(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記ネットベルトコンベアのネットベルト上を押えネットベルトで覆い、上記焼結磁石体をこれらのネットベルト間に保持して搬送する請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
上記スラリー返送手段により上記外槽からスラリーを上記内槽へと返送する際に、上記外槽から排出されたスラリーを一旦貯留して、スラリーの液管理を行う貯液槽を具備する請求項6〜10のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
上記内槽、上記外槽、上記スラリー返送手段、上記乾燥手段を具備したモジュールを複数直列に配置し、上記ネットベルトコンベアで上記焼結磁石体をこれら複数のモジュールを通過させることにより、上記スラリー塗布から乾燥までの粉末塗布プロセスを複数回繰り返すように構成された請求項6〜11のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体表面に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を塗布し熱処理して希土類永久磁石を製造する際に、粉末を均一かつ効率的に塗布することができ、しかも塗着量をコントロールして緻密な粉末の塗膜を密着性よく形成することができ、より磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に得ることができる希土類磁石の製造方法、及びこの希土類磁石の製造方法に好適に用いられる希土類化合物の塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項1〜5の希土類磁石の製造方法を提供する。
請求項1:
R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を塗布し熱処理してR
2を焼結磁石体に吸収させる希土類永久磁石の製造方法において、
互いに対向する2つの側壁にそれぞれネットベルト通過口を有する塗工槽を用意し、溶媒中に上記粉末を分散したスラリーをこの塗工槽に連続的に供給してオーバーフローさせ、複数の上記焼結磁石体をネットベルトコンベア上に並べて連続的に水平搬送し、上記ネットベルト通過口を通して塗工槽内の上記スラリー中を通過させることにより、水平方向に連続的に移動させながら該焼結磁石体にスラリーを塗布した後、焼結磁石体を乾燥させてスラリーの溶媒を除去することにより、複数の焼結磁石体に上記粉末を連続的に塗布することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
請求項2:
上記焼結磁石体を上記塗工槽内のスラリー中を通過させ乾燥させる塗布プロセスを複数回繰り返す請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
請求項3:
上記塗工槽から排出され、搬送される上記焼結磁石体に空気を噴射して余滴を除去した後、乾燥処理を行う請求項1又は2記載の希土類磁石の製造方法。
請求項4:
上記乾燥処理が、上記スラリーを構成する溶媒の沸点(T
B)の±50℃以内の温度の空気を希土類磁石に噴射することにより行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
請求項5:
上記ネットベルトコンベアのネットベルト上を押えネットベルトで覆い、上記焼結磁石体をこれらのネットベルト間に保持して搬送する請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
【0008】
また本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項6〜
14の希土類化合物の塗布装置を提供する。
請求項6:
R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末を塗布し熱処理してR
2を焼結磁石体に吸収させて、希土類永久磁石を製造する際に、上記粉末を上記焼結磁石体に塗布する塗布装置であり、
上記焼結磁石体を水平方向に沿って直線的に搬送するネットベルトコンベアと、
互いに対向する2つの側壁にそれぞれネットベルト通過口を有する箱型の容器であり、上記粉末を溶媒に分散したスラリーを収容し、このスラリーに上記焼結磁石体を浸漬してスラリーを塗布する内槽と、
上記内槽からオーバーフローする上記スラリーを受容する外槽と、
上記外槽内のスラリーを上記内槽へと返送するスラリー返送手段と、
上記内槽から排出された焼結磁石体表面を乾燥させ、上記スラリーの溶媒を除去して上記粉体を上記焼結磁石体表面に固着させる乾燥手段とを具備してなり、
