特許第6371030号(P6371030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371030
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20180730BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20180730BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   C23C16/40
   C23C16/50
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-222103(P2011-222103)
(22)【出願日】2011年10月6日
(65)【公開番号】特開2012-96531(P2012-96531A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2014年8月27日
【審判番号】不服2016-15264(P2016-15264/J1)
【審判請求日】2016年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2010-228914(P2010-228914)
(32)【優先日】2010年10月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 彰
(72)【発明者】
【氏名】黒田 俊也
(72)【発明者】
【氏名】眞田 隆
【合議体】
【審判長】 渡邊 豊英
【審判官】 西藤 直人
【審判官】 千壽 哲郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−178860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面上に形成された少なくとも1層のプラズマCVD膜である薄膜層とを備える積層フィルムであって、
前記薄膜層は、珪素、酸素及び炭素を含有する層であって、且つ、
該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、該層の珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線が、下記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を含み、
前記層が、珪素原子と炭素原子の直接結合を含んでおり、
前記層において、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)との関係を示す珪素分布曲線において、前記珪素分布曲線の極大値のうちの最大の値と極小値のうちの最小の値との差が5at%以下であり、
前記層の膜厚の90%以上の領域において、前記珪素分布曲線で示す珪素原子の原子比が30.0at%以上37.0at%以下であり、
前記層の前記炭素分布曲線が3つ以上の極値を有する積層フィルム:
(i)前記炭素分布曲線が実質的に連続であること、
(ii)前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が、該層の膜厚の全領域において1at%以上であること、及び
(iii)前記炭素分布曲線は、炭素の原子比の増加の傾斜領域と炭素の原子比の減少の傾斜領域とを有すること。
【請求項2】
前記層の前記炭素分布曲線が極大値及び極小値を有している請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記層の前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が該層の膜厚方向の全体に亘って、5at%以上である請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記層の前記炭素分布曲線において、極大値のうちの最大の値と極小値のうちの最小の値との差が5at%以上である請求項1から3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記層の前記炭素分布曲線の前記炭素の原子比が該層の膜厚方向の全体に亘って67at%以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を用いたフレキシブル照明、有機薄膜太陽電池、液晶ディスプレイ、医薬品の包装容器等に好適に用いることができる積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムは、飲食品、化粧品、洗剤といった物品の包装に適する容器として好適に用いることができる。近年、プラスチックフィルム等の基材フィルムの一方の表面上に、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウムなどの無機化合物の薄膜を成膜して形成されるガスバリア性フィルムが提案されている。
【0003】
このように無機化合物の薄膜をプラスチック基材の表面上に成膜する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)、熱化学気相成長法(熱CVD法)、プラズマ化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD)が知られている。
また、このような成膜方法を用いて製造したガスバリア性フィルムとして、例えば、特開平4−89236号公報(特許文献1)には、プラスチック基材の表面上に、蒸着により形成された2層以上のケイ素酸化物膜からなる積層蒸着膜層が設けられたガスバリア性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−89236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のようなガスバリア性フィルムは、飲食品、化粧品、洗剤等のような包装容器のガスバリア性が比較的低くても満足できる物品の包装用のガスバリア性フィルムとしては使用することができるが、有機EL素子や有機薄膜太陽電池等の電子デバイスの包装用のガスバリア性フィルムとしてはガスバリア性の点で必ずしも十分なものではなかった。また、上記特許文献1に記載のガスバリア性フィルムは、これを屈曲させた場合に酸素ガスや水蒸気に対するガスバリア性が低下するという問題点があり、フレキシブル液晶ディスプレイのように耐屈曲性が要求される表示デバイスに使用されるガスバリア性フィルムとしてはフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性の点で必ずしも十分なものではなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分なガスバリア性を有しており、しかもフィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することが可能な積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、基材と、前記基材の表面に形成された少なくとも1層の薄膜層とを備える積層フィルムは、前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離と、該薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比との関係を示す炭素分布曲線が特定の条件を満たすことにより、十分なガスバリア性を有しており、しかもフィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することが可能な積層フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の積層フィルムは、基材と、前記基材の表面上に形成された少なくとも1層の薄膜層とを備える積層フィルムであって、
前記薄膜層は、珪素、酸素及び炭素を含有する層であり、且つ、
該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線が、下記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を含む。
