特許第6369566号(P6369566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6369566ナノカーボン膜作製用複合基板及びナノカーボン膜の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369566
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】ナノカーボン膜作製用複合基板及びナノカーボン膜の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20180730BHJP
   B32B 9/00 20060101ALN20180730BHJP
   B32B 15/04 20060101ALN20180730BHJP
【FI】
   C01B32/184
   !B32B9/00 A
   !B32B15/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-566156(P2016-566156)
(86)(22)【出願日】2015年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2015085237
(87)【国際公開番号】WO2016104291
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-258810(P2014-258810)
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】川合 信
(72)【発明者】
【氏名】小西 繁
(72)【発明者】
【氏名】茂木 弘
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−153576(JP,A)
【文献】 特開2005−347666(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/061337(WO,A1)
【文献】 特開2000−177046(JP,A)
【文献】 特開昭63−303896(JP,A)
【文献】 特開2011−086660(JP,A)
【文献】 特開平05−013616(JP,A)
【文献】 J. HWANG et al.,CVD growth of SiC on sapphire substrate and graphene formation from the epitaxial SiC,Journal of Crystal Growth,2013年,366,26-30.,doi:10.1016/j.jcrysgro.2012.12.136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00−32/991
B32B1/00−43/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1μm以下の単結晶炭化珪素薄膜と、該単結晶炭化珪素薄膜を支持するアモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素、石英ガラス、サファイア、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリコン又はダイヤモンドからなるハンドル基板と、上記単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間に設けられた、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Zr、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1種の金属材料からなる厚さが2nm以上1μm以下の介在層とを備えるナノカーボン膜作製用複合基板。
【請求項2】
上記介在層は、上記金属材料が複数選ばれた場合にはそれらの金属材料ごとに積層した構造又はそれらの金属材料の合金からなる単層構造を有することを特徴とする請求項1記載のナノカーボン膜作製用複合基板。
【請求項3】
厚さ1μm以下の単結晶炭化珪素薄膜と、該単結晶炭化珪素薄膜を支持するアモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素又は石英ガラスからなるハンドル基板と、上記単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間に設けられた、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリコン及び炭化珪素から選ばれる少なくとも1種の材料からなる厚さが2nm以上1μm以下の介在層とを備えるナノカーボン膜作製用複合基板。
【請求項4】
上記介在層は、酸化珪素、窒化珪素、酸化ジルコニウム、アモルファスシリコン又はアモルファス炭化珪素からなることを特徴とする請求項3記載のナノカーボン膜作製用複合基板。
【請求項5】
上記単結晶炭化珪素薄膜は、単結晶炭化珪素基板からその一部を剥離させて形成したものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノカーボン膜作製用複合基板。
【請求項6】
請求項1又は2記載のナノカーボン膜作製用複合基板を加熱して上記単結晶炭化珪素薄膜から珪素原子を昇華させてナノカーボン膜を得ることを特徴とするナノカーボン膜の作製方法。
【請求項7】
請求項3又は4記載のナノカーボン膜作製用複合基板を加熱して上記単結晶炭化珪素薄膜から珪素原子を昇華させてナノカーボン膜を得ることを特徴とするナノカーボン膜の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン膜を製造することが可能なナノカーボン膜作製用複合基板及びナノカーボン膜作製用複合基板を用いたナノカーボン膜の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブに代表されるナノカーボンが新たな電子デバイス材料として注目を集めている。一例として、グラフェンが有する極めて高い移動度(シリコンの100倍とも言われている)や鋼鉄よりも高い耐久性などから、次世代の電子デバイスのプラットフォームとして研究が進んでいる。
【0003】
ナノカーボンの形成方法として幾つか提案がなされており、例えば昇華法が挙げられる。これは単結晶炭化珪素(SiC)を不活性ガス中で高温で処理をすることで、炭化珪素中のシリコン(Si)を蒸発させ、残存した炭素(C)がグラフェンを形成するという方法である(特開2007−335532号公報(特許文献1))。この方法は単結晶炭化珪素ウェーハ(直径最大6インチ)からグラフェンウェーハが得られる方法として、近年脚光を浴びている方法である。また、フラーレンやカーボンナノチューブに関しても単結晶炭化珪素をプラットフォーム基板とすることで高品質の膜が形成される可能性が高まっている。
【0004】
