(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Ni、CoおよびMnから選ばれる1種以上の遷移金属元素とLiとを含有し、前記Liの含有量が遷移金属元素の含有量の合計に対してモル比で0.95倍以上であるリチウム含有複合酸化物と、該リチウム含有複合酸化物の表面の少なくとも一部に担持された金属酸化物とを有し、該金属酸化物は一部のOがハロゲン元素に置換されているリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、
前記金属酸化物において、置換できるハロゲン元素の最大の量(単位:質量)に対する、該金属酸化物中のイオンクロマトグラフィーにより測定されたハロゲン含有量(単位:質量)の割合が、0.05〜90%であり、
前記金属酸化物は、XRDスペクトルにおいて、ハロゲン置換される前の金属酸化物の単体に帰属されるピーク、該金属酸化物を構成する金属のハロゲン化物(第1のハロゲン化物)の単体に帰属されるピーク、および、前記金属のハロゲン化物であり前記第1のハロゲン化物以外の第2のハロゲン化物に帰属されるピークを有し、かつ
前記金属酸化物を、前記リチウム含有複合酸化物に対する質量割合で0.1〜5%含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
前記金属酸化物は、遷移金属の酸化物、希土類元素の酸化物、炭素族元素の酸化物、ホウ素族元素の酸化物、アルカリ土類元素の酸化物、アルカリ元素の酸化物、および複合金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
前記金属酸化物は、Ti、Ce、La,Y、V、Nb、Ta、W、Zr、Zn、Si、Al、Mg、LiおよびKからなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む酸化物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
Ni、CoおよびMnから選ばれる1種以上の遷移金属元素と、Liとを含有し、前記Liの含有量が遷移金属元素の含有量の合計に対してモル比で0.95倍以上であるリチウム含有複合酸化物と、一部のOがハロゲン元素に置換されている金属酸化物とを乾式で混合し、前記金属酸化物を前記リチウム含有複合酸化物の表面の少なくとも一部に担持させる乾式混合工程を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記乾式混合工程において、前記リチウム含有複合酸化物に対する前記一部のOがハロゲン元素に置換されている金属酸化物の混合比が、質量比で0.01〜10%である、請求項8〜12のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本明細書において、「Li」との記載は、特に言及しない限り、当該金属単体ではなく、Li元素であることを示す。他の元素の表記についても同様である。
【0017】
<正極活物質>
本活物質は、リチウム含有複合酸化物の表面の少なくとも一部に、ハロゲン置換金属酸化物が担持してなる。
【0018】
本活物質において、リチウム含有複合酸化物の表面の一部にハロゲン置換金属酸化物が担持されていることは、以下の方法により確認できる。
正極活物質の表面または断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、リチウム含有複合酸化物の表面に組成の異なる材料が担持されていることがわかる。また、正極活物質の表面または断面を、X線マイクロアナライザー(EPMA)で元素分析することにより、表面に存在している材料の元素がわかる。このとき、正極活物質の断面をEPMAにより元素マップングすれば、正極活物質の中心よりも表面にハロゲン元素が多く含まれていることがわかる。以上の元素分析から、ハロゲン元素を含む材料が、リチウム含有複合酸化物の表面にあることがわかる。なお、正極活物質の中心とは、表面からの平均距離が最大の点をいう。
【0019】
さらに、X線回折(XRD)による分析で結晶構造を同定することで、ハロゲン元素を含む材料がハロゲン置換金属酸化物であることを確認できる。また、正極活物質が、リチウム含有複合酸化物とハロゲン置換金属酸化物とを共に有することを確認できる。
【0020】
リチウム含有複合酸化物の表面に金属酸化物を有すると、リチウム含有複合酸化物表面の導電性やリチウムイオン拡散性が向上し、レート特性が向上すると考えられる。また、リチウム含有複合酸化物表面と電解液との接触を低減できる。これにより、リチウム含有複合酸化物表面から電解液への遷移金属等の溶出を抑制でき、充放電サイクルを繰り返した場合の放電容量および放電電圧の低下を抑制できると考えられる。さらに、本活物質のリチウム含有複合酸化物表面に担持された金属酸化物は、一部のOがハロゲン元素で置換されているため、金属酸化物の耐酸化性が高く、高電圧(4.3V(vs.Li
+/Li)以上の電圧)充電下においても耐久性が高い。そのため、高電圧でのレート特性を改善でき、充放電サイクルを繰り返した場合の放電容量および放電電圧の低下を抑制できると考えられる。
【0021】
本活物質の形状は、球状、膜状、繊維状、塊状等のいずれであってもよい。本活物質は、充填性を高める点から、球状が好ましい。
本活物質の平均粒子径は、3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。平均粒子径が、上記した範囲にあれば、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、好適に使用できる。
なお、本活物質の平均粒子径は、リチウム含有複合酸化物の表面の一部に、ハロゲン置換金属酸化物が担持している粒子の平均粒子径として算出される。ただし、ハロゲン置換金属酸化物の平均粒子径がリチウム含有複合酸化物に対して十分小さい場合には、本活物質の平均粒子径はリチウム含有複合酸化物の平均粒子径と同等とみなすことができる。
【0022】
なお、本活物質の平均粒子径は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積カーブにおいて、50%となる点の粒子径である体積基準累積50%径(以下、この方法で算出した平均粒子径を、平均粒子径(1)という)を意味する。粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布、および累積体積分布曲線として求められる。粒子径の測定は、粉末を水媒体中に超音波処理等で十分に分散させ、例えば、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(装置名:Partica LA−950VII)を使用し、粒度分布を測定することにより行うことができる。