(i)前記炭素分布曲線が実質的に連続であること、
(ii)前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が該層の膜厚の全領域において1at%以上であること、及び
(iii) 前記炭素分布曲線は、炭素の原子比の増加の傾斜領域と炭素の原子比の減少の傾斜領域とを有すること。
【0009】
珪素、酸素及び炭素を含有し、炭素分布曲線が条件(i)〜(iii)を満たす上記の層を、以下、「層G」と記すことがある。なお、上記炭素分布曲線について、「珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量」は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数を意味し、「炭素原子の量」は、炭素原子の数を意味する。また、後述する珪素分布曲線、酸素分布曲線、及び酸素炭素分布曲線についての「珪素原子の量」及び「酸素原子の量」についても同様である。単位「at%」は、「原子%」の略号である。
【0010】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層の前記炭素分布曲線が炭素の原子比の極大値及び極小値を有していることが好ましい。
【0011】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層の前記炭素分布曲線が炭素の原子比の3つ以上の極値を有することも好ましい。
【0012】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層の前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が該層の膜厚方向の全体にわたって、5at%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)との関係を示す珪素分布曲線において、前記珪素の原子比の極大値のうちの最大の値と前記珪素の原子比の極小値のうちの最小の値との差が5at%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層の前記炭素分布曲線において、前記炭素の原子比の極大値のうちの最大の値と前記炭素の原子比の極小値のうちの最小の値との差が5at%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層の前記炭素分布曲線において、前記炭素の原子比が該層の膜厚方向の全体に亘って67at%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の積層フィルムにおいては、前記層が、珪素原子と炭素原子との間の直接結合を含んでいることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の積層フィルムにおいては、前記層が、有機珪素化合物の原料ガスと酸素ガスとを成膜ガスとして用いるプラズマ化学気相成長法により形成された薄膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分なガスバリア性を有しており、しかもフィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することが可能な積層フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の積層フィルムを製造するのに好適に用いることが可能な製造装置の一例を示す模式図である。
図2】実施例1で得られた積層フィルムの薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を示すグラフである。
図3】実施例1で得られた積層フィルムの薄膜層を形成していた材料の29Si−NMRのスペクトルである。
図4】実施例1で得られた積層フィルムの薄膜層を形成していた材料の13C−NMRのスペクトルである。
図5】実施例2で得られた積層フィルムの薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を示すグラフである。
図6】実施例2で得られた積層フィルムの薄膜層のSIMS(2次イオン質量分析計)による膜厚方向の元素プロファイルを示すグラフである。
図7】実施例3で得られた積層フィルムの薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を示すグラフである。
図8】実施例4で得られた積層フィルムの薄膜層の珪素濃度曲線、酸素濃度曲線、及び炭素濃度曲線を示すグラフである。
図9】比較例1で得られた積層フィルムの薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を示すグラフである。
図10】比較例1で得られた積層フィルムの薄膜層のSIMS(2次イオン質量分析計)による膜厚方向の元素プロファイルを示すグラフである。
図11】比較例2で得られた積層フィルムの薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明の積層フィルムは、基材と、前記基材の表面上に形成された少なくとも1層の薄膜層とを備える積層フィルムであって、
前記薄膜層は、珪素、酸素及び炭素を含有する層であり、且つ、
該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線が、下記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を含む。
(i)前記炭素分布曲線が実質的に連続であること、
(ii)前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が該層の膜厚の全領域において1at%以上であること、
(iii) 前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が増加の傾斜領域と減少の傾斜領域とを有すること。
【0022】
本発明に用いる基材としては、樹脂からなるフィルムが挙げられる。このような基材に用いる樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル系樹脂;アセタール系樹脂;ポリイミド系樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性及び線膨張率が高く、製造コストが低いという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、PET、PENが特に好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
前記基材の厚みは、本発明の積層フィルムを製造する際の基材搬送及びプラズマ放電の安定性を考慮して適宜に設定することができる。前記基材の厚みとしては、真空中においてもフィルムの搬送が可能であるという観点から、5〜500μmの範囲であることが好ましい。さらに、プラズマCVD法により本発明にかかる薄膜層を形成する場合には、前記基材を通して放電しつつ薄膜層を形成することから、前記基材の厚みは50〜200μmの範囲であることがより好ましく、50〜100μmの範囲であることが特に好ましい。
【0024】
また、前記基材には、後述する薄膜層との密着性の観点から、基材の表面を活性化するための表面活性化処理を施すことが好ましい。このような表面活性化処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0025】
本発明にかかる薄膜層は、前記基材の少なくとも片面に形成される。そして、本発明の積層フィルムにおいては、前記薄膜層が珪素、酸素及び炭素を含有する層を含むことが必要である。また、前記珪素、酸素及び炭素を含有する層は窒素、アルミニウムを更に含有していてもよい。
【0026】