しかしながら、非常に高価な単結晶炭化珪素ウェーハを用いることで、コストが高くなってしまうという問題が挙げられる。特に、電子デバイス用途で重要と思われる半絶縁性の単結晶炭化珪素ウェーハは直径3インチ程度のウェーハ1枚でも数十万円程度の価格であり、広範囲に用いられるには余りにも高価であるという欠点がある。
【0005】
また、特許文献2(特開2009−200177号公報)では、単結晶シリコンカーバイド(SiC)基板にグラフェンを形成し、然る後に接着層を介してハンドルウェーハ(カーボンを含まず、シリコンを含む材料からなる)に転写するという方法が挙げられている。しかしながら、この方法では形成されたグラフェン層(通常nmオーダーの厚さ)を単結晶SiC基板から剥して転写するために多くのダメージが加わり、高品質のグラフェンを得ることが困難であった。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術として、国際公開第2014/061337号(特許文献3))がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−335532号公報
【特許文献2】特開2009−200177号公報
【特許文献3】国際公開第2014/061337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、欠陥の少ないナノカーボン膜を安価に作製することが可能なナノカーボン膜作製用複合基板及びナノカーボン膜の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この問題を解決するために、本発明者らは、ナノカーボン膜を形成するためのものとして次のような構造の低コストで高品質の複合基板を発案した。即ち、通常グラフェン化する単結晶炭化珪素層の厚さは数原子層分で十分であり、厚い炭化珪素層は不要であることから、単結晶炭化珪素薄膜をハンドル基板(例えば、非単結晶の炭化珪素ウェーハ)に積層したものを用意するのである。これにより、単結晶炭化珪素ウェーハから単結晶炭化珪素薄膜をハンドル基板に転写することでその基板を用意することができ、また一枚の単結晶炭化珪素ウェーハから単結晶炭化珪素薄膜を繰り返し転写することができることからコストメリットも極めて高くなる。ここで、炭化珪素は非常に硬質であるため、その研磨工程において貼り合わせに適した表面粗さを得ることは容易なことではない。そのため、単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間に研磨の容易な介在層を設けることで貼り合わせ面の表面粗さを低減しやすくし、単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板とを強固に接合(密着)することを実現した。
また、そのような構造の複合基板を用いてナノカーボン膜を形成すると、積層した単結晶炭化珪素薄膜、あるいはそこに形成されるナノカーボン膜に欠陥が発生する場合があった。それを詳細に調査したところ、上記介在層が厚いと上記欠陥が発生し易く、特に介在層の厚さが1μmを超えると欠陥が発生してしまうことが分かった。これは、介在層自身の膨張係数と単結晶炭化珪素薄膜の膨張係数との差から生じる歪によるものと考えられる。更に調査したところ、接合される単結晶炭化珪素薄膜そのものも薄い方が該単結晶炭化珪素薄膜やナノカーボン膜に発生する欠陥を抑制する効果が高いことが判明した。
本発明者らはこれらの知見を基に鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のナノカーボン膜作製用複合基板及びナノカーボン膜の作製方法を提供する。
〔1〕 厚さ1μm以下の単結晶炭化珪素薄膜と、該単結晶炭化珪素薄膜を支持するアモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素、石英ガラス、サファイア、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリコン又はダイヤモンドからなるハンドル基板と、上記単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間に設けられた、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Zr、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1種の金属材料からなる厚さが2nm以上1μm以下の介在層とを備えるナノカーボン膜作製用複合基板。
〔2〕 上記介在層は、上記金属材料が複数選ばれた場合にはそれらの金属材料ごとに積層した構造又はそれらの金属材料の合金からなる単層構造を有することを特徴とする〔1〕記載の複合基板。
〔3〕 厚さ1μm以下の単結晶炭化珪素薄膜と、該単結晶炭化珪素薄膜を支持するアモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素又は石英ガラスからなるハンドル基板と、上記単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間に設けられた、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリコン及び炭化珪素から選ばれる少なくとも1種の材料からなる厚さが2nm以上1μm以下の介在層とを備えるナノカーボン膜作製用複合基板。
〔4〕 上記介在層は、酸化珪素、窒化珪素、酸化ジルコニウム、アモルファスシリコン又はアモルファス炭化珪素からなることを特徴とする〔3〕記載の複合基板。
〔5〕 上記単結晶炭化珪素薄膜は、単結晶炭化珪素基板からその一部を剥離させて形成したものである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のナノカーボン膜作製用複合基板。
〔6〕 〔1〕又は〔2〕記載のナノカーボン膜作製用複合基板を加熱して上記単結晶炭化珪素薄膜から珪素原子を昇華させてナノカーボン膜を得ることを特徴とするナノカーボン膜の作製方法。
〔7〕 〔3〕又は〔4〕記載のナノカーボン膜作製用複合基板を加熱して上記単結晶炭化珪素薄膜から珪素原子を昇華させてナノカーボン膜を得ることを特徴とするナノカーボン膜の作製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、厚さ1μm以下の単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間に所定の材料からなる厚さ1μm以下の介在層を設けているので、単結晶炭化珪素薄膜がハンドル基板に密着性よく接合した複合基板を提供できると共に、該複合基板に欠陥の少ないナノカーボン膜を形成することが可能である。また、単結晶炭化珪素膜をハンドル基板に薄膜の状態で転写することにより、高価な単結晶炭化珪素基板を多量に準備する必要がなくなり、低コストでナノカーボン膜を作製可能な複合基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る複合基板の構成を示す断面図である。
