(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371186
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】除菌剤組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20180730BHJP
C11D 7/38 20060101ALI20180730BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20180730BHJP
C11D 7/42 20060101ALI20180730BHJP
C11D 7/18 20060101ALI20180730BHJP
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C11D 1/02 20060101ALI20180730BHJP
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C11D 3/36 20060101ALI20180730BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20180730BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20180730BHJP
A01N 37/16 20060101ALI20180730BHJP
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A01N 25/22 20060101ALI20180730BHJP
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A61L 101/36 20060101ALN20180730BHJP
A61L 101/40 20060101ALN20180730BHJP
【FI】
A01N59/00 A
C11D7/38
C11D7/26
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C11D7/18
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A61L2/18 102
!A01N63/00 D
A61L101:22
A61L101:36
A61L101:40
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-203981(P2014-203981)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-74607(P2016-74607A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(73)【特許権者】
【識別番号】593085808
【氏名又は名称】ADEKAクリーンエイド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】草野 公雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 綾
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 亮太
【審査官】
桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−517946(JP,A)
【文献】
特開2013−213017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/00
A01N 25/02
A01N 25/22
A01N 37/16
A01P 1/00
A01P 3/00
A61L 2/18
C11D 1/02
C11D 1/66
C11D 3/20
C11D 3/36
C11D 3/386
C11D 3/39
C11D 7/18
C11D 7/26
C11D 7/36
C11D 7/38
C11D 7/42
A01N 63/00
A61L 101/22
A61L 101/36
A61L 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(D)カタラーゼ酵素、(E)キレート剤、(F)水を含有する除菌剤組成物であって、
(A)過酢酸濃度を100〜10000ppm、
(D)カタラーゼ酵素を1〜10ppm、
(E)キレート剤を1〜1000ppm、
含有し、かつ
(A)過酢酸と(B)過酸化水素の質量比(A)/(B)が1以上、
(D)カタラーゼ酵素と(E)キレート剤の質量比(D)/(E)が、0.005〜10、
であることを特徴とする除菌剤組成物。
【請求項2】
(E)成分のキレート剤が、有機ホスホン酸及び/又は有機ホスホン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の除菌剤組成物。