また、本発明においては、前記珪素、酸素及び炭素を含有する層の炭素分布曲線が上記条件(i)〜(iii)の全てを満たす。前にも記したが、珪素、酸素及び炭素を含有し、炭素分布曲線が条件(i)〜(iii)を満たす上記の層を、以下、「層G」と記すことがある。すなわち、層Gは、先ず、該層Gの膜厚方向における該層Gの表面(該層Gの上にさらに薄膜層等が積層されている場合には、該層Gの上層との界面を指す)からの距離と、該層Gにおける珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、(i)前記炭素分布曲線が実質的に連続であることが必要である。前記炭素分布曲線が実質的に連続であるように炭素が分布していることにより、フィルムは、該フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性に優れる。
【0027】
なお、本明細書において、「炭素分布曲線が実質的に連続である」とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、層Gの膜厚方向における該層Gの表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦ 1 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0028】
また、このような層Gは、次に、(ii)前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が該層Gの膜厚の全領域において1at%以上であること、すなわち該層Gの膜厚の全領域において、炭素の原子比の最小値が1at%以上であることが必要である。層G中に、炭素の原子がほとんど含まれていない領域、若しくは全く含まれていない無機物領域が有る場合には、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。このような層Gにおいては、膜厚の全領域において、炭素の原子比が5at%以上であることが好ましい。また、前記炭素の原子比の上限値については、膜厚の全領域において、前記炭素分布曲線における炭素の原子比が67at%以下であることが好ましい。
【0029】
このような層Gに含まれている炭素原子は、少なくとも1個の水素原子と結合している炭素原子、すなわち有機系炭素原子である。つまり、本発明にかかる層Gは、該層の膜厚の全領域が有機物領域である。なお、本願明細書において、有機物領域とは、炭素−水素結合を含む領域を意味する。本発明においては、層Gの膜厚の全領域において、有機系炭素が含まれていることにより、フレキシブル性に優れた薄膜層となり、フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0030】
また、このような層Gは、更に、(iii)前記炭素分布曲線において、炭素の原子比が増加の傾斜領域と減少の傾斜領域とを有することが必要である。前記炭素分布曲線が、増加の傾斜領域と減少の傾斜領域のいずれか一方のみを有する場合や、いずれも有さない場合(炭素原子が層Gに均一に分布している場合)には、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
【0031】
前記炭素分布曲線は、炭素の原子比に関して少なくとも1つの極値を有することが好ましい。このような層Gにおいては、前記炭素分布曲線が炭素の原子比に関して少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。前記炭素分布曲線が極値を有する場合には、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより良好となる。また、炭素分布曲線がこのように少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記層Gの膜厚方向における前記層Gの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明において極値とは、薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本発明において極大値とは、元素の分布曲線において、薄膜層の表面からの距離の連続的変化に伴って元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本発明において極小値とは、元素の分布曲線において、薄膜層の表面からの距離の連続的変化に伴って元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
【0033】
このような層Gは、前記炭素分布曲線の極大値のうちの最大の値と極小値のうちの最小の値との差(絶対値)が5at%以上であることが好ましい。このような層Gにおいては、炭素の原子比の極大値のうちの最大の値と極小値のうちの最小の値との差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記絶対値が5at%以上であることにより、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより良好となる。
【0034】
本発明においては、前記層Gの膜厚方向における該層Gの表面からの距離と、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線が、少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。前記酸素分布曲線が極値を有さない場合には、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。また、前記酸素分布曲線がこのように少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明においては、前記層Gの前記酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記絶対値が前記下限未満では、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
【0036】
本発明においては、前記層Gの膜厚方向における該層の表面からの距離と、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)との関係を示す珪素分布曲線において、前記珪素分布曲線の極大値のうちの最大の値と極小値のうちの最小の値との差(絶対値)が5at%以下であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記絶対値が前記上限を超えると、その積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0037】
本発明においては、前記層Gの膜厚方向における該層の表面からの距離と、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、前記酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記絶対値が前記上限を超えると、その積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0038】
本発明においては、下記式に示すように、前記珪素分布曲線において、前記層Gの膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において、珪素の原子比が30.0at%以上37.0at%以下であることが好ましい。珪素の原子比が当該範囲内にあることにより、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより良好となる。
30at%≦ (珪素原子の量)/{(酸素原子の量)+(炭素原子の量)+(珪素原子の量)}≦37at%
【0039】
本発明においては、前記層Gにおいて、下記式に示すように、珪素原子の数に対する酸素原子の数と炭素原子の数の合計量の比が、1.8より大きく、2.2以下であることが好ましい。この比が当該範囲内にあることにより、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより良好となる。
1.8<{(酸素原子の量)+(炭素原子の量)}/(珪素原子の量)≦2.2
【0040】