図2】本発明に係る複合基板の製造方法における製造工程の一例を示す概略図であり、(a)はイオン注入された単結晶炭化珪素基板の断面図、(b)は単結晶炭化珪素基板のイオン注入面に薄膜を形成した状態を示す断面図、(c)はハンドル基板の一主面に薄膜を形成した状態を示す断面図、(d)は単結晶炭化珪素基板とハンドル基板を貼り合わせた状態を示す断面図、(e)はイオン注入領域で単結晶炭化珪素基板を剥離させた状態を示す断面図、(f)は複合基板の断面図である。
図3】実施例1の結果を示す図である。
図4】実施例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[複合基板]
以下に、本発明に係る複合基板について説明する。
本発明に係る複合基板10は、図1に示すように、厚さ1μm以下の単結晶炭化珪素薄膜11と、該単結晶炭化珪素薄膜11を支持する耐熱温度1100℃以上の耐熱材料(ただし、単結晶炭化珪素を除く)からなるハンドル基板12と、上記単結晶炭化珪素薄膜11とハンドル基板12との間に設けられた、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリコン及び炭化珪素から選ばれる少なくとも1種の材料、又はTi、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Zr、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1種の金属材料からなる厚さが1μm以下の介在層13とを備える。
【0014】
単結晶炭化珪素薄膜11は、後述するように、バルク状の単結晶炭化珪素、例えば結晶構造が4H−SiC、6H−SiC、3C−SiCの単結晶炭化珪素基板から薄膜状あるいは層状に剥離させて形成したものであることが好ましい。
【0015】
また、単結晶炭化珪素薄膜11は、厚さが1μm以下、好ましくは100nm以上1μm以下、より好ましくは200nm以上800nm以下、更に好ましくは300nm以上500nm以下の単結晶炭化珪素からなる薄膜である。単結晶炭化珪素薄膜11の厚さが1μm超では、この複合基板10を加熱してナノカーボン膜を形成した場合にナノカーボン膜に欠陥が多数発生してしまう。また、その厚さが100nm未満ではその厚さ分布を均一に形成することが難しく、ナノカーボン膜を形成することが困難となる場合がある。
【0016】
ハンドル基板12は、ナノカーボン膜形成時の熱処理温度に耐える材料、即ち耐熱温度1100℃以上の耐熱材料(ただし、単結晶炭化珪素を除く)からなるものであり、例えば単結晶ではない炭化珪素、即ちアモルファス炭化珪素や多結晶炭化珪素、あるいは石英ガラス、サファイア、結晶性シリコン(単結晶シリコンや多結晶シリコン)、窒化珪素、ダイヤモンド又は窒化アルミニウムからなるものを好ましく用いることができる。その中で、アモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素又は石英ガラスがより好ましく、熱膨張係数が単結晶炭化珪素に近く、ナノカーボン形成時に行なわれる熱処理に対する耐熱性を有するアモルファス炭化珪素や多結晶炭化珪素からなるものが更に好ましい。また、ハンドル基板12の厚さは、特に限定されないが、通常のSEMI規格又はJEIDA規格近傍のものがハンドリングの関係から扱いやすい。
【0017】
介在層13は、単結晶炭化珪素薄膜11とハンドル基板12との間に設けられて両者を密着性よく接合する層であり、例えば酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリコン及び炭化珪素から選ばれる少なくとも1種の材料からなる薄層であり、又はTi、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Zr、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1種の金属材料からなる薄層である。なお、これらの材料から複数の材料が選ばれた場合には、それらの材料ごとに積層した構造、それらの材料を混合した材料からなる単層構造のいずれでもよい。
【0018】
また、介在層13の厚さは、1μm以下、好ましくは2nm以上1μm以下、より好ましくは0.02μm以上0.5μm以下、更に好ましくは0.05μm以上0.2μm以下である。介在層13の厚さが1μm超では、この複合基板10を加熱してナノカーボン膜を形成した場合にナノカーボン膜に欠陥が多数発生してしまう。また、その厚さが2nm未満では、単結晶炭化珪素薄膜11とハンドル基板12との密着性が不十分となる場合がある。
【0019】
[ナノカーボン膜の作製方法]
本発明の複合基板10は、ナノカーボン膜形成用、即ち加熱により単結晶炭化珪素薄膜11から珪素原子を昇華させてハンドル基板12に介在層13を介して支持された単結晶炭化珪素薄膜11にナノカーボン膜を形成するためのものである。詳しくは、複合基板10を好ましくは1,100℃以上、より好ましくは1,200〜1,400℃、更に好ましくは1,250〜1,350℃に加熱することにより単結晶炭化珪素薄膜11を構成する炭化珪素(SiC)から珪素原子(Si)を昇華させて、厚さ20〜1,000nm程度のナノカーボン膜を形成することができる。この加熱処理の雰囲気は真空雰囲気(減圧)にすると珪素原子が昇華されやすいので好ましい。また、このときの温度条件も雰囲気や処理枚数等により変化するので適宜最適な温度に設定をする。
【0020】
昇華後のナノカーボン膜は、その作製条件等により、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブのいずれか又はこれらから選択される2種以上が混在する構造を有するものとなる。用途により適宜選択をすればよい。
【0021】
複合基板に形成したナノカーボン膜は、各種電子デバイスに適用することが可能であるが、ナノカーボン膜における欠陥は電子デバイスの性能に悪影響を及ぼす。そのため、できるだけその欠陥の少ないことが求められ、例えば1,000倍の光学顕微鏡で観察した場合の欠陥数として4000個/cm2以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の複合基板10を用いることにより、欠陥の少ないナノカーボン膜を形成することができる。なお、ここでいうナノカーボン膜の欠陥とは、下地の単結晶炭化珪素膜の欠落などの欠陥を伴うナノカーボン膜の部分的欠損であり、ナノカーボン膜表面を光学顕微鏡で観察すると点状の穴(ピット状の穴(pit))として識別可能である。また、ナノカーボン膜において欠陥が少ないとは、ナノカーボン膜表面を1,000倍の光学顕微鏡で観察した結果として、空孔数が3600個/cm2以下、好ましくは3200個/cm2以下、より好ましくは3000個/cm2以下のものをいう。
【0023】
なお、複合基板10における単結晶炭化珪素薄膜11及び介在層13の厚さは、反射率分光法により測定した値である。
【0024】
[複合基板の製造方法]
本発明の複合基板の製造方法について説明する。
本発明に係る複合基板の製造方法は、図2に示すように、単結晶炭化珪素基板への水素イオン注入工程(工程1)、単結晶炭化水素基板のイオン注入面への薄膜形成工程(工程2)、ハンドル基板への薄膜形成工程(工程3)、単結晶炭化珪素基板及び/又はハンドル基板の表面活性化処理工程(工程4)、単結晶炭化珪素基板とハンドル基板との貼り合わせ工程(工程5)、剥離処理工程(工程6)、単結晶炭化珪素薄膜研磨工程(工程7)の順に処理を行うものである。