【請求項3】
(E)成分のキレート剤が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸又はこれらの塩より選ばれた化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の除菌剤組成物。
【請求項4】
さらに、(G)ノニオン界面活性剤及び/又は、(H)アニオン界面活性剤を10〜50000ppm含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の除菌剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の除菌剤組成物を、使用温度が20℃〜70℃に加温して除菌処理することを特徴とする除菌方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の除菌組成物を用いる除菌方法であって、
(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤および(F)水を含む第1剤と、(D)成分を含有する第2剤とを使用直前に混合して前記除菌組成物を調製し、除菌操作に供することを特徴とする除菌方法。
【請求項7】
(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤の少なくとも1つの成分を濃厚に含む濃厚組成物に、(D)カタラーゼ酵素及び(F)水を添加、希釈して、
(A)過酢酸濃度を100〜10000ppm、
(D)カタラーゼ酵素を1〜10ppm、
(E)キレート剤を1〜1000ppm、
含有し、かつ
(A)過酢酸と(B)過酸化水素の質量比(A)/(B)が1以上、
(D)カタラーゼ酵素と(E)キレート剤の質量比(D)/(E)が、0.005〜10となるように調整することを特徴とする除菌剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酢酸を含有した除菌剤組成物に関し、更に詳細には、過酢酸に抵抗性を持つ菌を制御することができ、かつ、設備腐食への影響を低減した除菌剤組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
過酢酸は、過酢酸・過酸化水素・酢酸・水の平衡混合溶液として市販されているが、低濃度、短時間の接触で広範囲の微生物に対して高い除菌効果を示し、分解物が酢酸と水であることから安全性も高く、食品工業においては設備・機器・包装容器等の除菌目的で多量に使用されている。
【0003】
過酢酸は、細菌、真菌、ウイルス等に対して優れた除菌性を示し、更に、人に対する感作性や変異原性が低く、分解生成物が酢酸と過酸化水素という比較的安全な化合物である。このため過酢酸、過酸化水素、酢酸を含む過酢酸系消毒薬は、安全性が高く、各種洗浄剤や除菌剤等に用いられ、更に、これらの洗浄剤や除菌剤の洗浄効果を補強する目的等から、ノニオン界面活性剤等の界面活性剤を配合している場合もある(例えば、特許文献1〜3を参照)。また近年、各種飲料食品関連では、この過酢酸に対して強い抵抗性を示すパエニバチルス属細菌等の抵抗性菌の問題が顕在化しており、その対策として、残留する過酸化水素の濃度を低減したり、過酸化水素濃度の高い過酢酸系殺菌剤を用いる方法(特許文献4)や、過酢酸濃度を上げる方法(特許文献5)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−502518号公報
【特許文献2】特開2001−072996号公報
【特許文献3】特開2007−084589号公報
【特許文献4】特開2009−113858号公報
【特許文献5】特開2012−219053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、過酸化水素の濃度を低減することによって、酢酸の濃度が増加し、設備のパッキンに対して膨潤や劣化等の影響を及ぼす問題があり、過酸化水素濃度を高くすると、無菌水による洗浄後の容器への過酸化水素の残留量が高くなってしまい、製品への混入トラブルが起こるリスクがある。さらに、過酢酸濃度を上げる方法はコスト高となるという問題があった。
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、過酢酸に対して強い抵抗性を示すパエニバチルス属細菌等の抵抗性菌に対する除菌性に優れ、ステンレスに対して低腐食性の除菌剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討した結果、過酢酸、過酸化水素、酢酸、キレート剤とともに、カタラーゼ酵素を含む除菌剤組成物が、従来の過酢酸系除菌剤組成物が有していた問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、
