (40.0 ml)、diisopropylamine (20.0 ml)を加えた。Arガスでバブリングしながら原料および触媒を撹拌して溶かした後、trimethylsilylacetylene (2.40 ml, 17.5 mmol)を加えた。室温で2時間撹拌した後、オイルバスで50℃に加熱してさらに20時間撹拌を続けた。撹拌終了後、ethyl acetateと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣をhexaneを用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、淡黄色の油状の液体が得られ、これを放置したら淡黄色結晶が得られた。
Yield : 0.42 g (16.8 %)
【0108】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) :
TM 0.29 (s, 9H, -CH
3),
TM 7.44-7.56 (m, 1H, -CH),
TM 7.68-7.77 (d, 1H, -CH),
TM 7.91 (s, 1H, -CH)ppm.
【0109】
実施例1.6 2,7-diethynylnaphthalene : 9の合成
12)
【化8】
【0110】
100 ml容三つ口フラスコをフレイムドライ後、2,7-bis((trimethylsilyl)ethynyl)naphthaleneを加え、フラスコ内をAr置換した。methanol (100 ml)を加えて、Arガスでバブリングしながら撹拌し、2,7-bis((trimethylsilyl)ethynyl)napphthalene (0.32g, 1.00 mmol)を溶かした。さらに1M KOH aq (2.50 ml, 2.50 mmol)を加えて室温で2時間撹拌した。撹拌終了後、methanolとhexane、飽和食塩水を用いて溶液の抽出を3回行った。有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去すると、薄茶色の粉体が得られた。
Yield : このまま次の反応に用いたため未測定
12) G. M. Whitesides et al, J. Org. Chem., 1988, 53, 2489-2496.
【0111】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 3.17 (s, 1H, -CH), δ 7.51-7.57 (m, 1H, -CH),δ 7.74-7.80 (d, 1H, -CH), δ 7.97 (s, 1H, -CH)ppm.
【0112】
実施例1.7 2,7bis[(diphenylphosphoryl)ethynyl]naphthalene (dpen) : 10の合成
【化9】
【0113】
100 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、フラスコ内をAr置換した。2,7-diethynylnaphthalene (実験2.3.2. 生成物全量)、diethylether (20.0 ml)を順次加え、溶液が均一になるまで撹拌した。methanol bathに液体窒素を加えて、系を-80℃まで冷却してから1.6 M n-BuLi (0.60 ml, 0.96 mmol)を滴下しながら加えた。3時間かけて-20℃まで温度を上昇させてから、再び液体窒素を加えて-80℃まで冷却し、PPh
2Cl (0.17 ml, 0.94 mmol)を加えた。4時間かけて系の温度を室温まで上昇させ、20時間撹拌を続けた。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、有機層の溶媒をエバポレーターにより留去した。得られた薄黄色の油状の液体を300 ml容のナスフラスコに加えてからdichloromethaneで溶かした。ここにH
2O
2 (1.00 ml)を加え、氷浴下で2時間撹拌した。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (hexane : ethyl acetate = 1 : 1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、黄緑色の油状の液体が得られた。
Yield : 微量のため測定不可
【0114】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 7.19 (s, 1H, -CH), δ 7.43-7.63 (m, 15H, -CH), δ 7.65-7.80 (m, 10H, -CH)ppm.