【0025】
(工程1:単結晶炭化珪素基板への水素イオン注入工程)
まず、単結晶炭化珪素基板1に水素イオン等を注入してイオン注入領域2を形成する(図2(a))。
【0026】
ここで、ハンドル基板12に貼り合わせをする単結晶炭化珪素基板1は、結晶構造が4H−SiC、6H−SiC、3C−SiCのものから選択をすることが好ましい。単結晶炭化珪素基板1及び後述するハンドル基板12の大きさは、必要なナノカーボン膜の大きさやコスト等から設定をする。また、単結晶炭化珪素基板1の厚さは、SEMI規格又はJEIDA規格の基板厚さ近傍のものがハンドリングの面から好ましい。なお、単結晶炭化珪素基板1として、市販のもの、例えばパワーデバイス向けに市販されている単結晶炭化珪素ウェーハを用いればよく、その表面がCMP(Chemical Mechanical Polishing(or Planarization))処理で仕上げ研磨された、表面が平坦かつ平滑なものを用いることが好ましい。
【0027】
単結晶炭化珪素基板1へのイオン注入の際、その表面から所望の深さにイオン注入領域2を形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の少なくとも水素イオン(H+)又は水素分子イオン(H2+)を注入する。このときの条件として、所望の薄膜の厚さになるようにイオン注入エネルギーを設定すればよい。HeイオンやBイオン等を同時にインプラしても構わないし、同じ効果が得られるモノであればどのようなイオンを採用しても構わない。
イオン注入深さは、単結晶炭化珪素薄膜の厚さに対応するものである。
【0028】
単結晶炭化珪素基板1に注入する水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1016atom/cm2〜9.0×1017atom/cm2であることが好ましい。1.0×1016atom/cm2未満であると、界面の脆化が起こらない場合があり、9.0×1017atom/cm2を超えると、貼り合わせ後の熱処理中に気泡となり転写不良となる場合がある。
【0029】
注入イオンとして水素分子イオン(H2+)を用いる場合、そのドーズ量は5.0×1015atoms/cm2〜4.5×1017atoms/cm2であることが好ましい。5.0×1015atoms/cm2未満であると、界面の脆化が起こらない場合があり、4.5×1017atoms/cm2を超えると、貼り合わせ後の熱処理中に気泡となり転写不良となる場合がある。
【0030】
イオン注入された基板表面からイオン注入領域2までの深さ(即ち、イオン打ち込み深さ)は、ハンドル基板12上に設ける単結晶炭化珪素薄膜11の所望の厚さに対応するものであり、100〜1,000nm、好ましくは200〜800nm、より好ましくは300〜500nmである。また、イオン注入領域2の厚さ(即ち、イオン分布厚さ)は、機械衝撃等によって容易に剥離できる厚さが良く、好ましくは200〜400nm、更に好ましくは300nm程度である。
【0031】
また、単結晶炭化珪素基板1の表面に、予め50nm〜500nm程度の酸化珪素膜等の絶縁膜を形成しておき、それを通して水素イオン又は水素分子イオンの注入を行ってもよい。これにより注入イオンのチャネリングを抑制する効果が得られる。
【0032】
(工程2:単結晶炭化珪素基板のイオン注入面への薄膜形成工程(図2(b)))
本工程では以下の工程2−1、工程2−2のいずれかを行い、単結晶炭化珪素基板1の貼り合わせを行う面に薄膜3aを形成する。
【0033】
(工程2−1)
単結晶炭化珪素基板1のイオン注入面に、後に行われる熱処理に対する耐熱性を有し、最終的に形成される単結晶炭化珪素薄膜11と同じか又は近い熱膨張係数を有する材料からなる薄膜3aを形成する。薄膜3aを構成する材料としては、酸化珪素(例えば、SiO2)、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリコン(例えば、アモルファスシリコン、多結晶シリコン)、アルミナ(Al23)、酸化ジルコニウム(例えば、ジルコニア(ZrO2))及び炭化珪素(例えば、アモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素)から選ばれる少なくとも1種の材料が挙げられる。これらのうち、酸化ジルコニウム(例えば、ジルコニア(ZrO2))又は炭化珪素(例えば、アモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素)が好ましい。なお、これらの材料から複数の材料が選ばれた場合には、それらの材料ごとに積層した構造、それらの材料を混合した材料からなる単層構造のいずれでもよい。
【0034】
この薄膜3aの形成方法としては、単結晶炭化珪素基板1に密着性よく形成できる成膜方法であればいずれの方法でもよく、例えば酸化珪素の薄膜はPECVD法により形成し、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリコン及び炭化珪素の薄膜はスパッタリング法により形成するとよい。
【0035】
次いで、薄膜3aを研磨して、その表面を平滑にする。薄膜3aの研磨方法は、化学的機械研磨法が好ましく、薄膜3aの材質によってその条件は異なる。
【0036】
(工程2−2)
単結晶炭化珪素基板1のイオン注入面に、融点が950℃以上の金属材料、例えばTi、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Zr、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1種の金属材料からなる薄膜3aを形成する。なお、これらの金属材料から複数の金属材料が選ばれた場合には、それらの金属材料ごとに積層した構造、それらの金属材料の合金材料からなる単層構造のいずれでもよい。例えばこれらのうち、Ti、Au及びZrから選ばれる少なくとも1種が好ましく、特にTiやZrの単層、あるいはTi層とAu層の積層、Zr層とAu層の積層が好ましい。
【0037】
この薄膜3aの形成方法としては、単結晶炭化珪素基板1に密着性よく形成できる成膜方法であればいずれの方法でもよく、例えば電子ビーム蒸着法により形成するとよい。
【0038】
本工程2−2では、上記金属材料の蒸着により薄膜3aを形成するだけで(即ち、研磨することなく)、その表面は平滑な面となる。
【0039】
薄膜3aの膜厚(研磨する場合には研磨後の膜厚)は、ハンドル基板12上に設ける薄膜3bとの合計膜厚(即ち、介在層13の膜厚)が2nm以上1μm以下となるようにすることが好ましい。即ち、薄膜3a、3bを同じ膜厚とする場合には、薄膜3aの膜厚は、好ましくは1nm以上0.5μm(500nm)以下、より好ましくは10〜200nm、更に好ましくは10〜100nm、特に好ましくは10〜50nmとする。また、薄膜3bを設けない場合には、薄膜3aの膜厚は、好ましくは2nm以上1μm以下、より好ましくは20〜400nm、更に好ましくは20〜200nm、特に好ましくは20〜100nmとする。薄膜3a、3bの合計膜厚が2nm未満では膜厚の面内ばらつきにより表面が完全には覆われず、単結晶炭化珪素基板1及びハンドル基板12との貼り合わせの密着性が悪くなるおそれがある。また、1μm超では複合基板10を加熱してナノカーボン膜を形成した場合にナノカーボン膜に欠陥が多数発生してしまう。
