特許第6368179号(P6368179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368179
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】蒸留設備および蒸留方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/32 20060101AFI20180723BHJP
   B01D 5/00 20060101ALI20180723BHJP
   F25B 27/02 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B01D3/32 Z
   B01D5/00 Z
   F25B27/02 K
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-141700(P2014-141700)
(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2016-16379(P2016-16379A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】松田 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−300902(JP,A)
【文献】 特開2007−277182(JP,A)
【文献】 実開昭59−071904(JP,U)
【文献】 特開平09−029001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00−5/00
C02F 1/04
F25B 27/02
F27B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント内に設けられる蒸留設備であって、
供給された原料を蒸留する蒸留塔と、
前記プラント内で発生した熱を用いて低圧蒸気を発生させる低圧蒸気発生装置と、
前記低圧蒸気発生装置で発生した低圧蒸気を用いて冷水を製造する冷凍機と、
前記蒸留塔から流出する塔頂蒸気を製造された冷水を用いて凝縮させる水冷冷却器と、
前記水冷冷却器で凝縮した液体の一部を前記蒸留塔に還流させる還流装置と、
を備え
前記低圧蒸気発生装置は、前記プラント内で発生したプロセス流体との熱交換により、前記冷凍機から排出された凝縮水を加熱蒸発して低圧蒸気を発生させる熱交換器を備えることを特徴とする蒸留設備。
【請求項2】
前記蒸留塔から流出する塔頂蒸気を空冷する空冷冷却器をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の蒸留設備。
【請求項3】
前記空冷冷却器は、前記水冷冷却器の上流に設けられており、
前記空冷冷却器と前記還流装置とを直接接続するためのバイパスラインをさらに備えることを特徴とする請求項に記載の蒸留設備。
【請求項4】
前記冷凍機により製造される冷水は、7℃〜12℃であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の蒸留設備。
【請求項5】
プラント内での蒸留方法であって、
蒸留塔を用いて供給された原料を蒸留する工程と、
前記プラント内で発生した熱を用いて低圧蒸気を発生させる工程と、
発生させた低圧蒸気を用いて冷水を製造する工程と、
前記蒸留塔から流出する塔頂蒸気を製造された冷水を用いて凝縮させる工程と、
還流装置を用いて凝縮した液体の一部を前記蒸留塔に還流させる工程と、
を備え
前記低圧蒸気を発生させる工程は、前記プラント内で発生したプロセス流体との熱交換により、前記冷水を製造する工程で排出された凝縮水を加熱蒸発して低圧蒸気を発生させる工程を有することを特徴とする蒸留方法。
【請求項6】
前記冷水を用いて凝縮させる工程で用いる水冷冷却器の上流に、前記蒸留塔から流出する塔頂蒸気を空冷する空冷冷却器が設けられており、
前記空冷冷却器と前記還流装置とがバイパスラインを介して直接接続されており、