本明細書において、リチウム含有複合酸化物の平均粒子径も、活物質の平均粒子径と同じく体積基準累積50%径(平均粒子径(1))であるが、ハロゲン置換金属酸化物の平均粒子径は体積基準累積50%径ではない。ハロゲン置換金属酸化物の平均粒子径については、後述する。
【0023】
(正極活物質の製造)
本製造方法は、リチウム含有複合酸化物とハロゲン置換金属酸化物とを乾式で混合する乾式混合工程を有することが好ましい。乾式混合工程により、リチウム含有複合酸化物の表面にハロゲン置換金属酸化物を効率よく担持できる。さらに、乾式混合工程の前にハロゲン置換金属酸化物を得る置換工程を有することがより好ましい。なお、置換工程の詳細は後述する。
【0024】
乾式混合工程は、湿式でリチウム含有複合酸化物に化合物を被覆する場合と異なり、ハロゲン置換金属酸化物を担持させる工程において、焼成や洗浄の工程を省略できる。そのため、工程数を低減して製造コストを低減できるうえに、水分の存在等によるリチウム含有複合酸化物の劣化や、焼成工程での加熱によるリチウム含有複合酸化物の構造変化を防止できる。
【0025】
乾式混合工程において、乾式で混合する方法としては、例えば、各種ディスパー、ボールミル、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、アトマイザー、V型混合機、ペイントシェーカー、コニカルブレンダー、ナウタミキサー、SVミキサー、ドラムミキサー、シェーカーミキサー、プロシェアーミキサー、万能ミキサー、ロッキングミキサー、リボンミキサー、コンテナミキサー等を用いて混合を行うことができる。また、小スケールで混合を行う場合には、自転・公転ミキサー(例えば、Thinky社製、装置名:あわとり練太郎ARE−310)を用いることもできる。
混合時間は、生産性の観点から、1〜60分が好ましく、1〜30分がより好ましい。
【0026】
リチウム含有複合酸化物とハロゲン置換金属酸化物との混合比は、混合の均一性の観点から、リチウム含有複合酸化物に対するハロゲン置換金属酸化物の質量比で、0.01〜10%が好ましく、0.1〜5%がより好ましい。
【0027】
本製造方法は、リチウム含有複合酸化物とハロゲン置換金属酸化物とを乾式で混合する工程の後に、その他の工程を有してもよい。その他の工程としては、例えば、アニール工程、洗浄および乾燥工程等が挙げられる。
【0028】
アニール工程は、表面にハロゲン置換金属酸化物を有するリチウム含有複合酸化物を加熱する工程である。アニール工程を有すると、正極活物質中の有機物等の不純物を分解して除去でき、また、リチウム含有複合酸化物と、その表面に担持されたハロゲン置換金属酸化物との結着力をより高めることができる。この工程を経て得られた正極活物質は、電池特性をさらに向上できる。アニール工程における加熱温度は、350℃以下が好ましく、100〜300℃がより好ましい。
【0029】
洗浄工程は、表面にハロゲン置換金属酸化物を有するリチウム含有複合酸化物を洗浄液と接触させる工程である。洗浄工程を有すると、リチウム含有複合酸化物とハロゲン置換金属酸化物との結着力を損なうことなく、前記アニール工程で除去しきれない不純物を洗い流すことができる。そのため、この工程を経て得られた正極活物質は、電池特性をさらに向上できる。該洗浄液としは、エタノール等の有機溶媒、ハイドロクロロフルオロカーボン等のフッ素系溶媒および水等が好ましく、接触させた後に洗浄液を取り除きやすいため、有機溶媒およびフッ素系溶媒がより好ましい。
洗浄工程後に乾燥工程を行うことができる。これにより、洗浄液を除去できる。乾燥温度は、20〜80℃の範囲が好ましい。
【0030】
以下に、本活物質に使用するリチウム含有複合酸化物と、その表面に担持されているハロゲン置換金属酸化物について、説明する。
【0031】
(リチウム含有複合酸化物)
リチウム含有複合酸化物は、Ni、CoおよびMnから選ばれる1種以上の遷移金属元素とLiとを含有し、該Liの含有量が、遷移金属元素の総量に対して、モル比で0.95倍以上のものである。
リチウム含有複合酸化物に含まれる、Ni、CoおよびMn以外のその他の遷移金属元素としては、Fe、Cr、W、Mo、Zr、V、Cu等が挙げられる。その他の遷移金属元素を含有する場合、前記した遷移金属元素の総量は、Ni、Co、Mnとその他の遷移金属元素の合計量である。
Liの含有量は、遷移金属元素の総量に対して、モル比で、0.96〜1.08倍が好ましい。
【0032】
リチウム含有複合酸化物としては、下記式(1)または(2)で表される化合物が好ましい。リチウム含有複合酸化物としては、下記式(1)または(2)で表される化合物の中から、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。リチウム含有複合酸化物を有する電池のサイクル特性に優れる点で、式(1)で表される化合物がより好ましい。
Li
a(Ni
xMn
yCo
z)Me
bO
2…………(1)
式(1)中、MeはNi、CoおよびMn以外の遷移金属元素を示す。また、0.95≦a≦1.1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦b≦0.3、0.90≦x+y+z+b≦1.05である。
さらに、Liのモル量が遷移金属元素の総モル量に対して0.95倍以上であることから、0.95≦a/(x+y+z+b)が成り立つ。
【0033】
式(1)におけるaは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くする観点から、0.97≦a≦1.06が好ましく、0.98≦a≦1.04がより好ましい。
式(1)におけるxは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くする観点から、0.2≦x≦0.9が好ましく、0.3≦x≦0.8がより好ましい。
式(1)におけるyは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くする観点から、0≦y≦0.7が好ましく、0.1≦y≦0.6がより好ましい。
式(1)におけるzは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池のサイクル特性に優れる点から、0.05≦z≦1.0が好ましく、0.1≦z≦1.0がより好ましい。
【0034】
式(1)で表される化合物の例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
0.5Ni
0.5O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.85Co
0.10Al
0.05O
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等が挙げられる。サイクル特性に優れる電池を提供できるため、式(1)で表される化合物としては、LiCoO
2やLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2が特に好ましい。
【0035】
Li(Li
qMn
uNi
vCo
w)O
p…………(2)
式(2)において、0.1<q<0.7、0.3<u<0.85、0.1<v<0.5、0<w<0.33、2.1<p<2.7、q+u+v+w=1である。
さらに、Liのモル量が遷移金属元素の総モル量に対して0.95倍以上であることから、0.95≦(1+q)/(u+v+w)が成り立つ。
【0036】
式(2)におけるqは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くする観点から、0.1≦q≦0.55が好ましく、0.15≦q≦0.45がより好ましい。
式(2)におけるuは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くする観点から、0.15≦u≦0.5が好ましく、0.2≦u≦0.5がより好ましい。
式(2)におけるwは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池のサイクル特性に優れる点から、0<w≦0.3が好ましく、0<w≦0.28がより好ましい。
式(2)におけるvは、このリチウム含有複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くする観点から、0.4≦v≦0.77が好ましく、0.4≦v≦0.72がより好ましい。
【0037】
式(2)で表される化合物の例としては、
Li(Li
0.16Ni
0.17Co
0.08Mn
0.59)O
2、Li(Li
0.17Ni
0.17Co
0.17Mn
0.49)O
2、Li(Li
0.17Ni
0.21Co
0.08Mn
0.54)O
2、Li(Li
0.17Ni
0.14Co
0.14Mn
0.55)O
2、Li(Li
0.18Ni
0.12Co
0.12Mn
0.58)O
2、Li(Li
0.18Ni
0.16Co
0.12Mn
0.54)O
2、Li(Li
0.20Ni
0.12Co
0.08Mn
0.60)O
2、Li(Li
0.20Ni
0.16Co
0.08Mn
0.56)O
2、Li(Li
0.20Ni
0.13Co
0.13Mn
0.54)O
2、Li(Li
0.45Ni
0.20Co
0.15Mn
0.65)O
2等が挙げられる。Li(Li
0.20Ni
0.12Co
0.08Mn
0.60)O
2、Li(Li
0.45Ni
0.20Co
0.15Mn
0.65)O
2が特に好ましい。
【0038】
リチウム含有複合酸化物は粒子状であることが好ましい。粒子の形状は、球状、針状、板状等、特に限定されない。活物質の充填性を高くできることから、リチウム含有複合酸化物は球状が好ましい。
【0039】
リチウム含有複合酸化物の平均粒子径(1)は、3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。なお、リチウム含有複合酸化物の平均粒子径(1)は、前記したように体積基準累積50%径である。体積基準累積50%径は、前記した方法で算出される。
【0040】
リチウム含有複合酸化物の比表面積は、0.1〜10m
2/gが好ましく、0.15〜5m
2/gが特に好ましい。リチウム含有複合酸化物の比表面積が0.1〜10m
2/gであると、放電容量が高く、緻密な正極が形成できる。なお、本発明において、比表面積は、窒素ガスを使用し、吸着BET(Brunauer,Emmett,Teller)法を用いて測定した値である。
【0041】
(リチウム含有複合酸化物の製造方法)
リチウム含有複合酸化物の製造方法は、遷移金属元素を含み共沈法により得られた化合物とリチウム化合物とを混合して焼成する方法、水熱合成法、ゾルゲル法、乾式混合法(固相法)、イオン交換法、ガラス結晶化法等を適宜用いることができる。
【0042】
リチウム含有複合酸化物の製造方法は、共沈法で得られた遷移金属元素を含む化合物とリチウム化合物とを混合し焼成する方法が好ましい。共沈法によれば、遷移金属元素が均一に含有されたリチウム含有複合酸化物が得られる。リチウム含有複合酸化物中に遷移金属元素が均一に含有されると、該リチウム含有複合酸化物を有する正極活物質を使用するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
【0043】
共沈法とは、2種以上の遷移金属の金属塩を含む溶液から、2種以上の遷移金属を含み、所望の組成を有する難溶性の化合物(共沈物)を析出する手法である。リチウム含有複合酸化物の製造に使用する化合物を得る共沈法として、具体的には、アルカリ共沈法および炭酸塩共沈法が好ましい。
【0044】
ここで、アルカリ共沈法とは、反応溶液中に、遷移金属塩水溶液と強アルカリを含有するpH調整液とを添加し、混合し、混合液中に遷移金属を含有する水酸化物を生成する方法である。アルカリ共沈法で得られた水酸化物を使用すると、粉体密度が高い正極活物質が得られるため好ましい。
また、炭酸塩共沈法とは、反応溶液中に、遷移金属塩水溶液と炭酸イオン源を含む水溶液とを添加し、混合し、混合液中で遷移金属を含有する炭酸化合物を生成する方法である。炭酸塩共沈法で得られた炭酸化合物を使用すると、多孔質で比表面積が高い活物質が得られるため好ましい。
【0045】
アルカリ共沈法における反応溶液のpHは、10〜12が好ましい。添加するpH調整液は、強アルカリである水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む水溶液が好ましい。さらに、遷移金属塩の溶解性を調整するために、混合液にアンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液等を加えてもよい。
【0046】
炭酸塩共沈法における反応溶液のpHは、7〜9が好ましい。炭酸イオン源を含む水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも一種の化合物を含む水溶液が好ましい。さらに、遷移金属塩の溶解性を調整するために、混合液にアンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液等を加えてもよい。
【0047】
リチウム含有複合酸化物の製造に使用するリチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、および硝酸リチウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、安価であることから、炭酸リチウムがより好ましい。このようなリチウム化合物と共沈物とを混合する方法としては、例えば、ロッキングミキサー、ナウタミキサー、スパイラルミキサー、カッターミル、Vミキサー等を使用する方法が挙げられる。