(1)(1)(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(D)カタラーゼ酵素、(E)キレート剤、(F)水を含有する除菌剤組成物であって、
(A)過酢酸濃度を100〜10000ppm、
(D)カタラーゼ酵素を
1〜10ppm、
(E)キレート剤を1〜1000ppm、
含有し、かつ
(A)過酢酸と(B)過酸化水素の質量比(A)/(B)が1以上、
(D)カタラーゼ酵素と(E)キレート剤の質量比(D)/(E)が、
0.005〜10であることを特徴とする除菌剤組成物、
(
2)(E)成分のキレート剤が、有機ホスホン酸及び/又は有機ホスホン酸塩であることを特徴とする上記
(1)に記載の除菌剤組成物、
(
3)(E)成分のキレート剤が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸又はこれらの塩より選ばれた化合物であることを特徴とする上記(1)〜
(2)の除菌剤組成物、
(
4)さらに、(G)ノニオン界面活性剤及び/又は、(H)アニオン界面活性剤を10〜50000ppm含有することを特徴とする上記(1)〜(
3)のいずれかの除菌剤組成物、
(
5)上記(1)〜(
4)のいずれか一項に記載の除菌剤組成物を、使用温度が20℃〜70℃に加温して除菌処理することを特徴とする除菌方法、
(6)上記(1)〜(
3)のいずれかの除菌組成物を
用いる除菌方法であって、
(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤および(F)水を含む第1剤と、(D)成分を含有する第2剤とを使用直前に混合して前記除菌組成物を調製し、除菌操作に供することを特徴とする除菌方法、
(7)(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤の少なくとも1つの成分を濃厚に含む濃厚組成物に、(D)カタラーゼ酵素及び(F)水を添加、希釈して、
(A)過酢酸濃度を100〜10000ppm、
(D)カタラーゼ酵素を1〜10ppm、
(E)キレート剤を1〜1000ppm、
含有し、かつ
(A)過酢酸と(B)過酸化水素の質量比(A)/(B)が1以上、
(D)カタラーゼ酵素と(E)キレート剤の質量比(D)/(E)が、0.005〜10となるように調整することを特徴とする除菌剤組成物の製造方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の除菌剤組成物は、細菌、真菌、ウイルス等に対して優れた除菌性を有するとともに、過酢酸に対して強い抵抗性を示すパエニバチルス属細菌等の抵抗性菌に対しても除菌効果に優れ、ステンレスに対して低腐食性である等の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の除菌剤組成物は、(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(D)カタラーゼ酵素、(E)キレート剤、(F)水を含有する除菌剤組成物であって、(A)過酢酸濃度を100〜10000ppm、(D)カタラーゼ酵素を0.01〜250ppm、(E)キレート剤を1〜1000ppm含有し、かつ、(A)過酢酸と(B)過酸化水素の質量比(A)/(B)が1以上、(D)カタラーゼ酵素と(E)キレート剤の質量比(D)/(E)が、0.002〜10である。本発明の除菌剤組成物は、(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤の少なくとも1つの成分を濃厚に含む濃厚組成物に、(D)カタラーゼ酵素及び(F)水を添加、希釈して、(A)過酢酸濃度を100〜10000ppm、(D)カタラーゼ酵素を0.01〜250ppm、(E)キレート剤を1〜1000ppm含有し、かつ(A)過酢酸と(B)過酸化水素の質量比(A)/(B)が1以上、(D)カタラーゼ酵素と(E)キレート剤の質量比(D)/(E)が、0.002〜10となるように調整したものでも良い。
【0011】
本発明で使用されるカタラーゼ酵素としては、微生物を起源とするものが使用できるが、好ましくはアスペルギルス属またはマイクロコッカス属を起源とするカタラーゼが挙げられ、より好ましくはアスペルギルス・ニガーを起源とするカタラーゼが挙げられる。カタラーゼ酵素の形態は水溶液でも粉末状でもよく、水溶液中または粉末化時の安定性向上の目的で使用される安定化成分としては、メタノール、エタノール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、シクロデキストリン、デキストリン、システイン、アセチルシステイン、グルタチオン、トコフェロール、アスコルビン酸、チオグリコール酸又はその塩類、クエン酸ナトリウムが挙げられる。好ましい安定化成分としてはエタノール、デキストリンが挙げられ、より好ましい安定化成分はデキストリンが挙げられる。塩酸、硝酸、硫酸、スルホン酸類等の強酸由来の塩類は、使用環境において設備の腐食に影響を及ぼすため強酸由来の塩類の少ないことが好ましい。