【0040】
なお、上記工程1,2の順番を入れ替えて、先に単結晶炭化珪素基板1の表面に薄膜3aを形成し、次いで該薄膜3a上から上記イオン注入を行ってもよい。
【0041】
(工程3:ハンドル基板への薄膜形成工程(図2(c))
本工程で用いるハンドル基板12は、上述した複合基板10を構成するハンドル基板と同じである。
【0042】
ハンドル基板12の少なくとも単結晶炭化珪素基板1と貼り合わせをする表面に、後に行われる熱処理に対する耐熱性を有し、単結晶炭化珪素薄膜11と同じか又は近い熱膨張係数を有する材料からなる薄膜3bを形成してその表面の平滑化を図る。ここでは、上記工程2−1又は工程2−2と同様の処理を行う。
即ち、工程2−1に対応する処理としては、次のように行う。
まず、ハンドル基板12における単結晶炭化珪素基板1との貼り合わせ面に、酸化珪素(例えば、SiO2)、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリコン(例えば、アモルファスシリコン、多結晶シリコン)、アルミナ(Al23)、酸化ジルコニウム(例えば、ジルコニア(ZrO2))及び炭化珪素(例えば、アモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素)から選ばれる少なくとも1種の材料からなる薄膜3bを形成する。これらのうち、酸化ジルコニウム(例えば、ジルコニア(ZrO2))又は炭化珪素(例えば、アモルファス炭化珪素、多結晶炭化珪素)が好ましい。なお、これらの材料から複数の材料が選ばれた場合には、それらの材料ごとに積層した構造、それらの材料を混合した材料からなる単層構造のいずれでもよい。
【0043】
この薄膜3bの形成方法としては、ハンドル基板12に密着性よく形成できる成膜方法であればいずれの方法でもよく、例えば酸化珪素の薄膜はPECVD法又は熱酸化法により形成し、窒化珪素、窒化アルミニウム、シリコン、アルミナ、酸化ジルコニウム及び炭化珪素の薄膜はスパッタリング法により形成するとよい。
【0044】
次いで、薄膜3bを研磨して、その表面を平滑にする。薄膜3bの研磨方法は、化学的機械研磨法が好ましく、薄膜3bの材質によってその条件は異なる。
【0045】
また、工程2−2に対応する処理としては、次のように行う。
ハンドル基板12の単結晶炭化珪素基板1との貼り合わせ面(主面)に、融点が950℃以上の金属材料、例えばTi、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Zr、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1種の金属材料からなる薄膜3bを形成する。なお、これらの金属材料から複数の金属材料が選ばれた場合には、それらの金属材料ごとに積層した構造、それらの金属材料の合金材料からなる単層構造のいずれでもよい。例えばこれらのうち、Ti、Au及びZrから選ばれる少なくとも1種が好ましく、特にTiやZrの単層、あるいはTi層とAu層の積層、Zr層とAu層の積層が好ましい。
【0046】
この薄膜3bの形成方法としては、ハンドル基板12に密着性よく形成できる成膜方法であればいずれの方法でもよく、例えば電子ビーム蒸着法により形成するとよい。
【0047】
この処理では、上記金属材料の蒸着により薄膜3bを形成するだけで(即ち、研磨することなく)、その表面は平滑になる。
【0048】
薄膜3bの膜厚(研磨する場合には研磨後の膜厚)は、単結晶炭化珪素基板1上に設ける薄膜3aとの合計膜厚(即ち、介在層13の膜厚)が2nm以上1μm以下となるようにすることが好ましい。即ち、薄膜3a、3bを同じ膜厚とする場合には、薄膜3bの膜厚は、好ましくは1nm以上0.5μm(500nm)以下、より好ましくは10〜200nm、更に好ましくは10〜100nm、特に好ましくは10〜50nmとする。また、薄膜3aを設けない場合には、薄膜3bの膜厚は、好ましくは2nm以上1μm以下、より好ましくは20〜400nm、更に好ましくは20〜200nm、特に好ましくは20〜100nmとする。薄膜3a、3bの合計膜厚が2nm未満では膜厚の面内ばらつきにより表面が完全には覆われず、単結晶炭化珪素基板1及びハンドル基板12との貼り合わせの密着性が悪くなるおそれがある。また、1μm超では複合基板10を加熱してナノカーボン膜を形成した場合にナノカーボン膜に欠陥が多数発生してしまう。
【0049】
なお、薄膜3bを構成する材料は、上記薄膜3aの構成材料と同じものとすると、貼り合わせの密着性が改善され好ましい。また、介在層13となる薄膜形成工程として、工程2を省略し、工程3のみを行ってもよいし、工程3を省略し、工程2のみを行ってもよい。
【0050】
(工程4:単結晶炭化珪素基板及び/又はハンドル基板の表面活性化処理工程)
次に、単結晶炭化珪素基板1とハンドル基板12の貼り合わせをする表面、即ち薄膜3a、3b表面、あるいは単結晶炭化珪素基板1のイオン注入面、ハンドル基板12表面について、表面活性化処理としてプラズマ活性化処理、真空イオンビーム処理又はオゾン水への浸漬処理を行う。
【0051】
このうち、プラズマ活性化処理をする場合、真空チャンバ中に上記工程3までの処理が終了した単結晶炭化珪素基板1及び/又はハンドル基板12を載置し、プラズマ用ガスを減圧下で導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度さらし、表面をプラズマ活性化処理する。プラズマ用ガスとしては、酸素ガス、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスを用いることができる。
【0052】
真空イオンビーム処理は、高真空のチャンバ内に単結晶炭化珪素基板1及び/又はハンドル基板12を載置し、Ar等のイオンビームを貼り合わせをする表面に照射して活性化処理を行う。
【0053】
オゾン水への浸漬処理は、オゾンガスを溶解させたオゾン水に単結晶炭化珪素基板1及び/又はハンドル基板12を浸漬し、その表面を活性化処理をする。
【0054】
上記した表面活性化処理は、単結晶炭化珪素基板1のみ又はハンドル基板12のみに行ってもよいが、単結晶炭化珪素基板1及びハンドル基板12の両方について行うのがより好ましい。
【0055】
また、表面活性化処理は上記方法のいずれか一つでもよいし、組み合わせた処理を行っても構わない。更に、単結晶炭化珪素基板1、ハンドル基板12の表面活性化処理を行う面は、貼り合わせを行う面、即ち薄膜3a、3b表面であることが好ましい。
【0056】
(工程5:単結晶炭化珪素基板とハンドル基板との貼り合わせ工程)
次に、この単結晶炭化珪素基板1及びハンドル基板12の表面活性化処理をした表面(薄膜3a、3b表面、あるいは単結晶炭化珪素基板1のイオン注入面、ハンドル基板12表面)を接合面として貼り合わせる(図2(d))。
