(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは鋭意努力の結果、再生医療あるいは細胞治療で使用する培養細胞(継代培養細胞等)の場合、患者あるいは被験者毎の細胞活性の相違又は培養状態(継代培養環境等)により、粒子径の小さい死細胞や、死にかけの細胞あるいは低活性の生細胞が混入する。これらは、活性を有する生細胞と大きさが異なるため、例えば、フローセル中を通流する生細胞懸濁液へ、光源より照射光を照射することで得られる散乱光のみにより正確な細胞数あるいは細胞生存率を求めることが困難であるとの知見を得た。そこで、本発明者らは、前方散乱光強度と透過率、あるいは、前方散乱光強度及び透過率並びに側方散乱光強度を用いることで、大きさの異なる上記各種細胞、すなわち、活性を有する生細胞、低活性の生細胞及び死細胞を識別し、細胞数あるいは細胞生存率を高精度かつ迅速に得ることが可能であるとの知見を得たものである。
【0016】
本明細書においては、細胞懸濁液中の生細胞(viable cell)をVc、生細胞の濃度をCVc、細胞懸濁液中の死細胞(dead cell)をDc、死細胞の濃度をCDc、細胞懸濁液中の低活性の生細胞(subvital cell)をSc、低活性の生細胞の濃度をCScとそれぞれ、併記あるいは単独で表記する。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る細胞培養装置の全体構成図を示す。
図1において、細胞懸濁液を通流させる流路を実線で示し、制御信号あるいは計測信号を送受信する信号線を点線で示している。細胞培養装置1は、細胞を培養し増殖させ、増殖させた細胞を剥離する拡大培養機構15、拡大培養機構15により剥離された細胞を分散させ、測定する細胞計測機構16、細胞計測機構16により分散させた細胞懸濁液を拡大培養機構15へ送液する細胞播種機構17、及び制御部18より構成される。なお、後述するように、制御部18は、細胞計測機構16と協働し、計測される前方散乱光強度、透過率及び側方散乱光強度に基づき、細胞懸濁液中の細胞生存率等を演算により求める機能を有する。この点において、制御部18は、細胞計測機構16の一部を構成する。また、制御部18は、拡大培養機構15、細胞計測機構16及び細胞播種機構17を制御する機能も有する。以下では、制御部18が、細胞懸濁液中の細胞生存率、生細胞濃度(CVc)、及び死細胞濃度(CDc)を求める機能を有する構成を一例として説明するが、これに限られるものではない。例えば、細胞計測機構16内に上記機能を有する制御演算部を設けても良く、また、後述する測定部6に制御演算部を配する構成としても良い。
【0018】
拡大培養機構15は、図示しないCO
2インキュベータ内に格納されている。同様に、細胞計測機構16及び細胞播種機構17もCO
2インキュベータ内に格納する構成としても良い。細胞培養装置1内の流路内は閉鎖系で無菌状態とされており、細胞培養装置1の動作中において、流路内に導入される空気は、例えば、HEPAフィルタ(図示せず)を介しており、細胞の継代操作等を含む細胞培養を、無菌状態を維持した環境下で実施することができる。
【0019】
拡大培養機構15を構成する拡大培養容器2にて培養する細胞は、細胞供給部10より液体駆動部、例えば、シリンジポンプ等を用いて導入される。培養液供給部3より液体駆動部、例えば、しごきポンプ7により適量の細胞培養液が導入され、三方バルブ8及び流路内を通流し、拡大培養容器2へ供給される。その後、拡大培養容器2にて培養する細胞が、導入された細胞培養液中で均一の濃度となるよう、容器を揺り動かした後、数日間静置される。培養される細胞は、CO
2インキュベータ内で適切な条件の下、拡大培養容器2内で数日間培養される。拡大培養容器2には、培養細胞の増殖状態を観察可能とするため顕微鏡が設置されている。これは、100%コンフルエント状態、すなわち、拡大培養容器2の底面全域に培養細胞が増殖すると、それ以上の増殖は行えず、培養細胞の活性が低下するあるいは死滅する恐れがあるからである。一般的には、70%〜80%のコンフルエントに達した時点で、培養細胞を剥離することが望ましい。細胞洗浄溶液供給部11は、内部に、PBS(Phosphate Buffered Sline)あるいはHEPES(4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acid)緩衝液等、細胞に適した洗浄液を収容する。例えば、シリンジポンプを介して、細胞洗浄液供給部11より洗浄液を拡大培養容器2内に導入することにより、滞留期間の長い細胞培養液、死細胞又はごみ等が押し出される。押し出された、死細胞を含む細胞培養液は、しごきポンプ7を介して廃液14として、細胞培養装置1の閉鎖系外へと排出される。細胞剥離溶液供給部12は、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ等のタンパク質分解酵素を収容する。これらタンパク質分解酵素を、拡大培養容器2へ導入し一定時間放置する。これらタンパク質酵素により、増殖された培養細胞と拡大培養容器2の底面とを接着するインテグリン等のタンパク質が分解され、培養細胞が拡大培養容器2より剥離される。細胞剥離溶液阻害剤供給部13は、トリプシンインヒビターあるいは細胞培養液等の酵素活性阻害剤を収容する。これら細胞剥離溶液阻害剤を拡大培養容器2へ導入することにより、培養細胞剥離後のタンパク質分解酵素の活性を停止させ、酵素活性による培養細胞へのダメージの低減が図られる。