本発明においては、前記層Gの膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、下記式(1)或いは下記式(2)で表される条件を満たすことが好ましい。珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が前記条件を満たす場合には、その積層フィルムのガスバリア性がより良好となる。
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
(炭素の原子比)>(珪素の原子比)>(酸素の原子比)・・・(2)
【0041】
また、前記珪素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において前記式(1)で表される条件を満たす場合には、前記層G中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記層G中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33〜67at%であることが好ましく、45〜67at%であることがより好ましい。さらに、前記層G中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3〜33at%であることが好ましく、3〜25at%であることがより好ましい。
【0042】
さらに、前記珪素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において前記式(2)で表される条件を満たす場合には、前記層G中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記層G中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1〜33at%であることが好ましく、10〜27at%であることがより好ましい。さらに、前記層G中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33〜66at%であることが好ましく、40〜57at%であることがより好ましい。
【0043】
前記珪素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスのイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層の表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0044】
本発明においては、さらに、このような層Gにおいては、炭素原子が珪素原子と直接結合していることが好ましい。層Gにおいて、珪素原子と炭素原子との間に直接結合が含まれていることにより、その積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより良好となる。
【0045】
また、本発明においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層を形成するという観点から、前記層Gが膜面方向(薄膜層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、層Gが膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により層Gの膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0046】
また、前記層Gの厚みは、5〜3000nmの範囲であることが好ましく、10〜2000nmの範囲であることより好ましく、100〜1000nmの範囲であることが特に好ましい。層Gの厚みが前記下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、前記上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0047】
本発明の積層フィルムは、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす層Gを少なくとも1層備えることが必要であるが、そのような条件を満たす層を2層以上備えていてもよい。さらに、このような薄膜層を2層以上備える場合には、複数の薄膜層の材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このような薄膜層を2層以上備える場合には、このような薄膜層は前記基材の一方の表面上に形成されていてもよく、前記基材の両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような層Gを含む複数の薄膜層は、ガスバリア性を必ずしも有しない薄膜層を含んでいてもよい。
【0048】
本発明の積層フィルムが複数の薄膜層を備える場合には、それらの薄膜層の厚みの合計値は、通常10〜10000nmの範囲であり、10〜5000nmの範囲であることが好ましく、100〜3000nmの範囲であることより好ましく、200〜2000nmの範囲であることが特に好ましい。薄膜層の厚みの合計値が前記下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、前記上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0049】
本発明の積層フィルムは、前記基材及び前記薄膜層を備えるものであるが、必要に応じて、更にプライマーコート層、ヒートシール性樹脂層、接着剤層等を備えていてもよい。このようなプライマーコート層は、前記基材及び前記薄膜層との接着性を向上させることが可能な公知のプライマーコート剤を用いて形成することができる。また、このようなヒートシール性樹脂層は、適宜公知のヒートシール性樹脂を用いて形成することができる。さらに、このような接着剤層は、適宜公知の接着剤を用いて形成することができ、このような接着剤層により複数の積層フィルム同士を接着させてもよい。
【0050】
また、本発明の積層フィルムにおいては、前記薄膜層がプラズマ化学気相成長法により形成される層であることが好ましい。このようなプラズマ化学気相成長法により形成される薄膜層としては、前記基材を前記一対の成膜ロール上に配置し、前記一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させるプラズマ化学気相成長法により形成される層であることがより好ましい。また、このようにして一対の成膜ロール間に放電する際には、前記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが好ましい。更に、このようなプラズマ化学気相成長法に用いる成膜ガスとしては、有機珪素化合物の原料ガスと酸素ガスとを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機珪素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。また、本発明の積層フィルムにおいては、前記薄膜層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。なお、このようなプラズマ化学気相成長法を利用して薄膜層を形成する方法は、後述の本発明の積層フィルムを製造する方法において説明する。
【0051】
次に、本発明の積層フィルムを製造する方法について説明する。本発明の積層フィルムは、前記基材の表面上に前記薄膜層を形成させることにより製造することができる。このような本発明にかかる薄膜層を前記基材の表面上に形成させる方法としては、ガスバリア性の観点から、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD)を採用することが好ましい。
【0052】
