(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369095
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】銅系部材の腐食抑制方法及び腐食抑制剤
(51)【国際特許分類】
C23F 11/16 20060101AFI20180730BHJP
C23F 11/14 20060101ALI20180730BHJP
C23F 11/12 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
C23F11/16
C23F11/14
C23F11/12 101
C23F11/12 102
C23F11/14 101
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-71670(P2014-71670)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193876(P2015-193876A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】村野 靖
(72)【発明者】
【氏名】永井 直宏
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭59−025034(JP,B2)
【文献】
特開昭63−089687(JP,A)
【文献】
特開昭52−111846(JP,A)
【文献】
特開2003−213463(JP,A)
【文献】
特開平03−072091(JP,A)
【文献】
特表平03−500416(JP,A)
【文献】
特開2008−223111(JP,A)
【文献】
特開平06−272067(JP,A)
【文献】
特開2011−057942(JP,A)
【文献】
特開2002−254083(JP,A)
【文献】
特開昭57−164987(JP,A)
【文献】
特開昭50−093241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00−11/18
C23F 14/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅系部材と接する水系に対し、2−メチルチオベンゾチアゾール、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、及び2−エチル-メチルチオピラジンよりなる群から選ばれた少なくとも1種を添加する銅系部材の腐食抑制方法であって、
前記水系が食品、飲料水、又は医薬品の製造工場の開放循環冷却水系であることを特徴とする銅系部材の腐食抑制方法。
【請求項2】
水系に接する銅系部材の腐食を抑制する腐食抑制剤であって、2−メチルチオベンゾチアゾール、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、及び2−エチル-メチルチオピラジンよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、
前記水系が食品、飲料水、又は医薬品の製造工場の開放循環冷却水系である銅系部材の腐食抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に接した銅系部材の腐食抑制技術に関する。詳しくは、冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材に対し、薬剤を用いて腐食を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は熱伝導性に優れる特性を有し、空調機器や熱交換器などの伝熱管などに広く使用されているが、これらの水系に接する銅系部材には腐食の問題がある。特に、最近の機器は高効率化が進んでおり、熱交換器に用いられる銅管の肉厚が非常に薄くなっていることから、腐食の発生は銅管の貫通漏洩につながる危険性が高い。よって、銅系部材に腐食を発生させないこと、発生した腐食を進行させないことが、機器の安定稼動、長寿命化に不可欠である。
【0003】
一般に、腐食反応は金属の溶出反応(アノード反応)と酸化剤の還元反応(カソード反応)が対になって進行する。例えば、冷却水のようなpH中性から弱アルカリ性の環境では、水中の溶存酸素が酸化剤としてカソード反応の担い手になる。
【0004】
従来、水系に接する銅系部材の腐食を抑制するために、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールといったアゾール系の銅用防食剤を水系に添加する水処理が行われている(例えば、特許文献1,2)。冷却水系などの水系に、これらのアゾール系銅用防食剤を添加することにより、水系に接する銅系部材に対して優れた腐食抑制効果を発揮することが知られており、広く適用されている。
【0005】
即ち、アゾール系の銅用防食剤は、腐食反応における金属の溶出反応(アノード反応)を抑制する効果に優れており、良好な腐食抑制効果を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−222555号公報
【特許文献2】特開平6−212459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、安全性の高い冷却水処理剤を要望する食品、飲料水、医薬品の製造工場においては、米国FDA規格記載品を原料とする冷却水処理剤を使用するか、あるいは水処理剤を使用しないなどして冷却水系における銅材質の腐食障害に苦慮していた。
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決し、冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材腐食の発生を効果的に抑制することができ、しかも安全性にも優れた腐食抑制方法及び腐食抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の食品添加物が、水系に接した銅系部材の腐食抑制効果に優れることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、本発明の銅系部材腐食抑制方法は、水系に対し、2−メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、2−エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム及びL−アスコルビン酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種を添加することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の銅系部材の腐食抑制剤は、2−メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、2−エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム及びL−アスコルビン酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、前記水系は食品、飲料水、医薬品等の製造工場の開放循環冷却水系であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明で用いる2−メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、2−エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム及びL−アスコルビン酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種は、銅系部材の腐食抑制効果に優れる。また、これらの化合物は食品添加物であり、安全性に優れる。
【0014】
従って、本発明によれば、食品、飲料水、医薬品等の製造工場等の水系においても、銅系部材の腐食を安全かつ効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の銅系部材の腐食抑制方法及び腐食抑制剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明においては、腐食抑制剤として2−メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、2−エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム及びL−アスコルビン酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種を銅系部材に接する水系に添加する。
【0017】
これらの化合物の水系への添加濃度は、通常0.1〜20mg/Lの範囲であり、好ましくは0.5〜10mg/Lである。
【0018】
上記化合物よりなる銅用防食剤の水系への添加方法には特に制限はないが、水溶液として水系へ添加することが好ましい。
【0019】
本発明においては、本発明の効果(安全性)を阻害しない範囲で、上記銅用防食剤以外の他の水処理剤を併用することが可能である。例えば、スケール防止剤としてグルタミン酸、アルギン酸ナトリウム、カラヤゴム、又はフィチン酸などを併用添加しても良い。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0021】
[実施例1〜13、比較例1]
JIS K0100「工業用水腐食試験方法」に記載された「回転法」に準拠した評価を行った。ビーカー内の試験水に、試験片1枚を取り付けた支持棒を浸漬し、試験片表面の線流速が0.5m/secとなるよう支持棒を回転させた。試験前後の試験片の重量変化より銅の腐食速度を測定する方法で評価を行った。
【0022】
試験水、用いた薬剤、試験片、試験条件は以下の通りである。
【0023】
<試験水>
水道水(栃木県野木町)の脱塩素水に10wt%塩化ナトリウム水溶液11mL及び10wt%硫酸ナトリウム水溶液11mLを添加し、NaOH又は硫酸でpH8.0に調整したものを試験水とした。
【0024】
この試験水のカルシウム硬度及び酸消費量(pH4.8)は40〜60mg/LasCaCO
3、塩化物イオン濃度は1000mg/LasCl
−、硫酸イオン濃度は1000mg/LasSO
42−であった。
【0025】
<薬剤>
この試験水1.1Lに対し2−メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、2−エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム、又はL−アスコルビン酸の各1wt%水溶液を5.5mL添加した。添加後の試験水中の腐食抑制剤の濃度は5mg/Lである。なお、腐食抑制剤を添加しないブランクテストを比較例1とした。
【0026】
<試験片>
長辺50mm、短辺30mm、厚さ1mmの銅(C1220)製試験片(トルエンで脱脂して重量を測定する。)
【0027】
<試験条件>
試験片を支持棒に取り付け、試験片が試験水に浸るように回転試験装置にセットし、支持棒を145spmで回転させた。
【0028】
試験温度は40℃、試験期間は3日間である。
【0029】
3日経過後、銅製試験片の重量を測定し、腐食速度(mdd(mg/dm
2/day))を求め、結果を表1に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
<考察>
表1より、実施例1〜13のように2−メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2−(4−メチル−5−チアゾリル)エチル、5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾール、2−メチル-メチルチオピラジン、2−メチルチオチアゾール、2−エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム又はL−アスコルビン酸を水系に添加することにより、ブランク(比較例1)に比べて腐食が大きく抑制されていることが確認された。