上記内槽に上記スラリーを連続的に供給し、このスラリーをオーバーフローさせて上記外槽に受容すると共に、上記スラリー返送手段により該外槽から内槽へと返送してスラリーを循環させ、上記ネットベルトコンベアにより上記焼結磁石体を水平搬送し、上記内槽の一方の上記ネットベルト通過口から内槽内へと導入して上記スラリーに浸漬し他方の上記ネットベルト通過口から排出することにより、水平方向に連続的に移動させながら該焼結磁石体にスラリーを塗布し、上記乾燥手段で乾燥させることにより上記スラリーの溶媒を除去して上記粉体を上記焼結磁石体表面に固着させる希土類化合物の塗布装置。
請求項7:
上記ネットベルトコンベアのネットベルト上を覆って該ネットベルトコンベアと同期して移動する押えネットベルトを具備し、上記焼結磁石体をこれらのネットベルト間に保持して搬送する請求項6記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項8:
上記内槽と上記乾燥手段との間に配設され、上記ネットベルトコンベアで水平搬送される上記焼結磁石体に空気を噴射して、該焼結磁石体表面のスラリーの余滴を除去する余滴除去手段を具備する請求項6又は7記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項9:
上記乾燥手段が配設された乾燥ゾー
ンをチャンバーで覆い、該チャンバー内の空気を吸引して集塵することにより、焼結磁石体表面から除去された希土類化合物の粉末を回収する集塵手段を具備する請求項6〜8のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項10:
上記乾燥手段が配設された乾燥ゾーンと上記余滴除去手段が配設された余滴除去ゾーンの両方をチャンバーで覆い、該チャンバー内の空気を吸引して集塵することにより、焼結磁石体表面から除去された希土類化合物の粉末を回収する集塵手段を具備する請求項8記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項11:
上記スラリー返送手段により上記外槽からスラリーを上記内槽へと返送する際に、上記外槽から排出されたスラリーを一旦貯留して、スラリーの液管理を行う貯液槽を具備する請求項6〜
10のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項12:
上記内槽、上記外槽、上記スラリー返送手段、上記乾燥手段を具備したモジュールを複数直列に配置し、上記ネットベルトコンベアで上記焼結磁石体をこれら複数のモジュールを通過させることにより、上記スラリー塗布から乾燥までの粉末塗布プロセスを複数回繰り返すように構成された請求項6〜
11のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項13:
上記ネットベルトコンベアのネットベルトの上面に均等に配置された多数の突起を有し、複数の該突起上に上記焼結磁石体が載置されるように構成された請求項6〜
12のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
請求項14:
上記
ネットベルトコンベアのネットベルトが、金属線をネット状に編んだものであり、かつ上面に上記金属線を部分的に三角形に折り曲げて突出させた多数の突起を有するものである請求項6〜
13のいずれか1項に記載の希土類化合物の塗布装置。
【0009】
即ち、上記本発明の製造方法及び塗布装置は、希土類化合物の粉末を溶媒に分散させたスラリーを上記塗工槽(内槽)に連続的に供給してオーバーフローさせ、この塗工槽(内槽)内のスラリー中に、上記ネットベルトコンベアで水平搬送される複数の焼結磁石体を連続的に通過させて、スラリーを浸漬塗布し、この塗工槽(内槽)から連続的に排出される焼結磁石体を上記乾燥手段で乾燥させてスラリーの溶媒を除去することにより、複数の焼結磁石体に上記希土類化合物の粉末を連続的に塗布するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記スラリー返送手段などを用いて、連続的に塗工槽(内槽)に上記スラリーを供給しオーバーフローさせた状態で焼結磁石体にスラリーを浸漬塗布するように構成されているため、スラリーを常に一定の状態に維持しながら浸漬塗布を行うことができ、またネットベルトコンベアで搬送しながらスラリーを塗布した後に乾燥を行うので複数の焼結磁石体に対して連続的に希土類化合物粉末の塗布処理を行うことができ、更にネットベルトコンベアで水平に搬送しながらスラリー塗布を行い、またそのまま乾燥を行うこともできるので、小さな間隔で多数個の焼結磁石体を並べて搬送しても前後の焼結磁石体が互いに接触することなく、極めて効率的に連続処理を行うことができ、容易に自動化することもできる。これらのことから、希土類化合物粉末の塗着量を均一化することができると共に、塗着量のコントロールも正確に行うことでき、ムラのない均一な希土類化合物粉末の塗膜を効率よく形成することができるものである。
【0011】
そして、本発明の製造方法及び塗布装置によれば、このように希土類化合物の粉末を均一に焼結磁石体表面に塗布することができ、しかもその塗布操作を極めて効率的に行うことができるので、保磁力が良好に増大された磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に製造することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の希土類磁石の製造方法は、上記のとおり、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)を含有する粉末を塗布し熱処理してR
