特許第6367666号(P6367666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367666
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】酸素センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   G01N27/12 B
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-195724(P2014-195724)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-65827(P2016-65827A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年9月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】伊豆 典哉
(72)【発明者】
【氏名】赤松 貴文
(72)【発明者】
【氏名】申 ウソク
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 泰夫
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−162041(JP,A)
【文献】 特開昭56−064652(JP,A)
【文献】 特開昭53−146696(JP,A)
【文献】 特開昭63−067556(JP,A)
【文献】 米国特許第05776601(US,A)
【文献】 特開2008−026307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、電極、酸化物半導体膜、絶縁膜及び触媒膜が順次積層されており、
前記触媒膜は、貴金属粒子が担持されている金属酸化物粒子を含み、
前記金属酸化物は、酸化セリウム、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物又はセリウム−イットリウム複合酸化物であることを特徴とする酸素センサ。
【請求項2】
前記貴金属は、白金、金及びパラジウムからなる群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸素センサ。
【請求項3】
前記貴金属粒子は、平均粒径が1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸素センサ。
【請求項4】
前記触媒膜は、前記貴金属粒子の含有量が1質量%以上40質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の酸素センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
窒素、アルゴン等の工業ガスの製造プロセスにおいて、製品ガスの純度管理は、品質保証を確保するだけでなく、消費資源の抑制により低コスト化するために不可欠である。工業ガスは、一般的に、大気より精留分離することにより製造するため、プロセスの不具合を監視する目的で、微量酸素濃度を測定する必要がある。プラントの運転の不具合を連続的に監視し、汚染を未然に防ぐことで、効率的にプラントを運転することができる。また、微量酸素濃度を測定することにより、工業ガスの出荷時や出荷先における品質を管理することができる。
【0003】
このため、微量酸素濃度を測定することが可能な酸素センサが求められている。
【0004】
特許文献1には、酸素濃度検出部が酸化物半導体微粒子により構成された多孔体からなる抵抗型酸素センサが開示されている。このとき、酸化物半導体微粒子の平均粒径が200nm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−149189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、微量酸素濃度を測定する環境に微量含まれる、水素、メタン、一酸化炭素等の可燃性の干渉ガスの影響を受けるという問題がある。なお、可燃性の干渉ガスは、工業ガスの製造プロセスで混入しうるガスであるため、その影響を抑制することは必須である。
【0007】
本発明の一態様は、上記従来技術が有する問題に鑑み、可燃性の干渉ガスの影響を抑制して、微量酸素濃度を測定することが可能な酸素センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、酸素センサにおいて、基板上に、酸化物半導体膜、絶縁膜及び触媒膜が順次積層されており、前記触媒膜は、貴金属粒子が担持されている金属酸化物粒子を含み、前記金属酸化物は、酸化セリウム、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物又はセリウム−イットリウム複合酸化物である
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、可燃性の干渉ガスの影響を抑制して、微量酸素濃度を測定することが可能な酸素センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酸素センサの一例を示す断面図である。
図2】実施例1の酸素センサの可燃性の燃焼ガスを含まないガス雰囲気における酸素分圧と酸化物半導体膜の電気抵抗の関係を示す図である。
図3】比較例1の酸素センサの可燃性の燃焼ガスを含まないガス雰囲気における酸素分圧と酸化物半導体膜の電気抵抗の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を図面と共に説明する。
【0012】
酸素センサ10は、基板11上に、櫛型電極12、酸化物半導体膜13、絶縁膜14及び触媒膜15が順次積層されている。このとき、触媒膜15は、貴金属粒子が担持されている金属酸化物粒子を含む。
【0013】