前記プラントの環境条件に基づいて、前記空冷冷却器を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液が前記水冷冷却器を介して前記還流装置に入る第1動作状態と、前記空冷冷却器を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液が前記バイパスラインを介して直接前記還流装置に入る第2動作状態とを切り替える工程をさらに備えることを特徴とする請求項に記載の蒸留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントにおいて原料を蒸留する蒸留設備および蒸留方法並びに蒸留設備の改造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油・石油化学等の産業プラントの蒸留設備では、蒸留塔の塔頂から流出する塔頂蒸気の凝縮方法として、空気を用いた空冷、冷却水を用いた水冷、それらを組み合わせた方法等が採用されている。蒸留塔の運転圧力を低下させる省エネルギーは広く知られており、省エネルギー実現のための課題の一つとなっている。
【0003】
蒸留塔の運転圧力は、塔頂蒸気の凝縮温度で一様に決まり、凝縮温度が下がれば運転圧力も下がる。蒸留塔の運転圧力を下げると原料中の成分の比揮発度が大きくなり成分の分離が容易になる。従って、塔頂及び塔底の留出物(製品)の純度を所定の値に維持するための蒸留塔の内部還流が少なくできる。内部還流量は測定が困難であるが、外部還流量(以降、還流と呼ぶ)と相関があるので、一般的には還流比(=還流量/塔頂留出量)を塔頂及び塔底の留出物の純度の管理に用いている。塔頂留出量(製品)を一定とすると内部還流が少なくできれば、それを気化(再蒸発)するリボイラーの負荷も下げられる。従って、リボイラーに供給するエネルギーが減って省エネルギーを図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塔頂蒸気の凝縮温度をより下げるためにはより高い冷却能力が必要となる。しかしながら、従来の空気や冷却水を用いた塔頂蒸気の凝縮方法の場合、冷却媒体である空気や冷却水の温度は自然条件に依存するため、常に設定した冷却能力を期待するのは難しく、従って塔頂蒸気の凝縮温度の維持には限界がある。特に夏期の気温上昇に伴い空気や冷却水の温度が高くなって冷却能力が著しく低下するため、塔頂蒸気の凝縮温度は高く設定せざるを得ない。従って、従来の空気や冷却水を用いた塔頂蒸気の凝縮方法では、蒸留塔の運転圧力を下げて省エネルギーを図ることは難しい。
【0006】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、省エネルギーを図ることのできる蒸留設備、蒸留方法および蒸留設備の改造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の蒸留設備は、プラント内に設けられる蒸留設備であって、供給された原料を蒸留する蒸留塔と、プラント内で発生した熱を用いて冷水を製造する冷凍機と、蒸留塔から流出する塔頂蒸気を製造された冷水を用いて凝縮させる水冷冷却器と、水冷冷却器で凝縮した液体の一部を蒸留塔に還流させる還流装置と、を備える。
【0008】
プラント内で発生した熱を用いて低圧蒸気を発生させる低圧蒸気発生装置をさらに備え、冷凍機は、低圧蒸気発生装置で発生した低圧蒸気を用いて冷水を製造してもよい。
【0009】
低圧蒸気発生装置で用いる熱は、プラント内で発生したプロセス流体から得られてもよい。
【0010】
蒸留塔から流出する塔頂蒸気を空冷する空冷冷却器をさらに備えてもよい。
【0011】
空冷冷却器は、水冷冷却器の上流に設けられてもよい。空冷冷却器と還流装置とを直接接続するためのバイパスラインをさらに備えてもよい。
【0012】
冷凍機により製造される冷水は、7℃〜12℃であってもよい。
【0013】
本発明の別の態様は、プラント内での蒸留方法である。この方法は、蒸留塔を用いて供給された原料を蒸留する工程と、プラント内で発生した熱を用いて冷水を製造する工程と、蒸留塔から流出する塔頂蒸気を製造された冷水を用いて凝縮させる工程と、還流装置を用いて凝縮した液体の一部を蒸留塔に還流させる工程と、を備える。
【0014】