【0020】
試料導入部4は、拡大培養容器2の底面より剥離された培養細胞を、しごきポンプ7、三方バルブ8を介して回収する。このとき、拡大培養容器2の底面に培養細胞の残渣が多い場合には、培養液供給部3より導入される細胞培養液により共洗いし、その後、試料導入部4に回収することで、培養細胞の回収率を向上することが可能となる。
【0021】
試料供給部4に回収された培養細胞は、シリンジポンプ(図示せず)等の液体駆動部及び三方バルブ8を介して、細胞計測機構16の循環流路内に細胞懸濁液として導入される。細胞計測機構16は、分散部5、液体駆動部としてのしごきポンプ7、及び測定部6より構成される。これら分散部5、しごきポンプ7及び測定部6は、循環流路にて接続されている。培養する細胞種によりその凝集性が異なり、仮に、凝集性の高い細胞種を培養する場合、細胞計測機構16の循環流路内に導入される細胞懸濁液に含まれる培養細胞(以下、単に細胞と称す)は、塊状となって循環流路を通流することとなる。そこで、液体駆動部としてのしごきポンプ7により、三方バルブ8を介して、分散部5へ導入され、塊状から分散された後、細胞懸濁液は測定部6へ導入される。ここで、分散部5は、例えば、流路径が急激に縮小する狭窄部あるいは、オリフィス等の仕切り板を流路内に設けることで形成される。これら狭窄部あるいはオリフィスを細胞懸濁液が通流する際、せん断力(シェアストレス)により、塊状の細胞は分散される。なお、低凝集性の細胞種を培養する場合においては、必ずしも細胞計測機構16内に分散部5を配する必要はなく、測定部6、しごきポンプ7及び三方バルブ8を循環流路で接続することで、細胞計測機構16を構成すれば良い。
【0022】
細胞播種機構17は、一端が拡大培養容器2と、他端が細胞計測機構16内の循環流路に三方バルブ8を介して接続される流路に、三方バルブ8を介して接続される細胞播種試料調整部9を備える。細胞播種試料調整部9は、細胞計測機構16内の循環流路内を通流する細胞懸濁液中の細胞濃度を調整するために配されている。すなわち、細胞懸濁液中の細胞濃度が所望の細胞濃度となるよう、液体駆動部であるしごきポンプ7を駆動し、一端が拡大培養容器2に接続される流路を介して、拡大培養容器2の底面より剥離された細胞を含む細胞懸濁液を、三方バルブ8を介して細胞播種試料調整部9内に取り込む。その後、しごきポンプ7の駆動により培養液供給部3より三方バルブ8を介して所望量の細胞培養液を、細胞播種試料調整部9に導入し、既に、取り込まれた細胞懸濁液と混合し希釈する。そして、希釈後の細胞懸濁液を細胞計測機構16の循環流路へ送液し、詳細は後述する測定部6により、前方散乱光強度、透過率、及び側方散乱光強度が計測される。
【0023】
ここで、細胞懸濁液に含まれる、生細胞(Vc)、低活性の生細胞(Sc)及び死細胞(Dc)について説明する。
図2に、ヒト大腸がん細胞株であるCaco−2細胞の顕微鏡画像を示す。
図2に示す顕微鏡画像は以下の条件にて得られたCaco−2細胞の画像である。Caco−2細胞を100%コンフルエント以上に培養し、接着している細胞を剥離せずに培養液中に浮遊している細胞を回収した。この状態の培養細胞のほとんどは活性が低下し、細胞の一部が剥離し、細胞培養液中に死細胞が多く浮遊している。細胞培養液の一部をとり、セルカウンターを使用して細胞濃度と生存率を測定したところ、細胞濃度5×10
5cells/mL、生存率20%であった。この試料をスライドガラスに滴下しカバーガラスにより固定後、倒立顕微鏡を使用して対物レンズ20倍で撮影した画像が
図2に示す顕微鏡画像である。
図2に示すように、まだ活性を有する生細胞(Vc)19、低活性の生細胞(Sc)20、活性を有さず死滅した死細胞(Dc)21が観察される。生細胞(Vc)19は白く光り、大きな粒径であるのに比べ、死細胞(Dc)21は全体的に黒く着色し、粒子状でなくなったものが多い。また、細胞膜がはっきりせず細胞内部の構造が変化している様子が観察される。大きく見えても粒子状ではないため光を散乱しにくい。低活性の生細胞(Sc)20は、生細胞(Vc)19と死細胞(Dc)21の中間の状態で、白く光ってはいるものの、その粒径は生細胞(Vc)19より小さいことがわかる。
【0024】
図2に示す、生細胞(Vc)、低活性の生細胞(Sc)及び死細胞(Dc)は、Caco−2細胞の場合であるが、ここで細胞種に依る粒子径の相違について説明しておく。生細胞(Vc)の粒子径は、NIH/3T3細胞では約10μm、上述のヒト大腸がん細胞株(Caco−2細胞)あるいはヒト口腔粘膜上皮細胞は約14μm、ヒト骨格筋筋芽細胞は約20μmである。また、ヒト間葉系幹細胞は約10〜50μm及びヒト軟骨細胞は約10μmである。
【0025】
次に、
図1に示す細胞計測機構16を構成する測定部6について説明する。