【0012】
本発明の除菌剤組成物において、(A)成分の過酢酸濃度は100〜10000ppmであるが、500〜5000ppmであることが好ましく、1000〜3000ppmであることがより好ましい。(A)成分の過酢酸濃度が100ppm未満であると、過酢酸抵抗性菌に対する除菌性が低下する場合があり、10000ppmを超えると、設備の腐食に影響をあたえることがあり、またコスト的に好ましくない。
【0013】
(B)成分の過酸化水素濃度は2000ppm未満であることが好ましいが、200ppm未満であることがより好ましく、20ppm未満であることがさらに好ましい。過酸化水素の下限は0.1ppmが好ましく、本発明の除菌剤組成物中における過酸化水素濃度は、0.1〜10ppmであることが最も好ましい。2000ppmを超えると、過酢酸抵抗性菌に対する除菌性が低下する場合がある。
【0014】
(C)成分の酢酸濃度は、100〜20000ppmであることが好ましいが、500〜10000ppmであることがより好ましく、1000〜6000ppmであることがさらに好ましい。(C)成分の酢酸濃度が100ppm未満であると、無機物の汚れを除去する効果が低下する場合があり、20000ppmを超えると酢酸の臭いが激しくなるため取扱いが困難になることや設備のパッキンへの膨潤や劣化を起こす場合があるために好ましくない。
【0015】
(D)成分のカタラーゼは、0.01〜250ppm配合されるが、0.05〜20ppm配合することが好ましく、0.1〜10ppm配合することがより好ましく、0.5〜5ppm配合することが更に好ましい。(D)成分の配合量が0.01ppm未満であると、過酸化水素の分解スピードが低下するため、パエニバチルス属細菌への除菌性が低下する場合があり、250ppmを超えると、リユース使用時にカタラーゼの分解物が過酢酸の安定性に影響を与えること、カタラーゼ酵素に起因する凝集物が発生することから好ましくない。
【0016】
(E)成分のキレート剤としては、ポリリン酸、有機ホスホン酸、フィチン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ロダンカリ、ポリアミノカルボン酸等や、これらの塩が挙げられる。ポリリン酸としては、例えば、ピコリン酸、ジピコリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサポリリン酸等のポリリン酸等が挙げられ、有機ホスホン酸としては、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、アミノトリメチレンホスホン酸や、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のポリエチレンポリアミン系ホスホン酸等が挙げられる。キレート剤としては、有機ホスホン酸やその塩が好ましく、なかでも1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸が好ましい。(E)成分のキレート剤は、1〜1000ppm配合されるが、5〜500ppm配合することが好ましく、10〜100ppm配合することがより好ましく、15〜50ppm配合することが更に好ましい。(E)キレート剤の配合量が1ppmより少ないと、過酢酸の安定性が低下する場合があり、1000ppmを超えて配合した場合、カタラーゼ酵素が失活してしまい好ましくない。
【0017】
また、(F)成分の水としては、特に限定はなく、イオン交換水、軟水、純水、水道水などが挙げられ、除菌剤組成物の安定性の観点から、イオン交換水又は純水が好ましい。
【0018】
本発明除菌剤組成物における(A)成分と(B)成分の濃度比率は、過酢酸抵抗性菌への除菌性、除菌剤組成物の安定性の観点から(A)/(B)が1以上であるが、好ましくは(A)/(B)が2以上であり、さらに好ましくは(A)/(B)=26以上であり、最も好ましくは(A)/(B)=100以上である。(A)/(B)が1未満であると、過酢酸抵抗性菌への除菌性が低下する場合がある。また(D)成分と(E)成分の濃度比率は、過酢酸抵抗性菌への除菌性、凝集物の抑制性の観点から(D)/(E)=0.002〜10(質量比)であるが、好ましくは(D)/(E)=0.005〜5であり、さらに好ましくは(D)/(E)=0.01〜3である。(D)/(E)が0.002未満であると、過酢酸抵抗性菌への除菌性が低下する場合があり、(D)/(E)が10を超えると、凝集物の抑制性が低下する場合がある。
【0019】