【0048】
焼成は、電気炉、連続焼成炉、またはロータリーキルン等を使用できる。焼成は大気中で行うことが好ましく、空気を供給しながら行うことが特に好ましい。焼成時に空気を供給することで、共沈物中の遷移金属元素が十分に酸化され、結晶性を高くでき、かつ目的とするリチウム含有複合酸化物が得られる。
【0049】
焼成温度は、500〜1000℃が好ましく、600〜1000℃がより好ましく、800〜950℃が特に好ましい。焼成温度が、前記範囲内であれば、結晶性の高い正極活物質が得られる。焼成時間は、4〜40時間が好ましく、4〜20時間がより好ましい。
【0050】
(ハロゲン置換金属酸化物)
本活物質において、リチウム含有複合酸化物の表面に担持されているハロゲン置換金属酸化物は、金属酸化物の一部のOがハロゲン元素に置換された金属酸化物である。
【0051】
ハロゲン置換金属酸化物の存在は、XRD分析で結晶構造を同定することにより確認できる。一例として、金属酸化物としてCeO
2を使用し、CeO
2の一部のOがFに置換された化合物のXRDスペクトル(
図5)を用いて説明する。
図5の破線のスペクトルは、CeO
2のスペクトルである。
図5の実線のスペクトルは、CeO
2の一部のOをFに置換した処理をした後のCeO
2のスペクトルである。Fに置換する方法は後述する。
図5には、金属酸化物(CeO
2)の(111)面に対応したピーク(2θ=28〜29°)と(220)面に対応したピーク(2θ=47〜48°)が見られる。また、金属ハロゲン化物(CeF
3)の(111)面に対応したピーク(2θ=27〜28°)と(113)面に対応したピーク(2θ=45〜46°)が見られる。さらに、金属ハロゲン化物(CeF
4)の(220)面に対応したピーク(2θ=24〜25°)と(021)面に対応したピーク(2θ=21〜22°)が見られる。
【0052】
図5の実線のスペクトルから、CeO
2の一部のOをFに置換した処理をした後のCeO
2には、金属酸化物(CeO
2)と金属ハロゲン化物(CeF
3とCeF
4)とが共存することが示されている。このことから、CeO
2の結晶構造が維持されつつ結晶構造内へのFの導入が十分になされ、その結果、CeO
2の一部のOがFに置換されていると言える。
【0053】
ハロゲン置換金属酸化物としては、ハロゲン元素で置換された遷移金属酸化物、ハロゲン元素で置換された希土類元素の酸化物、ハロゲン元素で置換された炭素族元素の酸化物、ハロゲン元素で置換されたホウ素族元素の酸化物、ハロゲン元素で置換されたアルカリ土類元素の酸化物、ハロゲン元素で置換されたアルカリ金属元素の酸化物、ハロゲン元素で置換された複合金属酸化物等が挙げられる。該複合金属酸化物としては、ペロブスカイト型構造を有する酸化物、スピネル型構造を有する酸化物等が挙げられる。ハロゲン置換金属酸化物は、前記した化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0054】
ハロゲン置換金属酸化物は、レート特性に優れる点で、ハロゲン元素で置換された遷移金属酸化物およびハロゲン元素で置換された希土類元素の酸化物から選ばれる1種以上がより好ましい。リチウム含有複合酸化物の表面にこれらのハロゲン置換金属酸化物が担持されている正極活物質を使用すると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性およびレート特性、特に高電圧充電下におけるサイクル特性およびレート特性を向上できる。
【0055】
ハロゲン置換金属酸化物に含まれる金属元素は、Ti、Ce、La、Y、Zr、V、Nb、Ta、W、Zn、Si、Al、Mg、LiおよびKからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。該金属元素はTi、Ce、La、Zr、およびZnからなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましく、Ti、Ce、およびZnからなる群から選ばれる1種以上であることが特に好ましい。このような金属元素の酸化物は、電気化学的に安定であるため、該金属元素の酸化物を含む本活物質は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高くできる。前記金属元素の酸化物として、具体的には、TiO
2、CeO
2、ZrO
2、Y
2O
5、V
2O
5、Ta
2O
5、WO
3、ZnO、SiO
2、Al
2O
3、MgO、Li
0.35La
0.65TiO
3等が挙げられる。
【0056】
ハロゲン置換金属酸化物に含まれるハロゲン元素としては、取扱いの容易性、および電気陰性度が高く耐酸化性に優れることから、フッ素(F)が好ましい。
【0057】
ハロゲン置換金属酸化物中のハロゲン元素の置換割合は、0.05〜90%が好ましい。
本発明において、置換割合は、金属酸化物に置換できるハロゲン元素の最大の量(単位:質量)に対する、ハロゲン置換金属酸化物中のハロゲン含有量(単位:質量)の割合である。
金属酸化物に置換できるハロゲン元素の最大の量は、金属酸化物に含まれる各金属元素の含有量(単位:モル)に各金属元素の安定な最大価数を乗じた値の合計値に、ハロゲン元素の原子量を乗じた値である。ハロゲン置換金属酸化物中のハロゲン含有量は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0058】
ハロゲン元素の置換割合は、0.1〜85%がより好ましく、5〜80%が特に好ましい。置換割合が0.05%以上であれば、ハロゲン元素を含有し、耐酸化性をさせる効果を十分に高められる。また、置換割合が90%以下であればリチウム含有複合酸化物表面の導電性を高める効果を十分に発揮できる。
ハロゲン元素の置換割合は、後述する好ましいハロゲン置換金属酸化物の製造方法において、ハロゲン置換の温度またはハロゲンガスの圧力を変えることにより調整できる。
【0059】
ハロゲン置換金属酸化物は粒子状が好ましい。ハロゲン置換金属酸化物において、その表面積と真密度から下記式を用いて算出した平均粒子径(以下、この方法で算出した平均粒子径を平均粒子径(2)という)は、1〜100nmが好ましい。
平均粒子径(2)=6/ρ・Sw
なお、ρ(単位:g/cm
3)はハロゲン置換金属酸化物の真密度である。本明細書において、真密度は、定容積膨張法により測定した値である。測定された密度は外部とつながっていない粒子内部の空間(閉細孔)を含めた粒子密度である。本活物質に使用するハロゲン置換金属酸化物は、粒子内の閉細孔の体積を無視できるため、該密度は、ハロゲン置換金属酸化物の真密度として考えることができる。Sw(単位:m
2/g)はハロゲン置換金属酸化物の比表面積であり、窒素ガスを使用し、BET法により算出した値である。