酸素センサ10を用いて、可燃性の干渉ガスを含むガス中の微量酸素濃度を測定する際に、触媒膜15は、可燃性の干渉ガスを酸化するため、酸化物半導体膜13に可燃性の干渉ガスが到達することを抑制できる。また、絶縁膜14は、酸化物半導体膜13と触媒膜15の間の電気的絶縁を確保するため、酸化物半導体膜13の電気抵抗を測定する際に、触媒膜15の電気抵抗の影響を抑制することができる。その結果、可燃性の干渉ガスの影響を抑制して微量酸素濃度を測定することができる。
【0014】
基板11を構成する材料としては、特に限定されないが、アルミナ、熱酸化膜付シリコン等が挙げられる。
【0015】
酸化物半導体膜13を構成する材料としては、特に限定されないが、酸化セリウム、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物等が挙げられる。
【0016】
酸化物半導体膜13は、酸化物半導体粒子を含むペーストを印刷することにより形成することができる。
【0017】
酸化物半導体粒子の平均粒径は、通常、10〜200nmである。
【0018】
ペーストの印刷方法としては、特に限定されないが、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0019】
絶縁膜14を構成する材料としては、特に限定されないが、アルミナ等が挙げられる。
【0020】
絶縁膜14は、絶縁体粒子を含むペーストを印刷することにより形成することができる。
【0021】
絶縁体粒子の平均粒径は、通常、100〜2000nmである。
【0022】
ペーストの印刷方法としては、特に限定されないが、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0023】
金属酸化物粒子を構成する材料としては、酸素貯蔵能を有していれば、特に限定されないが、酸化セリウム、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物、セリウム−イットリウム複合酸化物等が挙げられる。
【0024】
金属酸化物粒子の平均粒径は、通常、10〜200nmである。
【0025】
貴金属粒子を構成する材料としては、可燃性の干渉ガスの燃焼触媒として作用することが可能であれば、特に限定されないが、白金、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、可燃性の干渉ガスの燃焼触媒として高効率で作用することにより、可燃性の干渉ガスの影響を抑制することができるため、白金、金及びパラジウムからなる群より選択される一種以上が好ましい。
【0026】
貴金属粒子の平均粒径は、1nm以上10nm以下であることが好ましく、1nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。貴金属粒子の平均粒径が1nm以上10nm以下であることにより、貴金属粒子の作用面積が増大することに加え、貴金属粒子の担持分散性が良好となるため、可燃性の干渉ガスの影響をさらに抑制することができる。
【0027】
触媒膜15中の貴金属粒子の含有量は、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。触媒膜15中の貴金属粒子の含有量が1質量%以上40質量%以下であることにより、金属酸化物粒子の表面に貴金属粒子が一様に担持されることにより、可燃性の干渉ガスの影響をさらに抑制することができる。

【0028】
触媒膜15は、金属酸化物粒子を含むペーストを印刷した後、貴金属粒子を含む分散液を滴下することにより形成することができる。また、触媒膜15は、予め金属酸化物粒子を含む分散液と貴金属粒子を含む分散液を混合した後、分散媒を蒸発させて得られる粒子を含むペーストを印刷することにより形成することができる。
【0029】
ペーストの印刷方法としては、特に限定されないが、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0030】
櫛型電極12を構成する材料としては、特に限定されないが、金、白金等の導体が挙げられる。
【0031】
櫛型電極12は、導体粒子を含むペーストを印刷することにより形成することができる。
【0032】
ペーストの印刷方法としては、特に限定されないが、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0033】
なお、櫛型電極12の代わりに、平行型電極等を用いてもよい。
【0034】
酸素センサ10は、基板11の櫛型電極12が形成されていない側に、自己加熱することが可能なヒータが設置されていることが好ましい。
【0035】
ヒータを構成する材料としては、特に限定されないが、白金等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例によって限定されるものではない。
【0037】
[セリウム−ジルコニウム系複合酸化物粒子の合成]
硝酸セリウム六水和物とオキシ硝酸ジルコニル二水和物を、モル比が9:1となるよう量り取った後、蒸留水を加え、硝酸セリウムとオキシ硝酸ジルコニルの合計の濃度を0.1mol/Lとした。次に、沈殿物が充分生成するまでアンモニア水を撹拌しながら加えた後、吸引濾過して沈殿物を回収した。さらに、濾物に対する質量比が11/75となるようにカーボンパウダーを加えた後、混練機ハイブリッドミキサーHM−500(キーエンス社製)を用いて2分間撹拌してカーボンを均一に分散させた。次に、70℃で12時間乾燥させた後、900℃で4時間で焼成した。さらに、めのう乳鉢で粉砕し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物粒子を得た。セリウム−ジルコニウム系複合酸化物粒子は、走査型電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径が約100nmであった。
【0038】
[実施例1]
スクリーン印刷法を用いて、白金ペーストTR−7091T(田中貴金属社製)をアルミナ基板上に印刷した後、200℃/hで1400℃まで昇温し、2時間保持して焼成し、白金の櫛型電極を形成した。次に、アルミナ基板の櫛型電極が形成されていない側に、櫛型電極と同様の手順で、白金製の自己加熱することが可能なヒータを設置した。