図3に、測定部6の光学系の概略構成図を示す。本実施形態における測定部6は、内部に細胞懸濁液を通流するフローセル23、フローセル23を通流する細胞懸濁液の流れの方向に対し直交するよう配される光源22、フローセル23を挟み光源22と対向する位置、すなわち、光源から照射される照射光の光軸に検出器の受光面が対向するよう配される透過率検出器25を備える。また、測定部6は、透過率検出器25側であって、照射光の光軸に対し所定の角度θ(前方散乱検出角度)をもって配される前方散乱光検出器24、及び照射光の光軸に垂直な軸上に配され、その軸がフローセル23の略中心を通り、フローセル23より所定の距離離間した位置に配される側方散乱光検出器26を有する。ここで、光源22として、例えば、分光光度計、散乱光度計、蛍光光度計、フローサイトメータ又は粒度分布測定装置等で用いられる、レーザー光源、LED光源、タングステンランプ、あるいはキセノンランプ等が使用できる。
【0026】
ここで、前方散乱光とは、光源22の光軸に対して前方方向に散乱される光であり、計測される前方散乱光強度は粒子の大きさを反映している。また、光軸とのなす角、すなわち、前方散乱検出角度θは、粒子径に依存する。従って、例えば、上述の細胞種毎の生細胞(Vc)の粒子径に最適となるよう、予め前方散乱検出角度θを調整し、前方散乱光検出器24を配する。このように、細胞種の生細胞(Vc)の粒子径に適した角度で散乱する前方散乱光強度を測定すれば、同じ大きさの粒子径の生細胞(Vc)であれば散乱光強度は、生細胞(Vc)の濃度(CVc)に比例する。また、前方散乱光の測定には、細胞(生細胞(Vc))の大きさに応じて光源波長を選択する必要がある。細胞の粒子径に合った波長のとき前方散乱光強度が細胞濃度に依存して変化しやすく、粒子径の大きな細胞ほど長波長の光を照射することが望ましい。光源22からの照射光は、レーザー光のような平行光が望ましい。
【0027】
また、細胞が活性の高い状態から低い状態、すなわち生細胞(Vc)から死細胞(Dc)に変化する過程で細胞内部の色が黒っぽく変化する。そのため細胞懸濁液中の死細胞(Dc)の含有率が増すにつれ、細胞懸濁液を透過する光量が減衰する。よって、透過率検出器25により透過率を測定することで、死細胞(Dc)の濃度(CDc)を得ることができる。透過率測定において、紫外光付近では、細胞懸濁液中のあらゆる有機成分の吸収が重なるため、死細胞(Dc)のみを正確に評価することが困難となる。また、
図1に示す培養液供給部3より拡大培養容器2へ導入される細胞培養液には、pH判定のためにフェノールレッドなどのpH指示薬が添加されている。そのため細胞培養液は黄色〜赤色に着色されており、可視光領域の波長では細胞培養液の色の影響を受けて透過率が大きく低下する。これらを考慮し長波長領域で透過率検出器25により透過率を検出すれば、生細胞懸濁液中の死細胞(Dc)の濃度(CDc)を、妨害成分の影響を受けることなく安定して計測することができる。
【0028】
更にまた、生細胞(Vc)と死細胞(Dc)とでは、細胞内の顆粒密度や内部構造が異なる。側方散乱光は、上述のとおり光源22の光軸に対して90°の角度で検出される光であり、粒子の密度・形態を反映している。従って、細胞内の物質に照射光が照射されることにより散乱する側方散乱光強度の相違は、細胞生存率を反映することになる。細胞懸濁液中の側方散乱光スペクトルを測定すると、紫外領域(230nm〜310nm付近)に細胞質の有機成分に由来するなだらかなピークが検出され、可視光領域の波長に近づくと、上述のとおり、細胞培養液の色の影響を受ける。従って、細胞内粒子に依存する側方散乱光は紫外領域の短波長側で計測することが望ましい。
【0029】
図4に、
図1に示す制御部18の概略構成図を示す。上述のように、本実施形態では一例として、制御部18が細胞計測機構16と協働し、計測される前方散乱光強度、透過率及び側方散乱光強度に基づき、細胞懸濁液中の細胞生存率等を演算により求める機能を有する場合を示している。
【0030】
制御部18は、演算処理部18a、演算プログラム格納部18b、I/Oインタフェース18c、及び校正曲線データベース(DB)を備え、これらを内部バス18eにて相互に接続する構成を有する。I/Oインタフェース18cは、上述の測定部6を構成する、前方散乱光検出器24にて計測された前方散乱光強度、透過率検出器25にて計測された透過率、及び側方散乱光検出器26にて計測された側方散乱光強度を取り込み可能とすると共に、測定部6を構成する光源22へ照射光の出射指令(照射タイミング等)を送信可能とする。演算プログラム格納部18bには、生細胞濃度演算プログラム、死細胞濃度演算プログラム及び細胞生存率演算プログラムが格納されている。また、校正曲線データベース18dには、生細胞濃度(CVc)と前方散乱光強度との関係を示す、生細胞濃度(CVc)の演算に用いられる校正曲線(1)が予め格納されている。死細胞濃度(CDc)と透過率Tとの関係を示す、死細胞濃度(CDc)の演算に用いられる校正曲線(2)も、同様に予め格納されている。また、細胞生存率と側方散乱光強度との関係を示す、細胞生存率の演算に用いられる校正曲線(3)も予め格納されている。なお、演算プログラム格納部18bに格納されるプログラムとして、生細胞濃度演算プログラム、死細胞濃度演算プログラム及び細胞生存率演算プログラムを1つのプログラムに組み込み、格納しても良い。
【0031】