2を焼結磁石体に吸収させて希土類磁石を製造するものである。
【0014】
上記R
1−Fe−B系焼結磁石体は、公知の方法で得られたものを用いることができ、例えば常法に従ってR
1、Fe、Bを含有する母合金を粗粉砕、微粉砕、成形、焼結させることにより得ることができる。なお、R
1は上記のとおり、Y及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上で、具体的にはY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられる。
【0015】
本発明では、このR
1−Fe−B系焼結磁石体を、必要に応じて研削等によって所定形状に成形し、表面にR
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物、水素化物の1種又は2種以上を含有する粉末を塗布し、熱処理して焼結磁石体に吸収拡散(粒界拡散)させ、希土類磁石を得る。
【0016】
上記R
2は、上記のように、Y及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上であり、上記R
1と同様にY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが例示される。この場合、特に制限されるのではないが、R
2中の1又は複数に合計で10原子%以上、より好ましくは20原子%以上、特に40原子%以上のDy又はTbを含むことが好ましい。このようにR
2に10原子%以上のDy及び/又はTbが含まれ、かつR
2におけるNdとPrの合計濃度が前記R
1におけるNdとPrの合計濃度より低いことが本発明の目的からより好ましい。
【0017】
本発明において上記粉末の塗布は、該粉末を溶媒に分散したスラリーを調製し、このスラリーを焼結磁石体表面に塗布して乾燥させることにより行われる。この場合、粉末の粒径は、特に制限されるものではなく、吸収拡散(粒界拡散)に用いられる希土類化合物粉末として一般的な粒度とすることができ、具体的には、平均粒子径100μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。その下限は特に制限されないが1nm以上が好ましい。この平均粒子径は、例えばレーザー回折法などによる粒度分布測定装置等を用いて質量平均値D
50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)などとして求めることができる。なお、粉末を分散させる溶媒は水でも有機溶媒でもよく、有機溶媒としては、特に制限はないが、エタノール、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコール等が例示され、これらの中ではエタノールが好適に使用される。
【0018】
上記スラリー中の粉末の分散量に特に制限はないが、本発明においては、良好かつ効率的に粉末を塗着させるために分散量が質量分率1%以上、特に10%以上、更には20%以上のスラリーとすることが好ましい。なお、分散量が多すぎても均一な分散液が得られないなどの不都合が生じるため、上限は質量分率70%以下、特に60%以下、更には50%以下とすることが好ましい。
【0019】
本発明では、上記スラリーを焼結磁石体に塗布し乾燥させて粉末を焼結磁石体表面に塗布する方法として、塗工槽に上記スラリーを連続的に供給してオーバーフローさせると共に、複数の上記焼結磁石体をネットベルトコンベア上に並べて連続的に水平搬送して該塗工槽内の上記スラリー中を通過させ該焼結磁石体にスラリーを塗布した後、焼結磁石体を乾燥させる方法を採用する。具体的には、
図1に示した塗布装置を用いて粉末の塗布操作を行うことができる。
【0020】
即ち、
図1は、本発明の一実施例にかかる希土類化合物の塗布装置を示す概略図であり、この塗布装置は、ネットベルトコンベア5で上記焼結磁石体を水平搬送し、内槽(塗工槽)1に収容された上記スラリー中を通過させてスラリーを塗布した後、図示しない余滴除去ゾーンでスラリーの余滴を除去した後、図示しない乾燥ゾーンで乾燥させてスラリー中の溶媒を除去することにより、上記希土類化合物の粉末を焼結磁石体に塗布するものである。
【0021】
上記内槽1は、上記スラリーが収容され、このスラリー9に上記焼結磁石体を浸漬してスラリー9を該焼結磁石体表面に塗布するための塗工槽であり、この内槽1はより大きな外槽2内に配置され、該外槽2内に収容された状態となっている。この内槽1と外槽2とはポンプ31と配管32とを具備したスラリー返送手段3によって接続されており、このスラリー返送手段3によって上記スラリー9が連続的に上記内槽1の下部へと供給され、このスラリー9を内槽1の上部からオーバーフローさせると共に、内槽1から溢れ出たスラリーが上記外槽2に受容され、上記スラリー返送手段により再び内槽1へと返送供給されるようになっている。つまり、所定量の上記スラリー9が、内槽1−外槽2−スラリー返送手段3−内槽1と循環するようになっている。