ハロゲン置換金属酸化物の平均粒子径(2)が前記範囲にあれば、ハロゲン置換金属酸化物は、リチウム含有複合酸化物の表面に均一に存在できる。平均粒子径(2)は、5〜70nmがより好ましく、10〜60nmが特に好ましい。
【0060】
ハロゲン置換金属酸化物の比表面積は、1〜100m
2/gが好ましい。この範囲にあれば、リチウム含有複合酸化物と混合して正極活物質を製造する場合に、リチウム含有複合酸化物の表面に付着しやすい。比表面積は、5〜80m
2/gがより好ましく、10〜70m
2/gがさらに好ましい。比表面積は、窒素ガスを使用し、BET法により算出した値である。
【0061】
(ハロゲン置換金属酸化物の製造)
ハロゲン置換金属酸化物の製造方法は、金属酸化物を処理して一部のOをハロゲン元素に置換(以下、ハロゲン置換と略す)する置換工程を有することが好ましい。ハロゲン置換は、ハロゲン置換金属酸化物中のハロゲン元素の置換割合を所望の範囲に調整できるため好ましい。ハロゲン置換方法は、ハロゲン元素を含むガス(以下、ハロゲン含有ガスともいう。)と金属酸化物とを接触させる乾式法、またはハロゲン元素を含む液体化合物(以下、ハロゲン含有液体ともいう。)と金属酸化物を接触させる湿式法とが挙げられる。取扱いおよびハロゲン元素の含有量の調整の容易さの観点から、ハロゲン置換方法は、ハロゲン含有ガスを使用する乾式法がより好ましい。
【0062】
ハロゲン含有ガスを使用してハロゲン置換を行う場合、処理を行う温度は、−20〜350℃が好ましい。処理温度が前記範囲内であれば、金属酸化物の結晶構造を維持したまま、結晶構造内にハロゲン元素を導入できる。ハロゲン元素と金属酸化物との反応速度を高くして、結晶構造の面内にハロゲン元素を導入しやすくする観点から、ハロゲン置換の温度は0℃以上とすることがより好ましい。ハロゲン元素の含有量を制御して金属酸化物の結晶構造を維持するために、ハロゲン置換の温度を150℃以下とすることがより好ましい。
【0063】
また、ハロゲン含有ガスを使用してハロゲン置換を行う場合、ハロゲン含有ガスは単独で使用しても、ハロゲン含有ガスと窒素(N
2)ガス等の不活性ガスとを混合して使用してもよい。不活性ガスと混合する場合、ハロゲン含有ガスと不活性ガスとの混合比は、体積比で、ハロゲン含有ガス/不活性ガスが、50/50〜99/1の範囲が好ましい。
【0064】
さらに、ハロゲン含有ガスを使用してハロゲン置換を行う場合、ハロゲン置換は、気密性の高い容器を使用して行うことが好ましい。容器内の圧力は、ハロゲン含有ガスの反応率を高める観点から、0〜1MPaG(ゲージ圧)が好ましく、0.0001〜0.2MPaGがより好ましい。処理時間は、1分〜1日が好ましく、1〜8時間がより好ましい。
【0065】
乾式でのハロゲン置換に使用されるハロゲン含有ガス、および湿式でのハロゲン置換に使用されるハロゲン含有液体は、金属等に対して高い侵食性を有することが多い。そのため、ハロゲン置換の反応槽は、その内壁および内部設備を、前記ハロゲン含有ガスやハロゲン含有液体に対して耐食性を有する材料で構成することが好ましい。加えて、この構成材料は、処理工程でガス状の不純物を発生しない、もしくはガス状の物質を発生させても不純物とならない材料であることが好ましい。
【0066】
ハロゲン化処理の反応槽の内壁等には、具体的には、ステンレス(例えば、SUS316)、モネル、インコネル、ハステロイ等の合金類、合成石英ガラス等のガラス類、フッ化カルシウムやフッ化ニッケル等のハロゲン化金属、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のペルハロゲン化樹脂等が好適に利用できる。
【0067】
ハロゲン置換金属酸化物の製造方法において、ハロゲン元素は上述のとおりFが好ましい。金属酸化物の一部のOをFに置換する場合(以下、フッ素置換という)において、Fを含有する化合物としては、HF(フッ化水素)、F
2(フッ素ガス)、ClF
3、IF
5、BF
3、NF
3、PF
5、SiF
4、およびSF
6等のフッ素含有ガス、ハイドロフルオロカーボンやハイドロクロロフルオロカーボン等の含フッ素有機化合物、LiFやNiF
2等の金属フッ化物、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等が挙げられる。フッ素置換により得られるフッ素含有金属酸化物中の不純物を少なくすることができる点で、フッ素含有ガスを用いることが好ましい。前記したフッ素含有ガスの中でも、F
2、ClF
3、およびNF
3から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、F
2を用いることが特に好ましい。
【0068】
フッ素含有ガスを使用する場合、前記したように、フッ素含有ガスは単独で使用してもよく、フッ素含有ガスとN
2ガス等の不活性ガスとを混合して使用してもよい。また、フッ素置換の温度は、−20〜350℃が好ましい。処理温度が低いと、結晶構造のエッジの表面に選択的にFが導入される。また、処理温度が高いと、反応速度が上昇し、反応の選択性が低下するが、金属酸化物の結晶構造が壊れるおそれがある。反応速度が高く、結晶構造の面内金属ともFを反応させて、共有結合性のフッ素化金属(MF)
nが得られるため、フッ素置換温度は、0〜150℃がより好ましく、100〜150℃が特に好ましい。
【0069】
前述のとおり、フッ素置換により一部のOがFに置換されている金属酸化物が得られていることは、フッ素置換された金属酸化物の結晶構造をXRD分析で同定することで確認できる。すなわち、フッ素置換された金属酸化物は、XRDスペクトルにおいて、金属酸化物、金属フッ化物の単体および、該金属フッ化物以外の金属フッ化物に帰属されるピークを同定することにより、確認できる。
【0070】
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、および非水電解質を含有する。
【0071】
(正極)
正極は、本正極活物質を含む正極活物質層と、正極集電体とを有する。正極活物質層は、本正極活物質以外に導電材と、バインダとを含み、必要に応じて増粘剤等の他の成分を含んでもよい。
【0072】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。導電材は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
バインダとしては、例えば、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等)等が挙げられる。バインダは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