冷水を用いて凝縮させる工程で用いる水冷冷却器の上流に、蒸留塔から流出する塔頂蒸気を空冷する空冷冷却器が設けられてもよい。空冷冷却器と還流装置とがバイパスラインを介して直接接続されてもよい。プラントの環境条件に基づいて、空冷冷却器を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液が水冷冷却器を介して還流装置に入る第1動作状態と、空冷冷却器を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液がバイパスラインを介して直接還流装置に入る第2動作状態とを切り替える工程をさらに備えてもよい。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、プラント内に設けられた蒸留塔から流出する塔頂蒸気を空冷冷却器で凝縮させる蒸留設備の改造方法である。この方法は、プラント内で発生した熱を用いて冷水を製造する冷凍機を設ける工程と、蒸留塔から流出する塔頂蒸気を冷凍機で製造された冷水を用いて凝縮させる水冷冷却器を設ける工程と、を備える。
【0016】
蒸留設備は、凝縮した液体の一部を蒸留塔に還流させる還流装置を備え、水冷冷却器は、改造前の空冷冷却器と還流装置とを直接接続するラインを残したまま、空冷冷却器の下流にラインと並列に設けられてもよい。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、省エネルギーを図ることのできる蒸留設備、蒸留方法および蒸留設備の改造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る蒸留設備を説明するための図である。
図2図2(a)および(b)は、本発明の実施形態に係る蒸留設備の改造方法を説明するための図である。
図3】改造前と改造後の蒸留設備による蒸留のシミュレーション結果を示す図である。
図4】シミュレーション計算に用いた吸収式冷凍機および吸収式冷凍機まわりの設定条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る蒸留設備10を説明するための図である。図1に示す蒸留設備10は、例えば石油精製プラントや石油化学プラント等の産業プラント内に設けられる。
【0021】
図1に示すように、蒸留設備10は、蒸留塔12と、リボイラー14と、空冷冷却器16と、水冷冷却器18と、還流装置20と、吸収式冷凍機22と、低圧蒸気発生装置24とを備える。
【0022】
蒸留塔12は、内部にトレイ等の構造物が設置されていて塔頂部12cから流下してくる液と塔底部12bから上昇してくる蒸気が熱交換と物質移動を繰り返して目的の純度の製品を得る機能を持つ。蒸留塔12の塔頂からは揮発性の高い成分に富む、塔底からは揮発性の低い成分に富む留出液が抜き出される。蒸留塔12は、その中段部に設けられた原料供給口12aから供給された原料を蒸留する。蒸留塔12内に供給された原料は、気液の2相からなり、液は蒸留塔12内を流下してきた液と合流して塔底部12bにおいてリボイラー14により加熱される。リボイラー14の加熱により、塔底部12bの塔底液の一部は蒸気とされ、塔頂部12cに向かって上昇する。蒸気とならない塔底液は塔底留出液となる。原料供給口12aで蒸気となった原料はリボイラー14からの蒸気と合流して蒸留塔12内を上昇する。また、蒸留塔12からの塔頂蒸気は凝縮されて還流装置を経て一部は塔頂留出液として抜き出され、残りは蒸留塔12の塔頂部12cに設けられた還流液供給口12dから還流液として供給される。
【0023】
蒸気取出口12eから流出した塔頂蒸気は、ライン17を介して水冷冷却器18に入る。水冷冷却器18は、吸収式冷凍機22からの冷水を用いて塔頂蒸気を凝縮させる。水冷冷却器18により凝縮された液体は、還流装置20に送られる。
【0024】
蒸留塔12と水冷冷却器18とを接続するライン17上に空冷冷却器16が設けられてもよい。すなわち、水冷冷却器18の上流に空冷冷却器16が設けられてもよい。空冷冷却器16は、蒸留塔12からの塔頂蒸気の少なくとも一部を凝縮するよう構成されてよい。この構成の場合、蒸留塔12からの塔頂蒸気およびその凝縮液は、空冷冷却器16、水冷冷却器18を順に通過した後、留出液タンク21に入る。
【0025】
還流装置20は、水冷冷却器18で凝縮した液体の一部を蒸留塔12に還流させる。還流装置20は、留出液タンク21と、ポンプ23とを含む。水冷冷却器18で凝縮した液体は留出液タンク21に貯留される。留出液タンク21に貯留された液体は、ポンプ23により昇圧された後、その一部が留出液として取り出され、残りが還流液として還流液供給口12dを介して蒸留塔12内に還流される。