【0022】
ここで、
図1の装置では、上記スラリー返送手段3の配管32の途中に貯液槽4が配設されており、この貯液槽4に上記外槽2から排出されたスラリー9を一旦貯留した後、上記内槽1にスラリー9を返送供給するようになっている。そして、この貯液槽4において、スラリー9の液量、温度などを管理するようになっている。また、スラリー返送手段3には流量計33が設けられており、スラリーの循環流量を調節し管理するようになっている。ここで、スラリー温度は、特に制限されるものではないが、通常は10℃〜40℃とすればよい。なお、スラリーの液量及び循環流量の調節については後述する。
【0023】
上記内槽(塗工槽)1は、
図2に示したように、上端面が解放した箱型の容器であり、互いに対向する2つの側壁11,11の上端部中央がそれぞれ四角形に切り欠かれてネットベルト通過口12,12が形成されている。また、内槽1内の底部には上記返送手段3の配管32が接続されており、この返送手段3の配管32から内槽(塗工槽)1の底部に上記スラリー9が連続的供給され、上記ネットベルト通過口12,12を含む内槽1上端部からスラリーがオーバーフローするようになっている。このとき、スラリーの供給量(スラリーの循環流量)を調節することにより、内槽1内のスラリー液面を、
図2中に一点鎖線91で示したように、ネットベルト通過口12,12の高さ方向中間部乃至上部の位置に保持し得るようになっている。なお、上記ネットベルト通過口12は、貫通穴状の開口としてもよく、形成位置も側壁11,11の高さ方向中間部から上端部の任意の位置とすることができる。なお、
図1,2では、上記内槽1,外槽2を説明の便宜上四角形としたが、これら内槽や外槽の形状に制限はない。また、内槽1に設けられた上記ネットベルト通過口12の形状も
図2に示された四角形に限定されるものではなく、後述するネットベルトコンベアが良好に流通し得るものであればよい。
【0024】
図1中、5はモータ51により駆動されて循環するネットベルトコンベアであり、その上側の水平移動領域が、上記外槽2内、内槽1内を通過するようになっている。また、図中8はモータ81により駆動されて循環する押えネットベルトであり、その下側の水平移動領域が、上記ネットベルトコンベア5のネットベルト上を覆って該ネットベルトコンベア5と同期して移動し、ネットベルトコンベア5と共に上記外槽2内、内槽1内を通過するようになっている。そして、
図2に示されているように、上記焼結磁石体10がこのネットベルトコンベア5と押えネットベルト8との間に保持されて水平搬送されるようになっている。
【0025】
なお、上記押えネットベルト8は、ネットの自重によって焼結磁石体10の動きを止めることにより、焼結磁石体10を上記スラリー9に浸漬した際や、場合によっては後述する余滴除去時及び乾燥時にも、ネットベルトコンベア5上に載置された焼結磁石体10がスラリーの液流や噴射空気によって動いてしまいネットベルトコンベア5上の磁石体同士が接触してしまうのを防止するものである。よって、焼結磁石体10に十分な重さがあり、スラリー液流や噴射空気によって焼結磁石体10が動くことのない場合には、押えネットベルト8は省略することもできる。
【0026】
上記ネットベルトコンベア5と押えネットベルト8は、
図2に示されているように、焼結磁石体10を保持した状態で、上記内槽(塗工槽)1の一方のネットベルト通過口12を通って内槽1内に収容されているスラリーに浸漬され、他方のネットベルト通過口12を通って内槽1から排出される。
【0027】
ここで、上記スラリー9の循環流量は、上記内槽1の容量や上記ネットベルト通過口12の開口面積などに応じて、内槽1内のスラリー液面91(
図2参照)がネットベルトコンベア5と押えネットベルト8との間に保持された焼結磁石体10よりも高い位置となるように調節される。この場合、比重2.0までの高比重対応マグネットポンプやスラリーポンプを用いることにより、15〜500L/minの範囲で循環流量を調節することができるが、例えば容量が0.5L〜20L程度の内槽1であれば、30〜200L/minの範囲で循環流量を調節して、内槽1内のスラリー液面91を上記のように制御することが好ましい。この場合、流量が30L/min未満では、上記スラリー液面91を搬送される上記焼結磁石体10よりも高く維持することが難しく、また循環系内に希土類化合物粉末同士の固着や凝集が生じ易くなって希土類化合物が系内に
堆積しやすくなる。一方、200L/minを超える流量でスラリーを循環させても特にメリットはなく、むしろスラリーを周囲に撒き散らすことになりやすく、何よりも電力消費のムダとなる。そして、スラリー9の総量は、上記循環流量を確実に維持することができる十分な量とすればよい。
【0028】