更に、本発明の除菌剤組成物には、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)成分の他に、(G)成分としてノニオン界面活性剤が配合されていてもよい。(G)成分のノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルジエステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、グリセリン脂肪酸エステル又はそのエチレンオキサイド付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、高級脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグリコシド、アルキルアミンオキサイド、N−オクチルピロリドン等が挙げられる。これらの中でも、泡立ちが少ない点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダム或いはブロック付加体等のポリアルキレンオキサイド付加物が好ましく、下記の一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤、或いはポリオキシアルキレンアルケニルエーテル型ノニオン界面活性剤がより好ましい。
【0020】
(化1)
R−(OA)n −OH (I)
(式中、Rは炭素数8〜18の脂肪族炭化水素基を表し、nは3〜50の数を表わし、Aは炭素数2〜4のアルキレン基を表す。)
【0021】
更に、(H)成分としてアニオン界面活性剤が配合されていてもよい。(H)成分のアニオン界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、硫化オレフィン塩、高級アルキルスルホン酸又はその塩、α−オレフィンスルホン酸又はその塩、硫酸化脂肪酸又はその塩、スルホン化脂肪酸又はその塩、アルキルリン酸エステル塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、スルホコハク酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルキルナフタレンスルホン酸又はその塩、アルキルベンゾイミダゾールスルホン酸又はその塩、N−アシル−N−メチルタウリン又はその塩、アシルオキシエタンスルホン酸又はその塩、アルコキシエタンスルホン酸又はその塩、N−アシル−N−カルボキシエチルタウリン又はその塩、及びアルキル又はアルケニルアミノカルボキシメチル硫酸又はその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等を挙げることができる。
【0022】
本発明の除菌剤組成物は、除菌剤組成物の濃厚組成物をそのまま或いは水で希釈して使用することができる。輸送するときは、除菌剤組成物の濃厚組成物のほうが輸送コストを抑えられるため、輸送時には(A)成分の濃度は1〜15重量%が好ましく、3〜14重量%がより好ましく、5〜13重量%が更に好ましい。(E)成分の濃度は0.01〜1.5重量%が好ましく、0.03〜1.0重量%がより好ましく、0.05〜0.8重量%が更に好ましい。本発明において、除菌剤組成物の調整や希釈に用いる水としては、特に限定はなく、イオン交換水(イオン交換樹脂によりイオンを除去した水)、軟水、純水(RO水つまり逆浸透膜を通した水、蒸留水つまり蒸留器で蒸留した水)、水道水などが挙げられ、除菌性の点から純水、特にRO水が好ましい。
【0023】
本発明の除菌剤組成物は、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤、(F)水、を混合して平衡状態となるまで放置して(A)過酢酸、(B)過酸化水素、(C)酢酸、(E)キレート剤、(F)水を含む混合平衡溶液を得、更に必要に応じて、(G)成分、(H)成分を配合して調製することができる。本発明の除菌剤組成物は、予め全ての成分が混合された状態で調製してもよいが、使用する直前に調製する方が、高い除菌効果を得る上で好適である。使用に際して調製する方法としては、平衡状態に達した(A)成分、(B)成分、(C)成分、(E)キレート剤、(F)水及び所望によりその他成分の所定量を、それぞれ個別に水に溶解して調整する方法を用いることができるが、簡便性の点から(A)成分、(B)成分及び(C)成分、(E)成分、(F)成分及び所望によりその他成分を含有する第1剤と、(D)成分を含有する第2剤とからなり、第1剤、第2剤を使用直前に混合することによって、除菌操作に供することが好ましい。
【0024】
本発明の除菌剤組成物は、強力な除菌性を有するため、パエニバチルス属細菌を含む菌類・微生物の汚染・混入が問題となる幅広い分野(食品分野、醸造分野、医療分野、農業分野など)での除菌に有用である。例えば、乳製品・乳加工品、ビール・ワイン・清酒、味噌・醤油などの食品加工工場での容器や製造ラインの除菌、内視鏡等の医療器具の消毒や滅菌、透析ラインの洗浄、野菜及び果物の処理水の病原菌微生物の制御、植物の病気又は損傷及び苗木の腐敗の原因となる種子に取り付いた微生物の制御、食鳥肉の処理場での食鳥肉の表面の病原菌の減少、特に、無菌充填法によるPETボトル入り清涼飲料の製造での容器包材(PETボトル及びキャップ)の除菌、またはそのラインの強化除菌に好適に用いることができる。
【0025】