演算処理部18aは、例えば、1つのCPUあるいは、複数並列接続されたCPU等のプロセッサにて実現される。演算処理部18aによる具体的処理については、実施例にて後述する。演算処理部18aは、演算プログラム格納部18bより生細胞濃度演算プログラムを読み出し、I/Oインタフェース18cより取り込まれる前方散乱光強度を、内部バス18eを介して取り込み、生細胞濃度演算プログラムを実行する。そして、校正曲線データベース18dを参照し、校正曲線(1)を用いて生細胞懸濁液中の生細胞濃度(CVc)を求める。また、演算処理部18aは、演算プログラム格納部18bより死細胞濃度演算プログラムを読み出し、I/Oインタフェース18cより取り込まれる透過率Tを、内部バス18eを介して取り込み、死細胞濃度演算プログラムを実行する。そして、校正曲線データベース18dを参照し、校正曲線(2)を用いて生細胞懸濁液中の死細胞濃度(CDc)を求める。更に、細胞懸濁液中に含まれる低活性の生細胞(Sc)が限りなく小数であって、無視し得る場合、上記生細胞濃度(CVc)及び死細胞濃度(CDc)を用いて細胞生存率を求める。
【0032】
また、演算処理部18aは、上記と異なり生細胞懸濁液中に含まれる低活性の生細胞(Sc)が無視できない程度の数含まれる場合には、上記と同様に、生細胞濃度(CVc)及び死細胞濃度(CDc)を求めた後、次の処理を実行する。演算処理部18aは、演算プログラム格納部18bより細胞生存率演算プログラムを読み出し、I/Oインタフェース18cより取り込まれる側方散乱光強度を、内部バス18eを介して取り込み、細胞生存率演算プログラムを実行する。そして、校正曲線データベース18dを参照し、校正曲線(3)を用い、更に生細胞濃度(CVc)及び死細胞濃度(CDc)に基づき細胞生存率を求める。
【0033】
このように、制御部18が、測定部6により計測される前方散乱光強度、透過率T及び/又は側方散乱光強度を用いると共に、予め校正曲線データベース18dに格納される校正曲線(1)〜(3)を用いて、生細胞懸濁液中の細胞生存率を求めることにより、作業者の熟練度に依ることなく、また、培養細胞を染色することなく、少なくとも細胞生存率の計測を高精度かつ迅速に実行することが可能となる。
【0034】
なお、上述のとおり本実施形態の細胞培養装置1は、生細胞濃度(CVc)及び死細胞濃度(CDc)を求めることから、生細胞(Vc)数及び死細胞(Dc)数を求めることも可能である。また、低活性の生細胞(Sc)については、前方散乱光検出器24より得られる前方散乱光強度及び透過率検出器25より得られる透過率Tに、所定の閾値を予め設定することで、低活性の生細胞濃度(CSc)、更には、低活性の生細胞(Sc)数を求めることも可能となる。閾値の設定については、予め既知の濃度の標準サンプルを用意し、前方散乱光強度及び透過率Tを測定することで、最適な閾値が得られる。
【0035】
以下に、予め校正曲線データベース18dに格納される校正曲線(1)〜(3)について、ヒト大腸がん細胞株(Caco−2細胞)の場合を例に説明する。
<生細胞濃度(CVc)と前方散乱光強度との関係を示す、校正曲線(1)>
図5は、Caco−2細胞懸濁液中の生細胞濃度と前方散乱光強度の関係を示す図であり、校正曲線(1)の説明図である。
図5に示す校正曲線(1)は、
図3に示す前方散乱角度θが20°とした場合のものである。
【0036】
先ず、Caco−2細胞懸濁液中に生細胞(Vc)が生細胞濃度(CVc)100%となる標準試料、更には、生細胞濃度(CVc)が異なる複数の標準試料を準備する。そして、前方散乱検出角度θを20°に調整し、それぞれ生細胞濃度(CVc)の異なる標準試料をフローセル23内に通流し、前方散乱光強度を前方散乱光検出器24により計測する。そして、横軸に生細胞濃度(CVc)、縦軸に計測された前方散乱光強度を取り、プロットする。プロットされた、各生細胞濃度(CVc)における前方散乱光強度の測定値を、直線にて近似し、
図5に示す校正曲線を作成し、校正曲線(1)として
図4に示す校正曲線データベース18dに格納する。なお、ここでは、Caco−2細胞の生細胞(Vc)を標準試料として、複数の生細胞濃度(CVc)分用意したがこれに限られるものではない。例えば、Caco−2細胞の生細胞(Vc)と同一粒径のラテックス粒子を用意し、このラテックス粒子を標準試料として、それぞれ、異なる濃度で細胞培養液に混合し、上記と同様に、前方散乱光強度を測定することにより、校正曲線(1)を作成しても良い。
<死細胞胞濃度(CDc)と透過率Tとの関係を示す、校正曲線(2)>
図6は、Caco−2細胞懸濁液中の各死細胞濃度における、光源からの照射光の波長と透過率Tとの関係を示すスペクトル図である。
【0037】
先ず、Caco−2細胞を培養容器に導入し、培養容器の底面に接着することなく、細胞培養液中を浮遊する細胞を集め、撹拌後10分静置する。その後、液面付近を分取し、分取された細胞をセルカウンターにより測定し、83%が粒子径約5μmの死細胞(Dc)を得る。この死細胞(Dc)を用いて死細胞濃度(CDc)が1.5〜6.0×10
5cells/mL、生細胞濃度(CVc)が1.8×10
6cells/mLとなるよう、細胞懸濁液標準試料を調製し、各死細胞濃度(CDc)における透過率Tスペクトルを測定した。その結果、
図6に示すように、横軸に光源からの照射光の波長、縦軸に透過率Tを取り、死細胞濃度(CDc)が、0cells/mL、1.5×10
5cells/mL、3.0×10
5cells/mL、及び6.0×10
5cells/mLにおけるスペクトルが得られた。
【0038】
