(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369743
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】ステンレス箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/40 20060101AFI20180730BHJP
B21B 3/02 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
B21B1/40
B21B3/02
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-42513(P2014-42513)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-167953(P2015-167953A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀 郁夫
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−007904(JP,A)
【文献】
特開平01−197003(JP,A)
【文献】
特開平04−055500(JP,A)
【文献】
特開平08−103801(JP,A)
【文献】
特開2003−236603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/40,3/00,3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.10mm以下のステンレス箔の製造方法において、
前記ステンレス箔は、フェライト系ステンレスであり、
仕上げ圧延を行うとき、
ワークロール直径:30〜90mm、ワークロール表面粗さ(Ra):0.03μm以
下のワークロールを用いて、
圧下率:18〜30%、圧延速度:150m/min以下、潤滑油粘度:10mm2/
S以下の条件で冷間圧延を行って、表面粗さ(Ra)を0.03μm以下とする
ことを特徴とする、ステンレス箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えばCIGS太陽電池等の薄膜多結晶太陽電池に用いられるステンレス箔の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜多結晶太陽電池としてCIGS太陽電池が注目を集めている。CIGS太陽電池は比較的小さな面積であっても効率よく発電できるものである。
このような薄膜多結晶太陽電池の基板にはステンレス製の箔材(以下、ステンレス箔)を適用する検討が進められており、そのステンレス箔は平滑な表面肌が求められている。この薄膜多結晶太陽電池に用いるステンレス鋼箔として、例えば、特開2013−208639号公報(特許文献1)として、ステンレス鋼板表面の圧延方向と垂直な方向の算術平均粗さRaが0.03μm以下であり、鋼板表面において、深さ0.5μm以上且つ開口面積10μm
2以上であるマイクロピット存在密度が0.01mm
2当たり10.0個以下であり、且つ前記ピットの開口部面積率が1.0%以下で分布している調質圧延されたステンレス鋼板の発明がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−208639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の発明は、調質圧延工程を必須工程として含むものである。この特許文献1の調質圧延は、潤滑剤を用いないドライスキンパスを採用し、潤滑剤の液膜がワークロールとステンレス鋼板表面の間に入り込んで新たなピットを形成させるのを防止している。
しかしながら、ドライスキンパスは潤滑剤を用いないことから、かえって表面にきずが発生しやすいという問題がある。きずが発生すると表面粗さが局所的に荒れてしまうと言う問題も生じる。また、特許文献1で具体的に示されるステンレス鋼の厚みはせいぜい0.5mmという厚いものであり、太陽電池用ステンレス箔に求められるような0.10mm以下の箔材については十分な検討がなされていない。
本発明の目的は、厚さが0.10mm以下のステンレス箔において、仕上げ圧延後の表面にきず等の表面欠陥の発生を防止しつつ、表面粗さをより確実に低くすることが可能なステンレス箔の製造方法粗を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
即ち本発明は、厚さが0.10mm以下のステンレス箔の製造方法において、仕上げ圧延を行うとき、ワークロール直径:30〜90mm、ワークロール表面粗さ(Ra):0.03μm以下のワークロールを用いて、圧下率:18〜30%、圧延速度:150m/min以下、潤滑油粘度:10mm
2/S以下の条件で冷間圧延を行って、表面粗さ(Ra)を0.03μm以下とするステンレス箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、厚さが0.10mm以下のステンレス箔において、仕上げ圧延後の表面にきず等の表面欠陥の発生を防止しつつ、表面粗さをより確実に0.03μm以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の製造方法で得られたステンレス箔表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の特徴は、潤滑剤を用いて仕上げ冷間圧延後の表面肌にきず等の表面欠陥を防止し、圧延した表面を確実に鏡面肌としたことにある。以下に本発明を詳しく説明する。尚、本発明のステンレス箔は0.10mm以下の薄いものであり、この厚さの代表的な用途として、特に太陽電池用として有用である。なお、本発明を太陽電池用として説明する部分があるが、他の用途に用いることもできる。