また、前記プラズマ化学気相成長法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ロールの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ロールを用い、その一対の成膜ロールのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ロールを用い、その一対の成膜ロール上に基材を配置して、かかる一対の成膜ロール間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ロール上に存在する基材の表面部分に成膜しつつ、もう一方の成膜ロール上に存在する基材の表面部分にも同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を形成することが可能となる。また、本発明の積層フィルムは、生産性の観点から、ロールツーロール方式で前記基材の表面上に前記薄膜層を形成させることが好ましい。また、このようなプラズマ化学気相成長法により積層フィルムを製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ロールと、プラズマ電源とを備え且つ前記一対の成膜ロール間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図1に示す製造装置を用いた場合には、プラズマ化学気相成長法を利用しながらロールツーロール方式で製造することが可能となる。
【0053】
以下、図1を参照しながら、本発明の積層フィルムを製造する方法についてより詳細に説明する。なお、図1は、本発明の積層フィルムを製造するのに好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
まず、以下の説明で使用される主な用語又は表現の定義を記す。なお、以下の定義は、これより前の説明にも適用される。
「真空チャンバー」とは、内部を真空にするための容器である。通常、チャンバーに取り付けられた真空ポンプを作動させることにより、チャンバー内に真空環境が作られる。
「基材」とは、膜を形成する時に該膜の支持体となる物体である。
「成膜ロール」とは、それに巻き掛けた基材の表面上に膜を形成するためのロールであり、通常は、金属からなって放電のための電極を兼ねる。なお、「巻き掛ける」とは、フィルムなどの可曲性物体をロールなどの円筒状物体に、前記円筒状物体を覆うように接触させることを意味する。
「有機珪素化合物」とは、珪素を構成元素として含有する有機化合物である。
「成膜ガス」とは、膜の原料となる原料ガスを必須要素として含有するガスであり、必要に応じて、原料ガスと反応して化合物を形成する反応ガスや、形成された膜に含まれることはないがプラズマ発生や膜質向上などに寄与する補助ガスを更に含有することがある。
「原料ガス」とは、膜の主成分となる材料の供給源となるガスである。例えばSiO膜を形成する場合には、HMDSO,TEOS,シラン等のSiを含有するガスが原料ガスである。
「反応ガス」とは、原料ガスと反応して、形成される膜に取り込まれるガスであり、例えばSiO膜を形成する場合には、酸素(O)がこれに該当する。
「磁場発生部材」とは、永久磁石からなる磁場発生機構であり、例えば、長い中央磁石と、この中央磁石を取り囲む外周磁石と、それらを接続する磁界短絡部材とからなる部材がこれに該当する。
「プラズマ電源」とは、電極である一対の成膜ロールに接続されて成膜ロール間にプラズマを発生させる電源である。なお、「プラズマ発生用電源」も同義である。
「0℃、1気圧基準」とは、表示されたガスの量が、0℃、1気圧におけるそのガスの体積であることを表す。
「有機珪素化合物を完全に酸化させる」とは、有機珪素化合物を、該化合物に含まれるSi、C、およびHが、SiはSiOになり、CはCOになり、HはHOになるように酸化させることを意味する。
【0055】
図1に示す製造装置は、送り出しロール11と、搬送ロール21、22、23、24と、成膜ロール31、32と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、成膜ロール31及び32の内部に設置された磁場発生装置61、62と、巻取りロール71とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ロール31、32と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、磁場発生装置61、62とが図示を省略した真空チャンバー内に配置されている。更に、このような製造装置において前記真空チャンバーは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0056】
このような製造装置においては、一対の成膜ロール(成膜ロール31と成膜ロール32)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ロールがそれぞれプラズマ発生用電源51に接続されている。そのため、このような製造装置においては、プラズマ発生用電源51により電力を供給することにより、成膜ロール31と成膜ロール32との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ロール31と成膜ロール32との間の空間にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ロール31と成膜ロール32を電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すればよい。また、このような製造装置においては、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。そして、このような製造装置によれば、CVD法によりフィルム100の表面上に薄膜層を形成することが可能であり、成膜ロール31上においてフィルム100の表面上に膜成分を堆積させつつ、更に成膜ロール32上においてもフィルム100の表面上に膜成分を堆積させることもできるため、フィルム100の表面上に前記薄膜層を効率よく形成することができる。
【0057】
また、成膜ロール31及び成膜ロール32の内部には、成膜ロールが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置61及び62がそれぞれ設けられている。
【0058】
さらに、成膜ロール31及び成膜ロール32としては適宜公知のロールを用いることができる。このような成膜ロール31及び32としては、より効率よく薄膜を形成せしめるという観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。また、このような成膜ロール31及び32の直径としては、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、5〜100cmの範囲とすることが好ましい。
【0059】
また、このような製造装置においては、フィルム100の表面がそれぞれ対向するように、一対の成膜ロール(成膜ロール31と成膜ロール32)上に、フィルム100が配置されている。このようにしてフィルム100を配置することにより、成膜ロール31と成膜ロール32との間に放電を行ってプラズマを発生させる際に、一対の成膜ロール間に存在するフィルム100のそれぞれの表面を同時に成膜することが可能となる。すなわち、このような製造装置によれば、CVD法により、成膜ロール31上にてフィルム100の表面上に膜成分を堆積させ、更に成膜ロール32上にて膜成分を堆積させることができるため、フィルム100の表面上に前記薄膜層を効率よく形成することが可能となる。
【0060】
また、このような製造装置に用いる送り出しロール11及び搬送ロール21、22、23、24としては適宜公知のロールを用いることができる。また、巻取りロール71としても、薄膜層を形成したフィルム100を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のロールを用いることができる。
【0061】
また、ガス供給管41としては原料ガス等を所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜用いることができる。さらに、プラズマ発生用電源51としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源51は、これに接続された成膜ロール31と成膜ロール32に電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、前記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。また、このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、印加電力を100W〜10kWとすることができ且つ交流の周波数を50Hz〜500kHzとすることが可能なものであることがより好ましい。また、磁場発生装置61、62としては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。さらに、フィルム100としては、前記本発明に用いる基材の他に、前記薄膜層を予め形成させたものを用いることができる。このように、フィルム100として前記薄膜層を予め形成させたものを用いることにより、前記薄膜層の厚みを厚くすることも可能である。