上記ネットベルトコンベア5や押えネットベルト8のネットベルトは、焼結磁石体を安定的に保持して水平搬送することができるネット状のベルトであればいずれものでも良いが、通常は金属線をネット状に編んだものが好ましく用いられる。この場合、特に制限させるものではないが、スプロケット駆動を採用して安定した走行を達成することができることからチェーン付のネットベルトが好ましく用いられる。
【0029】
このようなネットベルトとしては、ステンレススチール線からなるロッド(力骨)とスパイラル(螺旋)でネットが構成され、このネットにバーピン等を用いてチェーンを取り付けたネットベルトが好ましく用いられる。
【0030】
このネットベルトコンベア5や押えネットベルト8のネットベルトは、焼結磁石体と共に上記スラリー中に浸漬され塗布されるため、なんの処理も施されていないステンレススチールの状態であると希土類化合物粉末が堆積して線径が太くなり、ひいてはネットの網目が詰まって焼結磁石体10へのスラリー塗布に不都合を生じる虞がある。そのため、特に制限されるものではないが、これらネットベルトにコーティングを施してスラリーを付着しにくくすることが好ましい。コーティングの種類としては、特に限定されるものではないが、耐摩耗性と撥水性
に優れることからポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))などのフッ素樹脂コーティングを施すことが好ましい。更に、特に図示していないが、ネットベルトコンベア5や押えネットベルト8を通過させて洗浄する超音波洗浄槽を設け、常にネットベルトを洗浄して希土類化合物粉末の付着を防止するように構成してもよい。この場合、洗浄液は水あるいは有機溶剤が用いられ、26〜100kHz程度の周波数で超音波洗浄を行えばよい。
【0031】
また、特に制限されるものではないが、上記ネットベルトコンベア5のネットベルト上面や上記押えネットベルト8の下面に多数の突起を設け、この突起上に焼結磁石体10を保持するように構成してネットベルトと焼結磁石体表面の接触部をできるだけ小さくし、焼結磁石体10の表面全体がより良好にスラリーと接触するようにすることが好ましい。この場合、上記突起は、ネットベルトを構成するスパイラル部を三角形に折り曲げ上方に突出させて形成することができ、このような突起を多数形成して、焼結磁石体10の少なくとも2カ所が突起の頂点と接触するように設定することが好ましい。
【0032】
これらネットベルトを形成するステンレススチール線の線径は、ロッド径及びスパイラル径ともに、1mm未満であると長期間の使用に耐えられずに変形しやすくなるため、特に制限されるものではないが1mm以上とすることが好ましい。また、ネットのピッチはスパイラルピッチ及びロッドピッチともに3mm以上とすることが好ましい。このようにネットベルトコンベア5や押えネットベルト8の線径やピッチを調整することにより、良好なネットベルトの耐久性と粉末塗布量を得ることができる。即ち、ネットベルトコンベア5上に載置された焼結磁石体10はネットベルトのスチール線との接点が生じるため、線径とピッチは塗布量の均一性に少なからず影響する。更に、押えネットベルト8を省略した場合には、ネットと接触しない上側の面との塗布量の差が大きくなりやすく、線径とピッチを調整することは、強度と耐久性と共に、スラリーを焼結磁石体表面に滞りなく通す適当な空間を形成して、塗布量の均一性を向上させることになる。
【0033】
なお、上記ネットベルトコンベア5及び押えネットベルト8の幅と搬送速度(循環速度)は、処理対象の焼結磁石体10の形態(大きさ,形状)や装置に求められる処理能力に応じて適宜設定され、特に制限されるものではないが、搬送速度については200〜2000mm/min、特に400〜1200mm/minとすることが好ましく、搬送速度が200mm/min未満では工業的に十分な処理能力を達成することが難しく、一方2000mm/minを超えると、例えば後述する余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンでの処理で乾燥不良が発生しやすくなり、確実な乾燥を行うためにブロワーを大型化したり台数を増やす必要が生じ、余滴除去ゾーンや乾燥ゾーンの規模が大きくなってしまうなどの不都合を生じる場合がある。
【0034】
図1には特に図示していないが、この塗布装置には、上記スラリー9が塗布され上記外槽2から排出された焼結磁石体10表面からスラリー9の余滴を除去する余滴除去ゾーン、余滴除去を行った焼結磁石体10を乾燥させスラリー9の溶媒を除去して上記希土類化合物粉末の塗膜を形成する乾燥ゾーンが設けられている。この場合、これら余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを通過する別途設けられた搬送機構にスラリーを塗布した焼結磁石体10を移してこれら余滴除去処理及び乾燥処理を行うこともできるが、上記ネットベルトコンベア5と押えネットベルト8との間に保持された状態で上記内槽1及び外槽2から排出され水平機搬送される焼結磁石体10をそのままネットベルトコンベア5及び押えネットベルト8により搬送して上記余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを順次通過させ上記余滴除去及び乾燥処理を行うように構成してもよい。以下、特に説明のない場合は、このように外槽2から排出され焼結磁石体10をそのままネットベルトコンベア5及び押えネットベルト8により搬送して上記余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを順次通過させる場合について説明する