図3にdpenの
1H-NMRスペクトルを示す。
【0115】
実施例2 錯体合成
本発明の超分子型Ln(III)錯体(※Ln = Eu, Yb)を以下のスキームにより合成した。原料、触媒および溶媒は市販品(関東化学、シグマアルドリッチ、東京化成工業、和光純薬工業)を用いた。各化合物は既報の文献に従って合成し、ESI-MSとFT-IRにより錯形成を確認した。
【0116】
実施例2.1 Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 : 11の合成
【化10】
【0117】
Eu(hfa)
3(H
2O)
2 (0.32 g, 0.40 mmol)と配位子6 (0.21 g, 0.40 mmol)を別々にmethanol (35 mL)でよく溶かし、100 mL容三つ口フラスコ内で撹拌しながら混合した。オイルバスを用いて系を60℃に保ちながら還流した。3時間後エバポレーターで溶媒を留去し、chloroformを加えてろ過した。ろ液をエバポレーターで留去し、hexaneを加えて共沸させた。これを十分に乾燥して錯体11を白色粉末として得た。
Yield : 0.31 g (19.9 %)
【0118】
FT-IR(KBr) : 3300-3600(w, br, O-H), 3060(w, C-H), 2177(m, C≡C), 1653(s, C=O), 1440-1555(m, br, C=C),. ESI-MS(m/z) [M-(hfa)]
+ = 3691.08
【0119】
実施例2.2 Ln
3(hfa)
9(dpet)
3 : 12, 13の合成(
※Ln = Eu, Yb)
【化11】
【0120】
Ln(hfa)
3(H
2O)
2 (0.20 mmol)と配位子1 (0.11 g, 0.20 mmol)を別々にmethanol (30 mL)でよく溶かし、100 mL容三つ口フラスコ内で撹拌しながら混合した。オイルバスを用いて系を60℃に保ちながら還流した。3時間後エバポレーターで溶媒を留去し、chloroformを加えてろ過した。ろ液をエバポレーターで留去し、hexaneを加えて共沸させた。これを十分に乾燥して淡黄色粉末を得た。
12 : Yield : 0.15 g (20.2 %). ESI-MS(m/z) [M-(hfa)]
+ = 3711.90
13 : Yield : 0.16 g (21.2 %). ESI-MS(m/z) [M-(hfa)]
+ = 3771.94
【0121】
質量分析
錯体11〜13 : Ln
3(hfa)
9(dpeX)
3の質量分析の結果を
図4〜6に示す(Ln : Eu, Yb、X : b, t)。質量分析の結果は、各錯体が三核錯体であると仮定した際の分子量の計算値と一致したため、合成された錯体11〜13が三核錯体であることが分かった。
【0122】
実施例3
光物性測定
<光物性測定方法>
合成した錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3と従来型錯体[Eu(hfa)
3(biphepo)](biphepo : 1,1'-biphenyl-2,2'-diylbis(diphenylphosphaneoxide))について解析を行った。
【0123】
1 吸収スペクトル測定
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3のacetone-d
6溶液(5.0 ×10
-3 M)及びEu(hfa)
3(biphepo)のacetone-d
6溶液(2.5 ×10
-3 M)を調製した。測定にはJASCO V-550(UV / VIS Spectrophotometer)及び1 cm×1 cmの四面石英セルを使用し、測定範囲350-500 nm、20 nm / minの走査速度で測定した。
【0124】
2 発光スペクトル測定
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3のacetone-d
6溶液(5.0 ×10
-3 M)及びEu(hfa)
3(biphepo)のacetone-d
6溶液(2.5 ×10
-3 M)を調製し、30分間Arガスでバブリングを行った。測定にはJASCO FP-6600及び1 cm×1 cmの四面石英セルを使用し、測定範囲550-730 nm、20 nm / minの走査速度で測定した。
【0125】
3 発光寿命測定
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3のacetone-d
6溶液(5.0×10
-3 M)及びEu(hfa)
3(biphepo)のacetone-d
6溶液(2.5×10
-3 M)を調製した。励起光源にはSpectra-Physics YAGレーザーヘッド(H-INDI2-LW)を用いた。YAGレーザーに対する応答は日本テクトロニクス-デジタルオシロスコープ(TDS3052B)を用いた。求められる発光寿命は発光減衰プロファイルの縦軸の値を自然対数でプロットし、得られた直線の傾きから算出した。
【0126】
4 相対発光量子収率計算
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3とEu(hfa)
3(biphepo)の発光スペクトル及び吸収スペクトルの面積をそれぞれ計算し、次式(1.1式)を用いて得られた錯体の相対発光量子収率を計算した。
【数1】
【0127】
上式においてФは発光量子収率、Aはスペクトル面積、下付のEm、Abはそれぞれ発光と吸収、またdpeb、biphepoはそれぞれEu