【0026】
低圧蒸気発生装置24は、プラント内で発生したプロセス流体を用いて低圧蒸気を発生させる。低圧蒸気発生装置24は、ケトル型熱交換器25と、ポンプ26とを備える。ケトル型熱交換器25は、ボイラー給水(BFW:Boiler Feed Water)が供給される。ケトル型熱交換器25は、プロセス流体との熱交換によりこのBFWを加熱蒸発し、例えば0.15MPaGから0.20MPaGの低圧蒸気を発生させる。プロセス流体とは、プラント内で所定の生産を行うためのプロセス設備(例えば、反応器や熱交換器など)で生じた流体である。例えば石油プラントであれば、石油からガソリンを生成するためのプロセス設備、ガソリンからナフサを生成するためのプロセス設備、石油から灯油を生成するためのプロセス設備などである。
【0027】
吸収式冷凍機22は、低圧蒸気発生装置24で発生した低圧蒸気を用いて冷水を製造する。本実施形態では、吸収式冷凍機22として水・臭化リチウム系のものを用いるが、吸収式冷凍機22はこれに限定されない。吸収式冷凍機22で製造される冷水の温度は、7℃〜12℃であってよい。吸収式冷凍機22から排出された凝縮水は、ポンプ26を介して再びBFWとしてケトル型熱交換器25に供給される。
【0028】
吸収式冷凍機22で製造された冷水は、水冷冷却器18に供給され、上述したように蒸留塔12からの塔頂蒸気を凝縮させるために用いられる。吸収式冷凍機22で製造された冷水は、自然条件に影響されない安定した高い冷却能力を提供できるため、塔頂蒸気の凝縮温度を下げて蒸留塔12の運転圧力を低下させることができる。蒸留塔12の運転圧力を下げることは、リボイラー14の負荷を下げることにつながる。すなわち、リボイラー14へ供給するエネルギーを低減できるため、省エネルギーを図ることができる。
【0029】
また、本実施形態に係る蒸留設備10では、自然条件に影響されない安定した冷却能力を提供できるため、蒸留塔12に安定的に原料を供給することができる。すなわち、本実施形態に係る蒸留設備10によれば、収率の向上を図ることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る蒸留設備10では、吸収式冷凍機22に供給される低圧蒸気は、プラント内で発生したプロセス流体を用いて生成されている。低圧蒸気を発生させるために別途燃料を投入する必要がないため、プラント全体としてエネルギー効率を高めることができる。また、プロセス流体との熱交換で低圧蒸気を発生させているため、プロセス流体の温度を低下させることができる。これは、プロセス設備に使用するためにプロセス流体を冷却する必要がある場合には、プラント内でプロセス流体を冷却するための設備および負荷を軽減できることを意味するため、この観点からもプラント全体としてエネルギー効率を高めることができる。
【0031】
また、蒸留塔の最高温度における運転圧力が10kg/cm以上の場合は「高圧ガス」の適用を受け、その結果、保守・点検に多くの工数が必要となる。その点、本実施形態に係る蒸留設備10では、蒸留塔12の運転圧力を低下できることから、運転圧力が10kg/cm未満に下がれば「高圧ガス」適用から外れ、その結果蒸留塔12の保守・点検が容易となる。また、新設の場合、蒸留塔12の運転圧力が低くなることにより、蒸留塔12の建設コスト(機器費)を下げることができる。
【0032】
図2(a)および(b)は、本発明の実施形態に係る蒸留設備の改造方法を説明するための図である。図2(a)および(b)において、図1に示す蒸留設備10と同一又は対応する構成要素には同一の符号を付すとともに、重複する説明は適宜省略する。
【0033】
図2(a)は、改造前の蒸留設備30を示す。図2(a)に示す蒸留設備30は、蒸留塔12と留出液タンク21を接続するライン17上に設けられた空冷冷却器16のみが塔頂蒸気の冷却を行うよう構成されている。従って、この改造前の蒸留設備30では、塔頂蒸気の冷却能力が自然条件に影響される。特に夏場には冷却能力が著しく低下するため、塔頂蒸気の凝縮温度が高くなるので蒸留塔12の運転圧力を上げなくてはならない。その結果、還流比を大きくしなければならないのでリボイラー14に多くのエネルギーを供給する必要が生じて、改造前の蒸留設備30は省エネルギーの観点から課題がある。
【0034】