【0057】
次いで、単結晶炭化珪素基板1とハンドル基板12と貼り合わせた後に、好ましくは150〜350℃、より好ましくは150〜250℃の熱処理を行い、貼り合わせ界面、例えば薄膜3a、3bの貼り合わせ面の結合強度を向上させる。このとき、単結晶炭化珪素基板1とハンドル基板12との間の熱膨張率差により基板の反りが発生するが、それぞれの材質に適した温度を採用して反りを抑制するとよい。熱処理時間としては、温度にもある程度依存するが、2時間〜24時間が好ましい。
【0058】
これにより、薄膜3aと薄膜3bとは密着して一つの層、介在層13となる(あるいは、薄膜3bを設けない場合には薄膜3aが介在層13となり、薄膜3aを設けない場合には薄膜3bが介在層13となる)と共に、単結晶炭化珪素基板1とハンドル基板12とが介在層13を介して強固に密着した貼り合わせ基板5となる。
【0059】
(工程6:剥離処理工程)
単結晶炭化珪素基板1とハンドル基板12とを貼り合わせ、貼り合わせ強度を向上させた後、イオン注入した部分に熱的エネルギー又は機械的エネルギーを付与して、イオン注入領域2で単結晶炭化珪素基板1aを剥離させ、ハンドル基板12上に単結晶炭化珪素薄膜1bを有する複合基板10を作製する(図2(e))。
【0060】
剥離方法としては、例えば貼り合わせ基板5を高温に加熱して、この熱によってイオン注入領域2においてイオン注入した成分の微小なバブル体を発生させることにより剥離を生じさせて単結晶炭化珪素基板1aを分離する熱剥離法を適用することができる。あるいは、熱剥離が生じない程度の低温熱処理(例えば、500〜900℃、好ましくは500〜700℃)を施しつつ、イオン注入領域2の一端に物理的な衝撃を加えて機械的に剥離を発生させて単結晶炭化珪素基板1aを分離する機械剥離法を適用することができる。機械剥離法は単結晶炭化珪素薄膜転写後の転写表面の粗さが熱剥離法よりも比較的小さいため、より好ましい。
【0061】
なお、剥離処理後に、複合基板10を加熱温度700〜1,000℃であって剥離処理時よりも高い温度、加熱時間1〜24時間の条件で加熱して、単結晶炭化珪素薄膜1bとハンドル基板12との密着性を改善する熱処理を行ってもよい。
【0062】
このとき、薄膜3aと薄膜3bとは強固に密着し、更に薄膜3aは単結晶炭化珪素基板1と強固に密着し、薄膜3bはハンドル基板12と強固に密着しているため、イオン注入領域2における剥離部分以外の部分での剥離は発生しない。また、薄膜3bを設けない場合には、薄膜3aは単結晶炭化珪素基板1及びハンドル基板12と強固に密着しているため、イオン注入領域2における剥離部分以外の部分での剥離は発生しない。また、薄膜3aを設けない場合には、薄膜3bは単結晶炭化珪素基板1及びハンドル基板12と強固に密着しているため、イオン注入領域2における剥離部分以外の部分での剥離は発生しない。
【0063】
剥離した後の単結晶炭化珪素基板1aは、表面を再度研磨や洗浄等を施すことにより再度当該複合基板の製造方法における貼り合わせ用の基板として再利用することが可能となる。
【0064】
(工程7:単結晶炭化珪素薄膜研磨工程)
ハンドル基板12上の単結晶炭化珪素薄膜1b表面を鏡面仕上げする(図2(f))。具体的には、単結晶炭化珪素薄膜1bに化学機械研磨(CMP研磨)を施してその表面に残っているイオン注入領域を除去し鏡面の単結晶炭化珪素薄膜11に仕上げる。ここではシリコンウェハの平坦化等に用いられる従来公知のCMP研磨でよい。
【0065】
以上の工程により、本発明の複合基板10が得られる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、単結晶炭化珪素薄膜及び介在層の厚さは、反射率分光法により測定した。
【0067】
[実施例1]
単結晶炭化珪素基板1として、市販品の直径3インチの単結晶炭化珪素ウェーハ(ポリタイプ4H、厚さ400μm)を用意し、これに100KeV,ドーズ量8.8×1016atom/cm2で水素イオン(H+)を注入した。
次に、ハンドル基板12として、直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)を用意し、その主面に薄膜3b(介在層13)としてPECVD法によっての酸化珪素(SiO2)薄膜をその厚さを変化させて形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨した。研磨後の酸化珪素薄膜の厚さは、0.02、0.1、0.5、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、2.0μmの9水準とした。
次いで、単結晶炭化珪素基板のイオン注入した表面及びハンドル基板の薄膜形成面にプラズマ活性化表面処理を施した後、両者を貼り合わせて接合体を得た。
次いで、この接合体を500℃に加熱し、イオン注入領域の一端に機械的衝撃を付与して、このイオン注入領域で剥離させて、アモルファス炭化珪素ウェーハに酸化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された9枚の複合基板を得た。このときの単結晶炭化珪素薄膜の厚さをいずれも0.95μmとした。
【0068】
得られた複合基板を不活性ガス雰囲気下で1,420℃に加熱して、単結晶炭化珪素薄膜のグラフェン化を行った。
グラフェン膜形成後にそのグラフェン膜表面を1,000倍の光学顕微鏡で観察して欠陥数としてピット状の穴の数を目視で計測した。その結果を表1及び図3に示す。介在層の厚さが1μm以下では欠陥数が3000個/cm2前後であったが、1μmを超えると欠陥数が4000個/cm2超に増加した。
【0069】
【表1】
【0070】
[実施例2]
単結晶炭化珪素基板1として、市販品の直径3インチの単結晶炭化珪素ウェーハ(ポリタイプ4H、厚さ400μm)を用意し、これに100KeV,ドーズ量8.8×1016atom/cm2で水素イオン(H+)を注入した。
次いで、この単結晶炭化珪素基板1のイオン注入面に薄膜3aとして電子ビーム蒸着法によってチタン(Ti)薄膜と厚さ10nmの金(Au)薄膜を形成した。なお、チタン薄膜の厚さを0、40、240、390、440、490、590、740、990nmの9水準に変化させた。
次に、ハンドル基板12として、直径3インチの多結晶炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)を用意し、その主面に薄膜3bとして電子ビーム蒸着法によってチタン(Ti)薄膜と厚さ10nmの金(Au)薄膜を形成した。なお、チタン薄膜の厚さを上記薄膜3aにおけるチタン薄膜の厚さと同じとした。その結果、貼り合わせ後の薄膜3a、3bの合計膜厚(介在層13の厚さ)は、0.02、0.1、0.5、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、2.0μmの9水準となる。
次いで、単結晶炭化珪素基板の薄膜形成面及びハンドル基板の薄膜形成面にプラズマ活性化表面処理を施した後、両者を貼り合わせて接合体を得た。