図6のスペクトル図に示されるように、波長400nm以下の波長域、及び450〜600nmの波長域では、いずれの死細胞濃度(CDc)試料でも透過率Tが大きく減少している。これは、波長400nm以下では細胞質による吸収が、また、450〜600nmの波長域では、上述のようにpH指示薬の添加による細胞培養液の着色による吸収が生じるためである。この波長域以外で黒くなった細胞、すなわち、死細胞(Dc)による照射光の吸収を測定可能な波長域として、650〜750nmの最適波長域Δλが好適である。この最適波長域Δλ内の波長700nmにおける透過率Tを求めた結果を、以下の表1に示す。
【0040】
表1に示すように、生細胞懸濁液中の死細胞濃度(CDc)が0cells/mLでは透過率Tは100.6%、死細胞濃度(CDc)が1.5×10
5cells/mLでは透過率Tは96.5%、死細胞濃度(CDc)が3.0×10
5cells/mLでは透過率Tは93.8%、死細胞濃度(CDc)が6.0×10
5cells/mLでは透過率Tは89.3%が得られた。これより、死細胞濃度(CDc)が0cells/mLの試料(細胞培養液等)をフローセル23に通流し、透過率検出器25により透過率Tを予め測定し、その測定値をベースラインとして記憶部(図示せず)に格納することで、照射光波長700nmにおいて、各生細胞懸濁液中の死細胞濃度(CDc)における透過率Tの計測値とベースラインとの差分を得ることで、生細胞懸濁液中の死細胞(Dc)による透過率Tの減少を出力することが可能となる。
【0041】
図7に、Caco−2培地中の死細胞濃度(CDc)と透過率Tの関係を示す。また、
図8に、Caco−2生細胞懸濁液中の死細胞濃度(CDc)と透過率Tの関係を示す。
図7及び
図8のいずれにおいても、上記のとおり、照射光の波長を700nmとし、死細胞濃度(CDc)が0cells/mLの標準試料の透過率Tをベースラインとし、各死細胞濃度(CDc)の標準試料の透過率Tとの差分を求め、校正曲線を作成した。培地中の校正曲線及び生細胞懸濁液中の校正曲線の傾きは同一であり、生細胞懸濁液に影響されることなく、黒い死細胞(Dc)の個数が増加することに伴い透過率Tが減衰することが確認された。これにより、
図8に示す死細胞濃度(CDc)と透過率Tとの関係を示す、校正曲線を、校正曲線(2)として
図4に示す校正曲線データベース18dに格納する。なお、ここでは、Caco−2細胞の死細胞(Dc)を標準試料として、複数の死細胞濃度(CDc)分用意したがこれに限られるものではない。例えば、Caco−2細胞の死細胞(Dc)と同一粒径の黒色粒子を用意し、この黒色粒子を標準試料として、それぞれ、異なる濃度で細胞培養液に混合し、上記と同様に、透過率Tを測定することにより、校正曲線(2)を作成しても良い。ここで、黒色粒子として、例えば、磁性粒子やカーボンブラック等が使用できる。
<細胞生存率と側方散乱光強度との関係を示す、校正曲線(3)>
図9は、Caco−2細胞懸濁液中の細胞培養液及び各細胞生存率における、光源からの照射光の波長と側方散乱光強度との関係を示すスペクトル図である。
【0042】
先ず、生細胞懸濁液標準試料として、細胞生存率0%、すなわち細胞培養液のみ(ブランク:blank)の標準試料、細胞生存率25%、細胞生存率40%、細胞生存率70%となるよう細胞懸濁液標準試料を調整する。そして、こら各細胞生存率の細動懸濁液標準試料をフローセル23内に通流し、側方散乱光検出強度を側方散乱光検出器26により測定する。その結果、
図9に示すように、横軸に光源からの照射光の波長、縦軸に側方散乱光強度を取り、細胞生存率が、0%(細胞培養液のみ)、25%、40%、70%におけるスペクトルが得られた。
【0043】
図9の側方散乱光スペクトル図に示されるように、紫外領域(230nm〜310nm付近)では、細胞生存率毎に、照射光の波長に対する側方散乱光強度に相違が生じる。しかし、紫外領域外では、細胞生存率毎の側方散乱光強度に相違は生じず、これでは各細胞生存率を識別することができない。これは、上述のとおり可視光領域の波長に近づくと、細胞培養液の色の影響を受けるためである。従って、細胞内粒子に依存する側方散乱光は紫外領域の短波長側で計測することが好ましい。波長280nmにおける側方散乱光強度の測定結果を、以下の表2に示す。
【0045】
表2に示すように、生細胞懸濁液中の細胞生存率が0%では側方散乱光強度は17.48、細胞生存率が25%では側方散乱光強度は19.76、細胞生存率が40%では側方散乱光強度は24.31、細胞生存率が70%では側方散乱光強度は32.85%が得られた。これにより、細胞培養液のみ(細胞生存率:0%)をフローセル23に通流し、側方散乱光検出器26により側方散乱光強度を予め測定し、その測定値をベースラインとして記憶部(図示せず)に格納する。そして、照射光波長280nmにおいて、各生細胞懸濁液中の細胞生存率における側方散乱光強度とベースラインとの差分を得ることで、生細胞懸濁液中の細胞生存率の増加分を出力することが可能となる。なお、必ずしもベースラインに対する差分(増加分)を出力する構成に限らず、側方散乱光検出器26により測定された側方散乱光強度そのものを出力する構成としても良い。
【0046】