図2(b)は、改造後の蒸留設備40を示す。この蒸留設備40は、水冷冷却器18と、水冷冷却器18に冷水を供給する吸収式冷凍機22と、プロセス流体を用いて低圧蒸気を発生させ、吸収式冷凍機22に供給する低圧蒸気発生装置24と、を含む追加構成要素42を蒸留設備30に追加する改造がなされている。追加構成要素42は、空冷冷却器16の出力と水冷冷却器18の入力がライン46で接続され、水冷冷却器18の出力と留出液タンク21の入力がライン48で接続されるように追加される。すなわち、追加構成要素42は、空冷冷却器16の下流に水冷冷却器18が位置するように追加される。ライン46上には第1バルブ47が設けられる。図2(b)に示すように、空冷冷却器16と留出液タンク21とを直接接続するライン(バイパスライン44と呼ぶ)は残されている。バイパスライン44上には第2バルブ49が設けられる。図2(b)に示すように、水冷冷却器18は、ライン46,48を介して、空冷冷却器16の下流にバイパスライン44と並列に設けられる。
【0035】
図2(b)のように改造された蒸留設備40においては、第1バルブ47と第2バルブ49の開閉状態を制御することで、空冷冷却器16を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液が水冷冷却器18を介して留出液タンク21に入る第1動作状態と、空冷冷却器16を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液がバイパスライン44を介して直接(すなわち水冷冷却器18を通らずに)留出液タンク21に入る第2動作状態とを切り替えることができる。
【0036】
第1バルブ47を開状態且つ第2バルブ49を閉状態とした場合、蒸留塔12からの塔頂蒸気は、空冷冷却器16、ライン46、水冷冷却器18、ライン48を順に通過した後、留出液タンク21に入る(第1動作状態)。この場合、図1に示す蒸留設備10と同様に、空冷冷却器16に加えて、吸収式冷凍機22で製造された冷水を用いて塔頂蒸気の凝縮が行われる。その結果、塔頂蒸気の凝縮温度を下げて蒸留塔12の運転圧力を低下させることが可能となる。
【0037】
一方、第1バルブ47を閉状態且つ第2バルブ49を開状態とした場合、蒸留塔12からの塔頂蒸気は、空冷冷却器16を通過した後、バイパスライン44を介して直接(すなわち水冷冷却器18を通らずに)留出液タンク21に入る(第2動作状態)。この場合、空冷冷却器16のみで塔頂蒸気の凝縮が行われる。
【0038】
第1動作状態と第2動作状態の切替は、蒸留設備が用いられるプラントの環境条件(例えば環境温度等)に基づいて行われてもよい。例えば、夏場や昼間で環境温度が高い(例えばプラントの環境温度が所定の閾値以上である)場合、空冷冷却器16だけでは十分な冷却能力が期待できないため、第1動作状態に設定する。一方、例えば冬場等で環境温度が低い(例えばプラントの環境温度が所定の閾値未満である)場合、空冷冷却器16だけでも十分な冷却能力が期待できるため、第2動作状態に設定する。このような構成をとることにより、必要なときだけ水冷冷却器18や吸収式冷凍機22等の追加構成要素42を動作さればよくなるため、エネルギー効率を高めることができる。
【0039】
さらに、第1バルブ47および第2バルブ49を共に開状態として、空冷冷却器16を通過した塔頂蒸気および/またはその凝縮液が、水冷冷却器18を介して留出液タンク21に入るとともに、バイパスライン44を介して直接留出液タンク21に入る第3動作状態を設定してもよい。この場合、複数の凝縮手段(すなわち空冷冷却器16および水冷冷却器18)を用意されるので、仮に一つの凝縮手段に故障が発生した場合でも、蒸留設備の運転を継続することができる。
【0040】
蒸留設備40は、上記の動作状態の切り替え、すなわち第1バルブ47および第2バルブ49の開閉状態の制御を自動的に行うための制御装置を備えてもよい。この制御装置は、例えば環境温度を測定するための温度センサと、該温度センサの出力に基づいて第1バルブ47および第2バルブ49の開閉を制御する制御部を備えてもよい。
【0041】
制御部は、温度センサの出力に加えてまたは代えて、蒸留設備が稼働する日時に基づいて第1バルブ47および第2バルブ49の開閉を制御してもよい。すなわち、環境温度が高くなることが想定される日や時間帯に応じて第1バルブ47および第2バルブ49の開閉を制御してもよい。
