(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6368644
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】熱負荷に曝されるスピンドル、ステージ、または部品の受動的位置補償
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20180723BHJP
G01N 21/95 20060101ALI20180723BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20180723BHJP
F16C 27/04 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
G01N21/956 A
G01N21/95 A
H01L21/66 B
F16C27/04
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-529862(P2014-529862)
(86)(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公表番号】特表2014-531583(P2014-531583A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】US2012053990
(87)【国際公開番号】WO2013036660
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年8月27日
(31)【優先権主張番号】13/226,492
(32)【優先日】2011年9月6日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500049141
【氏名又は名称】ケーエルエー−テンカー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドイル ポール
(72)【発明者】
【氏名】ベリャーエフ アレクサンダー
【審査官】
小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−198107(JP,A)
【文献】
米国特許第5938344(US,A)
【文献】
特開2002−170855(JP,A)
【文献】
特表2007−535380(JP,A)
【文献】
特開2001−53133(JP,A)
【文献】
特開平7−130310(JP,A)
【文献】
特開2005−56983(JP,A)
【文献】
特開2008−110426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/956
B23Q 15/18
F16C 27/04
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム上に搭載された機械部品の熱的影響を受動的に補正するための装置であって、
前記システム上に前記機械部品を搭載するための物理的構成を備え、
前記物理的構成は、熱膨張によって、前記機械部品を前記システムに対して対向運動させるように設計され、
前記対向運動は、熱膨張が温度変動に線形に依存する熱範囲について実質的に互いに相殺し、
前記機械部品は、前記熱範囲内で、温度変動中に前記システムに対して実質的に静止しており、
前記物理的構成は、実質的に一つの熱膨張係数を有し、
前記機械部品は、熱源として機能し、
前記物理的構成は、
前記機械部品を第1の方向に移動させる一対の内側要素であって、略V字を成すように、前記機械部品から前記第1の方向に対して傾斜した方向に延びる一対の内側要素と、
前記機械部品を第1の方向と反対方向に移動させる一対の外側要素であって、前記内側要素よりも温度が低く、かつ、長い一対の外側要素と、
を含み、
各外側要素は、一端が位置固定されており、他端が前記内側要素に接続されている、
装置。
【請求項2】
前記内側要素および前記外側要素は、前記内側要素および前記外側要素をわたる温度分布と対応付けられて、前記内側要素および前記外側要素の熱膨張による運動を相殺するように設計される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記内側要素は、前記外側要素より大きな温度変動を受ける、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