次いで、この接合体を500℃に加熱し、イオン注入領域の一端に機械的衝撃を付与して、このイオン注入領域で剥離させて、アモルファス炭化珪素ウェーハに介在層(Au/Auの2層構造又はTi/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された9枚の複合基板を得た。このときの単結晶炭化珪素薄膜の厚さをいずれも0.95μmとした。
【0071】
得られた複合基板を不活性ガス雰囲気下で1,420℃に加熱して、単結晶炭化珪素薄膜のグラフェン化を行った。
グラフェン膜形成後にそのグラフェン膜表面を1,000倍の光学顕微鏡で観察して欠陥数としてピット状の穴の数を目視で計測した。その結果を表2及び図4に示す。介在層の厚さが1μm以下では欠陥数が3300〜3500個/cm2程度であったが、1μmを超えると欠陥数が4000個/cm2超に増加した。
【0072】
【表2】
【0073】
[比較例1]
実施例2において、薄膜3a、3bそれぞれのチタン薄膜の厚さを80nmとし、更に単結晶炭化珪素薄膜11の厚さを1.04μmとし、それ以外は実施例2と同様にして複合基板を作製した。
得られた複合基板を不活性ガス雰囲気下で1,420℃に加熱して、単結晶炭化珪素薄膜のグラフェン化を行った。
グラフェン膜形成後にそのグラフェン膜表面を1,000倍の光学顕微鏡で観察して欠陥数としてピット状の穴の数を目視で計測したところ、4520個/cm2であった。
【0074】
[実施例3]
本発明の複合基板の製造方法において、単結晶炭化珪素基板1、ハンドル基板12それぞれに6種類の薄膜3a、3bを形成して、複合基板を以下のように作製した。
【0075】
(実施例3−1)
単結晶炭化珪素基板1として、市販品の直径3インチの単結晶炭化珪素ウェーハ(ポリタイプ4H、厚さ400μm)を用意し、これに100KeV,ドーズ量8.8×1016atom/cm2で水素イオン(H+)を注入した。
次いで、この単結晶炭化珪素基板1のイオン注入面に薄膜3aとしてPECVD法によって厚さ100nmの酸化珪素(SiO2)薄膜を形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨した。
次に、ハンドル基板12として、直径3インチの多結晶炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)を用意し、その主面に薄膜3bとしてPECVD法によって厚さ100nmの酸化珪素(SiO2)薄膜を形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨した。
次いで、単結晶炭化珪素基板の薄膜形成面及びハンドル基板の薄膜形成面にプラズマ活性化表面処理を施した後、両者を貼り合わせて接合体を得た。
次いで、この接合体についてイオン注入領域にて機械剥離を起こし、多結晶炭化珪素ウェーハに酸化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜(厚さ0.65μm)が転写された複合基板を得た。
得られた複合基板について500℃の熱処理を施した後、粘着テープ(商品名:カプトンテープ、デュポン(株)製)を単結晶炭化珪素薄膜に貼った後に引き剥し、該単結晶炭化珪素薄膜の剥離の有無を確認するピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3080個/cm2であった。
【0076】
(実施例3−2)
実施例3−1において、薄膜3a、3bとして、それぞれスパッタリング法によって厚さ100nmの窒化珪素(SiN)薄膜を形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨して仕上げるようにし、それ以外は実施例3−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶炭化珪素ウェーハに窒化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3480個/cm2であった。
【0077】
(実施例3−3)
実施例3−1において、薄膜3a、3bとして、それぞれスパッタリング法によって厚さ100nmのアモルファス炭化珪素(SiC)薄膜を形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨して仕上げるようにし、それ以外は実施例3−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶炭化珪素ウェーハに炭化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3320個/cm2であった。
【0078】
(実施例3−4)
実施例3−1において、薄膜3a、3bとして、それぞれスパッタリング法によって厚さ100nmのアモルファスシリコン(Si)薄膜を形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨して仕上げるようにし、それ以外は実施例3−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶炭化珪素ウェーハにシリコン薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3290個/cm2であった。
【0079】
(実施例3−5)
実施例3−1において、薄膜3a、3bとして、それぞれ電子ビーム蒸着法によって厚さ20nmのチタン(Ti)薄膜を形成した後、CMP処理することなくそのままとし、それ以外は実施例3−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶炭化珪素ウェーハにチタン薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3310個/cm2であった。
【0080】
(実施例3−6)
実施例3−1において、薄膜3a、3bとして、それぞれ電子ビーム蒸着法によって厚さ20nmのチタン(Ti)薄膜と厚さ20nmの金(Au)薄膜を形成した後、CMP処理することなくそのままとし、それ以外は実施例3−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶炭化珪素ウェーハにチタン薄膜と金薄膜の積層薄膜(Ti/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、2290個/cm2であった。
【0081】
[実施例4]
実施例3において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3と同様にして複合基板を作製した。また、介在層の材料として酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO2)の実施例を追加した。詳しくは以下の通りである。
【0082】
(実施例4−1)
実施例3−1において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハに酸化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3470個/cm2であった。
【0083】
(実施例4−2)