【0035】
上記余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンの構成は特に制限されるものではないが、例えば、それぞれ押えネットベルト8が重ねられたネットベルトコンベア5の上下両側に空気噴射ノズルを配設してなる余滴除去手段及び乾燥手段を設け、水平搬送される焼結磁石体10に余滴除去手段のノズルから空気を噴射して余滴を除去した後、乾燥手段のノズルから温熱風を噴射して乾燥を行うようにすればよい。この場合、上記余滴除去手段及び乾燥手段を構成するノズルは、特に制限されるものではないが、上記ネットベルトコンベア5の幅に応じた長さのスリット型ノズルが好ましく用いられ、上記ネットベルトコンベア5の上下両側に配設されるが、その配置は上下対向した状態、上下千鳥状など適宜な配列とすればよい。
【0036】
ここで、乾燥手段による温熱風の温度は、特に制限されるものではないが、上記スラリー9を構成する溶媒の沸点(T
B)の±50℃の範囲で、乾燥時間(搬送速度や乾燥ゾーンの長さ)、焼結磁石体の大きさや形状、スラリーの濃度や塗布量などに応じて適宜調整すればよい。例えば、スラリーの溶媒として水を用いた場合には40℃〜150℃、好ましくは60℃〜100℃の範囲で温熱風の温度を調節すればよい。なお、場合によっては乾燥を速めるために、上記余滴除去手段により噴射する空気も同様の温熱空気とすることができる。
【0037】
また、上記余滴除去手段や乾燥手段のノズルから噴射する空気や温熱風の風量は、焼結磁石体10の搬送速度、余滴除去ゾーン6や乾燥ゾーン7の長さ、焼結磁石体10の大きさや形状、スラリーの濃度や塗布量などに応じて適宜調節され、特に制限されるものではないが、通常は300〜2500L/minの範囲内、特に500〜1800L/minの範囲内で調節することが好ましい。
【0038】
なお、上記余滴除去ゾーン(余滴除去手段)は、必ずしも必須の構成ではなく場合によっては省略することも可能であり、乾燥ゾーン(乾燥手段)で乾燥と同時に余滴除去を行うこともできるが、焼結磁石体10の表面に余滴が存在したまま乾燥が行われると粉末の塗布ムラとなりやすいため、余滴除去ゾーン(余滴除去手段)で確実に余滴を除去した後に乾燥を行うことが好ましい。
【0039】
ここで、特に制限されるものではないが、上記余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを覆うチャンバーを設けることができる。このようにチャンバーで余滴除去ゾーンや乾燥ゾーンを覆い、該チャンバー内を集塵機により吸引して集塵することにより、余滴除去や乾燥の際に焼結磁石体10の表面から除去された希土類化合物の粉末を回収する集塵手段を設けることが好ましく、これにより貴重な希土類元素を含む希土類化合物を無駄にすることなく、希土類化合物粉末の塗布を行うことができる。また、このような集塵手段を設けることにより、乾燥時間を速めることができ、更に内槽1、外槽2及びスラリー返送手段3等からなるスラリー塗布部に温熱風が回り込むことを可及的に防止して、温熱風によりスラリー溶媒が蒸発することを効果的に防止することができる。なお、集塵機は湿式でも乾式でもよいが、上記作用効果を確実に達成するためには、上記余滴除去手段及び乾燥手段のノズルからの吹き出し風量よりも大きい吸込能力を持つ集塵機を選定することが好ましい。
【0040】
この塗布装置を用いて、上記焼結磁石体10の表面に上記R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水酸化物又は水素化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)から選ばれる1種又は2種以上を含有する粉末(希土類化合物の粉末)を塗布する場合は、まず、この粉末を溶媒に分散させた上記スラリー9を上記内槽1及び貯液槽4に収容し、上記スラリー返送手段3のポンプ31で該スラリー9を内槽1へと連続的に供給し、上記ネットベルト通過口12,12を含む内槽1の上部からオーバーフローさせ、これを上記外槽2で受容し、貯液槽4に戻すとともに、これを再びスラリー返送手段3によって内槽1へと返送して循環させる。これによりスラリー1は十分に撹拌されながら常に一定量が内槽1内に収容された状態となり、
図2に示されているように、内槽1内のスラリー液面91が上記ネットベルトコンベア5及び押えネットベルト8よりも高い位置に保持される。
【0041】
この状態で、上記ネットベルトコンベア5の水平搬送部の上流側に、焼結磁石体10を並べて載置し、この焼結磁石体10を該ネットベルトコンベア5と上記押えネットベルト8との間に保持した状態で所定速度で水平搬送する。
【0042】
そして、この焼結磁石体10は、