温度は、前記機械部品から距離が遠い搭載要素ほど低い請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記システムはウェハ検査システムであり、前記機械部品はスピンドルである請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記システムはLED検査システムであり、前記機械部品はスピンドルである請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記システムはハードディスクドライブ検査システムであり、前記機械部品はスピンドルである請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記システムは光学媒体検査システムであり、前記機械部品はスピンドルである請求項1に記載の装置。
【請求項9】
請求項1の装置とともにスピンドルが搭載されている、ウェハ検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的影響に関し、詳細には、熱負荷に曝される部品の熱的影響の受動的補償に関する。
【背景技術】
【0002】
熱的影響は至るところで見られ、多くのシステムに大きな影響を及ぼす。熱的膨張、加えて部品間の熱膨張係数(coefficient of thermal expansion)(CTE)の差は、誤差および他の問題をもたらしうる。例として、ウェハ検査システム内のスピンドルが挙げられる。ウェハ回転速度が速く、したがって、スピンドルのパワーが高いために、ウェハ検査中にその結果の大きな熱上昇が存在する。温度のどのような変化も、一部には搭載材料のCTFのせいで、スピンドルなどの部品の位置に影響を及ぼす。この位置変化は、検査の精度および感度を低下させうる。たとえば、アルミニウム系の場合、スピンドルのサイズおよびアルミニウムのCTEを考慮に入れると、温度が2℃ずれると、XY精度が仕様から外れる結果につながりうる。同様の熱的影響は、機械装置などの多くの他の機械的システムに悪い影響を与えうる。熱膨張係数が極めて低いことが知られているインバー、ニッケル鋼合金などの非常に低いCTEを有する材料を使用することによって熱変形を最小にする試みが行われてきた。しかし、インバーなどの材料の仕様は、新たな問題を生じる。システムの一部分が、CTEがほぼゼロのインバーであり、システムの残りが、CTEが24μm/m/℃のアルミニウムである場合、環境温度変化の影響を受けやすくなる。そして、インバーは、重大な構築作業の使用に法外に費用がかかる。全てをアルミニウムで形成すれば、この問題が解消される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
顧客の要求が、ウェハ検査スループット要求をより高いレベルに押し上げてきたため、スピンドルのパワーの必要な増加により、欠陥場所精度を維持するために熱的影響の補正が非常に重要になる点まで熱負荷が上昇している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書において、搭載された機械的部品の熱的影響の受動的補正を提供するための装置が開示される。さらに、受動的熱的影響補正装置を使用するウェハ検査システムも開示される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1a】ウェハ検査システムなどのシステムへのスピンドルの搭載を示す図である。
【
図1b】スピンドルハウジング内のスピンドルアセンブリの断面の切り欠き図である。
【
図2】熱的位置補償の動作を示すために使用される、外側ハウジング110の幾何形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、ウェハ検査システム、特にウェハ搭載スピンドルを対象とする実施形態によって示される。しかし、本発明の概念および同様な装置が、限定はしないが、計量、測定、データ書込みおよび読出し、ならびに顕微鏡システムを含む多くの他の用途に利用されうることに留意されたい。
【0007】
ウェハ検査システムの実施形態を参照すると、現在の方法は、欠陥場所精度に誤差が生じる。温度に基づく欠陥場所の何らかのソフトウェア補正が使用される場合でも、機械がウォームアップまたはクールダウンするときの温度過渡現象中に比較的大きな誤差が生じうる。以降、欠陥場所誤差を、最大約50ミクロンから5ミクロン未満まで減少させる、温度関連スピンドル位置誤差に対する完全に受動的な制御を開示する。そして、この僅かな誤差は、ソフトウェア補正を使用してさらに低減されうる。誤差の総合的な大きさが大幅に減少するため、さらなるソフトウェア補正は、特に過渡状態中により一層正確となる。