3(hfa)
9(dpeb)
3とEu(hfa)
3(biphepo)を表す。ここで既知の値としてФ
Em, biphepo = 60%を用いて計算した。
さらに、(1.1式)と(1.2式)、算出された相対発光量子収率Фと発光寿命τ
obsを用いて放射速度定数k
r[s
-1]及び無放射速度定数k
nr[s
-1]を算出した。
発光量子収率φ
Emは、分子が吸収した光子数N
Ab、発光として放出された光子数N
Em、放射速度定数k
r、無放射速度定数k
nrを用いて下式で表される。
【数2】
発光寿命τは、発光に関わる励起状態の全ての失活過程の速度定数(k)の和の逆数で表され、放射速度定数(k
r)と無放射速度定数(k
nr)の和の逆数で表される。
【数3】
【0128】
<光物性測定結果>
1 発光スペクトル測定
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3とEu(hfa)
3(biphepo)の465 nm励起(直接励起)による重アセトン溶液中の発光スペクトルを
図5に示す。ここで、磁気双極子遷移に帰属される592 nmにおける発光強度はEu(III)イオン周りの配位環境からの影響をほとんど受けないことが知られている。一方、電気双極子遷移に帰属される614 nmにおける発光強度は、Eu(III)イオン周りの配位環境に対して敏感に応答することが報告されている。磁気双極子遷移の発光強度で規格化した発光スペクトルにおいて、614 nmにおける相対発光強度を比較することで、電気双極子遷移の遷移強度についての情報が得られるため、
図5は592 nm(磁気双極子遷移)の発光強度で規格化してある。Eu(III)錯体のf-f遷移に基づく578 nm(
5D
0→
7F
0)、592 nm(
5D
0→
7F
1)、613 nm(
5D
0→
7F
2)、650 nm(
5D
0→
7F
3)、698 nm(
5D
0→
7F
4)の発光が観測された。
図7にacetone-d
6中におけるEu
3(hfa)
9(dpeb)
3 (5.0×10
-3 M, red line)とEu(hfa)
3(biphepo) (2.5×10
-3 M, blue line)の発光スペクトル(465 nm励起)を示す。
【0129】
2 発光寿命測定
錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3の発光寿命の測定結果(in acetone-d
6, 5.0 ×10
-3 M)を
図8に示す。
【0130】
【表1】
合成された錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3の発光寿命は一次減衰により解析されたことから、超分子型Eu(III)クラスターの発光成分は一種であることが明らかとなった。
【0131】
3 発光量子収率計算
錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3の発光量子収率の計算結果を表3.4として以下に示す。表2には発光寿命τ
obsと発光量子収率Фから算出した放射速度定数k
rと無放射速度定数k
nrの値も記載する。
【0132】
【表2】
以上の結果から、合成された超分子型錯体Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3の発光特性は従来型錯体Eu(hfa)
3(biphepo)と同程度であることが明らかとなった。
【0133】
実施例4
熱物性測定
<熱物性測定方法>
合成した錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3と従来型錯体Eu(hfa)
3(biphepo)について解析を行った。
【0134】
1 熱重量(TG)測定
サンプルとしてEu
3(hfa)
9(dpeb)
3とEu(hfa)
3(biphepo)、リファレンスとしてAl
2O
3を各15 mgずつ秤量し、Al製サンプルパンに入れたものを測定に用いた。測定装置にはEXSTAR 6000(TG DTA 6300)を使用し、測定範囲20-500℃、1℃ / minの昇温速度で測定した。
【0135】
2 示差走査熱量(DSC)測定
サンプルとしてEu
3(hfa)
9(dpeb)
3とEu(hfa)
3(biphepo)をそれぞれ5 mgずつ秤量し、Al製シールパン中にシールしたものを測定に用いた。測定にはBRUKER axs TARS 3000ST(DSC 3100 ST)を使用し、測定範囲20-300℃、5℃ / minの昇温速度で測定した。
【0136】
<熱物性測定結果>
1 熱重量(TG)測定
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 (red line)とEu(hfa)
3(biphepo) (blue line)のTG測定結果を
図9に示す。
図9に示すTGAから、単核錯体と超分子型錯体の熱分解開始温度は同程度であることがわかった。前者ではhfa配位子の分解に続くbiphepo配位子の分解により2段階の急激な重量減少が観測された。一方後者では、hfa配位子の分解後になだらかな重量減少が観測された。これは超分子の形成によりdpeb配位子の脱離が抑制されたことに起因すると考えられる。
【0137】
2 DSC測定
Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 (red line)とEu(hfa)