増粘剤としては、例えば、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、ガゼイン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。増粘剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
正極集電体としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。
【0073】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含有する。
負極集電体は、例えば、ニッケル箔、銅箔等の金属箔が挙げられる。
負極活物質は、リチウムまたはリチウムを吸蔵、放出できる物質である。
負極活物質は、リチウムまたはリチウムを吸蔵、放出できる物質である。負極活物質としては、例えば、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、周期表14、15族、ルテニウム、モリブデン、タングステン、チタン等の酸化物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物等を使用できる。
【0074】
負極活物質に使用する炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類などが挙げられる。前記コークス類としては、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなどが挙げられる。有機高分子化合物焼成体としては、フェノール樹脂、フラン樹脂などを適当な温度で焼成し炭素化したものが挙げられる。
【0075】
リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、負極活物質を有機溶媒と混合することによってスラリを調製し、調製したスラリを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって得られる。
【0076】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンを代表とする微多孔性ポリオレフィンフイルム、ポリフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなるフィルムが挙げられる。
【0077】
(非水電解質)
非水電解質としては、非水電解液、無機固体電解質、電解質塩を混合または溶解させた固体状またはゲル状の高分子電解質などが挙げられる。
前記非水電解液としては、有機溶媒と電解質塩とを適宜組み合わせて調製したものが挙げられる。
【0078】
非水電解液の有機溶媒としては、公知のものを採用でき、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等が挙げられる。中でも、電圧安定性の点からは、有機溶媒としては、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類が好ましい。有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
無機固体電解質としては、例えば、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。
固体状の高分子電解質としては、電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物を含む電解質が挙げられる。電解質塩を溶解する高分子化合物としては、エーテル系高分子化合物(ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(エチレンオキサイド)の架橋体等。)、ポリ(メタクリレート)エステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物等が挙げられる。
【0080】
ゲル状の高分子電解質のマトリックスとしては、前記非水電解液を吸収してゲル化するものであればよく、種々の高分子化合物を使用できる。前記高分子化合物としては、例えば、フッ素系高分子化合物(ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)等)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリルの共重合体、エーテル系高分子化合物(ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの共重合体、ならびに該共重合体の架橋体等)等が挙げられる。ポリエチレンオキサイドに共重合させるモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0081】
ゲル状電解質のマトリックスとしては、酸化還元反応に対する安定性の点から、前記高分子化合物のうち、特にフッ素系高分子化合物が好ましい。
【0082】
電解質塩は、リチウムイオン二次電池に使用されている公知のものが使用でき、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、CF
3SO
3Li等が挙げられる。
【0083】
リチウムイオン二次電池は、負極、セパレータ、電解質および本発明の正極を含み、公知の方法で製造できる。該リチウムイオン二次電池は、リチウム含有複合酸化物の表面にハロゲン置換金属酸化物が担持されて、表面の少なくとも一部がハロゲン置換金属酸化物により担持された構造の正極活物質を有している。そのため、充放電サイクルを繰り返した場合の放電容量の低下が抑制され、容量維持率が高いなど、サイクル特性に優れている。また、リチウム含有複合酸化物の表面に金属酸化物が被覆された正極活物質を有するリチウムイオン二次電池に比べて、高電圧充電下での耐酸化性が高いので、高電圧充電下でのサイクル特性に優れる。さらに、リチウム含有複合酸化物の表面にフッ化物が被覆された正極活物質を有するリチウムイオン二次電池に比べて、レート特性が良好である。
【0084】
なお、リチウム含有複合酸化物の表面に金属酸化物と金属フッ化物の両方を担持させる方法も考えられる。しかし、リチウム含有複合酸化物の表面にこれら両方の化合物の粒子を均一に担持させることは難しい。そのため、レート特性とサイクル特性とをバランス良く向上させることが困難であると推定される。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。例1〜6が本発明の実施例であり、例7〜11が比較例である。
【0086】
<正極活物質の製造>
(例1)
ハロゲン置換金属酸化物の原料となる金属酸化物として、粒子状のTiO
2(シーアイ化成株式会社製、平均粒子径(2)36nm、比表面積45m