図10に、Caco−2生細胞懸濁液中の細胞生存率と側方散乱光強度の関係を示す。上記のとおり、照射光の波長を280nmとし、細胞生存率が0%(細胞培養液のみ)の標準試料の側方散乱光強度をベースラインとし、各細胞生存率の標準試料の側方散乱光強度との差分を求め、校正曲線を作成し、校正曲線(3)として
図4に示す校正曲線データベース18dに格納する。なお、
図10に示すように、側方散乱光強度は細胞生存率に比例することが確認できる。
【0047】
以上のとおり、本実施形態の細胞計測機構16及び細胞培養装置1によれば、作業者の熟練度に依ることなく、また、培養細胞を染色することなく、少なくとも細胞生存率の計測を高精度かつ迅速に実行することが可能となる。
【0048】
また、細胞生存率の他、生細胞濃度(CVc)、死細胞濃度(CDc)、生細胞(Vc)数及び死細胞(Dc)数を求めることも可能である。また、更には、低活性の生細胞(Sc)についても同様に、低活性の生細胞濃度(CSc)及び、低活性の生細胞(Sc)数を求めることも可能となる。
【0049】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0050】
本実施例の細胞培養装置1は、上述の
図1に示す構成と同様であり、細胞計測機構16を構成する測定部6は、上述の
図3に示す構成と同様であり、また、制御部18の構成は、上述の
図4に示す構成と同様であり、重複する説明は省略する。なお、以下では、制御部18が、細胞計測機構16と協働し、計測される前方散乱光強度、透過率及び側方散乱光強度に基づき、細胞懸濁液中の細胞生存率等を演算により求める機能を有する場合を一例として説明するが、これ限らず、例えば、細胞計測機構16内に上記機能を有する制御演算部を設けても良く、また、後述する測定部6に制御演算部を配する構成としても良い。
【0051】
また、以下では、培養細胞として、ヒト大腸がん細胞株(Caco−2細胞)を例に、
図3に示す光源22の光軸とのなす角、すなわち前方散乱検出角度θを20°に予め調整し測定する場合を例に説明する。なお、上述のとおり、前方散乱検出角度θは、細胞種の生細胞(Vc)の粒子径に依存する。Caco−2細胞以外の他の細胞腫の測定に最適な前方散乱検出角度θは、約5°〜45°の範囲内で調整可能である。
【0052】
図11に、本実施例の細胞計測機構16による細胞生存率算出処理のフローチャートを示す。先ず、
図4に示す演算処理部18aは、演算プログラム格納部18bより、生細胞濃度演算プログラム及び死細胞濃度演算プログラムを、内部バス18eを介して読み出す(ステップS101)。
【0053】
ステップS102では、演算処理部18aは、測定部6を構成する前方散乱光検出器24により測定された前方散乱光検出強度を、I/Oインタフェース18c及び内部バス18eを介して取り込む。ここで、取り込まれる前方散乱光検出強度は、拡大培養機構15にて培養し増殖され、剥離後のCaco−2細胞を含む生細胞懸濁液がフローセル23内に通流され、光源22からの照射光により前方へ散乱する前方散乱光の強度である。
【0054】
ステップS103では、演算処理部18aは、校正曲線データベース18dにアクセスし、
図5に示すCaco−2細胞懸濁液中の生細胞濃度(CVc)と前方散乱光強度との関係を示す校正曲線(1)を参照する。演算処理部18aは、測定された前方散乱光強度に対応する生細胞濃度(CVc)を、この校正曲線(1)を用いて抽出することで、生細胞濃度(CVc)の算出を行う(ステップS104)。
【0055】
次にステップS105では、演算処理部18aは、測定部6を構成する透過率検出器25により測定された透過率Tを、I/Oインタフェース18c及び内部バス18eを介して取り込む。そして、再び演算処理部18aは、校正曲線データベース18dにアクセスし、
図8に示すCaco−2細胞懸濁液中の死細胞濃度(CDc)と透過率Tとの関係を示す校正曲線(2)を参照する(ステップS106)。演算処理部18aは、測定された透過率Tに対応する死細胞濃度(CDc)を、この校正曲線(2)を用いて抽出することで、死細胞濃度(CDc)の算出を行う(ステップS107)。なお、前方散乱光強度は相対的な信号であるのに対し、透過率Tは絶対値として扱うことができる信号である。これは、上述した校正曲線(2)の作成時と同様に、測定時においても、予め細胞培養液のみ(細胞生存率0%と同等)をフローセル23に通流し、その時に測定される透過率Tをベースライとして記憶する。そして、生細胞懸濁液をフローセル23へ通流した時に得られる透過率Tとベースラインとの差分、すなわち透過率Tの減少を出力する構成としていることによる。換言すれば、透過率検出器24より得られる透過率Tは、レファレンス光によるバックグラウンド補正(バックグラウンドのノイズ除去)後の信号であることによる。
【0056】
ステップS108では、演算処理部18aは、ステップS104にて得られた生細胞濃度(CVc)及びステップS107で得られた死細胞濃度(CDc)を用いて、(CVc/(CVc+CDc))を算出し、Caco−2細胞懸濁液中の細胞生存率を求める。
【0057】
なお、本実施例では、培養細胞であるCaco−2細胞は、せん断力(シェアストレス)に強く、細胞生存率を高く維持することが容易であり、且つ、せん断力による活性低下の影響が少ない細胞であるため、Caco−2細胞懸濁液中における生細胞濃度(CVc)、死細胞濃度(CDc)及び低活性の生細胞濃度(CSc)が以下の関係にあると想定できるからである。