本発明の除菌剤組成物による除菌処理を行う際の温度は、20℃〜70℃であるが、除菌性を高めるために、40℃〜65℃であることがより好ましく、50℃〜59℃であることが更に好ましい。除菌剤組成物の温度が20℃未満であると、過酢酸に対して強い抵抗性を示すパエニバチルス属細菌等の抵抗性菌に対する除菌性が悪くなる場合があり、70℃を超えると、製造設備の材質であるステンレスの腐食性、カタラーゼ酵素が失活してしまう場合がある。
【0026】
除菌処理は、除菌液を対象物に噴霧したり、除菌液に対象物を浸漬したりする方法を採用することができるが、噴霧時間や浸漬時間は、微生物の種類や量、有機汚れあるいは無機汚れの種類や量、除菌液の濃度等によって適宜選択することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
実施例1〜69、比較例1〜6
表1〜7に示す配合の除菌剤組成物を調製した。各除菌剤組成物中の過酸化水素濃度、過酢酸濃度、酢酸濃度は以下の方法で測定した。また各除菌剤組成物について、除菌性試験、腐食性試験を行った。結果を表1〜8に併せて示す。
実施例1〜10、実施例21〜69、比較例5〜6に関しては、(A)成分、(B)成分及び(C)成分、(E)成分、(F)成分及び所望によりその他成分を含有する第1剤と、(D)成分を含有する第2剤を使用直前に混合してから5分後に除菌操作に供したものであり、実施例11〜20、比較例1〜4に関しては、第1剤と、第2剤を使用直前に混合してから60分後に除菌操作に供したものである。また、実施例64の除菌剤組成物は、(A)過酢酸を10%、(B)過酸化水素を20%、(C)酢酸を15%、(E)1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を0.25%、を含有する濃厚組成物を純水で2%に希釈し、その後、(D)カタラーゼ酵素を10ppm、を除菌剤組成物中に添加し、5分後の状態であり、表9に示す異なる試験温度で除菌性試験を行った。結果を表9に示す。なお、表1〜9において各成分の配合割合は“ppm”である。また、表1〜表9中の(A)/(B)の値は、割りきれない場合は小数点一桁を四捨五入した値で示した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
(1)過酸化水素濃度測定法
【0039】
高濃度(50.0ppm超)の過酸化水素を測定する場合
100mLのコニカルビーカーに、調製した除菌剤組成物(原液)をマイクロピペッターで1mL採取し、10%硫酸溶液10mLを加えた後、0.1N過マンガン酸カリウム標準液により、薄桃色を呈するまで滴定し、滴定に要した過マンガン酸カリウム標準液量:A(mL)、0.1N過マンガン酸カリウム標準液のファクター:F1より、下記(1)式により過酸化水素濃度を求めた。
(数1)
過酸化水素濃度(w/v%)=A×0.17×F1 (1)
【0040】
低濃度(0.1〜50.0ppm)の過酸化水素を測定する場合
300mLのコニカルビーカーに、調製した除菌剤組成物(原液)をホールピペットで100mL採取し、10%硫酸溶液10mLを加えた後、0.05N過マンガン酸カリウム標準液により、薄桃色を呈するまで滴定し、滴定に要した過マンガン酸カリウム標準液量:B(mL)、0.05N過マンガン酸カリウム標準液のファクター:F2より、下記(2)式により過酸化水素濃度を求めた。
(数2)
過酸化水素濃度(w/v%)=B×0.01×0.085×F2 (2)
【0041】
(2)過酢酸濃度測定法
【0042】
組成物中に高濃度(50.0ppm超)の過酸化水素が含有している場合
上記高濃度過酸化水素を測定する方法に基づいて過酸化水素濃度を滴定した後の溶液に、10%ヨウ化カリウム溶液1mLを添加後、0.01Nチオ硫酸ナトリウム標準液で淡黄色になるまで滴定し、1%デンプン溶液を1mL加え、暗青色が消えるまで滴定し、滴定に要した0.01Nチオ硫酸ナトリウム標準液量:C(mL)を求めた。ブランクとして、精製水1mLを採取し上記と同様の滴定を行い、0.01Nチオ硫酸ナトリウム標準液の滴定量:C
0(mL)を求めた。試料の滴定に要したチオ硫酸ナトリウム標準液量:C(mL)、ブランクの滴定に要したチオ硫酸ナトリウム標準液量:C
0(mL)、及び、0.01Nチオ硫酸ナトリウム標準液のファクター:F3より、下記(3)式により過酢酸濃度を求めた。
(数3)
過酢酸濃度(w/v%)=(C−C
0)×0.038×F3 (3)
【0043】
組成物中に低濃度(0.1〜50.0ppm)の過酸化水素が含有している場合
上記低濃度過酸化水素を測定する方法に基づいて過酸化水素濃度を滴定した後の溶液に、10%ヨウ化カリウム溶液1mLを添加後、1Nチオ硫酸ナトリウム標準液で淡黄色になるまで滴定し、1%デンプン溶液を1mL加え、暗青色が消えるまで滴定し、滴定に要した1Nチオ硫酸ナトリウム標準液量:D(mL)を求めた。ブランクとして、精製水100mLを採取し上記と同様の滴定を行い、1Nチオ硫酸ナトリウム標準液の滴定量:D