【0062】
このような図1に示す製造装置を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバー内の圧力、成膜ロールの直径、並びに、フィルムの搬送速度を適宜調整することにより、本発明の積層フィルムを製造することができる。すなわち、図1に示す製造装置を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)間に放電を発生させることにより、前記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ロール31上のフィルム100の表面上並びに成膜ロール32上のフィルム100の表面上に、前記薄膜層がプラズマCVD法により形成される。なお、このような成膜に際しては、フィルム100が送り出しロール11や成膜ロール31等により、それぞれ搬送されることにより、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスによりフィルム100の表面上に前記薄膜層が形成される。
【0063】
このような薄膜層の形成に用いる前記成膜ガス中の原料ガスとしては、形成する薄膜層の材質に応じて適宜選択して使用することができる。このような原料ガスとしては、例えばケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる薄膜層のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、原料ガスとして、上述の有機珪素化合物のほかに、モノシランを含有させ、形成する薄膜層の珪素源として使用することとしてもよい。
【0064】
また、前記成膜ガスとしては、前記原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、前記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
【0065】
前記成膜ガスとしては、前記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、前記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0066】
このような成膜ガスが原料ガスと反応ガスを含有する場合には、原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜が得られなくなってしまう。この場合には、形成される薄膜層によって、優れたバリア性や耐屈曲性を得ることができなくなる。また、前記成膜ガスが前記有機ケイ素化合物と酸素とを含有するものである場合には、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
【0067】
以下、前記成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物:HMDSO:(CHSiO)と反応ガスとしての酸素(O)を含有するものを用い、ケイ素−酸素系の薄膜を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスの好適な比率等についてより詳細に説明する。
【0068】
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CHSiO)と、反応ガスとしての酸素(O)とを含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1):
(CHSiO+12O→6CO+9HO+2SiO (1)
に記載のような反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層を形成することができなくなってしまう。そのため、本発明において、薄膜層を形成する際には、上記(1)式の反応が完全に進行してしまわないように、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくすることが望まれる。なお、実際のプラズマCVDチャンバー内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスの酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある。)。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサン及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子が薄膜層中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層を形成することが可能となって、得られる積層フィルムに優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。なお、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子が薄膜層中に過剰に取り込まれるため、この場合はバリア膜の透明性が低下して、バリアフィルムは有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
【0069】
また、真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.1Pa〜50Paの範囲とすることが好ましい。
【0070】
また、このようなプラズマCVD法において、成膜ロール31及び32間に放電するために、プラズマ発生用電源51に接続された電極ドラム(本例においては成膜ロール31及び32に設置されている。)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり一概に言えるものでないが、0.1〜10kWの範囲とすることが好ましい。この印加電力が前記下限未満ではパーティクルが発生し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると成膜時に発生する熱量が多くなり、成膜時の基材表面の温度が上昇してしまい、基材が熱負けして成膜時に皺が発生してしまったり、ひどい場合には熱でフィルムが溶けて、裸の成膜ロール間に大電流の放電が発生して成膜ロール自体を傷めてしまう可能性が生じる。
【0071】
フィルム100の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1〜100m/minの範囲とすることが好ましく、0.5〜20m/minの範囲とすることがより好ましい。ライン速度が前記下限未満では、フィルムに熱に起因する皺の発生しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、形成される薄膜層の厚みが薄くなる傾向にある。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、積層フィルムの水蒸気透過度及び屈曲試験後の水蒸気透過度は以下の方法により測定した。
【0073】
(i)水蒸気透過度の測定
温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件において、水蒸気透過度測定機(GTRテック社製、機種名「GTRテック−30XASC」)を用いて、積層フィルムの水蒸気透過度を測定した。また、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件において、水蒸気透過度測定機(Lyssy社製、機種名「Lyssy−L80−5000」)を用いて、積層フィルムの水蒸気透過度を測定した。