2/g)を用いた。また、リチウム含有複合酸化物として、LiCoO
2(AGCセイミケミカル株式会社製、平均粒子径(1)12μm)を用いた。
【0087】
前記粒子状のTiO
2を容器に詰め、気密性の高い反応槽内に導入した。反応槽内の空気を真空引きした後、室温(20℃)において、F
2ガス(体積比でF
2/N
2=80/20の混合ガス)を0.005MPaGの圧力になるまで導入し、この状態で4時間保持した。こうして、粒子状のTiO
2のフッ素置換を行った。
【0088】
次いで、リチウム含有複合酸化物2gと、フッ素置換された粒子状のTiO
2(以下、フッ素置換TiO
2という。)0.05gとを、125ccの容器内に秤量して入れ、自転・公転ミキサー(Thinky社製、装置名:あわとり練太郎ARE−310)を用いて、2,000rpmで2分間回転させて混合し、正極活物質(1)を得た。正極活物質(1)の製造条件を表1に示す。
【0089】
(例2)
表1に示すように、フッ素化置換の温度を140℃に変えた以外は例1と同様にして、正極活物質(2)を得た。
【0090】
(例3)
表1に示すように、金属酸化物として粒子状のCeO
2(シーアイ化成株式会社製、平均一次粒子径(2)14nm、比表面積60m
2/g)を使用し、かつフッ素置換の温度を140℃に変えた以外は例1と同様にして、正極活物質(3)を得た。
【0091】
(例4)
表1に示すように、金属酸化物として粒子状のZnO(シーアイ化成株式会社製、平均粒子径(2)34nm、比表面積30m
2/g)を使用し、フッ素置換の温度を140℃に変えた以外は例1と同様にして、正極活物質(4)を得た。
【0092】
(例5)
表1に示すように、リチウム含有複合酸化物として、式:LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2で表されるリチウム含有複合酸化物(AGCセイミケミカル株式会社製、平均粒子径(1)6μm)を用いた以外は、例2と同様にして、正極活物質(5)を得た。
【0093】
(例6)
表1に示すように、リチウム含有複合酸化物として、式:LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2で表されるリチウム含有複合酸化物(AGCセイミケミカル株式会社製、平均粒子径(1)6μm)を用いた以外は、例3と同様にして、正極活物質(6)を得た。
【0094】
(例7)
表1に示すように、LiCoO
2(AGCセイミケミカル株式会社製、平均粒子径(1)12μm)を、フッ素置換を行うことなくそのまま正極活物質(7)として用いた。
【0095】
(例8)
表1に示すように、金属酸化物としてTiO
2(シーアイ化成株式会社製、平均粒子径(2)36nm、比表面積45m
2/g)を使用し、フッ素置換を行わなかった。それ以外は例1と同様にして、正極材活物質(8)を得た。
【0096】
(例9)
表1に示すように、金属酸化物としてCeO
2(シーアイ化成株式会社製、平均粒子径(2)14nm、比表面積60m
2/g)を使用し、フッ素置換を行わなかった。それ以外は例3と同様にして、正極材活物質(9)を得た。
【0097】
(例10)
表1に示すように、フッ素置換された粒子状のCeO
2の代わりにフッ化物であるCeF
3を使用した。それ以外は例1と同様にして、正極材活物質(10)を得た。
【0098】
(例11)
表1に示すように、リチウム含有複合酸化物であるLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(AGCセイミケミカル株式会社製、平均粒子径(1)6μm)を、フッ素置換を行うことなくそのまま正極活物質(11)として用いた。
【0099】
【表1】
【0100】
<SEMでの観察>
こうして得られた正極活物質(1)〜(11)の中で、正極活物質(2)、正極活物質(3)および正極活物質(7)のそれぞれの表面をSEM(HITACHI社製、装置名:S−4300)を用いて観察した。
図1は正極活物質(2)の、
図2および3は正極活物質(3)の、
図4は正極活物質(7)のSEM写真である。また、
図3(a)は、正極活物質(3)の表面および断面のSEM写真であり、
図3(b)は
図3(a)の一部を拡大したSEM写真である。
【0101】
図1のSEM写真から、正極活物質(2)では、LiCoO
2の二次粒子の粒子表面に凹凸が見られ、また粒界が確認されない。
図2のSEM写真から、正極活物質(3)では、LiCoO
2の二次粒子に粒子表面の凹凸が見られ、また粒界が確認されるが、
図4で見られる粒界に比べて明確でない。そして、
図3(a)と
図3(b)のSEM写真から、正極活物質(3)のLiCoO
2の断面を見ると、LiCoO
2粒子の表面にのみ化合物が担持されていることが分かる。
図4のSEM写真から、正極活物質(7)では、LiCoO
2の二次粒子の粒子表面に凹凸が見られず、また粒界が確認される。
【0102】
<XRDスペクトルの測定>
例3で使用したハロゲン置換金属酸化物のXRDスペクトルをX線回折装置(RIGAKU社製、装置名:SmartLab)により測定し、結晶構造の解析により成分の同定を行った。なお、例3に使用したハロゲン置換金属酸化物は、フッ素置換された粒子状のCeO
2(以下、フッ素置換CeO
2という)である。XRD測定の結果得られたスペクトルを、
図5に示す。
図5では、CeO
2のXRDスペクトルを比較のために示した。
【0103】
上述のとおり、
図5には、金属酸化物(CeO
2)の(111)面に対応したピーク(2θ=28〜29°)と(220)面に対応したピーク(2θ=47〜48°)が見られる。また、金属ハロゲン化物(CeF
3)の(111)面に対応したピーク(2θ=27〜28°)と(113)面に対応したピーク(2θ=45〜46°)が見られる。さらに、金属ハロゲン化物(CeF
4)の(220)面に対応したピーク(2θ=24〜25°)と(021)面に対応したピーク(2θ=21〜22°)が見られる。
図5の実線のスペクトルから、CeO
2の結晶構造が維持されつつ結晶構造内へのFの導入が十分になされ、その結果、CeO
2の一部のOがFに置換され金属フッ化物が形成されていることがわかる。
【0104】
<フッ素含有量および比表面積の測定>
例1および例2で使用したフッ素置換TiO2、例3で使用したフッ素置換CeO2について、フッ素含有量を測定した。また、BET法による比表面積の測定を、比表面積測定装置(マウンテック社製、装置名:HM model−1208)を用いて行った。結果を表2に示す。
【0105】
フッ素置換金属酸化物中のフッ素含有量の測定は、以下の方法により行った。測定試料を自動燃焼装置(株式会社三菱化学アナリテック製、装置名:AQF−100)で燃焼させた後、NaOHを溶解したH
2O