図2に示されているように、上記ネットベルトコンベア5と上記押えネットベルト8との間に保持された状態で、上記一方のネットベルト通過口12から内槽1内に進入し上記スラリー9に浸漬された状態でこのスラリー9中を通過して他方のネットベルト通過口12から内槽1外へと排出される。これにより、複数の焼結磁石体10に対して連続的にスラリー9が塗布される。
【0043】
このスラリー9が塗布された焼結磁石体10はネットベルトコンベア5と
押えネットベルト8との間に保持された状態で更に水平搬送され、上記余滴除去ゾーンを通過して上述のとおり余滴が除去され、次いで乾燥ゾーンに進入して上記乾燥操作が施されてスラリー
9の溶媒が除去され、希土類化合物の粉末が焼結磁石体10の表面に固着して、希土類化合物の粉末からなる塗膜が焼結磁石体10の表面に形成される。
【0044】
このようにして希土類化合物の粉末が塗布され上記乾燥ゾーンから排出された焼結磁石体10をネットベルトコンベア5から回収し、熱処理して希土類化合物中の上記R
2を焼結磁石体に吸収拡散させることにより、希土類永久磁石を得るものである。
【0045】
ここで、上記塗布装置を用いた希土類化合物の塗布操作を複数回繰り返して希土類化合物の粉末を重ね塗りすることにより、より厚い塗膜を得ることができると共に、塗膜の均一性をより向上させることもできる。塗布操作の繰り返しは、1台の装置に複数回通して上記塗布操作を繰り返せばよいが、上記塗布装置を1モジュールとし、求める塗膜の厚さなどに応じて、例えば2〜10モジュールを直列に配置し、上述したスラリー塗布から乾燥までの粉末塗布プロセスをモジュールの台数分繰り返すようにしてもよい。この場合、各モジュール間の連絡はロボットや中間搬送ベルト等を用いて焼結磁石体10を次のモジュールのネットベルトコンベア5上へと移せばよい。また、上記ネットベルトコンベア5と押えネットベルト8を各モジュール間を貫く共通設備とし、このネットベルトコンベア5と押えネットベルト8で上記焼結磁石体をこれら複数のモジュールを通過させることにより、上記粉末塗布プロセスを複数回繰り返すようにしてもよい。
【0046】
スラリー塗布から乾燥までの粉末塗布プロセスを複数回繰り返すことにより、薄く重ね塗りを行って所望の厚さの塗膜とすることができ、薄く重ね塗りすることにより乾燥時間を短縮して時間的効率を向上させることが可能となる。また、1台の装置で塗布操作を繰り返したり、各モジュールのネットベルトコンベア5間で焼結磁石体の移し替えを行うようにした場合には、移し替えの際にネットベルトコンベア5や押えネットベルト8との接点の位置がずれることになることと、薄く多層塗りすることとの効果が相まって得られる塗膜の均一性が更に向上する。
【0047】
このように、上記塗布装置を用いて希土類化合物の粉末の塗布が行われる本発明の製造方法によれば、塗工槽(内槽1)の上部からスラリーをオーバーフローさせた状態で焼結磁石体10にスラリー9を浸漬塗布するように構成されているため、スラリー9を常に一定の状態に維持しながら浸漬塗布を行うことができ、またネットベルトコンベア5で搬送しながらスラリー9の塗布/乾燥を行うので複数の焼結磁石体10に対して連続的に希土類化合物粉末の塗布処理を行うことができ、更にネットベルトコンベア5で水平に搬送しながら塗布と乾燥を行うので、小さな間隔で多数個の焼結磁石体10を並べて搬送しても前後の焼結磁石体が互いに接触することなく、極めて効率的に連続処理を行うことができ、容易に自動化することもできる。よって、希土類化合物粉末の塗着量を均一化することができると共に、塗着量のコントロールも正確に行うことでき、ムラのない均一な希土類化合物粉末の塗膜を効率よく形成することができるものである。そして、この粉末が均一に塗布された焼結磁石体を熱処理して上記R
2で示された希土類元素を吸収拡散させることにより、保磁力が良好に増大された磁気特性に優れた希土類磁石を効率的に製造することができるものである。
【0048】
なお、上記R
2で示される希土類元素を吸収拡散させる上記熱処理は、公知の方法に従って行えばよい。また、上記熱処理後、適宜な条件で時効処理を施したり、更に実用形状に研削するなど、必要に応じて公知の後処理を施すこともできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明のより具体的な態様について実施例をもって詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
[実施例1〜3]
Ndが14.5原子%、Cuが0.2原子%、Bが6.2原子%、Alが1.0原子%、Siが1.0原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Al、Fe、Cuメタル、純度99.99質量%のSi、フェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するいわゆるストリップキャスト法により薄板状の合金とした。得られた合金を室温にて0.11MPaの水素化に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行ないながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩いにかけて、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0051】