0(mL)を求めた。試料の滴定に要したチオ硫酸ナトリウム標準液量:D(mL)、ブランクの滴定に要したチオ硫酸ナトリウム標準液量:D
0(mL)、及び、1Nチオ硫酸ナトリウム標準液のファクター:F4より、下記(4)式により過酢酸濃度を求めた。
(数4)
過酢酸濃度(w/v%)=(D−D
0)×0.01×3.8×F4 (4)
【0044】
(3)酢酸濃度測定法
200mLコニカルビーカーに除菌剤組成物:W(g)を精秤し、純水100mLを加えた後、自動滴定装置(京都電子製、AT−610−PT)を用いて、0.5N水酸化ナトリウム標準液で中和滴定をおこなった。pH6.8付近(t1)の変曲点(中和点)を与える滴定所要量から酢酸濃度を算出した。pH6.8付近(t1)の変曲点を与える滴定所要量:T1(mL)、0.5N水酸化ナトリウム標準液のファクター:F5、及び、除菌剤組成物の質量:Wより、下記(5)式により酢酸濃度を求めた。
(数5)
酢酸濃度(w/v%)=3×T1×F5/W (5)
【0045】
※1:除菌性(芽胞菌、過酢酸に抵抗性を持つ芽胞菌)
(a)試験用芽胞菌
芽胞菌として、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)(NBRC3134)を用いた。
過酢酸に抵抗性を持つ芽胞菌として、分析・試験受託の総合サービスサイトであるアナライズ・ジェイ・ネットのGermspediaより入手した菌株、Paenibacillus favisporus(注文番号:E123)、飲料工場で採取し、分離同定したパエニバチルス属細菌であるパエニバチルス・チベンシス(Paenibacillus chibensis)を用いた。
(b)芽胞懸濁液の作製
供試菌株をSCD寒天培地(日水製薬品)に塗抹し、37℃で培養し、培養後、顕微鏡観察にて芽胞が十分に形成されていることを確認した。平板培地上に滅菌済み純水を10mL入れ、コロニーを掻き取り懸濁液を収集した。10000rpmで、4℃、15分間の条件で遠心洗浄を3回実施し、遠心後、滅菌済み純水を適量加え、2.0〜9.0×10
8CFU/ml程度になるように菌数を調製し、ウォーターバスにて80℃、15分間の加熱処理をして芽胞懸濁液とした。
(c)滅菌中和液の調整
大豆レシチンを10g、Tween80を30g、L−ヒスチジンを1g、チオ硫酸ナトリウムを20g、1Lの蒸留水に加温溶解し、攪拌しながら冷却をおこなった。その後、スクリューキャップ付き試験管に各9mL分注し、高圧殺菌(121℃、20分間)をおこない、滅菌中和溶液とした
(d)除菌性試験
滅菌済み100mL三角フラスコに、供試除菌剤組成物100mLを入れた。各供試除菌剤組成物を入れた三角フラスコを所定温度に設定したウォーターバス中のマグネチックスターラー上に置き、三角フラスコの攪拌子を回転させながら薬剤の温度を上昇させた。三角フラスコ内の各供試除菌剤組成物が59℃になったことを確認後、供試菌懸濁液1mLを添加した。1分(薬剤接触時間)ごとに、1mLを滅菌中和溶液入り試験管に採取し、よく攪拌した。混合液をSCD寒天培地にて混和固化し、37℃で2日間培養した。培養後、平板にコロニーの形成が見られなくなるまでの時間より、以下の基準で除菌性(芽胞菌、過酢酸に抵抗性を持つ芽胞菌)を評価し、△、○、◎の評価のものを実用性のあるものとして判定した。
評価基準
◎:接触後2分以内にコロニーの形成がみられなくなる。
○:接触後2分超、5分以内にコロニーの形成がみられなくなる。
△:接触後5分超、8分以内にコロニーの形成がみられなくなる。
×:接触後8分を超えてもコロニーの形成がみられる。
【0046】
※2:ステンレス腐食性試験
除菌剤組成物50mlを100ml容積のキャップつきポリ瓶に入れ、SUS304製のパネル(縦×横×厚み=75mm×25mm×1mm)を面積の半分まで除菌剤組成物中に浸るように入れ、キャップをする。キャップをしたポリ瓶を59℃に昇温した後、7日間静置する。7日後パネルを取り出し、流水で洗浄後、105℃で2時間乾燥させ、乾燥後の外観を、除菌剤組成物に浸漬する前の状態と比較評価し、腐食性を判定し、△、○の評価のものを実用性のあるものとして判定した。
評価基準
○:浸漬前と変化なし
△:浸漬前とほぼ変化なし
×:腐食した
【0047】
※3:ゴムパッキン適合性
除菌剤組成物50mLを100mLキャップ付きガラス瓶に入れ、このガラス瓶にEPDMゴムパネル(入間川ゴム株式会社製:縦×横×厚み=50mm×25mm×2mm(体積2500立方ミリメートル))を全体が浸るように入れ、キャップをする。65℃に昇温した後、同温度に保持して24時間静置後、EPDMゴムパネルを取り出し、流水で洗浄した。105℃で3時間乾燥した後体積を測定し、下記(4)式より膨張率を求めた。
膨張率=(浸漬後体積‐浸漬前体積)/浸漬前体積 (4)
膨張率より、以下の基準でゴムパッキン適合性を評価し、△、○、◎の評価のものを実用性のあるものとして判定した。
評価基準:
◎:膨張率が0.03未満。
○:膨張率が0.03以上、0.05未満。
△:膨張率が0.05以上、0.1未満。
×:膨張率が0.1以上。