【0008】
本発明の実施形態では、搭載要素にわたる温度分布が、物理的構成と組合されて、搭載要素の熱膨張による運動を相殺するように、長さの異なる要素上に部品を搭載することによって、部品の位置変化が受動的に補正される。
【0009】
図1aは、ウェハ検査システムなどのシステム上でのスピンドルの搭載の実施形態を示す。スピンドルアセンブリ100は、スピンドルハウジング105内に収容される。
図1bは、スピンドルハウジング105内のスピンドルアセンブリ100の断面の切り欠き図を示す。プラテン132(「スピンドルフランジ(spindle flange)」とも呼ばれる)はスピンドルロータ135上に搭載される。スピンドル軸受140はスピンドルの回転を容易にする。スピンドルモータ145はスピンドルの回転を駆動し、主要な熱源である。スピンドルハウジング105は、機械的搭載プレート115に取付けられる外側ハウジング110に接続される。外側ハウジング110は、熱をスピンドルモータから遠くに伝導させる一連の要素から構築される。これらの要素はそれぞれ、要素の前後に温度勾配を有し、最も熱い端部はスピンドルモータ145に最も近く、最も冷たい端部は、この場合、機械的搭載プレート115である機械的ブラウンドに近い。後述するように、より温度が高くかつより短い内側要素がスピンドルを1つの方向に移動させ、より冷たくかつより長い外側要素がスピンドルを反対方向に同じ量だけ移動させるような構成である。所与の熱負荷および利用可能な対流冷却についての適切な幾何形状によって、これらの影響は、互いに相殺し、スピンドルを一切移動させない。熱負荷の変動および何らかの過渡的影響が存在する場合でも、誤差を数ミクロンまで減少させることが可能である。同様な設計およびパワーの非補償式スピンドルは、50ミクロンオーダの熱ドリフトを示す。温度分布が示される。温度が、スピンドルモータ145の近くの領域118および120で高く、スピンドルモータ145からさらに離れた側壁125で低いことに留意されたい。中心領域118に加えて、対角搭載アーム130もまた、側壁125より熱い。
【0010】
図2は、熱的位置補償の動作を示すために使用される、外側ハウジング110の実施形態の幾何形状を示す。底部角縁部200は、機械的搭載プレート115にしっかりと取付けられる。可撓性要素205は、底部角縁部200の間に位置決めされる。1つ以上の可撓性要素は、設計が広い温度範囲にわたって働くことを可能にし、可撓性要素が搭載されるシステムの残りの歪を最小にしながら、ハウジングが、熱負荷によってサイズを変更することを可能にする。オリフィス210内に配置されるスピンドル100(およびスピンドルモータ145)は、回転時に、局在化された熱源として働く。対角搭載アーム215は、外側表面225において自立型である前壁220に取付けられる。スピンドル100は、厚い領域228によって前壁220に直接取付けられる。側壁230は、底部角縁部200に固定される。側壁230が長さL1(235)を有し、対角搭載アーム215が、長さL2(240)を有し、側壁230から角度θ(245)で搭載されると仮定する。影響の簡略化した説明を提示するために、各要素が、その長さにわたって明確に規定された温度を有すると仮定する(実際には、温度分布は、要素にわたる温度勾配によってより複雑となるであろう)。温度変化ΔTを仮定する。すると、長さLの各部品は、その長さをΔL=LαΔT(αは熱膨張係数CTE)だけ変化させる。詳細には、側壁の長さは、ΔL1=L1αΔT1だけ変化し、対角搭載アームの長さは、ΔL2=L2αΔT2(ΔT1およびΔT2は、それぞれ、側壁および対角搭載アームの温度変化)だけ変化する。側壁の膨張は、スピンドル100の中心の、上方向255(正方向と定義する)への変位X1=ΔL1を引起す。しかし、対角搭載アームの膨張は、スピンドル100の中心の、下方向260(負方向と定義する)へのΔL2sinθにほぼ等しい変位X2を引起す。厚い領域228の膨張は、下方向、すなわち負方向への変位X3を引起す(この説明は、簡略化されているものの、対向方向へのスピンドルの運動を引起す重要な部品の膨張を示すことに留意されたい)。可撓性要素205は、上述した膨張によるスピンドルの運動を可能にする。側壁230による正方向への対向運動と、対角搭載アーム215および厚い領域228による負方向への対向運動とによって、2つの要素における相対的な温度変化に従って長さおよび角度が適切に選択されたときに、これら運動が互いに相殺するように設計されうる。詳細には、
X1+X2+X3=0である場合、変位=0