3(biphepo) (blue line)のDSC測定結果を
図10に示す。
DSCの測定結果から、Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 は69℃においてガラス転移温度T
gをもつことが分かった。また235℃に見られる吸熱のピークはhfa配位子の脱離によるものと考えられる。一方、Eu(hfa)
3(biphepo)の165℃と220℃における吸熱ピークはそれぞれhfa配位子とbiphepo配位子の脱離によるものと考えられる。Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 は三核構造を形成することで、hfa配位子の脱離後もdpeb配位子の脱離が抑制されたため、大きな吸熱のピークが見られなかったと考えられる。
【0138】
また、室温から180℃まで昇温した後-50℃まで冷却し、300℃まで昇温した際に、最初の昇温過程で69℃においてガラス転移温度が観測され、次の降温過程では同温度でガラス転移温度を観測した後、17℃において結晶化ピークが見られた。そして最後の昇温過程で再びガラス転移温度を観測した。このことから、合成された錯体は測定した温度範囲でアモルファス化と結晶化を繰り返していることがわかった。
【0139】
規則的な繰り返し構造を持つ超構造体であるランタニドMOF : Metal Organic Frameworkにおいては同様の相転移の繰り返しが観測されている
13)が、超分子型Eu(III)クラスターについては未だ報告例がない。
【0140】
3 錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 の加熱試験
DSC測定の結果、Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 においてガラス転移温度が観測されたことから、ホットプレートにより同錯体粉末を加熱し、ガラス転移する様子を目視で観察した。白色の粉体がガラス転移により透明化する様子を
図11に示した。
【0141】
さらに、chloroformに溶解したガラス転移後の錯体11をスライドガラス上に塗布し、chloroformを揮発させた。その結果、室内光下では透明で視認性がないが、紫外線を照射することで赤色発光するガラスの作成に成功し、その様子を
図12に示した。
これにより、ポリマーのような媒体を必要としない透明発光材料としての応用の可能性が示唆された。
【0142】
上記実施例で合成された錯体11〜13 : Ln
3(hfa)
9(dpeX)
3 (Ln : Eu, Yb、X : b, t)は、質量分析の結果から、全て三核錯体であることが分かった。本発明の化合物を配位子とする錯体は、ポリマーのような繰り返し構造ではなく、有限の大きさをもつ超分子であることが分かった。
【0143】
発光特性においては、合成された錯体11 : Eu
3(hfa)
9(dpeb)
3 は465 nm光の直接励起により、赤色強発光を示した。また発光寿命・発光量子収率は従来型錯体Eu(hfa)
3(biphepo)と同程度であることが分かった。合成された錯体11の発光寿命は一次減衰により解析されたことから、超分子型Eu(III)クラスターの発光成分はそれぞれ一種であることが明らかとなった。
【0144】
TGによる分析において、単核Eu(III)錯体と超分子型Eu(III)クラスターで分解開始温度は同程度であるが、前者では2段階で急激な分解が起こるのに対し、後者では1段階で分解した後、ゆるやかに分解することが明らかになった。またDSCによる分析では後者においてガラス転移温度を観測した。以上のことから、超分子の形成により単核とは異なる物性を獲得したことが明らかとなった。
【0145】
本発明では超分子型Eu(III)クラスターの合成に初めて成功した。さらにこの超分子型Eu(III)クラスターにおいては、従来の単核Eu(III)錯体と同程度の発光特性を維持しながら、ガラス転移という新機能の発現が観測された。これまでの発光材料は、主にポリマー中に錯体を溶解させる手法で作り出されてきた。一方で、超分子型Eu(III)クラスターはアモルファス化することにより、ポリマーのような媒体を必要としない発光材料として応用できる。
【0146】
実施例5
本発明の希土類錯体をラミネートフィルム(ポリマーフィルム)にはさみ、熱をかけて希土類錯体をガラス状態(アモルファス状態)にして得られたフィルムの透過率を測定した。方法は以下の通りである。
1. 上記実施例で合成された錯体11の粉体0.02 gを2枚のラミネートフィルム(12mm×32mm、厚さ100μm、株式会社アスカ製BH907)に挟む。
2. ラミネーターに入れて加熱する(約120℃、1分間)。
3. 加熱後、錯体11が2枚のフィルム間でガラス化して透明になったものを液体窒素で急冷してガラス化した錯体11をラミネートした積層体を得た。UV照射した状態及びUV照射なしの状態の写真を
図13に示す。サンプル(ガラス状態の錯体11)を含む積層体は、通常で透明、UV照射で赤く光っていることが目視で確認できる。
4.「錯体の入っていない積層フィルム」をベースラインとして「ガラス化した錯体11をラミネートした積層体」の透過率を測定した。結果を
図14に示す。
【0147】
図14に示す結果から、錯体11がガラス状態になっているため、400nmから800nmの波長領域において60%以上の透過率を示すことが分かる。ガラス状態にならず粉体のままであれば、光散乱が起こり、この波長領域の透過率は10%以下になる。