<仕上げ圧延時のワークロール直径:30〜90mm>
本発明では仕上げ圧延時のワークロールの直径を30〜90mmとして、ステンレス箔の厚さや製品形状を整える必要がある。これは、ワークロールの直径が30mm未満であると仕上げ圧延時にステンレス箔にしわや折れが発生しやすくなり、一方、ワークロールの直径が90mmを超えると圧延荷重が高くなり、18%から30%の圧下率を確保できずに鏡面肌を得られないからである。
<仕上げ圧延時のワークロール表面粗さ(Ra):0.03μm以下>
また、本発明では仕上げ圧延時のワークロール表面粗さ(Ra)を0.03μm以下とする。これはワークロールの表面粗さ(Ra)が0.03μmを超えて粗くなると、後述する圧延速度や潤滑油粘度を調整しても仕上げ圧延後のステンレス箔の表面粗さ(Ra)を0.03μm以下にすることができないためである。好ましいワークロールの表面粗さ(Ra)は0.02μm以下である。
【0009】
<圧下率:18〜30%>
本発明では、前述のワークロールを用いて仕上げ圧延を行う。仕上げ圧延時の圧下率を18〜30%とするのは、ステンレス箔の厚さと所望の表面粗さに調整するためである。圧下率が18%未満であると所望の表面粗さを超えてしまうためである。一方、圧下率が30%を超えると油膜切れによりロール焼けを起こし肌(表面粗さ)が悪化するためである。
<圧延速度:150m/min以下>
また、本発明では仕上げ圧延時の圧延速度を150m/min以下の比較的低速とする。これは、圧延速度が150m/minを超えて高速になると、潤滑剤が油膜切れを起こしやすく、ロール焼けが発生しやすくなるためである。表面粗さを滑らかとして光沢肌を得るには圧延速度は低速の方が好ましく、100m/min以下が好ましい。更に好ましくは50m/min以下である。なお、圧延速度の下限は特に限定しないが、過度に低速となると生産性が悪化することから、現実的には30m/minを下限とすると良い。
<潤滑油粘度:10mm
2/S以下>
また、本発明では潤滑剤を用いるため、その粘度が重要となる。潤滑油粘度が10mm
2/Sを超えると仕上げ圧延時にオイルピットが多量、或いは更に、深く発生しやすくなってしまい仕上げ圧延後の表面粗さ(Ra)を0.03μm以下にすることができなくなる。そのため、潤滑油粘度は10mm
2/S以下に限定する。
なお、潤滑油粘度の調整は、例えば、潤滑剤の温度を加熱装置などを用いて高め、潤滑油粘度を低粘度化させても良い。
【0010】
また、本発明のステンレス箔の製造方法を適用し、仕上げ圧延後のステンレス箔の表面粗さ(Ra)を0.03μm以下とするためには、例えば、仕上げ圧延後の板厚に対して、おおよそ5〜10倍の厚さに圧延した以降は、焼鈍を行わないことが好ましい。焼鈍を行うと結晶粒を調整する効果がある一方で、結晶粒が粗大化してその結晶粒界にオイルピットができやすくなる。本発明は、潤滑剤を必須として用いることから、仕上げ圧延時にできるだけオイルピットの発生を抑制することが好ましく、そのためにも、特定の厚さとなった以降には焼鈍を行わず、仕上げ圧延前及び仕上げ圧延中にステンレス箔表面の硬さを高めておくことが望ましいのである。
なお、本発明でいう太陽電池用ステンレス箔の代表的な成分としては、例えば、JIS−G4305で示されるフェライト系ステンレス鋼やその改良合金であれば良い。フェライト系ステンレス鋼は熱膨張係数がオーステナイト系ステンレス鋼よりも小さく、太陽電池用ステンレス箔に好適である。中でも、質量%で、0.12%以下のC、0.75%以下のSi、1.0%以下のMn、16.0〜18.0%のCrを含み、残部はFeと不純物のJIS−SUS430の使用が好ましい。
【実施例】
【0011】
冷間圧延により0.3mmとし、焼鈍を行った太陽電池用ステンレス箔の素材を準備した。この太陽電池用ステンレス箔の素材に更に冷間圧延を行って0.07mmとし、その後仕上げ圧延を行った。なお、仕上げ圧延は1パスで最終の板厚とした。また、最終焼鈍を行い0.3mmの厚さとした以降は、仕上げ圧延終了までの間、焼鈍は行わなかった。
用いた太陽電池用ステンレス箔の素材はJIS−SUS430であり、その組成を表1に示す。また、仕上げ圧延の条件を表2に示し、仕上げ圧延後のステンレス箔の表面粗さ(Ra)を表3で示す。なお、表面粗さはAFM(原子間力顕微鏡)を用いて、得られたステンレス箔の中央部表面について、幅方向に測定を行ったものでキズや模様等の表面欠陥の有無を目視及び電子顕微鏡で確認した。
図1に本発明No.1の仕上げ圧延後の太陽電池用ステンレス箔表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】
上記及び
図1で示すように、本発明の太陽電池用ステンレス箔の製造方法を適用したNo.1及びNo.2の太陽電池用ステンレス箔は、きず等の表面欠陥もなく、また、潤滑剤使用によるオイルピットの発生も殆ど見られない。表面粗さ(Ra)も0.03μm以下となっていることがわかる。
一方、圧下率と潤滑油粘度が本発明で規定する範囲から外れるNo.11は、表面粗さが得られていない。潤滑油粘度が本発明で規定する範囲からはずれるNo.12は、使用ワークロール径に対し圧下率が過大なためロール焼けが発生した。ロール径、圧下率とワークロール粗さが本発明で規定する範囲からはずれるNo.13は表面粗さが得られていない。ロール径とワークロール粗さが本発明で規定からはずれるNo.14は表面粗さが得られていない。ロール径・ワークロール粗さ、圧下率と圧延速度が本発明で規定する範囲からはずれるNo15は、表面粗さが得られていない。
以上のことから、本発明の太陽電池用ステンレス箔の製造方法を適用すると、厚さが0.06mm以下の太陽電池用ステンレス箔において、仕上げ圧延後の表面にきず等の表面欠陥の発生をより確実に防止することができる。