実施例3−2において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−2と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハに窒化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3220個/cm2であった。
【0084】
(実施例4−3)
実施例3−3において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−3と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハに炭化珪素薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3400個/cm2であった。
【0085】
(実施例4−4)
実施例3−4において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−4と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハにシリコン薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3360個/cm2であった。
【0086】
(実施例4−5)
実施例3−5において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−5と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハにチタン薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3310個/cm2であった。
【0087】
(実施例4−6)
実施例3−6において、ハンドル基板12を直径3インチのアモルファス炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−6と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハにチタン薄膜と金薄膜の積層薄膜(Ti/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3020個/cm2であった。
【0088】
(実施例4−7)
実施例4−1において、薄膜3a、3bとして、それぞれスパッタリング法によって厚さ100nmの酸化ジルコニウム(ZrO2)薄膜を形成した後、この薄膜をCMP処理により研磨して仕上げるようにし、それ以外は実施例4−1と同様にして複合基板を作製した。
その結果、アモルファス炭化珪素ウェーハに酸化ジルコニウム薄膜を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3530個/cm2であった。
【0089】
[実施例5]
実施例3−6において、4種類のハンドル基板12を用い、それ以外は実施例3−6と同様にして複合基板を作製した。詳しくは以下の通りである。
【0090】
(実施例5−1)
実施例3−6において、ハンドル基板12を直径3インチの単結晶シリコンウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−6と同様にして複合基板を作製した。
その結果、単結晶シリコンウェーハにチタン薄膜と金薄膜の積層薄膜(Ti/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3210個/cm2であった。
【0091】
(実施例5−2)
実施例3−6において、ハンドル基板12を直径3インチの多結晶酸化アルミニウム(アルミナ)ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−6と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶酸化アルミニウムウェーハにチタン薄膜と金薄膜の積層薄膜(Ti/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3440個/cm2であった。
【0092】
(実施例5−3)
実施例3−6において、ハンドル基板12を直径3インチの多結晶窒化珪素ウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−6と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶窒化珪素ウェーハにチタン薄膜と金薄膜の積層薄膜(Ti/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3330個/cm2であった。
【0093】
(実施例5−4)
実施例3−6において、ハンドル基板12を直径3インチの多結晶窒化アルミニウムウェーハ(厚さ400μm)とし、それ以外は実施例3−6と同様にして複合基板を作製した。
その結果、多結晶窒化アルミニウムウェーハにチタン薄膜と金薄膜の積層薄膜(Ti/Au/Au/Tiの4層構造の薄膜)を介して単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の剥離は認められず、介在層を介しての密着性は良好であった。
次いで、実施例2と同様にグラフェン化を行い、グラフェン膜における欠陥数を測定したところ、3490個/cm2であった。
【0094】
[比較例2]
単結晶炭化珪素基板1として、市販品の直径3インチの単結晶炭化珪素ウェーハ(ポリタイプ4H、厚さ400μm)を用意し、これに100KeV,ドーズ量8.8×1016atom/cm2で水素イオン(H+)を注入した。この単結晶炭化珪素ウェーハのイオン注入面をCMP処理で研磨した。その表面粗さRMSは0.95nmであった。
なお、表面粗さRMSは、原子間力顕微鏡(AFM)によりその基板の表面を測定して求めた。測定条件は、測定領域10μm×10μmとした。
次に、ハンドル基板12として、直径3インチの多結晶炭化珪素ウェーハ(厚さ400μm)を用意した。この多結晶炭化珪素ウェーハ表面をCMP処理で研磨し、その表面粗さRMSが1.05nmであった。
次いで、単結晶炭化珪素基板のイオン注入した表面及びハンドル基板の貼り合わせ予定面にプラズマ活性化表面処理を施した後、両者を貼り合わせて接合体を得た。
次いで、この接合体についてイオン注入領域にて機械剥離を起こし、多結晶炭化珪素ウェーハに単結晶炭化珪素薄膜が転写された複合基板を得た。
得られた複合基板について、実施例3−1と同様のピールテストを行ったところ、単結晶炭化珪素薄膜の一部に剥離が発生した。介在層を介していない貼り合わせでは単結晶炭化珪素薄膜とハンドル基板との間で十分な接合強度が得られないことが判明した。
【0095】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0096】
1、1a 単結晶炭化珪素基板
1b、11 単結晶炭化珪素薄膜
2 イオン注入領域
3a、3b 薄膜
5 貼り合わせ基板
10 複合基板
12 ハンドル基板
13 介在層
図1
図2
図3
図4