【0039】
エチルセルロースとテルピネオールが混合されている有機バインダーに、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物粒子を加えて混合し、ペースト1を得た。
【0040】
スクリーン印刷法を用いて、櫛型電極上にペースト1を印刷した後、150℃で15分間乾燥させた。次に、500℃/hで500℃まで昇温し、5時間保持して仮焼した後、200℃/hで1100℃まで昇温し、2時間保持して本焼し、酸化物半導体膜を形成した。
【0041】
エチルセルロースとテルピネオールが混合されている有機バインダーに、平均粒径が約100nmのアルミナ粒子を加えて混合し、ペースト2を得た。
【0042】
スクリーン印刷法を用いて、酸化物半導体膜に重ねるようにペースト2を印刷した後、150℃で15分間乾燥させた。次に、500℃/hで500℃まで昇温し、5時間保持して仮焼し、絶縁膜を形成した。
【0043】
スクリーン印刷法を用いて、絶縁膜に重ねるようにペースト1を印刷した後、150℃で15分間乾燥させた。次に、500℃/hで500℃まで昇温し、5時間保持して仮焼した。さらに、平均粒径が約2nmのポリビニルピロリドンがコーティングされている白金のコロイド分散液(田中貴金属社製)を、触媒膜中の白金の含有量が3質量%となるように滴下した後、70℃で乾燥させ、触媒膜を形成した。
【0044】
ヒータ及び櫛型電極の白金が剥き出しになっている箇所を絶縁するための保護膜を形成するため、誘電体ペーストQM42(デュポン社製)を印刷した後、200℃/hで800℃まで昇温し、2時間保持して焼成し、酸素センサを得た。なお、上記焼成は、絶縁膜及び触媒膜の本焼を兼ねる。
【0045】
[比較例1]
絶縁膜及び触媒膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、酸素センサを得た。
【0046】
[酸素センサの性能]
酸素センサの酸化物半導体膜が形成されている部分を、ガス雰囲気を置換することが可能なガスセンサ試料室内に挿入した後、ガスが漏れないように封止した。次に、ヒータに電圧を印加して自己加熱することにより600℃まで昇温し、酸素の濃度が100%、30%、10%及び3%、可燃性の燃焼ガスの濃度が0%のガス雰囲気における酸化物半導体膜の電気抵抗を測定した。さらに、酸素の濃度が約1ppm、可燃性の燃焼ガスの濃度が0%のガス雰囲気における酸化物半導体膜の電気抵抗を測定した。ここで、試料室にリークがあり、大気中の酸素が試料室内に微量混入すると、酸素の濃度が約1ppmである場合、酸素センサにより検出される酸素の濃度が大きく変動する。このため、酸素の濃度の正確さを担保するために、黄燐発光式酸素濃度計TOAIIs(大陽日酸社製)を用いて、ガス雰囲気における酸素の濃度を測定した。
【0047】
なお、酸素の濃度が減少すると、酸化物半導体膜を構成するセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の電気抵抗は減少する。これは、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の格子酸素が酸素分子として脱離し、酸素空孔が生成する、式
×→V・・+1/2O+2e’
で表される機構がガス雰囲気における酸素分圧に依存するためである。このような性質から、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、酸素分圧を検出することができる。
【0048】
なお、上記機構は、クレーガー=ビンクの表記法により表記されている。
【0049】
図2及び図3に、それぞれ実施例1及び比較例1の酸素センサの可燃性の燃焼ガスを含まないガス雰囲気における酸素分圧と酸化物半導体膜の電気抵抗の関係を示す。なお、酸素分圧P(O)の単位がPaであり、酸化物半導体膜の電気抵抗Rの単位がΩである。また、ガス雰囲気は、常温常圧であるため、図2及び図3における、logP(O)=5は、酸素の濃度100%に相当し、logP(O)=−1は、酸素の濃度1ppmに相当する。
【0050】
図2及び図3から、logRは、logP(O)の一次関数であることがわかる。
【0051】
次に、上記と同様にして、酸素の濃度が約1ppm、水素の濃度が0.1〜1.0ppmのガス雰囲気における酸化物半導体膜の電気抵抗を測定した後、図2及び図3から求められる近似一次関数を用いて、ガス雰囲気における酸素の濃度を換算した。
【0052】
なお、ガス雰囲気が水素を含むと、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の電気抵抗は減少する。これは、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の表面で、式
×+H→V・・+HO+2e’
で表されるように、水素が格子酸素と反応するためである。
【0053】
表1及び表2に、それぞれ実施例1及び比較例1の酸素センサが検出する、水素を含むガス雰囲気における酸素の濃度を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1から、実施例1の酸素センサは、水素の濃度が0.1ppmである場合に、微量酸素濃度を精度良く測定できることがわかる。
【0057】
表1及び表2から、実施例1の酸素センサは、水素の濃度が1.0ppmである場合に、logRが減少するが、水素の影響を抑制して、微量酸素濃度を測定できることがわかる。
【0058】
これに対して、比較例1の酸素センサは、水素の濃度が1.0ppmである場合に、logRが大きく減少する。これは、酸化物半導体膜上に水素を消費する触媒膜が形成されていないため、酸化物半導体膜の格子酸素と水素が反応し、酸化物半導体膜に酸素空孔が多量に生成するためであると考えられる。
【符号の説明】
【0059】
10 酸素センサ
11 基板
12 櫛型電極
13 酸化物半導体膜
14 絶縁膜
15 触媒膜
図1
図2
図3