【0074】
(ii)屈曲試験後の水蒸気透過度の測定
金属製の棒に積層フィルムを巻き付けた後、1分放置する屈曲試験を施し、その後、積層フィルムを平らに戻して試料とした。屈曲試験における曲率半径Rは棒の直径の1/2に相当するが、積層フィルムの巻き数が多くなる場合は、フィルムを巻き付けた時の直径の1/2を曲率半径Rとした。次に、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件において、水蒸気透過度測定機(Lyssy社製、機種名「Lyssy−L80−5000」)を用いて、試料の水蒸気透過度を測定した。
【0075】
(実施例1)
前述の図1に示す製造装置を用いて積層フィルムを製造した。すなわち、2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を基材(図1におけるフィルム100)として送り出しロ−ル11に装着した。そして、成膜ロール31と成膜ロール32との間に磁場を印加すると共に、成膜ロール31と成膜ロール32にそれぞれ電力を供給して、成膜ロール31と成膜ロール32との間に放電してプラズマを発生させ、このような放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)の混合ガス)を供給して、下記条件にてプラズマCVD法による薄膜形成を行い、積層フィルムを得た。
【0076】
〈成膜条件〉
原料ガスの供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)
酸素ガスの供給量:500sccm(0℃、1気圧基準)
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度;0.5m/min。
【0077】
得られた積層フィルムにおける薄膜層の厚みは0.3μmであった。また、得られた積層フィルムの、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は3.1×10−4g/(m・day)であり、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であった。さらに、曲率半径8mmの条件で屈曲させた後の温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であり、得られた積層フィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することができることが確認された。
【0078】
また、得られた積層フィルムについて、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を得た。
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
エッチングレート(SiO熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
【0079】
縦軸を原子の濃度(原子比)(%)とし、横軸をスパッタ時間(分)とする珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を図2に示す。図2には、珪素、酸素、及び炭素の各原子の濃度と薄膜層の表面からの距離(nm)との関係を併せて示した。図2に記載のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」は、スパッタ時間とスパッタ速度とから計算された値である。
【0080】
図2に示す結果から明らかなように、得られた炭素分布曲線は、実質的に連続であり、薄膜層は、膜の厚み方向全体にわたり炭素を1at%以上含んでおり、膜全体が有機物のガスバリア膜であった。また、炭素分布曲線の膜の厚み方向に関して、炭素の原子比が増加する傾斜領域と減少する傾斜領域が多数存在することも確認された。
【0081】
その後、得られた積層フィルムのPEN基材から成膜された部分のみをはがすことにより、薄膜層を形成していた材料の粉末を得た。該粉末を集めて固体NMRの試料管につめ、29Siの固体NMRにかけてスペクトルを得た。図3に、29Si−NMRスペクトルを示す。該スペクトル中には、有機官能基Rが珪素原子に結合したNMRピークが存在していたことから、該薄膜層には、珪素原子と有機系炭素原子との間に直接的な結合が含まれていることが確認された。
【0082】
さらに、図4に、前記粉末の13C−NMRスペクトルを示す。該スペクトルにおいては、いろいろな有機物のブロードなピークの中で、特にSi−CHのピーク(0ppm)が急峻なピークを示しており、該薄膜層には、メチル基が珪素原子に結合した構造が多く含まれていたことも確認された。
【0083】
(実施例2)
先ず、実施例1で得られた薄膜層の厚みが0.3μmの積層フィルムをフィルム100として送り出しロ−ル11に装着し、前記薄膜層の表面上に新たに薄膜層を形成した以外は、実施例1と同様にして、積層フィルム(A)を得た。なお、得られた積層フィルム(A)における基材(PENフィルム)上の薄膜層の厚みは0.6μmであった。
【0084】
その後、得られた積層フィルム(A)をフィルム100として送り出しロ−ル11に装着し、前記薄膜層の表面上に新たに薄膜層を形成した以外は実施例1と同様にして、積層フィルム(B)を得た。
【0085】
得られた積層フィルム(B)における薄膜層の厚みは0.9μmであった。また、得られた積層フィルム(B)の、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は6.9×10−4g/(m・day)であり、この積層フィルムの温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件における水蒸気透過度は検出限界以下の値であった。さらに、曲率半径8mmの条件で屈曲させた後の温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であり、得られた積層フィルム(B)を屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することができることが確認された。
【0086】
得られたガスバリア性積層フィルム(B)の薄膜層について、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を実施例1における方法と同様の方法により作成した。さらに、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線に関して、原子比とエッチング時間の関係とともに、原子比と薄膜層の表面からの距離(nm)との関係を併せて示すグラフを図5に示す。なお、図5のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」はエッチング時間とエッチング速度とから計算された値である。
【0087】
図5に示す結果から明らかなように、得られた炭素分布曲線は、実質的に連続であり、膜の厚み方向全体にわたり炭素を1at%以上含んでおり、膜全体が有機物のガスバリア膜であった。また、炭素分布曲線の膜の厚み方向に関して、炭素の原子比が増加する傾斜領域と減少する傾斜領域が多数存在することも確認された。さらに、薄膜層において、珪素原子の量に対する酸素原子の量と炭素原子の量の合計量の比が1.8より大きく、2.2以下であることも確認された。
【0088】
図6に、得られた積層フィルムのSIMS(2次イオン質量分析計)による膜厚方向の元素プロファイルを示す。炭素原子の濃度分布プロファイルと水素原子の濃度分布プロファイルは、非常に相関しており、積層フィルムの薄膜層内において炭素原子が水素原子を伴って存在している、すなわち、炭素原子は有機系炭素原子として存在していることが確認された。
【0089】
(実施例3)
原料ガスの供給量を100sccm(0℃、1気圧基準)とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0090】