【0058】
低活性の生細胞濃度(CSc)<<(CVc+CSc+CDc)
CDc≒(CSc+CDc)
以上のとおり、本実施例では、生細胞懸濁液に光源より照射光を照射することにより得られる、前方散乱光検出強度及び透過率に基づき、生細胞懸濁液に未知の濃度で含まれる生細胞、すなわち細胞生存率を得ることができる。なお、細胞生存率の他、生細胞濃度(CVc)、死細胞濃度(CDc)、生細胞(Vc)数及び死細胞(Dc)数も得ることができる。
【0059】
本実施例によれば、作業者の熟練度に依ることなく、また、培養細胞を染色することなく、少なくとも細胞生存率の計測を高精度かつ迅速に実行することが可能となる。
【0060】
また、本実施例によれば、ベースライン補正後の透過光を得る構成であることから、簡易な測定部の構成により、ダブルビーム分光光度計と同様の計測精度を得ることができる。
【実施例2】
【0061】
図12に、本発明の他の実施例である実施例2の細胞生存率算出フローチャートを示す。本実施例では、細胞生存率の算出に、測定部6を構成する側方散乱光検出器26により測定される側方散乱光強度を用いる点が実施例1と異なる。以下では、実施例1と同様の構成については説明を省略する。
【0062】
図12に示すように、ステップS101では、演算処理部18aは、演算プログラム格納部18bより、生細胞濃度演算プログラム及び死細胞濃度演算プログラムに加え、更に、細胞生存率演算プログラムを、内部バス18eを介して読み出す。その後のステップS102〜ステップS107までは実施例1と同様に実行される。
【0063】
ステップS107にて死細胞濃度(CDc)算出後、演算処理部18aは、測定部6を構成する側方散乱光検出器26により測定された側方散乱光強度を、I/Oインタフェース18c及び内部バス18eを介して取り込む(ステップS109)。
【0064】
ステップS110では、演算処理部18aは、校正曲線データベース18dにアクセスし、
図10に示すCaco−2細胞懸濁液中の細胞生存率と側方散乱光強度との関係を示す校正曲線(3)を参照する。
【0065】
ステップS111では、演算処理部18aは、ステップS104にて得られた生細胞濃度(CVc)及びステップS107にて得られた死細胞濃度(CDc)を用いて、参照した校正曲線(3)のy切片を補正する。具体的には、予め実試料の細胞種(ここでは、Caco−2細胞)を用い、細胞生存率約100%の細胞懸濁液を用意する。そして、この細胞懸濁液中の生細胞濃度(CVc)及び側方散乱光強度との関係を、前方散乱光検出器24及び側方散乱光検出器26により測定し求めておく。なお、細胞生存率約100%の細胞懸濁液は、遠心分離操作により懸濁液中のごみや小さな死細胞を除去することにより得ることができる。しかし再生医療や細胞治療に使用される検体や、株化されていない初代培養細胞等、細胞種によっては、細胞剥離操作や遠心分離操作の過程でダメージを受け細胞活性が低下しやすく、細胞生存率約100%を維持できないものもある。この場合は細胞剥離や遠心分離操作で得られる細胞懸濁液の平均的な最大細胞生存率を求めておく。例えば、ヒト口腔粘膜上皮細胞では最大細胞生存率は85〜90%程度である。最大細胞生存率における生細胞濃度(CVc)と側方散乱光強度の関係を求め、記憶部に格納する。この最大細胞生存率における生細胞濃度(CVc)と側方散乱光強度との関係を用い、ステップS104及びステップS107にて得られた生細胞濃度(CVc)及び死細胞濃度(CDc)から、最大細胞生存率における側方散乱光強度を求める。この求めた側方散乱光強度の値を用いて、校正曲線(3)のy切片を補正する。
【0066】
次に、ステップS112では、演算処理部18aは、測定された側方散乱光強度に対応する細胞生存率を、補正後の校正曲線(3)を用いて抽出することで、細胞生存率の算出を行う(ステップS112)。なお、ステップS111にてy切片が補正された校正曲線(3)を、校正曲線データベース18dに既に格納されている校正曲線(3)に替えて格納する。すなわち、補正後の校正曲線(3)に更新し格納する。
【0067】
本実施例においても、実施例1と同様に、培養細胞であるCaco−2細胞は、せん断力(シェアストレス)に強く、細胞生存率を高く維持することが容易であり、且つ、せん断力による活性低下の影響が少ない細胞であるため、Caco−2細胞懸濁液中における生細胞濃度(CVc)、死細胞濃度(CDc)及び低活性の生細胞濃度(CSc)が以下の関係にあると想定している。
【0068】
低活性の生細胞濃度(CSc)<<(CVc+CSc+CDc)
CDc≒(CSc+CDc)
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、校正曲線(3)を補正し細胞生存率を算出することにより、更に細胞生存率を高精度に計測することが可能となる。
【実施例3】
【0069】
図13に、本発明の他の実施例である実施例3の細胞生存率算出フローチャートを示す。実施例1及び実施例2では、生細胞懸濁液中の低活性の生細胞濃度(CSc)が無視できるほど低い場合、すなわち、CDc≒(CSc+CDc)と想定できる場合について説明した。本実施例では、CDc≒(CSc+CDc)と想定できない場合における生細胞懸濁液中の細胞生存率を算出する点が、実施例1及び実施例2と異なる。以下では、実施例1及び実施例2と同様の構成については説明を省略する。