2水溶液を捕集液として燃焼ガスを捕集した。そして、この捕集液をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社製、装置名:DX120、カラム:AS12A)に導入してフッ素量の定量を行った。内部標準法でFの回収率を補正するための標準試料として、ポリテトラフルオロエチレンおよびリン(P)を用いた。
なお、金属酸化物に置換できるFの最大の量は、金属酸化物の質量から金属のモル量を算出し、該モル量に金属の安定な最大価数とFの原子量を乗じた値とした。
【0106】
【表2】
【0107】
次に、正極活物質(1)〜(11)を用いて、以下に示すようにして正極を作製した。さらに、作製した正極を使用してそれぞれリチウムイオン二次電池を製造した。
【0108】
<正極の製造>
正極活物質(1)〜(11)を2.05gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、商品名:デンカブラック、)0.25gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.07gをN−メチルピロリドン(NMP)に溶かした溶液と、NMP4.02gとを、自転・公転ミキサー(Thinky社製、装置名:あわとり練太郎ARE−310)を用いて混合し、それぞれの正極活物質を含有するスラリを調製した。次いで、このスラリを、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗布して、正極電極シートを作製した。この正極電極シートを、40μmのギャップを有するロールプレスに2回かけて圧延した後、直径18mmの円形に打ち抜き、次いで180℃で真空乾燥させて正極とした。
【0109】
<リチウムイオン二次電池の製造>
Arグローブボックス内で、ステンレス鋼製簡易密閉セル型の電池評価セルに、前記で得られた正極と、セパレータ(Celgard社製、商品名:#2500)、および金属リチウム箔を含む負極とを、この順に積層した。次いで、ジエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(容積比1:1)に、濃度が1モル/dm
3になるようにLiPF
6を溶解させた電解液を入れ、リチウムイオン二次電池を組み立てた。なお、負極集電体としては、平均厚1mmのステンレス鋼板を使用し、この負極集電体上に平均厚300μmの金属リチウム箔を形成して負極とした。また、セパレータの平均厚さは50μm(25μm×2枚)であった。
【0110】
<電池評価>
得られたリチウムイオン二次電池について、定電流・定電圧モードにおいて、正極活物質1gにつき37.5mAの負荷電流で4.3Vまで充電した後、定電流モードにおいて、正極活物質1gにつき37.5mA(0.25C)の負荷電流で2.75Vまで放電させた。
次に、レート特性を調べるに当たり、上記の充電条件を固定して、定電流モードにおいて正極活物質1gにつき225mA(1.5C)、450mA(3C)、900mA(9C)の順に行い、2.75Vまで放電させた。そして、正極活物質1gにつき900mA負荷電流における放電容量と平均放電圧を測定した。これらの測定結果を、表3および表4に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物としてLiCoO
2を用いた正極活物質(1)〜(4)および正極活物質(7)〜(10)を有する電池についての測定結果を、表3に示す。また、リチウム含有複合酸化物としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を用いた正極活物質(5)、(6)および正極活物質(11)を有する電池についての測定結果を、表4に示す。
【0111】
次いで、定電流モードにおいて正極活物質1gにつき150mAの負荷電流で4.5Vまで充電した後、定電流モードにおいて正極活物質1gにつき150mAの負荷電流で2.75Vまで放電させる繰返し充放電を50回(サイクル)行った。そして、50サイクル後の容量維持率および電圧維持率をそれぞれ求めた。
なお、50サイクル後の容量維持率(%)は、50回目の4.5V充電における放電容量の、1回目の4.5V充電における放電容量に対する割合(%)である。また、50サイクル後の電圧維持率(%)は、50回目の4.5V充電における平均放電圧の、1回目の4.5V充電における平均放電圧に対する割合(%)である。
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
表3および表4から、以下に示すことがわかる。
LiCoO
2の表面にハロゲン置換金属酸化物が担持されている正極活物質(1)〜(4)を有するリチウムイオン二次電池は、正極活物質(7)〜(9)を有するリチウムイオン二次電池に比べて、50サイクル後の容量維持率が高い。正極活物質(7)は、LiCoO
2そのものであり、正極活物質(8)および(9)はLiCoO
2の表面にハロゲン元素を含有しない金属酸化物が担持されている正極活物質である。すなわち、本発明の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れている。
【0115】
また、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2の表面にハロゲン置換金属酸化物が担持されている正極活物質(5)、(6)を有するリチウムイオン二次電池は、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2そのものである正極活物質(11)を有するリチウムイオン二次電池に比べて、50サイクル後の容量維持率が高い。すなわち、本発明の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れている。
【0116】
さらに、LiCoO
2の表面にフッ素置換CeO
2が担持されている正極活物質(3)を有するリチウムイオン二次電池は、LiCoO
2の表面にCeF
3が担持されている正極活物質(10)を有するリチウムイオン二次電池に比べて、900mA負荷電流における放電容量および平均放電圧が高い。すなわち、本発明の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池は、レート特性に優れている。
【0117】
またさらに、LiCoO
2の表面にフッ素置換TiO
2が担持されている正極活物質(1)と正極活物質(2)を有するリチウムイオン二次電池を比較すると、正極活部質(2)を有する電池は、正極活物質(1)を有する電池に比べて容量維持率が高い。このことから、金属酸化物に対するフッ素置換温度が高く、金属酸化物中のフッ素含有量が高いフッ素置換金属酸化物が担持されている正極活物質を有するリチウムイオン二次電池は、高電圧充電下での充放電サイクルにおける容量維持率が高く、すなわちサイクル特性が向上している。