得られた積層フィルムにおける薄膜層の厚みは0.6μmであった。また、得られた積層フィルムの、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は3.2×10−4g/(m・day)であり、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であった。さらに、曲率半径8mmの条件で屈曲させた後の温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であり、得られた積層フィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することができることが確認された。
【0091】
また、得られた積層フィルムについて、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を実施例1における方法と同様の方法により作成した。得られた珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を図7に示す。図7のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」はスパッタ時間とスパッタ速度とから計算された値である。
【0092】
図7に示す結果から明らかなように、得られた炭素分布曲線は、実質的に連続であり、膜の厚み方向全体にわたり炭素を1at%以上含んでおり、膜全体が有機物のガスバリア膜であった。また、炭素分布曲線の膜の厚み方向に関して、炭素の原子比が増加する傾斜領域と減少する傾斜領域が多数存在することも確認された。
【0093】
(実施例4)
原料ガスの供給量を100sccm(0℃、1気圧基準)とし、酸素ガスの供給量を50sccm(0℃、1気圧基準)とし、圧力を1.5Paとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0094】
得られた積層フィルムの、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は5×10−4g/(m・day)であり、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であった。さらに、曲率半径8mmの条件で屈曲させた後の温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であり、得られた積層フィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することができることが確認された。
【0095】
また、得られた積層フィルムについて、実施例1と同様にしてXPSデプスプロファイル測定を行い、薄膜の膜厚方向における炭素の原子比、珪素の原子比、及び酸素の原子比を測定した。得られた珪素濃度曲線、酸素濃度曲線、及び炭素濃度曲線を図8に示す。図8のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」はスパッタ時間とスパッタ速度とから計算された値である。
【0096】
図8に示す結果からも明らかなように、得られた積層フィルムの薄膜の膜厚方向における炭素濃度曲線は、実質的に連続であり、膜の厚み方向全体にわたり炭素を1at%以上含んでおり、膜全体が有機物のガスバリア膜であった。また、膜の厚み方向に関して、炭素の原子比が増加する傾斜領域と減少する傾斜領域が多数存在することも確認された。さらに、膜厚方向のほぼ全領域において、炭素の原子比と珪素の原子比と酸素の原子比は、(炭素の原子比)>(珪素の原子比)>(酸素の原子比)であった。
【0097】
(比較例1)
2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名「テオネックスQ65FA」)の表面上に、シリコンターゲットを用い、酸素含有ガス雰囲気中において、反応スパッタ法により酸化ケイ素からなる薄膜層を形成して、比較のための積層フィルムを得た。
【0098】
得られた積層フィルムにおける薄膜層の厚みは100nmであった。得られた積層フィルムにおいて、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件における水蒸気透過度は1.3g/(m・day)であり、ガスバリア性が不十分なものであった。
【0099】
得られたガスバリア性積層フィルムについて、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を実施例1における方法と同様の方法により作成した。さらに、得られた珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線に関して、原子比とエッチング時間の関係とともに、原子比と薄膜層の表面からの距離(nm)との関係を併せて示すグラフを図9に示す。なお、図9のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」はエッチング時間とエッチング速度とから計算された値である。図9に示す結果から明らかなように、得られた炭素分布曲線は、炭素が1at%未満の領域が膜の大部分を占めており、全体が炭素を含んでいない無機膜であることが確認された。
【0100】
図10に、得られた積層フィルムのSIMSによる膜厚方向の元素プロファイルを示す。図10に示すように、炭素原子の濃度分布プロファイル及び水素原子の濃度分布プロファイルは、どちらもバックグラウンドレベルであり、積層フィルムの薄膜層内において炭素原子と水素原子はいずれも存在しておらず、該薄膜は珪素原子と酸素原子のみからなる無機膜であることが確認された。
【0101】
(比較例2)
原料ガスの供給量を25sccm(0℃、1気圧基準)とした以外は実施例1と同様にして比較のための積層フィルムを得た。
【0102】
得られた積層フィルムにおける薄膜層の厚みは0.2μmであった。また、得られた積層フィルムの、温度40℃、低湿度側の湿度0%RH、高湿度側の湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は7.5×10−3g/(m・day)であり、温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は検出限界以下の値であった。さらに、曲率半径8mmの条件で屈曲させた後の温度40℃、低湿度側の湿度10%RH、高湿度側の湿度100%RHの条件におけるこの積層フィルムの水蒸気透過度は2.7×10−1g/(m・day)であり、ガスバリア性が不十分なものであった。
【0103】
得られた積層フィルムについて、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を実施例1における方法と同様の方法により作成した。得られた珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を図11に示す。図11のグラフの横軸に記載の「距離(nm)」はスパッタ時間とスパッタ速度とから計算された値である。図11に示す結果から明らかなように、得られた炭素分布曲線は、炭素が1at%未満であり、炭素を含んでいない無機物の領域がたくさん有ること、無機物領域層と有機物領域層が交互に積層してあり、膜全体が有機物のガスバリア膜ではなく、有機物と無機物との混合物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように、本発明は、十分なガスバリア性を有しており、しかもフィルムを屈曲させた場合においてもガスバリア性の低下を十分に抑制することが可能な積層フィルムフィルムを提供する。
【0105】
したがって、本発明の積層フィルムフィルムは、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、有機EL素子を用いたフレキシブル照明、有機薄膜太陽電池、液晶ディスプレイ、医薬品の包装容器等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
11…送り出しロール、21、22、23、24…搬送ロール、31、32…成膜ロール、41…ガス供給管、51…プラズマ発生用電源、61、62…磁場発生装置、71…巻取りロール、100…フィルム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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