上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルで粉末の重量中位粒径5μmに微粉砕した。得られたこの混合微粉末を窒素雰囲気下15kOeの磁界中で配向させながら、約1ton/cm
2の圧力でブロック状に成形した。この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1060℃で2時間焼結して磁石ブロックを得た。この磁石ブロックをダイヤモンドカッタ−を用いて全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄し乾燥させて、17mm×17mm×2mm(磁気異方性化した方向)のブロック状磁石体を得た。
【0052】
次いで、フッ化ディスプロシウムの粉末を質量分率40%で水と混合し、フッ化ディスプロシウムの粉末をよく分散させてスラリーを調製し、
図1,2に示された上記塗布装置(上述した余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを含む)を用いて、このスラリーを上記磁石体に塗布し乾燥させて、フッ化ディスプロシウム粉末からなる塗膜を形成した。その際、保磁力増大効果がピークとなる塗布量まで塗布、余滴除去、乾燥を繰り返した。また、塗布装置のネットベルトコンベア5及び押えネットベルト8として下記表1に示した三種類のステンレススチール製ネットベルトを用意し、表2に示したとおり実施例1〜3でそれぞれ異なるネットベルトを用いた。なお、塗布条件は次のとおりとした。
【0053】
塗布条件
内槽1の容量: 1L
スラリーの循環流量: 90L/min
搬送速度: 700mm/min
除滴及び乾燥時の風量: 1000L/min
乾燥時の温熱風の温度: 80℃
【0054】
この表面にフッ化ディスプロシウム粉末の薄膜を形成した磁石体をAr雰囲気中、900℃で5時間熱処理して吸収処理を施し、更に500℃で1時間時効処理して急冷することにより希土類磁石を得た。
図3に示した磁石の中央部及び端部の9点の場所から2mm×2mm×2mmに磁石体を切り出し、その保磁力を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表2のとおり、いずれの希土類磁石も粒界拡散処理により良好な保磁力増大効果が得られたが、フラットコンベア(実施例1)や厚み一定型コンベア(実施例2)では、ステンレス線と磁石の接している面積が多く、接触している箇所では希土類化合物粉が磁石に塗着されにくいため薄い状態となり、逆にその近傍が厚く塗着される傾向にあり、塗着量にも保磁力増大量もややばらつきがみられる。それに対し、三角螺旋型のネットベルトの場合(実施例3)、希土類化合物粉が磁石面内全域にいきわたることにより、ばらつきの少ないより安定した保磁力増大量が得られている。
【0058】
[実施例4〜6及び比較例1]
実施例3と同様の塗布装置を用い、同様に作成した焼結磁石体に同様のスラリーを同様の条件で塗布し乾燥させて、磁石体にフッ化ディスプロシウム粉末からなる塗膜を形成した。その際、
図1の塗布装置(上述した余滴除去ゾーン及び乾燥ゾーンを含む)による、スラリー塗布→余滴除去→乾燥を1回の塗布として、それを2回(比較例1,実施例4)、3回(実施例5)、6回(実施例6)繰り返し、多層塗りを行った。この場合、比較例1については、2回の塗布を行うが1回目塗布後の乾燥をスキップした。各希土類磁石表面に塗布されたフッ化ディスプロシウム粉末の塗布量比率(保磁力増大効果が平衡状態となる塗布量を1.00としたときの塗布量の比)を測定した。結果を表3に示す。
【0059】
得られた各焼結磁石体を実施例3と同様に熱処理し、希土類磁石を得た。得られた各希土類磁石につき下記方法により保磁力増大量を評価した。結果を表3に示す。なお、対照として繰り返し塗布を行わずに、1モジュールの塗布処理を行い、熱処理した場合についても同様に塗布量比率及び保磁力増大量を測定した。結果を表3に併記する。
【0060】
[保磁力増大量の測定]
得られた各希土類磁石の中央部及び端部の9点の場所からそれぞれ2mm×2mm×2mmに磁石体を切り出し、その保磁力を測定して保磁力の増大量を算出した。保磁力増大量は9枚の磁石片の平均値とした。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示されているように、スラリー塗布→余滴除去→乾燥を1回の塗布として、これを複数回繰り返すことにより、塗着量を調節することができる。また、ネット跡がずれて塗着量の均一性が向上し、これにより保磁力増大のばらつきを小さくすることができるものである。
なお、比較例1のように、乾燥を行わずに2回目の塗布を行うと、2回目の塗布槽内の溶媒で1回目に塗着した希土類化合物分を落すことにしかならず、十分な重ね塗りの効果を得ることができない。