である。要素の長さの決定は、マルチフィジックスFEA(有限要素解析(Finite Element Analysis))プログラムを使用してシミュレートされ、マルチフィジックスFEAプログラムは、スピンドルモータの熱負荷と、空気の対流冷却と、ハウジングの熱変形の同時発生の影響のモデリングとを提供する。これは、代替的に、従来のFEAによって、またはおそらく、単純なシステムの手作業の計算によって反復的に行うことができるが、これらの代替の方法は、より一層時間がかかる。
【0011】
この設計についての本発明の概念が、同様に使用されて、部品の外部の熱負荷を補正し、対象の部品の近くに実装された温度の高いデバイスから、部品を効果的に分離することができる。
【0012】
この設計の本発明の概念は、限定はしないが、検査(未処理ウェハ検査、パターン化ウェハ検査、LED検査、ソーラPVセル検査、ディスクドライブ検査、光学媒体検査を含む)、ウェハ計量を含む計量、測定、データの書込みおよび読出し、顕微鏡システム、ボイスコイルモータ、リニアモータ、半導体製造装置、機械装置、高精度ロボティクス、増幅器、光学部品、センサ、DNAシークエンシング、化学分析、ならびに電源を含む、システム内の熱誘導誤差による位置決めステージの受動的位置補正に同様に使用することができる。この設計の本発明の概念は、先に引用したシステム内の熱誘導誤差の受動的位置補正のために同様に使用されうる。この概念は、熱負荷に曝される光学部品またはセンサの熱ドリフトを相殺するために同様な方法で使用されうる。熱負荷は、本明細書で開示されるスピンドルの場合と同様に内部にあっても、あるいは、その概念は、近くに搭載されたモータまたは電子部品などの外部熱源を補償するために反転されてもよい。
図2は、光学要素などの要素あるいはCCDまたは位置検知デバイスなどのセンサを、外部熱源(図では太陽で示される)から分離するために本発明の方法および装置を使用する、さらなる例証を示す。
【0013】
本明細書で開示される熱補償装置および方法は、構造的変形、たとえば熱膨張が温度変動に線形に依存する温度範囲において適用可能であることに留意されたい。この、大きいが制限された温度間隔は、本明細書に記載するウェハ検査システムのスピンドルが対象とする温度範囲を包含する。
【0014】
本発明の設計の使用からのさらなる利益は、しばしば、全ての部品が、環境温度の変化に対して周囲部品と膨張率を共有するように、システム内で実質的に一定のCTEを維持すること、すなわち、アルミニウムなどの同様の周囲材料を利用することが望ましいことにある。本発明の設計の使用は、局在化した熱勾配を依然として補償しながら、アルミニウムなどの材料の使用を可能にする。これは、熱勾配によるドリフトを減少させるためにうまく機能する場合があるが、環境温度が変化すると周囲部品に関して誤差を引起しうるインバーなどの費用がかかる材料を使用することに比べてよりよい解決策となりうる。詳細には、本発明の設計は、システムの面外CTEを依然として維持しながら、システム内に搭載された部品の平面位置を、温度によらず維持することを可能にする。たとえば、本発明の設計を使用して、光学要素が、他の光学要素を支持するアルミニウム構造内のデバイスに搭載された場合、照明ランプなどの近傍の熱源が、光学要素を光学軸から偏移させることがなくなる。デバイスがアルミニウムで形成され、主要な光学構造もまたアルミニウムで形成されるため、共通CTEは、整合したCTEによって、システムの残りに関していずれの面外変位をも正常な値にする。この解決策は、アルミニウムシステム内でインバーなどのゼロCTE材料を使用した場合には得られない。
【0015】
ウェハ検査システムのスピンドルの用途では、スループットを最大にする場合に、欠陥場所の精度が最も重要である。より高いスループットは、より高いスピンレートと加速を必要とし、熱発生量を増加させる。補正されないと、この熱は、必然的に、欠陥場所の誤差を増加させる。
【0016】
検査中にスピンドル内で消散されるパワーは、前の世代の特定のウェハ検査システムと現在の世代の特定のウェハ検査システムとの間では、対応する熱負荷が存在する場合には、2倍を超える。熱負荷が増加しているものの、本明細書で開示するスピンドル搭載設計の使用によって、総合的な精度が大幅に改善した。
【0017】
本発明が、本明細書で開示される厳密な実施形態に制限されることは予想されない。本発明の概念から逸脱することなく、変更および修正が行われうることを当業者は認識するであろう。例として、搭載要素の構成は、厳密に本記載どおりである必要はない。熱膨張による、互いに相殺する対向運動を生じさせる他の構成を設計することができる。本発明の概念は、特許請求の範囲を考慮して解釈されるべきである。