【0070】
一般的に生細胞懸濁液試料中の低活性の生細胞(Sc)の粒子径は、生細胞(Vc)の粒子径より小さく、死細胞(Dc)の粒子径より大きい。そのため、仮に、低活性の生細胞(Sc)の粒子径が死細胞(Dc)の粒子径とほぼ同一であっても、生細胞濃度(CVc)を算出するために用いられる校正曲線(1)に対し影響を及ぼすことは無い。しかし、仮に、生細胞(Vc)の粒子径に近い大きさの低活性の生細胞(Sc)が、生細胞懸濁液中に多数存在する場合は、校正曲線(1)の傾きに影響を及ぼすことになる。
【0071】
図13に示すように、演算処理部18aは、ステップS101〜ステップS107まで、上述の実施例1と同様に実行する。その後、演算処理部18aは、ステップS104にて得られた生細胞濃度(CVc)及びステップS107にて得られた死細胞濃度(CDc)により、低活性の生細胞濃度(CSc)及び全細胞数、すなわち、生細胞(Vc)数+死細胞(Dc)数+低活性の生細胞(Sc)数を算出する(ステップS201)。
【0072】
ステップS202では、演算処理部18aは、以下を算出する(ステップS202)。
((CVc+CSc+CDc)−CDc)/(CVc+CSc+CDc)
そして、上記算出結果と、CVc/(CVc+CDc)(
図11に示すステップS108と同様)とを比較する。比較結果が大きく異なることで、生細胞(Vc)の粒子径に近い大きさの低活性の生細胞(Sc)が、生細胞懸濁液中に多数存在することが判明する。また、ステップS104にて、校正曲線(1)を用いて算出された生細胞濃度(CVc)が正常な値でないことがわかる。そこで校正曲線(1)を補正するための処理に移行する。
【0073】
先ず、ステップS203にて、生細胞懸濁液を一定時間(Δt)放置する。このΔtの期間において、低活性の生細胞(Sc)の一部は死細胞(Dc)となり、低活性の生細胞(Sc)数は、Δt放置前の時刻t
Aにおける個数から、Δt経過後の時刻t
Bにおける個数へと減少する。また、死細胞(Dc)数は、Δt放置前の時刻t
Aにおける個数から、Δt経過後の時刻t
Bにおける個数へと増加する。
【0074】
ステップS204では、演算処理部18aは、側方散乱光強度から得られる細胞生存率をx軸、透過率Tより得られる細胞生存率をy軸とし、時刻t
A及び時刻t
Bにおける各細胞生存率をプロットする。これらプロットされた2点間を結ぶ直線の傾きは、仮に、低活性の生細胞濃度(CSc)が“0”の場合、直線の傾きは“1”となる。しかし、実際の直線の傾きは“1”から乖離する。従って、低活性の生細胞(Sc)により生じるこの乖離、すなわち直線の傾きの差分を偏差として算出する。
【0075】
ステップS205では、演算処理部18aは、ステップS204で求めた偏差を用いて、校正曲線データベース18dに格納される校正曲線(1)を補正し、補正後の校正曲線(1)を用いて、測定された前方散乱光強度に対応する生細胞濃度(CVc)を再度抽出することで、生細胞濃度(CVc)を算出する。なお、ステップS205にて補正された校正曲線(1)を、校正曲線データベース18dに既に格納されている校正曲線(1)に替えて格納する。すなわち、補正後の校正曲線(1)に更新し格納する。
【0076】
ステップS206では、ステップS205にて算出された生細胞濃度(CVc)及びステップS107にて得られた死細胞濃度(CDc)に基づき、以下にて細胞生存率を算出する
(CVc+CSc)/(CVc+CSc+CDc)
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、生細胞懸濁液中に低活性の生細胞(Sc)が多数存在する場合においても、細胞生存率を高精度に求めることが可能となる。
【0077】
なお、本実施例のステップS205に替えて、ステップS204にて得られる偏差に基づき、前方散乱検出角度θを変更し、校正曲線データベース18dに格納される校正曲線(1)の傾きと一致するよう、前方散乱光検出器24の配置位置を調整する構成としても良い。
【0078】
また、予め、生細胞(Vc)の粒子径より小さなラテックス粒子を用意し、このラテックス粒子を疑似的な低活性の生細胞(Sc)として、校正曲線(1)の作成時に用いた標準試料に添加する。そして、校正曲線データベース18dに格納される校正曲線(1)である、生細胞濃度(CVc)と前方散乱光強度との関係に及ぼす影響を求める。そして、濃度の異なるラテックス粒子を標準試料に添加した時の校正曲線を作成し、新たに校正曲線データベース18dに格納することで、生細胞懸濁液中に低活性の生細胞(Sc)が多数存在する場合において、生細胞濃度(CVc)の算出に用いる校正曲線としても良い。この場合、使用するラテックス粒子の粒子径は、生細胞(Vc)の粒子径の±数μmとするのが望ましく、最低でも1種類以上の粒子径のラテックス粒子を用いることが望ましい。
【0079】
実施例1から実施例3では、培養細胞の一例として、Caco−2細胞を示したが、他の細胞種、例えば、NIH/3T3細胞、ヒト口腔粘膜上皮細胞、ヒト骨格筋筋芽細胞、ヒト間葉系幹細胞、又はヒト軟骨細胞等、各種細胞を培養する場合においても同様に適用できる。
【0080】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。