【0042】
あるいは、上記動作状態の切り替えは、蒸留設備40の操作者によりなされてもよい。
【0043】
本実施形態に係る改造方法によれば、既存の蒸留設備30に追加構成要素42を追加することで、図1に示す蒸留設備10と同様に、省エネルギー、収率の向上、プラント全体としてのエネルギー効率の向上、蒸留塔12の保守・点検の容易化などを図ることができる。また、バイパスライン44を用いて空冷冷却器16と留出液タンク21を直接接続することが可能なため、改造後に元々の蒸留設備30の形態で運用することも容易である。
【0044】
図3は、改造前と改造後の蒸留設備による蒸留のシミュレーション結果を示す。ここでは、運転圧力が1.0MPaGから2.0MPaGの複数の蒸留塔の中から、省エネルギー効果が高く、充填物の大幅な改造を必要としないナフサスプリッターを選択し、改造前と改造後の蒸留設備による蒸留をシミュレーションした。吸収式冷凍機としては、水・臭化リチウム系のものを選択した。
【0045】
図4は、シミュレーション計算に用いた吸収式冷凍機および吸収式冷凍機まわりの設定条件を示す。本シミュレーションでは、吸収式冷凍機の性能係数(COP:Coefficient Of Performance)を0.75とした。また、吸収式冷凍機に供給される低圧蒸気の圧力を0.15MPaG、温度を127.6℃とした。また、吸収式冷凍機22から排出される戻り凝縮水の温度を134℃とした。また、吸収式冷凍機22から水冷冷却器18に供給される冷水の温度を10℃とし、水冷冷却器18から吸収式冷凍機22に戻る冷水の温度を22℃とした。この冷水を製造するのに必要な熱負荷を14.9GJ/hとした。吸収式冷凍機のCOP=0.75であるため、吸収式冷凍機22が必要とする熱負荷は(14.9GJ/h)/0.75=19.9GJ/hとなる。
【0046】
図3のシミュレーション結果から、改造前と比較して改造後は凝縮温度を35℃から25℃に低下でき、蒸留塔の運転圧力を1.10MPaGから0.70MPaGまで低下できていることが分かる。改造前に対する改造後の低圧化率は、(1.1MPaG−0.7MPaG)/1.1MPaG×100=36.4%である。その結果、リボイラーの熱負荷が20.1GJ/hから14.7GJ/hまで低下し、省エネルギー率=20.1GJ/h−14.7GJ/h)20.1GJ/h×100=26.9%を達成できている。
【0047】
上述の実施形態では、低圧蒸気発生装置24は、プラント内で発生したプロセス流体から得られる熱を用いて低圧蒸気を発生させている。しかしながら、低圧蒸気発生装置24で低圧蒸気を発生させるために用いる熱は、プロセス流体から得られる熱に限定されず、従来プラント内で有効利用されていなかった排熱から得てもよい。低圧蒸気発生装置24は、例えば、蒸留設備10の構成要素(例えば蒸留塔12等)の冷却の際に生じる排熱等を利用して低圧蒸気を発生させてもよい。あるいは、既存の蒸留設備を改造する場合には、低圧蒸気発生装置24は、プラント内の既設のクーラー及びエアフィンクーラーからの排熱を用いて低圧蒸気を発生させてもよい。これらにより、蒸留設備10のエネルギー効率を高めることができる。
【0048】
上述の実施形態では、吸収式冷凍機22は、プラント内で発生した熱を用いて発生された低圧蒸気を用いて冷水を製造している。しかしながら、吸収式冷凍機22は、プラント内で発生した熱を用いて発生された熱水を用いて冷水を製造してもよい。熱水の温度は、80℃以上であってよく、好ましくは90℃以上であってよい。例えば、吸収式冷凍機22は、88℃の熱水を用いて7℃の冷水を製造することができる。低圧蒸気を用いる場合と熱水を用いる場合ともに、吸収式冷凍機22はプラント内で発生した熱を用いて冷水を製造しているということができる。
【0049】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0050】
10、30、40 蒸留設備、 12 蒸留塔、 14 リボイラー、 16 空冷冷却器、 18 水冷冷却器、 20 還流装置、 21 留出液タンク、 22 吸収式冷凍機、 23 ポンプ、 24 低圧蒸気発生装置、 25 ケトル型熱交換器、 26 ポンプ、 42 追加構成要素、 44 バイパスライン、 47 第1バルブ、 49 第2バルブ。
図1
図2
図3
図4